目色が変わった日 作:カナーさん
…私が彼に会ったのはただの偶然だった。
その日私は何時もの生活を送っていた。
それが目ざとく変わったのはどれくらいの月日のことだったか。
「ん……うん?」
私は何時ものように部屋の中で自身の目である能力を使用していた。
最初こそ見える範囲は視界内だったこの能力は目に見える成長を遂げ現在では屋敷内全てを見据えることができる。
最初こそ嬉しさが占めていたが今となってはつまらないという感情が大きく、次は私の家_紅魔館の外壁であるがゆくゆくはその外まで見渡すのが私の目標だ。
そんな中見つけたモノ。
場所は私の部屋の近く。というか壁である。この部屋唯一の外との繋がりである扉から真っ直ぐ進んだ所にある変哲のない壁。それが私の目に留まった。
能力を切り肉眼で視てみるがやはりただの壁。しかし能力で俯瞰して目を凝らす。やはりだ、歪んでいる。
それはまるで水中で目を開けた時の風景といえばよいのか、真夏の陽炎といえばよいか、度の合わない眼鏡をはめたようなぼやけがそこにはあった。
暫く目を凝らすがそれ以上は見えず私は能力を切った。
「…灯台下暗しってこういうことを言うのかしら」
迂闊であった。まさかこんなにも興味がそそられるモノがまだこの家に存在するとは。
自身の行いを想起してみる。
なるほど確かに。この部屋の最初の目の被験者はクマのぬいぐるみであった。以降も机、本、本棚、ベット、蝋燭、蝋燭台、絵画、皿、グラス、人…独立した形を持った物しか見ても壊してもなかった。壁なんて以ての外。余波で壊した事はあるけれどただの壁を凝らして見ることなどただの一度もなかった。
近づいて手で触れてみる。やはり変わらない。私はそのまま壊そうとしたが少し考えて距離を置いた。吸血鬼の力で壊すにしろ能力で壊すにしろ今着ている服を汚すのは躊躇われた。
スッと腕を挙げる。私が能力で壊す時のスタイル、ルーティンだ。昔は違ったが、今ではただ手を握るのと腕を挙げ握るのでは破壊の精度は見るまでもない。
目の前にあるのは未知。未だぼやけるが輪郭は捉えた。目も補足し手繰り寄せた。
汗が頬を伝う。
ここまでするのにそれほど時間は経っていないはずなのだが身体は上下に動き呼吸は荒い。自身の心臓の動きに合わせ体が伸び縮む。まるで体力の保つ限り走り続けたかのような、そんな身体の緊張を感じとった。
(…後は、握るだけでいいの…に…)
そのだけが重い。だけど私は握った。歯を食いしばって握り潰した。
壁が音を立てて崩れた。
崩れると同時に私は立っていられなくなりその場にペタンっと座ってしまった。
そのまま壊れた壁を見続け
「よし!」
とガッツポーズをした。その時の私は気分がすこぶるよくなった。
認識阻害でも問題なく能力が通ずるということがわかったからでもあったが、やはり達成感が大きいのだろう。
やりきった感というのは悪くないなっと壊れた壁を見ながら思っていた。
「ウ…フフ…フ…」
久しく進展というのがなかったからなのかこの一歩に対する感情が収まらない。口を抑え止めようとしているのだが、止まる様子はない。むしろダムの崩壊とでもいうようにひびが大きくなって収まりがつかない。
そこにある物が目に付いた。ピタッと表情筋のひびが治まる。
「階段?こんな所に?」
生まれてからこの屋敷で過ごしてきたがここより地下あるなんて話は聞いたこともない。
覗いてみる。私は探偵でもなければ警官でもない。だからこれを見てわかることは少なかった。壁を見、あまり使われなかった、使われなかったんだな程度しかわからなかった。
高さは美鈴でも通れるくらいで、横幅は二人くらいなら余裕かなという程度。
私の部屋の近くであるはずなのに損傷は見当たらなかった。
覗けば覗くほど怪しい階段。だが私には恐怖心はなく好奇心が先程の変わりというかのように溢れ出す。
気づけば私は近くにあったクマのぬいぐるみを持って階段の奥へと歩みを進めていた。
階段を降り続けているなか、私は自分自身に対して能力を使用していた。罠の可能性もあったからだが、一番はなにかあっても見逃さず捉えるためだった。
