銀河大戦争   作:伊168

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報告

「あの艦は修理されるのか……いや、もう解体されるのだろうか」

 

先程まで寝食を共にし、命を預かってもらっていた駆逐艦「渤海」も旧式に加え大破では如何に資金に余裕のある我が軍でも修理なぞ考えないだろう。それはそれで少し寂しい。それだけでなく死んでいった乗員のことも寂しく思っていた。悲しみだけではないのだ。先程死んだのは数千人程度、我が軍からすれば吹けば飛ぶような砂塵同然、その損害など大富豪が財布から100帝国銭(大体250円くらい)抜かれたぐらいのもの、すぐに忘れ去られ……いや、話題にすらならない。そう思うと何か寂しかった。

彼を乗せたシャトルが宇宙基地に近づくとバース連邦軍の基地と防備が全く違うことに気付かされた。今でこそ条約で禁止されているが、過去によく使用されていた隕石兵器対策のための大口径の衛生砲だけでなく、ありとあらゆる防御がなされていた。

 

「あっ! あいつは……」

 

基地内部に入った彼は長い廊下の先に知っている顔を見つけて衝動的に言った。目がいい彼はそれが本当に知り合いなのかも確認せずに駆け寄った。

 

「やっぱり! 文威!文威!俺だ!」

 

「張少将!ご無事で!」

 

二人は互いに走り寄って、抱き合い、語り合った。

 

「少将……たった16隻の旧式艦で蛮族の地へご出撃なされた時はどうなるかと心配いたしました」

 

「え? 知ってたの!」

 

敵を騙すならまず味方からみたいな言葉があったはずだ、文威にバレてたら敵にも摑まれてるかも知れないと張は思い、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。久しぶりに慌てる張を見て彼は微笑んで、

 

「貴方の顔を忘れる訳がないでしょう。もう皆んな知ってますよ」

 

と言うと張は、

 

「ガバガバ過ぎないかそれ……今の海軍省、大丈夫なのか!?」

 

と言って考え込む。彼は1艦隊を指揮するようになる人間なのだ。指揮が出来る人間と見込まれている彼である、失敗とも言える人事に頭を抱えない訳がなかった。

 

「それはわかりません。あ、あと……」

 

「敬語じゃなくていいぞ。仕事じゃないんだから自然に話そうぜ」

 

「はい。実は私、一等大佐(准将、将官待遇、戦隊の司令官)から少将に昇格して、BF4の第8砲撃部隊司令官に抜擢されたんです!」

 

心の底から嬉しそうに言う彼に張は柄でもない暖かい目を向けつつ、ちょっと引っかかることについて聞いた。

 

「おう、良かったな。で、BFって何?」

 

「知らないんですか! BF4の司令長官はあなたですよ!」

 

「はあ?」

 

張は上から何も言われてないのにいきなり何処そこの司令長官だぞと言われ、頭がクラクラするぐらいに吃驚した。そのあまり、先程シャトルで貰った烏龍茶を盛大に吹き出してしまった。無理もない、出撃してから急なこと続きであっても「ハイそうですか」と言えるぐらいに慣れる訳がない。

 

「ああもう汚い!」

 

意外にも綺麗好きな彼が立派な口髭を曲げながらハンケチで張が噴き出した茶を拭く。

 

「すまん。まあそのことは副総統閣下に聞いてくる。そうだ、俺は孔斌さんの所に行かんといかんのだ」

 

「そうですか……閣下のことは一生忘れません」

 

「よせよ。手加減してくれるって」

 

彼の悪ふざけが、悪ふざけの癖にやたら演技力が高いがために張は少し心配になったが、それを振り払う意図も込めてそう言った。尤も、副総統からは正反対のことが伝えられているのだが。

 

「さてと……全く、皆知っているようならこうする必要もないだろうに」

 

張は孔斌が待つという一室の前でそうぼやく。猛虎と言われる彼ですらできればされたくないというほど孔斌の説教は厳しいのだ。彼は人間は殴られて育つと考えており、不正や態度が悪かったりすると利き手で殴った。ただし、彼は正義感に強く不正な暴力はしていない。しかし、彼の拳骨の痛さから多くの士官学校出身者は半殺しの孔斌と言って恐れている。

張はドアを4回ノックして中に入った。

 

「失礼します」

 

ドアの奥には全く怒っている様子のない孔斌がいた。このような不祥事があらば、五つの聖域を乗り越えて艦内に怒鳴り込んで来そうなものだが、それどころか少し嬉しそうな表情が垣間見えるため、張はホッとするというより気味が悪くなり、逃げ出したい気持ちが強まってしまったようである。

 

「高雲……いや、張延中将……こちらに」

 

孔斌の顔が崩れかけたばかりか士官候補生の高雲という設定すらいきなり捨ててしまった。張はもうどうにでもなれと思って、言われるがままに椅子に座った。

 

「それ言ってしまっていいのですか?」

 

「勿論。君に落ち度はないんだから殴るつもりも叱るつもりもないよ」

 

「ああ、はい」

 

「実は、暴力制裁反対運動が李武逵二等大佐や袁忠世一等大佐の辺り中心に広まっていたのだが、ついにそれが認められて暴力がいかなる場合でも禁止になったんだよ。来月かららしい。尤も儂は今年で退役だからあまり関係ないのだがな」

 

