ISだが、機体は岩男でも問題ないよな?   作:暁楓

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 第六話です。
 ようやくスタートラインに立ったってところかな?


第六話 エックス

 ドアが二つに分かれてスライドしていく。

 そうして開かれた扉の奥で俺を待っていたのは、青の姿だった。

 ややくすんでいるようなその青は、持ち主を待って眠りについているかのようだった。あの物語では三対あったはずの翼は現在一対のみ。これは初期装備としての形状故のことだろう。

 

「颯斗さん、お久しぶり。そしてこれが、オメガ完成までの間代用的に専用機として扱ってもらうIS――『エックス』よ」

 

 IS・エックスの隣で待っていたシエルさんがそう言った。

 IS学園に戻って約一週間。ようやくこの学園に、『本国』から専用機と技術者が到着したのだった。

 エックスの姿はコピーエックス第二形態のものだった。しかし比較した時にこちらの方がやや角張った印象があること、そして何より脚――正確には脚部装甲――があることが、これが『物語のキャラクター』ではなく『ISの機体』であることを実感させる。

 

「傘霧、乗れ。お前の模擬戦用にこのアリーナを貸し切っている時間は限られている。初期化(フォーマット)及び最適化(フィッティング)は実戦でやれ」

 

 そう言って俺をここまで連れてきた織斑先生は急かす。言われるまでもなく、俺はエックスに乗り込む。

 背中を預け、座るように乗る。空気が抜かれ、エックスが俺の体に密着し、一体になる。

 

「エックス、各種機能正常。颯斗さん、気分が悪かったり、どこか異常はない?」

 

「――大丈夫です。行けます」

 

 真横という本来なら死角にいるシエルさんの不安そうな表情が、ハイパーセンサーによってはっきりと見えている。

 エックスの手を軽く握ったり離す。大丈夫、思い通りに動いてくれる。

 

「颯斗さん、出撃する前に注意事項を一つ」

 

 先程から打って変わって、シエルさんが真面目な表情で話しかけてくる。

 

「エックスはフォーマットとフィッティング……つまり一次移行(ファースト・シフト)を行うと本来の機能と姿になるけれど、同時にオート制御じゃ機動力を生かしきれなくなるため、マニュアル制御に切り替わるように設定されているわ。マニュアル操作はすでに経験してるって聞いているけど、制御できないみたいなら試合は中止すること。いい?」

 

「わかりました。じゃ、行きます!」

 

 カタパルトによって俺とエックスはハッチから飛び出した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「お、それがお前の専用機か?」

 

 待っていたのは、先日の約束通りに相手としてここに来た一夏と、純白の専用機――ISネーム『白式』。戦闘タイプ近接格闘型。現在第二形態、名称『雪羅』――だった。手にはすでに彼の獲物――検索、右手武器、近接特化ブレード『雪片二型』、左手武器、多目的武装『雪羅』と一致――……ああもう知ってるよその情報!

 

「今のところはな。現在フォーマットとフィッティングの最中だ」

 

「そうか。じゃあ待つか?」

 

「馬鹿言え。織斑先生にどやされるぞ」

 

「う、それは嫌だな」

 

「だったら来い。訓練機である程度操縦もやってるから」

 

「わかった。じゃあ……」

 

 ――警告。敵IS加速態勢に移行。

 

 エックスが脳内に直接伝えてくる警告に身構える。

 ……来る!

 

「いくぜ!」

 

 ――警告! 敵IS接近。近接攻撃態勢に移行。回避を推奨します!

 

「うおっ!?」

 

 警告の内容などほとんど見えてない内に身体が左へと引っ張られる。それがエックスが回避を行った結果であること、そして回避しきれずに右肩から右手にかけて装甲に亀裂を入れられたことを知るのには時間を要した。

 

 ――バリアー無効化。シールドエネルギーにダメージ。シールドエネルギー残量509。

 

(ったく、来いとは言ったが、いきなり零落白夜使うか普通!)

