ISだが、機体は岩男でも問題ないよな?   作:暁楓

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第二十五話 お世話になったら感謝

「あー、あんにゃろう次会ったらぶっ飛ばす。具体的にはISアームでぶん殴ってやる」

 

「そんなこと生身の人間にやったら、死んじゃうわよ?」

 

「大型パイルバンカーを片手で持ってるあいつなんて人間じゃありませーん! あいつなら本気で殴っても平気だろ絶対」

 

「どうしよう。颯斗くんすごい荒れてる」

 

 楯無さんが若干困惑しているようだが知ったこっちゃない。

 亡国機業の連中が撤退したことで終息した今回の事件。現在俺は整備室にてあの男――スマイルのことを思い出してイライラしていた。

 楯無さんから当時の状況を聞きたいということで思い出していたのだが、今になってあのニコニコとした笑みがこちらを馬鹿にしていたみたいで余計むかつく。

 あの野郎のせいで避難誘導どんだけ苦労したと思ってるんだ。煙幕が全然晴れないから、ハイパーセンサー使ってた俺はともかく観客がほとんど動けない有様だったんだぞ。結果としてめちゃくちゃ時間かかった。

 

「ところで、颯斗くんは行かなくていいの?」

 

「……何にですか?」

 

「一夏くんの誕生日会」

 

 あーそうそう、今日は一夏の誕生日。今頃織斑宅では誕生日会が開かれているだろう。事件があって怪我人も出たのによく騒げるものだ。

 ちなみに、俺も誘われた。一夏とか一夏ラバーズとかそれからなぜか黛先輩からも。しかしそれを断って現在ここにいる。

 

「パーティーメンバーなら充分でしょう。主役の一夏いつもの五人の箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、鈴音。アトラスさんも行ったし、なぜか黛先輩も行って、それから五反田兄妹」

 

「ああ、その五反田のお兄さんに会えるかもって、虚ちゃんも行ったわね。青春ねぇ。でもあなたが入る余地だってあったでしょ?」

 

「加えて楽しく騒ぐような気分ではありませんし」

 

「ふむふむ。あとは」

 

「『こいつ』のこともありますし」

 

「ああ、なるほど」

 

「最後にこれだけはやっておきたかったので」

 

「うんうん。いいことだと思うわ。ただ人付き合いもちゃんとしなさいね」

 

「わかってますよ」

 

「わかってるのならよろしい。よければ私も手伝って――」

 

 言ってる途中で、楯無さんの表情が急に険しくなった。

 急に険しくなるものなので、何か起きたのかと少し焦る。あ、そういやマドカがもう一度襲撃するんだっけ? 一夏の元に。

 

「颯斗くん、ゴメン。ちょっと私隠れる」

 

「はい?」

 

 え、隠れる? どゆこと?

 

「私のことは知らぬ存ぜぬ! いいね!?」

 

 あっ(察し)。

 返す間も無く楯無さんは物陰に隠れていった。いたという痕跡も残さない限り、すごいっちゃあすごいんだが……。

 

「あれ……颯斗くん?」

 

 整備室に入ってきたのは、案の定簪だった。

 楯無さんは一体どうやって察知しているのだろうか。前に似たようなことがあって訊いたら「お姉ちゃんパワーよ!」って返された。イミフ。

 そうやって互いに避けていくような構図があるから仲違いして治らないんじゃないかと思わないことはないが、しかし俺は修羅場なんぞに逢いたくないのでこの場合では助かる。

 

「よお、簪」

 

 軽く手を上げて返して、ここで簪の腕に痣があるのに気がついた。少なくとも、レース前まではなかったはずだ。

 

「怪我……したのか? 襲撃者との戦闘で」

 

「あ……。……大した、怪我じゃないから……」

 

「だからってその痣は目立つだろ。ちょっと待ってろ、湿布とかもらってくる」

 

「い、いいよ、そんな……本当に、大した怪我じゃないから……!」

 

「そんなんで引き下がる俺じゃねぇ。痣が残ったりしたら綺麗な肌が台無しだぞ」

 

 引き止める間を作らせないよう素早く整備室から一旦出る。簪が若干うわ言で「き、綺麗……」と言ってたとかそんなのは聞こえてない。聞こえてないと俺が言ってるんだ、いいね?

 保健室から戻ってきて、簪に手当てを施す。といっても湿布を貼るだけのことだが。

 

「よし、こんなもんか」

 

「あ、ありがとう……と、ところで颯斗くんは何をしていたの? 見たところ……エックスの整備?」

 

「まあそんなところだな。正確には、エックスを綺麗にしたり、調整を元に戻しているんだ。新しいISに乗り換える前に、やっておきたかったんだよ」

 

「あ、そっか……今度から、颯斗くんの専用機は、オメガになるんだね……」

 

 そう、オメガは完成し、俺はエックスから離れてオメガに乗り換えることになる。エックスと共に飛んだ経験値はオメガに継承され、一部がオメガの経験値となる。その後エックスは以前取り返したエルピスと共に本国に戻り、他の操縦者の元へ行ったり、コアを残して解体、新たな第三世代ISの開発に使われたりするそうだ。二機が本国へと戻るのは、オメガの調整を終えてアルカディアスタッフが戻る時……タッグマッチが終わった辺りに一緒に持っていくとのこと。

 いざ手離す時が来るとなると感慨深くなって、最後にエックスを弄る機会としてこの作業をやらせてほしいと申し出たのだ。

 短い間とはいえ色々あったなぁ。初戦で正面衝突で引き分けになったり、その速さに何度も振り回されたり。楯無さんの特訓でしょっちゅうボロボロになったりもしたな。そして学園祭の時と今回、亡国機業の二度の襲撃にもこいつと立ち向かった。……今回のは立ち向かったと言えるっけ?

 色々、本当に世話になったと思う。ただ心残りなのは、模擬戦あるいは公式戦で一度も勝利を掴むことなく手離すことだろう。散々な目に合わせるだけ合わせて一勝もできなかったってのは、申し訳なくも思う。そういったことも、この作業を申し出た理由の一つと言える。

 

「颯斗くん」

 

「……ん、なんだ?」

 

 身長差もあってか少し上目遣いのような感じで、簪が言った。

 

「その、手伝っても……いい? エックスのクリーニング……」

 

「あー……………うん、頼もうかな。俺、整備技術あるって訳でもないし」

 

 できることなら多少時間かけてでも一人でやりたいと思っていたが、よくよく考えたら整備知識大してない俺ではできないようなところとか、見落としとかがほぼ確実に出てくるだろう。

 ……なんつーか、なっさけねえ。今日の俺。

 そんな訳で簪と一緒にエックスをクリーニング。この作業で整備室の使用時間いっぱいを使うことになり、俺は今度打鉄弐式の整備を手伝うことを約束した。

 ……うん、あの、楯無さん。お願いだから物陰からこっち見ないで。他意はないんだから。そんな風に顔出してたら気づかれますよ?

 

 

 

   ◇

 

 

 

 一方、一夏は。

 

「私が私たるために……お前の命をもらう」

 

 一夏の目の前に立つ、自分の姉と瓜二つの少女、織村マドカ。彼女が手にしているハンドガンは一夏に銃口が向けられていた。

 パアンッ! と、雷管の破裂音と共にその凶弾が一夏へ向かう――。




 第六巻が終了。次回、一夏んところの続きから第七巻編開始です。
 オメガのことを触れましたが、オメガに乗るのはもうちょっと後です。二、三話したら出てくると思います。
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