We ZARD   作:ハレル家

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 ラストスパート!

 序章終了までクライマックスなのでハリキリ過ぎて過去最高に長くなった気がする……

 それでは、どうぞ!


第五話 ナナシ=Who that guy=正体不明

 “魔魁”

 

 火や水を生み出して放つまたは付与する従来の魔術とは違い、身体そのものを火や水に変換する魔術。

 物理攻撃を無効にし、形がない自然そのものである為隠密にたけ、見つかって攻撃されても負傷せず、擬似的な不死性もあるその魔術は多くの魔術師達にとって一つの到達点であった。

 そう、であった(・・・・)。過去形である。

 かしらや首領を意味する“魁”のように魔術社会を統べる頂点に君臨する魔術になると思われたが、その魔術には大きく致命的な欠陥が存在した。

 ステータス全体に大きなマイナス補整を受け、身体の一部しか変換できない。

 当時も魔術師にとってステータスが高ければ高い程有能と謳われており、ステータスが下がるデメリットは無視できなかった。例え受けたとしても身体の一部しか変化できない魔術に大勢がその事実に落胆した。ジョブやジョブスキルではカバーできない所か足を引っ張る程のデメリットにいつしか誰も彼もが見向きもしなくなった。

 未来を担うと思われた魔術は、出来損ないの烙印を押された負の遺産として多くの人々から扱われた。

 

 □■□■□

■ ローグ村

 

「ま、魔魁使いだと!? 」

 

 ナナシが水属性の魔魁――それも全身を変化できる人物であることを知った盗賊達がその事実に狼狽える。

 

「だから、だから致命傷を受けても倒れないのか!」

「どんな手を使ったら、全身を変換できるんだよ!」

「化け物だ! 勝てるわけねぇ!」

 

 次々に恐れから弱音をはく盗賊達。ジャックやマリアナ達は都市伝説と思われたモノに目を丸くする。

 

「落ち着けお前ら! 狼狽えるんじゃねぇ!」

 

 狼狽えてた盗賊達をガザンが一喝する。その声に騒いでいた盗賊達の動きがピタリと止まった。

 

「魔魁はステータスにマイナス補整が起こる。俺様達の優位は揺るがねぇ! 仕留めろ!!」

 

 ガザンの指示に目付きを変え、武器を持って襲いかかろうとする盗賊達。ジャックはナナシが弱いと判断して武器を構えるが、そのナナシがいつの間にかいない事に気付く。

 

変幻(シェイプ)(スラッシュ)!」

 

 探そうとした瞬間、前にいる盗賊達の方から断末魔が聞こえ、視線を向けると自らの右手首から先を鋭い刃へと変え、右腕の二の腕から手首までをスライムに戻してあたかも刃を持つ鞭のように振るったナナシの姿があった。

 ナナシの攻撃は大した威力にならない予想を反して、攻撃を受けた数人は出血(・・)していた。

 

「このやろう!」

 

 攻撃を受けてない他の盗賊達がナナシに攻撃しようとするが、ナナシが空高く跳んで回避し、左手首から先を大きく肥大化させて厚みがある長方形の形に変化する。

 

変幻(シェイプ)大槌(ハンマー)!」

 

 左腕の二の腕から手首までをスライムに戻して上空から盗賊達降り下ろした。降り下ろされた一撃は多くを巻き込み、着地地点を狙った盗賊達は横からジャックの攻撃に倒される。

 

「彼、マイナス補整になってるハズなのに敵を倒してる!」

「それにあのスピード……マイナス補整の身体では耐えきれないぞ」

「逆だ……マイナスだからこそ、耐えられるんだ」

 

 予想に反した行動と結果を見せるナナシに驚くマリアナとオリバーだが、メイナードはナナシの絡繰りに気付いた。

 

