IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜 作:アリヤ
学年別トーナメント当日、アリーナではたくさんの生徒たちが集まり、歓声が響き渡っていた。
今回の学年別トーナメントはタッグ形式に変更され、事前登録すれば好きなタッグと組めるようになっていた。そのおかげで、今回学年別トーナメントは一年生の生徒にとって絶望的だった。
教師である山田真耶と五角に戦った鳳鈴音とセシリア・オルコットの代表候補生コンビが組んでしまい、勝ち目がないと言われてしまうくらいだ。代表候補生ではない生徒たちがただでさえ優勝することが難しいのに、一年生最強コンビと言われている二人が組まれてしまえばやる気が出るわけがなかった。
しかし、トーナメント表が発表されたときに嬉しい事があった。なんと鳳鈴音とセシリア・オルコットの第一試合の対戦相手がラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒のコンビだったからだ。ラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒はランダムに組まれただけだが、第一試合で代表候補生同士が潰しあってくれるのはありがい事だった。
そして現在はその第一試合が行われようとしていた――
「まさか、第一試合からラウラ・ボーデヴィッヒに当たるとはね……」
「そうですわね。前回は中断という形で終わりましたが、これで決着をつけますわね」
鳳鈴音とセシリア・オルコットはアリーナのピットにて準備を行っていた。
一対一での勝負では、軍人であるラウラ・ボーデヴィッヒの方が実力的に上だということは鈴もセシリアも自覚している。篠ノ之箒には悪いが、勝つためには箒を早く倒して二対一でラウラに挑む必要があった。
「箒さんの訓練機は確か打鉄でしたわね……でしたらわたくしが箒さんを倒すかたちでよろしいですか?」
「そのつもりでいたわ。一対一であればセシリアのブルー・ティアーズを利用すれば問題ないでしょ。その間、あたし一人でラウラの攻撃から防がないといけないけど」
「全てはわたくし次第ですわね……」
「えぇ、頼りにしているわよ」
セシリアが箒との戦いに時間をかけてしまうほど、鈴とセシリアの勝利は遠くなる。いつまでもラウラの攻撃を防ぎきれるわけではないと鈴は自覚していたし、長引くほど不利になる。全てはセシリア次第で、それは鈴がセシリアをかなり信頼しているから頼めたことだった。
「さて、ある程度決まった事だし、時間まで整えておこうか」
出撃時間になるまで、鈴とセシリアは最終確認を行い、準備万端にしておくのだった――
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鈴とセシリアがいるピットの反対側にいるラウラ・ボーデヴィッヒはこの数日、ずっとあることを考えていた。
――なぜ、自分を尾行していた奴は織斑千冬に似ていたのか。
あのときはあまり容姿などを気にしていなかったが、あの顔立ちは確かに千冬に似ていた事にはやはり気になっていた。現在、千冬に兄弟や姉妹はいないことは知っている。行方不明になっている弟はいるが、ラウラの前に現れたのは誰が見たって女性で、行方不明になった弟とは考えられない。
ならば彼女は何者なのか? 気配を感じさせない程の実力からして只者ではないことは解るが、なぜ自分を尾行していたのかがラウラは解らなかった。単なる一軍人でしかない筈であるし、ドイツ軍の情報を知りたいのであれば直接ドイツに潜入すれば情報も多く手に入れられる筈だ。だとすれば、ドイツ軍の情報が欲しいという訳ではないということは推測する事ができた。しかし、ラウラを尾行していたという理由は結局解らないままだった。
(……ドイツ軍に対してではないとすると、私に対して尾行する必要があったということか? だとすれば……)
ラウラは自分に関係することだとすれば二つほど他人と違う点が浮かんだ。
一つは試験管ベビーだという点。しかしこれはドイツ以外の他国でも出来ないことではないし、ラウラ以外にも試験管ベビーは存在していることは知っているため、尾行する可能性としては薄かった。問題はそのもう一つだ――
(――
そのもう一つはラウラが眼帯で隠している左眼の
とにかく、
(しかし、
ラウラの寮は、現在一人で使っている。一人になったところを襲ってくるとも考えたが、襲ってくることすらしてこない。結局のところ、ラウラを監視してきた答えを推測でしか判断できないから、推測通りにいかないことが不安要素になっていた。
(……とにかく、今は目の前のことを気にしよう。相手はこの前のイギリスと中国の代表候補生―― 一人相手ならば問題ないが……)
一旦尾行していた人物のことは後回しにして、すぐに行われようとしている第一試合の対戦相手である鈴とセシリアの戦いかたについて考えることにした。
