IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

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第十七話

「……ここは?」

「ようやく目覚めたか」

「……きょ、きょうかっ!?」

「織斑先生だ」

 

 医務室のベッドで目が覚めたラウラ・ボーデヴィッヒは一番最初に見えた人が織斑千冬だったものだから、寝ぼけが一気に覚めて、思わずベッドから起きあがっていた。しかし、起き上がったのを見計らったかのように、千冬は持っていた出席簿を縦にしてラウラを叩いた。

 涙目になったラウラだが、そんなことは気にもせず、千冬は話を続けた。

 

「とりあえず、色々と問いたい事はあるだろう。だからボーデヴィッヒが意識を失った辺りのことをまずは確認して良いか?」

「……分かりました。あれは私が負けそうになったときに――」

 

 ラウラは自分が覚えている範囲で千冬に説明した。鈴とセシリアに負けそうになったときに、何者かが囁くかのように力が欲しいかと問われたこと。何としてでも勝ちたいと思い、力を求めた直後に意識を失ったこと。

 そして、ラウラは説明しているさなか、鈴の無茶苦茶な戦い方を否定すべきではないことに気づいた。鈴は自分の弱さを自覚していて、誰もがやらないようなもので努力した結果が、ラウラが否定した戦い方だったと。力を求めるために努力した鈴を否定するのは、失礼だったと思い、後で会ったら謝ろうとラウラは思っていた。

 

「なるほど、その力を求めたものがVTシステムだったことは知らなかったか」

「VT……システムですかっ!?」

 

 ここで聴くとは思わなかったかのような驚きをラウラは見せた。VTシステムについて知っている者からすれば、まさかVTシステムが組み込まれていたなんて聴けば、当たり前の反応だろう。

 とはいえ、ラウラが医務室に居るということは、無事解決したことだろうと思い、安堵の息を吐いた。しかし、VTシステムは教師ですら倒すことに難しいので、一体誰が救ったのかラウラは気になり、千冬に聴いてみることにした。

 

「きょ……織斑先生。一体誰が私を救ったのですか?」

「そのことだが……」

「織斑先生?」

 

 簡単に答えられるだろう質問だと思ったが、千冬は言い淀んでいた。何故答えないのだろうかとラウラは思い、もう一度同じ事を言おうとしたが、その前に医務室の扉が突然開かれた。突然のことに千冬とラウラは扉の方向へ向き、そこにいたのは先ほどラウラが謝りたいと思っていた鳳鈴音だった――

 

「千冬さん。何故言い淀む必要があるのかしら?」

「……学校では織斑――」

「そんなこと、今はどうでもいいわ。それよりも何故答えないの? クラス対抗戦の時は解らなくなかったけど、今回は皆の前で現れたのよ。それも、篠ノ之束の下に所属していると世界に知らされたのに――」

「……それは――」

「それとも何、ラウラにだけは知らなくていいと思ったわけ? でも、隠したところですぐに他の所で知ることになるのにね」

 

 一体何がどうなっているのか把握しきれていないラウラは、鈴が言っていることに全く理解できなかった。何故この場で篠ノ之束の名前を聴き、何故鈴は千冬に対して突っかかった話し方をするのかと、ラウラは意識を失った間に何が起こったのか気になっていった。

 そして千冬も最初は言い淀んでいたが、次第にいつもの千冬へ戻っていき、いつもの雰囲気で鈴に話し始めた――

 

「鳳、貴様は教師に対してその態度はなんだ」

「なんだ……ね。それは千冬さんが一番解っているのでは? というかね、千冬さんがさっき言い淀んだおかげで確信しているのよ」

「一体何を――」

「千冬さん、クラス対抗戦で現れ、ラウラを救った正体不明の女性が誰なのか、千冬さんは知っているでしょ」

「っ!?」

 

 鈴の言葉に驚いたのは千冬ではなく、先ほどいたラウラだった。正体不明の女性と聴いて、ラウラは即座に自分を尾行していた彼女を思い出したからだ。今回の大会でも、IS学園の生徒に紛れ込んで観戦していたことをラウラは知っているし、鈴が言う女性はラウラが知っている彼女だと、察してしまった。

 そう考えると、彼女は篠ノ之束の下にいる人物だということになる。天才の下に居ながら、何故彼女はIS学園に潜入していたのだろうかと、ラウラは疑問に思った。

 それに、鈴が言ったことも気になった。鈴が正体不明の女性の正体を千冬が知っているだろうと予測したことに気になったが、とにかく千冬の返答次第で考えようと思った。

 その鈴が結論を言った相手である千冬は、これといって表情を変化させず、一息の間を開けてから話し始めた。

 

