ルイージとの戦いによって絵画に閉じ込められしまったキングテレサ。
部下の助けにより絵画から脱出することには成功するが絵画に閉じ込められた際に王冠をなくしてしまったことで気力を失ってしまう。
だがある日部下のテレサが新しい王冠を見つけてきて…。

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その王冠の価値は

 ここはキングテレサの隠れ家の一室。そこでは部下によって絵画から救出されたキングテレサが浜に打ち上げられたプクプクめいて床に転がっていた。

 なぜこんな事になっているかと言うと…。

 

「オレ様の王冠が~…」

 

 それがキングテレサが無気力状態となりゴロゴロと転がっている理由である。

 オバキュームで吸い取られた際に王冠を落としてしまいルイージに奪われてしまったことでキングテレサはやる気を無くしてしまったのだ。

 

「これじゃあオレ様は少し大きいだけのテレサではないか…。半端に大きいだけなんてアトミックテレサよりも個性がない!」

 

 そんなことをぼやきながら床の上をゴロゴロゴロゴロ転がるキングテレサ。

 もちろんキングテレサ自身今のままではいけないとわかっているし、復讐も兼ねて王冠を取り返しに行けばいいとも思う。だが、そのやる気さえも今のキングテレサには残されていなかったのだ。

 

「はぁ~~~……」

 

 またゴロゴロと転がっては壁や家具にぶつかり、逆回転に転がってはまた別の壁や家具にぶつかる。

 まるで中にネズミが入っていて勝手に転がるボールのような有様だ。

 いや、無気力でやる気がなくなるような愚痴をこぼさないだけネズミボールのほうがマシかも知れない。

 

「キングテレサさまのあの状態…、そろそろどうにかならないかなぁ?」

 

「ムリじゃね? もう何週間経つよ?」

 

「ゴロゴローゴロゴローめがまわるー」

 

「もうしばらくそっとしておこうゼ。だって元気になられてもうるさいし」

 

「オレたちの漫才を見ればきっと元気になるぜーケケケー」

 

「ケケケーオレたちの漫才は最高に笑えるぜー」

 

「甘いもの食べれば元気になるよー。戸棚のおやつはボクが全部食べちゃったけどー」

 

「それよりサッカーやろうぜー」

 

 部下のテレサたちもひたすら転がり続けるキングテレサの様子に困惑し、なんとかやる気を取り戻させようとみんなで知恵を絞っているのだが、あいにくと未だ成功していない。

 だが、ちょうどその時、外から何やら袋を抱えたテレサが一人帰ってきて集まっているテレサたちに弾んだ声を掛ける。

 

「みんなー、良いものを見つけてきたよー!」

 

「どうしたどうした?」

 

「食べ物? お菓子?」

 

「わーい! おやつー!」

 

「おかえりー」

 

 三々五々集まってくる仲間たちを前に、そのテレサはジャーン! とばかりに手に入れてきた品を高々と掲げる。

 

「なにそれ?」

 

「ケーキ?」

 

「ケーキ!」

 

「おいしそう!」

 

「わーい! ケーキー!」

 

「ちがう! 王冠だよ! キングテレサさまは単純だからきっと新しい王冠があれば元気でるよ!」

 

 なるほど、と納得した他のテレサたちに背を押され、キングテレサのもとにその王冠を献上に向かうテレサ。暇つぶしも兼ねてぞろぞろとついていく仲間のテレサ達。

 キングテレサの居室に入り、今は転がるのをやめ部屋の片隅の床の上で死んだプクプクめいたうつろな目で宙を眺めながらぐったりと突っ伏しているキングテレサに声を掛けた。

 

「キングテレサさま! 良い物を持ってきましたよ!」

 

「……ン~~?」

 

 床に転がったままテレサを見上げるキングテレサ。その手に持たれた王冠に一瞬目を見開く。しかし…。

 

「…………オレ様の王冠じゃない…」

 

 悲しげにつぶやき再び顔を伏せてしまう。

 その様子に周りのテレサたちもまた、あぁ、これでもダメか…。と悲観的な声を上げるが、王冠を持ち帰ってきていたテレサはまだ諦めなかった。

 

「でもこの王冠があればもうキングテレサさまのことをちょっと大きいただのテレサだなんて言われないでしょう?」

 

「ンン…? まあそうだな…」

 