そして心配していた罠や見逃しはなく、底についた。
その場所は階段と違い私が近づいてもぼやが晴れることがなく距離感が曖昧だった。
顎に手を当て俯いて能力を用いて、おおよその距離を測ろうとしたそんな時だった。
「…お客さんかな?」
バッと声をしたところへ俯いた顔を瞬時に上げ、目を向けた。
全身を黒い包帯を巻いたミイラのような男が壁を背に床に座り私を見ていた。
私は男の姿を確認してからすぐに行動は移さなかった。移せなかった。なんせ私からしたら目と鼻の先といっていいほど近くにいて気づかなかったのだ。警戒もする。
「…あぁ、確かにこんな
黙り込んで動かない私に痺れを切らしたのか男は口を開いた。
内容は至極くだらないものだったが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「(目が見えない…)」
そう見えなかったのだ。能力に目覚めてから目が無い相手は初めてであった上に、ぼやけているのではなく切り抜かれたように見えない相手も初めてであった。
初めてこの万能感から逸脱してしまい恐くなっていた。
でもそれも刹那のこと。確かに万能な目がなくなったがこの身には頑強な体がある。
それに相手はグルグル巻で拘束されている。恐れる点などない。
そう気づくと自然と身体の強張りもなくなり冷静に目の前の男を見やる。
「君は誰だい?そしてここはどこなのかな?」
この男の会話に乗ってやる必要はないのだが、この状況をどうとでもできる私は素直に探究心を抑えられず
「フランドールよ。フランドール・スカーレット。ここは家の地下の地下。あなたは誰?」
と思わず応えてしまった。
「これは親切に、どうも。わたしはふむ、なんだったかな名前名前…フィート、だったかな」
まあ好きに呼んでくれっと男は言った。怪しさ満点で。
「ここは何なの?そしてあなたにはなぜ目に見えない?その拘束は?なぜこんな所で拘束を?食料は?いったい何年ここに?」
生憎私には彼の名前にそれほど興味がなかった。まあ偽名ぽいのもあったが彼の纏っている物に興味があったからだ。だから名前については触れなかった。
「おいおい他人に質問するときはゆっくりと。そして一つずつだ。一気に言われてもわたしの口も脳も一つずつしかない故、喋ることも理解するのも限度がある。
まあ、最初の質問は答えよう。ここについてはよく知らないが心当たりがある。ここはわたしの最後の風景。わたしはここに連れてこさせられ拘束された。つまり拘束部屋だな。放置部屋でもあるが」
ハッと最後の一言には皮肉たっぷり込めたようにそう終わらせた。
拘束されてから誰もここに来なかった…という解釈でいいのだろうか。
「食料は?」
「見ての通り自分では食えない。その上ここには食料はおろか誰一人来なかったよ。あんた以外はね」
解釈はあっているようだ。餓死はしないのだろうか。
「ここにはどのくらい?」
「さあ?ここには何もないし、この身は動けないのでね。時間なんてわからないよ」
「なにかないの?音とか睡眠とか外の様子とか」
「生憎これっぽちも」
「そう。じゃあ次の__」
「おいおい待てよ。何一方的に質問してんだよ。そろそろこっちだろ」
まあ、興味は尽きないが確かにそれで相手が満足するならいいかと思い。どうぞっという意味を込めて手を振った。
「まずは、ここはどこだい?家の地下の地下という話だったが」
どこの地下かを聞いているのだろう。言葉足らずもいいところだ。
「ここは紅魔館の地下のさらに地下よ」
「紅魔館…あ、スカーレットの屋敷か。
なるほど。ここはスカーレットのところだったのか…え、まじで?」
どうやら男はスカーレット家を知っているようだ。
声のトーンを今よりも真面目にして聞き直してくる。
「大マジよ」
なのでまじめなトーンで返す。
「…わたしの記憶だと確か吸血鬼が支配したような。あ、うん。してたね。ということは」
チラリっとこちらを見てくる。
