PSYCHO‐PASS 2219   作:凡人 軍人

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オリ主強めを入れ忘れてました。


キレイだったヒト【下】

【PM08:20 東京 ショッピングモール内】

 

『ようこそ、イオーショッピングモールへ。こちらは、日用品関連売り場です。』

 

緊迫した状況に似合わぬ明るい声で接客ドローンが尾沢らを迎えた。

 

ここ一階は見る限りでは何か事件が起こったかのような変化は見受けられなかった。

 

「北上分析官、犯人の現在位置は分かりますか?」

 

『ちょっと待ってね……あー、見つけたわ。五階服飾関連売り場に、異様にエリアストレスが高い場所があるわ。恐らくそこで人質を連れて立て籠っているのかも。マップに情報を送ったから、確認してみて。』

 

分析官から送られてきた情報を確認してみると、ショッピングモール五階フロアにエリアストレスの極度の上昇を示す赤い円が表示されていた。

 

しかしこれでは、犯人のいる位置が正確に掴めたとは言い難かった。

 

「もっと正確な場所はわからないんですか?」

 

『ムリね。五階のカメラとセンサー類が軒並み破壊されているから、外部からのスキャン以外では探すことができないの。』

 

「……っ、分かりました。西ノ宮さん、私たちはこれから五階に向かい、犯人を確保します。」

 

『分かった。なら俺は中里、三島と逃げ遅れた一般人の避難指示にあたる。……犯人は人質を連れている可能性がある。十分に、注意してくれ。』

 

「分かりました。門倉さん、笹木さん。私たちはこれから五階に向かいます。到着後は、警戒を怠らないように。あと、犯人をなるべく刺激しないようにしてください。」

 

「「了解。」」

 

二人を連れ、尾沢はエレベーターへと乗り込んだ。

 

五階へ向かう間、エレベーターの中には沈黙が訪れていた。

 

その中で、尾沢が口を開き、控えめな声音で言った。

 

「あの……門倉さん。」

 

「……ん、何?」

 

「今回みたいな事件って……その……しょっちゅうあったりするんですか?」

 

「んー、そんなには無いかな。大体みんな、そんなことしたら一瞬で色相濁っちゃうからやらないでしょ。……ま、私は13歳の時にもう潜在犯認定されちゃって、それ以来ずっと、檻の中だったからその恐怖心がどんなものなのか良く分からないけどね。」

 

少し悲しそうに言う門倉を見て、尾沢は直感的に地雷を踏んでしまったと感じた(まあ今のは対応のしようがなかったと言えなくはないが……)。

 

「……すいません。」

 

「何で謝るのよ。那奈ちゃんは悪くないわ。私が勝手に喋って自分で地雷踏んじゃっただけなんだから。……ホラ、監視官なんだから、シャキッとしなさい!」

 

門倉は先程とは打って変わって笑いながら、その赤い髪を揺らしながら、尾沢の背中を叩いた。

 

「……っ!はっ、はいっ!」

 

「……門倉、お前執行官なのに監視官に色々言い過ぎだし、あと背中を叩くな。またニシさんに怒られるぞ。」

 

今までだまって聞いていた笹木が言った。

 

「いーじゃんこれくらい。スキンシップだよスキンシップ!だよね、尾沢監視官!?」

 

「えっ……えっと……そうだと思います……」

 

「ホラ、那奈ちゃんもこう言ってることだし、大丈夫でしょ?」

 

「はぁ……お前が何で潜在犯なのか、不思議でしょうがないよ。」

 

笹木は頭を押さえながら溜め息混じりに言った。

 

「それは私にも分かりません!シヴュラに聞いてくださーい。」

 

「あのなお前―――――『五階に到着しました』」

 

何か言いかけた笹木の言葉を遮るように、エレベーターのスピーカーが、五階に到着したことを告げた。

 