 ようやく僅かに顔を起こすキングテレサ。

 

「ひとまずはこれを冠ってルイージに仕返しに行きましょうよ! それで本物の王冠を取り返せたら復活じゃないですか!」

 

 その言葉にさらに顔を起こし思案を始めるキングテレサ。その表情は先程までの死んだプクプクめいたものではなく(おばけであるテレサ族に使うのは甚だおかしいが)生気が戻り始めていた。

 

「そうだな…。それにいつかはオレ様の大事な王冠を奪ったルイージの野郎を懲らしめないといけないとは思っていたしな!」

 

 それが今だ! とばかりに全身を起こし宙に浮かび始めるキングテレサ。その口元にはいつものようなニヤけ笑いが戻っている。

 

「よし、その王冠をよこせ!」

 

「はい!」

 

 周りに居た他のテレサたちがわー! っと喜びの歓声を上げるなかキングテレサが受け取った王冠を自らの頭に乗せる。だがその瞬間…。

 

「ン? なんだ?」

 

「わぁっ!? 眩しい!」

 

「めがーめがー!」

 

「なになに!?」

 

「きゃー!」

 

 突如として王冠とキングテレサが眩い桃色の閃光に包まれる!

 

「アワワワワ…!?」

 

「キングテレサさま~!?」

 

「あぁー! めがーめがー!」

 

「わー! 逃げろー!」

 

「きゃー!」

 

 慌てふためくキングテレサと状況についていけずにあたふたと戸惑うテレサ達。

 だがそんな騒がしい室内もやがて桃色の光が収まるとともに徐々に落ち着きを取り戻す。

 

「ふー…。一体何が起こったんだ…?」

 

 一番最初に落ち着きを取り戻したキングテレサが()を振りながら呟く。

 その声に反応しテレサたちも反射的にキングテレサに振り向くと、一瞬不思議そうに身体をかしげ、慌てて顔を隠した。

 

「わー! 誰ー!?」

 

「きゃー! 見ないでー!」

 

「知らない人がいるー!?」

 

「めがー! めがー!」

 

「……はぁ?」

 

 困惑するのはキングテレサである。いきなり部下のテレサたちに初対面の人間に出会ったときのような反応をされる意味がわからない。

 

「何を言っているオマエラ? オレ様だぞ?」

 

 顔を隠し動きを止めたテレサたちにツカツカと歩み寄るキングテレサ。

 …ツカツカと歩み寄る?

 

「ンン?」

 

 自分の行動に()をかしげる。

 

「…首? あれ!? あれ!?」

 

 バッと手で()を抑え、その行動にまた驚くキングテレサ。何がおかしいって何もかもがおかしい。

 眼の前の()()()()には白魚のように美しい()が5本もついており、グッと()を傾けて自分の()()を見下ろせばそこには豊満な二つの盛り上がりが…。

 

「な、な…、なんだこりゃああぁぁ!!??」

 

 キングテレサは自分がなぜか人間の女性の姿に変身していることに気付き魂消るような絶叫を上げた。

 

 

 ……数時間後。

 

 

 ドッタンバッタンの大騒ぎの末にようやくテレサ達共々落ち着いたキングテレサ。床に座り込み車座になったテレサたちと顔を突き合わせて状況の整理をしていた。

 

「つまり、オレ様は今真っ白なピーチ姫みたいな姿になっているということか…」

 

「でもキングテレサさまのほうがおっぱい大きいよ!」

 

「メロンみたい!」

 

「目つきも悪ーい」

 

「あー、舌もでてるよー」

 

「むぅっ?」

 

 慌てて舌を引っ込めて口を閉じるが油断するとすぐに舌が出てしまう。これは普段の癖が抜けないせいだろう。

 意識して顔を引き締めたままテレサから聞き出した自分の今の容姿の情報を頭の中で整理してみる。

 ピーチ姫のような髪型や美貌を得ているが、髪や肌の色が真っ白で大きく異なることと、顔のパーツの印象の違いからパッと見ピーチ姫に似てはいるが、ピーチ姫そっくりというほどではないらしい。

 ピーチ姫より体型が全体的に豊満になっていることも印象変化の一端を担っているだろう。ドレスもまたピーチ姫のような清楚なものではなく、その豊満な身体の魅力を引き出すような露出度の高いドレスを着ている。

