あ、タイトルでお察しください。
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■ ローグ村・小屋
気絶した金髪の男性を村長に一時的な拠点として貸してもらった小屋まで運び、念の為に手当てをしてから話を聞く。
「ごめんなさい!」
「いやいや、気にすんなって!」
金髪の男性が今回の依頼された盗賊団とは全く無関係だった事を理解し、自分達の勘違いだと一人は謝罪、もう二人は居心地悪そうに視線を金髪の男性から背けていた。金髪の男性は一人の謝罪に笑って許している様子を見せる。
「でも、人違いで攻撃してしまって申し訳ないです……」
「大きな怪我もなかったんだから気にすんなって、えっと……」
前髪に銀月の髪飾りを留め、紫色の三つ編みを左肩から下げている女性に大丈夫という旨を伝えようとするが名前がわからず言葉が出ない。
金髪の男性の様子を察し、四人は自己紹介を始めた。
「紹介が遅れてすみません。ギルドリア王国立アルカ魔術学園一年のマリアナ・イーグレットです」
「僕は……ジャック、ジャック・ラックトゥーナ」
「俺はオリバー。オリバー・ダンテス。同じ学生でしがない戦士さ」
「……メイナード・テイラー」
前髪に銀月の髪飾りを留め、紫色の三つ編みを左肩から下げている女性――マリアナ・イーグレットは金髪の男性に名前を教える。しかし、金髪の男性は頭に疑問符を浮かべたような表情で首を傾げていた。
「あの、どうかしました?」
「アルカ魔術学園ってなんだ?」
「へ?」
金髪の男性の言葉に今度はマリアナ含む四人が目を点にした。
それは、この世界において
「……知らないの? 旅人はおろか、そこらの子供でも知ってるのに?」
この世界において魔術は切っても切れない関係が出来ており、幼少期から魔術一斉カウンセリングや適正診断テストを行って魔術の悪用及び暴走を予防している。説明会や授業でも魔術に関する説明でギルドリア王国はアルカ魔術学園を例に出す程有名な学校である。故に魔術学園としての知名度は高い。
ジャックの質問に金髪の男性は答えにくそうに頬を軽く掻き、言葉を濁すが答えた。
「あー、オレって超記憶喪失なんだ」
「超記憶喪失……?」
聞き慣れない言葉に疑問の声をあげると金髪の男性は話始めた。
「普通の記憶喪失って『自分の過去を覚えていない』とか『ここはどこ!? 私はだれ!?』とかだろ?」
「……まぁ……そう、ですね?」
金髪の男性のいきなりな説明に押されてマリアナは勢いに負けて返事をする。
「オレの場合、その他の全ても忘れてしまった状態なんだ。つまり……『ここはどこ!? 私はだれ!? あれなに? これもなに!?』っていう状態なんだ」
「要するにダメ人間か」
「……まぁ……その……はい……」
「……オブラートに包んであげて」
金髪の男性がまるでオペラやミュージカルのように両手を動かしながら説明するもジャックの一言に先程までの勢いが嘘のように鎮圧され、あまりにストレートな発言だった為にマリアナがジャックに抑えるように進言する。
「じゃあ、名前も覚えてないのか?」
「ナナシ! 名前がないからナナシ。自分でつけた」
青い髪で赤い瞳の端正な顔立ちの青年――オリバー・ダンテスが名前を訊ねると金髪の男性――ナナシは自身の名前を答えた。
「身分証明書は持ってる? そこから名前とかがわかるけど」
「……みぶんしょうめいしょ?」
「それも知らないのかよ!?」
ジャックの質問にナナシは理解できない表情を見せ、オリバーはナナシの記憶喪失が予想以上に酷いことに驚いた。
「そういや、何でオレを襲ったんだ?」
ふと、ナナシが自分を襲った理由を知らないことに気付き、四人に質問した。
「貴方のコートに刺繍されたマークが依頼された盗賊団のマークと似ていたんです。口元がWじゃなくてM字だったら同じでした」
「縛って尋問しようとしたんだが、殴ってから背中のマークが違うことに気付いたんだ」
マリアナとオリバーの質問に納得した表情を見せ、自身のコートに描かれた絵柄を見つめるナナシ。すると短く刈った黒髪黒目にメガネを着けた男性――メイナード・ティラーが何かを聞き付けたのか表情を変えた。
「みんな、情報収集に飛ばした人工妖精から盗賊団のアジトを発見した知らせが届いた」
その言葉に四人の目が真剣な眼差しとなり、各々の武器を手に取る。
「さて、行くとするか」
「いや、何で行こうとしてる。お前はここで待ってろ」
どさくさに紛れて、今回の依頼と無関係なナナシも参加しようとした所でオリバーから待ったをかけられる。
「大丈夫なのか」
「問題ない。すぐに終わるからゆっくり待っていろ……終わった後に学園に問い合わせる」
不安そうな表情で質問するナナシをメイナードは待つように指示し、ナナシを除く四人は人工妖精が情報を送信した場所まで走り去って行った。
メイナードの言う通りにナナシも待つことにしたが、一分もかからずに自身のコートを羽織って小屋から出ていった。
