「ところで張君、君は敵軍に捕虜を取られたり自分の正規の情報を一つでも見られたりしたかね?」
「大丈夫です。ですが、我が軍の者たちには知られているようです」
「構わん。工作員は確認されていないし、土人が我が軍の管理をすり抜けられる程賢いとは思えんしな。まあいい、これで安心して君を攻略艦隊の第四艦隊司令長官に留めておける。これで攻略艦隊は全4個艦隊に加え陸軍揚陸隊300隻つまり陸軍120万人になる。他の艦隊司令長官は君と同じ極東方面軍から三人出ている。第37艦隊の呉章鸞中将、第19艦隊の馬鎮武中将、第20艦隊の史威仁中将だ。陸軍司令官は劉無皓大将だ。失礼の無いようにな」
張は出来るだけ静かに聞いていたが呉や馬という名前が出たところでつい不満気な表情をしてしまった。慌てて隠そうとするが、副総統にはあっさりバレて案の定こう言われた。
「どうした不服か?」
もう正直に言うしかあるまいと思った張は、
「はい、不服です。呉提督は素行に難があり馬提督は立案に難があります」
と答えた。この張の言い分を副総統は吹き出しそうになりながら聞いていた。それもそうだ。突撃しかしない彼が立案を語るのは詐欺師が窃盗犯を糾弾するのも同じであるし素行が悪いということも張が言うとやはり冗談に聞こえてしまう。だがこんなことを彼に言えばこの関係にヒビが入るかも知れないし張が気を悪くすると思ったため、副総統は必死に堪えている。そこまで彼の心情を考えるのもまだ副総統は彼を気の置けない人間とまでは思っていなかったからこそだ。
「だが他に人材をまわすと北軍司令長官の凌元帥が困るだろう。ここは我慢してくれ。ほかに何かないか?なければ、艦隊の準備はしてあるから急ぎ出港してくれ。君の……おっと君達の赫赫たる戦果を期待する」
張は副総統に一礼をして退出すると港に赴き極東方面軍時代からの自らの乗艦、高速戦艦江寧に乗り込んだ。海軍艦艇4000隻と陸軍揚陸艦300隻は骨董品レベルである原子力艦や旧式化しつつある核融合炉艦のみだが堂々と港を立った。
こうしてすでに大魯帝国は本格的侵攻を始めたにも関わらずアッバス星団では未だ予算会議すら終わっていなかった。それもそのはず、海軍に猛反発した陸軍に今度は空軍が反発し、議長が制止すらできない、今にも殺し合いになりそうな空気になり、議事録が真っ黒になるほど泥沼の言い争いになっているからだ。陸軍と空軍がしのぎを削るのは、航宙要員としてもっとも活躍する海軍と違い活躍が限られる彼らは予算を取るためには必死でアピールをしなければならないからだ。争いは同じレベルのもの同士でしか起こらないとはまさにこのことだろう。誰もがそう思うほどであった。
アッバス星団主星、アローの首都セパノイアに昇る太陽が傾き始めた頃、大魯帝国バース星団連邦攻略艦隊は国境にワープした後、占領した資源惑星リシュに本部を置いた。
そこでは星団軍の2割の艦艇が屯ろす二等惑星ジェーンを如何に攻略するか、作戦会議が行われていた。
もうすぐ戦闘に突入します。