「かっちゃん!」
「カツキッ! 包帯だらけじゃんか! 本当に大丈夫か!?」
「さすがにあれはヤバかったんじゃ……」
「見かけだけだこんなの。家で薬塗っときゃ十分だったってのによ」
ヘドロヴィランが拘束されてすぐ、勝己は病院に運ばれた。
本人は大丈夫だと主張したが、体の前面がボロボロなので無視して救急車に放り込まれたのだ。ただ実際に大丈夫だったので、薬塗って包帯撒いただけで退院となったが。
そして治療室から出て直ぐ、友奈とクラスメイト達に捕まっていた。どうもヒーローたちが友人が心配だろうと足を用意してくれたらしい。
「つーかお前らまで来てんのかよ。やりづれーな」
「? 何? なんかやんの?」
「あーもういい。友奈!」
「ん? 何、かっちゃん?」
「その、なんだ、救かった。ありがとよ」
「ッ、うん! かっちゃんにそう言ってもらえて私も嬉しい!」
友奈は他人を気にし過ぎるところがある。救けられることを嫌う勝己に対し、結局自力で切り抜けられたのに救けに入ってしまったと心配していた。
だが勝己からお礼を言われて、花が咲くような笑顔を浮かべた。
勝己の方は慣れないことを言ったのと、友奈の笑顔で包帯塗れでも分かるほど顔が真っ赤になっている。しかしクラスメイト達は勝己の言動に驚き、いじることすら忘れている。
「おおう、カツキが礼言ってるよ。明日槍でも振るのかな?」
「生き延びられたら御の字だな……」
「てめぇらな……!」
散々に言われているが、勝己には自覚もあるので言い返せず唸るだけ。
そんな会話が続く中、骸骨のような男が彼らに近づいた。
「ちょっといいかな? ヒーロー事務所の者なんだけど」
「あ? 誰だよあんた?」
「ああ、悪いね。私はこういう者でね」
骸骨男が不慣れな動作で友奈と勝己に名刺を差し出す。
勝己はそれを怪訝な顔で読み上げた。
「マイツプロ、第2秘書室、八木俊典………………マイツプロッ!!!???」
「はぁっ!? マイツプロってオールマイトの事務所だろ!? なんでそんなとこから!?」
「……もしかしてスカウト? すげーなカツキ。いつもの大口が現実味を帯びて来たぞ」
勝己とクラスメイト達が名刺を見て混乱する。友奈はと言うと呆けたような顔をして固まっていた。
「あのヴィランはオールマイトが追って一度振り切られ、結局事件には間に合わなかった。それを解決したのが勇敢な少年少女だと言うんだから話を聞きたいと思うのも仕方ないだろう? とはいえ本人が質問するわけじゃないし、この名刺も偽装かと疑ってるんじゃないかと思う。だからこれから警察署で一部屋借りて話がしたいと思うんだが、どうかな?」
「そういうことなら、行く」
「私もお母さんに許可取ってきます」
オールマイトは超人社会において絶対の存在だ。彼に話が聞きたいと言われて断る者などまずいない。警察署で行うなら詐欺の心配もないし、勝己も友奈も即座に返事をした。
「少年も親御さんの許可は取っておいてね。それじゃ行こうか」
「なるほど。そんな経緯で」
「はい、かっちゃんは私のヒーローですから。いつも救けてもらってる分、かっちゃんがピンチの時は私も頑張るんです」
質問には友奈がほぼ答えることになった。
勝己からすれば自分の醜態について説明しないといけない上に、特に意識することもなく力があるからできていただけのことを褒め殺しにされていたのだ。オールマイトが後で内容を聞くのだからと、顔を真っ赤にして必死に部屋から逃げ出すことを我慢できたことを評価すべきかもしれない。
一方、八木は友奈が“無個性”ながら危地に飛び込むことが出来たことと、その理由に感銘を受けたようだ。
「実に素晴らしいメンタリティだ! 善良な市民の鑑だよ君は! いい幼馴染を持ったね爆豪少年!」
「それは俺も分かってる。これだけ俺は恵まれてるんだ、目標は絶対叶える」
「? 目標とは?」
「これはしっかり伝えといてくれよ。俺はオールマイトも超えて一番のヒーローになる」
学校で笑いながら言った時とは違う、真剣な言葉。
それを聞いて八木も表情を変えた。
「本気かい? そんなことを素面で言う人はまずいないし、長年言い続けていられたのはエンデヴァーだ。その彼すらもここ数年は言ってくれない。今日だって痛い目を見たところだろう?」
No.2ヒーロー、エンデヴァー。不動の一位であるオールマイトを脅かすことこそできていないが、二十年以上に渡り第二位を保持し続ける事件解決数史上最多の偉大なヒーロー。
No.3以下とは別格の力と実績を保有するかのヒーローですら唱え続けることができないほど絶対的な存在なのだ、オールマイトというヒーローは。
客観的に見て、いくら才能があろうと勝己には荷が重すぎる目標だ。
「俺が井の中の蛙だったのは良くわかった。あんな雑魚相手でも奇襲一つであのざまだ。そんな業界でずっとトップであり続ける難しさなんざ想像もできねー。
それでも俺はオールマイトが勝つ姿に憧れて、友奈にヒーローって言ってもらえたんだ。オールマイトとは違った形になるだろうが、俺なりの形で一番のヒーローになる。これは絶対叶えるし、もうブレねぇ」
声が震えることもなく、淡々と答える。すでに決意したことを口に出しているだけだからこその平静だ。迷いや不安があればこうは言えない。
しばし無言が続き、八木が静寂を破った。
「………………もしやとは思ったが、まさか本当に見つかるとはね。君たち二人になら託しても良さそうだ」
「あ?」
「悪いがこれ以上の話はここではできない。オールマイトは色々と秘密が多いからね。もう一度場所を移そう」