とりあえず、楯無さんと簪ちゃんが見れたからよし!!!(オイ
着物姿の簪が一番可愛かった。異論は認めるが俺はこの意見を変えない。
パァンッ!
「なっ……!?」
放たれる弾丸。いきなりの発泡に一夏の身体が強張る。
一夏に向かって飛んでいく弾丸は、ゆっくりと、一夏にもよく見えていた。
これは、ラウラのAICだ。
「一夏、伏せろ!」
一夏が指示の通りにしゃがむと、ラウラが投擲したナイフが頭ギリギリを通過してマドカへと飛んでいく。
マドカは、それをよけることもせず、手で直接受け止めた。手の平に突き刺さり、赤い血液が滴り落ちる。
「なっ!?」
「返すぞ」
言ってナイフが投げ返される。ラウラは何の雑作なくAICでそれを止めるが、マドカはその隙に逃走を開始する。
「おい、待て!」
「そうだぜ。いきなり撃ってすぐ帰んのは、そりゃねえんじゃねえの?」
マドカの斜め前、塀の上にアトラスが待ち構えていた。武器こそ持ってはいないが、ISの腕部装甲が部分展開されている。
「ちったあこっちに付き合ってくれてもいいよなっ!」
塀から飛び降り、マドカに殴りかかる。
アトラスの拳がマドカの顔面に到達する、その瞬間。
――ダァンッ!!
暗闇から何かがアトラスの頭に直撃し、アトラスを吹き飛ばした。
「アトラスさん!」
「一夏、出るな!」
アトラスの元へ駆けつけようとする一夏を押さえ、ラウラがAICを発動する。再び暗闇から何か――高密度レーザー弾がAICの結界内に飛び込み、停止した後消えた。
「トリガーか。余計なことを……まあいい」
マドカは小さく呟いてから、暗闇へと姿を消した。銃撃が来ないのを確認して、ラウラは一夏を解放する。
「アトラスさん!」
一夏は倒れたままのアトラスの元へ駆け寄り、彼女の上体を起こす。反応はない。
「アトラスさん、しっかりしてください!」
呼びかける。しかし反応しない。
「アトラスさん!!」
「――うるっせええええええええええええええええええええっ!!!」
「ゴフゥッ!?」
殴られた。
苛立ち気味のアトラスが立ち上がる。怪我は一切なかった。
「あんのスナイパーのガキ、俺の眉間に当ててきやがった! ISの絶対防御がなかったら脳味噌ぶちまけるところだったぞこの野郎!!」
「ア、アトラスさん……? 怪我はないんですか?」
「ああ? ISが機能している間は怪我する訳ねえだろ」
「そ、そうですか。よかった……」
「何、お前心配してたのか?」
「そりゃあしますよ。撃たれてから起きないんですから」
「俺は元がつくとは言え学園最強だったんだぜ? スナイプ一発で死んでたまるかってんだ」
「それでもですよ。アトラスさんはそれ以前に女の子なんですから」
「は?」
面食らったように、アトラスはパチクリと瞬きした。
どうしたんだろうと一夏が首を傾げていると、一夏の視界が急に真っ暗になった。……顔をアトラスの豊満な胸に押し付けられたのである。
「なんだよぉ、照れること言ってくれんじゃねえかぁ! このこの!」
「ちょっ!? ア、アトラスさん、離し……ムギュウ!?」
なんとか離れようと抵抗するものの、予想以上に強い力で抱きしめられていて抜け出せない。ちなみに、アトラスのISはすでに解除されている。
しばらくもがいても全く抜け出せなかったが、数十秒経ってアトラスは満足したのか一夏を解放した。
「さーてと、とっとと帰ろうぜ。あんまり席外してっと、待ってる奴らに疑われちまう」
そう言ってアトラスはパーティ会場である織斑宅へと戻っていった。
「はあ、全くあの人は……あ、ラウラ、さっきは助けてくれてサンキューな」
「ふんっ」
先ほどの光景を見て不機嫌になったラウラから、一夏は自宅に帰るまでに五回以上手刀を受けた。
◇
「「襲われた!?」」
