しかしうーん、微妙?
箒はオメガの反応があるアリーナを目指して飛んでいた。後ろには一夏とアトラスを引き連れている。
箒は焦っていた。
(くっ……敵を倒すのに手間取った上、二人を回復させることを失念していた……そのせいでだいぶ時間をかけてしまった……!)
そう、一夏とアトラスが戦っていたゴーレムⅢを倒すのに時間がかかった。そこまでは想定内。しかしその後二人を、正確には二人のISを回復させる時間を失念してしまっていた。おかげで目標としていた時間から大幅に遅れてしまっている。
「一夏! もっと速度を上げられないのか!?」
「無茶言うなって! これ以上はアトラスさんの身体に負担が!」
「だーッ、俺のことはいいから飛ばせつってんだろーが!」
「そうは言っても、今だって酷い出血ですよ!?」
加えて、負傷したアトラスがさらに時間をかけている。正確には、大怪我を簡単な応急処置だけで済ませて救援に加勢しようとするアトラスと、そんなアトラスに負担をかけまいとする一夏とで口論になっているのだが、とにかく進みが悪い。
早くしたいものの、アトラスに無理をさせる訳にはいかないし、だからと言ってアトラスを置いて一夏だけを引き連れては正直心許ない。どうするべきか悩んで、結局このままである。
ガアアァアァァァァァ……!!
その時、何かが聞こえた。
「……!? なんだ、今のは!?」
雄叫びのような断末魔のような咆哮に一同は一時その場に止まる。この謎の咆哮に一夏は戸惑っている様子だった。
(この声、どこかで……)
対して、箒はこの現象に覚えがあった。
すぐに思い出した。
しかも、その方角はこれから自分達が向かおうとしている方向、すなわち、颯斗がいる方角だった。
「一夏、急ぐぞ!」
「あ、おい箒!?」
一夏の言葉を聞く間もなく、箒は全速力で飛翔した。
◇
耳をつんざくような咆哮と強烈な光、それらが収まって簪と楯無は呆然とそこを見つめていた。
そこ――颯斗がいた場所にはオメガの姿がなく、代わりに全く違うISが立っていた。
ISは原型を失うほどの形態変化など有り得ない。しかし、そこにいたはずのオメガがいなくなり、代わりに目の前のISがそこにいる。あれが颯斗でありオメガであるという結論に至るしかなくなる。
「……颯斗くん、なの?」
簪が小さな声で呟くが、そのISは何も反応しない。
突然の変化にゴーレムⅢはしばらく距離を置いて様子を窺っていたが、何もしてこないことに痺れを切らしたのか左腕を向け、ビームを連射した。
迫るビームに対して、ISは一歩も動かず、直撃したビームが大爆発を引き起こした。
「……っ! 直撃……? 回避行動も取らずに!?」
「颯斗くん!」
濛々と立ち込める煙に、ゴーレムⅢはさらにビームを撃ち込んでいく。
撃ち込む。
撃ち込む。
撃ち込む。
撃ち込む。
――突如、ゴーレムⅢの一機が頭を鷲掴みにされた。
荷電粒子砲を取り付けてあったはずの左腕は、いつの間にか装甲腕に姿を変え、
どうしても離れないと悟ったのか、ゴーレムⅢは左手の砲口をISに向け、ビームのチャージを開始した。
ISはそのゴーレムⅢの左腕を右手で掴んだ。そして次の瞬間、ゴーレムⅢの左腕は激しい金属音と共に引きちぎれ、グシャリと握りつぶされて棄てられた。そしてゴーレムⅢの頭部も同じく握りつぶし、離れた位置にて未だに動いているほぼ残骸と化したゴーレムⅢへと投げつける。金属同士がぶつかり合い、けたたましい音が奏でられた。
その直後、ビームがISの肩に命中した。
もう一機のゴーレムⅢが上空からの射撃を始めていた。ビームの乱射は広範囲に渡り、簪と楯無をも巻き込む。
「きゃっ……!」
「くっ……!」
油断してしまっていた二人をビームが襲う。思わず体を強ばらせる二人だが、不思議なことにいつまで経っても痛みは来ない。
