ISだが、機体は岩男でも問題ないよな?   作:暁楓

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 第六巻、キャノンボール・ファスト編開始。
 颯斗がようやく主人公らしくやっていけるかと思います。


第二十話 主人公に対して鈍感鈍感言うけど、相手の好意ってなかなか判別つけづらいよね

 学園祭が終わり整備室が元通りになってから、簪はまたいつもの日常に戻っていた。

 暇さえあれば一人で整備室に籠もる日々。未完成の打鉄弐式を組み上げる日々。

 颯斗が声をかけてくるのも、学園祭当日まで。もう彼がここに来る理由はない。

 学園祭前日まではそれまで我慢すればいいと思っていた。けれど今その状況に立たされて、どこかぽっかりと穴が開いたような、そんな物足りなさを感じていた。

 

(……ダメ。考えないようにしないと……)

 

 首を振り、とにかく無心で作業を行おうと心がける。

 と、その時である。

 

「おーっす」

 

「……!?」

 

 扉の開閉音。そして聞き覚えのある声。

 振り向くとそこには、もう来ないだろうと思っていた、自分にとってのヒーロー――颯斗がいた。

 あまりに突然のことに、簪は戸惑う。

 

「か、傘霧くん……どうして、ここに……?」

 

「どうしてって、簪さんのIS制作の手伝いに来た。ほら、なんだかんだで学園祭に参加してもらったからさ、遅れた分を手伝うって訳。学園祭の時にも話しただろ?」

 

「学園祭の時……?」

 

 簪は記憶を探る。程なくして思い出した。

 息抜きに学園祭に参加したらどうかという颯斗の提案に必要ない答えた自分。しかし颯斗はそれで引き下がらずに言ったのだった。

 

 ――そうは言わずにさ。こうした今までの勧誘の分も含めて、遅れた分は俺が手伝うから。

 

「……あ」

 

「ま、そういう訳だ」

 

「で、でも、キャノンボール・ファストへの調整があるんじゃ……」

 

 九月二十七日に開催されるキャノンボール・ファスト。明日ぐらいからは専用機持ちの人達は、それに向けてISを高機動用に調整を始める。

 

「最速仕様のエックスに隙はなかった」

 

「そ、そう」

 

 ドヤ顔の返答。簪はどう返せばいいかわからず適当な相槌をした。

 しかしハッと思い出して尋ねる。

 

「……そもそも、大会に出れるの? 怪我を……して……」

 

 颯斗の怪我の原因が自分にあると考えて、次第に声が萎んでいく簪。

 しかし颯斗はなんともないかのように答えた。

 

「ああ、大丈夫。活性化薬とか再生薬の投与で来週中にはもう治るから」

 

「……そうなの?」

 

「おう、もう治療は始まってる。すげーよな現代の医療技術って。あ、技術じゃなくて科学か?」

 

「さ、さあ……でも、よかった……」

 

「という訳で憂いはなしだ。今はこんなだから大したことできないけど、できるだけ力になるよ」

 

「う、うん。よ、よろしく」

 

 簪は俯いて答えたが、彼女の顔は嬉しさで綻んでいた。

 

 ――また、傘霧くんに会える。

 傘霧くんが会いに来てくれる。傘霧くんと一緒にいられる。

 それがたまらなく、嬉しい。

 

「さて、今の俺ができることって何かあるか?」

 

「じゃあ……」

 

 簪はディスプレイをこちらへと差し出した。

 

「シミュレーターでISの挙動を確認して、結果を纏めるの……お願い」

 

「おうわかった。あ、最初はシミュレーターの使い方教えてくれよ」

 

「うん。使い方はね――」

 

 こうして簪の、颯斗と一緒にISを作る日々が始まった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「え!? 一夏の誕生日って今月なの!?」

 

「ん?」

 

 IS制作をキリのいいところで終えて、簪さんと夕食を食べに食堂に訪れると、シャルロットの驚いたような声が聞こえてきた。

 

(……ああ、一夏の誕生日って確か、キャノンボール・ファストの開催日の九月二十七日だったっけ)

 

 こんな会話のシーンがあったかなーと風化してきた前世の記憶を思い出してみながら、並行して夕食を何にするか考える。

 

(ラーメン……は、昨日食ったな。スパゲティは昼に食った。となると……)

 

 なお、食ってるものが麺類ばっかりである理由は、まあ片手しか使えないからである。ナイフとフォーク、お椀と箸のように、両手でそれぞれ持つようなものを避けた結果麺に行き当たったのだが、やっぱ米食いたい。

 

(……あ、カレーがあるじゃんか。これなら大丈夫か)

 