「ああ、昨日の夜にな」
月曜日の夕食の時間。食堂では一夏が昨日襲撃された話が本人から打ち明けられていた。
一夏を中心に、その前と横にいつもの五人という形で席が取られているテーブル。さらに空いた場所に俺と簪が座ることで俺達も話を聞いていた。簪は一夏と同じテーブルに座ることに乗り気ではなかったが、同じ専用機を持つ者同士、情報を共有したほうがいいということで俺が説得した。
そんな訳で、このテーブルには一年生の専用機持ちが勢揃い。総数八人。イコール、IS八機。一つの学年にこれだけのISが集まるとか珍しいを通り越して頭おかしいとか黛先輩や楯無さんが言ってたな。
「……颯斗くんは、驚かないの?」
簪がそう訊いてきた。一夏の幼馴染み二人が大声出しているなか、静かにしているのが気になったらしい。
「話自体はアトラスさんから聞いた。襲撃者は二人。まずそのうちの一人目が一夏に攻撃したところにラウラとアトラスさんが介入、そいつを捕縛しようとするが二人目の狙撃で妨害され、二人とも逃走。一人目の襲撃者は女性、二人目は男性。どちらも年齢は俺達と同じくらいで、ついでに二人目が狙撃に使用したのがISの兵装《ブレイク・サンダー》であることが後からデータ照合で判明……と、このくらいか」
「あ、ああ。てか二人目についてそんなにわかってたのか」
「ハイパーセンサーという何より納得できる根拠。暗視ぐらい余裕だろ」
「というか、今とんでもないことをおっしゃっていた気がしたのですが。二人目が男性? その人、ISを動かせるのですか?」
「それだったらISの名前を言ってる。生身でISライフルぶっ放してたんだと」
昨日のスマイルと言い、その狙撃手と言い、近頃の亡国機業では生身でIS兵器使うのが流行ってんの? そんなものは流行らせない。
あと、しれっと答えたが、それも十分とんでもないことである。鈴音は手を横に振った。
「いやいや、無理でしょ。生身でそんなことしたら腕どころか身体が吹っ飛ぶわよ」
「そう言われてもなー。ISと同程度サイズのパイルバンカーを片手で持ってる人外とかも見たしなー。なあ?」
言って、俺は
「ああ、うん。いたよ。僕らも見た」
「とても人間とは思えなかったな」
「何よその人外。それって千冬さ――」
「誰が、人外だって?」
◇
「ふう……」
未だに痛む頭を摩りながら、ベッドに転がり込む。
食堂での話し合いは地獄絵図で終わった。いつの間にか聞かれてた織斑先生に鈴音と、それからなぜか俺とラウラとシャルロットまでもが叩かれた。俺は悪くねぇ。叩かれた後三人から恨めしそうに睨まれた。だから俺は悪くねぇって。
(しっかし……)
上半身を起こす。思い浮かぶのは、パイルバンカーを構えたスマイル。一瞬その笑顔にイラっときたが、そこは我慢する。
マドカやスコールのような、原作に出てきた奴らは必然的に一夏達がどうにかするだろうと勝手に考えておいて、いや、俺も関わることにはなるんだろうとは思うけど。問題はスマイルやアフールのような奴らだ。なんていうか、転生ものでたまにあるような『転生者に用意した敵』とかだったら嫌だなぁ。アフールはともかく、スマイルのような人外相手にするとロクでもないことになりそうで怖い。
ロクでもないっていったら、天災の篠ノ之束もか。というか、原作的にそれが今一番の問題なんだよなぁ。タッグマッチ戦での無人機乱入。存在が気に入らないってだけで消しにかかるとか、冗談抜きにやってきそうなのが怖い。
加えて、これからの戦いに使っていくオメガは完成してからまだ乗ってないような状態だし。ああ、不安だ。
「邪魔するぜー」
「……あれ、アトラスさん? すいません、俺ノックとか聞き逃してましたか?」
かかってきた声でアトラスさんが入ってきたことに気づき、慌てて立ち上がる。
