聖と災と死の異世界紀行 作:死聖災
VR-MMORPG「ユグドラシル」。
大人気オンラインゲームとして名高く、そのやり込み要素はまさに無限大。
稼働年数は12年という破格の長さからも人気の高さが窺い知れるが、やはり時間という絶対的なものには勝てず……徐々に過疎化していき、ついにはサービス終了が決定した。
「そうだ、楽しかったんだ」
巨大な水晶から切り出された玉座に座るのは、闇から切り抜いたかのような漆黒のローブで身を包んだ白骨死体───種族は
プレイヤー名はモモンガ。
非公式ラスボスやら魔王やらと呼ばれるプレイヤーで、ユグドラシルで語り継がれる伝説、1500人の大侵攻を返り討ちにした最強のDQNギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド長だ。
ユグドラシルではプレイヤーは、人間やエルフなどを含めた人間種、
最初は皆仲良く遊んでいた。
だが、その内に異形種はモンスターと同じなので倒してもPKにはならないという風潮が現れ出し、それは蔓延した。
これがユグドラシルの特徴の1つにもなった異形種狩りである。
今では、サーチ&デストロイ以上のデス&デストロイのアインズ・ウール・ゴウンだが、その前進となるクランの設立は異形種狩り被害者の救済だった。
そしてクランを設立したのは今は居ない、モモンガの恩人であり憧れの人だった。
ユグドラシル最終日、サービス残り数分の今。
モモンガは遠く、とても輝く思い出を眩しそうに目を細めながら思い出していた。
思い出はすぐに流れていき、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」最後の日へと至る。
そう、あれはただのいつもの喧嘩だったはずだ。
だが、そこでギルドは終わってしまった。
あの頃には既にユグドラシルに飽き始めていた人も居たのだろう。
きっかけの人物がログインしなくなったのを機に、少しずつ、だが確実にギルメンたちは様々な事情でログインをしなくなった。
最終日である今日、ログインしてくれたのは片手で数えられる程度。
それ以外はもう何年も会っていない。
未練がましくギルメンが引退時に渡してくれた装備や貴重なアイテムなどを入れられるだけ入れたアイテムボックスを眺めて自分を慰める。
だが、そんな思い出の品々を見ていたからか、ふと思ってしまった。
「最後に会いたいな……」
恩人でもある憧れの人とギルド崩壊のきっかけでもある憧れの人に。
会って言いたい。
貴方のおかげで俺は幸せだったと。
貴方のせいではない、なるべくしてなったんだと。
感謝と許しを、彼らに言いたかった。
だが、それも叶わぬ夢。
所詮はユグドラシルでしか接点がない仲。ユグドラシルが終わってしまったらもう関係のない赤の他人なのだ。
だから、最後の望みと言わんばかりにギルメンたち全員にメールを送った。
全員来れば最高、誰も来なくても当たり前。
片手で数えられる程度でも来てくれたのは嬉しかった。
あの2人は来なかったが、もう仕方ない。
残り1分では、もう絶望的だ。
「……さようなら、ユグドラシル」
潔く諦め、モモンガは目を閉じ───ようとして、扉が開く音で中断をした。
玉座の間の扉は巨大で、ゆっくりと開くのは魔王が待ち構えているという雰囲気作りの為だ。
最後の最後で侵入者が玉座の間に到達したのかと思い、使わずにいたギルド武器を握りしめ、ギルメンたちと考えた魔王ポーズで迎え入れる。
そして完全に扉が開き、入ってきたのは。
「ぁ───」
見た目を簡単に言うと二足歩行しているバッタと二足歩行の黒山羊。
どちらもモモンガが知っているプレイヤーだった。
そして、どちらもモモンガが最後に会いたい人たちだった。
「まさかお前と肩を合わせて歩く日が来るとはな、クソたっち」
ギルド崩壊のきっかけであり憧れの人……
「今日くらいは恨み言は無しで行きましょう、ウルベルトさん」
モモンガの恩人であり憧れの人……
この2人が最後の最後で合わせて
「お、お帰りなさい……たっちさん、ウルベルトさん」
「残り1分だけですけど……ただいまです、モモンガさん」