 なぜ、マイナス補整であるのに関わらずナナシの攻撃にダメージが入るのか……それは彼の攻撃の仕方に答えがある。

 噴出する水と空気の反作用によって飛行するロケットの模型――ペットボトルロケットと同じ原理である。

 作用・反作用の力学的な学習を行う上で、安全かつ非常に面白い教材として好まれている一方で実際のロケットと同じ原理で飛ばされており、初期の頃は圧縮空気の圧力に耐え得る弁の製作がやや難しかったものの、近年では市販の耐圧弁や発射装置が発売され、小学校低学年でも製作及び高速(・・)による打ち上げ飛行を行うことができる。

 彼自身が持つ魔魁の性質である(スライム)と日頃から呼吸時に何割か取り入れて圧縮した空気を使用し、攻撃する方向に沿って小さな弁を作って一気に開放させることにより、マイナスでありながら音速(・・)による攻撃が可能となる。

 無論、そういう魔法や魔装を使わなければ人体で高速及び音速で行動を行えば魔魁が使えても無事では済まない……身体が崩れても、(・・・・・・・・)治る事を除けば(・・・・・・・)

 

「身体の一部か全身……それだけでこれ程大きく変わるとはな。一種の到達点と言われてたのが納得できる」

 

 メイナードは盗賊達を倒していくナナシを見て、魔魁の認識を改めた。

 

「ボス、このままじゃ……」

「クソが……残りの三人を人質にしろ!」

 

 ガザンの命令でマリアナ達を人質にしようと近付く盗賊達。しかし、目と鼻の先でカチャン、と何かの音が響くと三人の動きを拘束していた手枷と足枷が外れ、近付いてきた盗賊達を返り討ちにした。

 

「なっ!?」

「やっとハズレたか」

「スピードに難点アリだな。修正しておくか」

 

 鍵を使わずに枷をハズした三人に驚くガザン。盗賊達を倒しながらナナシとジャックがマリアナ達と合流した。

 

「なんでハズれたんだ? 鍵はまだ渡してねぇのに」

「こんな事もあろうかと、ティラーくんが渡してくれた“解錠”の魔陣を書いたメモ用紙を上着の袖やズボンの裾に隠しておいたの」

 

 ナナシの疑問をマリアナが上着の袖から魔陣がかかれた小さな紙を取りだし、ナナシに見せながら説明した。

 

「なんだよ。俺が急いで来た意味なかったじゃねぇか!」

「意味はあった……お前が来てくれなかったら、解錠より先に従隷紋を押されていた。お前が急いでやって来た場を掻き乱さなかったら最悪の事態を防げた……礼を言う」

 

 メイナードの感謝にナナシは恥ずかしそうに視線をそらすが、電撃を纏った剣でナナシを後ろから襲おうとした盗賊を迎撃した。

 

「話は後だ。コイツらを捕まえてからたっぷりと話してもらうぞ」

 

 オリバーはそう言って電撃を纏う剣を片手に盗賊達に襲いかかり、それに続いてマリアナ達も盗賊達に向かって駆け出した。

 

「ボス! アイツら止まりません! 一人一人の戦闘力が強くてこのままだと俺達が捕まります!」

 

 形勢逆転。電撃を纏った剣で盗賊達を斬っていくオリバー、マリアナの結界で動きを止めてからメイナードが爆発や麻痺、眠りなどの効果がある魔陣を書いた紙を発動させ一網打尽、ジャックは軽い身のこなしで斬り、ナナシの魔魁が盗賊達に襲いかかった。

 

「……ざけ……んじゃ……」

 

 優位だった状況を軽々と崩されたガザンは内側から沸々と怒りが沸き上がり、同時に黒い感情が膨れ上がった。

 

「ふざけるんじゃねぇぞ!! 高々商品としての価値しかねぇヤツが足掻いてんじゃねぇ!!」

 

 怒鳴り散らし、ガザンは地面を叩いた。すると紫電が地面を駆け抜けて陣を形成し、ガザンの周囲に突然赤い砂が現れ、ガザンを球状に包み込んだ。それを中心に砂や岩が山のように盛り上がっていく。

 

「テメェら全員……廃棄処分だァァァァ!!」

 

