⇒何十人ものプロ相手じゃ敵わない。
オール・フォー・ワンの状況
⇒ヘドロ転送は神野の事件の時点で出来立て。襲撃時点では無しとした。
デクのことも死柄木に聞いてようやく知ったようなので、偵察等ができる“個性”もなし。
これで逆転出来る訳なかった。
USJルーム襲撃事件の翌日、雄英高校は臨時休校となり、プロヒーローでもある職員たちは警察と共に後始末のための会議が行われていた。
「えー、では先日の事件の結果から。
主犯の死柄木という男とワープゲート―――黒霧という男、主力と思しき脳無という男ですが、無事確保。バラバラに搬送し、どこにいるかも知られぬよう拘禁しています。
いずれも無戸籍かつ偽名……個性届を提出していない裏の人間でした。
その他の72名のヴィラン、全員検挙出来ました。
こちらは路地裏に潜んでいるような小物ばかりで大物もいませんでした。
後は校舎を隅々まで捜査させていただきましたが、危険物や発信機等も見つかっていません。どころか侵入した形跡すらありませんでした。
なので今回の事件の実行犯は全て逮捕出来た、ということになります」
「まぁUSJルームにいたやつは取りこぼしは出さなかったはずだしな。
脳無ってやつはもう暴れてないのか?」
教師の一人が警察を代表して説明に来た塚内に尋ねる。
脳無はオールマイトに迫る身体能力を持っていた。あれがまだ暴れるつもりなら生半可な拘束は引きちぎって悠々逃走を成功させただろう。
先日戦った時はオールマイトが相手と手四つで組み合い、そこにミッドナイトが“眠り香”を放って即座に昏睡させることが出来た。“平和の象徴”オールマイトと殴り合いができるよう改造されていたが、それ以外への対策を盛り込めるほど余裕がなかったためだ。故にヴィラン側の襲撃前の想定では他の教師陣が到着した時点で撤退するということになっていた。肝心の黒霧が既に捕まっていたので出来なかったが。
結果、教師たちに怪我人は一人も出なかった。それでも「オールマイトと力比べができる」という時点で脅威的だ。侮れる者はいなかった。
「ええ、異常なほど無抵抗でおとなしいです。ただこちらからの問いかけに全く反応しないので口がきけないどころか、意識そのものがないのではないかと。
主犯の死柄木曰く、彼は対“平和の象徴”用の『改人』らしいです。オールマイトとも戦える身体改造がメインなのでしょうが、操作しやすいよう意識を消去するような改造を受けていてもおかしくありません」
「……胸糞悪い話だな。それで助かったとは言えよ」
「全くです。一刻も早くこの改造を施した技術者、そして黒幕を捕えなければなりません。
幸い死柄木は顔に着けていた手にやたら執着しているらしく、武装解除のため没収しようとすれば取り乱して色々と話してくれます。近々裏にいる者の情報も集まり、裏を取れるかと。
その時は協力お願いします」
「もちろんだよ! 我々は教師だが、同時にヒーローでもあるからね! ヴィラン退治を断ったりしないさ!」
校長が代表して塚内に答えた。
雄英高校のヒーロー科の教師陣は皆優れたヒーローだ。一人の例外もなく、校長の言葉に賛同した。
とはいえまだ疑問も残っていたようで、ある教師が周囲に問いかけた。
「……しかし黒幕は何がしたかったんだろうか?
今回の襲撃事件、上手くいけばオールマイトを襲えたかもしれないが殺せたとは思えない。
ヴィラン側は貴重な転移能力者を失い、改造人間を作る技術を持っていることがばれてヒーローに目を付けられただけだ。我々だって襲撃を受ければセキュリティの強化を行うから、二度目の襲撃を狙うことだって難しくなる。
ヴィラン側にメリットがなさすぎる。
俺には何がしたかったかさっぱりなんだが、想像できるやつはいるか?」
全員が黙り込む。皆ヴィランの思惑がさっぱり理解できなかったためだ。
あわよくばオールマイトを殺したいという狙いはあったというのは当たっているが、脳無がろくに戦闘を行わないまま眠らされたので“ショック吸収”と“超再生”の複数“個性”持ちなどとはまだ知らないのだ。そのため周到な準備を行う黒幕がこの程度の戦力に全賭けなどするだろうか、という思いが教師たちにはあった。
また今回の実行犯は皆あっさりと捕まったので、今回の襲撃犯は鉄砲玉だと認識されていた。撤退要員の黒霧が前に出てこなければ違ったかもしれないが、早々に出てきて鎮圧されたのでこう認識されたのだ。
なので黒幕が死柄木の成長を願い、失敗を経験させるために襲撃させたと思い至れる者はいなかった。
黒霧が撤退すらさせられないとは想定していなかったため、死にかけの体に鞭打って死柄木を捜索しているなど欠片も想像できないだろう。
「考えても結論は出そうにないかな。
ではこの話題はここまで!
セキュリティ強化の内容について詰めていくよ! 草案は考えてきたから、修正案があれば言っておくれ!」
「お疲れ様オールマイト。慣れない会議の感想はどうだい?」
「凄く疲れたよ。専業ヒーローの時も目先の事件優先で、会議とかは「出た結論に従う」とか「警察側の要請に応じる」とかですっぽかすことが多かったからなぁ」
「ははは、これから教師をしていく以上、慣れないと駄目だよ。
それでだ、オールマイト。実は君には追加で伝えないといけない情報があってね」
「? さっきの会議で話しちゃマズイ内容なのかい?」
「ああ、確定情報でもないしまだ早い。だが君には知らせておくべきだと判断したんだ。
死柄木から『オール・フォー・ワン』の名前が出た。そいつから教育を受け、戦力をもらって今回の事件を起こしたらしい」
「!!!??? あいつは確かに私が仕留めたはず……ッ!?」
「らしいね。だが君も言っていたように、アレは何でもありだったそうじゃないか。なら生き残っていてもおかしくない。
偽名やはったりの可能性もあるが、警戒は怠らないでくれ」
「……わかった。これから荒れそうだな……」
オール・フォー・ワンの後継者を逮捕し荒らす余裕など無くならせたことを自覚しないまま、“平和の象徴”とその友である警官は予想よりはるかに遅れて来る動乱に向けて覚悟を決めた。