 

「真っ白だからピーチ姫じゃなくて真っ白姫だね!」

 

「そんな変な名前で呼ぶな! オレ様はキングテレサだ!」

 

「じゃあキングテレサ姫ー?」

 

「姫もいらん!」

 

「キングテレサ姫だー!」

 

「わーい、姫様姫様ー!」

 

「話を聞け!」

 

 しかし脳天気なものが多いテレサ達相手では整理できる情報など大したものではない。

 ため息を付きながら王冠を頭から外すキングテレサ姫。しかしそれでも変身は解けず、美しい女性の姿を保ったままだ。

 

「ふー、全く…。この変身はこの王冠のせいなのか? 外しても元に戻れないのはどういうことだ…」

 

「いいじゃないですかそのままでもー」

 

「美人だよー? ピーチ姫みたいに!」

 

「アホ! オレ様はこれからルイージをやっつけに行くんだぞ! こんな格好でどうするんだ!」

 

 しかし次のテレサの言葉でキングテレサ姫も考えを改める。

 

「その格好で行けばー、ルイージも油断するかもー?」

 

「……なに…?」

 

 どうやってルイージをやっつけるかはまだ考えていなかったが、言われてみれば確かに色仕掛けをして騙し討ちというのは有効かもしれない。

 テレサたちの話を聞くに今の身体はずいぶん豊満で色っぽいようだし、ドレスもお誂え向けに胸元が大きく露出したセクシーなものだ。

 色仕掛けをするにはちょうどいいかもしれない。

 

「悪くないかもしれないな…。よし! ルイージのやつを色仕掛けで騙してぎゃふんと言わせてやるぞ!」

 

「「「「わー!」」」」

 

 やる気に満ちた顔で立ち上がり拳を握るキングテレサ姫。ノリでパチパチと拍手を始めるテレサたちに見送られ壁をすり抜け、いざルイージのもとへ…。

 

 ゴツン!

 

「ぎゃふん!?」

 

 壁に顔面をぶつけうずくまるキングテレサ姫。身体は豊満な胸がクッションになったが顔面は逆にテコの原理で激しく打ち付けてしまった。痛い。

 

「うわー…」

 

「いたそー…」

 

「大丈夫ー?」

 

「なにやってるのー?」

 

「ググググ…。壁をすり抜けられなくなってしまった…?」

 

 思ったより能力や性質が変身した姿に引っ張られてしまっているようだ。この調子では浮遊したり透明になったりも出来ないかもしれない。

 一瞬、こんな状態でルイージに戦いを挑んでも大丈夫なのかと言う不安が湧き上がる。

 だが部下たちの目の前で「いざ出陣!」とやってしまった今更になってやっぱりやめようと言い出すのはあまりにカッコ悪いし、キングの沽券に関わる。

 痛みをこらえて立ち上がると涙の滲んだ目元をグシグシと擦り再び拳を握る。

 

「ルイージのやつをぎゃふんと言わせてやる!」

 

「「「わー!」」」

 

「ぎゃふんと言ったのはキングテレサ姫だよねー?」

 

 再びテレサたちの拍手を背に今度こそ扉から出陣するキングテレサ姫。もちろん口の減らないテレサに鉄拳による制裁をくれてやるのも忘れない。

 テレサ族の短い手では到底届かない距離に油断していたテレサの顔面にも今なら簡単に手が届く。手足が普段より遥かに長い人間の女性の姿が初めて役に立った瞬間である。

 

「待っていろルイージめ! っつ、わあわわわっっ!!?」

 

 キングテレサ姫が部屋を出てから順調に歩けば廊下を進み階段に到達する程度の時間が経ったころ、階段の方向からにキングテレサ姫の悲鳴と人が階段を転げ落ちるような大きな音が響き、一瞬身をすくめたテレサたちが慌てて救助のために部屋を飛び出していった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 とっぷりと日の暮れたころ、テレサの森近郊にある大きな新築の豪邸の前にキングテレサ姫は訪れていた。

 こここそかつてマリオ&ルイージ兄弟を打ち倒し絵画の中に閉じ込めるために偽りの豪邸を作り出し、ルイージとの激闘を繰り広げた場所であり、現在はルイージがその際に奪った財宝を資金に本物の豪邸を建て住んでいる場所だ。

