ISだが、機体は岩男でも問題ないよな?   作:暁楓

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第三十二話 フラグ込み込み。そして開戦へ

「ふぅ……」

 

 タッグトーナメント前日の夜十時を過ぎた頃。俺はオメガの最終調整と模擬戦で疲れた身体を休めるためベッドに転がり込んでいた。楯無さんは部屋にはいない。

 この日に至るまでに箒と共に模擬戦&調整時々コンビネーション訓練の繰り返し。更には生徒会の業務で書類との格闘にタッグトーナメント当日に行う企画のため先生方に根を回したり、たまに一夏関係でトラブルに巻き込まれたり……ちなみに、「一夏がアトラスさんを落とすんじゃないか」という噂が出てから、一夏は五人から嫉妬の嵐を受けていて現在も進行中。先日はラウラの泣き声が聞こえたこともあったが、気にしないでおこう。

 まあとにかく色々あったが、明日はタッグトーナメントが開催される。すなわち、篠ノ之束が作った無人機による襲撃が来る。

 やれるだけのことはやったはずだ。可能な限りオメガに乗って鍛えてきた。感覚も掴んだし、射撃の技術も大幅に上がった。超出力瞬時加速(バースト・イグニッション・ブースト)も、まあ使えるほどにはなった。

 最低限、自分を守れるようにはなった。仲間と協力すれば、敵を撃破することも可能な……はず。

 

 コンコン。

 

「! ……どなたですか?」

 

 無人機のことを考えて緊張したためかノックの音に少々過敏な反応をしていた。

 

「颯斗くん? ……その、私……」

 

「……簪?」

 

「……は、入って……いい?」

 

「す、少しだけ待ってくれ。ちょっと散らかってるから」

 

 散らかってるというのは嘘である。同居人がいて、それが女性で楯無さんだ。できるはずがない。ただ、先ほどの思考で怖い顔になっていないか、それが不安で払拭する必要があった。

 楯無さんがよく使っている手鏡をちょっと拝借して覗き込み、顔を確認する。

 

「……よし、問題ないな」

 

 いつもの可もなく不可もない顔だ。一夏はイケメンだから、彼の方が人気だというのも頷ける。一応俺も人気がないことはないそうだが、その理由の中には「一夏よりも付き合うのが簡単そう」なんてのもあるとか。悔しくなんてないやい。

 それは置いといて。確認もできたことだし簪を迎えに行く。

 扉を開けると、簪が小包みを抱えて立っていた。……あれ、あの小包み、どっかで見たような。

 

「あの、ごめんなさい。こんな遅くに……」

 

「いや、それはいいけど……とりあえず、中に入るか?」

 

「う、うん」

 

 簪を部屋に招き入れる。とりあえずベッドに座らせた。

 簪はキョロキョロと周囲を見回している。何か気になることでもあるのだろうか。

 

「あれ……姉さんは?」

 

「まだ戻ってきてないけど……楯無さんに用事だったのか?」

 

「う、ううん。ちょっと気になっただけ」

 

「ふーん。で、こんな時間にどうした?」

 

「その……これ……!」

 

 俯きながらも、簪は持っていた小包みを差し出した。

 

「その……この間は、渡せなかったから……つ、作り直したの」

 

「作り直した?」

 

 この間というと、あの誤解の件か。言われてみればこの小包み、その時のものと同じ柄だ。

 受け取って、開けてもいいかと目で確認する。控えめに頷いたので、小包みを開く。

 小包みの中に入っていたのは、抹茶のカップケーキだった。作りたてのようで、包み越しに伝わってくる温かさとカップケーキから漂う香りが食欲を刺激する。

 

「おぉ……うまそうだな」

 

「私の……得意料理。よかったら食べて……」

 

「おう。じゃあいただきます!」

 

 手を合わせてから、早速一つ、紙を剥がして口に入れる。抹茶の風味と砂糖の甘みが程よくてとてもうまい。文句なしに最高だった。

 

「すごい美味いぜ、簪!」

 

