「フェリス、さっき来た怪我人の治療は?」
「もうとっくに終わってるよー」
「嘘だろ?かなりの数いたしフェリス一人じゃ魔力が…」
「嘘…ツバキきゅん知らないの?」
「何が?」
「はぁ…よし、ちょうどいいし、教えてあげる、そこ座って」
「お、おう…」
急にそんなことを呆れ気味に言われ若干理不尽を感じながらも俺は言われた通りフェリスのとなりに座る。
「はい、じゃあ…目閉じて、集中して」
「え?なんで?」
「はいはい、いいから」
それでまぁ、言われた通り目を閉じて集中する。
「イメージして、感じるでしょ?空気中のマナの流れとか」
「……あ」
そうして勝手にイメージを膨らませると、手のひらに魔力が集まってきた。淡い小さな光が掌で弱々しく輝いている。
「基本的に、この魔力は空気中を辿ってここに流れ着いたからこういうもので、実際はもっと強いんだけど…」
「これって…元はどこから?」
「もとは自然、植物とかが主な源」
「ほー…」
「でも、やりすぎは禁物だよ?」
「え、なんで?」
「魔力を取り込みすぎると許容量を超えて、暴発しちゃうから」
「お、おう…」
「っ…あれ?」
「意識共有が途絶えた…いえ、途絶えざるをえなかった」
「おい、あいつは一体何を…」
「ここ数日、どこか焦ってたのは知ってた…何でかは知らないけど」
「焦ってた…?」
「それが何なのかは私が聞いても教えてくれなかった、ラムも多分知らない」
「…まさか」
「あなた…一体何を…っ」
「大した事じゃないさ」
俺の纏っていた雷は先程の赤と青と雷から一変して黒い雷へと変わった。そしてその黒い雷がかすった木の葉が白い灰と化す。
「全てを消し去る黒い雷…そんなとこだよ」
「何を…あなたは一体何を…!!!」
「はぁぁぁ!!!!」
大罪司教が反応して見えざる手による防御行動に移るよりも早く、俺の振り下ろした手刀が大罪司教の腕を切り落とす、切り落とされた腕は白い灰と化し、踏み潰すと塵すら残らずその場で消えた。
「あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁ!!!!!!!」
「滅剣…ライジング・リジェクト」
俺がそう唱えると、手のひらに自分の身の丈以上もあるような大剣が姿を現した。
その剣が現した瞬間に、体のどこか分からないが何かが壊れる音がした。
骨が軋む、瞳から血が垂れる。今にも意識を失って卒倒しそうだ。
でも、俺は今こうして立っている。
大罪司教の見えざる手が牙を向いて、自分の腹を貫く感覚が分かる、だが…それでも倒れない自分に不思議と違和感はなかった。
腹を貫かれてなお、手を振り上げている俺に対して大罪司教は少なからず恐怖していた。
まず、一太刀、大剣を振り下ろす。
腹を貫いていた手が真っ二つに切れて消滅し、大罪司教の体が真っ二つに切れる。この剣は自分に対して敵対的であるものに対してのみ有効であるため周囲の岩や地面には衝撃の痕跡はない。そしてこの剣に切られたものは魔力的な治癒魔法は一切受けつけない。大罪司教の意識は切り離された左半身へと移っているようだった。
もう一度、剣を振り上げる、これで恐らく殺しきれるだろう。
剣を振り上げた瞬間に先ほどと同様の感覚が痛みを伴って襲ってきた。痛みはあるのに、不思議と苦しくはなかった。
もはや感覚神経すら麻痺しているのかそれとも…。
考えきる前に大剣を大罪司教の左半身へと振り下ろした。直撃の瞬間、光に包まれた大罪司教は声にならない断末魔の叫び声をあげた後、消滅した。
力を抜くと身体中が壊れる音がして、少し遅れてから全身の耐え難い激痛に襲われて俺は意識を手放した。
目を覚ますとそこには自分がいた、容姿は恐らく小学生程だったが、確実に確信した。
いま目の前に立っているこいつは、過去の…向こうの俺だと。
「君は、自分が何者か、覚えてる?」
ふと、その俺と言いきっていいのか分からないがそれが俺に対してそう、問うた。
「あぁ、俺はロズワー…」
「この世界ではなくて、君の本来の世界の事をだよ」
脳裏に思考を巡らせる、そこで違和感が生じた。
目の前にいるのが小学生、それが幼い自分なのは分かっている。にも関わらず、俺には小学生時代の記憶がなかった。それどころか高校も、中学の記憶も。覚えているのは基本的な作法や、マナーやルールだけで他には何も覚えていなかった。あとは…自分がこの世界に来る直前の死ぬ間際の映像、迫り来る地面に目を瞑ったあの記憶。
「お前は…一体何を知っている?」
「全部だよ、君の身に起きた事全部」
「見てくるといいよ、君ののここに至るまでの事を」
目の前のそいつがそう言い放った瞬間、自分でも視界が真っ暗になり、自分が落下していく感覚に襲われた。