「まあ、一、二回ノックはしたぜ。鍵開いてたから上がらせてもらったけど」
「す、すいません。……それでどうしたんですか? 楯無さんはいませんけど」
「ああ。楯無には聞かれたくねえからな。そういうタイミングを見てお前んとこに来た」
「俺に、ですか?」
「お前は、楯無と更識妹の仲が悪いことは知ってるな?」
まあ、知ってる。頷くと、次の質問が来た。
「そんでもって、二人が互いに互いを避けているってのも知ってるか?」
「楯無さんが、簪が来るのを察知して隠れるぐらいには」
「ったく、俺に話す時にゃあ妹自慢をとことんしやがるクセに。妹にはかっこいい姿しか見せられねえのかってんだ、全く……」
「それで、それがどうかしたんですか?」
「今度、専用機持ち限定のタッグマッチをやるらしいんだよ。最近起きてる襲撃事件への対策として、専用機持ちの能力やら連携強化ってことでな。この機に、めんどくせえ二人の隔たりを解決しちまおうって思ってだな」
まあようするにだ。そう言って、アトラスさんは両手を合わせて言った。
「あの姉妹が組むよう、ちょいこっちに協力してくれ」
なんだか、また面倒が起きそうな予感。
◇
「そういえば」
構想マンションの一室。スマイルはそう口を開いた。
スマイルのいつもの笑顔が向いている先には、IS用狙撃レーザーライフル《ブレイク・サンダー》の手入れをしているトリガーがいた。
「訊いてませんでしたが、昨晩はどうだったのですか?」
「んー、僕は一発撃っただけだよ。眉間に撃ち込んだけどISの絶対防御のおかげで殺してないし。あ、でもこっちの顔見られたかなぁ。今後潜りはちょっと厳しいかも」
「そうですか。それは残念です。これから傘霧颯斗さんが新しいISに乗り換えるとのことなので、ISデータを手に入れたいのですが」
「それなら、キャリアーに頼めばいいんじゃないの? 潜入だって何回かやってるよ?」
「彼は物資の供給線です。顔が割れて供給に支障が出るなんてことは避けたいですね」
「まあ、そうだけどさ。あ、じゃあアフールにでも……」
「あの馬鹿にそんな任務を任せられるとでも?」
「……ごめん」
「おわかりいただけたなら結構です。まあ、多少難度が上がっても我々でやるしかなさそうですね」
ドンッ! と突然、壁越しに何かの衝突音が響いた。
音に興味が向いたスマイルは、顔を音のした方に向けた。
「ここの隣は確か……エムの部屋ですよね?」
「うん。スコールからお小言もらってるんじゃないかなぁ」
トリガーは作業の手を休めずに答えた。
なお、昨晩トリガーがマドカの監視及び援護を行ったのはスコールからの命令である。
「ISを用いた喧嘩は周辺被害が酷くなりやすいのですが」
「スマイルも人のこと言えないじゃないか。君がガチで戦闘をしたらIS以外の手段じゃあ手がつけられなくなるんだから」
「私が本気になるのは、そのISが絡んだ場合ぐらいですけどね」
「まあ、そうだけど。……君がISに絡んだと言えば、あの二人目の男性IS操縦者はどうだったのさ?」
「そうですねぇ。悪くなかった、といったところですかねぇ」
「素晴らしいと言うほどでもなかったと」
「まあそんなところです。織斑一夏さんと比べた場合、リスクもリターンも薄いといった感じでしょうか」
「ローリスクはいいけど、ローリターンはなぁ」
「あくまで織斑一夏さんと比べた場合ですけどね」
スマイルは音もなく立ち上がる。トリガーは顔を向けることもなく、作業の手を休めずに口だけ開いた。
「もう行くのかい?」
「ええ。トリガーもできるだけ早く戻ってきてくださいね」
「りょうかーい」
スマイルは部屋を後にした。
スマイルが向かうのは、IS学園内にある、亡国機業の秘密基地――。