夕食後また授業を受けた。ようやく解放されてから携帯で時刻を確認するとすでに十一時を過ぎていた。
確か……ホームルーム後から昼食まで四時間、一時から六時まで六時間、そして夕食後の七時から四時間……合計、十四時間。すげえ。学習時間が一日の半分を超えた。
まあ、それはいいとして、とにかく地獄の授業を終えて自室に向かっているところである。
多分、ルームメイトは一夏。てか絶対そうだろ。それ以外になる理由が見えんわ。
「えーと、ここだな?」
手持ちの鍵の番号と扉に書かれた番号を照らし合わせ、目的地であることを確認する。
一夏は寝てるだろうし、静かに入って、俺もさっさと寝よう……。
ガチャリ。
「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た・し?」
バタン。
「……いやいやいやいやない、これは絶対ない。夢見る時間じゃないから。まだ扉の前だから」
なんか裸エプロン姿の学園最強がいた気がしたが気のせい、もしくは幻覚だ。絶対ないから。もし仮に万が一にあったとしたらその人色々とおかしいだろ。
……鍵の番号と扉の番号を確認。よし、合ってる。ここだ。
ガチャ。
「お帰り。私にします? わた――」
バタン。
「ちょっとー。最後まで言わせてよー」
「いやいやいやいやいやいやないない絶対ない有り得ないなんか聞こえたけど幻覚だから織斑先生の授業受けてまだ一日目だってのに現実と幻想を織り交ぜちゃダメだってか普通にダメだからそろそろ現実に帰ってこいよ俺」
ガチャリ。
ガシッ。
「いい加減入ってきなさい☆」
「ふぉうっ!?」
◇
「……どうしてこうなった」
「あら、私と一緒なのは不満?」
「予想外な展開ばかりにストレスが振り切れそうであることは間違いないです」
もう、寝たいです……。
互いに自己紹介した後ベッドに座って向かい合っている俺と生徒会長更識楯無。当然だが一夏はいない。もう一つ当然の話だが楯無さんは裸エプロンという狂った服装からパジャマ姿に変わっている。
しかしもう一度言おう。どうしてこうなった。
「まあまあ、まずはおねーさんの話を聞いてみたらどうかしら? できるだけストレスは与えないよう、手短に済ませるから」
「……もうどうでもいいです」
諦めて話を聞くと、まあこんな感じだった。
まず、なぜルームメイトが楯無さんなのか。一番の理由は護衛だそうだ。織斑先生などの後ろ盾足り得る人がいる一夏とは違い、学園では完全に一人である俺を守るために楯無さんがつくことになったらしい。あ、更識家が暗部家系であることも言ってた。二つ目に勉強の指導役。部屋で復習する時に楯無さんが教える役を買ったらしい。そんな時間があるのかと訊いてみたら、
「寝る前に最低一時間はやらせるようにって織斑先生から言われてるわよ」
日々の勉強時間がさらに一時間追加された。これは死ねる。
そして、第三の理由。
「あなたと生活するの、面白そうだし♪」
「おい」
とにかくこんなところである。
ちなみに、俺がIS委員会に行く時にも護衛としてついていくらしい。
「今は日本人でしょ? 更識家当主として守ってあげなきゃ」
「……国籍が変わった時は?」
「生徒を守るのは生徒会長にとって当たり前のことでしょ?」
「そーですねー」
変わらないじゃないですかー。
「さて、と。話はこれくらいにして、荷ほどきして寝ちゃいましょ。明日からは寝る前に一時間の勉強をするからね」
「……了解です」
もう頷くしかなかった。できるだけ早く寝たかった。
荷ほどきをして、歯磨きも済ませ、さっさとベッドへダイブイン。
あまりの疲れゆえかすぐに、沈むように眠りに落ちていった。
◇
眠りから意識が回復し始める。
体内時計が朝を知らせているのか、それとも窓から差し込む朝日が体に当たっているのか、とにかく朝であることがわかる。
でも眠たい。このままふかふかのベッドの上で眠り続けていたい衝動に駆られる。
――そういや、今日から直接懲罰部屋で授業だっけ? 七時から。
普通の生徒よりも早い時間からの授業。もし少しでも遅れたら織斑先生のありがたいお叱りを受けるハメになるだろう。そう思うと寒気がしてきた。
寒気で眠気が破棄されたので目を開ける。すると、
「あ、起きた? おはよ♪」
目の前、というか目と鼻の先に楯無さんがいた。にこやかな微笑みを向けてきている。
……………。
「うおおっ!? ――痛っ!!」
思わず後ずさり。下がり過ぎてベッドから転げ落ちるハメに合ってしまった。
「あら、大丈夫?」
「え、えぇ大丈夫です……って、なんでいるんですか!」
「私もこの部屋の住人よ?」
「そうじゃなくて! なんで俺のベッドに!?」
「颯斗くんの寝顔、結構かわいかったわねー」
ぐおぉ、寝顔見られるとか。恥ずかしい、想像以上に恥ずかしく感じる。
「初対面の人に対してやることじゃないですよ!?」
「初対面だったのは昨日でしょ?」
「二十四時間経ってませんよ!」
「あ、二十四時間経ったらいいの?」
「そうは言ってませんよ!?」
ああ、一夏の気持ちがわかる気がする。これはSAN値が削られていくわ。
「ところで」
「へ?」
ベッドの上で頬杖をついた楯無さんは、微笑んだままある場所を指差した。
「時間、大丈夫?」
「時、間……?」
指差した先には、置き時計。
現在、六時五十分。
って、やべぇ―――――!!
