ISだが、機体は岩男でも問題ないよな?   作:暁楓

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第三十一話 気になるあいつ

 昨日の予定の通り、俺と箒は整備室に足を運んだ。

 整備室の中は専用機持ちと整備班で混雑していた。中には楽しげに作業している人もいれば、トラブルに怒号を飛ばしている人もいる。

 ほとんどの整備台にISが固定され埋まっている状態だが、隣り合った二つの区画だけ空いてる。そこには俺がよくお世話になっている人達が俺達を待っていた。

 

「すみませんシエルさん。待たせましたか?」

 

「ううん、約束の時間より前だから気にしてないわ。それじゃあさっそく始めましょう。颯斗さんはこっちの台にオメガを固定させて」

 

「了解です」

 

 時間も惜しいのでさっさと作業の準備へ。その間にシエルさんは箒に声をかけていた。

 

「初めまして、シエル・アランソンです」

 

「し、篠ノ之箒です。よろしくお願いします」

 

「ええ、よろしく。わからないことや要望があったら遠慮なく言ってね。叶えられるよう最大限努力するわ」

 

「はい!」

 

 まあ、そっちはそっちで任せて大丈夫だろう。

 オメガを台に固定して、オメガから降りる。

 

「さあ始めようか、ハヤトくん」

 

「よろしくお願いします、ドワーフさん」

 

 整備用工具を腰にぶら下げた中年の男性にお辞儀する。ドワーフさんは武器の調整・改良を主に担当している。ちなみにセルヴォさんは武器の設計・製作が主な役割で、加えて装甲やスラスターの開発、システム設計・調整など、幅広く携わることができる。シエルさんに至ってはほぼ全部。

 ちなみにだが、ISの開発チームというのは割と男性も多い。理由はISの開発、及びその機材の運び出しなど重労働が多いからだ。しかし男性だけではISを動かすことができないので開発チームには当然女性も少なくない。そんな訳で、女尊男卑の世界の原因であるISを開発しているところというのは、最も男女平等な場所であるそうだ。

 

「うむ。ところで、オメガの調子はどうかね? ここまでで意見があれば言ってくれたまえ」

 

「機動性についてはもう、捨ててるって知ってますから仕方ないですけど、超出力瞬時加速(バースト・イグニッション・ブースト)のブレの酷さってどうにかなりませんか?」

 

「超出力瞬時加速か……あれは使用時の態勢や角度とかで吹っ飛ぶ方向が酷く変わるやつだからなぁ。こっちの調整でどうにかできるとは思えんぞ。やるだけやってみるが」

 

「少しでも使い勝手がよくなるならお願いします。ところで、これ普通の瞬時加速(イグニッション・ブースト)ではどうなるんですか?」

 

「加速力が足りんから、初速がトロくて簡単に避けられるぞ。だからこんな加速手段を組み込んだのだ」

 

「まあ、ですよね」

 

「他は? それだけか?」

 

「いえ、他にもまだまだ」

 

「ドンと来なさい。注文は多い方がやりがいがあるというものだ」

 

「わかりました。俺にもできることがあればどんどん言ってください」

 

 今日は紅椿の整備にも人員が割かれるのだから、人手は必要だろう。何より、自分の専用機なんだから、可能な限り自分も参加しなければとも思っている。

 

「おお、頼りにさせてもらおうか」

 

「頑張りましょう、ハヤトさん!」

 

 アルカディアスタッフ数人も加わって、さっそく作業に取り掛かった。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「ふーむ、こんなところかの」

 

「ぜえ……ぜぇ……お、終わりましたか……」

 

「ハヤトさん、大丈夫ですか?」

 

「だ……大丈夫、です……」

 

 心配するスタッフに強がってみせるものの、正直疲れ果てていた。

 何度も見ているのだが、やはりプロの整備士は凄かった。他の生徒達とは比べものにならないほどの手際の良さで次々と作業を完了させていった。俺はその仕事のスピードに頑張ってついていこうとした結果この有様だが。

