We ZARD   作:ハレル家

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 めっちゃ長くなった……

 こっから、クライマックスよー。

 豚は出荷よー(特に意味ない)。


第三話 ナナシ≒テンゲンサマ

 ゴーレムが丸太と見間違うような太い腕を大きく振り上げる。洞窟内とはいえゴーレムの大きさはそこまで大きくないが、逆を言えば思いっきり振り回せる事になる。加減しない力で振り下ろされる腕が四人を挽き肉にせんと襲いかかる。

 

「ディフェクター!」

 

 しかし、それは四人が『一般人』の場合で魔術師なら別である。マリアナが展開した結界によって攻撃を防がれ、その隙に三人がゴーレムの背後をとった。

 

「切り風!」

秘剣(ひけん)雷霆(らいてい)燕返(つばめがえ)し!」

 

 ジャックの手から魔法で発生させた鎌鼬のような鋭い風の刃がゴーレムの足を切り、オリバーが雷を纏わせた太刀を振るった瞬間、三つの斬撃が全く同時に放たれた。

 

 攻撃に耐えきれず自壊したゴーレムを確認した四人は素早く洞窟の奥へと駆け出した。

 

「気配が強く感じる……この扉の先だ」

 

 最奥地だと思われる所で大きな扉が目の前に表れた。扉の向こうから気配を感じたオリバーが周りに警戒するように促す。そして、一気に扉を蹴り開いた。

 

「……なに?」

「……誰もいない……」

 

 しかし、そこはもぬけの殻だった。人が住んでた痕跡があるも目立ったモノがない様子に首を傾げるオリバー。警戒しながら周りを見渡すメイナードだが、壁になんらかの術式が刻まれているのに気付き、彼は解読を始めた。

 

 幸いにも、彼の職業(ジョブ)スキルとの相乗効果で時間はかからなかった。

 自分達が“罠”に入ってしまった事に気が付くと同時に部屋の術式が強く発光し、部屋を包んだ。

 

「マリアナ! ぼうぎ――」

「ディフェクター!」

 

 メイナードが言うよりも早くマリアナが四人を包む防御結界を展開した瞬間、部屋全体が爆発した。

 ガラガラ、天井の岩が崩れて暗かった洞窟に光が射し込む。土煙で見えないが、マリアナが展開した結界にいた四人に傷はなかった。

 

「――礼を言う」

「困った時はお互いさま」

 

 指示よりも早く防御したマリアナに感謝するメイナードにマリアナは笑って答え、安全を確認してから結界を解いた。

 

「俺達をここに来るように誘導させ、全員が入ってきた所をドカン、生き埋めにする作戦のようだ」

「……罠だったのか」

「となると盗賊団はここを捨てて逃げたってことかな」

 

 メイナードの説明に自分達がまんまと罠に誘い込まれた事を不機嫌になりながらも理解するオリバーと冷静に目的を察するジャック。

 

「……ティラー?」

 

 しかし、メイナードが納得しない表情で考え込んでいた事に気付いたマリアナが声をかける。

 

「……妙だな」

「何が?」

 

 呟いたメイナードの言葉にオリバーが疑問を投げた。

 

「俺達がここに来る途中……戦ったのはゴーレムだけだ」

「そりゃ、ゴーレムを戦わせてる間に逃げる算段だったんだろ」

「最初は俺もそう思ったが、戦闘を始めた場所とゴーレムの数が少ない」

「僕もそう思う。逃げるなら多くした方が時間を稼げるし、何より体力が減った相手の不意打ちにも使える」

「でも、あえてゴーレムを少なくして罠にハメる事が目的かもしれない」

 

 オリバーとマリアナの言葉にも一理あるが、当てはまらない不快感に眉間のシワを濃くするメイナード。まるで鍵を閉めた自宅の中に誰かいるような気味の悪さから後頭部を掻く。

 

「……一応、村長に伝えておこう。今後の対策を建てる必要がある」

「あの男性はどうします?」

「……戻っていなかったら、俺の人工妖精で探そう」

 

 犬に盗られた身分証明書を探している記憶喪失の青年を忘れていたが思い出し、村に帰って休憩してから探す事にして四人は盗賊団のアジトである洞窟を離れた。

 

「おぉ、皆様よくぞ帰って来てくださった!」

 

 村の出入り口である門の前には村長が四人を待っており、姿を確認した長老は四人に駆け寄った。

 

「それで、盗賊の方はどうでした?」

「……すみません。逃がしてしまいました」

「そ、そうですか……仕方ありません。無事だけで良かった。今後について話し合いたいので来てくれませんか?」

 

