とりあえず一ヶ月振りの二十八話、どうぞ。
午後からはIS実習である。今回は一、四組合同だった。
「では専用機持ちには模擬戦をやってもらう。そうだな……傘霧と更識、行けるな?」
「はい!」
「了解です」
千冬からの指名に簪と颯斗がほぼ同時に答える。
生徒達の前に出て、二人それぞれ自分の機体をコールする。
「……!」
簪の身体が光に包まれ、直後打鉄弐式を纏った姿で現れた。
ISが完成してから特訓を重ね、今では声に出すことなくすぐに展開できるようになった。特訓を重ね、とは言ったが完成時期がキャノンボール・ファストまであと数日ということもあって実際のところ呼び出し訓練は大した量をやっていない。それでいてこの早さなのだから、充分才能あるじゃんと颯斗は思う。
次は颯斗の番である。
新しい機体では展開イメージの感覚も違うため、エックスの時のイメージは撤廃する。
(強固な鎧……守る力のイメージ……)
イメージが固まり、集中力が高まった時、颯斗の身体が光に包まれていく。
「来い、オメガ!」
次の瞬間には、颯斗が夏休みの時からさらに改造を施されたオメガを纏って現れた。
装甲がさらに追加され、胴体部分にも重厚な装甲が取り付けられ、颯斗の知るロックマンゼロのオメガに近くなっていた。身体の露出面積が非常に少なくなり、出ているのは二の腕と太腿の一部、それから頭部はメットとバイザーに覆われていて口元が見えるくらいだった。
「あれが……颯斗の新しいIS……?」
「なんというか、ゴツいな……機動性があるように見えないのだが……」
一夏、箒がそれぞれ言う。それからもギャラリーからはオメガの武装に対する興味や機動力に対する不安視、あとはデザイン性についての意見などが囁かれる。
颯斗はそれらの声をなんとなく聞きつつ、オメガの動作感覚を確認する。フィッティングは既に済んでいる。後は自分がこの重さにどれだけ早く適応できるかである。
「よし……簪、いつでもいいぜ」
「……飛ばないの?」
すでに上空でホバリングしている簪に対し、颯斗は地上に足をつけたままだった。
「いいんだよ。むしろ飛ばないほうがいい」
「そう。じゃあ……行くよ……!」
即座に向けられる荷電粒子砲。発射された弾はそのままオメガの装甲に直撃して爆風を生んだ。
――ダメージ軽微。戦闘続行可能。
しかし、煙からはオメガ及び操縦者の颯斗がピンピンとした様子で姿を見せた。
機動性を捨てて実現させた第三世代最強の装甲防御力。機体性能を一点だけ比較する場合、束製のような特異例を除いて最強は一点特化ものを作るギリシャが独占している。防御特化のオメガには生半可な攻撃は効き目がない。
さらに、オメガにはその堅牢な防御力をさらに強固にする仕様が備わっている。
「まだ、まだ!」
簪が荷電粒子砲をさらに連射する。いくら強固な防御であっても、当たれば微量でもダメージとして成り立つ。遠距離から可能な限り削っていくつもりである。
迫る砲撃に対し、颯斗はオメガに搭載されている能力に意識を集中する。
「リジェクト・アーマー」
すると、颯斗に向かっていた砲弾は次々と弾道が逸れていき、颯斗を外し、地面を砕いていった。オメガへのダメージはゼロである。
「何だ今の!? 弾道が逸れた!?」
今起こった現象に一夏が驚く。対して代表候補生達は冷静にその正体を分析していた。
「あれは……電磁反発装甲でしょうか? 出力が高いですわね」
「電磁反発装甲?」
「読んでそのまま、電磁力で押しのける装甲、もしくはシールドのことよ」
「相手の攻撃をそのまま受け止める装甲防御やシールドとは違って、相手の攻撃を減衰させたり、今のように完全に逸らすんだ。出力にもよるけど、防御能力は普通のシールドよりもずっと高いよ」
ふーん、と一夏が納得していると、新たな疑問が浮かび上がってきた。
「あれ、じゃあなんで最初の一発目は受けたんだ? それもその、電磁反発装甲? で防げばよかったんじゃ……」
「砲撃を無力化させるほどの出力を出すのに、相当なエネルギーを食うからに決まってるだろう。あの防御はそう長くは持たんぞ」
ラウラの予見は正しかった。颯斗の耳にアラート音が流れてくる。
(げっ、リジェクト・アーマーの残りエネルギーもう40%かよ!?)