 意外にあっさりと問題解決して、チケットを買う。

 

「簪さんはもう決めたか?」

 

 簪さんの方を向いて尋ねると、簪さんはコクリと頷いた。手にはチケットが握られている。

 

「じゃあチケットを出してっと……テーブルどの辺空いてるかなぁ……?」

 

「えっと……あ、奥から二番目……誰もいない、みたい」

 

「あ、ホントだ。簪さん目がいいな」

 

「べ、別に……普通」

 

「目はいいってことは、その眼鏡って伊達か?」

 

「これは、携帯用ディスプレイ……」

 

「ああ、そうなのか」

 

「空中投影型は、高いから……」

 

 原作での会話を再現しながら、それぞれカウンターから料理を受け取ってテーブルへと向かう。俺が頼んだのはカレーライス(普通サイズ・中辛)で、簪さんはチーズグラタンとサラダだった。

 

「じゃ、いただきまーす」

 

「いただき、ます……」

 

 パクパクもぐもぐと自分の料理を食べていく。あーん? そんなの疑いもなく平然とできるのは一夏ぐらいだ。俺にはそんな度胸はない。

 料理を食べ進めていると一夏達の方からキャノンボール・ファストの話が出てきた。それに合わせて簪さんに話しかけてみる。

 

「なあ」

 

「もぐもぐ……何?」

 

「簪さんのIS、キャノンボール・ファストまでに完成ってできる?」

 

「それは、難しい……高機動パッケージもないし……」

 

「でも、大会には出たいよな?」

 

「う……」

 

 声を詰まらせ、俯く簪さん。答えてはいないが、反応からして出たいはずだ。

 簪さんが大会に出るのに必要なのは、当然ながら簪さんのIS。それに加え、大会で渡り合うためには高機動用パッケージが必須になる。なんとかISが完成しても、パッケージがないのでは白式や紅椿のような万能機、もしくはエックスのような基本が速度特化でもない限り勝負は厳しい。

 ISと、パッケージの開発。この両方を大会に間に合わせる方法が、実はあるんだが……

 

「なあ、ISとパッケージ、両方の開発を大会に間に合わせる方法、あるけど」

 

「え……本当?」

 

「ああ。方法は早い話、シエルさんに手伝いを頼むってことなんだが」

 

「……シエルさん?」

 

「うん。俺の専属IS開発者。忙しいかもしれないけど、俺から頼めばなんとか了承してくれると思う」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 なぜか簪さんにムスッとされた。

 しかしシエルさんに頼む。ぶっちゃけこれしか大会に間に合わせる方法は俺にはない。生徒ではなくプロに頼むのは反則に見えるが、本国に帰って整備改造するのがありなら、学園内にいるプロに整備改造してもらうのもありだろう、うん。

 

「で、どうだろう。大会には多分間に合うようになるし、プロの仕事を直で見れるってのはいい経験になると思う。あ、勿論、開発の中心は簪さんだと言っておくから」

 

「う……うん。……お願い……」

 

「あり?」

 

 意外とあっさり承諾した簪さんに驚く。てっきり拒否されてもう少し説得することになるかと思ってたんだが。

 

「……どうしたの?」

 

「いや……あっさりOK出したなって。……理由聞いてもいい?」

 

「……………」

 

 また簪さんは顔を俯かせた。

 

「……学園祭で傘霧くんが怪我をしたのは、私のせいだから……」

 

「いや、それは違うって」

 

「でも、ISが完成していなかったから、私は逃げられなくて……傘霧くんが怪我をした。もう、あんなことが起きないように……一刻も早くISを完成させないと……」

 

「あー……理由はともかく、早く完成させたいってことはわかった。シエルさんに掛け合ってみるよ」

 

「うん……で、でも、無理はしないでね?」

 

「わかってる。俺にできることで簪さんのサポートをするよ」

 

「……………」

 

 なぜか簪さんからの反応がない。変なこと言ったっけ?

 

「? どした?」

 

「さんは、いらない……」

 

「へ?」

 

「か、簪で、いい……学園祭のあの時も、そうだった……」

 

 ……学園祭のあの時って、襲撃受けた時で間違いないよな? 呼び捨てにしてたっけ?