 そう言って村長が四人を村の中に手引きする。メイナードはいまだに引っ掛かる部分に頭を悩ましていたが、不意に足元の線が目に入った。村の方に向かっている所から荷車を引いた跡だと思ったが、村から離れていく程に線の幅が大きく、深さが増している事に気付いた。

 

 ――『ここに来る途中で変な窪みに足引っ掻けて転けた。でも問題はない』

 

 ナナシとの会話を思い出し、ハマらなかった考えがパズルのように組み込まれ、メイナードは急いで三人に声をかけた。

 

「……全員、村長から離れろ!!」

 

 メイナードの言葉に疑問符を浮かべる三人。しかし、村長が地面に手を触れた瞬間に紫電が走った。

 

「……ガッ!?」

 

 身体に突然と襲いかかった脱力感に三人は抗えず地面へと倒れて気絶する。気絶する間際、薄れる意識の中でメイナードが見た村長の顔は最初に見た人の良さがなくなり、悪魔のように弱者を嘲笑するような笑みだった。

 

 

 ■□■□

□ 村のはずれ 山の中

 

 四人にアクシデントが発生した同時刻、ナナシはその時間よりも早々にアクシデントに巻き込まれ、疲弊していた。

 盗賊団のアジトから出てすぐにクマなどの大型生物と遭遇、川の側でクマから逃げてたら足を滑らせて川に落下、激しい流れで溺れないように流木に捕まってたら滝に落下、奇跡的に生きていたナナシはヘトヘトのまま犬を捜索し、気付けば辺りが暗くなっていた。

 

「……ぜぇ……ぜぇ……」

 

 早い話、無我夢中で走り回って遭難してた。

 

「あの犬、どこに、行ったんだよ」

 

 右も左もわからない状態で闇雲に探し続け、時折聞こえる鳴き声と自身の勘を頼りにした結果が山で遭難。笑い話にもなれず、聞いた者は呆れるだろう。

 

「見失ったうえに迷子になっちまった。引き返して帰った方が……いやいや! あれがあれば俺の過去がわかるかもしれないんだ! なおさら帰れるか」

 

 自身の過去を知る事ができる唯一の手掛かりを手離す訳にはいかない意地だけで探索を続行するナナシ。

 

「……ん……この鳴き声……あの犬だ!!」

 

 すると聞き覚えのある鳴き声が耳に入ってきた。まるで天の助けのような出来事に走るナナシ。その様子は疲弊していたとは思えなかった。

 

「逃げ場はないぞ犬ぅ! 観念し……?」

 

 逃げられないように威圧しながら駆け抜けたナナシだが、そこには犬の姿はなく、岩で出来た小屋と石像、不自然に草が刈られた広場だった。

 

「こんな所に開けた場所があるなんて……何だこの像?」

「テンゲンサマじゃ」

「誰だっ!?」

 

 広場の中心にある石像を見つめていると後ろにある岩の小屋から声が聞こえた。急いで振り返るとそこには――

 

「……な、村長!?」

 

 ――村にいた筈の村長が閉じ込められていた。

 岩の小屋は人を閉じ込める牢屋で、よく見れば村の住人らしき人達も大勢いた。

 

「なんでそんな所にいるんだよ! アンタ、村の中にいただろ!」

「……やはりか……よく聞くのだ旅の者……」

 

 ナナシの言葉に村長は苦虫を噛んだような表情へと変わり、ナナシに自分達の村で起きた真実を話始めた。

 

「……お前さんが会ったのはワシに変装した盗賊のボスじゃ。あの村はすでに盗賊どものアジトになってしまった」

「なんだって!」

 

 自身の予想を上回る真実に驚くナナシだが、村の住人達もナナシに語り始めた。

 

「俺達も抵抗したんだが、この辺は弱いモンスターしか生息していないから強くなれない……あっという間に制圧され、牢屋に改造されたここに閉じ込められたんだ」

「あの盗賊団は人攫いで有名なの。私達がここに閉じ込めたのは奴隷として売るためよ」

「幸いにも、ここは防空壕として建てられた場所だから隠していた非常食もあったけど……昨日で底がついて……」

 

 住民達の声から余裕がなく、希望にすがり付くのような声色で戸惑うナナシ。だが、それと同時に内側から謎の熱さを感じていた。

 

「お前さんと一緒にいた四人は盗賊の罠にかかってしまい、拘束されている……お前さんだけでも逃げて魔術師ギルドに報告するんじゃ」

「そんな事言われても、アンタ達を放って……待て、なんでオレの他に四人いることを知ってるんだ? 」

 

 村長の言葉に首を傾げる。確かにナナシは村で人に会ったが少なくとも、ここにいる誰にも会った事がない上に知らない情報を聞いた。

 すると、牢屋の奥から二人の幼い少年少女が姿を見せた。

 