 再びこの場が復讐の舞台になると思うと不思議な感慨深さを感じる。

 

「ごめんくださーい! 誰か居ないのかー?」

 

 声を上げながらゴンゴンとドアノッカーを叩く。

 ゴンゴンと叩く。ゴンゴンゴンと叩く。ゴンゴンガンガンゴンガンガン。

 

「はーい! はーい! 聞こえてますよ聞こえてますって!」

 

 ガーンガーンと気分よくドアノッカーを打ち付けていると慌ただしい足音とともに扉が開き緑の憎いアンチクショウ、ルイージが顔を出す。一瞬憎悪が頭を支配しそうになるが、ぐっとこらえ笑顔を維持する。

 

「……どなたですか?」

 

 扉の前に佇む見ず知らずの美しい純白の女性の姿に困惑するルイージ。

 その様子にしめしめと思いながらも自分は困っています、というような演技をするキングテレサ姫。

 

「実は道に迷ってしまって、気がついたらもう日も落ちてしまい困っていたんだ…です。できれば一晩泊めてもらいたい…の、ですが…」

 

 キングテレサなりに丁寧語を使っているつもりであるが。

 露骨に訝しんでしまうルイージだがキングテレサ姫を頭の天辺からつま先まで眺めた後、ニッコリと笑う。

 

「それはお困りでしたね。大したおもてなしも出来ませんが、どうぞ上がってください」

 

 そういってルイージはキングテレサ姫を迎え入れるように扉を開け放つ。

 うまくルイージを騙して侵入に成功出来たことにグッと小さくガッツポーズをするキングテレサ姫。

 

「外は冷えたでしょ? 今温かいココアを淹れるからゆっくりくつろいで待っててください」

 

 キングテレサ姫をリビングに案内しソファーに座らせたルイージはニコニコしながらココアを用意しに退室する。

 勧められるがままソファーでダラダラとくつろぎだしたキングテレサ姫はその警戒心の欠片も感じられないルイージの様子に己の作戦の成功を確信しつつあった。

 

「ケケケ…。あのだらしのない顔…。オレ様がキングテレサだとも知らずにノンキなもんだぜ…」

 

 ニヤニヤとニヤけながらこの後の作戦を考えるキングテレサの前に湯気を立てるカップがそっと差し出される。

 

「さあどうぞ。甘いココア。口に合えば良いんだけれど…」

 

「オ、オゥ、ありがとう?」

 

 熱いが甘くて美味しいココアをフーフーと息を吹きかけながらすすっているとニコニコ顔のルイージがコーヒーカップ片手にテーブルを挟んだ対面に座り、笑顔のままでキングテレサ姫に話しかける。

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。ボクはルイージ。あなたの名は?」

 

「えっ!? 名前!?」

 

 偽名など考えていなかったキングテレサは大いに焦る。そしてとっさに出てきたのは部下の言った名前だった。

 

「ま、真っ白…姫……?」

 

「おお、マッシロ姫!」

 

 ルイージはその名前を聞いてキラリと白い歯を輝かせる。

 

「ポエミィな名前だね!」

 

「お、おう…」

 

 ルイージは ウィンク を 放った!

 キングテレサ姫は少し引いた。

 

「エヘン、エヘン。ところで、すごい豪邸だ…ですね? ルイージ…さん、は、どんな仕事をしているんだ?」

 

 わざとらしく話題を変えてみるキングテレサ姫。引かれたことを察したルイージも誤魔化すようにその話題に乗った。

 

「ボクは兄さんと一緒に配管工と冒険家をやっているんだ。この豪邸も冒険で手に入れたお宝で建てたものなんだよ」

 

 お宝で建てたという言葉にピクリと反応してしまうキングテレサ姫。しかし感情は抑える。うまく話を誘導して大切な王冠の行方を聞き出さなければ。

 ぐっと前傾姿勢を取り豊満になった己の胸を強調しみせつける。ルイージの視線は思わずそこに向かってしまう。

 

「へ、へー…。最近はどんなお宝を手に入れたんだ?」

 

「そうだね…。あぁ、この家を建てるときに余ったお宝がまだ家に残してあるんだ。よかったら見せてあげるよ」

 

「ほ、本当か!? 見せてくれ!」

 

 慌てるように食いついたキングテレサの様子に優しく苦笑する。

 ルイージは残っていたコーヒーを飲み干してから立ち上がると、キングテレサ姫の手を取りリビングに置かれていた展示ケースへと導く。

 薄く色のない硝子板の天板が付けられた展示ケースの中。そこには色とりどりの宝飾や金貨、そして、決して見間違うはずのない己の大切な王冠も丁寧に並べられ飾られていた。

 

「………ッ!」

 

(オレ様の…王冠だ! ついに見つけた!)