 それよりも、呼び捨てでいい、か……。

 

「……わかった、簪さ――ゴホン……簪。あ、今更だけど、俺のことは呼びやすいように呼んでくれていいから」

 

「う、うん……頑張る」

 

 それから雑談を少ししながら、料理を食べ進めていった。

 食堂で簪と別れてから、俺は一夏の部屋へと向かう。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「一夏の部屋の前に到着なう」

 

 独り言である。聞いてる人は誰もいない。むしろ聞かれてたら全力ダッシュで逃げてる。痛い人に見られたくないので。

 で、さっき言った通り一夏の部屋の前。一夏達は俺達より先に食堂から出てったため、誰かの元へ行っていない限りは部屋の中にいるはずだ。

 

「では早速ノックを――ブッ!」

 

 扉に近づいた。

 扉がいきなり開け放たれた。

 顔面直撃。

 痛い。

 

「ああっ! は、颯斗大丈夫!?」

 

 扉を開いたのはシャルロットだった。なんか凄い慌ててる。

 

「大丈夫だ。……多分」

 

「本当にゴメン! じ、じゃあ!」

 

 深く頭を下げて謝った後、シャルロットはピューッという擬音がつきそうな勢いで走っていった。……何があったんだっけ?

 

「颯斗、大丈夫か?」

 

「見た感じ、額にぶつけたみたいね。凄い音がしてたんだけど」

 

 さらに扉の奥から出てきたのは一夏と鈴音だった。

 

「……結構効いた。まあいい、だいたい一夏のせいなんだろ?」

 

「ぐっ……ま、まあ今回はな」

 

「今回“は”……?」

 

「? なんか変なこと言ったか?」

 

「……いや、なんでもねえ」

 

 ふと鈴音を見ると、一夏の反応にはもはや諦めたような表情になっていた。

 

「まあ、とりあえず中入っていいよな? ちょいと割と重要な話がある。鈴音がいるのは……別に大丈夫なのか?」

 

「何? 聞かれたくないって言うなら席外してやってもいいわよ? 一応こっちの話は済んでるし」

 

「……出てった後で何の話か妄想したりしない?」

 

「しないわよ」

 

 きっぱりと言って、鈴音は立ち去っていった。そして一夏と共に部屋に入る。

 

「で、颯斗、話って何なんだ?」

 

「まあ単刀直入に言うとだ。白式の稼働データをくれ」

 

「白式の稼働データを? なんでだ?」

 

「白式の開発に人員が吸われて、ISが未完成なままの子がいるんだよ。同じ開発元のデータがあれば、IS制作もはかどると思って」

 

 俺は一夏にそう答える。

 現状、簪は一夏との接点がないため、このまま何もなければ白式のデータを打鉄弐式に入れることはない。シエルさんという現職の開発者に手伝いを頼むとは言え、それだけではなく他のものも色々用意していった方がいいだろう。そもそも、まだシエルさんに話してもいないし。

 ……まあ、いざとなれば白式のデータをシエルさんに流しちゃえばほぼ確実に協力得られると思うけどね。でもそれは国際及び一夏との関係的にアカンことになるだろうからやらないけど。

 

「そういう訳だから一夏、協力してくれ」

 

「わかった。俺ができることなら喜んで協力するぜ」

 

 ……人がいいのは、良いというべきか悪いというべきか。

 押しに弱いだろうなー一夏。悪い奴に騙されないかがちょいと心配だ。あ、箒達がいれば大体大丈夫か? 今はアトラスさんがいるからほぼ間違いなく心配無用だろうし。

 

「じゃあ明日の放課後、その人にデータ渡しに行けばいいよな? その時に迷惑かけてることを謝りたいし」

 

「謝る必要はないんじゃないか? まあ、それでいいけど……ああ待て、この話、本人にはまだしてないからお前単独で行かせるのはちょっと問題あるか」

 

「え? なんで俺一人で行くとダメなんだ? それに颯斗は?」

 

「俺は放課後に入ってすぐは再生薬の投与でしばらく時間潰れるんだよ」

 

 投与自体は時間はかからないものの、問題は副作用でしばらく意識が鈍化されることなんだよな。これどうにかなんねえかなホントマジで。

 それから、一夏単独で行かせた場合の問題は、まず相手が間接的とはいえ打鉄弐式が完成してない原因である一夏であること、簪が人見知りが強いこと、それから一夏が女子のために動いたら大体例の専用機持ち五人が察知してくること。この話のことを知らない簪の元にいきなり一夏とプラス五人が押しかけてくるようなことは避けたい。

 

「うーん……俺が動き回れるようになったら一夏に連絡、治療室にきてもらって、それから一緒に行くってのが無難なところか。整備室とか、詳しくないだろ」

 

「ああ、それもそうか。わかった、じゃあそうするよ」

 

 一夏との打ち合わせが完了して、部屋から出る。これからまだやるべきが残ってる。シエルさんへの協力依頼もそうだし、毎晩の勉強もそうだ。楯無さんを教師役とするこれはもはや日課となっている。