「…後ろの綺麗だと思っていたのは木の枝ではなく、羽根っということか」
「そう?ありがとう。初めていわれたわ」
姉が吸血鬼なので妹の私も同じく同種なのだが私の羽根は姉と違いコウモリのような姿をしていない。男が言ったように木の枝のようで。だから姉と比べ、いや同種と比べられ特異な目をよくされた。
「はあ〜。ということはなにか、わたしはずっと捕食者の目の前で怠惰を貪っていたって訳か」
「そういうことになるわね」
沈黙があたりを包む。
「そっか」
男が言ったのはそれだけだった。
「ほかになにか言うことないの?」
私は堪えきれずそう聞いてしまった。
私はちゃんと自分の危険性というものを理解しているつもりだ。吸血鬼の恐ろしさだって人間にどう思われているかもある程度認知はしていたつもりだ。だから解せない。喚き散らしてもよいのだ。なのにこの男は…。
何も知らず放置に近い監禁をされ、自害したくてもできず、そして今目の前にいるのは人を縊り殺す吸血鬼。
それなのに…
「まあ、これが人生の幕引きかと思うとなんだかなぁ、とはおもうけどね。でも最後にいい思いができたからな。ないね」
私は心理学者でも悟り妖怪でもないが男が嘘をついているとは思えなかった。
別に同情している訳ではないのだが、やはり解せない。そんなに、そのいい思いとやらがよかったのか。こんな
そのときの私はおそらくどうかしてた。確かに短時間で様々な快挙はあったが、それを差し引いてもやはりおかしかった。
冷静に考えればスカーレット家を知っていた時点で…いや、話しかけられた時点で引き返すべきだったのだ。
そうすれば…
「そうすればこんなことにならなかったのかしら」
それはイヤね。っと私は独りごちった。
「なにが嫌なんだい?」
私の隣からそんな返答があった。
チラリっと隣へ一瞥をくれた。
彼がいた。今も昔も変わらないグルグルミイラ状態の彼が私の隣に。いや、私が彼の隣に。
「べっつに〜?ただ今が壊れるのはイヤだな〜って思って無意識に呟いただけ。他意はないわね」
「そ?ならいいんだ。その意見には同意だしね」
そう言って彼は視線を戻す。つられて私も前を見やる。
霧にかかったように距離感を掴ませないぼやけた部屋がそこには健在だった
「君とあってどれくらいかな」
彼は唐突に呟いた。返答を求めてない、なにもこもってない言葉を。
「さあ、一週間か一ヶ月か一年か傍また十年以上かも」
「いや、そんなにはないだろう。精々一ヶ月かそこらだろう。いやはや一ヶ月か、はやいものだ」
私の戯言が面白かったのか彼はクスクスと笑いながら応えた。
そう。そうなのだ。彼と相見えからだいたい一ヶ月そこら。今では彼の隣の壁を背に駄弁っているくらいにはここに馴染んでしまっていた。
暇さえあれば_つまり毎日ここに来ていた。
うん。なにやってるんだろ私。まあ、悪い気はしないけど。
「ん?どうかしたか?」
こちらの視線に気が付いて顔をこちらに向ける。
「……相変わらず目が見えない」
「目が?でもここ暗闇だよ?むしろ
「いやそうじゃないわ。…そうねあなたには教えてもいいかもね。
私にはね、吸血鬼の力とは関係ない別途の力があるのよ。視界に収めた物、者を破壊する能力、それと千里眼ね。秘密よ」
「いや、そんなカミングアウトされてもどう反応すれば…?」
彼は心底困ったというように苦笑いだった。
口ではこう言っているがまあ、文字通り反応に困っているんだろう。
彼はそこらへんの価値観はないらしく能力持ちは珍しいなという程度だ。とはいえ危険性は正しく認識しているので素直に褒めていいのだろうか…と考えいるのだろう。
「褒めていいのよ?まあ、そんなことはともかく私が見えないって言ったのは千里眼を使うとあなたが見えないからよ。肉眼ではあなたの言う通りね」
「その千里眼ではわたしはどういうふうに見えているんだ?それと通常版もどんな感じか」
「そうね、切り抜かれた感じ…いうなら光が一切通さない常闇ね。あなたの
そういって私は彼を拘束している布を指す。