 

 だが、それでいいとも思う。こちらがまだ準備段階だろうが何だろうが、相手が本気で、それに本気で対処しようと思うからこそ戦いになる。

 

「くそ、武器は!?」

 

 ――現在展開可能な装備の一覧を表示。

 ・腕型マルチ射撃武器『(イクス)カノン』。常時展開状態。現在使用可能レンズ、連射型レーザー一種。切り替え不可。

 ・近接用プラズマブレード『名称未設定』。

 ・右腕用中距離実弾ランチャー『ソドム』。

 

 ……ん?

 え? この腕……武器なの? それにレンズって……あ、手のひらにレンズみたいなのがある。これか?

 

「って、うおぅっ!」

 

 考え事してる間に今度は撃たれた。予想外に効いて、シールドエネルギー残量が400を切った。

 

「ええい、やってやる!」

 

 両手を一夏へと向ける。一体どういうイメージかはわかる。問題はその通りになるかだ。

 手のひらのレンズに光が集束し、次の瞬間、光の弾丸が一夏に向けて連射された。

 だが、避けられる。当然だ。一夏はもう、これ以上の弾幕を経験済みなのだから、この程度では届かない。

 

「はああっ!」

 

「く……っ!?」

 

 斬撃をすんでのところで回避したが、続けざまの雪羅のエネルギークローがエックスの片翼を切り裂いた。

 スラスターである翼の片方を失い、バランスを崩して急降下する。

 なんとか墜落前に態勢を立て直すことはできたが、片翼を失ったのは大きい。

 

「容赦ねえなおい」

 

「う、悪い。やりすぎた」

 

「いーよ。むしろこの方が面白いし」

 

 プラズマブレードと『ソドム』を呼び出し(コール)。右手にランチャー武器『ソドム』を、左手にプラズマブレードを装備する。

 ソドムはロクゼロのネオアルカディア四天王の一人、闘将ファーブニルの武器をエックスに合わせて青くしたようなものだった。ちなみにもう一方はただのプラズマブレードだ。多分。

 

「このまま容赦はしなくていいから。いくぜ!」

 

「おう、来い!」

 

 武器を装備した俺は一夏へと突貫した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「あちゃ〜。やっぱり初期性能対第二形態だと分が悪いですねぇ……」

 

 モニタールームで観戦している一組副担任、山田摩耶はやっぱり、といった表情を浮かべて声を漏らしていた。モニター内では、颯斗は一夏に押されているのが目に見えてよくわかる。

 しかし同じく観戦していた千冬はフンと鼻を鳴らして否定した。

 

「あの馬鹿……ペースも考えずに中途半端に攻めていては負けるぞ」

 

「へ? なんでですか?」

 

「山田先生もわかっている通り、傘霧のISは現在初期性能で、これから一次移行を行うところだ。一次移行がされれば、シールドエネルギーは回復しないもののほぼ全てのダメージが回復される上、初期設定として抑えられていた機能が解放される。そうなった時にエネルギー切れなど起こしていては、完全な詰みだ」

 

「ああ、なるほど」

 

 その上一夏はこの模擬戦が颯斗のISを一次移行させるためのものだと意識して墜とさないようにしているのだから、なおさら白式のシールドエネルギーがただの無駄遣いにしかなっていない。

 一方、シエルは席を一つ借りてエックスのデータ取得を行っていた。

 モニターに表示されている水流のごとく高速で流れているデータを一つも見落とさず、そして目にも止まらない速度でキーをせわしなく叩いている。

 それだけでも十分すごいのに、時に手を止めて颯斗を応援しているのだからさらにすごい。なお、その間にもデータは入ってきて、逃さず目を通している。

 

「颯斗さん、頑張って……!」

 

 モニター内で一夏に初期性能で必死に食いついている颯斗に、シエルは微笑みを浮かべて応援した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 模擬戦開始から約三十分。

 三十分間の戦闘で両翼共に壊れ、Xカノン、ソドムは弾切れを起こし、プラズマブレードも壊れてしまった。俺自身も、激しく動き回ったために息切れを起こしている。

 

