ISだが、機体は岩男でも問題ないよな?   作:暁楓

44 / 44
第四十二話 完全敗北

 うーん、いい加減この暗さに慣れてきた。

 でも、動いていいって訳じゃないよなー。箒からもじっとしていろって言われたし。

 それにしても、もうどれくらい経ったんだろう? 携帯で時刻確認したはいいけど、事件が起きた時刻を知らないから時間がわからん。

 まあとりあえずは、テーブルの下にこうしてうずくまって、事件の終息を待っているか。

 

(……?)

 

 なんか足音が聞こえる。それに……近づいてきてない?

 暗さに慣れたっつっても、近くのものの輪郭がなんとか見えるぐらいだ。近づいてきてるのが何者かだなんてわかるはずもない。敵か味方かもわからん。やべえ、敵かもと考えたら緊張で心臓バクバクしてきた。

 音はどんどん近づいている。やっぱこっちに来てるよ。やべえ、逃げたい。でも暗いからとても逃げられない。

 ついに足音は食堂に入ったのか、音が響かなくなり、余計はっきりしてきた。もう怖えよ、なんかのホラーかよ!

 さらに足音はこちらに近づく。もう、ここがバレてんじゃね?と思いつつ、最後の悪足掻きとして必死に息を殺す。

 そして――足音は俺のすぐ目の前で止まった。

 気絶して楽になりたい衝動に駆られながら口を両手で覆っていると、コンコンと軽くテーブルを叩く音が聞こえた。

 

「大丈夫かい?」

 

 そしてこちらに優しく、少年と思しき声がかけられた。

 かかってきた言葉に拍子抜けして、「え?」と声を漏らす。

 

「颯斗くん、大丈夫かい? 他のみんなはもう避難してるよ」

 

「……えっと、誰?」

 

「アルカディアの職員……って、記憶喪失なんだっけ。君のISを開発している研究所の職員だよ。出れるかい?」

 

「は、はい」

 

 どうやら味方っぽいので、手探りでテーブルから這い出す。途中でその職員の手に触れたみたいで、しっかりと握って引っ張り出してくれた。

 

「しかし突然の停電だったね」

 

「ええ。辺りが真っ暗になって何も見えなくって……そういえば、職員さんは見えてるんですか?」

 

「うん、よく見えるよ。ハイパーセンサー仕込みのこの目で、どこを打てば君が大人しくなるのかも」

 

「え――」

 

 ドンッと、強く短い衝撃。

 俺はその正体を考える間もなく、気を失った。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 オメガの解析をしていたシエル他アルカディア職員は、突然の停電と防壁によって整備室に閉じ込められていた。

 整備室の機材を用いれば、防壁をこじ開けることは可能で、本来ならそうすべきところだったが、シエル達は動けずにいた。

 それというのも、時々聞こえてくる戦闘音のためだ。どこで誰が戦っているかわからない以上、不用心に出て巻き込まれることは避けたい。加えて戦闘ということは間違いなく敵がいるということでもあるので、オメガを危険に晒す訳にはいかないのだ。

 

「いつになったら電力が復旧するでしょうか……」

 

 職員の一人が、不安げな声で尋ねた。暗くて何も見えないため、誰に尋ねたのかも定かではない。

 そのため、シエルが答えることにした。

 

「今は辛抱強く待ちましょう。IS学園の職員が問題解決に動いてくれてるはずだわ」

 

「そうですけど……やっぱ怖いですね……それに、なんだか気分が――」

 

 バタッ、と誰かが倒れた。それも一人ではなく、複数が連続的に。

 

「どうしたの!? 何が――っ!?」

 

 職員の無事を確認しようと声を上げたところで、シエルもようやくこの異変を身をもって気づいた。

 

(しまった――催眠ガス!?)

 

 すぐに両手で口と鼻を覆うが、すでに遅い。先に入り込んだガスが睡魔となってシエルを襲った。

 ここに攻撃を仕掛ける理由、そして狙いはすでにわかっている。

 

(マズい……オメガが……)

 

 意識が朦朧とし、床に倒れ込む。オメガを守ろうにも暗くて左右もわからず、身体も動かない。

 そしてシエル他、アルカディア職員は強制的に眠りに落とされたのだった。

 

 全員が行動不能になったのを確認してから、天井のダクトの蓋を落として男が一人、催眠ガスが充満する部屋に入った。

 暗くて見えないが、彼はガスマスクを被って催眠ガスを遮断していた。そして手にしている唯一の光源であるペンライトで目的のブツを探す。

 程なくして、それは見つかった。

 金色の腕輪……待機形態のオメガである。

 オメガに繋がれているケーブルを全て外し、懐にしまった彼は、仲間に通信を繋げる。

 

「俺だ……オメガは回収完了。トリガー、さっさとここから離脱するぞ」

 

 男……キャリアーの任務は、静かに達成されようとしていた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 楯無はスマイルに対して攻めあぐねていた。万全でないIS、戦闘中でもニコニコとして読みきれない彼の動き。