 動きが止まる頃には数十メートルもあるであろう大きなゴーレムが誕生した。胸にはガザンがいるであろう球状の赤い砂があり、姿形は巨人というより土の怪物の方が当てはまる。

 

「な、なんだアレ!?」

「魔陣による巨大ゴーレムの創造か……おまけにヤツはゴーレムの中に搭乗している」

 

 ゆったりとした動きで振り上げた腕を降り下ろすゴーレム。徐々にそのスピードはあがっていく。

 

「ぎゃあぁぁぁ!!」

「なんで俺達までぇぇぇ!!」

「ボスゥゥゥゥァ!!」

「壊れろ! 壊れろぉぉぉ!!」

「味方も巻き込んでやがる。見境なしか!」

 

 しかし、本人は暴走しているのか感情のままに行動し、味方ごと蹴散らしている。その様子を見てジャックとオリバーが武器を手にゴーレムへ攻撃を仕掛けた。

 

秘剣(ひけん)雷霆(らいてい)燕返(つばめがえ)し!」

星条剣(ステラ・ブレイド)!」

 

 同時に放たれた三つの斬撃、片刃剣による一撃が巨大ゴーレムの左足を斬る。だが、大きく裂けた足がテレビの巻き戻しのように土が埋まっていき、何もなかったのように直った。

 

「ちっ、再生しやがる!」

「どうやら負傷した部分を地面に接してる足から土を汲み上げているのか」

 

 オリバーの悪態を聞き、メイナードは冷静に分析する。

 

「だったら、これで――」

「ラックトゥーナくん! 危ない!」

 

 ジャックが魔法を発動しようとした瞬間にマリアナがジャックを呼び掛けた。気付くと同時にゴーレムの攻撃はジャックに当たり、遠くにある民家まで飛ばされた。

 

「……痛ッ!?」

 

 とっさに片手剣を盾にした事と身体能力を強化した事で大きな怪我はしなかったが、右肩に何やら激しい痛みと焼けるような痛みに襲われて動きを止めるジャック。

 

「まずは、一人だァァァァァァァ!!」

「させるか!!」

 

 追い打ちを仕掛けようとするガザンを横から左手を大槌に変化して妨害するナナシ。ゴーレムの右腕を壊せたが、すぐに再生される。

 

「邪魔すんじゃねぇ! 出来損ないの魔魁使いが!! この場で強い俺様の邪魔をするな!!」

「……強い? お前は強くなんかねぇよ」

 

 ガザンの怒号を聞き、ナナシはガザンの言葉を否定する。

 

「……本当に強いのは……助けが来る保証なんて無いのに、恐怖に震えながら耐え抜いた村人達だ」

「はぁ? アイツらは弱いに決まってるだろ」

「お前の言う通り力は弱いさ……だがな、村人達が諦めなかったからこそマリアナやオリバー、メイナードにジャック、そして俺がここに来た……お前はアイツらの諦めの悪さに負けたんだよ」

 

 不敵に笑うナナシに琴線が触れたのか、ガザンはゴーレムにナナシを攻撃するように操作する。

 

「……ふざけた事言ってんじゃねぇぞ!! テメェも廃棄処分だ!!」

 

 迫り来る土の怪物の攻撃をナナシは右腕を大きな腕――巨人のような腕に変化し、受け止めた。

 

「なっ!?」

「村人達には『派手にやる』といったからな……見せてやるよ。諦めなかったアイツらの力を……」

 

 ゴーレムの拳を受け止めたナナシはそのまま全身を変化させた。赤黒い液体が一回りも二回りも肥大化し、その様子にガザンは後ろに退いた。

 

変幻(シェイプ)――』

 

 縦に大きく伸びあがって姿形を人のように変え、まるで巨人のようなシルエットになるが、変化はまだ終わらない。

 今度は脚部や腕部に装甲を着けたような形に整っていく。全身に騎士が着るような重厚感溢れる鎧になり、頭部に西洋風の兜が形成され、兜の隙間からライトグリーンの光が灯る。