 

 今すぐに展示ケースを叩き壊し王冠をひっつかんで駆け出したい激情に駆られかけるが、必死で抑える。

 ルイージは素早く、強く、そして賢い。

 慣れない女性の姿に変身してしまい十全な能力を発揮できない自分が考えなしの行動をして逃げ切れるような相手ではない。

 この場は在り処を特定できただけで良しとして後で部下たちとともに侵入し盗み出すか、あるいは色香でも使って誑かし上手いことかすめ取るか…。

 とにかく必死で頭を巡らせるキングテレサ姫。しかし目の前に大切なものが囚われているのを見てしまえば、一体どうすればいいのかなかなか考えがまとまらない。

 

(どうすればこの王冠を取り戻せるんだ…!)

 

 そこにそんなキングテレサ姫の様子など気にしないようなルイージの呑気な声がかけられる。

 

「もし、欲しいものがあるなら差し上げるよ」

 

 キングテレサ姫の動きが止まる。

 

「………な…に…?」

 

 呻くように硬く冷たい声を漏らすキングテレサ姫。

 

「ええ、お近づきの印に…」

 

「お近づきの…印だと!?」

 

 そのルイージの言葉でキングテレサの胸中に湧き上がったのは王冠を取り戻すチャンスを得てラッキー、などといった甘い感情ではない。

 

「……キッ! キサマァ!!」

 

 キングテレサの胸中を満たしたもの、それは爆発するかのような怒りだった。

 激情に突き動かされるままにルイージに飛びかかり胸ぐらを掴むとそのまま押し倒し、馬乗りになりながら首を絞める。

 

「オレ様の! 大事な王冠を奪っただけでなく! それを! 女を口説く道具に使いやがったな!」

 

 許せない! 自分にとって一番の宝物だったのに! それが、こんな簡単に見ず知らずの女に投げ与えるような軽薄な扱いをされるなんて!

 感情が高ぶりすぎてボロボロと涙をこぼしながら牙を剥いて首を絞め続けるキングテレサ姫。その様子をルイージは傷ついたような、悲しむような、自分自身を責めるような目で見上げる。

 

「……ごめんよ、キングテレサ……」

 

 喉を締められたかすれるような声で謝罪の言葉を口にすると、そっと手を伸ばし涙で濡れたキングテレサ姫の頬を拭う。

 

「君の大切な宝物を、軽く扱うつもりじゃなかったんだ…」

 

「………え?」

 

 その優しさを感じさせる言葉の響きに思わずルイージの首を締める手の力を緩めてしまう。

 馬乗りになったままルイージの顔をまじまじと見つめるキングテレサ姫。

 

「あの王冠が、君にとって大切なものなんだろうって思って、いつか返そうと考えていたんだ。でもなかなか機会がなくて…」

 

 苦笑しながら頭を掻くルイージ。

 

「だから今日君が訪ねてきて、いい機会だからなんとか返却できないかって思ったんだけど…。傷つけるようなことをしてしまってごめんよ」

 

 ルイージの腹の上に腰を下ろしたままキングテレサ姫が呆然と尋ねる。

 

「………でも、オレ様は今日こんな姿で…」

 

 普段のテレサ族の姿とは似ても似つかない人間の女性の姿だ。変身してしまったことを知らないルイージが自分の正体がキングテレサだなどと簡単に見抜けるとは思えない。

 

「ああ、うん…。なんでだろう? でもひと目で君がキングテレサだってわかったんだよ」

 

 なんでだろうね? などと言いながら鍛えられた腹筋を使いぐいと身体を起こすルイージ。

 もちろんお腹の上に乗っていたキングテレサ姫を突き飛ばしたりしないよう抱き寄せることも忘れなかったためキングテレサ姫はルイージの腕の中にすっぽりと収まってしまった。

 

「とにかくごめん。この王冠は君に返すよ…。受け取ってくれるかい?」

 

