IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜 作:アリヤ
「な、なにが起こっているの?」
鳳鈴音は目の前で起こっている事に理解できなかった。
突然、ラウラ・ボーデヴィッヒが操作していた機体――シュヴァルツェア・レーゲンが黒い物体で包み込まれ、ラウラも飲み込まれていったものだから、状況把握するのに時間が掛かっていた。
そんな鈴とは逆に、セシリア・オルコットは冷静で、すぐに状況把握をしていた。それに、セシリアには突然起きた現象に聞き覚えがあり、さらにはシュヴァルツェア・レーゲンの機体が、有名なモンド・グロッソで優勝したISに似てきていた。その機体は、かつて初代ブリュンヒルデと呼ばれ、現在このIS学園で教師をしている織斑千冬のISだった暮桜だった。そしてそのような現象を起こすシステムと言えば、セシリアの中で一つしか思いつかなかった。
「VTシステム……なぜ国際的に違法として扱われているものをドイツが!?」
「VTシステムですって!? セシリア、それは本当なの!?」
「えぇ。それしか今の状況になるとは思いませんわ」
セシリアの言葉に鈴もようやく状況把握する事が出来、急いで対処しなければラウラが危険なことになりかねなかった。
VTシステム――正式名称、
「……確か、VTシステムを止めるにはシールドエネルギーを無くせば良かったわよね?」
「そうですわね。しかし、織斑先生の暮桜をコピーしているとなりますと、そう簡単にいくとは――」
「いかないわね。だから、あなた達は引っ込んでなさい」
鈴とセシリアが作戦を練ろうとしていると、当然第三者からの声が聞こえてきた。そしてその声は鈴とセシリアからしてみれば一度聞いたことがあり、クラス対抗戦の時に現れた無人機のISを倒した人物の声と同じだった。
「あ、あんたはっ!?」
「また会ったわね。お二人さん」
謎の少女こと織斑一夏だった――
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その頃、ピットにいた山田真耶の教師の二人は、VTシステムが軌道したと同時に鈴とセシリアを避難させようと伝えようとしていたが、クラス対抗戦の時にも現れた一夏を見て、思わずその手を止めていた。
「ま、またあの人ですかっ!? クラス対抗戦の時も現れましたけど一体何者何ですか」
「山田先生、少しは落ち着きましょう」
「落ち着いていられると思いますか!? 前回、かなりの報告書を書かされた事を先輩はお忘れですか!?」
真耶が言うことも、千冬は解らなくなかった。クラス対抗戦の時、謎の少女についてかなり詳細に求められ、千冬はなんとか耐え抜いたが、真耶は報告書を提出したあと、かなりやつれているように他人から解るほどだった。そんな報告書をまた書かなければならないとなると想像するだけで、真耶の中では絶望しかなかった。
しかし、実際大変なのは千冬の方だったりする。謎の少女が自分の弟――いや、妹の織斑一夏だと知っていて、生身でIS兵器を使用できる事も知っているからこそ、報告書でボロを出さないようにする事の方が大変だった。クラス対抗戦で起こったことを記憶したとしても、元々知っている記憶と混ざってしまうことは多少だとしても考えられる。だから、真耶よりもより慎重に報告書を書いていて、報告書一つにかなりの精神を使ったのだ。
「……それにしても、どういうつもり何でしょうか? クラス対抗戦の時は避難している最中に現れてごく一部しか彼女の姿を見ていなかった筈なのに、今回は見られても良いというような現れ方ですし」
「確かに山田先生の言うとおりだな。誰かに見つかっても問題ないと言っているようなものだ」
真耶の言葉に同意した千冬だが、どうして自分から目立つような行動を一夏はしているのか気になった。クラス対抗戦の時に一夏を見たのは千冬と真耶、さらには対戦中だった鈴とセシリア、そして報告書を出したことによる教師達しか少女の姿については知らない事の筈だ。しかし、今回みたいにみんなが観ている中に現れるなんてすれば、自分の姿を晒す事になる筈なのに、なぜ彼女は堂々と現れるような事をしたのか、正体が解っている千冬でも解らなかった。
