「颯斗、記憶はまだどうにもならないのか?」
「全くだ。イメージすら出てこない」
とある昼休み。俺は箒と食堂にいた。
箒といる理由は、専用機持ちは基本二人以上でいるように指示されたからだ。深刻なダメージを受けたISは展開に遅れが出るため、そのフォローとしてなるべく固まるようにだとか。俺はISを持ってすらいないけどね! ちなみに、今日は白式のフルメンテだとかで一夏は白式の開発した研究所に出かけている。倉持技研だったっけ。
で、現在の話題は俺の記憶についてだった。
「なんつーの、よくある話じゃ思い出に触れるとぼんやりでも思い起こされるような描写とかあるじゃん? その気配もまっっったくない。なんか外的要因で遮断されてるんじゃねーのって思えてくる」
「外的要因?」
「適当に選んだ言葉だけどな」
だが、自分で選んだこの言葉が妙にしっくりときてる。
なんて言うか自分の、『傘霧颯斗』の記憶に入り込めないのだ。記憶喪失の時の記憶を靄がかかったような状態と表現することがあるが、俺の場合はまるで壁が立ちふさがっているかのようだった。全貌どころか、近くのものすら遮られて全く見えないという、そんな感じ。
「あまり考えたくはないが、記憶が戻らないことも考えねばならんな」
「勘弁してくれ……記憶喪失の人なんて呼ばれたくねえぞ」
「だったら早めに思い出せ。心配している人がいるだろう」
「それができれば苦労しねえよ……」
ぐだー、とテーブルに突っ伏しながら自分の状況に文句を垂れる。
……そういえば、一つ気になってたことがあった。
「なあ、箒」
「なんだ?」
「なんで俺をよく気にかけてくれてるんだ? 復学初日とか今日の今も」
そう、数日過ごして箒が俺を気遣っていることがはっきりとわかった。俺が記憶喪失というのを確かめようと女子が押しかけた時には間に入って抑えたり、学内のこととかわからないことがあった時にはそれを察して教えてくれたり、その他諸々、最も助けてくれてるのが箒だった。今こうして一緒にいるのも、箒が一緒に行くと言ってくれたからだ。
俺に好意が向いてる訳ではないのは、一夏に対して照れ隠ししてる様子を見たことがあるから間違いない。だから、この気遣いは一体何のためか理解できずにいた。
箒は俺の質問に少しの間考えるように目を閉じて沈黙し、それから目を開いて答えた。
「……タッグを組んだよしみだ。一時的とは言え、相方に気を遣うのは不思議なことか?」
「ふーん……」
相方、ねえ……。
それだけでここまで気を使えるものなのかと思ったが、ひとまずはそれで納得しておくことにしよう。
「なんだ、疑っているのか?」
「いや――」
箒のジト目から逃れるため言葉を返そうとした時、突然灯りが全て消え去った。
「へ?」
「なっ――」
加えて窓ガラスにも全て防壁が閉じて日光をも遮り、校舎内は真っ暗となった。
「え、なに。何なの? 箒、これどういう状況!?」
「静かにしろ。その場を動くなよ」
何が問題かって、暗くて何にも見えない。箒はISがあるから見えてるのだろうか。少なくともISを起動しているらしく、声からして他の専用機持ちと連絡を取っているようだ。俺はさっき言った通りISを持ってすらいないので何もできない。
この暗さに目が慣れるのはいつになるかな。まだしばらくは何も見えそうにないんだけど。日光を完全遮断とか凄いな。そして太陽って偉大なんだね。
「織斑先生、颯斗はどうしますか」
その時、織斑先生と通信しているのか箒がそんな発言をしていた。え、なんで俺の名前が出るの? 状況を教えて欲しいんだけど。あ、呼び出し食らったのかな。だとしたら俺何もできないから箒頑張って。他力本願。
「……わかりました。颯斗」
「わかった。ここは任せて、頑張ってくれ」
「まさか話を聞いていたのか……? まあいい、私は行くから、颯斗はここでじっとしていろ」
そう箒の声が聞こえてから、足音が走って遠ざかっていった。走るってことは、見えてるんだよな? ISってすげー。
さて、じっとしていろと言われたし、俺はここで事件解決をただ待ってることにしようかな。目が慣れるのと解決するの、どっちが先かなー。
あ、そういえば一夏は不在なんだが、主人公不在で物語が進むのか?