「颯斗ー、大丈夫かー?」

 

 未だに装甲に傷のない一夏が訊いてきた。傷がないと言っても、白式の機能でシールドエネルギーは残り半分近くまで削れている。俺への手加減をしていたため、ある程度シールドエネルギーに余裕がある方だろう。

 

「な、に……まだまだ大丈夫だ。それに……」

 

 だが、まだ勝つ望みがある。

 三十分経って、その準備はできた。

 

「勝負はこれからだからな!」

 

 ついさっき出てきたウィンドウ。フォーマット完了を示すそれの確認ボタンを叩く。

 

 キイィィィン……!

 

 エックスの装甲が光に包まれる。機体の損傷がリセットされ、新たな装甲に更新される。

 くすんだ色から、澄んだ美しい青に変わる。

 装甲がより滑らかに、シャープな形となる。

 そして、背中の翼が増え、三対の大型の翼となる。

 これでエックスは本来の姿となり、同時に俺専用となった。

 

 ――フィッティングが完了しました。

 ――機能解放、並びに制限されていたエネルギーが使用可能になりました。

 ――Xカノン、レンズが切り替え可能になりました。

 ――制御モードがオート制御からマニュアル制御に変更されました。制御にはご注意ください。

 

「……よし」

 

 ググッ、と走り出すような態勢を取る。ガココン、と駆動して翼状スラスターの噴射口が六つ、姿を現す。

 翼……スラスターの数は三倍。加えて初期性能から本来の性能に変更されたから、仮に性能変化による上昇率が二倍だとすれば単純に考えて六倍速。当然ながら、俺は高速機動なんてやったことがない。

 だけど、なんとなくいける気がする。やれる。エックスが俺に合わせてくれる、と。

 

「――いくぞ」

 

 次の瞬間、目の前に映ったのは一夏の後頭部だった。

 一夏はついさっきまで俺がいたはずの場所を見たまま、何が起きたのかわからず焦っている。俺もほとんどわかっていない。だが、相手が理解しきれない速さで(・・・・・・・・・・・・・)相手の背後を取ったこと(・・・・・・・・・・・)だけ理解できれば十分だった。

 理解が遅れて行動も少し遅くなったが、それでも相手が気づく前に手であり武器であるXカノンを押し付ける。

 

 ドガンッ!

 

「ぐあっ!?」

 

 強烈な一撃を与え、一夏を叩き落とす。

 

(よし、レンズの切り替えはうまくいってる)

 

 機能が解放されたXカノンはレンズを切り替えることで多彩な射撃モードを取ることができる。デフォルトである連射型に加え、今撃ち込んだ近距離で威力を発揮する散弾型、レーザーで薙ぎ払う照射型、壁で反射する跳弾型、そして特殊な拘束リングを射出する捕縛型の五種類が存在する。その五種類のレンズを左右別々につけることが可能であり、組み合わせパターンは実に二十五通り。左右を考えない組み合わせでも十五通りであり、その組み合わせの多彩さはラファールにも劣らない。

 左のXカノンのレンズを連射型に、右のレンズを跳弾型に変更。

 撃つ。連射型は初期状態から大幅に連射性が上がっている。加えて、跳弾を壁で跳ね返して一夏の側面を狙う。

 エネルギー弾であるXカノンでは雪羅のシールドは突破できない。しかし、雪羅のシールドは向けた方向しか防げないため、突破できずとも回避すればいい。

 

「くっ!」

 

 案の定、一夏は回避するしかない。

 左の射撃は維持して、右レンズを捕縛型に変更。一夏の軌道を狙って発射。

 

(……よし、捕らえた!)

