六巻終わるのにどれくらいかかるかな……?
「簪ー、このシミュレート結果入れておくぞー」
「うん……そのまま次のも、お願い……」
「いい感じですなぁ〜。私、邪魔になってるかも〜?」
「も、もう……本音!」
白式のデータは滞りなく簪に渡され(一夏と対面した時、簪が対応に困って俺の陰に隠れるということがあったが)、先に来ていた簪のメイドののほほんさん、プロの技術者シエルさんと共に簪のISを作っていく。
簪が両手両足に配置されてあるキーボードでプログラムを組み込み、のほほんさんは簪監修の元ISの組み立てをしていく。俺はプログラムのシミュレート・チェック。そしてシエルさんは打鉄弐式用の高機動パッケージの制作をしている。
シエルさんがパッケージ制作を行ってるところからわかる通り、シエルさんの協力を得ることはできた。ただ当然と言うべきか他国のISの開発を無償でという訳にはいかないので、対価として打鉄弐式の技術データが渡されることになったが、そこは簪も了承したし、すでにシエルさんが倉持技研にも話は通したそうだしこちらが何か言うことでもないだろう。
ただしIS制作は本来チームで行うもの。現在俺を入れたとして四人だが少ない。シエルさんが言うには、この人員では完成させてからの試験稼働、パッケージ試験運用、調整等を含めると大会までには間に合わないらしい。
人員が足りないということで増やしたいところなのだが、生徒を呼ぶは今回難しいらしい。それというのも、キャノンボール・ファストは専用機持ちのみならず、訓練機参加もある上、二年からある整備科の人達はISの高機動調整のために需要が跳ね上がっているそうだ。すなわち整備科で暇な人はまずいないらしい。シエルさんとのほほんさん談。
では、どうするのか? 答えは、シエルさんだからできる芸当だった。
アルカディアの職員を呼んだ。これである。
元々オメガの最終開発にはシエルさんも参加するため、オメガとアルカディア職員を学園に送る予定だったらしい。今回、その職員が来るタイミングを早めさせたということだ。今度の日曜日に学園に到着するということなので、そこから急ピッチで作業は進むだろう。
そんな訳で現在は、アルカディア職員が来るまでに少しでも進めようとみんな全力で開発を行っている。
……うん、まあ、知ってはいたんだけどさ。簪もシエルさんもキーボードを打つのがめっちゃ速い。比喩抜きで目にも留まらない速さだ。加えて、二人ともそれを両手だけでなく両足でも、しかも上下に挟んでキーボードを打っているのだからすごい。もう、その、すごい以外の表現ができない。
しかしその分かなりの集中力と体力を費やすようで、いくつもの玉のような汗が簪の肌を伝っている。シエルさんは持参してきた飲み物を飲んだりして細かい休憩を挟めて集中力を維持しているが、簪はノンストップだ。疲れが溜まってきたのか、俺が入った時に比べたらキーボードを叩く速度が遅くなっているように見える。
……よし、決めた。簪を休憩させよう。無理な労働は事故の元だ。それに、効率の良い作業をするには適度な休憩を挟めるのがいいってよく言うし。シエルさんがそうしてるし。
「簪」
「……ん。何?」
「一旦休憩にしようぜ。疲れたろ」
「……もうちょっと」
「もうちょっとって、あのなぁ。お前すごい汗だくだぞ」
「そうだよかんちゃん〜。無理はいけないよ〜」
のほほんさんからの援護射撃。簪は困り顔になった。
「……でも、もうちょっとだけ、これだけでも……」
しかし簪は意地っ張りだった。
のほほんさんに耳打ちで訊いてみる。
「のほほんさんや」
「何〜? かっきー?」
「ああ言う簪が休憩する期待値は?」
「残念ながら、あまりよくないのです〜。もうちょっと、もうちょっとが積み重なって、結局は休まなくなるんだよ〜」
うん、なんとなく簪ならやってそうな気はしてた。すなわち鵜呑みにしての放置はアカンと。
「しょうがないなぁ……左腕部分さえ展開しないなら大丈夫か?」
「ん〜?」
「エックス」
首を傾げているのほほんさんをよそに、俺はエックスの右腕だけを部分展開。その状態でこちらに気づかず椅子に座って作業を続けている簪の左側に近づき……。
「いいから休むぞ。途中でも中断」
「!?!?」
右腕一本で抱き上げた。
簪は抱き上げられた直後は何が起きたのはわからない様子だったが、俺に抱き上げられていると知ったのか、顔を真っ赤にした。
「は、はは、は、颯斗、くん!? な、な、何を!?」
「何って、簪を作業から引き剥がして休ませるために、IS使って抱き上げてるんだけど」
ISを使っている理由は片腕だけで人間を持ち上げるのが俺には不可能であることと、素手でのタッチを控えるためだ。ISでも簪にとっては触られていることに変わりないだろうけど。
ちなみに、簪から名前で呼ばれるようになった。くん付けだが、そこについてはいちいち気にすることでもないだろう。
「わ、私はまだ、だだっ、大丈夫だから……それに今、いい、ところで……!」
「あーはいはいわかったわかった、とにかく休め。シエルさんも、一旦休憩にしましょう」
簪の言葉を適当に流し、床に降ろす。それからシエルさんにも声をかける。シエルさんはすぐに作業を中断してくれた。
簪を降ろしてからはエックスを解除し、近くに置いてあったバッグからタオルを取り出して簪に投げる。
「汗拭いとけ。さっきも言ったけど汗だくだぞ」
「……これって」
「俺のだけど? 毎日特訓でよく汗かいてたから、特訓なんてできないのについ癖で入れちまってた」
「……………」
簪はじっと俺のタオルを見つめた後、タオルに顔を埋めて固まった。……何やってんだ?