五階フロアは普通に電気がついていたが、店にあるものは

壊されていたりかき乱されていたりしており、尾沢たちの近くには壊れた警備ドローンが火花を散らしながら倒れていた。

 

「西ノ宮さん、尾沢です。五階に到着しました。これよりフロア内の捜索を開始します。」

 

『分かった。……俺たちも他フロアの民間人の避難が完了し次第、応援に向かう。くれぐれも、犯人を刺激し過ぎないよう、注意してくれ。』

 

「了解しました。門倉さん、笹木さん。これよりフロア内の捜索を開始します。私と門倉さんが左回りで、笹木さんは右回りから捜索してください。」

 

このショッピングモールは、ドーナツのような円形をしており、右回りと左回りの両方から捜索していくのが、最も効率的なのである。

 

「……了解。じゃあ、お二人さん、またあとで。」

 

笹木はドミネーター片手に手を振りながら、さっさと立ち去ってしまった。

 

「……じゃ、私たちも行きましょうか。」

 

「了解。」

 

尾沢と門倉もドミネーターを持ち、周囲を警戒しながら歩き始めた。

 

周囲を警戒しながら、尾沢が門倉に問いかけた。

 

「あの……門倉さん。さっきの話なんだけど……答えたくなかったら答えなくていいんだけどさ、潜在犯認定された時、どんな気持ちだった?」

 

「どんな気持ち……か。んー、『何で私なんだろ』とは思わなかったな……どっちかと言えば、『そろそろなるだろうな』って感じはしてたから、すんなり受け止めれたよ。」

 

「えっ……それって、どういうこと?」

 

「私ね……中学生の頃、いじめられてたの。かなりひどくてね、あの頃はよくトイレで泣いてたものよ。……それで色相が悪化して、案の定犯罪係数が上昇し、潜在犯認定されたわ。」

 

「そんな……ならいじめてた人達は……」

 

「彼らが潜在犯落ちしたか、それは分からないわ。……でも、私の知る範囲ではまだ彼らの名前を見たことはないわ。」

 

「……なら――――『お話し中失礼するよ。』」

 

会話中に、笹木からの通信が入ってきた。

 

「……どうしましたか?」

 

『服飾店内にて犯人を発見。人質を連れていますが、かなり気が狂ってるようだ。それに人質の犯罪係数もかなりヤバい所まで上昇してる。……発砲の許可を。』

 

「発砲はまだしないでください。今から私と門倉さんがそちらに向かいます。それまで待っていてください。絶対に、犯人を刺激しないでください。」

 

『了解、待機します。』

 

通信が終了すると、尾沢と門倉は駆け出した。

 

*****

 

笹木のいる場所まで行くと、笹木がドミネーターを構えている先に、一人の男性が立っていた。

 

「落ち着いて、武器を捨てて投降しろ。今ならまだ更正の余地がある。」

 

「近づくんじゃねぇ!そっちこそ武器を捨てやがれ!」

 

彼は片手にナイフを持ち、もう片方の手で女性を押さえつけ、笹木を牽制していた。

 

『犯罪係数、オーバー290、執行対象です。執行モード、ノンリーサル、パラライザー。慎重に照準を定め、対象を無力化してください。』

 

尾沢がドミネーターを構えると、ドミネーターからそう聞こえてきた。

 

「監視官、発砲の許可を。」

 

「撃たないでください!このままじゃ、人質も……」

 

「人質の犯罪係数を見てください。彼女も……もうダメです。」

 

人質の女性の犯罪係数を確認してみると、126と表示された。

 

つまり彼女も立派な潜在犯……すなわち執行対象なのである。

 

「そうであったとしても、彼女は被害者です!絶対に、巻き込ませないように、犯人を説得します。」

 

「……だがっ……っ、了解。」

 

笹木は苦々しそうな顔をしながら、尾沢の指示にしたがった。

 

どんな理由があったとしても、執行官と監視官、当然監視官の指示に従うしかないのである。

 