恐る恐る目を開けて見ると、二人を庇う者が目の前にいた。
例の全身装甲ISだった。己の背中を盾に、ビームの雨から二人を守っていた。それはつい先ほどの光景に似通った面があるが、前とは違ってISにダメージは見られない。
「颯斗くん……やっぱり、颯斗くんなの?」
今度は少しはっきりとした声でそのISに尋ねる。しかしISからは何も答えが返ってこない。
ISは振り返り、飛行を続けるゴーレムⅢへと視線を向けた。ロックオンを完了したが、特別武器を持つ素振りは見せない。しかし両肩の顔の目が光ったと思った次の瞬間には、空を飛ぶゴーレムⅢはISの両肩の目から発せれた超高出力レーザーに焼き切られ、バラバラに解体された。
あまりにも一方的なものだった。あまりにも一方的に、あまりにもあっという間に、自分達を苦しめてきたゴーレムⅢ達は意図もたやすく壊されていった。
◇
箒達は観客席の辺りで足を止め、アリーナの光景を目の当たりにしていた。
「なんだ……あのIS……?」
「無人機共が見事にやられてやがる。アイツがやったのか?」
近くに転がっていたゴーレムⅢの残骸を弄るアトラス。バラバラになっているそれは、超高出力レーザーによって焼き切られたものだった。
見知らぬISとゴーレムの残骸に目をとられる一同だが、一夏があるものに気がついた。
「あれ……楯無さんに簪さんか? 怪我をしてるのか!」
「おい、一夏!?」
簪と楯無に気づいた一夏が二人の元へと飛ぶ。箒の静止の声はスラスターの音にかき消されてしまった。
「状況を気にせず飛び出すのは、あいつの性分かね。おい篠ノ之、俺達も行くぞ」
「あ、はい」
正体不明機のことが気になるが、すでに捕捉されているであろう自分達に反応を示さないのは敵ではないということか。箒もアトラスに続いて一夏を追うべくスラスターを稼動させる。
しかし直後、箒は見た。自分達が入ってきた時には何も反応を見せなかったISが、一夏の動きに反応している。
正体不明機の両肩についている顔のようなパーツ、その目がチカチカ光る。嫌な予感がして、箒は叫んだ。
「一夏、よけろっ!!」
「へ? ――うわっ!?」
両肩の目から放たれたレーザーが白式の装甲を焼いた。もう少し箒の忠告が遅れていたら、一夏の身体が焼き切られていたかもしれない。
ISが剣を取った。青く光るクリスタルのような刀身の大型実体剣で、回路を通るように発光しているのが見える。その剣を持ち、翼状スラスターの爆発的推進力によって、巨体に似合わない速度で一夏に接近、剣を振るう。
「くっ!」
剣は『斬る』より『叩き潰す』に近いものだった。一夏はなんとか回避したが、地面を叩いた地点を中心に大きなクレーターを作り上げた。
「くそっ、何なんだコイツ!」
「颯斗くん! やめて!」
一夏の疑問は意外なところから返ってきた。
「簪さん!? 颯斗って、コイツが!? 一体どういうことだよ!?」
「それは、わからない……私も、何が起きてるのか……」
「一夏、話は後だ! まずは目の前に集中しろ!」
箒が一夏の注意をISに戻す。ISは左腕を荷電粒子砲に変えてエネルギーチャージをしていた。
粒子砲が放たれる。余波だけで大地を破壊しながら突き進むそれを防御する余地など有り得なかった。一夏と箒はバラバラに回避する。
「颯斗! 俺達のことがわからないのか!?」
「颯斗くん! 一体どうしたの!?」
「―――――」
一夏と楯無の説得に反応を見せず、ISはレーザーで執拗に一夏を狙う。
「説得も聞かねえとなると、こりゃやべえかもな」
一夏を狙っている隙に懐に入り込んだアトラス。ガントレットナックルを装備し、発破装置を点火する。
「少し……寝てろぉっ!!」
「―――――」
