特に報告することはないので、本文見てください。
では、どうぞ。
「次は?!」
「えっと、次は..」
「モタモタしない!」
「は、はい!」
俺はなぜか怒られながら、あの世界一のトップアイドル。神崎美月についていた。
なぜ、こんな不審者がついているって?理由は簡単。俺は今日一日、マネージャーとして勤めることとなったからだ。
時間は現在十一時とお昼に近く、町行く人々はみな、ファーストフード店に入ったりして、空腹を満たしていた。
そんななか、俺も空腹と眠気と戦いながら、神崎美月さんについていた。
ちなみに次に目指すのは、とあるテレビ局。そこでやるバラエティー番組に出演するらしく、だいたい収録時間まで約二十分もない。
急いで車に乗り、走り出す。ちなみに運転してくれているのは、神崎美月さんの元々のマネージャー。月影ほのかさんというらしい。
車が走りだし、話すぐらいの時間が出来たことで、月影さんが神崎美月さんに話しかける。
「...はぁ...。急に男性をマネージャーにするなんて言われた時は流石に驚いたわ。それに素性もほとんど知らないって...」
「はは....ごめんなさい。ほのかさん。少し私もこの人に用があって...」
「でも、名前すら知らないんでしょ?せめて自己紹介だけでも今のうちにすればいいんじゃない?」
「分かってます。....私の名前は神崎美月。あなたは?」
「ひゃ、ひゃい!ひきぎゃやひゃちみゃ!!」
やべぇ...盛大に舌噛んだ...絶対に笑われる。
いや、というかもう既に笑っていた。しかもかなりツボにはまっている。必死に堪えているが、我慢しきれず、時折笑い声がもれていた。
「....んん!....落ち着いて話して良いわよ。あ、ほのかさん。...あと、どれくらいですか?」
「んー、そうね。五分ぐらいかしらね」
「ほら、時間も大丈夫だから、ね?」
昨日のあの時が嘘だったのかのように、対応が優しい。...いや、もしかしたら月影さんがいるから、優しく見せてるだけかもしれない....のか?
「は、はい。..ひ、比企谷八幡です。学園長から許可を頂いて、スターライト学園に通わせてもらってます」
「...ちょっと待って。もしかして通ってるって、学生寮に住んでいるの?」
「...えぇ、まぁ、はい..」
「....よくあの人が許したわね..」
「でも、皆がレッスンを受けている間って、何をしてるの?」
「涼川さんと一緒に掃除をしています」
「なるほどね...」
その後も話していると、いつの間にか目的地に着いていた。
「じゃあ、行ってきます。ほのかさん」
「行ってらっしゃい」
神崎さんが(話している途中に呼び捨てで良いと言われたので、名字で呼ぶことにした。ちなみに神崎さんは比企谷君と呼ぶことにしたらしい)先に走り出したので、後を追うようにして走り出そうとすると、月影さんに肩を掴まれた。
「...えっと..」
「美月が連れてきた時点で、少なくとも君の事を信用はしているようだけど....。もし、美月に手を出したら私は一生許さないわよ」
片方の目が隠れているので、今いち分かりづらいが、もう片方の目が俺を鋭い目で見ていた。
「...あり得ませんよ、そんなこと。俺にそんな事が出来る奴だと思います?」
「....はぁ......」
俺が答えると、何やらため息をつかれて、呆れた顔で見てきた。
え、何。何かやらかしたか。
「まぁ、話してて何となくそんな雰囲気は感じていたけど....。はぁ...いいわ。君がそういうことを出来る人間ではないということは分かったわ。...悪かったわね、もう良いわよ。....あと、美月が無茶を言っても我慢しなさいね」
「それってどういう..?」
意味を聞こうと思ったら、強引に外に出されて、そのまま行ってしまった。速ぇ...。
「いや、そんな事を言ってる場合じゃねぇ!早く追わないと!」
神崎さんが行った方向を見ると、そこには既に影も形も残っていなかった。
「こっちも速ぇ..」
ため息を俺もついて、走り出すのだった。
・・・時間経過
なんとか追い付き、カメラの画面外で神崎さんを見ていたのだが、その際に今までも思っていた事を、改めて考えていた。
本当にあの人、中学生か..?実は年齢を偽っているんじゃ..?
面白おかしく話す芸能人に対して、それに合った答えを返しながら、尚且つ的確に返して、これまた笑いを誘う。
.....にしても。
俺がずっと聞いていた歌を歌っていたあの人が、いまこうして目の前にいて、さらには一日とはいえマネージャーとしているだなんて。
夢だろうと、この後酷い目にあおうとも。
今はこの瞬間を一秒でも感じていたいと、素直に思った。
そんな事を考えていると、番組は終了し、どこからともなく、おつかれっしたー、という声が色々な所からかかる。
神崎さんも全員に挨拶をし、スタッフ一人一人にも挨拶をして、そのまましばらく周りを見ると、俺を見つけてこちらにやってくる。さて、俺も任されたからには、不得手なりにも頑張らなければ。
「...それで、次なんですけどーー」
「ーーストップ」
俺が次の予定を言おうとすると、神崎さんが遮ってくる。
何だろう、いきなり粗相をしたのだろうか。
「な、何ですか..?」
「いま、何時?」
「えっと....、今はぴったり十三時です」
時計で確認して報告すると、神崎さんは「うん、予定通り..」と言って、歩き始める。え、なに。計画通り?それは某◯◯ノートに出てくる人物の台詞ですね。
しばらく歩くと、外に出る一歩手前の場所の所でようやく立ち止まった。
「ぜぇ..ぜぇ..。きゅ、急に歩きだしてどうしたんですか..?」
「その予定なんだけどね。ーー実はもう終わりなの。だから、そこに書いてあるのは嘘、よ」
「ーーへ?」
多分これまでにないほどの、バカな顔だったのかも知れない。それほど驚いてしまった。
「さ!私、これから久しぶりにオフなの。まぁ、午後だけだけどね」
「......は、はぁ...」
久しぶり...まぁ、確かに。こんな今まさに、人気絶好調な人が休みだなんて、そうそう取れないだろう。
まぁ、だから、これで俺の仕事は終了か、と。
さっきの決意は無駄だったな、と思っていると。
予想外の言葉がかけられる。
「ーーじゃ、行くわよ?」
「..........はい?」
「比企谷君も一緒に行くのよ?ほら、早くしなさい。時間は有限よ」
「ちょっ!手を掴まないで..!」
その時にちょうど月影さんの言っていたことを、思い出した。
ーー....あと、美月が無茶を言っても我慢しなさいね
そういうことか。そういうことだったのか。
この人のオフに付き合えということだったんですか?
....いや、無理でしょ。こんなただの一人のファンにーー
「ほらっ!早く!」
満面の笑みでこちらに手を伸ばしてくる神崎さん。
外からこちらにこぼれてくる光が、ちょうど神崎さんに当たって後光のように射す。
「......はぁ...」
出会って二日もないとか。
会ったときの印象が最悪だったとか。
この人は全部を乗り越えてくるんだな。
なんとなく、この人がトップアイドルになれた理由を知れた気がする。
「....行きましょう」
多分これから先。この人とこういう風に話す機会があったなら。
俺はこの人には逆らえないと、笑顔で外に行く神崎さんを見て思ったのだった。
どうでしたか?面白かったら、幸いです。
では、また。