「ほ、本当? よかった……」

 

 一個目をあっという間に食べ切り、二個目に手を伸ばす。

 

「簪って、料理得意なのか?」

 

「う、ううん。そこまで得意って訳じゃない……でも、ちょっとずつ勉強してる」

 

「そうなのか。でもこれだけうまいんだから他の料理もやればできそうだな」

 

「……でも、姉さんより上手にはできないと思うから……」

 

「楯無さんの料理も確かに美味いけどさ、簪のは簪で美味いもんができると思うぞ」

 

「で、でも……」

 

「――じゃあ今度、また作ってくれよ」

 

「……え?」

 

「また今度、簪の得意な料理作って俺に食わせてくれないか? 楯無さんと比べることとか考えなくていいからさ。その、なんていうか……また簪の手料理食ってみたいし」

 

 言って照れ臭くなりながら、カラになった小包みの見せる。一口サイズというのもあって、もう食べ終わってしまった。

 

「そういう訳で……いい、かな?」

 

「あ……………うん……うん!」

 

 頷きながらも簪の瞳から涙が溢れていた。あまりに突然泣き出すのでギョッとする俺。

 

「えっ、ちょ……ここで泣くの!? なんで!?」

 

「ご、ごめん……嬉しくなって、なんだか急に……」

 

 言いながら、簪はゴシゴシと涙を拭う。

 そういえばだが、これ完全に簪を口説こうとしてるよな……脈ありと知っているとは言え、責任取らなきゃいけなくなるのはまだちょっとどうかと怖いし、何より楯無さんも怖いなぁ……ああそうだよ、ヘタレだよ俺ぁ。

 

「ん……もう、大丈夫」

 

 涙を拭き終えて、簪は笑顔を見せる。その可愛さに少しドキッときたが、表には出さないようにする。

 

「そうか? じゃあ早く寝た方がいいぞ。明日は大変だろうしな」

 

「うん。頑張る」

 

「もし簪と当たっても手加減しないからな」

 

「私も、颯斗くんには負けないもん」

 

 健闘を誓ってから、自分の部屋へ戻る簪を見送った。

 簪の姿が見えなくなってしばらくしてから、俺は口を開いた。

 

「……もう出てきていいんじゃないですか?」

 

「あら、バレてた?」

 

 声がする方へ振り返ると、楯無さんがいた。

 

「いるんじゃないかなって思っただけです。結果的には当たりでしたが。……いつからいました?」

 

「簪ちゃんが部屋を訪ねるところから」

 

「最初っからじゃないですか」

 

「そうよ?」

 

 悪びれる様子もねえ。

 サッと扇子が開かれる。書かれてるのは……あれ、何も書いてない?

 

「いやーそれにしても、まさか颯斗くんが簪ちゃんを泣かせるとは思わなかったな〜」

 

 人は言葉を用いずに感情を表すことがある。顔では笑っているけどこれ……怒ってるよね?

 

「ちょっ、待って。いや、待ってください。あれは俺も予想外だったんです。そのつもりはなかったんです。いや、お願いします許してくださいなんでもします」

 

 後ずさり、アンド、言い訳、そして、土下座。

 土下座してしばらく経ってから、楯無さんの笑い声が聞こえた。

 

「プッ、冗談よ冗談。だから顔を上げなさい?」

 

 顔を上げると、本当にニコニコと笑顔を向ける楯無さんがいた。何も書いていなかった扇子は、今度は『称賛』と書かれたものに変わっていた。

 

「簪ちゃんがあんなに感情を見せるのは、それだけあなたを信頼してるってことよ。姉としては、ちょっと妬いちゃうけど」

 

「は、はぁ」

 

「……でも、あなたがいて本当によかった。あなたのおかげで簪ちゃん、すごく生き生きとした表情見せるようになったわ。それに、あの時クジ引きで私と簪ちゃんが組むことになったのも、颯斗くんの差し金でしょう?」

 

「正確にはアトラスさんの提案ですよ。俺はその手伝いをしたまでです」

 