「あー、色々とあるけどまぁ……ただいま、モモンガさん」
死は聖と災を迎え入れ、聖と災は共に死の元へと戻った。
死は喜び、聖と災は肩を竦めた。
死の願いは叶い、聖と災と共に僅かな時間だが語らう。
そして死は願う。
聖と災と居る時間が永久になればいいと。
【To:モモンガ
願いを受諾。</Enter>
汝に永久の幸福を。</Enter>
From:モ%イヒN】
「え?」
「ん?」
「は?」
3人は、気付くと優しい風が吹く草原に佇んでいた。
「ユ、ユグドラシルは終わったはずですよね」
モモンガの問いにたっちとウルベルトは顔を見合わせる。
「そのはずです。強制ログアウトもされてないようですし……」
「ユグドラシルⅡに自動移行された、か?」
ウルベルトの呟きにモモンガとたっちは唸る。
大々的に終了と告知していたゲームの続編を一切告知せずに配信するだろうか。
そう考えるが、答えはすぐに出た。
あの運営ならやりかねない。いや、絶対やる。
「となると、ステータスとかは引き継ぎって事だよな」
「そうなりますね。私も死の支配者のままみたいですし……」
モモンガは自分の体を確かめるように手を開いては閉じたりを繰り返す。
「ん?」
そこでたっちがある事に気づいた。
「どうしたんです?」
「モモンガさん、ユグドラシルに口が動くパッチは入りましたか?」
「いえ、そんなパッチは入ってませんけど……え?」
モモンガが自分の口に手を当て、口を動かす。
「ユグドラシルⅡで新しく追加されたか?」
「ですかね……あ、そうだ。俺、4時起きだったんだ」
「じゃあ、そろそろ寝ないとですね」
「はい。名残惜しいですが、ユグドラシルⅡが稼働してるならまた会えますよね」
モモンガの言葉にたっちとウルベルトは頷く。
「もちろんですよ」
「クソたっちと同意見なのはいけ好かないが、もちろんだとも」
2人の返事にモモンガは嬉しそうに頷き、コンソールを呼び出す。
「……あれ?」
「どうしました?」
「コンソールが出ない……」
「え?」
モモンガは焦ったように何度も繰り返すが、何も起きない。
それを見てたっちとウルベルトも同じ動作を行うが、何も起きない。
「強制ログアウト!」
「GMコール!」
「こうなりゃ奥の手だ!」
最終手段である18禁用語をシャウトするという手を取るが、何も起こらない。
3人の間に風が吹き、草原の草が音を鳴らして靡く。
「実験か何かでゲームの中に閉じ込められた、か?」
たっちの呟きにウルベルトは首を横に振った。
「いや、俺やモモンガさんならまだしもお前は富裕層。使い捨てのコマにするにしても、他にも候補は腐るほどいるはずだ」
「それは……」
たっちはその言葉を否定したかったが、どんな言葉を紡ごうともその根拠は何処にもない。
まさにウルベルトの言う通りなのだ。
もう末期になってしまった現実世界。
生まれが全ての世界で、たっちは富裕層の子供として生まれた。だが、ウルベルトとモモンガは違う。
貧民層に生まれ、一生働いても富裕層が遊びながら働いて得る稼ぎ一年分を得られるかどうかだ。
それほどまでに貧富の差は激しい。
だからこそ、たっちが何を言おうとウルベルトの言葉を否定する事など出来ない。
「たっちさん、ウルベルトさん。これを見て下さい」
そこへ真剣なモモンガの声が届いた。
モモンガを見ると、モモンガは土を手にしていた。
地面を掴むように抉ったのか、草の根が垣間見える。
「それがどうし……」
たっちは言葉の途中でそれに気づき、絶句した。
匂いがするのだ、富裕層専用の植物園で嗅いだ事のある草と土の匂いが。
ユグドラシルのみならず、VRでは匂いを感じるようにするのは違法である。現実との差がなくなり、現実と非現実を混同してしまうのを防ぐ為だ。
「嘘だろ……」
ウルベルトも気づいたのか絶句していた。
「たっちさん、ウルベルトさん。突拍子もないですけどもしかしたら、俺たち……異世界に来てしまったのかもしれません」
モモンガの言葉に、たっちとウルベルトは妙に納得はしたものの信じられずにただただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。