IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜 作:アリヤ
投稿する暇がなかなか見つけられず、なんとか投稿できるようになりました……
一週間後、一夏が予想した通り、簪は楯無に宣戦布告をした――
『私はお姉ちゃんに決闘を申し込む!!』
その結果、IS学園内は大騒ぎとなり、生徒会長である更識楯無が、妹の更識簪に決闘を申し込まれたということに――
簪といえば、クラス代表で汎用機持ちの一人だというのに、大会では訓練機を使用していたということで多少の話題になっていた人物だ。ISを使わずとも勝てるという上から目線と思う人もいれば、ISの性能が良くないから仕方なく汎用機を使っていると思う人もいて、要するに簪の実力は未知数だった。
そんな簪が、IS学園最強と言われている姉の楯無に決闘を申し込んだものだから、予想もしなかった出来事に誰もが驚いたのだ。
その中でも――
「それにしても、どうして簪ちゃんが私に決闘を……」
やはり一番驚いた人物は楯無だ。簪の実力を知っている内の一人であり、自分より実力が劣っていることを知っているからこそ、今回の決闘は予想外だった。謹慎処分が終えて、すぐに一夏と関わりがあるシャルロット・デュノアの監視を始めた一週間後の出来事だったので、シャルロットの監視を一旦諦めて簪の動向を探るしかなかった。
一夏が来て以来、楯無は日課に近かった簪の動向を監視する事が完全に疎かになっていて、簪が自分を倒そうとしている情報なんて入ってこなかった。
それに、一夏が簪と接触している気配が一度もなかったことから、簪の心配をする必要がないと思っていたことも原因だ。
また、一夏が簪と接触出来る可能性があるとしたら、楯無が謹慎処分を受けている間か、隙を見つけて教えていたかのどちらか。しかし後者の場合、時間が短いという理由からして教えられる時間が限られていた。そのため、一夏が簪に接触出来るのは楯無が謹慎処分を受けていた時くらいしかなかった。しかしそれなら一夏から簪に接触してくる様子に気づくと思うが、楯無が謹慎処分から解放された以降、一夏がIS学園に潜入してくることは今日まで一度もなかった。
そのことからして、今回の一件は一夏が関わっていないかもしれない――そのように思えるが、簪に対してIS兵器の譲渡が行われたという情報が楯無には入っていた。
差出人はIS学園で大騒ぎを起こさせた篠ノ之束――日本政府に対してではなく、個人相手にIS兵器の譲渡が行われたということを数日前に知った。
そのことを知った日本政府と倉持技研は勿論大喜びしていた。簪が自分で開発すると言い出したときは落ち込んだこともあったが、束からの譲渡を聴かされて驚きはしたが、喜びを隠せなかったくらいだった。
簪個人に対して、束が力を貸している――この情報だけで一夏が簪に接触した可能性は高かった。仮に一夏が簪に接触していなかったとしても、束が力を貸していることに変わりがなかったので、今回の決闘は楯無としても気をつけなければならないことだった。
しかし決闘は一週間後で、あまりにも日数が足りなかった。簪の様子を確認しながら、楯無自身も実力を上げなければならないという問題を抱えていて、両立するにはもう少し日数が欲しいところだった。既に教師――しかも織斑千冬が中心となってアリーナの使用許可や試合申請がされた後なので、日程変更は不可能に近かった。
「まずは、簪ちゃんの訓練様子を見ないと……」
今は本日の授業が全て終わった放課後で、部活動が始まったりする時間帯であり、簪も寮に帰ったり簪自身のISを作り上げていたりする時間だった。しかし今日は放課後から簪がアリーナの申請がされていたので、楯無は簪に従者として仕えている布仏本音から先ほど、簪がそのままアリーナに向かったことを聴いたので、楯無はアリーナに向かっている所だった――
簪がアリーナ申請した会場に着くと、既に何人かの観客が見ていた。学園最強と言われている姉の楯無に決闘を挑むと聴けば、簪がどのように練習するのか気になる生徒も少なからず存在した。
そんな中に、簪から決闘を申し込まれるまで監視していたシャルロットの姿もあったが、楯無は気づいてなく、簪の練習を見ていた。