 部屋を出て自室への道に体を向ける。そうしたちょうど目の前にアトラスさんがいた。

 

「おっす」

 

 片手を上げて軽い挨拶をしてくる。ノリがまるで男子だ。胸の自己主張さえどうにかできれば男性と言われても通るんじゃないだろうか。

 用事がない訳ではないが、先輩に礼だけして去るというのもどうかと思うので、当たり障りのない話をすることにした。

 

「こんばんは、アトラスさん。……そういえば、アトラスさんってまだ一夏と同居中なんですか?」

 

「まーな、だからこうして来てる訳だし。このまま卒業まで居着くのも悪かねーかなー……なんてな」

 

「仮にそうなったら、一夏の周囲にいる専用機持ちが黙ってませんよ。俺は除きますけど」

 

「それは別にいいんじゃね。勝てば良かろうなんだし」

 

 実際にそれを実行できる実力があるから怖い。

 そう思っているとアトラスさんが話題を変えてきた。心なしか、イタズラっぽい笑みを浮かべてるように見えた。

 

「ところで、お前更識妹のIS制作を手伝うらしいな。楯無から聞いたぜ」

 

「更識妹って……ええ。まあある意味約束してたことですし」

 

「熱心なことだ。ひょっとしてあれか? 更識妹に気があんのか?」

 

 うわぁ、なんとも答えづらい質問。気があるのかって、あれだよな。恋愛的なことだよな?

 

「……なんとも言えないです。向こうの方はなんだか脈ありっぽいんですけど」

 

 おー言ってくれるねー、と茶化すアトラスさんに、俺は恥ずかしさからそっぽを向いた。

 脈ありっぽいのは事実なんだ。多分。どのレベルかまでは定かではないけど。後夜祭での簪の気絶とか、さん付けしなくていいと言ったりとか。一夏のような重度の唐変木ではないとは思ってるし、何より原作の知識から彼女のタイプも知ってるようなものだったし、なんとなく気があるんじゃないのかというのはわかった。

 ただ、こっちはどうなのかと言われると首を傾げることになる。というのも、元々付き合いたいと思って簪に接していた訳じゃない。興味がなかったとは言わないがぶっちゃけ、楯無さんに頼まれることがなかったら簪と一切関わることもなく、意識などしなかったと思う。いや、専用機持ち同士だから関わるか? しかし逆を言えばそれだけだ。

 加えて、本来原作通りならば一夏のことを好きになるはずだったのが、それより早く俺が接触したからってことで簪の意識がこっちに向いてるっていうのが、その、なんというかなぁ……寝取り……違うか? まあとにかくなんというか気が乗らない。

 そんな訳で、簪と恋愛に発展する、という感じではないのが今の心境だ。ちなみに楯無さんはと言えば、彼女のやってるスキンシップはイタズラの範疇であろうことからそういう意識はない。

 

「更識妹と付き合うのは悪かねえと思うぜ。むしろ更識の後ろ盾を得られるのはお前にとっちゃいいことだろ」

 

「そんな政略的なことだけで選ぶことはしません。それを抜きにしたって簪は可愛いですけど」

 

「おいおいノロケかよ。そんなこと言うなら付き合っちまえばいいのに」

 

「ヘタレですから、俺」

 

「嘘つけ。んな怪我してまで人を庇えるやつがヘタレな訳ねえだろが」

 

 そうは言われても。

 

「ま、そっちの問題に俺が口出しするのもなんだし。精々悩め」

 

 そう言ってアトラスさんが一夏の部屋の扉を開けようとして……その前にまたこちらを向いた。

 あーそうそう。と思い出したように言う。

 

「簪と付き合う。簪を振って泣かせる。どちらにしようと勝手だが、どちらにしても楯無が黙ってねえだろうから気ぃつけろよ?」

 

「……あー」

 

 にっこりとした笑みのまま、ガトリングランスをこちらに向ける楯無さんの姿が思い浮かんだ。

 あれ……こうしてみると、一夏以上に死にそうなのは気のせいか?

 そう悩んでいる内にアトラスさんは部屋へ入り、俺だけがその場に立ちすくんだまま数十秒。

 

「……まずはシエルさんと話をつけよう」

 

 まずは目先の問題の解決に取りかかることにした。別の言い方をすれば先送りあるいは逃避とも言う。




 簪の好意に悩んでる様子の颯斗。
 颯斗は鈍感ではありません。が、転生者という立場故の悩みとかがある模様。
 どっちの答えにしても、楯無さん(お姉ちゃん)が黙ってないだろうけどね!
 颯斗は一夏とは別方向で災難ばかりのようです。災難のレパートリーが多い分、一夏よりも散々かも?
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