 そして何より、人間のものから大きく逸脱した身体能力。それはガトリングを連射してもスマイルを一切捉えることができずにいた。

 床と壁と天井を縦横無尽に蹴ってスマイルは肉薄、ISナイフで楯無に斬りかかった。楯無はその刃をランスで受け止める。

 

「あなた、本当に人間……?」

 

「ふふ……」

 

 スマイルは答えず、ランスを蹴って飛び退いた。たった一回のジャンプで四、五メートルは軽く後退していた。

 

「あなたもISで見えているでしょう? 私は人ではありますが、人間はやめてますので」

 

「……………」

 

「そうですねぇ、もう一言情報を差し上げるならば……ヒュトスはご存知ですか?」

 

「ヒュトス?」

 

 聞き覚えのない単語に楯無は目を細める。

 

「知りませんか。まあいいでしょう、そういうことですよ」

 

そう言うと、スマイルは手に持っていたISナイフをポイと捨てた。

 

「さて、私の仕事は完了したようですので、これでお別れといきましょう」

 

「! 待ちなさい!」

 

 楯無の制止も聞かず、スマイルの姿は暗闇に溶けるように消えた。ISで感知しようにも、その知覚に引っかからない。

 逃げられたことに歯噛みしながらも、楯無はスマイルが残した言葉が気になっていた。

 仕事が完了したと彼は言っていた。彼はずっと自分と戦っていた。ということは、彼は陽動で本命が何かをしたということになる。

 無人ISが奪われた? いや、無人ISのコア反応は未だ学園内にある。しかし、非常にザラザラとした嫌な予感がこびりついていた。

 

「まさか……」

 

 ある可能性に思い至った楯無は、すぐプライベート・チャネルを繋げようとして、止まる。 『彼』がISを持っていないことを思い出すと、すぐに携帯から彼に連絡を試みた。

 

「……どうして! どうして出ないの!?」

 

 最悪の事態が現実となり、楯無はらしくもなく声を荒げた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「ちっ……!」

 

 アトラスは『副隊長』からの弾幕に苦戦していた。

 アサルト・イーグルは高い機動性によるヒットアンドアウェイが得意な機体である。それと同時に、『後方に逃げながら撃つ』という戦法も得意だった。常に逃げ回っては弾幕で寄せ付けない『副隊長』に、アトラスは追いつくことができずに苛立っていた。

 

(……仕方ねえ!)

 

 我慢の限界だったアトラスは、弾幕の真ん中に飛び込んだ。無数の弾丸がガリガリとシールドエネルギーを削っていくが、アトラスは構わない。

 スラスターに通常の倍以上のエネルギーを溜め込む。そして、臨界まで溜め込んだエネルギーに点火し、超出力瞬時加速(バースト・イグニッション・ブースト)を発動した。

 通常の瞬時加速(イグニッション・ブースト)を超える速度で一気にイーグルに迫る。弾丸がファーブニルの装甲を吹き飛ばしたが、構わず拳を振り抜いた。

 超加速が乗ったガントレットナックルは、『副隊長』を吹き飛ばしのっぴきならない破壊音を奏でた。

 

「ったく、これでどうだよ……!」

 

「くっ……」

 

 しかし決定打には至らず、イーグルは起き上がった。アトラスは内心で舌打ちする。

 銃をこちらに向け、すぐに撃ってくるかと思ったが『副隊長』の様子に変化があった。

 

「……撤退命令だ。命拾いしたな」

 

「あ、待ちやがれ――!」

 

 アトラスが追うより早く、『副隊長』はその場を離脱した。残ったのはボロボロのISを纏ったアトラスのみとなった。

 

「なんだってんだ全く……おい楯無、敵が撤退したぞ。そっちはどうだ」

 

 気にはなるが、今の自分ではどうにもできない。そう判断したアトラスは楯無に通信を繋げる。

 

『颯斗くんが、颯斗くんが電話に出ない! 一向に繋がらない!』

 

「なっ――」

 

 返ってきたのは、らしくない焦りを見せる楯無と、彼女の口から告げられた非常事態だった。

 アトラスはすぐ、携帯でシエルに連絡を試みる。

 

「……シエルさん、何やってんだよ! 早く出てこいよ……!」

 

 いつまでたっても繋がらない電話に、嫌でも状況を理解させられる。

 シエル本人が攫われるとは考えにくい。しかし、オメガはシエルの手元にあったはずだ。何かあったとしたら、そのオメガが狙われている危険性が非常に高い。

 繋がらないと判断したアトラスは、楯無に怒号を送る。

 

「すぐに追え!! 生身の人間運ぶのにISは適さねえ、うまくいけばまだ間に合う!」

 

 ISで最高速度を出していたら、生身の颯斗が保たない上に空を飛んでいたら確実に目立つ。だとしたら、移動手段は陸の車か海の船だ。

 指示を出して楯無との通信を切ったアトラスは、すぐに千冬との連絡を取った。

 

「……織斑先生、緊急事態です! 傘霧颯斗が拉致られた! オメガも強奪されたかもしれない!!」

 

 

 

   ◇

 

 

 