すぐにオメガの特殊武装、電磁反発装甲《リジェクト・アーマー》を切る。試しに使ってその性能を実感したが、同時に燃費の悪さも実感することになった。元よりオメガは防御特化仕様。小出しの技に反応して使うようなものではない。
颯斗は両腕を簪へと向ける。重厚な装甲に覆われたそれは盾であり、同時にエックスと同様の武器でもある。
腕型特殊武器《デモン・アームズ》。両腕のエネルギー砲が火を噴いた。
ドン! ドン! ドン! と立て続けに左右交互に簪を狙って発射する。当たれば大ダメージが期待できるその射撃は、しかし動き回る簪には当たらない。
「……ちっ!」
こちらに飛んできた砲撃を防御し、応戦する。しかし当たらない。
現在の颯斗の射撃技術はまだ及第点といったところであり、その腕はあまり高くない。
命中させる方法は基本的に、狙う、連射する、近づくといったことがあげられるが、いずれもオメガと颯斗にとっては難しいものである。まず連射については、《デモン・アームズ》の連射性がそこまで高くはない。左右両方使ってもエックスのようなばら撒きはできない。かと言って狙おうとも颯斗の射撃の腕からあまり期待できない。
そして近づくことについてだが――実は一つだけ手段があった。その重さゆえの機動性ほぼ皆無という言葉を覆す、たった一つの方法。おそらく、二度も通用しない初見殺しの技。
颯斗はそれを実行に踏み切った。簪を正面に見据え、少し腰を落とす。
一方簪は颯斗に《山嵐》のロックオンをつけていた。
「マルチロックオン完了……《山嵐》行って!」
大量のミサイルがオメガに群がる。
「リジェクト……!」
颯斗は電磁反発を発動して防ぐ。が、最初の数発を逸らしてエネルギーが尽き、残りのミサイルが直撃、爆風に巻き込まれる。
「やった……?」
「まだだ……!」
煙が晴れて、未だ装甲が健在しているオメガが姿を現した。シールドエネルギーは半分近く削られて踏みとどまっていた。
そして、オメガの背には大型の超高出力スラスターが展開され、そのチャージも完了しようとしていた。
「いけえええええええええっ!!」
が。
瞬時加速以上の加速ができる超出力瞬時加速だが、実際はほとんど普及されていない。理由は幾つかある。
一つは、非常にエネルギーに無駄が生じやすいこと。通常の瞬時加速以上のエネルギーを要し、かつ無駄な加速、無駄な消費が伴う。スラスターや機体にかかる負担も欠点の一つだ。
そして何より、軌道が非常にブレやすいのである。
加えて、颯斗には軽い装甲のエックスの感覚がまだ残っており、本人も気づかぬ内にその感覚を使っていた。
結果、
「あ」
「え」
軌道がずれた。大きく下方向に。ついでに右方向にも。
その先には目標の姿はなく、ただ壁が広がっていた。
ドゴ――――ン。
ずるずるどがしゃん。と壁に突っ込んだ颯斗は程なく地面に落ちた。
簪も、一夏も、代表候補生も他の生徒も摩耶も、唖然とした表情で倒れている颯斗を見ている。
しーんと、場が静まり返った。
『……更識、いつまでも寝ているその阿呆を回収しろ。模擬戦は終了とする』
「えっと、はい」
千冬に指示された簪が、颯斗の元へと飛んだ。
◇
「笑え……笑えよ……」
「い、いや、初めて動かす機体で、慣れない加速をしたんだろ? 仕方ないって」
「んな慰めいらねぇよちくしょう。後になって他の生徒がクスクス笑ってたの聞こえたんだぞ。どうせ俺は万年負け組なんだ……」
「うわぁ、めんどくさ」
「鈴、だめだよそんなこと言っちゃ」
「だがこいつが情けなくなっているのは事実だ」
放課後の食堂。鈴音やラウラの言葉は無視して、俺は絶賛不貞腐れていた。ちなみにこの場、というかテーブルにいるのは俺と一夏と一夏ラバーズ五人。簪はいない。
模擬戦の結果は俺の負け。それもただ負けたのではなく、加速ミスって壁に激突しての自爆死。……正確には、壁に激突程度ではオメガのシールドエネルギーは削れないので判定負けということになったのだが。
いや、一応わかってはいたんだ。慣れない機体なんだし。エックスの感覚とはだいぶ、というかほとんど違うんだし。負けるってことはまあ、わかっていた。
わかっては、いたんだけどさあ……。
「ああ、だめだ。勝つイメージが湧いてこねぇ」
なんかもう勝てる気がしない。
負ける可能性はある程度理解していたが、それでも負けたという事実は正直来る。エックスの時も合わせて今まで負けてばっかだし、正直自信がなくなってきてる。
オメガに慣れるまでまた負け戦だろうなぁ。慣れたとしてもその頃にはもうタッグマッチトーナメントなんだからどうせ無効試合だろうし。ああ、鬱だ。
「全く情けない。そんな気概ではトーナメントでやっていけないぞ。男ならもっとシャキッとしろ」
「うるせえヘタレ」
ツルっと、箒に対してそんな言葉が出てしまった。
ピキッ、と箒の眉が動いた。
「……どういう意味だ?」