「島原 安彦さんですね?……私は、公安局刑事課の尾沢です。どうか、落ち着いて武器を置いてください。じゃないと、これ以上犯罪係数が上がれば私は貴方を殺さなくちゃいけないから。だから……だからどうか、武器を置いて、人質を解放して。」

 

「うるせぇ!公安局が!俺はなぁ、あの仕事でミスさえしなけりゃ色相も濁らなかったし、職だって失わなかったんだよ!それなのに……なのに……」

 

「私はあなたの職場で何があったかは知らないから、あなたがどれだけ苦労したかは分からない。……でもね、まだシヴュラはあなたを見捨ててはいない!まだやり直せるの!……だから、どうか武器を下ろして!」

 

「っるせえ!大体全部シヴュラがいけねぇんだ!こいつさえなけりゃ、俺はもっとキレイで幸せな生活ができたんだ!」

 

『……対象の脅威判定が、更新されました。犯罪係数、オーバー300。執行モード、リーサル、エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください。』

 

尾沢のドミネーターが音を立てながら変形した。

 

エリミネーター。つまりは、島原 安彦という人物はシヴュラシステムに必要ない人間と判断されたのである。

 

「お願いだから武器を捨てて投降して!このままじゃ……私はあなたを殺さなきゃいけない……」

 

「黙れ!そっちこそドミネーターを捨てろ!こいつも巻き添えにするぞ!」

 

「やめてっ!助けてっ!」

 

島原は人質の女性を盾にするように尾沢たちの方へ向けた。

 

「やめなさい!そんなことをしても何の解決にもならない。あなたの問題に、彼女を巻き込まないで!」

 

「うるせぇ!黙って大人しくドミネーターを捨てやが―――――」

 

彼は、最後まで言うことができなかった。

 

横に回り込んだ笹木がドミネーターを発砲、正確に島原の腕に命中させたのだ。

 

それによって、彼の体はあり得ないまでに膨張し、破裂した。

 

脅威の排除が完了したとドミネーターが判断したのか、エリミネータは解除され、モードはパラライザーに戻った。

 

「―――――っ!笹木執行官っ、発砲は許可していません!何故撃ったんですか!」

 

「あのままじゃ人質が持たないと判断したからです。それぐらい、尾沢監視官も分かっていたことじゃないですか?」

 

「だからと言って……彼女まで巻き込んでいいという理由は無いはずです!」

 

尾沢が指差した方には、血と内蔵が混ざった赤い液体をもろに浴び、怯えている女性がいた。

 

「それだったら彼女の犯罪係数を確認してみてください。彼女も立派な潜在犯です。巻き込んでも問題ないでしょ。」

 

そう言われ、女性にドミネーターを向けてみると、犯罪係数は150を越えていた。

「……でも……それでも……」

 

尾沢は反論することができない自分を悔しがりながら、それでも何か言おうとしたが、何も言い返すことはできなかった。

 

彼女も潜在犯であり、巻き込んでしまっても何ら問題はない。

そもそも、『彼女は潜在犯だけど、被害者だし、人質なのだから巻き込んではならない。』という偽善者の戯れ言など、現在執行官制度のもと彼らを管理……悪く言えば猟犬のごとく飼い慣らし、職務を全うしている尾沢には到底言うことはできないのだ。

 

「……それで、彼女はどうするんですか?犯罪係数規定値越えてますんで、発砲の許可を。」

 

「それは……」

 

考え込みながら、女性を見てみると、自分も執行されるというのを悟ってしまった恐怖からか、後ずさっていた。

 

その目は、まるで救いを求めるかのように監視官である尾沢を見ていた。

 

それを見た尾沢は―――――

 

「発砲を……許可します。」

 

その指示を聞いた笹木が、すぐさま引き金を引いた。

 

刹那、ドミネーターから青白い光が発せられ、女性は気絶した。

 

その閉じた瞳からは、涙が流れていた―――――




関係ない話ですけど、銭湯って良いですよね。

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