 

『――蒼天巨人(アトラス)!』

 

 赤黒く禍々しい色をした鎧の巨人がファイティングポーズをとりながら誕生した。その姿には恐ろしいと思えず、どこか優しさを覚える。

 その姿にジャックは頭にある事が過った。ある地域では凶暴化した生物を倒し、暴走したゴーレムを破壊、居座っていた盗賊団を討伐した人物……その人物に出会った人達は彼の姿形を変える魔術を、自分自身の姿を知らない様子から名付けて呼び、当初は幻覚系統の魔術師だと判断した名を口にした。

 

「……正体不明(フーダット・ガイ)

 

 件の人物が記憶喪失の男だとわかって呆然とするジャックを尻目にガザンは怒りのままに鎧の巨人となったナナシに拳を繰り出した。

 

「ふざけるな……ふざけるなァァァァ!!」

『それは……こっちのセリフだァァァァ!!』

 

 カウンター気味に拳を繰り出したナナシ。拳はゴーレムの拳を砕きながら、腕を破壊した。

 

『今のが、俺の怒りの分とお前に騙されたジャック達四人の分……』

 

 狼狽えるガザンが気付くよりも速く懐に潜り込み、ゴーレムを空高く蹴りあげた。

 

『そしてぇぇぇ!!』

 

 空にうち上がったゴーレム――ガザンを見ながら鎧の巨人――ナナシは右腕を大きく広げる。

 

『これが……村人達の……魔術師二人(アイツら)の――』

 

 右腕がさらに肥大化する。肥大化して極太となった腕が何かを形成するように姿形を変え始める。それは武骨で一回りも二回りも大きく、長く伸びた肘は遠くから見ればカタカナの『ト』の字にも見える。ナナシが姿形変わった右腕を大きく振りかぶる。

 狙いは空高く蹴りあげ、地面へと落ちてくる土の怪物。

 禍々しくも優しさを知る黒き鎧の巨人が土の怪物に狙いを定めながら拳を握り、自身を鼓舞するかのように雄叫びをあげる。

 

『――恐怖に耐え抜いた“勇気”の分だァァァァァァァァ!!』

 

 えぐりこむように打ち込まれた拳は土の怪物の腹部に深々と突き刺さり、黒き鎧の巨人の長くなった右肘が元に戻るかのように高速で縮んだ。

 

蒼天破壊拳(アトラス・バンカー)!!』

 

 瞬間、(そら)が割れるような轟音と嵐のような突風がマリアナ達に、覗き見てた盗賊達に、勝利を願う村人達に知らせるかのように広がった。

 

 “パイルバンカー(Pile Bunker)”

 

 とあるロボットアニメ等に登場する架空の武器。巨大な金属製の槍(あるいは杭)を火薬や電磁力などにより高速射出し、敵の装甲を撃ち抜く近接戦闘装備である。

 実在する類似の装置としては、杭打ち機のほか、油圧ショベルのアームに取り付けて建物の解体に用いるブレーカーがある。

 いずれの武器も純粋な質量弾を高速で至近距離からぶつけ、敵機に衝撃を与えて装甲を貫通し、内部に損傷を与える運動エネルギー特化兵器。

 

 繰り出した一撃は大きく、村から遠く離れた小屋――村人達が幽閉されていた牢屋の一部を吹き飛ばす程だった。徐々に風がやみ、土の怪物の姿が跡形もなく消え、落ちてくる気絶したガザンをマリアナとメイナードが協力して受け止め、捕縛する。残りの盗賊達もオリバーの電撃で痺れて動けなくなり御用となった。

 痛みがひいたジャックが巨人を見つめる。静かに佇む鎧の巨人を朝日が照らし、その姿はまるで拠点である小屋に飾ってあった一枚の絵の終着点のようだった。

 村を照らす太陽の光を受け、一夜の激闘がここに終わりを告げた。

 





 次回は全員が叫ぶよ! お楽しみに!!
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