「……悪いけど、待つわけにはいかないな。その盗賊団のボスがオレを知ってる可能性があるかも知れないし」
零に等しい可能性を呟き、四人の足跡を頼りに向かって行った。
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□ 盗賊団のアジト前
「見張りがいるな……まぁ、当たり前か」
洞窟の前にある茂みから覗くメイナード。その視線の先には手に片手剣を持った屈強な肉体の男性が門番のように二人立っていた。
「どうやって突破します?」
「一番は囮作戦だな。機動力が高いオリバーが陽動、その隙に俺達が侵入して制圧する」
「だが、騒ぎを大きくしてる間に逃げられる可能性はあるぞ?」
メイナードが作戦を提案するとオリバーがその提案を指摘する。
「それに向こうが戦闘を考えているなら、手札を減らすのは得策じゃない」
オリバーの言葉にメイナードは表情を曇らせる。確かに情報収集したとはいえ盗賊団がどんな魔術を使うかは入手できなかった。もし、自分達の苦手な魔術ならば討伐は難しくなる。
だが、盗賊団が逃げの一手を選択していたならば一人いなくても対処はできる。作戦を建てる者としては慎重に考えなければならず、思案する。
「あの見張りを気絶させればいいんじゃないのか?」
「できたら苦労しねぇよ……いや待て、何でお前がここにいるんだよ!!」
オリバーがいつの間にか側にいたナナシに気付いて指摘する。他の三人も驚くが、いつの間にいた事よりも彼の泥だらけの姿になっていた事に驚いた。
「なんで泥だらけ?」
「ここに来る途中で変な窪みに足引っ掻けて転けた。でも問題はない」
「大有りだよ。ドロドロだし、頭に枝が刺さってるし、鼻血出てる」
ナナシの言葉に呆れるジャック。その様子にふと疑問を抱いたメイナードだが、気のせいだと思って考えを払う。
「どうやって追跡した」
「アンタ達の足跡を頼りに追跡した。見張りを気絶させる方法ならあるぞ」
「……その案は?」
待っていろと言ったのに来てしまったモノはしょうがないとメイナードは呆れからため息をこぼし、ダメ元でナナシの案を訊ねる。
「――色仕掛けだ。大抵の男はこれで落とせる」
「殴っていいかな?」
「なぜ!?」
ナナシの案を聞いた直後にマリアナがナナシの襟元を掴み、握り拳をちらつかせる。
ナナシ本人は本気でわからない様子だが、予想以上にくだらない案に三人は呆れた視線を向けている。
「マリアナさん。落ち着いてください」
「さすがに、女性に色仕掛けをやらせるのはどうかと思うよ?」
このまま放っておけば騒ぎで気付かれてしまうのでオリバーはマリアナを宥める。ポカンとするナナシにジャックが呆れた視線で指摘すると、ナナシが首を傾げながら答えた。
「いやいや、女性じゃなくてオレがやるんだよ」
「……え?」
ナナシの言葉に四人は目を点にする。その間にナナシは自身の服装に細工をし始める。
戸惑いの視線を向けられてから数分後……そこに、一人の女性が誕生していた。
ズボンを脱ぎ、来ていたコートを長めにしてから腰にスカートのように巻き、ダボダボのTシャツで胸の膨らみを貧乳のように誤魔化し、長い金髪をお団子ヘアに纏まるとうなじが見え、どこか色気が滲み出した。
気休めに言って、ナナシは“森に遭難した女性”の姿へと変貌した。
「女装したオレの姿……ナナミちゃんだぜ! ……んんっ……どう?」
「……マジか……」
さらに声も女性のモノへと変わり、あまりの完成度の高さに四人――特にマリアナは硬直している。
メイナードも男性だが女性が羨むプロポーションをしている。しかし、ナナシの女性に化ける技術の高さに舌を巻いていた。
「うまくいくと思うか?」
「いかなかったら、もろともです」
見張りの盗賊に色仕掛けしに行ったナナシを見送り、心配するオリバーと失敗したらもろとも殴る気のマリアナ……女性として複雑な心境なのだが三人は口にしない事にした。
女装したナナシが疲労困憊な演技をしながら見張りの二人に近付く。見張りは槍を向けていたが女装したナナシを女性だと誤認して槍を納める。ナナシは『道に迷った』だの『人がいて助かった』だの二人が盗賊だと気付かないフリをしており、盗賊の二人はナナシの話を聞いているが視線は別の方――足や腰の方に視線を向けていた。
洞窟の中で休ませて欲しいと言うと見張りの二人は了承し、ナナシをエスコートして洞窟内へと消えていく。
暫くして女装を解いたナナシが洞窟の出入り口から現れ、四人が隠れている茂みに向かって声をかけた。
「オッケー! もう通れるぞー!」
ナナシの手際に驚きながらも四人は盗賊団のアジトである洞窟の中に入っていく。その道中で
「……なんか……複雑……」
女性として謎の敗北感を感じたマリアナは小さく呟き、オリバー達の跡を追っていった。
その様子を見られていた事に気付いていない。
ここまでは調子良い……次回から難しくなりそう……
次回の投稿は明日か明後日です。