 傘霧颯斗とオメガを収奪する作戦が成功したスマイル、トリガー、キャリアーは逃走を開始していた。

 赤いサイドカー付きのバイクをエンジン全開で爆走する。キャリアーが運転しトリガーがその後ろ、スマイルは布で全身を巻かれた颯斗と共にサイドカーに座っている。改造されたそのバイクの時速は実に二百キロに達していた。

 

「名無しからの返事ー!」

 

「なんだ!」

 

 向かってくる風にかき消されまいとトリガーが大声を出した。それにキャリアーが対応する。

 

「こっちの要求引き受けてくれるってさー!」

 

「それは助かります。あとはこの荷物を届けるだけですねえ」

 

 この風圧にさらされても、スマイルの笑顔は崩れずにいた。

 

「それなんだけど、早速来たよ!」

 

「もう追いついたのか!?」

 

「いーや、前方上空!」

 

 最初の襲撃は学園とは真逆からの飛来だった。それはつまり、

 

「白式だ!」

 

「颯斗を離せえええええええええっっ!!」

 

 学園の異変を察知して駆けつけた、一夏であった。布で隠した中身も、ハイパーセンサーによってバレている。もっとも、オメガもあるのでそれでバレた可能性も考えられるが。

 トリガーはIS用ハンドガンを取り出して発砲。しかし銃弾は《雪羅》によって防がれる。

 しかし一夏がバイクに向けて放たれた蹴りも、スマイルが装備した超大型パイルバンカー《ヘルゲート・ノッカー》の装甲によって弾き返された。それにより前後が入れ替わる。

 

「パッケージのことは頼みますよ」

 

 そう言ってトリガーに颯斗を押し付け、スマイルは一夏へと飛び込んだ。

 セーフティの外れた《ヘルゲート・ノッカー》の先端を一夏に押し当てる。

 スマイルは笑顔のまま、カチンと引き金を引いた。

 

 ガ、ァァアアァアアンッッ!!!

 

 衝撃と轟音が周囲を叩きつけた。

 

「ガ、ぁ……ッッ!!」

 

 IS戦でも滅多に経験しないような衝撃に一夏は吹き飛ばされる。装甲も一部破壊されるが、絶対防御によって一夏自身の致命傷だけは免れた。

 対して、反動を受けたスマイルの方がダメージが甚大だった。反動と余波をまともにくらい、大ダメージを受けた。鋼鉄でできた右腕が粉々に吹き飛び、身体の半分近くの皮膚が剥がれて機械の身体が露わになる。

 

「さすがに、この反動は効きますねぇ……」

 

 さすがのスマイルも笑みが引きつっている。

 それでも一夏を一時的に退け、残った腕で《ヘルゲート・ノッカー》を回収したスマイルは撤退を再開すべくバイクへ走る。

 

「待てぇぇぇぇぇッ!!」

 

 そこに、瞬時加速によって追いついた楯無が怒号と共に接近していた。

 《ヘルゲート・ノッカー》は一度発射すると冷却に時間を要する。しかしそれでもスマイルにとっては全て予定調和であった。

 楯無との間に黒い影が割り込む。アサルト・イーグルを駆る『副隊長』であった。装備したガトリングを掃射、突っ込んでくる楯無に方向転換を強制させる。

 

「スマイル、早く乗れ!ハイダーでずらかるぞ!」

 

「ええ、只今」

 

「待ちなさい! くっ――!」

 

 この隙に乗じて逃走を図るスマイル達。楯無はそれを止めようとするも、『副隊長』の妨害が激しい。

 そしてスマイルが再びバイクに乗った瞬間、バイクごと彼らは姿を消した。

 

「消えた!? くそっ――」

 

 吹っ飛ばされて今戻った一夏がハイパーセンサーで探るも、一団の影も形も見えない。

 こちらの、完全な敗北だった。

 

「チクショウ……!」

 

 仲間が連れ去られた怒りに、守れなかった悔しさに、一夏は握った拳を震わせた。

 その近くで、ドガンと低い音が響いた。見ると、楯無が『副隊長』を無力化し、取り押さえていた。

 

「捕まえたわ……さあ、言って。颯斗くんはどこなの? どこへ連れて行くつもりなの!?」

 

 『副隊長』の肩を掴み、激しく揺さぶりながら楯無が問う。

 何も答えはなかった。沈黙が彼女の答えだった。

 

「……何か言ってよ! あなた、亡国企業(ファントム・タスク)の奴らを助けたってことは、奴らと繋がってるんでしょう!? お願い、教えて! 颯斗くんをどこに連れてくつもりなの!?」

 

 一夏以上に怒りで声を震わせる楯無は、一夏にとって今まで見たことのないものだった。それほどまでに必死になる彼女の目から、涙が溢れようとしていた。

 

「どうして……どうして颯斗くんばかりがこんな目に逢わなきゃいけないの!? どうして颯斗くんにばかりつらいことが起きるの!? 颯斗くんを……颯斗くんを返してッッ!!!」

 

 涙を流す楯無の悲痛な叫びが、昼の空に溶けた。




 やっぱりヒロインは泣いてる姿がいい。(ゲス顔)
 八巻・颯斗記憶喪失編はこれから展開が進みます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。