今後、物語の関係上新キャラはそれなりに出ます。ISもそこそこ出てきます。
臨海学校に向けて、俺達一年が乗っているバス群は道路を走りつづけていた。
「結局、颯斗は来れなかったかぁ」
俺――織斑一夏はそうぼやいた。
颯斗が転校してきてから一週間は経った。一週間で千冬姉……織斑先生の特別講習によって俺達に追いついたはずなんだけど、どういうことか颯斗は教室に戻ってきていない。
数少ない男子として、交友を深めたかったんだけどな。
「なんで颯斗は来れなかったんだろうな」
「一夏は知らない? 一週間の公欠って話を聞いたけど」
ただのぼやきのつもりで口にしたのだが、その答えがシャルの口から出てきた。
って、一週間?
「一週間って、あいつそんな長い間どこ行くんだ?」
「確証は得ませんが、IS委員会へ行ったと思われますわ」
「IS委員会?」
IS委員会。簡単に言えば、国際間でISに関する協議を行うところだ。授業でその言葉を聞いたことがある。
「多分、専用機と所属国家を決めるために呼び出されたんじゃないかな。一夏だって所属については協議中なんでしょ?」
「確かにそうだけど……それってわざわざ颯斗を呼び出す必要があるのか? 俺はそういうのなしで白式貰ったんだし、それでいいじゃないか」
「わかってないな一夏は。それでも私の嫁か? お前は日本政府に守られているからそうなっているだけだ」
「守られてるって、それだと颯斗は守られていないみたいじゃないか」
「多分、その解釈で間違いないんじゃないかな。篠ノ之博士や織斑先生との繋がりがある一夏を優先して守っているんだと思うよ」
「なんだよそれ……」
裏の事情が理解できないのはまだ俺が子供だってことだろうが、それでも憤りを持たずにはいられない。
俺を守るために、颯斗を守ることをやめた。その判断には納得がいかない。
「まあでも、学園の生徒でいる間は所属の話はあってないようなものだよ。一夏も言ってたでしょ?」
俺の気持ちを察してか、シャルはそう言った。
それもそうだ。所属が変わるからといって、颯斗自身が変わる訳じゃない。まだ交友はほとんどないが、どこの所属になろうが颯斗は颯斗として接すればいい。
「見えた! 海―――!」
クラスメイトの誰かが窓を見て叫んだ。窓を見ると、一面青に彩られた海が一望できる。
じゃあ、颯斗の帰りを待って、まずはアイツの分まで海の満喫と行くか。
◇
「あー……ねむ」
「我慢しなさい。そんな態度で相手してると怒られちゃうわよ」
「わかってますよ……ぁふ」
それでも眠気は抑えきれない。
飛行機で海を越え、護送車で送られ、専用機および所属を決めるために日本からはるばるヨーロッパに存在するIS委員会本部にやってきて、二日目。
眠気の理由は時差ぼけとか、一週間の地獄の授業による睡眠不足とかいうちゃちなもんじゃない。
とにかく、長いのだ。
何がって、各国からの勧誘話が。
「今のところ全部の国が持ち時間の制約ガン無視ってどういうことだよ……」
「それほど一生懸命なのよ。……さすがにここまでとは私も思わなかったけど」
俺の専用機および所属を決める方法は各国がそれぞれの持ち時間で勧誘し、最終的に俺の希望で決定するという形がとられた。
まあ、一生懸命なのはわかる。貴重なサンプルを入手し、広告塔にも使え、他にもメリットは色々あるのだろう。時間の超過も数分程度なら愚痴るまでもない。
だが、各国の代表達の話は平気で三十分から、酷いときには一、二時間近くも超過してくる。
その国に属したときの待遇とか、俺に与える専用機の資料ならいいのだが、お国自慢とか他国を牽制するような話とか、その他ISに関係ないような話までしてくる。
何より酷いのが、止める人がいないところだ。他の国でも時間超過する気満々らしく、正当化させるために止めようとしない。
そしてその超過は当然全ての勧誘が終わる時間を先へと伸ばしていく。当初の予定では三日で終わるとか言っていたが、二日目の現在、一日目の三分の二しか終わってないのだった。夜中の、予定では寝させてもらえる時間に食い込ませて続けた上で、だ。おかげで超絶眠い。
しかし十五歳の少年の都合などどうでもいいと言うかのように、容赦なく勧誘がやってくる。