「……この二人のおかげです。少女は遠見の魔術で盗賊とあなた達の様子を確認でき、少年は小動物限定ですが変化の魔術が使え、先回りして誰か一人をここに連れてくるように頼んだのです」

「あ、あの時の犬!」

 

 少年が黒い子犬に変化し、見たことある犬に驚いていると少女が声をかけた。

 

「ねぇ、お兄ちゃんはテンゲンサマなの?」

「……テンゲン、サマ?」

 

 聞いたこともない言葉に疑問符を浮かべるが、間髪いれず少女がナナシに願う。

 

「だったらお願い! あの人達を、この村に来たお姉ちゃん達を助けてあげて!」

 

 その言葉にナナシは驚いた。てっきり『村を助けて欲しい』と願うかと思えば、一方的でマリアナ達からは面識がないのにも関わらず頭を下げて願ったのだ。

 

「……村の事はいいのか?」

「村は大切。でも、あの人達は助けに来てくれたんだよ……なのに酷い目に合うのは間違ってる」

「ぼ、僕もお願いします。あの人達を助けて、あ……げ……」

「ちょ、おい!」

 

 少女と同じように少年も願うがふらり、と地面に倒れてしまう。突然の様子に驚くも側にいた男性が受け止める。

 

「無理するな。今まで休みなく魔術を使用したんだ……体調を崩しても可笑しくない」

「奥にある薬草を取ってこい! まだ残ってたハズだ!」

「食用の草も生えてたら持ってきてくれ! 子供が必死に頑張ってるんだ! 俺達大人が黙って見守るだけならテンゲンサマに顔向けできねぇぞ!!」

 

 女性も男性も少女と少年を助けようと声をかけ、命を繋ぐ為に互いを叱咤激励し合う。

 

「ワシからも頭を下げよう……この老いぼれの短い命で払える対価があるなら、いくらでも払ってやろう」

「私からも頼みます!」

「俺も!!」

 

 村長がナナシに頭を下げ、後を追うように男性も女性もナナシに頭を下げていく。

 その様子にナナシは見たことない大勢の土下座に謎の既視感(きしかん)を感じた。

 ……“知らない”ハズなのに……オレは……この光景を“知っている”……

 この願望を“知っている”。

 この悲哀を“知っている”。

 この喜びを“知っている”。

 この憤怒を“知っている”。

 この痛みを“知っている”。

 この、この、こ、こ■、■の、こ、こここここここここここここここここここののののののの■■■■■■■■■■、■■■■、■■■■■、■■■、■■、■■■■、■……

 

 この■■を“■■■■■”。

 

「……お兄ちゃん?」

 

 気付けば、多くの人達がナナシを心配する表情で見つめていた。知らない内に頭を押さえていた手を離し、村長に声をかける。

 記憶喪失の自分だが、何がやりたいのか知っている彼は手荒になることを村長に伝えようとした。

 

「村長、盗賊団全員捕まえる時に少し派手にやる……その際に――」

「構わん」

 

 即答。村長はナナシが言う言葉を理解し、構わないと答えた。

 

「あの二人が毎日感じていた“助けが来ないかもしれない恐怖”に震えていた心に比べれば安いものじゃ。村が壊れても、何度でも建て直してみせよう……ワシらの帰るべき村は“心(ここ)”にあるのじゃから」

「急いで、テンゲンサマ」

 

 村長の言葉にナナシはゆっくりと胸に手を当てた。その動作に何が込められていたのか本人もわからない。すると少女が大人に支えられながらナナシに急ぐように伝える。

 

「盗賊があの四人に何かしようとしてる……大変な事になりそう……」

「村までは一直線で走れば深夜になる前には着く。急げば間に合うハズだ!」

「ありがとうな。ゆっくり眠ってくれ……次に目が覚めた時は、自由に笑えるからな」

 

 あの四人が――マリアナ達がピンチだと知り、村の人達の想いを受け止めたナナシは魔術(・・)を使用した。

 

「本気を出す……■■・■■」

 

 その言葉と同時に暴風が吹き荒れ、村人達が顔を庇ったと同時にナナシの姿が消えていた。

 消えたナナシに困惑する村人達の中で二人の少年少女、村長と村長の側にいた男性がナナシの魔術を使う姿を見て、呆然としていた。

 

「……村長……彼は……」

「……まさか……出会えるとはのう……」

 

 狐に化かされたように目を点にする男性と村長、そんな二人の横で少年少女は牢屋からでも見える空を見上げて呟いた。

 

「テンゲンサマー! 絶対に、助けてあげてねー!」

 

 その言葉に、風が吹いた。




 次は四日か五日後……

 クライマックス、いっきまーす!!
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