銀河大戦争   作:伊168

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両艦隊会する

その頃、張艦隊はやってきた漁船などを通じてミサイルなどの補給を終え惑星ジェーン まで一直線に進んでいっていた。

 

「張長官!前方1万二千キロに敵艦隊発見!戦艦を有するおよそ350隻!こちらに向かってきます!」

 

突如として入ったその報せに14隻(2隻は大破着底し引き上げ作業中)の駆逐艦が揺れるように各艦内は歓呼の声に包まれた。常人なら耳がダメになるぐらいに騒がしくなるのも彼らが勇猛果敢であるからに違いない。普通ならこれほどの艦隊が正面に現れれば如何にして此れを回避するかを考える。つまり、本来の作戦目標を優先するのだが、彼らは違う。彼らは味方が許す限りなら出来る限り敵艦隊と戦おうとする。目標も達成しようとはするが、敵艦隊への攻撃でない限りは二の次三の次になるのだ。

 

「そうか! 全砲門を開いてノロマどもに浴びせてやれ!」

 

この戦闘狂たちの親玉である張少将も負けないぐらいに喜び勇んで攻撃命令を出す。先んずれば人を制す、後るれば則ち人の制する所と為ると言えども無謀過ぎる。だが、それを気にしないどころか劣勢であればあるほど興奮するのだから周囲から「もう訳がわからない」と呆れ顔で言われるのである。今回なんて敵は20倍、興奮度は最高潮であり、砲術参謀達は小躍りしながら準備を始めたものだった。

勿論、この攻撃は星団艦隊にとっては全く予想できないことであった。彼らにとって戦闘においては1万二千キロとはとてつもない距離であり、攻撃は愚かその距離から敵艦隊を目視する術もレーダーで発見する術もない。しかし高速の半分以上のスピードで飛び出す彼の艦隊の重イオン砲にとっては距離1万二千キロなど小股で一歩歩く程度のものである。それらはあっという間に到達する。乗員がエネルギーを観測したころには彼らの目と鼻の先にあり、何も出来ずに駆逐艦11隻を喪失したのだった。

 

「駆逐艦11隻喪失、軽巡洋艦1隻中破だと……どういうことだ! レーダーにはなにも写っていないぞ!」

 

近辺の宇宙海賊を黙らせ、44と若年ながらも申し分ない経験と実力をもつ提督であるバルサ大将ですらこの状況は全く理解できず焦りと恐怖を感じていたのだ。彼は、いくら技術が進んでいても撃沈できない訳ではないし、この数なら余裕だと、被害は殆ど出ないと確信していたのだろう。それは顔の半分は平静を装っていても、もう半分は未だに心の中で何故こうなったのかと自問自答しているような表情になっていることからうかがえる。そこに大慌てで電話で美味い話があると言われた後のような表情をした若い士官が息を切らして入室し、大将に向かって話し始めた。

 

「報告します! 到達時間の差から計算すると奴らはここから12000キロ離れたところから……」

 

「なっ、なにっ! そんなに遠くからだと!?バカな!考えられん!」

 

大将の心臓がドクドクとなっている。認めたくはないのだが、そのような兵器が「絶対にない」とは言えないし、そもそも、魯国が自国と同等の兵器しか持っていないわけがないだろうと感じているのだ。

考えられないなどと言う判断も階級や軍内の地位が上がり様々な情報を耳にすることとなる彼にとっては、希望的観測でしかない。

そんなことはわかっているがいきなり気勢を削がれているのに我が国と敵国の隔絶した軍事力について考えるなんてしたくはなかった。願望に従って判断した方がずっと楽だ。

 

「いいえ、事実です。光学兵器や粒子砲ならあり得ます……」

 

中尉からの尤もな指摘が刺さる。確かに我が国でも作れる兵器だからあっておかしくはない。否、ないとおかしいだろう。だが、敵艦を撃沈出来るほどの威力を持たせて艦砲にし、それを駆逐艦にまで搭載できるわけない。彼は必死に言い聞かせた。

 

「フォ、フォーレ中尉!悪いがもう一度確認してきてくれ」

 

「了解しました!」

 

中尉が急いで出て行く。先程ーーーー突然味方艦艇が爆沈した時ーーーーポカンとしていた彼らは今や震えている。中尉の言ったことなど、信じ切ってはいなかったが、もしかしたらと考えると震えが止まらなかったのだ。だが、プライドの高い彼らはこれは武者震いだと自分に言い聞かせるという無意味な慰めをしていた。

 

「張司令長官!敵艦10隻程度の撃沈を確認!」

 

「よし、よくやったな! このまま前進して全部沈めてやれ! 皆殺しにしろ!」

 

1発目で11隻の撃沈と目には見えないが士気を挫くという大損害を与え、幸先良い張艦隊の士気は上がらないはずはなかった。本来なら射程を生かしてアウトレンジを取るところを彼らはひたすらに直進した。理解し難い--これを知った者はただそう思った。加速度から考えても星団艦隊が射程まで追いつく可能性は針の穴に象を通すよりも難しいだろう。アウトレンジを取れば無傷で一方的な勝利を得られる筈だ。だが、張少将もとい中将はそんなことをしたくはなかった。彼にとって、敵も撃ちあえる状況下で戦う事が美学なのである。一撃は射程外から加えても、絶対に敵にもチャンスを与えるのだ。それが、舐めているのかスリルを感じるためなのか騎士道的精神に基づく物なのかは定かではない。ただ、何十倍の数を持つ艦隊を押すその様子は首を傾げざるおえないものだったであろう。


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