銀河大戦争   作:伊168

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分析と反撃と

「ああ。君を大燕王国中将に昇格とする」

 

副総統から昇格を言い渡されて張は困惑した。王国軍少将から中将。たかが1階級昇格しかも帝国での階級でないなら副総統が言い渡すまでもないからだ。そのためつい、

 

「本題はそんなことではないでしょう?」

 

とこぼしてしまった。

 

「頭の悪い君でも気づいたか。そうだ、実は君の率いている艦隊は士官候補生の練習艦艇という扱いになっている」

 

「はあ?」

 

つい大きな声を出してしまった。人一倍声が大きい自分が大声を出したら乗員に怪しまれるかもしれない。大きい声を出してしまったのは頭の悪いと言われたことが4割、中将なのに士官候補生扱いという驚きが6割だった。大きな声を出してしまったから、いかん! と思ったが、聴こえてないことを確認して少し安心した。

 

「君はいつも声が大きいから誰も駆けつけんよ。とりあえずそういうことで、君は士官候補生で、誤ってそちらの領域付近までに迷い込んでしまっただけで、攻撃されたから反撃したということになっている。念のため叱られることになってるから覚悟しておくんだ。ちなみに叱って下さるのはあの孔斌軍曹だ。又、君はその基地を占領しようとしているらしいが、中止したまえ。工作員によるとその星系にロクな戦力はないみたいだが、君がやってしまうと意図を読まれかねない。武装漁船を3000隻派遣する、一時的な占領はそれらに任せる。これらは君と私と総統だけの秘密だ、いいね?」

 

「はい」

 

「あと、次に攻撃してほしいのはのは奴らがテラフォーミング中のx44星系に所属する惑星ジューンだ。幾千の艦艇があるから楽しみにしておけ。他は漁船にやらせるから寄り道はするな。あと、私以外からの通信は何があっても絶対に受け取るな。艦隊司令長官は張延のまま、一応君は士官候補生の高雲ということになってるからよろしく。では、くれぐれも他人に話さないように」

 

もともとこう言った法的なというかなんというか計略は得意ではないのだがなと重たいため息をついて彼は便所を後にした。

 

戦艦「テュレンヌ」艦上に一機のヘリコプターが降り立った。そこから、勲章を多く胸につけている将官らしい男が降りると、副官を連れて艦内の長官室に向かった。そう、マティアス・ベロン大将である。

 

「長官殿、海軍省の方はどうでしたか?」

 

総参謀長がそっと尋ねる。

 

「手応えなしだ。連合艦隊設立は難しいかも知れん」

 

「しかしそれでは……」

 

「連邦艦隊の再編成だけでもそれなりの戦力にはなる、ただより難しい博打になるだろうね」

 

「そうなりますか……やはり、一航艦と二艦隊、三艦隊、七航艦中心での作戦行動も考えておく必要がありますな。では、軍令部の方へ行って参ります」

 

「ああ、漸減邀撃作戦を取ってもらえるようにひたすら目標に向かって邁進してくれ」

 

二人は別れ、ベロン長官は長官室にさっさと入った。海軍省との不毛に終わった対談を思い出し、頭が痛くなる。しつこく軍拡を主張していた海軍省が一挙に弱腰になり、条件付降伏どころか無条件降伏も視野に入れて大統領や議会にそれを促そうとしているとは、思いもしなかった。

 

ドアを三回ノックする音が聞こえる。三回のノックでエドガー大佐だとわかった長官は、

 

「おお、入っていいぞ」

 

と適当に言って大佐を迎えた。

 

「長官!大事な大事な報告なんです。そんな適当な応対では困りますよ……」

 

大佐がボソッと言った。こう言う時だけ地獄耳のベロン長官、すかさず

 

「そうか、ごめん」

 

と頭を下げる。大佐はちょっと面食らったようになったが、気をとりなおしてファイルの中から書類を一枚取り出して言った。

 

「司令長官殿、惑星ヴェルンのアッシリア基地が陥落しました!」

 

「何だと!?幾ら何でも早すぎる!」

 

旧式の敵艦隊に対し、星団艦隊と言えど戦艦や巡洋艦を含んでいた。数でも優っていた、勝てるとは思っていなかったがこうも早くに負けると思わなかった。

 

「しかし……事実です。現に惑星防衛艦隊司令長官のミシェル少将から全滅の報せが入っています」

 

早すぎる基地の陥落にベロン長官は誰よりも危機感を覚えた。

 

「それで、アッバス星団はどうしたのだ?」

 

手が出せない現在、漸減邀撃に最適なアッバス星団がそれまで残ってくれるかはアッバス星団軍にあるのだ。絶対に聞かねばならないことである。報告してきたエドガー大佐は喜び勇んで言った。

 

「はっ、アッバス星団大本営は5個の小規模艦隊を派遣。総勢320隻で現在惑星キャベラに到達、アッシリア基地まであと200光秒のようです。あと4時間程度で基地に到着すると」

 

「ダメだ。やめさせろ。300隻では勝てるだろうが、そんな数で勝っても無意味どころか損失にしかならない」

 

ベロン長官の反応に大佐は眉を顰め疑問をこぼした。

 

「長官、勝てるのならどこに問題があるのでしょう」

 

長官はこいつ、まだ若いななどと密かに思いながら、少々厳しい語調で答えた。

 

「敵を侮るな。その報告書が正しいとするなら、戦艦すら駆逐艦にいいようにされてしまったということになるだろう、だが、敵は少なく兵の質も劣悪、だが、アッバス星団海軍は柔軟性に欠ける。もしここで、300やそこらで勝ってしまえば敵を侮り、以後も同等の兵力しか割かんことになるだろう。それでは逐次投入になり、気づいた頃にはかなり被害を被っているだろう。ここは数千隻で攻勢をかけるのが上策、そうすればそれだけでやっと勝てたと思うだろうし、千隻単位での行動をするはず、それぐらいなら戦力の逐次投入にはならん」

 

長官の回答に彼は少し納得したが納得したがために残念そうな顔をして、

 

「しかし各星団の艦隊は星団ごとの海軍軍令部や星団艦隊司令部、地方海軍局(海軍省の地方版のようなもの)に従います。政府軍から口出しはできません、残念ながら」

 

と言った。長官はもう何も言わなかった。ここでいくらああだこうだ言っても状況も体制も何ら変わらないのだ。だからこそ、自分の作戦を実行させるため、無条件降伏などは避けるために大統領府へと向かった。

 

惑星キャベラを越えて幾らか経つ頃、星団本星に通信を終えた五個艦隊は悠々と無人の宇宙を突き進んで行った。

 

「もっとスピードを上げろ! 一刻も早く暴漢どもを蹴散らすのだ!」

 

アッバス星団海軍第七艦隊戦闘指揮所で嬉々として命令を下しているのは第七艦隊司令長官かつこの五個艦隊の総指揮官でもあるジュスト・バルサ大将である。彼は今回の作戦の大勝利を確信し星団軍の威信を一刻も早く取り戻すべく勝ちを急いでいるのだ。戦艦24隻、重巡洋艦56隻、軽巡洋艦70隻、駆逐艦100隻、補助艦70隻の歴史上類を見ない艦隊を皆は誇らしげに眺めていた。

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