残念そうに笑いながら孔斌は言う。今年で50後半になる叩き上げの彼にとっては兵隊は殴って育つという精神の息の根が止められたことは残念だろう。過剰暴力、不正暴力を取り締まればいいだけで全面禁止はおかしいと言いたげだった。兵隊は殴らなくても指揮官に徳があれば付いて来るのかと言えばそうではない。今は、何千年前の古代戦ではないのだ。指揮官の徳や威厳でどうにかなるものではないし、小物だから人を殴るなんて妄言もいいところだ。小物なのは私情を挟んで殴る人間だけだ。現代戦では一人の小さなミスが全軍の崩壊につながる。体で教えこまないといけない人間にはそうするしかないだろう。

だが、別に彼は反対派に怒っているのではない。できれば暴力なしでやっていきたいのは分からないでもない。彼が怒っているのは不当に暴力を振るう者たちに対してだ。そんな下らない行動のせいで兵隊教育がガラッと変わり、腑抜けた兵隊が今後量産されるような状態にしたのだ。海軍以上に教育が重要性を持つ陸軍なぞ大変だろう。

 

「あの二人ですか……李は首席卒業、袁は一度停学経験ありだが次席卒業。エリート層がそう言ったなら仕方ないでしょう。ですが軍曹……」

 

「どうした?」

 

張はサッと孔斌に急接近し、

 

「私は副総統に叱られてこいと言われました。有名なあなたがこんな不祥事があっても殴らないと敵工作員が怪しみますし、副総統の命令を無視することになります。まだ禁止期間ではないはずですから、どうぞ」

 

と耳打ちすると立ち上がって歯を食いしばった。彼は何故か分からないが今なら殴られても平気な気がしたのだ。

 

「分かった。君が儂の最後の生徒になるだろうね……うーん、君のことは3日に一回は殴っていたのに、どうも覚束ないね……よし、歯を食いしばって!」

 

室内から、乾いた音が飛び出す。近くを通った者は驚いて音が聞こえた所を探している。

殴られた張は左頬を真っ赤に染めて突っ立っていた。

 

「大丈夫か!?」

 

「ええ、平気です」

 

孔斌の問いに張は表情を歪めながら答える。前は失神していたが、何とか耐えきった。

 

「立派になったな」

 

孔斌が表情を完全に崩した。今まで見たことがない、想像すらできなかった満面の笑みだ。張は何か感激して、

 

「ありがとうございます!」

 

といつも以上の大声で返した。

部屋を出た彼は、副総統の待つ総督室(諸侯国の実質的統治権は現役武官から任命された総督が持つ)に向かった。総督を他の部屋に追いやれるほどの権威を持つ人間と会う、電話と紙面のやりとりとは段違いの緊張感だ。

彼は重たい足取りで総督室をノックし、

 

「入れ」

 

と返されたことを落ち着いて確かめると中に入った、その様子はまるで他人と話したことも面接経験もないガリ勉のエリートが有名企業の面接に行く様子と重なる。

 

「張君、威力偵察お疲れ様。結構な戦果だった。本当良くやったな。では、敵軍の戦力の程を聞こうか」

 

結構軽く話しかけられ、張は今度は困惑せずリラックスし、予習通り答える。

 

「まずミサイルはこちらの駆逐艦を大破させましたが油断していなければ迎撃レーザーで落とせ、万が一破片や爆風が当たってもダメコンとシールドが働いて大破とは言わないでしょう。巡洋艦は中途半端でこちらの戦闘艦の数さえ揃えば敵ではないでしょうな。戦艦はなぜか巨体に比べて豆鉄砲で巡洋戦艦は燃費も良く脅威ですが戦艦はトロくいい的でしかありません。航空機は空母に積まないと大気圏を抜けられないばかりか性能も我が国の二世代ほど前というレベルです。陸軍は押収した書類からして珍兵器を量産していると言えます。レーダー(電探)は数千キロしかわからないレベルで原子力艦がやっとという感じです。ビーム砲を所有していましたが戦艦に一門付いている程度で速度も酷く遅く脅威ではありません」

 

報告を聞いて副総統は大げさなぐらい胸を撫で下ろした。

 

「そうか……プラズマ化の対策がないのだろう。思ったより酷い軍事力だな……陸軍の兵器には気を付けること、また豆鉄砲である理由も詳しく調べるように工作員に伝えておこう。いやー良かった」

 

素人の演技のように大げさな安堵を見せる彼に張は(聞けというフリだな! )と思いまたついつい

 

「なぜそんなに安心されるのですか?」

 

と尋ねてしまう。

 

「君でも気づいたか……実はな、ラバール共和王国が我が同盟国北越王国の休戦協定違反を理由に北軍全てに宣戦布告して、後援国のエーデルフルト帝国のみでなく2年前に我が国を裏切って独立した大梁帝国も加わり、敵はエーデフルト帝国の保有する12星域、その他南軍の2星域に加え大梁の7星域、合計21星域もあるのだ。しかも国力比は3対5と以前のように楽にはいかん。だからそちらに向ける兵力を削減したかったのだ」

 

副総統の言葉を聞いて張は嫌な予感がした。彼がこういう時は大体旧式艦しか与えてこない。要するにワンサイドゲームではないのだ。ワンサイドゲームでなければ戦術や戦略で負けるかもしれない上に、数も少なければ物量で押し潰されるかも知れない。今回の敗戦で彼は多少なりとも自信を失っていたのである。




張と文威(姓は黄)はホモではないのでご安心ください。
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