〜ここからはダイジェストでお送りします〜
――ある国との対話では……
「――我が国があなたに提供するISはこちらで……」
「なるほど……」
――またある国では……
「――我が国に属した時には、あなた専用の技術開発チームを……」
「はい……」
――さらにある国では……
「――我が国はこういうことで有名ですが、他にもこのようなことも盛んでして……」
「はぁ……」
――またさらにある国では……
「――して、我が国はこのような素晴らしい歴史を刻んでおり……」
「……………」
――そしてある国で……
「……すいません。ちょっと休憩入れてもらっても構いませんか」
「いやいやこの話! この話だけでも聞いてください!」
――ついでに……
「Zzz……」
「……おい、護衛が寝るなよ更識当主ゴルァ!!」
注、このダイジェストは一部解釈しやすいように内容を変更しております。
なお、楯無さんとのやりとりには変更を加えておりませんのであしからず。
IS委員会に来て三日目。
「あー……」
「大変ねー……」
やっぱり、まだ終わらなかった。現在の最高超過記録は中国の一時間三十五分だったか? そのうち二時間超えるんじゃね。
とにかく、長い。長話をひたすら聞かされるだけってのはある意味拷問だよ。おかげで出される豪華な食事も味がわからなくなってきた。
楯無さんも顔は涼しいままだが、いい加減疲れが出てきているらしい。まれにため息が聞こえてくる。
今までの勧誘話はだいたいどの国も似たようなものだった。専属の技術者、もしくは技術チームがつくのはもはや当たり前。ISはほとんど第三世代でたまに第二世代。あとは国へタダで行き来できるできる特別チケットをやるだとか特別援助金を出すだとかその他色々。なんか法律を俺だけ例外にするとか無駄にぶっ飛んだ発言してる人もいたっけな。
オメガの話はまだない。オメガを持っている国がまだ来てないのか、それともここではその話は出ないのか……?
「颯斗くん、そろそろ次の国の代表が来るわよ」
「あ、はい。……次って、どこでしたっけ?」
「ギリシャよ」
ガチャリ、と扉が開かれた。
その音に反応して扉の方に視線を向け……え?
(え……?)
来たのは、初老の男性と、二人の若い女性だった。
別に、二人以上で来ることも、女性が来ることも不思議なことじゃない。まず通訳がいるし、国の代表が技術者を連れてきたことは他でもあった。この女尊男卑の世界、代表が女性であることも珍しくない。
しかしなんとなく、似てるのだ。
金髪で髪を後ろに結い、澄んだ青い瞳をした女性が、あのゲームのヒロインに。
(……いやいや、似てるってだけだろ)
平静を装い、頭の中でその考えは払拭する。
なんとなく似てる。が、それは髪と眼の色を見てそう思っただけの話だ。金髪で青眼の人なんてたくさんいるだろう。
男性が椅子に腰掛けた。女性は男性の少し後ろに立っている。
「三日で終わる予定が、まだ終わる気配がないな……お疲れではないかね?」
通訳を介して、その旨の話を聞かされる。ちなみに通訳は金髪の方ではない。
「えっと……ええ、まあ」
「そうか。こちらも少し長話になるかも知れないが、許してもらいたい。話は私が話すより、ISに詳しい者が話すのがいいだろう」
そう言うなりギリシャ代表は立ち上がった。椅子から体をどかすと、金髪の女性目配せした。それが合図かのように女性は椅子に座る。
「こんにちは」
挨拶してきた。
「あ、こんにちは……って、日本語?」
驚いた。通訳を介することなく、直接日本語で話しかけてきたのだから。しかもかなり流暢に。
女性は俺の反応がおかしそうに笑った。
「ふふっ。この日が来るって聞いてから、頑張って日本語を学んでみたの」
頑張ったってレベルじゃねーだろ。
「まず自己紹介をするわね。私の名前は、シエル・アランソン。ギリシャIS技術開発所、通称『アルカディア』では局長を務めているわ。……あ、ごめんなさい。日本では、アランソン・シエルって言った方がいいのかしら」
「あぁ、いえ。そう言わなくともわかります。……えと、シエルさん……でいいでしょうか?」
「ええ。そう呼んでくれると嬉しいわ、颯斗さん」
……やはりシエルって……そういうことなのか?
