「『インフィニット・ストライプス』の副編集長、黛渚子です。よろしくね」
「あ、どうも。織斑一夏です」
「傘霧颯斗です」
日曜日。黛先輩のお姉さんの取材を受けに、一夏と一緒に雑誌編集部に来た。
こういう取材は初めてらしい一夏は緊張してるかと思いきや、案外大丈夫そうだ。仕事として取材受けるのは初めてってだけでカメラにはある程度慣れてるのだろうか。
「それじゃあ先にインタビュー始めましょうか。その後に撮影ね」
言って、渚子さんはペン型のICレコーダーを回す。ペンサイズにまで録音端末を小型化でき、それが普及されてる辺り、便利な世の中になったものだ。
「それじゃあ最初の質問いいかしら? お二人の女子校に入学した感想は?」
「いきなりそれですか」
「当然! そこが気になるし、読者アンケートで取った特集リクエストでもすごく多かったのよ? 傘霧くんはギリシャで一度インタビュー受けた時も質問されたでしょう?」
「二問目でしたけどね。第一問はギリシャの代表候補になった理由でした」
「ああ、そんな話だったっけ。さあそれより、女子校に入学した感想は?」
こういうのは一夏を先に立たせる方がいいだろうから、一夏を横から小突いて急かす。
「えーと……使えるトイレが少なくて困ります」
急かした結果がこれだよ。
「ぷっ! あは、あはは! 妹の言ってたこと、本当なのね! 異性に興味のないハーレムキングって!」
腹を抱えて笑い出す渚子さん。黛先輩から前情報はある程度聞いているらしい。
しかしそうなると、俺についてはどういう風に聞いているのだろうか。今からもう不安になってきた。
「そのキングダム、興味が湧いてくるけど、その前に傘霧くんの方も聞いてみたいわね」
すでに別インタビューで言ったのでカット……という訳にはいかないよなぁ多分というか絶対。となるとどう答えたものか。
「えー、男子用設備が極端に少なくて困ってるのは一夏と同じですね。女子校だから当然と言えば当然ですけど。あとは……、……訓練や授業で精一杯で、女子校であるとかそういうのを特別気にする余裕はあんまりないですかね」
「えー? 二人揃って質問の回答がつまんないわねぇ」
そんなこと言われても。
「んー、じゃあ次の質問。二人はそれぞれお互いのことどう思ってる?」
「どうって、具体的には?」
と、一夏。
「なんでもいいわよ? 同じIS学園の男子生徒としてでもいいし、なんだったらどちらが攻めでどちらが受けとか――」
「交友もそこまで多くないので、良くて多少気の合う学友ぐらいですかね」
最後までは言わせずにこちらの回答を割り込ませた。俺はノンケだ。一夏とのホモ疑惑が囁かれるぐらいならヘタレを押し切って全力で簪に愛を叫んでやる。その後の
「あら、そうなの? ちょっと残念」
「俺もだぞ。俺はお前とは友達にはなってるって思ってたんだけど」
一夏、「俺もだ」の使い方ひょっとしたら間違ってる。それだと一夏がホモの線を疑われちゃう。いや、疑われない可能性もあるにはあるけど。
「オーケーオーケー。織斑くんと傘霧くんってどっちが強いのかしら?」
「俺が弱いです」
即答した。俺が。
「そうなの? というか、自分から弱いって言っちゃうの?」
「特別才能がある訳でも知識が広い訳でもありませんし。二人どころか、専用機持ちの中でもビリですよ(遠い目)」
「あっ、はい。……織斑くんはどうなの?」
「俺は……まあ、俺もみんなと比べられると弱い方ですね」
男子二人して下位である。
「それはまずいわねー。女の子ぐらい守れないと」
「それはまあ、わかってますよ」
「じゃあ、その守る決意を言葉にしてどうぞ」
ペンをマイクに見たてて俺達に向けてくる。
そんな振りもされるのかよ。平静を装いつつ、また一夏を小突いて催促。先に一夏が言ってる間に考える。
「えーと……仲間は俺が守る!」
「イエス! かっこいいわよ、男の子! さあ傘霧くんも!」
あれ、ひょっとしてハードル上がった? 一夏並みかそれ以上を基準にされちゃってる?