「あら、そうなの? じゃあアトラスさんにもお礼を言わないと。――ところで、さっきなんでもするって言ったわよね?」

 

 あ、やっぱそれ来んのね。聞き逃してくれたかと思ったんだけど。

 

「えっと、余り変のなのは無しの方向で……」

 

「んー、どうしよっかな〜」

 

 どうしよっかなーって。

 不用意な発言はするもんじゃないな。いったいどんな無茶ぶりが……。

 

「……よし、じゃあ颯斗くん。明日のホテルディナーで、私をしっかりエスコートしなさい。ね♪」

 

「は、はい……あれ? 普通だ。……………楯無さん、何か具合でも悪いんですか!? それとも心配事が!?」

 

「お気に召さなかったのなら、一晩中女王様ゲームでも一向に構わないわよ」

 

「ぜひエスコートさせてください」

 

 楯無さんは快調だった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 タッグトーナメント当日。開会セレモニーが終えて、俺と箒はピットへと向かっていた。

 それというのも、初戦から選ばれたからだ。相手は一夏とアトラスさん。初っ端から男子がぶつかり合う辺り、そう仕組んだように見えてならないが、それほど注目されてるということなんだろう、多分。

 この大会の優勝候補は、一夏&アトラスさんペアと更織姉妹……というかアトラスさんと楯無さんの(元)生徒会長というブランドが一位争いをしている状況で、その後を追ってフォルテ・サファイア先輩とダリル・ケイシー先輩の通称『イージス』、それからはシャルロットとラウラ、セシリアと鈴音と続き、最後にそこから突き放される形で俺達が最下位となっている。情報源は食券を賭けた優勝予想のオッズ。先ほどまでいた黛先輩が見せてくれたデータだ。

 

「うん、オッズがああなることは知ってた。専用機手に入るのが遅かった二人組だし俺達」

 

「時間の差など技で押し返してやればいい。必ず優勝するぞ!」

 

「よくお前はそんなに自信持ってられるな。ちょっと見習いてぇわ」

 

 隣にいる箒は自信満々だった。いや、闘気が満ち満ちていたと言った方がいいのか。理由はある程度わかるけど。

 

「あいつがこの大会で自信ついたら、案外早く相手が決まっちまうかも知れないしな。優勝できなくとも告った方がいいんじゃね?」

 

「なっ!? ななな何を言う! ち、違うぞ、わわ私がそんな、一夏に告白するために優勝するとか、そんな不純なことは考えていないからな!!」

 

 盛大に自爆している箒をほっといて準備を始めようとして、その時、オメガがアラートを鳴らした。

 

 ――警告。正体不明機多数確認。内一機、接近中。

 

「……来たか」

 

「……? 颯斗、何か言っ――」

 

 次の瞬間、壁がぶち抜かれた。

 大きな穴が空いた壁から黒い影が近づいてくる。オメガが警告を発するそれが斬りかかるのを見切り、《デモン・アームズ》の右ストレートを叩き込む。カウンターを完璧に入れられ、相手は壁の向こうに吹っ飛んでいった。

 

「な、なんだ今のは!?」

 

「……箒、ISを展開。急げ」

 

 廊下の電灯が赤くなり、警報が鳴り響く。続いて教師から避難誘導のアナウンス。

 無人機――『ゴーレムⅢ』襲来。目の当たりにしたその合図に、俺は無意識のうちに拳を握りしめていた。




 今回のフラグ
・これならきっと大丈夫←大丈夫じゃないフラグ
・この戦いが終わった時の約束←守れないフラグ×2

 これまでのフラグ
・防御型←いつか割られる
・鈍足←致命的な欠点

 後半はフラグというよりステータスやな。でも防御型って、後々技とか武器とかで割られてくじゃん?
 死亡フラグ満載な状態で挑む訳ですが、ここまでフラグ積むと逆に大丈夫だったりするんですかねぇ。重ねすぎて逆効果になるレベルってどのくらいでしょうか?
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