 

 拘束リングはレンズと連動しているため、右レンズを変えると拘束が解かれてしまう。

 だが今の相手のシールドエネルギー残量と照射型の威力なら左だけでも十分だ。左レンズを照射型に変更。照準を合わせ、チャージ。

 

「チェック。通るか!」

 

「まだまだぁ!!」

 

 一夏は雪羅の零落白夜で拘束リングを無効化、続けてレーザーも無効化する。

 さらに一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)の態勢に入った。

 

「チッ!」

 

 射撃――は考える前に否定。左手のレーザーはチャージがいる。間に合わない。右手の拘束リングは弾速が遅いためダメだ。レンズを変えて撃つのも時間がかかるため却下。ソドムもブレードも後付け装備であるためXカノンと違って修復されていない。第一呼び出している内に斬られる。

 回避――もダメだ。エックスの速度に俺が追いつけてない以上、下手したら壁に激突してエンド。激突しなくても対応に遅れたところを追撃される。

 だったら……

 

「うおおおおっ!」

 

 一夏が爆発的加速で来る。

 俺は、一夏目掛けて加速した(・・・・・・・・・・)

 

「へ?」

 

 六枚羽による加速で目と鼻の先になった一夏が呆けた顔をしてる。

 瞬時加速している一夏。そこに真正面から高速で突撃したらどうなる?

 

 ド―――――ンッ!!!

 

「「ぐぇっ!!」」

 

 二人仲良く墜落する(こうなる)

 

 

 

   ◇

 

 

 

「馬鹿かお前は。ああいう時は回避して射撃を再開しろ。できないと思ったは言い訳として認めん」

 

「はい……」

 

「織斑も、手加減するのか勝つのかはっきりしろ。あんなエネルギーの無駄遣いしては勝てる勝負も勝てんぞ」

 

「はい……」

 

 試合後、俺も一夏も怒られた。相手が織斑先生だからある意味当たり前か。

 結果は両者共に超高速正面衝突によってシールドエネルギーが0。引き分けである。

 

「傘霧は明日から訓練に励め。暇があればISを起動しろ。織斑もだ。鍛錬を怠るなよ」

 

「「わかりました……」」

 

 頷く他はない。一夏以上に経験値不足であるため、本当に暇な時間全てをISの訓練に注ぎ込むつもりでやらないと追いつけないかもしれない。あれだ、夏休みなんてなかった。始まる前なのに。

 

「傘霧くん、これで傘霧くんは専用機を手に入れた訳ですが、ISを所有するに当たって規則がありますので、これをちゃんと読んでくださいね」

 

 『IS起動におけるルールブック』という名の電話帳を手に入れた。

 詰め込み勉強をしすぎると死ぬぜ? 俺が。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それとも――」

 

「どうでもいいんで部屋に入れさせてください」

 

「ちぇ、つまんないの」

 

 頬を膨らませた楯無さん(制服姿)がちょっとかわいいと思ったが、別に言わなくていいか。

 部屋に入ってベッドに腰掛ける。このまま横になって寝たい気分だったが、我慢しておく。

 

「試合見せてもらったわよ。なかなか健闘したんじゃない?」

 

「その後織斑先生に怒られましたけど」

 

「そりゃああんな特攻はするものじゃないわよ」

 

 ごもっともです。

 

「ま、明日からはそのエックスを乗りこなせるよう特訓しましょ」

 

「よろしくお願いします」

 

「うんうん。素直な子は好きよ?」

 

「さいですか」

 

 適当に流しつつ、俺は右手を見る。

 青いオープンフィンガーグローブ。これが待機形態のエックスの姿だ。アクセサリーじゃないとかいうツッコミはなしだ。俺もツッコミたいけど。

 これからオメガが完成するまでの間、このエックスと共に空を駆ることになる。いくつかの事件もこいつと戦わなければならない。

 

(よし、頑張ろう)

 

 みんなに迷惑をかけないように。あわよくばみんなを助けられるように。

 その決意と共に右手を握り締めた。




 そういう訳で颯斗がギリシャ所属なって専用機(仮)をゲットしました。
 エックスのスペック、各種装備は次の更新で紹介します。ついでに颯斗の紹介もしておきます。
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