「かっきー、ここはあまり気にしないであげるのが男だよ〜」
「……?? まあいいや。購買で飲み物とか買ってくるけど、何か買ってほしいものはあるか?」
「はーい、はーい! お菓子と炭酸ジュースがほしいで〜す!」
真っ先に手を上げて所望したのはのほほんさんだった。
「お菓子と炭酸ジュースね。具体的には?」
「んーっとね〜手があまり汚れないようなお菓子がいいかなぁ〜」
「地味にハードル高くね? ティッシュでもつけとくか」
「お茶をお願いしてもいいかしら? 確か購買には、あったかいお茶もあるよね?」
続いて、そうリクエストしたのはシエルさん。
「ありますよ。缶に限定されますけど」
「なら、それでお願い」
「簪は?」
「……………」
簪は未だにタオルに顔を埋めたままだった。
「おーい、簪ー?」
肩を軽く叩くと、簪は飛び起きたかのように顔を上げて、慌て始めた。
「ち、違うの颯斗くん! こ、これは、そういうことじゃなくって……」
「うん、そういうことがどういうことなのかわからん。それはいいから、リクエストがあれば言ってくれ」
「え、あ、その……ス、スポーツドリンクで……」
「よしわかった。じゃあ買ってくる」
「あ、私も……」
「ああ、俺一人でも大丈夫だからさ。簪はガールズトークでも楽しんでくれ」
ついてこようとする簪をそう留めて、俺は購買部へと向かった。
◇
買い物袋を右手に引っさげて整備室へと戻っていると、道中で楯無さんに出会った。
「ちゃお♪」
「どうも」
簪に見られたらどうなるかと思ったが、整備室からはまだ離れてるし、大丈夫か。
「簪ちゃんのIS、なんとかなりそう?」
「日曜にはアルカディアのチームが来るそうですし、白式のデータがありますし、シエルさんの計算ではそれで大会には間に合うらしいですよ」
「そう。私の機体データは必要なかった?」
「一応シエルさんには相談してみたんですが、楯無さんと簪の関係を説明したら使用を見送られました。そういうことなら、本人同士で話し合わないとダメだって」
「うぅ……」
「まあ、簪が本気で楯無さんを嫌っている訳でもないでしょうし、意外なタイミングや理由で解決しますよ、きっと」
「それはちょっと、無責任じゃないかなぁ?」
「仲違いについては二人の問題ですし。まあ簪のISについては心配はいらないって感じですね」
「うん……それじゃあ、簪ちゃんのことをよろしくね?」
「はい」
歩き去っていく楯無さんを見送る。
うーん、仲違いが解決されるのって、確か第七巻の無人機襲撃時だったけど、普通に解決させたいなぁ。まあ、つってもどうすればいいとかわからないし、そもそも俺じゃあ力になれないだろうしなぁ。頼まれたらその時に臨機応変にやってくのが一番か。
楯無さんを見送ってから、そんな思考をしながら整備室に戻る。
「おーす。帰ってきたぞー」
「ッ!!」
三人に声をかけると、簪がすごい反応でこちらに振り向いた。……俺がいない間に何があった?