ロックマンゼロシリーズにてヒロインとしてゼロを支えていた天才科学者、シエル。この人がそれってことだとしたら、機体は……。
「早速本題に入らせてもらうけど、あなたがギリシャを選んだ場合、私が専属技術者としてISの整備をさせてもらうわ。それから、本国への渡航用特別空港チケットが渡される。そして、あなたが一番聞きたいと思う専用機の話だけど……」
専用機のことになり、俺も集中する。
「第三世代ISが現在製作中だけど、まだかかりそうなの。だからしばらくは第二世代で我慢してもらって、完成次第乗り換えてもらうことになるわ」
「それで……その機体はどういったものですか?」
「まず第二世代ISの方の名称は『エックス』。多数のスラスターによる高速機動と、レンズの変更によって性能を変化させるレーザー兵器を搭載させた、オールレンジ型よ。第二世代といっても、後期開発型だから性能は今の第三世代にも通じるわ」
エックスと言えば、ロックマンゼロのラスボス、もしくはロックマンゼロと繋がりが深い、ロックマンXの主人公だが、おそらくは前者だろう。後者だと俺全然わからん。
「そして、今開発している第三世代ISにつけられる名前は、『オメガ』。物理、エネルギー両方に対応する装甲による防御力と、高威力兵器による破壊力を兼ね備えた機体になる予定だわ」
オメガ……ここで造られていたのか。
ここを選べば、オメガを手に入れることができる、が……
「ここまでで質問、ある?」
「その、オメガってISが完成して、俺のものになるまで、どれくらいかかるのですか?」
「そうね……わかりやすくIS学園の行事で言うなら、キャノンボール・ファストの前……ううん、私が開発所から離れるから、その後になるかしら」
キャノンボール・ファストの後って言ったら、その次に起こるのは無人機による襲撃事件……その時になって乗り換えというのは少し厳しいかもな……。
「その、オメガの強みと弱みって、今の段階でわかりますか?」
「ええ、むしろはっきりしているわ。オメガの強みはなんといっても、高い防御力と攻撃力。一撃で落とされはせず、逆に直撃させれば一撃で落とすことができる。特に近接戦では受け止めてから撃ち返すというやり方ができるわ。逆に弱みは、機体が重すぎること。速く動くことができないの。それを解消させるために高機動パッケージの開発もしてるけど、操作性が悪くなることが予想されるわ」
要するに、固定砲台ということか。
オメガを選んだのは自分だが、こうなると考えものだな。速く動けないということは、相手の攻撃はほとんど受けることになってしまう。
学園生徒とやりあう分にはそれでもいいかもしれないが、問題は無人機襲撃の方だ。絶対防御を阻害する機能が備わっている無人機の攻撃を全部受けるというのはマズい。防御力が高いとは言え、受けきれるとは思えない。
さてそこについてはどうしたものか……。
「やっぱり、重い機体というのは受けが悪いかしら」
「え? あ、いや……」
「大丈夫よ、自覚しているから。重くて機動が遅い機体はISにとってはあまり実用的じゃない。事実、開発が始まってからギリシャの代表達に持ちかけてみてるけど、受けはよくないの。それに、近接型相手には頑丈さが有利に働くとは言え掴まえることができなければ厳しいし、射撃型のように離れた相手では遅いために近づくことさえ叶わない。しかも遠距離用装備もホーミング性がないから、熟練された操縦者相手だとまず当たらない。一方的に負けることが予想できるわ」
「いや、あの……俺を引き入れたくないんですか?」
次から次へと出てくるオメガのデメリットに思わずそう尋ねた。オメガが堅いだけの木偶になってしまうのはさすがにいかんと思った。
シエルさんは俺のこの質問に頷き、答える。
「勿論迎え入れたいわ。だけど、嘘をついたり、隠し事をして誘うことはしたくないのよ。あなたに出せるだけの情報を出して、よく理解してもらって、その上で私達の国を選んでもらえたら、目一杯歓迎するわ。オメガも開発途中段階だから、弱点を克服できるようにこちらも努力する」
そう真剣な眼差しで言うシエルさんは、本気だということがわかる。
「……じゃあ、あの……」
オメガを考えたのが俺だからということもあると思う。
しかし俺は、この人のその本気の思いに惹かれ、もってよく聞いてみたいと思った。
「オメガについて……それからその前に乗るエックスや、他のギリシャ製ISについて、もっと聞かせてもらってもいいですか?」
「あ……ええ! じゃあ、まずはオメガの開発思想から――」
シエルさんは少し驚いた様子から破顔させ、説明を始めた。
持ち時間ギリギリ、というか少し過ぎたようだが、今までの中では最も充実した話を聞けた。
シエルさん登場。ファミリーネームにはシエルつながりでゴッドイーター2のシエルを使いました。作者はゴッドイーター2が楽しみすぎてイラつき気味だったりしてます。
オメガの前にエックスというのは、第三世代ISはまだどの国も開発が始まった段階。打鉄弐式が未完成という事例もある。だったら第三世代完成までの代用品があってもおかしくないじゃない。という理論で第二世代IS・エックスが登場しました。
あと、シエルさんはロクゼロの設定をリスペクトして天才にします。あ、でも限度はある方向です。束はチート。あの人と比べることがまずおかしい。