 しかしおかげで整備は完了した。後は実際に乗って新たに出た問題にはまた整備なり練習なりで対処していくことになる。

 具体的に今回の整備で変化したのは、まず機動性。不安定すぎる超出力瞬時加速を少しでも安定させるために、スラスターの出力や噴射口の角度を調整。初速、最大速度ともに少し落ちるが、軌道のブレをある程度抑えることにシミュレーター上では成功した。続いて装甲だが、こちらは更に強化された。というか、最初のうちは慣れてもらうためにこれでも軽くした方だったらしい。更に重くなった。出力が高すぎていた《デモン・アームズ》も調整し、燃費向上を測った。同じく《リジェクト・アーマー》も出力を調整。稼働時間を大幅に伸ばすことができた。あと、ハイパーセンサーの解像度などの仕様を変え、エックスのセンサーに近づけてもらった。これでより見切りがしやすくなるはず。と、こんなところか。

 

「うん、こんなところかしら。後は乗って動かしてみて、問題があったらまた調整しましょう」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 どうやら箒の方も終わったらしい。

 こちらの様子見か、セルヴォさんがこちらにやってきた。

 

「そっちも終わったみたいかな? どうだったかね」

 

「後でデータでも見せるさ。そっちこそ、第四世代とやらはどうだったのだね?」

 

「データを見せてもらったが、あの数値を見ると、こちらの自信がなくなってくるよ」

 

「比較対象が悪いんじゃないかね。それを言ったら他の企業のも全て霞んでしまうだろう」

 

「違いないね。下手に弄っても悪くするだけにしか思えなかったから、要望に合わせた数値の微調整と内部のクリーンアップばかりでちょっと物足りなかったな」

 

「それは残念だったな。こっちは装甲の追加とかハイパーセンサーの取り替えとか、色々やったぞ。こっちに来た方がやりがいあったんじゃないか」

 

 ちなみにだが、二人の会話はギリシャ語である。俺もシエルさんから教えてもらってはいるが、まだついていけない……。

 

「およ、颯斗じゃねえか」

 

「あ、アトラスさん」

 

 アトラスさんがスルメかじりながらやってきた。ISスーツで豊満なラインがはっきりしているが、それに反してスルメをかじってる姿が男っぽい。というかオヤジっぽい。

 

「お前も整備やってたのか。どうりでシエルさんに断られる訳だ」

 

「そう言うアトラスさんもここで整備してたんですか? あれ、一夏は?」

 

「片付けのためにここと機材室を往復してるぜ。しっかし、あいつ白式の調整を今までコンソール調整だけで済ませてほとんどデフォだったとはな。整備を怠んなと叱るべきか潜在能力は高いと認めるべきか……」

 

「一年だから整備の仕方を知らなかったとかじゃないですかね」

 

「マニュアル読めばできる部分も少なくねえし、整備科に協力を依頼する窓口だってあるんだぞ」

 

 あるんだ。俺初耳なんだけど。

 はあ〜、とアトラスさんは深いため息をついた。

 

「なんか、随分溜め込んでますね」

 

 窓口についてよりもこっちの方が気になった。

 

「ああ、気にすんな」

 

「気を遣わなくていいですよ。先輩の愚痴を聞くのも後輩の役目ですって」

 

「愚痴とかじゃねえんだがな……まあ、そういうことにしとくか」

 

 そう納得したアトラスさんは、ため息の理由を語り始めた。

 

「あいつ……一夏がびっくりするほど唐変木なのは知ってるだろ?」

 

「ええ、まあ」

 

「それについて、ちょっと前に訊いてみたんだよ。男女交際する気はないかって。そしたらあいつは酷く慌てたんだよ」

 

 付き合う、と言わなかった辺り言葉を考えたな。付き合うで買い物もしくは案内を連想するのが一夏流である。

 しかし、慌てたんだ。俺はてっきり、「今は考えてないな」なんてことをさらっと言うのかと。

 

「そ、それで一夏はなんと!?」

 

「うおっ、箒いつの間に!?」

 

 気がつけば箒がアトラスさんに迫っていた。

 アトラスさんは近すぎる箒を一旦押し退けてから答えた。

 

「とりあえず落ち着かせてからもう一度訊いたらな、『あまり考えてなかったし、俺は弱いからもし付き合うとしてもせめて対等と言えるぐらいにならないと』みたいな感じのことを言ったんだよ」

 

「そうか……うむ、そうか!」

 

 脳内で再現したのか、蕩けた顔の箒そうかそうかと言いながら照れ隠しに近くの壁をバシバシ殴り出した。俺までもが変な目で見られないようにアトラスさんと一緒に箒から距離を取る。

