ちょっと一部に、PSVita及びPS3ソフト『イグニッション・ハーツ』が元ネタの話を混ぜています。もうちょっと混ぜたいと思ったけど……。
小鳥の鳴き声が聞こえる。朝だ。
意識がなんとなく目覚めてきてるものの、まだ頭には眠気が残っている。
だって、こんなフカフカしたベッドだぜ? すぐ目覚めろと言う方が無理。うーん、もうちょっと……。でも起きないと……。
ぼんやりとした思考のまま、目をうっすらと開くと、水色が見えた。……水色?
「おはよ、颯斗くん♪」
水色の正体は俺のベッドに入り込んだ楯無さんだった。しかも、裸ワイシャツ。
……………。
「うおおおおお痛いっ!?」
びっくりして後ずさりすると、ベッドから落ちた。痛い。おかげで目は覚めたけど。
「デジャヴな光景ねぇ」
「た、楯無さん! なんでいるんですか!」
「昨日から同居したじゃない」
「確かにそうだけど違う! そういう意味じゃなくて、どうして俺のベッドにいるんですか!」
「こうすれば、颯斗くん思い出してくれるかな〜って」
「何を!?」
ベッドから出てこちらに這い寄る楯無さんに、思わず後ずさる。
「思い出さない? 颯斗くんと初めて寝た日の朝も、こうやって……」
「わーっ!! ちょっ、待っ――」
シュルシュルと楯無さんのワイシャツが脱げていく。慌てて俺は楯無さんから視線を逸らし――てない。微妙に視界の端に留めていた。男の子ですもん、仕方ないよ。
「なーんちゃって。水着でした!」
「……………」
自分でも驚くくらいに非難の視線に変わるのが早かった。
「あはは、ゴメンゴメン。ワイシャツ脱いで水着の下りはなかったけど、初日に一緒に寝たのは本当よ。思い出さない?」
「ねーよ!!」
むしろ、そんなんで思い出したら信じられないよ!
「そっか……まあでも、これからじっくり思い出していきましょ?」
どうしよう、うまくやってけるかすごく不安なの。
◇
「……ってなことがあったんだ」
「……スケベ」
「ぐふっ」
食堂。朝食を取っている俺は簪にスケベ認定されていた。
あれから俺と楯無さんが同じ部屋から出るのを見られ、それが簪にもバレた。根掘り葉掘り聞かれたのでありのままに答えたらスケベ言われた。ザックリ刺さった。
ジト目の簪がさらに質問する。
「お姉ちゃんはスタイルいいから、やっぱり嬉しいんでしょ……?」
「う、それは……」
男の子だし。
「どうせ私は、スタイル良くないもん……」
頰を膨らませてそっぽを向く簪。こんな時に失礼だとは思うけど、なんかかわいい。これは同じのを楯無さんがやったとしても簪の方がかわいいんじゃないかな。
頰を膨らませたままストローでジュースを飲むという器用なことやってる簪に、俺は声をかけた。
「簪」
「……何」
「かわいい」
「ブッ!」
正直なことを言ったら簪が噴いた。顔を真っ赤にして慌ててる。
「ま、また、そういうことをいきなり言う……」
「うん? また?」
「な、なんでもない……!」
なるほど、かわいいと言われ慣れてないのか。照れるのもかわいい。ちょっと弄りたくなる。
「簪かわいい」
「や、ちょっ……」
「簪かわいい」
「うぅ……」
「簪すごくかわいい」
「〜〜〜っ!」
やべえ背徳的だけどもっと弄りたくなってきた。顔真っ赤にして縮こまってる反応がかわいい。
いや落ち着け俺、いくらかわいいからって、さすがにこれ以上はかわいそうだ。それにこんな弄っている様子を楯無さんに知らされてみろ、どうなるかわかったもんじゃないぞ。
……でももうちょっと。もう一言ッ……!