アッパー気味のパンチを繰り出し、それが顔面を直撃――する直前、アトラスの身体が吹っ飛んだ。吹っ飛んだアトラスは身体を壁に突っ込んだ。
「アトラスさん!?」
「今のは……リジェクト・アーマーか!? 出力が桁違いだぞ!?」
「桁違いどころか別モンだろあんなん! ああ、くっそ痛ぇ!!」
オメガの《リジェクト・アーマー》は本来弾よけ程度のものだ。ISを吹き飛ばすような力はない。アトラスの言うとおり、もはや別物の領域だった。
ISが加速してアトラスに迫ってくる。加速しながら放たれた拳は回避された先の壁を崩壊させた。
「はあああああっ!!」
零落白夜を発動した一夏がISへ突貫する。雪片二型をISに振るうが、電磁力が一夏を弾き飛ばす。
ISの周囲に粒子が集まる。粒子変換を終えて現れたのはエルピスの装備《エルフ》だった。しかし以前のものとは違い、全身に逆立った針のようなものが生え、蛇というよりは龍のようだった。加えてそれが六体に増えている。
エルフが一斉に三人に襲いかかった。三人を噛み砕かんと牙を向け突進する。撃っても斬ってもすぐ元通りになるため、すぐに三人は回避に専念することになる。
「颯斗! いい加減目を覚ませ……うわっ!?」
一夏がエルフに噛みつかれ、驚くほどの力で地面に叩きつけられる。ゴーレムⅢが撃破されシールドエネルギーは機能を取り戻しているため痛みはないが、さらにもう一体のエルフが一夏を拘束する。
「一夏!?」
「くそっ、どきやがれ!」
一夏の助けに駆けつけたい箒とアトラスだが、エルフの猛攻が激しく引き離される一方。
身動きの取れない一夏に、ISが近づいていく。
「くっ……」
「颯斗くん……颯斗くん!」
「颯斗くん! 彼は敵じゃないわ!」
簪の叫びも、楯無の説得も聞かず、ISは剣をゆっくり振り上げる。
……しかし、剣は振り上げられたまま、その場で動かなくなった。同時に、エルフの動きも止まり、重力に従って地面に這いつくばる。
「止まった……?」
「ったく、今度はなんだ?」
急に動きを止めたことに箒もアトラスも訝しげになりながら、剣を振り上げたまま沈黙するISに視線をやる。
しばらくして、ゴーレムⅢの猛攻にも傷つかなかったISに亀裂が入り、突如として崩壊を始めた。
ISの装甲が砕け、跡形もなく消える中、颯斗がその場に倒れた。己の血で赤く染まった颯斗はピクリとも動かない。
「颯斗……? おい、颯斗!!」
「颯斗くん!!」
「ああ、くそっ、出てくるのが悪態ばっかりだ。おい一夏! 颯斗を医療室へ運べ! 篠ノ之は楯無を運べ! 急げ!」
こうして、ゴーレムⅢの襲撃事件は訳の分からないまま終息を迎えた。
◇
「う……」
ぼんやりとした意識のまま目を開ける。目の前には見覚えのない天井が広がっていた。
取りあえず身体を起こそうとして、それは叶わなかった。背中が滅茶苦茶痛い。たまらず声が上がった。
「颯斗くん! 気がついた……!?」
「……?」
こちらを心配そうに見つめる人がいた。
制服に黄色いリボンをつけた、水色の髪の女性だ。怪我をしているのか、所々に包帯が巻いてある。
寝たまま会話するのは失礼に思えて、上半身だけでも起こそうとする。背中から強烈な痛みが襲ってきた。というか、さっき経験したばかりのものを再び味わっていた。
「うおぉぉ痛ぇえええ……!!」
「動いちゃダメよ。怪我が回復するまで絶対安静なんだから」
「……怪我?」
こんな大怪我、
いや、それ以前にだ。
「……あの」
「ん、何? 颯斗くん」
「キミ、誰?」
「……え?」
俺に親しそうに話すけど、
第七巻終了。颯斗に一体何があったのか。
次から第八巻編ですが、一部を除いて完全に別物になる感じです。ワールド・パージ編というよりも颯斗編といった感じ。うまくやっていけるかなぁ。