「……たとえ私があの少女について知っていたとしても、教えるとは思うか?」

「教えないでしょうね。まぁ、言いたいことはそれだけよ。千冬さんの疑いが晴れた訳ではないから。それじゃあ――」

「鳳鈴音、ちょっと私から謝りたいことが――」

 

 鈴が振り返り、医務室を後にしようとしているときに、ラウラは鈴に呼びかけた。鈴はもう一度だけ振り戻るが、ラウラが謝りたいことがあると聴いて何のことかすでに察していた。

 

「……あぁ、あのことね。謝ってくれるのは嬉しいけど、別にそこまで気にしてないわよ。気が済まないっていうのであれば、後で屋上に来て謝ってくれたらいいわ。多分そこで考え事しているから――」

 

 ラウラに告げて、鈴は今度こそ医務室を後にした。残るのは千冬とラウラの二人だけで、鈴が来る前の状態に戻っていた。

 鈴が居なくなったのを見て、千冬は溜め息を一度吐き、ラウラに何が起こったのか詳細に話し始めた――

 

「まぁ、鳳が言った通り、ボーデヴィッヒを救ったのは、ここ最近IS学園に侵入してきている女性で、ボーデヴィッヒが一度返り討ちにされた人物と同一人物だ」

「やはり、そうでしたか……」

 

 予想していた通りだとラウラは思いつつも、彼女の行動について謎が多すぎた。何故彼女は自分を尾行していて、自分と同じ越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を持っているのか。そして、何が目的でIS学園に潜入しているのか、ラウラに限らず誰もが解らなかった。

 

「続けるぞ、その女性がVTシステムを止めてから少しして、篠ノ之束が空から降ってきた」

「……さっき鳳鈴音が言っていた通りならば、あの女性は篠ノ之束の下で動いているということですか?」

「簡単に言えばそうだな。篠ノ之束の性格は私がよく知っているが、未だにあいつの行動が私でも解らない。後はニュースなどで知ると思われるが、フランスのデュノア社を潰したのは篠ノ之束だということを公表したくらいか」

「なるほど。ある程度は解りました」

 

 意識を失っている間に、何が起こったのかある程度把握する事ができたラウラは、やはり潜入してきている女性がラウラを尾行していたのか気になっていた。越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)関係のような気がしなくもないが、どんなに考えても結論が出ないと思い、今はきにしないでおこうと思い、思考を止めることにした。

 

「さて、私はまだ後始末が残っているので、職員室に戻らせてもらうぞ。特に外傷もなさそうだから、明日になれば寮部屋に戻れるだろう」

「解りました」

 

 千冬はラウラに告げた後、職員室に向かうために医務室を後にした。医務室はラウラ一人となったが、特にする事もなかったので、もう一眠りしようとそのまま横になり、数分もせずに眠りについたのだった――

 

 

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「たしか、この辺で待ち合わせだっけ?」

 

 VTシステムの一件があった後の翌日、シャルロット・デュノアは人通りのない路地裏で、誰かを待っていた。

 昨日の夜になって、篠ノ之束の下にいると知った例の女性から連絡があり、この場所で待ち合わせようとなったのだ。

 その時は突然の事で外出申請も出してすらいなかったから、突然言われても困ると思っていたが、何故か外出申請書を提出していないのに外出申請がされており、思わず驚いたくらいだ。多分篠ノ之束がハッキングするなりして申請していたことになっていたのだろうが、それでも驚いてしまった。驚いていたことに職員が疑問に思われたが、外出申請が通っているなら問題ないと思ったシャルロットは、最低限必要な荷物を纏めて、指定された路地裏に向かって、現在に至る――

 

「それにしても、まさか昨日あんなことをするとは思わなかったな……」

 

 シャルロットは苦笑しつつも、昨日の出来事を思い出していた。彼女が篠ノ之束の下で動いていると、IS学園の生徒の中で唯一知っていたシャルロットは、さすがに束まで登場してくるとは思いもしてなかった。そのような連絡は一度もなかったし、その束の下で動いている彼女も少し前まで知らなかったようだったと、束と彼女の会話から察していた。

 今後自分も束の性格につき回されるのかなと、再度苦笑していると、待ち合わせしていた彼女こと、織斑一夏が現れた。

 

「待たせたかな?」

「そこまで待ってないよ。少し前に来たくらいだから」

「そう。一つ確認するけど、IS学園を出る際に何か問題はあった?」

「特になかったよ。それよりも、僕が外出申請を提出していないのに、外出申請の手続きが終わっていたから驚いたよ」

「事前に伝えてあった筈だけど?」

「そうだけど、それでも驚いてしまうというか……」

「……そういう事ね。まぁ、特に問題がなかったのであれば大丈夫の筈……」

 

