彼方の声   作:伊藤 薫

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 装甲バンの車内は寒いくらいだった。足元には装備運搬ドローンが置かれている。大型バイクほどのサイズで、全体的に四角い外観のデザインはカメラに似ている。成瀬川には車内が少し手狭のように感じた。成瀬川とベンチに向かい合って座る高階が口を開いた。

「瀬戸裕之」

 成瀬川は顔を上げる。

「知ってるよな?お前が3年前に、尾山台の廃屋で射殺した誘拐犯の1人だ」

「ええ」

「永嶋は10歳まで神戸で暮らしてた。そのとき、最初の犯罪に手を染めてる。住んでたアパートの隣の部屋から財布を盗んだんだ。共犯が1人。同じ小学校に通う同級生だった。その共犯者の名前が瀬戸裕之」

 成瀬川はショックで言葉は継げなかった。

「『成しうる者が為すべきを為す』ということだ」速水が言った。「お前の為すべきことは分かってるか?」

 装甲バンは横河謙の家の周辺まで来ていた。首都高の高架下は病院やコンビニなどが軒を連ねていた。道路ひとつ挟んだ表筋に、横河の父親が営んでいたという塗装屋があるはずだった。装甲バンを運転する捜査員はカーナビを何度も見るが、一周回って来ては「この辺りのハズなんですが・・・」と言うばかりだった。

「車を降りて探そう」高階が言った。

 3人の刑事は装甲バンを降りた。装備運搬ドローンが一緒に降りてきて、成瀬川たちの前でコンテナ部分のカバーを開けた。中には、3挺の特殊拳銃が収納されている。

「犯罪係数の測定には時間がかかる」速水が低い声で言った。「だが、例外もある。それがコイツ、ドミネーターだ」

 速水と高階が自分のドミネーターを手に取る。

「コイツは照準した相手の〈サイコ=パス〉を読み取ることが出来る。相手が潜在犯だった場合のみ、セイフティが解除される」高階が言った。「基本モードはパラライザー。撃たれても動けなくなるだけ。それで身柄確保して一件落着。簡単だろ?」

「はあ・・・」

 成瀬川はピンとこないまま、装備運搬ドローンに残った最後のドミネーターを手に取った。グリップを握って引き抜いた次の瞬間、ドミネーターのインターフェイスが起動した。早口の合成マシンボイスで語りかけてくる。

『携帯型心理診断・鎮圧執行システム・ドミネーター・起動しました・ユーザー認証・使用許諾確認・適正ユーザーです・現在の執行モードは・ノンリーサル・パラライザー・落ち着いて照準を定め・対象を無力化してください』

「それは、指向性音声だから握ってるお前だけにしか聞こえない。気にするな」

 3人はドミネーターにホルスターを差し込んだ。

「段取りはどうしますか?」成瀬川は言った。

「俺たちは猟犬だ。犯罪者を狩る。お前はそれを見届ける。俺たちのやり方が気に食わない時は、そいつで俺たちを撃て」

 速水の素気ない言葉に、成瀬川はしばし絶句する。

「俺たちも永嶋と同じ潜在犯だ。ドミネーターは作動する」

 高階が「まあ、任せとけってことさ」と軽く流す。

 3人は周囲の家を1軒ずつ、虱潰しに当たっていくことにした。速水が成瀬川を差して「俺とお前は右。高階は左」と言った。

 速水はペンライトで表札を照らしながら、さっさと先に進んで行く。表札の無い家では数分立ち止まり、後に続く成瀬川も黙々と同じことを繰り返した。

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