何も出来ないまま、灯花は話を始めた。
奴は大分前に一時退院し、叔父の部屋である本を見つけた。それは「魔法少年少女 その希望と絶望」と言い、中身は魔法少年少女達の交流で知った事や彼らの人生が書かれていたらしい。
創作されたものだと思っていたが本人は本当にあった事だと思っていたという。そのために本の中では触れられていなかったキュゥべぇを探し出した。
ある日の夜にキュゥべぇが現れ灯花は今でも魔法少年少女達が知らないような話を聞いたという。最初にキュゥべぇ自身の事を知り、人間も知らないようなテクノロジーを持ち広大な宇宙で文明を築いた存在の端末である目的を持っていたという。
それは男女の願いを叶えることでもなく魔法少年少女達を作って魔女を狩らせるためでもなかった。それはあくまでキュゥべぇの手段だという。
キュゥべぇの本当の目的は俺達が生きる「宇宙を救う」事らしい。どうやらその宇宙で起きている現象は、熱力学第二法則に従って常に宇宙全体のエネルギーをロスさせているそうだ。
キュゥべぇの言葉では焚き火で得られるエネルギーは木を育てる労力と釣り合わないらしく、その釣り合わない分がロスしそして宇宙は常にロスを続け、熱的死を遂げてしまうという。
人間に例えると細胞分裂の失敗と人の老化みたいなものでキュゥべぇはその老化を押さえるために活動をしているという。
キュゥべぇの目的を知った俺達は驚きを隠せなかった。
やちよ「私たちは魔女を狩るために生み出されたんじゃなかったの...?」
灯花「さすがにワクワクしちゃう内容でしょー?もっと聞きたくなったでしょー?くふふっ」
やちよ「......否定はしないわ。魔女を狩る存在なのに魔女になる...。矛盾は感じるけどそんな理由だったのね...。」
灯花「ビックリでしょ?」
やちよ「ただ、嘘か真かは分からないわ。創作の可能性だって否定出来ない。」
俊「でも、気にはなります...、それがマギウスの真意に繋がるなら。」
灯花「うん、いーよ、聞いてくれて嬉しいよ。」
壮介「灯花の言うことが正しいなら、俺達はその宇宙のための駒扱いにされているって事か?魔法少年少女と宇宙...、何かが絡んでいる...、ロスする...、エネルギー?」
灯花「そうそう、簡単でしょー?私たち魔法少年少女はそれを解決するために存在しているんだよ。」
灯花がそう言うと、再び長い話になる。
宇宙で問題になっているのは星が出来たり消えたり色んな事が起きるなかで少しずつエネルギーをロスしているらしく、そのロスしたエネルギーを放置していると何もないのと変わらず無秩序な状態になってしまうという。
これは「宇宙の死」と同じで由々しき問題だという。だがキュゥべぇはこの熱力学の法則に触れないエネルギーを地球の中で発見したという。
それが、「人間の感情」で喜怒哀楽といった様々な感情を発生させる時のエネルギーは生まれて死ぬまでの必要なエネルギーよりも多くのエネルギーを生み出すという。
そしてその感情で数多くのエネルギーを生み出すのが大人と子供の狭間にいる「第二次性徴期」の男の子と女の子みたいだ。
そして男性と女性、性別に対する感覚の変化や自己の発達による反抗期、心体の変化のバランス、感情が丁度よく揺れる良いタイミングらしい。......道理で辻褄が合うって訳か...。キュゥべぇはそれを見抜いて成長途中の男女を魔法少年少女に仕立てて魔女と戦わせる事にしたんだな......。そりゃそうだろうな。灯花の話が本当ならそれで得た感情のエネルギーを使えば失ったエネルギーを元通りになるからな。
鶴乃「それで魔法少年少女にして何の得があるの?意味があるから私たちの願いを叶えたんだよね......。」
壮介「欲しいのは感情のエネルギー、願いを叶えて得やすいのは......っ!?まさか、魔女になるシステムってのは...!?」
鶴乃「何かわかったの?」
フェリシア「ど、どういう事だよ...?」
俊「一体何なんですか...?」
さな「私にもさっぱり......。」
壮介「俺達の気持ちを揺さぶるサイクルを作っていたんだ...!」
灯花「流石風見野の応龍さん、願いを叶えて希望を得てもいずれは絶望を味わう事になる。願った報いを受ける事でも何でもいいの。大切なのは希望の象徴である魔法少年少女達が何かしらの理由で絶望し、強い相転移エネルギーを生み出す事なんだよ。それを分かりやすくするために希望を叶えた魔法少年少女達を生み出して絶望して魔女になるサイクルを成立させたんだよ。」
フェリシア「何かよくわからねーけど、要は利用されたって事なんだな?」
灯花「許せない?」
フェリシア「あたりめーだろ!!」
やちよ「大切な思いと綴るような決心を利用されて恨まない方が可笑しいわ...!」
灯花「ってのがフツーの意見。憎いし消したいし滅ぼしたい。けどね私はそれだとダメだと思うんだよね」
やちよ「でもキュゥべぇが悪質なのに変わりはないわ。」
灯花「私たちが生きる宇宙を守ろうとしてくれていても?」
やちよ「それは......」
灯花「スケールが違うからイメージしにくいのは分かるけど宇宙を維持する力を持つんだから皆は自分を誇るべきなんだよ。宇宙を救える魔法少年少女の力を持つ自分をねっ。」
やちよ「貴方は私たちに魔女になれって言うの?」
灯花「違うよ。そうならないようにドッペルを作るイブがいる。」
そして奴等は驚愕の言葉をいい放つ。
灯花「だって私たちマギウスは、キュゥべぇに「成り代わる」んだから。」
キュゥべぇに成り代わるだと...?全くわからん...。何を考えてんだこいつらは...!