あと、前回にエックスと装備の説明を一部改正しました。
八月。IS学園は夏休みに入った。
俺は夏休みに入る前から特訓。夏休みに入ってからも特訓。とにかく特訓。ひたすらエックスに乗って、ひたすら飛ぶ。今も飛んでいる。
楯無さんというコーチから授かった特訓メニューとは、
「颯斗くーん、もうちょっとで被弾数が三百超えるよー。集中ー」
「は、はい!」
三十分間弾幕を避け続ける訓練である。反撃不可。
相手はこちらを狙って撃ってくる固定マシンガン砲台×10。アリーナの壁に沿って設置された砲台からの弾幕をひたすらよける。これが始まってから今日もずっと行われている訓練である。なお、砲台から発射されている弾は通称『訓練弾』と呼ばれるもので、相手に当たれば着弾判定は出るがダメージは一切なく、あらゆる弾種に設定可能というものだ。文字通り訓練で使われる。
「被弾数三百超えたわよ。もっと集中しなさい」
「わ、わかってます!」
この訓練の目的はエックスの機動力を生かせるようにするためというのもあるが、それ以前に戦闘を成り立たせるためである。
機能が解放されたエックスはマニュアル制御状態、つまりは制御は自分でやっていかなくてはならない。移動するための制御ができなければ試合どころの話ではない。なのでまずはそれを徹底的に磨き上げるということなのだ。
しかし結果はご覧の有り様、開始から約二十分で被弾数は三百二十七発。実戦では確実に墜ちている。
被弾数を箇所別に割り出すと一位はダントツで翼。三分の二、約二百発がエックスの命とも言える翼に当たっている。理由はなんといっても翼が大きいから。俺自身に当たらないように回避しても翼に当たってることが多すぎる。
弾幕回避ってどうやんの? 訓練が始まった頃に一年専用機持ち(一夏と女子五人)に聞いてみたら、
一夏の場合。
「雪羅で防いで突貫する」
箒の場合。
「ズババッといってビシッ! ズバッ! という感じだ」
セシリアの場合。
「回避時には上半身を斜め上後方へ十度傾けて後退、それから回避したい方向へ三十度反転してさらに弾幕密度が最も低い地点へ上半身を(略」
鈴音の場合。
「そんなの感覚でどうにかしなさいよ、感覚で」
シャルロットの場合。
「後退してから弾幕の張られてないところに避難するか、弾幕の薄いところを突き進んで突破するのが現実的じゃないかな」
ラウラの場合。
「AICの前では弾幕など意味がない」
……シャルロット以外まともなこと言ってねー!
特殊能力で対処できる一夏とラウラはまだわかる。セシリアは細かすぎるだけで案外シャルロットと言ってることは同じだった。
だが箒と鈴音、おめーらはダメだ。箒は擬音が理解できない。そして鈴音、感覚でできるものならそもそも訊こうとなんてしないわ阿呆。
「颯斗くん、今女の子のこと考えてたでしょ。えっちぃなあ」
「いやらしいことは考えてません! ちょっと箒と鈴音をディスってただけです!」
「あ、そうなの? 後で本人に言っちゃおっかな〜」
「やめて!!」
開始から三十分経過、被弾数が五百発超えたところで弾幕が止まった。
「なかなかうまくいかないわねぇ」
「す、すみません」
目標は最低でも分間被弾数一ケタ。今回の場合は被弾数五百四十八発だったので、一分につき約十八発受けた計算になる。
現状、エックスの速さに振り回されている感じだ。エックスは速度に極振りした機体。ようなではなく断言しているところがミソ。シエルさんも公認の極端仕様によって、公式IS(箒の『紅椿』はどの国家にも所属してない束製なので非公式とする)の中ではダントツで最速らしい。
しかし極端に速い分操作性も極端に悪い。コンマ一秒の遅れで壁に激突とか何度もあった。そういうのがなくなっただけ俺も進歩した方だと思う。
回避もただ弾幕をよけるだけなら超速度を使えば弾幕の範囲外まで避難することは簡単だ。ただしエネルギーの無駄が生じる。エックスはスラスターを六機搭載しているため速いが、その分エネルギーの消費もマッハレベル。多分消費の早さは一夏の今の白式といい勝負なんじゃなかろうか。
それでエネルギーを節約するためにも今の訓練、すなわち『無駄な動きをせずに弾幕を回避する』ということなんだが……うーん。
「難しいですね」
「とは言っても、習得してもらうわよ」
「はい……」
楯無さんはスパルタである。知ってはいたけど。
一方、俺の専属技術者であるシエルさんは今回や前回までのデータを参考にエックスの出力調整の計算をしていた。
シエルさんが毎回出力を計算し、それをエックスに入力、俺がそれに乗って楯無さんの訓練を受ける。といった感じで訓練は進んでいる。
「颯斗さん、エックスの出力を調節するから、コンソールを出してくれる?」
「あ、はい」
俺がコンソールディスプレイを展開すると、シエルさんはそれに自分用のディスプレイを接続、操作を開始した。
一言で言うと、速い。それしか理解できなかった。両手の上下に展開された計四つの……カスタム・キーボード・スフィアって言うんだっけ……? で、とんでもない速さで数値を打ち込む。もうどれがどれでどうなってるのか理解できない。……って、解説してる間に打ち込み終わったし。
「数値の調整をしてみたわ。これで少しは操作しやすくなったと思うけど」
「じゃ、やりましょうか」
あ、はい。
この訓練、大事なのはわかるけどさ……この訓練“だけ”をひたすらやってるから、個人的には射撃訓練とかもやってみたくなるんだよね。
楯無さん曰わく、
「機動力完全重視の機体なんだから、完璧レベルまで飛行技術を磨くわよ」
シエルさん曰わく、エックスを使った完璧な飛行技術とは、
「熟達すれば、トップスピードのままスラスター六機の個別稼働が行えるようになるから、完璧と言ったら最低でもそれくらいは必要じゃないかしら」
オメガが来るまでずっとこの訓練しかできないんじゃなかろうか。
◇
「あ、颯斗さん。よかった、すぐ見つけられて」
「シエルさん?」
数日後。今日は楯無さんは仕事のため数少ない休みの日である。夏休みなのに休みが少ないというのはいかがなものであろうか。
それはともかくとして、シエルさんは暇を持て余して廊下を歩いていた俺を呼び止め、手にしていたものを差し出してきた。
「はい、これ」
「これは?」
手渡されたものは封筒だった。なんかの書類か?