……ええい、こうなりゃヤケだ。
「……だ、誰も傷つけさせはしない!」
「うんうん! やっぱり男の子はこうでなくっちゃね!」
あ、この台詞も多分雑誌に乗るんだよなやっぱ。
うーわーあー。恥ずかしい。
それからもこんな感じで雑談も交えたインタビューが進み、そして終わった。
後は撮影である。
「それじゃあ地下のスタジオに行きましょうか。更衣室があるから、そこで着替えてね。そのあとメイクをして、それから撮影よ」
「え、着替えるんですか?」
「お前はその私服で撮影に挑むつもりか」
「そりゃあ、スポンサーの服着せないと私の首も飛ぶし」
あ、撮影で一つ思い出したことがあった。今のうちに訊いておこう。
「そういえば、ギリシャではISを展開して撮影っていうのをやったんですけど、ここもそういうことするんですか?」
「ええ。許可もちゃんと取ったわよ」
「え、そんなこともあったの?」
あったんだなぁ、これが。
◇
撮影は俺と一夏それぞれ別々に行われた。一度経験のある俺はそれなりに大丈夫だが、一夏は撮影スタッフの指示に四苦八苦しているのを何度か見た。あと、渚子さんに訊いた通りISの部分展開をしての撮影もあった。
基本は俺も一夏もシングルだったが、全てがそうだった訳じゃない。現在は俺と一夏がセットになっての撮影をしている。
「えっと、こうですか?」
「うーん、少しズレてるかな。もうちょっと左に寄って。それから左腕を傘霧くんに合わせて」
「え、えっと……」
今は俺と一夏が揃ってポーズを決めていた。ISを部分展開して。二人並んで一夏は右腕、俺は左腕にISを纏わせて前方に突き出している。
うーん、と渚子さんは唸っている。オメガが腕だけでも結構な大きさがあるため、一夏と並べた時にアンバランスになってしまっているということらしかった。俺単独の時にも結構悩んだそうだ。
ちなみに衣装についてだが、俺も一夏もカジュアルスーツを着ていた。ただ着ている人の差というものなのか、一夏の方が断然かっこいい(少なくとも俺にはそう見える)。
「うーん……左右じゃなくて、前後に並べた方がいいかなぁ。傘霧くん、ISはそのままで、織斑くんの前に来てしゃがんで。織斑くんは正面向いて、こんな感じでポーズとって」
指示が来たので言われた通り、一夏の前に出てしゃがむ。オメガを展開されている左腕はとりあえず床に降ろしておく。それから一夏が後ろでポーズの調整を受けていた。
カメラを覗く渚子さんがうんうんと頷く。どうやら納得のいく仕上がりになったようだ。
「いい感じじゃない。それじゃあ撮るよー」
程なくして、カシャッという音と共にフラッシュがたかれる。
「……よし。はーい、お疲れ様ー! 二人ともパパッと着替えちゃって。あ、服はそのままあげるから持って帰っちゃって!」
「はぁ」
「了解です」
互いにISを粒子化させながら返事をする。
「ディナー券は後日携帯電話にデータ転送してあげるから、帰る前にアドレス教えてね。それじゃあお疲れ!」
そう言って早速撮影した写真の確認うをする渚子さん。黛先輩と同じく行動が早い。
「さ、着替えに行こうぜ」
「おう」
一夏の催促を受けて、俺達は更衣室に向かう。
「しっかし、クラス代表や候補生も大変なんだな。こういう仕事もあるのか」
「知っておいてよかっただろ?」
更衣室に向かう間にそんな会話をした。
◇
俺達は帰り道についていた。
この後原作では確か五反田食堂に行って、一夏と蘭でなんかある……でよかったはず。そのなんかが思い出せないんだけど。なんだったっけ?