「ヤバいヤバいヤバい! 遅刻する!?」
「頑張ってねー」
ちくしょう、楯無さんの余裕そうな笑みが憎たらしい。
僚から懲罰部屋までの道のりは教室以上に遠い。幸いにも勉強道具は全部バッグに詰め込まれているからいいのだが、それでも超ヤバい。
こうして、波乱万丈な日々の、一日が始まるのだった。
◇
波乱の一例。
ギリギリ遅刻を回避して(ただし廊下を全力疾走してるのが見つかって怒られた)から始まった今日の地獄の授業を耐え抜き、寝る前に歯を磨いていた。
「颯斗くーん」
「はい?」
呼ばれたので洗面所から顔を出す。
――すぐに顔を引っ込めた。
「あれーどうしたのー?」
「パジャマに着替えてるなら、着替え終わってから呼んでください!」
楯無さんは着替え中だった。具体的に言うならパジャマの上着をまだ羽織っただけの状態で、下着がモロに見えてしまった。
「あは、見たの?」
「ええ見ました、というか見えちゃいましたよ! あなたのせいで!」
「いやん、えっち」
全く嫌がってない様子でそう言ってのけると、トタトタとこっちに近づいてきた。
「ねえ颯斗くん」
「何ですか」
「何か得意なことってない?」
「なんでわざわざこっち来てから訊くんですか」
「ん、なんとなく。それでどう? 何かない?」
「ありません」
「えー? 何かあるでしょ。織斑一夏くんは家庭的なこと全般が得意らしいよ。こっちで調べてみたのよ」
「俺は器用じゃありませんので」
「ちぇー」
俺に何を期待してるんだよ……。
「じゃあ何か好きなことってないの?」
「アニメやゲームの類であれば、まあそれなりに」
「ふーん」
というかいい加減、パジャマのボタン閉めてください。見ないようにしてるので精一杯です。
「私の好きなことの一つはね――」
ん? なんか嫌な予感がする。
あのー、楯無さん? 何故にそんな風に両手をワキワキと動かしているんですか?
「人の脇をくすぐることなの。うりゃ!」
「ぶっ、あ、あはははははは! ちょ、まっ、はははははっ!」
「こちょこちょこちょこちょ!」
なんで? なんで今受けるハメになるの!?
「はははっ、ちょ、ほんとやめて……ひはははははは!!」
「なかなかくすぐりがいがあるわねー。じゃあもうちょっと」
「そんな……あははははははは!!」
数分間くすぐられ続け、ようやく楯無さんは両脇を解放してくれた。
「はー、楽しかった。じゃあ寝ましょうか」
やるだけやって戻っていく楯無さん。
軽い呼吸困難に陥っていた俺は、しばらくその場でぐったりとしていた。
俺……何か悪いことしたっけ……?
つーかこれ、IS第五巻の一夏やん……。
◇
他にも楯無さん特製弁当ではいあーん(in懲罰部屋)とか、シャワールームで背中洗われたりとかいう後に一夏が受けるような奴や、他にも俺のベッドにドッキリトラップ(具体的には布団や枕が瞬時に風船みたいに膨らんだり)を仕掛けたりとか、楯無さんの自己主張の激しい胸に顔を押し付けさせる不意打ちを行うとか、ただでさえ授業がキツいのにそんな波乱が追加されて身体がついていけなくなってきた。
何より恐ろしいのは、織斑先生も楯無さんも俺の限界を把握してギリギリのラインで本当に俺の気力が切れることがないようにしているところだ。
かつ、相手にやる気を起こさせるのもうまいので、いつも「まだやれる」という気になってなんだかんだで最後までやりきっている、そんな日々だ。おかげで余裕が一切ない。
現在、特別授業六日目。もう少しで特別授業も終わりだが、実習も入り始めたので最初の数日以上にキツくなっている。
今は午前の授業が終わったので素早く学食へ行って食事を取ろうと思う。
ガチャリ。
「あ、こんにちは」
「……………」
なぜ、扉を開けたら目の前にシャルロットがいるのか。
「よかったら、一緒にお昼食べない? お弁当ならあるから。購買のだけど」
「あー、うん。俺は、別に構わないけど?」
一体どうしたというのだろうか。
◇
「みんなー、傘霧くん連れてきたよー」
屋上に出るなりシャルロットはそう誰かに言った。
続いて屋上に出て見てみると、箒、セシリア、鈴音、ラウラ。一組&二組の専用機持ち女子が勢揃いだった。しかし一夏はいない。
シャルロットから貰った昼食の弁当を食いつつ、シャルロットに質問する。
「で、デュノアさんや。なんで俺を呼んだんだ?」
「うん、それなんだけどね。傘霧くんに訊きたいことがあるんだけど……あ、それと名前呼びでいいよ」
「あ、そう。じゃあ俺についても名前呼びでいいから。苗字言いづらいし。それで訊きたいことって?」