中を見ても大丈夫そうなので開けてみる。これは……チケット?
「ギリシャへの特別渡航チケットよ。政府要人が乗る飛行機だから、主に政府や企業とかから呼び出された場合に限るわ。なくしたりしないように気をつけてね」
「はあ」
「それで……颯斗さん」
「なんですか?」
シエルさんは頬を掻いて、少し言いづらそうに言った。
「いきなりだけど、それの出番だわ」
「はい?」
よくわからんが、俺の休みが蒸発したことだけは理解できた。
◇
あれよあれよという間に政府要人専用の飛行機に乗ってギリシャへ。
で、現在ギリシャのどこにいるのかと言うと、
「ハヤト・カサキリ、ようこそギリシャへ。今回は『マガジン・アルカディア』のインタビューを受けてくれてありがとう。私はネージュ・ファーラ、よろしくね」
「……………どうも」
マガジン・アルカディアとは、ギリシャでよく読まれている週刊誌だそうだ。IS特集とかが特に人気だそうで。ここはその編集をしている会社である。
今の相手の言葉でわかる方もいるだろう。つまりそういうことだ。
要するに、俺の記事が組まれるらしい。
「……こういうのに特権使って飛行機乗るって、ありなんですか」
隣にいるシエルさんに訊く。シエルさんは苦笑いしながら、
「えっと、一応本国の研究所で開発されているエックスやオメガの装備の試運転や機体整備が本命で……」
「……………」
「……ごめんなさい。彼女、昔からの友人で断りきれなくて」
ジト目で見つめていたら肩を落として白状した。
「女の子イジメるのはよくないわよ〜」
その様子を見ていたネージュさんがヒラヒラと手を振って割って入る。
なお、ネージュさんは赤髪でボーイッシュな感じの人で……まあ要するにゼロ4のネージュを大人にしたような人だった。……割と入れまくってるな神様。
俺はやや大げさなため息をつき、気は進まないが彼女の方に向き直った。
「さあ、始めましょうか」
ネージュさんがそう言って録音端末のスイッチを入れた。
ちなみにだが、ギリシャ所属となってからはシエルさんにギリシャ語を教えて貰っているのだが、未だにさっぱりである。そのため通訳がついてる。
「それじゃあいくつかあなたに質問するわね」
「……答えられる範囲でどうぞー」
「最初の質問は、ギリシャを選んだ理由。IS委員会で、色んな国から勧誘を受けて、どうしてギリシャを選んだのか教えてくれない?」
「いきなりそこですか」
「一番聞きたいのがこの辺りなのよ。待遇なのかISなのか、あ、勧誘したのがシエルだから、ひょっとしたらシエルに惚れたっていうのもありかしら」
「ネージュ!」
ネージュさんの冗談に照れながら叱るシエルさん。だけど俺の場合はある意味間違ってなかったりする。
「……まあ、シエルさんの信念というか、そういうものに惹かれたっていうのもありますね」
「その話を詳しく」
「ちょ、ちょっと!」
「嘘をついたり、騙したりして引き込むようなことはしたくないって、勧誘の時にシエルさんはそう言ったんですよ。別に他国が嘘を言っていたとは思いませんけど、シエルさんの場合、欠点とかもはっきりと仰っていて、ホントに正々堂々って感じで、他にはないなって。……あ、言っておきますけど、恋とかそういうことはありませんからね?」
「なーんだ」
興味津々に聞いていたネージュさんは、俺の最後の一言で一気にテンションを下げた。いや、普通に考えてなしだろこれは。俺十六だぞ。シエルさんは歳は知らないけど二十歳は確実にいってるだろ。歳の差カップルとかそんなのないから俺は。
一方シエルさんは自分の暴露話とあってか恥ずかしそうに俯いていた。
「じゃあ、そんなシエルの話を聞いて、あなたはどんなIS操縦者になりたいと思ってるの?」
「えーと……これはどの国に所属するかちょっと迷ってた時に、相談相手から聞いた話ほぼまんまなんですけど……自分と仲間を守れるようになりたいなって、そう思ってます」
「へえ、いい心構えじゃない。仲間は俺が守る! ってやつ?」
「まあ、はい」
あながち間違ってないので頷く。
「なるほどねぇ。じゃあ次にIS学園での生活。男性としてのあなたの感想は?」
「……そういうのって、やっぱり気になるんですかね?」
「当たり前じゃない。女の園に紛れ込んだ二人の男子。気にならないはずがないでしょ?」
「そうですね……まあ、クラス、学年問わず美人ばかりですよね」