「あぁ、なるほどわかりやすい。それで千里眼は通常、望遠鏡みたいなのか?」
「んー。そうね、なんといえばいいのやら。俯瞰しているって、私は思っているんだけど」
私はこの視点をよくわかっていない。そもそも私の能力は破壊するだけだったはず。それがなんの因果か目を破壊する能力に目を観る能力まで兼ね備えるとは思わなかった。というか思うはずがない。なんせ弱点であった視認が容易になってしまい、いよいよ手がつけなれなくなってしまった。
まあ、そんな訳で私の能力の首輪は外れてしまっている。私の部屋が地下なのも、つまりそういうことだ。
「第三の目を作って共有しているっていえばいいのかしら」
「天井から見てる感じかな、それは確かに俯瞰だな」
「でしょう?」
俯瞰と断言できないのがこれのイヤなところ。普通に考えて錯覚あたりを引き起こしそうなのだ。
でもそういうものとして私達は受け入れている。人外である私達はそういうものだと認識している。おおよそ人間に近い思考構造している彼には背反するものかもしれないが、人外には過程なんて関係なく結果を引き起こすのが通例でそこに疑問は抱かない。
そうあるべきだからそうなる。詰まるところたったこれだけだ。
「で、見えないんだっけ?それについてはなにも知らないね。まあ仮説はあるけどね。聞く?」
「ぜひお願いするわ」
私は少しばかり身を乗り出す。私の目はキラキラしているのだろうか。それとも獣のような目か。
この部屋の現象は私の管轄外で基本的には彼の情報がなによりも価値がある。今はそれほど大事ではないけれどあの日からも目の特訓は続けている。ちなみにもうすぐで外までいける。
だが未だこの部屋のくすみは取れない。ぼやけなくなったのは大きいけれどモヤモヤする。
「その前に質問なのだが君からわたしは普通に見えるか?」
「えぇ、それが?」
「いや、そうか…うん。仮説が現実味を帯びたな。いやなに簡単なことだな。この布、おそらくだか認識阻害と固定化が備わっておる。君はわたしを普通に見えるがわたしは君が見えない」
「え?」
「君と最初にあった時は暗かったのもあるが距離が離れていて音でしか君を気づけれなかった。今隣にいる君は形と声で少女ってことはわかるがそれ以上はなんとも。君がわたしを見るときと同じさ。黒く塗り潰されている。つまり認識に干渉しているっことだな。固定化は維持のためと拘束のためだろうな」
「いや、そんなことよりも。え、見えてないの?」
「あぁそうだ。言ってなかったけどな。
わたしのみならず他者までそうだとは思わなかったが、まあ、普通にしていればとくに問題はないようだし放っておいてもいいか」
私はグイッと顔を近づける。唯一拘束が緩い彼の左眼と口へ。
「近づいても見えないぞ?」
やはりというか目は見えなかった。破壊の目すらも。
腕を伸ばしグッと布を掴む。吸血鬼に剛腕でもピクリともしない。
「吸血鬼の力でも無理なのかこれ…考えてたよりもやばい代物だったのか」
自分には関係ないような声色で話すものだから私は少しイラッとした。
今まで彼が傷つくのを遠慮していたがそんなものは関係ない、と私は手に魔力を集中させる。
「え」
思わず出てしまったのだろう間抜けな声が聞こえる。
「待て待て待てい!?」
何やら慌てた声が聞こえる気がするが気のせいだ。私は形成されたレーヴァテインをそのまま彼に叩きつける。
そして彼は形容することすらおぞましいオブジェクトに…なんてことにはならず、普通に受け止められた。
は〜と溜め息ひとつ。
「おい。てめぇなにやってんだ!死ぬかと思ったぞ!?」
彼の怒った姿は初めてみた。彼は死ぬぐらいだとこれほど激情するのか、と私は彼が動けないことをいい事に呑気にそんなことを考えていた。
「おい!聞いてんのかゴラァ!呑気にしてんじゃねぇぞ!」
動けないからかそれとも元々なのか口がかなり悪い。必死に体を動かそうとしているが拘束は緩むことなく彼を縛っているので、かえって彼の激情に油を注いでいるようだ。
おそらく彼が疲れて動けなくなるまで続くのだろう。それは目が痛くなりそうだ。