「お帰りだよ、かっきー」
「お帰りなさい、颯斗さん」
「希望通りに買ってきましたよっと」
三人の元へ行き、買い物袋を降ろす。
「シエルさんはあたたかいお茶」
「ええ、ありがと」
「のほほんさんにはサイダーとチョコスティック」
「わーい♪」
「で、簪にはスポーツドリンク」
「あ、ありがとう……あれ? その、もう一本は?」
「これは俺の分」
「……お揃い」
「別に被ってもいいじゃないか」
俺のを選ぶ時、パッと思い浮かんだのがオーダーを受けてた三つ。その中からスポーツドリンクを選んだ。他意はない。
「それじゃあ、私はそろそろ作業を再開するわ」
言って、シエルさんは立ち上がった。
「あれ、もういいんですか?」
「細かい休憩を取ってきてたから。三人はもう少し休んでからでもいいんじゃないかしら」
はぁ、と生返事をしていると、シエルさんが簪に近寄り、何やら耳打ちをした。
「……!」
何を言ったのかはわからないが、俺に関係していることはなんとなくわかった。だって、簪の顔が赤くなってるんだもの。簪が俺に脈ありだってわかってるんだもの。気づくよそりゃ。
何かを吹き込んだシエルさんは、ニコニコとした笑みで作業へと戻っていった。ああ、作業に戻るのは簪と俺の二人で話させるための口実だったのか。
カタカタとあまりに質素なBGMが流れ始める。
顔が赤いまま黙りこくっている簪。
そんな簪からの言葉を待っている俺。
そんな俺達をニコニコと見ているのほほんさん。気を使って作業に戻ってもいいんだぞ。
「あ、あの……は、はや、颯斗、くん……!」
「お、おう」
意を決したようにもつれながらも俺をよぶ簪。気迫に若干押される。
胸のあたりで手を握って、簪は……
「わ、私と、つ……付き合って……!」
――そう、言った。
「……え?」
沈黙。カタカタ音だけが聞こえてくる。
のほほんさんはキャーキャー言わずにキャーキャー言ってるような顔して制服の余った袖を振り回している。視界の邪魔だから作業に行ってくれ。
「……あれ? ……あっ」
しばらくして、簪が急に慌て始めた。顔真っ赤。
「あ、いや……そのっ、ち、違うの颯斗くん! 付き合ってって、そういう意味じゃなくって……!」
「お、おう。おう。オーケー、落ち着こう。落ち着こうか簪。そして俺も。つまりこれは、あれだな? 言葉が足りてないということなんだな? オーケーわかった。互いにちゃんとした理解をするためにちゃんとした言葉で伝えるというのが何より大事だと俺は思うんだ」
「う、うん」
手で簪を制して、とにかく俺と簪を落ち着かせる。
「では訊こう。簪は、どういう意味で、俺に付き合ってほしいんだ?」
「ええと……そ、それは……それは……!」
なぜ言うのを躊躇う? あれか? マジで付き合ってってやつなのか? いやいやそんなこと言われても早すぎるだろ。学園祭終わってまだ一週間も経ってないぞ。俺としてはもっと相互理解を深めてからだなって何を言ってるんだ俺はそういうことじゃない!
「か、買い物! 買い物に……つ、付き合って、ほしい……」
「……お、おう。買い物だな、買い物に付き合うんだな。よしわかった。日時は……今度の土曜か? 日曜にはアルカディアの職員が来るんだし」
「う、うん……」
「時間は決まってるのか? 決まってるなら場所も一緒に」
「え、えっと……十時に、学園ゲート前……は、ダメで……え、駅前のモニュメントで」
「よーしわかった。今度の土曜、簪の買い物に付き合うために十時に駅前のモニュメントだな。オーケー、予定に入れとく」
「う、うん。……そ、それじゃあ、作業に戻るから……!」
簪は逃げるように自分の作業場へと戻っていった。簪の視線がないのを確認してから、深いため息をつく。
「……はあ〜っ! 危ねー!」
最初の沈黙、もうちょっと長かったら恋人としてのオーケーを出そうかと若干本気で考えるところだったよ! 考えるだけで必ずオーケー出すとまでは言わないけど!
でも、そこまでいってたらオーケー出してたかもしれないんだ。簪ってかわいいし、努力を惜しまないし、美人だし、かわいいし。かわいい二回言ってる? そんだけかわいいってことだこのやろう。
でもこの思考はシャットだ。だって今回付き合うのは買い物だもん。そう、買い物なんだ。買い物であるんだ! だからもう間違ったオーケーをすることを考える必要なんてないんだ!
「……じー」
「……な、何かなのほほんさん?」
気づくと、のほほんさんがこちらを凝視していた。眉間にシワを寄せ、口をへの字にして、なぜか不機嫌そうな表情である。
「じー……」
「な、何だよ?」
何も言わずにこちらを見つめてくるのほほんさんに若干たじろぐ。
「……かっきー」
「は、はい?」
しばらくこちらを凝視した後、のほほんさんは口を開いた。
「ヘタレー!」
「ぐっはぁっっっ!!!??」
効いた。
めっちゃ効いた。
次回デートです(違
簪との仲の進展が早すぎるかなぁ……でも、一夏は大体ワンショットでヒロイン落としてるよね。颯斗でもある程度なら許してくれると思うんだ。
次回の投降はいつになるかな……。