「男子にとっては楽園でしょうね。それで?」
「ただ、ね」
「ん?」
「現在、IS特訓のためということで先輩の女子と相部屋なんですけどね。いい加減、男同士で気兼ねの必要がない生活を送りたいなあって……」
「そう? 美人と同棲生活なんていいじゃない。もしかしてホモ?」
「いや、嬉しくないとは言いませんけど。男女的に気を使わないといけないですし、そういうのを意識しない生活を送りたいなっていうことです。あと、ホモじゃありませんから」
「ふーん。ちなみに、今同棲してるのはどんな子?」
「そこまで訊くんですか……」
こんな感じでしばらく雑談も含めながら質問と応答が続いていった。
「じゃ、インタビューはこれぐらいにしましょうか。次に撮影するから、こっちで用意した衣装に着替えて」
録音端末のスイッチを切って簡単に片付けをしながらネージュさんはそう言ってきた。
「……え、撮影もするんですか」
「当然。せっかく来てもらったんだから撮影しなきゃもったいないでしょ」
さいですか。
◇
「……これ、変じゃありません?」
「そんなことないですよ! すごくカッコいいです!」
着替えた結果、俺はスーツに身を包んでいた。
純白という言葉が似合う真っ白なスーツで、ネクタイやらなにやら全て白。ついでに用意された革靴も白。そのため手や顔の肌色や髪の毛の黒が異色のように思える。
慣れないスーツ姿にどこか落ち着かずに言ってみたのだが、やや興奮気味で顔を赤らめているスタッフがそう返してきた。少なくともこの人の受けはいいらしい。
「さ、行きましょう! カサキリくん入りまーす!」
スタッフに押し出され、撮影スタジオへと踏み入れる。
スタジオに入って早々、ネージュさんやスタッフ達の「お〜」という感嘆の声が聞こえてきた。
「なかなか似合ってるじゃない。さ、早く撮影やるわよ」
「はあ」
早速撮影開始。立ったり椅子に座ったり、途中で衣装チェンジしたり。指示も細かくて少し苦労もした。
あと印象的だったのは……
「さて、じゃあカサキリくん、ISの腕だけ展開してくれる?」
「え、IS展開するんですか? てか、ここで展開していいんですか?」
「大丈夫よ、許可もらってあるから。IS操縦者の写真撮影する時って、ISを部分展開した姿を撮ることも少なくないわ。兵器運用が規制されてる分、その他の部分で有効利用させてもらってるってことね」
そういうことでエックスを展開した。……ISの表紙で各キャラの部分展開絵があるのって、こういうことだったのか?
あと、俺がエックスを操縦しているのは一時的だということを知っているのか、ネージュさんが「その内プレミアつくわよー」とか呟いていた。
そして撮影が終わり、会社を出る。見送りでついてきたネージュさんは撮影の出来がよかったのかほくほく顔だった。
「ありがと。おかげでいい記事書けそうよ。またインタビューさせてね」
「えっと、シエルさんを困らせないようにお願いしますね」
「はいはい。じゃあねー」
手を振って見送るネージュさんに礼をして、俺とシエルさんは車に乗り込む。なお、車は黒光りしたいかにも高級そうな車だ。車種は知識ないんで知らん。SP付きなのが割と大事なところ。
俺とシエルさんを乗せた車は、次なる目的地を目指して発進する。
「生まれて初めてインタビュー受けたのが海外なんて思いもしませんでしたよ」
「ごめんなさい、大変だったよね……日本ではマスコミとか来なかったの?」
「政府の要人保護プログラムで、マスコミとの接触が遮断されてました」
しかしそれはあくまでも俺に対してのみであり、マスコミは両親にインタビューをしていたみたいだけど。テレビで知った。
「そうだったの……でも撮影の時の颯斗さん、カッコよかったわ」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。……で、次はどこ行くんですか?」
「私達の研究所、アルカディアに向かうわ。インタビューの時にも少し言ったけど、エックスやオメガの開発に協力してほしいの」
そう言ってシエルさんはパチリとウインクした。
車は街から離れた山奥にある研究所『アルカディア』へと進んでいた。
描写はしてませんが、颯斗は一応インタっビュー自体は了承しています、ということでちょっとしたツッコミ対策をさせていただきます。
では皆さん、よいお年を~。