「ありがとな颯斗。今回のはいい経験になったと思う」
「……んー? おう」
「? 颯斗、どうした?」
「……いや、なんでもない」
考えの手を一旦止め、一夏にそう返す。思い出せないものはしゃーない。
「そういえば、飯どうする? 今の時間だと食堂には間に合うかどうかなんだけど」
インタビューと撮影にどちらもだいぶ時間がかかったため、今はすっかり暗くなってしまっている。
そうだな……。
「……ここから五反田食堂って、近いっけ?」
「そうだな……それなりに歩くけど、三十分まではかからないんじゃないか? あの店気に入ったか?」
「まあ、他の店をあまり知らないっていうのもあるけどな」
蘭に肩入れするって訳じゃないが、学校も違うんだし、このくらいのチャンスを作ってやるくらい大丈夫だろう。あの店の料理をまた食いたいって気もするし。
「じゃあ、行くか」
一夏の先導で歩き始めて十五分くらいで、五反田食堂に到着した。
「お、弾だ」
「あれ!? 一夏じゃん! あっ! 颯斗もじゃねえか!」
「お邪魔しまーす」
店に入るとエプロン姿の弾がいた。店の手伝いなのだろう。
「なんだよお前ら、来るなら言ってくれればいいのに」
「用事を済ませて、帰り道での思いつきだからな」
「俺がここで夕食とろうって言ったんだよ。さ、また怒られないようにテーブルに行こうぜ」
「おお、そうだな。空いてる席はっと……」
立ち話もそこそこに弾に案内された席に着く。
「じゃあ、注文が決まったら呼んでくれ」
弾はそう言ってカウンターへと戻っていった。
サッと周囲を確認するが、蘭の姿は見当たらない。いないのか?
「さ、何食う?」
一夏のその問いで、俺は視線と意識をメニュー表へと移した。見つからないものはしょうがないし、何より腹が減っていた。食道内に広がっている料理の匂いが余計に空腹感を助長させている。
「前回食ったのは業火野菜炒めだったな。他にオススメってなんだ?」
「魚系かな? カレイの煮付けとかはホントにうまいぜ」
「魚ね。じゃあ焼き魚とフライ盛り合わせ定食でも頼もっかな」
「あ、俺もそれにするか。おーい、弾ー」
一夏が弾を呼んで、二人分の注文をする。注文を手早く書く辺り、弾は仕事に慣れてるんだなあと思う。
弾が注文を伝えに調理場に言って、それからこの店の店主、厳さんがこちらに気づいた。
「一夏じゃねえか! それから……」
「あ、どうも」
「おお! 傘霧、だったか? 久し振りだな!」
「この店の料理がうまかったんで、また来ました」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか! ガッハッハッ!」
豪快に笑ってから厳さんは、二階の母屋へ顔を向ける。
「おーい! 蘭! おーい!」
大声で蘭を呼ぶ厳さん。母屋にいたのか。
「なにー?」
遅れて蘭の声が聞こえてきた。
「店に来い! 急いでな!」
「なんでー?」
「いいから来い!」
それからややしばらくして、蘭が食堂入り口から入ってきた。
一夏見てすぐ悲鳴を上げて出て行ったが。
「どうしたんだろ? あ、颯斗が有名人だから、それでか?」
「お前の方が有名人だろうが」
本当の理由は言うだけ無駄だろうし、そこまで首は突っ込まないでおこう。
それからしばらくして、蘭が明らかに仕事向きじゃない綺麗な服にエプロンをつけた格好で戻ってきた。一夏を意識するのはいいんだけど、その服汚すのは勿体無くね?
「い、いらっしゃいませ、一夏さん……って、あ! 颯斗さんじゃないですか。いらっしゃいませ」
今になって気付いたようである。デジャヴ。
それから一夏と蘭が何度か話をしたが、いずれも一夏が唐変木なため、発展するようなことはなかった。知ってた。
出てきた焼き魚とフライ盛り合わせ定食はうまかったです。
……。
…………。
………………。
勘定の支払いを終え、五反田食堂を出ると、蘭が意を決した顔でついてきた。
「あ、あの! 一夏さん!」
「ん? どうしたんだ?」
おお、なんか展開の予感。
思い出せていない分、話の中身が気になるところだが、ここは邪魔にならないようにした方がいいだろうか。
「あ、すまん。出た直後でなんだが、店のトイレ借りていいか?」
「え!? あ……は、はい」
スタイリッシュに離脱。二人っきりにするため五反田食堂の扉を開けて中に入っ、
ガララッ
「「「あ」」」
「……………」
開けて目の前に、中年の男性達と弾の顔が縦に並んでいた。
「……………えー、トイレお借りしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
その後、一夏は蘭から学園祭の招待券を貰った。
そのことに関して蘭からはお礼を言われ、中年男性達とそれに混じっていた弾が色々騒いでいたが、それらについては何も言わないことにした。