◇
今回起きた事件は何者かからIS学園にしかけたハッキングによるものだった。
状況を打開するための作戦として箒達六人に電脳ダイブを支持した千冬は、残った楯無とアトラスに別の任務を与える。
「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」
「敵――、ですね」
「俺達はその脅威からの防衛戦、ですかね」
楯無もアトラスも、いつものふざけるような雰囲気はない、険しい顔だった。
「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが、頼らせてもらう」
「任されましょう」
「右に同じく」
「厳しい防衛戦になるぞ」
「生徒会長の肩書きは伊達じゃないですよ。現も元も」
アトラスはそう答えてみせる。しかし千冬の表情は変わらない。
「しかし、お前達のISも先日の一件で浅くないダメージを負っただろう。まだ回復しきってないはずだ」
「ええ。けれど私は更識楯無。こういう状況下での戦い方も、わかっています」
「俺は更識ではありませんがね、今あるカードで勝負ってのは結構やれると思ってますよ」
生徒の長として、絶対に生徒達を守り抜く。
その決意を二人の瞳から見えた千冬はため息をつき、それから一言告げた。
「では、任せた」
二人はお辞儀をして、現在地である地下オペレーションルームを後にする。
二人が去ってから、生徒を戦場に立たせる自分達の不甲斐なさを口に漏らした千冬と真耶も迎撃準備に取りかかった。
◇
米軍特殊部隊『アンネイムド』の一派を『ミステリアス・レイディ』のアクア・ナノマシンによって蹴散らした楯無は次の敵を探すべく空中散布したアクア・ナノマシンとともに廊下を移動していた。
すると、アクア・ナノマシンの感知粒子が何かを捉えた。その事実に楯無は足を止める。
形状からして、一人。単独行動ということは、それ相応の力を持つ者か、軍とは別の何者かということ。
それが近づいてきている。楯無はランスを手にして握りしめた。
「おやおや、随分と警戒なさっているようで」
現れたのは、ニコニコと笑みを浮かべた長髪の男。最初に遭遇した箒とシャルロットの証言では『スマイル』と名乗っていたその者だった。
「あら、歓迎の言葉でも欲しかったのかしら?」
「そうですねぇ。いただけるなら是非、と言いたかったのですが。そうも言ってられる雰囲気ではない様子で」
「そうね。失態を重ねる訳にはいかないもの」
そう言う楯無の表情からは、『アンネイムド』に対して向けていたような笑みはない。
楯無の身体を光が包み込み、ミステリアス・レイディが完全展開される。
「全力は出せないにしても、本気は出させてもらうわ」
「ええ。是非ともそうしていただきたいものです」
スマイルはさも当然といった様子で答え、小型のISナイフを二本構えた。
次の瞬間、スマイルは人間離れした速度で駆け、楯無のガトリングランスが火を噴いた。
◇
一方アトラスも自身のIS『ファーブニル』を全展開していた。
しかし、以前の戦闘でダメージを受けた左肩の装甲が展開できていない。
「ちっ、これじゃあクアッドブラスターの展開ができねえ……まあ、下手に校舎壊さなくていいのか?」
自身の主力武装が使えないことに悪態をつきながらも、アトラスはガントレットナックルを装備した。
「それで? あんたが俺の相手なのかい?」
「……………」
アトラスが問うた先にいたのは、黒いISだった。
鉤爪のような装甲脚、マスクとヘルメットに覆われて僅かに露出している目元は、まるで猛禽類の眼光だった。その機体の最大の特徴である、『エックス』と同レベルはあるはずの翼状スラスターは折り畳まれ、肩部ユニットとして浮遊していた。
『
黒い猛禽の操縦者は、静かにその手に持つアサルトライフルをアトラスに向けた。
明確な敵意を向けられながらも、アトラスは冷静だった。
「あんたらが何モンかだなんてどうだっていいんだ」
そう言ってアトラスはガントレットナックルのブースターを吹かした。
アトラスは冷静に、しかし――
「ただ、敵はぶっ飛ばす。痛い目に会いたくねえなら、とっとと帰ってくんねえか?」
はっきりとした敵意で、アトラスは敵に突撃した。
◇
(『アンネイムド』もスマイルも、よくドンパチやってるなぁ)
それぞれが戦闘を開始したことを察知しながら、トリガーは暗闇の中作戦を 遂行していた。
無人ISのコアを狙う名無し達とスマイル、彼らの
問題は運搬中に妨害を受ける可能性だが、そこは今戦ってる彼らになんとかしてもらうしかない。
(さて、僕もさっさと行くか)
気を締め直したトリガーは、暗闇の廊下を音も立てず、迷わず走っていった。
目指す先は、対象が潜んでいる食堂――。
オリジナル要素が入ってきました。スマイル達人外集団です。そのうち集団名も明らかになる……と思うたぶんきっとメイビー。
それから颯斗となにげに友情を深めている箒さん。恋愛に発展させるつもりは一切ありませんが、友情枠としてはありかなと思い始めています。ひょっとしたら一夏よりも友情深めるんじゃねえのこれ。なお、箒が颯斗を気にかける理由は他にもあります。これは近いうちに明らかにします。