その見られている張本人である簪の練習方法だが、練習を始めてから誰もいない場所に向けて攻撃を繰り返しているだけだった。さらに詳しく説明するならば、目を瞑ったまま方向を変え、移動しながら攻撃していた。
一見すれば無駄なことをしていると思え、楯無がアリーナに入って来ようとした際にも、失望して帰ろうとしている生徒にすれ違うことが何度かあり、今も帰ろうとしている生徒を何人か見かけた。
しかし、楯無は簪の戦い方を見て、思わず感心していた。
「イメージトレーニングに合わせて、ISとIS兵器のみは操作しているのね……」
そう――楯無が言った通り、簪が行っていることはイメージトレーニングを中心として、実際にIS動かして操作する練習を行っていた。
簪だけを見ていると解りにくいと思われるが、アリーナ全体を見渡せば簪の動き方に意味がある。簪が動き方は、まるで相手が存在するかのような動きで、またそれはパフォーマンスをしているかのように無駄がなかった。
だからこそ、アリーナから出て行かない生徒は大半が国の代表候補生で、簪の練習方法に感心している生徒だけとなっていた。
「……けど、簪ちゃんだけではあんな練習方法なんて出来るわけがない。私ですら出来るか難しいと思うし、何より目を瞑ってしまえば、正確な場所に攻撃しているか解らない筈……まさか」
簪が現在使用しているIS兵器は篠ノ之束製であるが、束が個人のために開発時間を割いて練習に付き合うとは思えない。研究者や科学者という人間は、時間があれば何かしらの実験などを行って、他人との関わりが少ないような何か抜けている人間が多いと楯無は偏見だが思っているので、簪に教えているのは束という可能性は低いと考えていた。
これも本音に聴いたことだが、簪がISの練習を始めたのは、楯無の謹慎処分が解除された翌日で、そのとき楯無はシャルロットを監視していたので気づいていなかった。楯無が生徒会長らしく、真面目に生徒会の仕事をしていれば気づいたもので、今学年になってから生徒会の仕事を全て布仏虚に任せていたがために、簪が決闘を申し込まれるまで知らなかった。
話を戻すが、本音から聴いた情報を含めたら、誰が簪に束製のIS兵器を直接渡し、誰が練習の指示をしているのか、楯無はなんとなく解った。簪に束製のIS兵器を渡した人物は確実に一夏で、現在簪に練習の指示をしている人物も一夏だと――
楯無が謹慎処分中に一夏は簪と接触し、IS兵器の提供を行い、簪へ練習の指示をすると一夏自身が言ったのだろう。簪から決闘を挑まれるまではシャルロットが居るから侵入する必要はないと楯無は思っていたが、一夏が簪に教える時間を取られてしまうから侵入出来なかったのだと――
だからこそ、簪を指示しているのは一夏だと考え、そう思ったことによって、楯無は余計なことをしてくれたと思った。
「……私たちの事情まで介入してくるなんてね」
楯無と簪は前に楯無が言った一言によって仲が悪くなっていた。自分で何とかするつもりだったのに、一夏が介入したことによって面倒なことになった。
簪は決闘で姉の楯無を本気で倒す気でいる。本当に簪が勝ってしまえば、楯無にとって今まで簪に対してしてきたことが全て水の泡となってしまうからだ。だからこそ、簪との決闘は絶対に勝たなければならないと楯無は考え、そうと決まれば簪を観察している場合ではないと思った。
「悪いけど、あなたたちの思い通りにするつもりはないから――」
楯無は一言呟いて、アリーナを後にした。簪を絶対に倒すために、自分もISの練習をするために――
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『ようやく行ったようね』
「……? どうかしたの?」
『いや、簪が気にするような話でないから気にしないで。それよりも続きを行うよ』
練習している時に、簪は通信相手である一夏からよく解らないことを呟いたので、思わず聞き返した。一夏は簪に関係ないからという理由で詳しいことを言わず、そのまま練習の続きをするように指示した。簪は気になりはしたが、今は姉の楯無に勝つためにも、関係ない事は気にしないことにした。
『さて、次のイメージ対象だけど……』
「……そういえばずっと思っていたことだけど、どうしてお姉ちゃんをイメージ対象として練習しないの?」