ヤケになってるのかどうか知らないが、俺はその質問に正直に答えた。もう言っちゃえという感じで勢いに任せてた。
「お前だけじゃなく他の奴らにも言えることだけどな、お前ら全員一夏に告んのミスり過ぎdぅわ何をするやめッ――」
……。
…………。
………………。
「酷い目にあった……」
五人からボコボコにされ痛む身体を引きずりながら廊下を歩く。
ああいう話が地雷だとわかっていながら言い出した辺り、俺の自業自得なんだが。
まあ、あいつらの恋路に首突っ込む気はないし放置でいいとして、問題はオメガの方なんだよなぁ。どうやったら勝てるようになるのかなぁ。
機動面からして固定砲台安定なんだろうけど、あの連射性じゃあ数撃つより狙って撃つ感じだろう。でも俺の射撃技術じゃあ現状狙ってもあたるか微妙、というか当たらん。今回の模擬戦からして。無論、そうなれば射撃訓練は当然やってくことになるが、射撃に一本化してもすぐ対処されるのが見える。そもそも残りの期間的に充分な伸びが得られない可能性が結構高い。
相手から近づいてくれるならまあ、それなりに対応できるか?エックスのおかげで速いものには慣れてるし。でも、セシリアとかいう遠距離攻撃に長けた相手もいるしなぁ。
「箒の絢爛舞踏を利用して、ゾンビ要塞でもやってみるか? でもやっぱ回り込まれでもしたら対処しきれねえし、コンビネーションの訓練よりもまずオメガの調整やってかなきゃいけない状況だし……」
だめだ。時間がなさすぎる。どうしてこうも勝てない状況ばっかなのか。
思えば勝てそうな状況で勝負に臨んだ覚えがないな。キャノンボール・ファストも襲撃受けて中止されんの知ってたし。これはあれか?俺の運が悪かったのか?IS学園への入学すら大幅に遅れる有様だし。うーん……。
「あ、颯斗くん……!」
「んー……? ああ、簪か」
俺の部屋の前に簪がいた。なんか小包みを持ってる。
「……颯斗くん、疲れてる?」
俺の表情を疲れてると見たのか、じゃっかん申し訳なさそうに尋ねてくる簪を見て、慌てて平静を装う。
「いや、なんでもないよ。それよりどうしたんだ?」
「あ……えっとね、その……」
「……立ち話も何だし、部屋に入るか?」
「……いいの!?」
「お、おう……あっ」
「?」
最後に漏らした声に首を傾げる簪をよそに、俺は今の発言に後悔した。
やべぇ、つい部屋に誘っちゃったけど、これって楯無さんと鉢合わせする可能性があるんじゃないのか?仮に簪が部屋の前で待っていたのが戸が開かなかったから、つまり楯無さんがいなかったからだとしても、もういつ帰ってきてもおかしくないんだぞ。簪が俺と楯無さんが同居しているというのを知ってるのかどうかわからない以上、もし鉢合わせしたら修羅場もしくは簪との信頼関係が崩れる可能性がががが。というかそれ以上に簪と楯無さんの関係修復にも支障をきたす恐れも。
「颯斗くん、どうしたの? ……やっぱり、私がお邪魔するのはいけなかった?」
「い、いや、そんなことはないぞ」
俺の馬鹿野郎ぅぅぅぅぅ!!
散らかってるからやっぱ簪の部屋に行こうぜとかあったじゃん! なんでとっさに出た言葉がこれなんだよぉぉぉ!
……もうしょうがない。大丈夫と言ったのを覆すのは無理があるし、こうなったら楯無さんが来る前に簪の用事が終わってくれるのを祈るしかなさそうだ。
「そういや、わざわざ俺が来るのを待ってたのか?」
「ううん、今来たところなの……その、これを渡したくて」
「へえ、まあ上がっていきなよ。部屋で中身を見せてもら――」
ガチャリ。
「お帰り颯斗くん。最近マンネリ化してたイタズラを今回は改良してみた――」
「」
「」
「……え」
全員硬直。ちなみに最後のは楯無さんである。
「――あ」
沈黙を破ったのは簪だった。
涙を目にいっぱい溜めて、小包みを握り締めて必死にこらえている。もう何を想像してるのか予想がついてしまった。楯無さんは顔真っ青。
「……ごめんね、私、颯斗くんが姉さんと付き合ってるなんて……イタズラしあうほどの仲だったなんて知らなくて……」
「いや、あのな? イタズラはこいつから一方的に受けているのであって、俺はやってないからな?」
かろうじて返した俺の言葉は、しかし簪には届かず。
「こんなので……颯斗くんを元気づけられたらって考えてた私……馬鹿だよね……っ!」
ダッと、簪は逃げるように走り出した。勘違いしたまま。
「待てぇ簪ぃぃぃっ! 俺はこいつと付き合ってなんかいねぇぇぇっ!!」
「さっきからこいつ呼ばわりされるのはどうかと思うけど、とにかく簪ちゃん待ってぇぇぇ! 話せばわかるからぁぁぁっ!」
誤解を解くため、簪を追って俺と楯無さんは走り出す。捕まえるのに一時間、さらに誤解を解くのに一晩使った。
簪……意外に足はえーや……。
次回はアトラスさんと一夏のやり取りを書こうか、それとも取材の話でも書こうか。……一夏がオリキャラにフラグを立てるかホモォになるか(暴論)。