 しかし、一夏らしいっちゃあらしいこと言ってんな。質問したら慌てたっていう話と言い、ちゃんと異性との興味はあるようだ。これでちょっとは安心できるか。

 

「で、この質問の話はここから本番なんだが」

 

「ん?」

 

「その回答を聞いて、箒とかぶっちゃけちょっと手ぇ伸ばせば届きそうじゃん? だから俺はそう言ったんだよ。具体的な名前は伏せてだけど。そしたらな……」

 

 あれ、なんか嫌な予感。

 

「あいつ、あの質問を俺と交際する話だと勘違いしてたんだよなぁ……俺がそんな訳ないじゃないかって言い出すんだよ」

 

 ガン! と大きな音が立った。見ると、箒が光を失った目で殴った壁を見つめていた。

 そっとしておこう。

 しかし、ここで疑問が生まれる。そんな話のオチでアトラスさんはあれほどのため息をついていたのだろうか。アトラスさんは一夏が唐変木だと知っていたんだし、そうとは思えない。

 

「アトラスさん、その話と先ほどのため息がどう繋がるんですか?」

 

「……ほら、俺ってさ、女っぽくないだろ? 一人称俺だし、態度とか他色々も」

 

 スタイルは女の子でも憧れられそうですけどね。胸とか。

 

「どこ見てんだスケベ」

 

「すみません」

 

「ったく、まあ実際、他の生徒からも男らしいと言われることもあったし、俺もそれで慣れてたんだよ。でも、あいつは俺を女の子だって言うんだよ」

 

 そこまで言ってアトラスさんは、目を逸らして頬を指で掻いた。

 

「だから……その、女として扱われてるってのが、ちょっと変な感じでな……」

 

「……えー」

 

「あ、お前が考えてるようなものとは違うからな? ただ、女として見られてることに違和感がして、それが気になってるんだよ」

 

 それ、フラグなんじゃないか? なんとなく気になる感じからある日のきっかけで恋に発展するパターン。

 ドカンドカンと金属音が鳴り出した。箒がISを部分展開して壁を殴っていた。壁が徐々にへこんでいく。

 ちょっ、箒、やめろ馬鹿!

 

 結局、設備損壊の責任で反省文書かされることになった。なんで俺まで……。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「これ、どう思います?」

 

 IS学園の地下を掘って造られた亡国機業(ファントム・タスク)の秘密基地。ほとんど明かりのない場所で、スマイルはいつものニコニコとした笑顔で隣にいるトリガーにそう問いかけた。

 

「どうって、第一これ信用できるの? どこにいるのかもわからないような人だよ?」

 

 トスマイルの言う『これ』とは、ディスプレイに表示された一つの情報だった。そしてトリガーはその情報に否定的だった。この情報源が信頼できるものとは言えず、ガセも少なくないようなところだからなおさらである。

 トリガーの言い分にスマイルは頷いた。頷いた上でこう言った。

 

「たしかにそれはもっともな話です。ですが、火のないところに煙は立たないと言いますからねえ。それに、これをわざわざこちらに送り届けてくるのですから、そういうことなのでしょう」

 

 情報の信用に関わらず、このことを念頭に入れておくこと。それが渡ってきた情報から読み取れる暗黙の命令である。

 そして情報の内容からして、この情報が真実だった場合は当初の自分達の計画よりも優先し、『接触』を測ることを命じられていろことも意味していた。

 

「でも、本当に来るのかなぁ? 今のところ今年度はIS学園が何かイベントやる度に事件起きてばっかだから、勘弁してほしいんだけど」

 

「仕方ありませんよ。元々こちらが予定していたことはトーナメントの最中ガラ空きになった各所から情報を引き抜くだけなのですから、必要なところだけさっさと済ませて、備えますか」

 

「それが一番かなぁ。じゃあその最低限引き抜く情報を絞る?」

 

「そうしましょう。あと、武器の簡易整備もしておきましょうか」

 

 それからスマイルとトリガーは二人で計画の見直しを始めた。

 ディスプレイに映された情報、そこには――、

 

 『タッグトーナメント当日、篠ノ之束による襲撃の可能性あり』と記されていた。




 一夏がアトラスさんにフラグを立てましたー。男子系女子相手でも一夏なら女の子として落とすでしょう、きっと。
 基本的に颯斗視点である以上、落とす描写は省かれることもありますが、そこについてはご容赦ください。
 次回からタッグトーナメントに入れるかな?
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