再び目を覚ますとそこにはこちらへ、笑いながら両手を振っている家族と思える4人がいた。恐らく夫婦とその息子と娘だろう。息子の方が一回り大きく、娘は父親らしき人物に抱かれていた。
懐かしいものを見ている気がした、自分にはその人が誰かは分からない。でも俺はあの人を知っている、あの場にいる全員を知っている。
そこへ歩み寄ろうとした時、すり抜けるように小さな子供がそこへ走り寄った。そこには、先程見た小学生の時の自分とそっくりな子供。
走りよって抱かれた子供は、母親に抱かれてこちらを向きながら離れていく。
…思わず、手を伸ばした。
まだ自分の中であれが自分で周りにいるのが家族なのかなんて分かりもしない。でも何故か、離れて欲しくなくて…置いて言って欲しくなくて。
そうやって、手を伸ばしたその時に再び視界が真っ暗になり、落下していく感覚に襲われた。
再び目を覚ますと、そこはとある一軒家の前だった。家の表札の表記は『神薙』、その表札を見た瞬間に色々な記憶が飛んできた。幼少期の思い出、父親の名前、母親の名前、妹の名前、兄の名前。
扉に手をかけると鍵は空いていた、ガチャりと扉を開けて中にはいる。カレンダーの日付を見ると、今の俺の年齢から換算して俺は中学生程の年齢になっているはずだ。時間的に、誰かが家にいてもおかしくは…。
「ぎゃああああ!!!!」
「っ…!」
家の奥から、悲鳴に近い叫び声がした女の人の叫び声が。声のした方へ行くと、そこには喉をかっさばかれた大人の女性の姿があった。地面には大量の血が流れ、その血が俺の立っている場所にも来ているほど出欠が酷かった、おそらくもう即死している。
血まみれになった顔からなので曖昧だが、俺の記憶が正しければこの女性は俺の…母親だ。
辺りを見渡すと部屋の隅で震えている小さな女の子と呆然と立ち尽くす中学生程の年齢の男の子がいた。そして、「くっくっくっ…」と、笑みを零しながら、血塗れの包丁を手に持ち、無残な姿となった女性を見下ろしている若い男がそこにいた。
若い男は、もう生きていない母親の傍らに座り、包丁を何度も狂ったように振りかざした、何度も、何度も。
振りかざす度に、血があたりに散らばり、振りかざす度に、女性は人の形ではなくなっていた。
しばらく刺し続けて疲れたのか男が立ち上がる、もはやただの肉塊と成り果てた女性を眺めてから視線を移して、何やら時計の方を凝視している。
時刻は20時45分、ふと、家の扉の開く音がした。
すると、中学生程の男の子に抱かれた女の子が小声で「お父さん…」と呟いた。
すると、男は全速力で扉へと向かって行った。
そしてその数秒後、叫び声とともにバタンと倒れる音がした。先程女性に向けて包丁を振り下ろしていた時と同じような音がやがてし始める。
男の子と女の子が音のする方へ向かって行って、俺もそこについて行くとそこには、再び狂ったように男性の顔に包丁を何度も何度も振りかざす男がそこにいた。
しばらく、女の子と男の子はそれを眺めていた。俺も目の前の光景をただ、黙って見ていた。
受け入れたくなかった、最初にあいつはいった。
「見てくるといいよ、君のここに至るまでの事を」
そして、先程の女性が母親で、今、襲われているのが父親、そしていつこっちに襲いかかってきても小さな女の子だけは守れるようにしている男の子が恐らく俺。
そして、父親と母親を殺したこの男は兄。
つまり、今見ているこれが俺の過去…?。
そう思考していると、小さな女の子が動いた。無表情で、何かを探してタンスの中へと手を伸ばす。男は未だに狂ったように包丁を抜いたり刺したりを繰り返している。それを他所目に、女の子はタンスの奥からなかなか重そうなタバコの灰皿を取り出した。そして先程の母親と同じように顔も分からなくなるほど刺された父親に馬乗りになっている男の背後へと灰皿を持って行き、思いっきり男の後頭部へとぶつけた。
その瞬間に、再び視界が真っ暗になり、落下していく感覚に襲われた。
長すぎるので二つに分けます、あと遅れた詳細は活動報告にのせますので何卒…。
ovaは作って欲しい?作るとしたら?
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ラム afterstory
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お酒タイム ラム編
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お酒タイム レム編
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作らずにfateはよ