「何をしている」
「うおっ!?」
突然かかってきた声に本気でビビった。慌てて振り向くと、そこには腕を組みながらこちらを見ている織斑先生がいた。なお、呆れ顔である。
「とっとと食事を済ませろ。ショートホームルームに間に合わなくなるぞ」
「は、はい!」
「それから、傘霧はホームルームの後に医療室に来い。経過の確認を行う」
「りょ、了解です」
必要なことを言った織斑先生はその場を後にした。
「……えっと、さっきはごめんな。飯食おうぜ」
「う、うん……」
「……一応、かわいいと思ったのは本当だぞ」
「か、からかわないで……」
やっぱかわいい(確信)。
◇
医療室のベッドでボーっとする。
機械での検査とか問診を受けて、今は結果待ちだ。やっぱり問診は緊張する。いつボロがでるかわからんから。早く記憶戻ってくれよなー、この意識のままいられるとは限らんが。
扉の開く音がきこえた。振り返ると、織斑先生とシエルさんがいた。
「あれ、シエルさんはなんでここに?」
「颯斗さんのことが気になって……あ、恋愛的な意味じゃないわよ」
そりゃそうだ……と言ったら怒られるかな。
それはともかく、俺は織斑先生の方に顔を向ける。なんたって織斑先生が来たのは結果がわかったということのはずだから。
「簡潔に結果だけを述べておく。記憶回復の兆しは全く見られなかった」
「ですよねー」
むしろ、兆しがあったらなんで思い出さないんだということになる。
しかし、記憶喪失ってこんなにめんどくさいものなんだな。自分がわからない、思い出を聞いても心当たりがないってなかなかつらいというのが体感して理解できる。
「まあ、すぐに回復するとは思っていない、気長にやっていくしかないだろう。お前がこの程度でへこたれるような人間ではないだろうしな」
「……俺って、そんな人なんですか?」
教師と生徒ってだけの関係でそこまでわかるのか? という疑問を密かに抱きつつ尋ねると、織斑先生は若干気まずそうに顔を歪めた。
「……まあ、なんだ。こちらから見て人格が変わってるような印象はないんだ。ならば問題ないだろう」
人格はこれで合ってるのか。簪からも「記憶を失くしてもやっぱり颯斗だね」って言われたことがあったけど、そうだとしたらやっぱり記憶を失くしただけなのかもな。人格が入れ替わるようなことでないなら希望がありそうだ。
「不安になる気持ちはわかるけど頑張って。私達もしっかりサポートするわ」
「あ、はい。頑張ってみます」
「では、これで検査は終了だ。少し早いが昼休みに入れ」
時計を見ると、あと十分もしたら昼休みだった。
「わかりました、では」
立ち上がって二人にお辞儀をして、俺は医療室を出た。織斑先生は授業とかでよく見るいつもの顔で、シエルさんはにこやかな顔で手を振って、俺を見送っていた。
◇
颯斗が出て行った後、千冬とシエルの二人はとあるデータを見ていた。その表情は千冬はもちろん、颯斗を笑顔で見送っていたシエルも真剣そのものだった。
「まったく、一夏も何かと問題を起こすが、傘霧もこう問題を抱えるとはな」
「颯斗さんはどちらかと言えば被害者かと。責任は開発者である私にあります」
「ああ、いえ。そういう意味で言ったのではありません」
暴走する変異ISと記憶喪失、彼が抱える二つの問題にため息をつく千冬だが、責任は颯斗でもなくシエルでもなくこの自分。生徒である以上、彼らを導き守る教師である自分達の責任だと考えていた。そのため、シエルの発言を手で制する。
それから、二人は表示されているデータの方を見直した。
「アランソン局長、これがどういうことかわかりますか?」
「確証がある訳ではありませんが、オメガの……正確には、オメガのワンオフ・アビリティーが何か関係あるかと」
見ているのは、今回颯斗に行った検査の結果と今のオメガの解析結果だった。片方を見るだけではわからなかったが、両方を見比べてその事実は明らかになった。
「オメガが、颯斗の脳に影響を及ぼし、結果記憶喪失になったと?」
「可能性としては、あるものかと」
颯斗の脳の解析データとオメガから発信されているとあるデータが、ほぼ完全に一致しているのだ。ISは使用者の動きを読み取るために脳波をもキャッチしている。それを兵器に転用させたものの一種が第三世代ISの特殊兵器である。
しかし、だからといって波形が完全一致することはあり得ない。しかも今あるデータのように、ISに脳が合わせるような形はもっとあり得ない。それはISに人が乗っ取られているようなものだからだ。
なお、現在颯斗はオメガを身につけていないのにも関わらず波形は一致しており、オメガは今でも颯斗に何かしらの干渉を行っている。それについても疑問であった。
「オメガとの関わりを完全に断ち切ったら、どうなりますか?」