「男性にとっての、女性の好みを教えてほしい」
そう言ってきたのはラウラであった。
俺は難色を示す。
「男性にとってのかぁ。んなこと聞かれてもなぁ……」
「難しく考えないで、アンタの好みを言ってみなさいよ」
「そうですわ。自由に言ってご覧なさいな」
「……第一、なんで俺から話を訊くって話になった?」
「えーとね。IS学園って、男子ほとんどいないじゃない?」
「IS自体が男性とは無縁だったからな。一夏は?」
「ここだけの話だけど……僕達全員、その一夏に振り向いてもらいたいんだよね。だから本人に訊くのはちょっと。それに、一夏ってちょっと……というかかなりそういうのに関して鈍いところがあるから色々不安で……」
そうだな。
「だから、もう一人の男子である颯斗に訊くことにしたんだ」
「なるほど。立案誰よ?」
「男性の好みを調べようと思ったのがシャルロットさん。颯斗さんに尋ねようと提案したのが箒さんですわ」
そうなのか。
「それで、どうなんだ。嫁がどういったものを好むのか、早く言え」
「いーからアンタの好みを言いなさいよ」
うーん、そうは言ってもなー。
仮に俺の好みを言って、それで失敗したとかなったら俺に責任が来そうで、それが怖いんだよなー。説得、通じるかな。
「じゃあ、言う前に一つ訊くけどさ」
「お前の質問を聞く暇はない」
とラウラ。ひでぇな。
「冗談だ」
「冗談かよ。まいいや、一つ訊くけどアンタら俺が髪の短い子が好きって仮に言ったとしたら、一夏の好みかどうか確認しないで髪切る気か?」
「む……」
「それは、ちょっとなぁ……」
言い淀む五人。突破口は開けたので続ける。
「俺の好みが一夏の好みなんてことは保証できねーよ。もしかしたら一夏の好みは一般からは外れてるかもしれない。勿論普通なのかもしれない。俺の好みは実は一夏にとっては苦手なものかもしれない。だからこれについては俺はどうこう言えねーなぁ。それに、一夏との付き合いも初日以降全然ねーからみんな以上にわからないし」
「……ん? 一夏との付き合いが全くないって、寮で部屋は一緒ではないのか?」
箒が訊いてきた。変に隠すことでもないんだし、素直に答える。
「今俺一つ上の先輩と相部屋なんだよ。部屋で勉強する時に教える役割がいるってことで」
「そういえば、嫁の部屋に侵入した時にお前いなかったな」
「つまり俺が教えられることは何もないってこと」
「うー……ほんとに何もない? せめて何かアドバイスでもないかな」
シャルロットが訊いてきた。この子意外にも意地っ張りな子である。
うーん、原作を見たから言いたいことはあるにはあるけどな……言うだけ言ってみるか。
「俺の転校初日にお前らがしでかした、一夏殺害未遂。あれって日常茶飯事だったりするのか?」
「ちょっと、変な言い方やめてくんない?」
「それにその言い方だと私達が悪いように聞こえるが、いつも一夏が唐変木なのが悪い」
「そういうのはいいから。もし日常的に暴力沙汰が起きてるなら、そこはやめた方がいい。警戒されるぞ」
「な、に……?」
全員が固まった。特に日常茶飯事であろう箒や鈴音のショックの度合いが凄まじかった。
「い、いやいや、一夏が私を警戒するはずがない。たんたって私は一夏の幼なじみで……」
「な、ないない。だってあの一夏よ? 何をやっても唐変木なままのあの一夏が幼なじみであるあたしを警戒する訳……」
「警戒するのに幼なじみなんて関係ないだろ。というか、暴力に対する警戒心のせいで恋に発展しなかったりしてんじゃねえの?」
「何……だと……」
あ、言い過ぎたかな。一夏の幼なじみズが揃ってorzになってる。
「まあ要するにだ。すぐに手を出すって考えは改めた方がいいってこと」
「う、うん。できるだけ、そうするよ。一夏に警戒されたくないからなぁ」
「そ、そうですわね。淑女たるもの、寛大な心も持って然るべきですわ」
「うむ。次からは拳打は控えて、寝技や足技にするべきか」
「ラウラ、それ違う」
こうして昼食を取りながら五人の話を聞いてアドバイスをして、そうして昼休みは過ぎていった。
楯無さんと同居生活となった颯斗くん。おのれ、美人と一緒とかうらやまけしからん。
同居人かつ、颯斗と関わることの多いポジションについたので割と出番が多くなります。
なお、タグにヒロイン決定済みと書いてありますが、楯無さんをヒロイン枠に入れようかどうかちょっと悩んでます。
まあ、入れてもいいんだけどね、きっかけをどうしようかって話になるんだよね。