 キングテレサ姫を抱き寄せたまま展示ケースを開くとレッドダイヤの嵌められた綺麗な王冠を差し出す。

 それをキングテレサ姫は震える手で受け取ると…。

 

「オレ様の…王冠…」

 

 もう二度と放さない、とばかりに豊満な胸に抱きしめ、ポロポロと涙を流し始めた。

 

「………」

 

 グスグスと静かに泣き続けるキングテレサ姫の腰にそっと手を添え再びソファーに導き座らせると少し離れた場所に立ち尽くして天井を見上げる。

 新築であるためシミひとつない綺麗な天井は眺めていてもあまり楽しいものではないのだが、それでもしばらくそのまま時間を潰す。

 

 しばらくの時が流れキングテレサ姫の泣き声が聞こえなくなったのを確認したルイージがちらりと彼女の様子を見ると…。

 

「すー…。すー…」

 

 ソファーの上で丸くなるようにして寝息を立てているキングテレサ姫の姿がそこにはあった。

 

「…うーん…?」

 

 客間のベッドまで運んでやるべきか少々悩んだが、敵であった自分がそこまで情けをかけるのも筋違いだろうと考え、毛布をかけてやるだけに留める。

 大切な王冠を抱きしめ穏やかに眠るキングテレサ姫の寝顔を少し眺めた後、キノコシャンデリアの明かりを消してルイージは自身の寝室へと向かうのであった。

 

 

 ………翌日。

 

 

 早朝、柔らかなベッドの上でルイージが目を覚ます。

 ぴょんっと飛び跳ねてベッドから飛び出すとカーテンを開き眩い朝日に目を細める。

 清々しい朝に気分を良くしながら軽く柔軟体操をして寝起きの身体を目覚めさせていく。

 一通り体を伸ばし、洗面台に向かい顔を洗って紳士らしく丁寧にヒゲを整えると寝室を後にしリビングへと向かう。

 

「……もう居ないか…」

 

 ソファーの上には昨夜かけてやった毛布がクシャクシャなまま放置されており人の気配はまったくない。

 だが、ソファーの前のテーブルの上に昨夜はなかったはずのメモ用紙が一枚置かれていた。

 ルイージはソファーの上の毛布をたたみながらメモ用紙に目を通す。そこにはたどたどしい文字で短い文章が書かれていただけだったが、それを読むルイージの表情は暖かく優しい。

 

「………ふふっ」

 

 たたみ終えた毛布を一旦ソファーの上に置くとテーブルの上のメモ用紙を拾い上げ大事にポケットに仕舞う。

 

「さて、朝ごはんでも作ろうかな」

 

 清々しく爽やかな気持ちに満たされながら、ルイージは毛布を抱えあげると足取りも軽くリビングを後にした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ふーんふーんふーん♪ ふーんふーふーん♪」

 

 キングテレサの隠れ家にて、キングテレサ姫は機嫌よく鼻歌を歌いながら鏡の前で踊るようにクルクルと回っていた。

 その頭の上に乗っているのはもちろん、レッドダイヤが載せられたキングテレサの大切な王冠である。

 部下が見つけてきた王冠は今は棚の上に大切に飾られている。

 

「キングテレサ姫様元気になったね」

 

「ルイージやっつけられたのかな?」

 

「王冠取り戻せて良かったねー」

 

「お祝いにケーキ食べたいなー」

 

「ケーキあったっけー?」

 

 部下のテレサたちも元気になったキングテレサ姫の様子に嬉しそうに笑う。

 

「ふふーん♪」

 

 ふとクルクル回るのを止め、じっと鏡を見つめる。

 鏡の中の自分は前よりも大切さを増した王冠を戴き幸せそうに微笑んでいる。

 

「ケケケ…」

 

 ふと胸に感じる暖かくそれでいてどこか切ない感触。それを幸せそうに抱きしめながらキングテレサ姫はあふれる喜びに突き動かされるようにクルクルとまた踊り始める。

 

「ケケケー…」

 

 今度は喧嘩以外の理由で、あいつの元を訪ねてみるのも良いかもしれない…。ふとそんなことをひらめいて、キングテレサ姫はまた幸せそうに笑った。

 

 

 おわり




自分の中でルイージはマリオほど無口ではないイメージなのです


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