「兎に角、部隊を突入させましょう。山田先生は鳳とオルコットの避難指示を」
「わ、解りました!!」
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『鳳さん、オルコットさん!! そちらに部隊を送りましたので、あなた達は今すぐ避難を!!』
「はぁ!? じゃあ、この女はどうするの!!」
『そちらもこちらで対処します。だから――』
「……ちなみに言っておくけど、あなた達のプライベート・チャネルは私に聞こえているからね。まぁ、鳳鈴音の言葉からしてなんとなく想像できそうな会話だけど」
真耶と鈴の会話に割り込んでくるかのように、一夏は二人に伝えた。そのことに真耶と鈴、そしてなにも言わずに真耶と鈴の会話を聴いていたセシリアの三人が驚いていた。一夏が言った意味が何を指しているのかというと、一夏の前ではプライベート・チャネルの意味がなく、まるで通信を盗聴されているかのような感じなのだ。
また、鈴は他の二人と違って、自分の名前まで知られているとは、思いもしなかったことにも驚いていた。本当に彼女は何者なのか気になり、その正体は鈴が探し続けている一夏だと知らない鈴にとって、気味悪い存在にしか見えなかった。
「さてと、戯言はこれまでにして、さっさと終わらせましょうか」
「まさかあんた、この前みたいなやり方で終わらせるとは言わないでしょうね」
「……鳳鈴音、さすがに人が乗っている機体に対してはしないよ。まぁ、あの時よりも早く終わらせる手段が実はあったりするけど、まだ試作段階だし、コアを壊しちゃうから流石にやらないけど」
さらっととんでもない発言をした一夏だが、今はラウラを救うことが最優先だと考え、驚いている鈴やセシリアを気にせずに視線を元はシュヴァルツェア・レーゲンである暮桜を模したVTシステムに向けた。
そして突如出現したIS兵器――鈴とセシリアもクラス対抗戦で見たことがある雪片弐型を構え、さらには瞳の色を変化させながら走り出した。
暮桜を模したVTシステムは一夏に対して攻撃を仕掛けようとするが、一夏は攻撃を仕掛けられたとほぼ同時に右側へと避けた。その動きはまるで未来を知っているかのような避け方で、見ていた誰もが驚いた。
「悪いけど、そんな遅さでは私を狙うなんて事は出来ないわよ!!」
一夏は一気に暮桜を模したVTシステムへ突き進み、雪片弐型を青白く輝かせて斬りつけた。すると、機体はその場で倒れてゆくが、一夏は雪片弐型を消滅させ、操縦者であるラウラが居たところへ飛び乗り、素手で中に突っ込んでラウラを引きずり出した。その後、このままこの場所にいたら倒れている中に巻き込まれるため、ラウラを背中におぶらせてすぐに背後へ跳び、アリーナの地面に着地した。
一夏が行動を開始してからラウラを回収するまで、実は一分も掛かってなく、様子を見ていた観客や教師などの誰もが数十秒の出来事に理解できていなかった。いや、一夏が何をしていたなどは誰もが理解しているが、それを数十秒で終わらせてしまったことに理解できずにいた。
「……えっと、誰か近くには……流石に居ないか。ならセシリア・オルコット」
「…………」
「セシリア・オルコットっ!!」
「は、はい!? 何でしょうか?」
一夏は近くにいたセシリアに呼び掛けるが、先ほどの光景を見て放心状態になっていたため、一度だけでは反応せず、二度目は驚かせるくらいの声で呼び掛けた。流石に気づいたセシリアは驚きつつも一夏の方へ向けた。
「ちょっとラウラを頼んでいいかな?」
「それはいいですけど、まだ何かありますの」
「ある……といえばあると言って良いのかな? 兎に角お願いしても良いかな?」
「はぁ、解りました」
セシリアはブルー・ティアーズを待機状態に戻し、一夏から平然のようにラウラを受け取った。まだいつものセシリアに戻っているようではないが、一夏にとって都合良かったので特に気にしなかった。
「さてと、準備しましょうか」
「……って、あなた!! さっきは平然と受け取ってしまいましたけども、何をするつもりですか!?」
「ようやくいつも通りに戻ったようだね。とりあえず答えると、これからくる兎を打ち飛ばそうかと」
「一体なにを――」
「っ!? なんかこっちに向かって飛んでくるわよっ!!」