 一夏はシャルロットが言っていることが何となく解ったが、とりあえず問題がなかったことを確認できた後、一瞬だけ視線をシャルロットの奥に向けた。何者かの気配を一瞬感じ取れたように思えたが姿は見えず、この路地裏は人通りのあるところまで一本道なので気のせいだろうと考えた。

 

「……とりあえず、篠ノ之束が居るところまで案内するよ。少し歩く事になるけど大丈夫?」

「それくらい平気だよ」

「なら……行きましょうか」

 

 やはり何者か解らないが、こちらを見ているような気配を、一夏はまたしても感じられた。さすがに二度も気配がすると嫌な予感がするため、尾行されていると考慮しながら、シャルロットを連れて歩いていく事にした――

 そう考慮しながら歩いて数十分後、一夏はあれから何度も気配を感じる気がしたので、さすがに尾行されていると気づいた。しかし、この場で尾行している正体を探る方法は得策ではなく、シャルロットを一日でIS学園に帰さなければならない。正体を探るために、時間を取られている場合でなかった。そうなってくると、どうにかして尾行している人物から逃げ切る必要があると考え、一夏はシャルロットの了承を取ることにした。

 

「……シャルロット、少し走ることになるけど構わないかしら」

「え、それってどういう――」

「さっきから何者かに尾行されている。逃げ切るために少し走ろうと思ってね」

「別に構わないけど――って、なんで僕を持ち上げるのさ!?」

「この方がシャルロットを気にせずに走れるからよ。それじゃあ、行くわよ!!」

 

 一夏はシャルロットから了承を取った後、すぐさまシャルロットを持ち上げ、いわゆるお姫様抱っこをする形で走りだした。

 その尾行している張本人は、一夏が突然走り始めた様子を見て、尾行されていることに気づかれたかと驚きつつも、一夏の後を追いかけた。

 しかし、一夏はこの周辺を詳しく知っている。この周辺は束がいるラボへ行くために毎回通らなければならない場所に近づいているため、路地裏の入り組み方やどこを通れば目的地につくことは容易なことだった。

 今まで一夏がここまで尾行させていた理由であり、確認したいという理由もあったが、地の利が強いこの場所であれば振り切れると考えての行動だった。しかし、目的地に近いこともあって、一夏は多少は入り組んだ路地裏を走り回ったりして距離を離し、目的地である沿岸に停めてあったモーターボートに急いで乗り込み、シャルロットを降ろしてからすぐさま電源を入れた。エンジン音と共にモーターボートは走り始め、海岸沿いから離れていった。

 そして、目視で誰か解る程度に海へ出て行った辺りで、一夏は後ろを振り向いて尾行していた人物を確認した。髪は水色をしており、IS学園の制服と扇子らしき物が見える事からして、IS学園の生徒会長である更織楯無だと気づいた。

 

「……あの生徒会長、私が篠ノ之束下に居ると知った後も追いかけてくのか」

「えっ、追いかけて来ていたのって、生徒会長だったのっ!?」

「そのようね。とにかく、IS学園の生徒である以上は追って来ないはず……」

「……ふと思ったのだけど、生徒会長だとしても外出申請は出さないと行けないはずだよ。僕が出るという申請が通った日付をちらっと見たけど、今日の午前中だったのに……」

「まさか……」

 

 シャルロットの話を聴いて一夏は嫌な予感がしていた。

 IS学園の生徒である以上、外出中でISを起動する事は禁止されている。またその外出する際、余程の事がなければ外出申請を提出しなければならない。それは当日でも構わないがある程度時間が要してしまうため、束はハッキングで今日の午前中に申請が通った事にしていた。ハッキングして申請した物であるので、申請中などという期間は存在せず、唐突に申請されたという書類ができたという形なのだ。もし生徒会長である更織楯無がシャルロットの申請が怪しいと気づいたとしても、外出申請を取り消せる立場までは生徒会長にはないし、外出申請したとしても午後に終えられるくらいだ。ならなぜ楯無がシャルロットを尾行する事が出来たのか。

 答えは簡単な事だ。申請せずに外出し、シャルロットを尾行していたのだ。明らかに校則違反であるが、校則違反してまで尾行したということは、別に校則違反しても構わないと思っているわけだ。そのため、他の校則を破ってまでしても構わないということを指しており――

 

「私から逃げられると思っているのかしら?」

 

 外出中でISの使用を校則で禁じていたとしても、破ってしまえば追いかけられるのだから――

 

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