「悪かったわよ、だから落ち着いて_」
「巫山戯んのも大概にしろよ!落ち着くもクソもねぇ。てめぇのご自慢の目で見てもわかんねえのか!?目だけが取り柄か。ぶちのめすぞメスガキが!」
こればかりは私もカチンときた。久しぶりに結構本気でやれたのでスッキリした頭が再燃されていく。
私が目色を変えたのを彼は感じとったらしく目に見えて狼狽えている。声が出ないのか魚のように口をパクパクさせていることからも明らかだろう。
約十分後
彼は肩で息をして壁に蹲っていた。元からだけど。
私は大の字になり床と一体になっていた。ここまで全力でやらかしたのは初めてかもしれない。
お互いに満身創痍という風貌でゼェゼェと呼吸が荒い。
チラッと彼を見る。抵抗すら出来ないのであの汗は冷や汗だろうか。それがダラダラと流れている。目の前で吸血鬼が殺そうとしてきているのだから(彼主観)、当たり前といえば当たり前だ。
「悪かったから悪いのわたしですから__」
そんな戯言、いや彼は本気か。を零している。それがなんとも情けなく思ってしまい。私が恥も矜持を捨てて笑ってしまった。
笑い過ぎて咳き込むくらい笑ってしまった。腹を抱えて笑ったことがあっただろうか。
彼は私の反応が予想外のものでどうすればいいわからずアタフタしていた。それがまたツボにくるもので再発してしまい、満身創痍でなければ転げ回っていたかもしれない。
あっ涙でてきた。
私がツボがようやく収まった。彼は私か狂ったと思ったのだろうか。その頃には彼は口を閉ざし私を見据えていた。
とはいえ私はどうすればいいのだろうか。こんな経験はないし読んだこともない。
私がおとなしくなってしばらくしてから彼が口を開いた。
「…ごめんな」
「…ごめんなさい」
反射的に私は謝った。なんとなくこのタイミングじゃないといけないと思ったのだ。
「はいじゃあこの気まずい空気はなしな。それに少し疲れた」
「あなたは動いてないじゃない」
動いていた私のほうが絶対疲れていると思うのだが。
「命の危険がこっちにはあったからな?精神が疲れた。君は動きすぎて肉体が疲れているだろう?」
「そ。なら納得ね」
「…すまないね。動けたなら君を運んであげられるのに」
なんだか複雑そうな顔で謝ってくる。謝ることではないだろうに…まあその心遣いは使わせてもらうが。
「別に気にしないで良いわ。吸血鬼の力を舐めないことね。と言ってみたけど久しぶり過ぎて近く動けないわ。毛布でもかけてほしいところだけどしょうがないからね。暇つぶしを提案するわ」
ポカーンと口を開けて固まったがそれ刹那のことで
「ならわたしの友人の黒歴史でも」
そしてまたあの日からのいつもどうりの日常が始まった。
この日常が変わったのはいつだったか…。
あの日々__ふざけたり怒ったりくだらなかったり、本の話だったり、友達ってこんな感じかなっていう生活。
引っ越し?いや違う。あのときはいきなりで、何より彼と離れ離れになるんじゃないか本気で焦った。
魔理沙との弾幕ごっこ?それも違う。確かに新たな発見はあったが、それは彼との話題になった。
姉との衝突?…違う。彼との時間がなくなってしまった。いや、全てが悪いという訳ではないのだけど。姉と仲は良好になりつつであるし、外の機会も魔理沙のおかげで確約されつつある。だが結局は彼との肴になっていた。
じゃあいつだ?あの輝かしい太陽のような日々が彼を拘束する宇宙のような布に覆われたのは。
……あの日だ。月が狂ったあの日。
彼の部屋で彼が月になった。紅い月に私がした。
私が輝きを壊して色褪せて、代わりに宵闇と紅い血が場を支配して見せた。
頬を汗がつたう。ウザったく拭い気づく。この感触は間違いない。これは…
ああ、そうか。頬を伝うのは汗ではなく血液だったのか。
その答えに辿り着いたとき私は膝から崩れた。
彼は変わらず壁を背にいつも通り座っている。
血は壁に絵具のようにぶち撒けられ、滴る血液は床つたい私へやってくる。お前がやったんだと訴えているようだった。
前書きどーしょかな