「リスクが大きすぎます。切り離しをした所で颯斗さんの記憶が元に戻るとは限らないし、失敗した場合、最悪一生記憶が戻らなくなるかもしれません」
颯斗とオメガを切り離す手段は却下。
もし、オメガが颯斗の記憶喪失に関与しているのだとすれば、残るは――
「オメガを励起するしかないか……」
変異オメガそのものを調べれば、記憶の回復に繋がる手がかりが見つかるかもしれない。
しかしそれは、オメガが暴走する危険を孕んでいる。こちらもリスクの大きい手段だった。人的被害という意味では、こちらの方がリスクは高い。
そもそも、オメガは未だに起動命令にエラーが出てまともに展開されない状態だ。展開すらできない状態で変異オメガの話もあったものじゃない。
「この件については、こちらで考えます。引き続き、オメガの解析をお願いしてもよろしいですか?」
「もちろんです。この解析で颯斗さんの記憶が戻るかもしれないと思えば、喜んで」
結局対応策は後回しにするしかない。話を終えた二人は医療室を出て、それぞれの次の目的地へと向かった。
◇
時は過ぎて放課後。
偶には一人で気ままに探索してみるのもいいかなと思い立って校内を歩き回り、結局一つの収穫もなく颯斗は寮へと戻っていた。
ただひたすら歩き回って疲れた身体を休めるべく、自室の扉を開ける。
「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします?」
「それとも――わ、私達……?」
――バタン。
颯斗は無言で扉を閉めた。
ふぅーとやや長く息を吐き、それから踵を返す。
「さて、今日は一夏と話でもしてくるか……」
「あ、待って待って! せめてもう一回、もう一パターン!」
「お、お姉ちゃん……やっぱり恥ずかしいよ……」
颯斗が去ろうとする気配を察してか、ドンドンと扉が叩かれ呼び止められる。しかしノリノリなのは一方だけのようで、もう一人は言葉通りの様子だった。
「……………」
颯斗は歩みを止めて扉を見つめた後、渋々引き返して扉に手をかけた。まともな対応が来るとは思えないが、二人を無碍に扱う訳にはいかないという考えからだった。
ガチャリ。
「お帰り。私にします?」
「わ、私にします……?」
「それとも――」
バタン。閉めた。最後まで聞く前に。原作に似たようなものを知っているからこその対応だろう。
「着替えてください。待ってるんで」
「えー」
「き、着替えるよ、早く!」
扉の奥でバタバタと音が聞こえる。二人の様子を想像して、また颯斗はため息をついた。
(……まあ、二人の裸エプロンは忘れないようにしておこう)
と、やはりスケベな颯斗であった。
◇
数分後に二人が着替え終えてから無事部屋に入ることができた。二人が裸エプロンで俺を迎えたのは、過去に楯無さんが俺にやったことを少々アレンジすることで違和感から記憶を取り戻せるんじゃないかということらしいが、楯無さん本人が楽しむためというのもあるだろ絶対。
さて、そんなことから二人に俺との日常的な思い出話を話してもらうこととなった。
楯無さんとは日々勉強や訓練の毎日……時々楯無さんからのスキンシップ(という名のイタズラ)の思い出を、簪からは打鉄弐式製作の日々や、一度遊びに街へ行った時の話を聞けた。
けど、どれも記憶の端にも引っかかる気配を見せない。
一向に思い出せず謝る俺に二人は大丈夫と答えてくれたが、気にしてない訳ではないだろう。
早く思い出したいのは山々なのだが……どうにかならないのかなぁ。
「あ、そうだ。今度、三人で一緒に出掛けないかしら?」
俺が悩んでいると、楯無さんがそう提案してきた。
「それは……記憶を取り戻すためですか?」
「ううん、確かに記憶を取り戻すのは大事なことよ。でもそればかり躍起になって、思い出作りが疎かになるのは悲しいわ。偶には息抜きも必要なんだし」
「……そうだね。颯斗くん、どうかな?」
「……そうだな。そういうのも、悪くないかも」
いつどういうきっかけできおが戻るかわからない状態なんだし、長く付き合う気持ちでいた方がいいだろう。
今週の週末はオメガの解析や起動テストに立ち会うから、その次の週末に三人で出かける、といううことになった。
まあ、美人二人とお出かけっていうのは、結構楽しみだ。
『イグニッション・ハーツ』のうろ覚えなストーリーを元ネタとした織斑先生とのやり取り。楯無さんがその場にいたらストレスポイントが溜まってました。
実はその後暴走した一般女子による告白合戦を開こうと思ったのですが、最近イケメン指数を上げている箒に止められたり、記憶が戻ってから答えを出すという簪との約束から女子達にも同じ返答をする颯斗の姿が浮かんでやめにしました。ドタバタがない。