実は練習として、毎回ある人物を想定して戦っていた。一夏が相手の動きを逐一教えていく形で、簪はそれを避けてゆき、そこに向けて攻撃をするように行動していた。一夏の説明が細かく教えられるので、自然と自分が何をすればいいのか解ってしまうのだ。勿論声で伝える遅さがあるので、少し早めに一夏は教える形となっているが。
しかし、一度も姉である楯無を想定とした戦い方を一夏はさせていなかった。簪はそのことに不満を持っていたわけではないし、楯無のみでは練習する意味がないと言うことは今後のことを考えたら解らなくなかった。それでも、一度くらいは楯無を想定した練習をしても良いのではないかと思っていた。
「それはやめた方が良いからよ。一度でも楯無相手として練習すると、どうしても対策を考えてしまうでしょう? それでは不公平だと思うからよ。だから私は楯無を想定とした練習をする意味がないと思ったわけ」
「まぁ、いいよ。それに、未だにこんな方法で勝てるのか解らないくらいだから」
簪がそのように思う理由は一夏でも解る。しかしこれ以上に楯無を倒す方法なんてなかったから仕方ないことだ。
束の仲間になったシャルロットを使うという選択肢もあったが、今のシャルロットでは楯無に勝てるとは思えないし、それでは練習の意味がない。そこで思いついたのが、束考案の今の方法だった。
元々一夏が生身でISと戦う際のことを考え、即座にバーチャル空間を使った練習を束は考えたが、それが出来るまでの間に束が一夏に伝えた練習方法だった。開発されたバーチャル空間も一夏は試したけども、やはりバーチャル空間ということもあって、敵が応用した行動をしないことが多かった。束も何度も改良したが、やはり現実との差が機械的に上手く出来ず、それならイメージトレーニングの方が良いという結論になった。
イメージトレーニングとはいえ、相手の戦闘パターンを頭に叩き込まなければ意味がないという問題があったが、そのために一夏はIS操縦者の戦闘記録を全て叩き込んだ。束の下に居たこともあり、公式データに限らず非公式データも入手出来たので、その結果一夏はIS操縦者に対する対策は全て知り尽くしていた。
しかし、そんな一夏みたいな芸当が簪に出来るかと言えば否だ。一夏もそんなことを解っていて、それでもそのやり方で簪に練習方法として教えていた。
しかし、一夏の練習方法と簪の練習方法は似てるようで違う。なぜなら簪の練習は自分で考えたイメージトレーニングでなく、第三者から教えられたイメージトレーニングだからだ。
IS操縦者の記録を全て覚えている一夏から言われる内容は、まるで相手が存在しているかのような伝え方をされる。どうすれば良いかというアドバイスはイメージトレーニングが一区切りついた時に言われるくらいだ。アドバイスされるまでは簪が思う方法で攻撃しているだけで、殆ど手助けをしていなかった。そのため、簪自身で反省する事が多く、どのようにすれば良いか毎日考えてしまうくらいだった。
しかし、成長してきるのかという実感が湧かないという問題があった。直撃したかという内容も一夏から伝えられ、相手が実際に存在しないので、相手に当たったような音も聞こえてこないという問題だ。
もちろん一夏もその対策は考えている。単純にシャルロットを使った実力確認を二日後に予定しているだけだが、シャルロットと戦うことで、実力確認をする事が出来るだろうという判断だ。そこでシャルロットに裁定でも勝てなければ、楯無を倒すことは難しくなるが。
「それで、次のイメージ対象だけど……多分勝てないと思った方がいいかも」
「一体誰なの?」
「織斑千冬」
一夏の言葉に、簪は思わず体が固まった。聞き間違えではないかと思うくらいで、確認のために再度聴くことにした。
「ごめん、聞き間違えたかもしれないから、もう一度言って貰ってもいいかな?」
「だから、次のイメージ対象は織斑千冬よ」
「……本気で言ってる?」
「そうよ。だから最初に勝てると思わない方がいいって言ったでしょ?」
「勝てない相手だと解っているのに、やらせるの?」
「もちろん。だから、無茶な逃げ方だけはISに負担が掛かるから気をつけてね」
そういう問題でないだろ――と、簪は思ったが、一夏が意見を変えると思えなかったので、仕方なく従うことにした。
そして、ボコボコにされるイメージを持ちながらも、簪は千冬をイメージ対象とした練習が始まるのだった――