一対一であればラウラの勝利は揺るがないだろう。しかし、鈴とセシリアのコンビネーションは授業やこの前のアリーナにラウラが乱入してきた時に大体把握している。特に鈴の、意識を自分に向けさせる行為はなかなかできない行為だ。セシリアとの息を合わせないといけないし、単に自分を目立たせれば良いというわけでもない。仲間がいる位置を把握し、相手の視線に仲間の位置を知らされないようにする。また、相手に他人を見る余裕を与えないようにしなければならい。前回、鈴はラウラの慢心も含まれていたが、ラウラにセシリアの位置を把握させなかったのは事実だった。
しかし、これには対戦相手がラウラであることでひとつだけ弱点がある。先ほども言った通り、一対一ではラウラの方が強く、鈴を倒してしまえば問題ないことだった。幸いにも今回の対戦はタッグによるもので、ラウラ一人だけを意識させるというのは無理があるということだ。タッグ相手である篠ノ之箒は代表候補生でもないが、セシリアの妨害するくらいのことは出来るだろうと考えていた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒさん、篠ノ之箒さん。そろそろ出場してください!!」
ピットにいた教師から出場するように言われたラウラは自分の専用機を展開させ、箒も訓練機に乗ってピットから飛び出した。
また、それとほぼ同時に反対側のピットにいた鈴とセシリアも専用機を纏って飛び出していた。
いつ試合が始まってもいいように、ラウラはすぐに動けるように準備を行ってから鈴とセシリアに話しかけた。
「……この前は中断というかたちになったが、決着をつけるぞ」
「そうね、私たちのコンビネーションを見せてあげるわよ!!」
「ふんっ、二人でなければ私を倒せない癖に、調子に――っ!?」
話している最中に、ラウラは鈴とセシリアの丁度後ろにある観客席にいる人物気づいてしまった。ラウラを尾行していた張本人――織斑一夏に――
観客として紛れ込んではいるが、そんな事ではラウラは気づかなかっただろう。一夏の瞳の色が変わっていなければ――
そして、ラウラはその瞳を見て理解してしまった。あの瞳が
「急にどうしたのよ。突然驚いて」
「……いや何でもない。貴様らには関係ないことだ」
鈴の声が聴こえてきたことによって、今は試合に集中しようと、ラウラは意識を切り替えた。尾行していた一夏のことが見ていることに気になるが、今度姿を見せたときに問いただせば良いと考えた。
「さて、気を取り直して……二人でなければ私を倒せない癖に、調子に乗るなっ!!」
「いや、わざわざ二度も言わないでいいわよ」
鈴が思わず突っ込みを入れたがその突っ込みを言い終えたと同時に、試合開始のブザーがなるという、なんとも締まらない始まりかたをするのだった――
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「始まったわね……」
観客席にて、一夏は
IS学園の制服を着ているため、一夏のことはIS学園の生徒だと思われているだろう。全校生徒を把握している生徒なんて良くて生徒会長くらいで、実際に気をつけなければならないのは、一夏のことを知っている生徒会長の更識楯無くらいだ。まぁ、今回の場合は一夏に気づいてほしくて生徒のなかに紛れ込んでいるが……
(――本当のことをいえば、何事もなく終わればいいのだけど……)
一夏が咳き込んだことによって心配した篠ノ之束が勝手に侵入していて、その時に束から伝えられたからだ。
(ドイツは今も昔も変わらないのか…… 束さんの逆鱗に触れないようにしておかないと、とんでもないことになりそうなのに……)
一度ならず二度までも――研究所を襲撃したのは束だということはドイツに知られてないが、襲撃されたことからしてまた襲撃されないかと考えないのかと一夏は思った。
それに、一夏の襲撃された研究所の実態は全世界に伝えられているし、今回の事が起こればドイツは他国からの信頼を失いかねない筈だ。
とにかく、今は試合の様子を見守るしかない一夏は何事もなく大会が終わることを祈るしかなかった。
「ねぇねぇ、となり座っていいかな~?」
「ん? 別にいいですよ。友達が後から来るわけでもありませんから」
「なら、席とっといてもらってもいいかな~? 後、その隣の席もお願いするね~ 友達呼んでくるから~」
呑気な雰囲気を出している女性が突然声を掛けてきて、隣の席が空いていることを知ると、女性はどこかへと行ってしまった。どうやら二つ空いている席を探していたようだで、友達を呼びに行ったのだろうと一夏は思った。
しかし先ほどの女性、どこかで見た記憶があるなと一夏は思ったが、箒と同じクラスだったことを思い出した。名前は思い出せなかったが、気にする必要がない生徒だったということだろう。とりあえず今は名前を問われたときの返事を考えておこうと一夏は思った。
「かんちゃんこっちこっち~」
「ほ、本音……さっきから手を引っ張らないでっ!!」
戻ってきたのかと思って一夏は声が聴こえてきた方向へ振り向いた刹那、思わず驚いた表情をしてしまった。席を予約していた女性が呼んできた友達が誰なのか、すぐに分かったからだ。
眼鏡を掛け、儚げそうで人を寄せ付けなさそうな雰囲気をだし、髪色が姉と同じだった。
――更識簪。生徒会長である更識楯無の妹で、日本の代表候補生だった――
2巻と3巻の途中で書く予定だった簪の登場がなぜか早まった件w