セシリアが、一夏に何をしようとしているのか問おうとしたところ、先ほどまで放心状態だった鈴から、突然謎の飛行物体がアリーナに向かってきていると伝えられた。鈴は甲龍からの危険通知でようやく放心状態から復活を遂げ、すぐに一夏とセシリアに向けて危機を伝えたのだ。一夏からラウラを預けさせられた事によってセシリアはブルー・ティアーズを待機状態にしてしまったため、気づくことは出来なかった。
しかし、一夏はその謎の飛行物体がアリーナに迫ってくることを知っていたかのような笑みを浮かべ、手元に何かを出現させ、鈴とセシリアはその出現させた物を見て唖然とした。
「よし、打ち飛ばしましょうか」
「い、いやいや。あんたいきなり何言ってるの!?」
「そうですわ!! いきなりそんなものなんか手に持ちまして、どういうつもりですの!!」
鈴とセシリアが驚くのも解らなくはなく、なぜなら一夏が持っている物は、野球で使用するバットにしか見えなかったから――
「一応これ、IS兵器としてのバットだけどね」
「……まさかあんた、何か解らないのにそのバットで打ち返そうというつもり!?」
「それ、さっき私が言ってたけど。それにこちらから質問するけど、鳳鈴音はバットって打ち返すか叩き潰す以外に何に使えと?」
「え、私がおかしいの!? 私が常識はずれなの!?」
「……いえ、鈴さんは平常ですわ」
そんなくだらないやりとりをしている間に、謎の飛行物体はすぐ近くまで接近していた。
一夏はバットを構え、一夏たちを目掛けて突っ込んできている、人参の形をした大きな飛行物体を打ち返した。
その様子を見ていた観客たちはようやく放心状態から解放されたが、生身で飛行物体を打ち返した事に誰もが驚いていた。IS用として用意されたバットなだけはあって打ち返す事は出来たが、それよりも生身でIS用のバットを持ち、打ち返したという事の方が驚きだった。普通に考えれば打ち返せないし、たとえ打ち返せたとしても腕がいかれてしまうだろう。しかし一夏の腕は折れ曲がってなく、出血しているようなところもなく、これといって苦しそうな顔をしているわけではなかった。
一体どういう原理で無事だったのか誰もが気になったが、人参の形をした飛行物体はまたしてもこちらに戻ってきていた。それをみた一夏は空中に飛びあがり、その飛行物体をアリーナの隅に叩きつけた。
「……よし、これで大丈夫でしょう」
「結局叩きつけるって、一体何がしたかったのよ……」
「まぁ、それはすぐに解るわよ」
鈴の質問に一夏は答えず、すぐに解ると言われて首を傾げたが、先ほど一夏が地面に叩きつけた飛行物体から扉が現れ、中から人が現れた。
その人の姿を見たとき、誰もが驚いた。なぜなら謎の飛行物体に乗っていた人物は各国がずっと探し続けている人物であり、今の世界を作り上げた張本人だったから――
「いったい~ あんなに打ち返したり叩きつけなくてもいいじゃない!!」
「それは、乗っている人物がおとぎの世界みたいな格好をしていると解っていたからね。それに、突然こっちに来ると言われても対応に困ります」
「だからそっちに行くよ、って伝えたじゃない!!」
「だから、突然言われても困ります!! もう少し他人のことを考えてください!!」
一夏と突然現れた有名な彼女のやりとりに、誰もがついていけなかった。突然有名な人物と会ったかと思いきや、いきなり口論し始めたから、何が起こっているのか把握するのに時間を要したのだ。
そしてその中でもいち早く状況把握したセシリアは、みんなの代表をするかのように、その有名な彼女に質問した――
「ど、どうしてあなた様がこちらに?」
「……あぁ、すっかり気にとられて忘れてた。私のことを知っているとは思うけど、念のため自己紹介!!」
「あんまりふざけないでくださいよ。ふざけたら殴りますが」
「冷たいっ!! なんで久しぶりに会ったのにそんなに冷たいの!? だけどそんな……って解ったからその握りしめている右手を止めて!!」
相も変わらず二人だけの会話が続くと思いきや、有名な彼女は観客にいた人たちを見て、そして言いはなった――
「はーい。みんなのアイドル、篠ノ之束さんだよ!! とりあえず束さんといいことをへぶっ!?」
変なことを言い始めようしていたため、一夏は握りしめていた右手で殴り、
自己紹介まで締まらない、天才こと篠ノ之束だった――