聖と災と死の異世界紀行   作:死聖災

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久しぶりの話し合い

「それにこの体。生まれた時からこの体だったかのように妙にしっくりくるんです。もしかしたら、心もアンデッドになっているかも」

 モモンガが自分の手を眺めるのを真似するかのように同じく自分の手をたっちとウルベルトは呆然と眺める。

 自分たちも同じだと言わんばかりに。

「まずは頭を冷やすのも兼ねて自分たちが何が出来るかを調べましょう。スキルや魔法が使えるかどうか。そしたら一度集まってスキルや魔法が使えたら召喚などをして周辺の調査。それからアイテムボックスと所持品の有無。調査が終わるまでは、今後について話しましょう」

 モモンガの指示にただただ頷き、3人は巻き込まないように少し離れると各々が持つスキルや魔法が使えるかどうかを試しだした。もちろん、相手が必要もしくは強力なスキルや魔法は無しだが。

 一通り試した3人は集まり、整理が付いたのかウルベルトは冷静な口調で報告を行った。

「俺の方はとりあえずスキルも魔法も使える。流石に大災厄(グランドカタストロフ)は試してないけどな」

 ウルベルトが取っているユグドラシル最強の魔法職クラスであるワールド・ディザスターのスキルである大災厄は、使用者の最大MPの60%を使用して放たれる。その威力は超位魔法と言うユグドラシルで最高位の魔法すら超える超絶スキルだ。

「私も同じです。一通りは使用出来るのを確認しましたが、次元断切(ワールドブレイク)は試していません」

 次元断切とはたっち・みーが取っている最強の戦士職であるワールドチャンピオンのクラススキルで、超弩級の一撃を放つ最強スキルだ。

 つまり、戦士色最強と魔法職最強。それぞれの切り札とも言えるスキルなのだ。

「両方とも試しで使うものじゃないですからね……」

 2人の言葉にモモンガも頷く。

 先ほどの確認時に第3位階魔法を使ったが、結果は草原の一部を焼け野原にしてしまった。

 魔法職最強でもないモモンガの第3位階魔法ですらこれなのだから、2人の切り札の影響など考えたくもない。

「私も一通りスキルも魔法も使えました」

 モモンガも最後に報告をし、報告会を終える。

 続いて、スキルで悪魔やらアンデッドやらを創造して放ち、周辺を調査させる。

「さて、アイテムですが……」

「あ、ちょっと待ってください」

 たっちの言葉に待ったをかけ、モモンガは虚空に手を伸ばす。

 その後の光景を見て、たっちとウルベルトは我が目を疑った。

 モモンガの手が途中で消えていたのだ。

「モ、モモン……!?」

「手がっ手がぁ!?」

「んーと、確かこの辺にあったと思うんだけど……」

 たっちとウルベルトが驚いている中、手が消えている当のモモンガは気にせずに何かを探し続け、数秒後に目的の物を見つけたのか手を引き抜いた。

「ありました。拠点作成系のアイテムを持ってまして、この中で……どうかしたんですか?」

「い、いや……手が消えてたなーっと」

「アイテムボックスです。あ、もしかしてまだ調べてなかったですか?」

「し、心臓に悪い……」

 胸を押さえて安堵のため息を付く2人に対してモモンガはけろっとして真実を告げる。

 いきなり手が消えたら誰でも驚くと思うのだが、それに気づかないモモンガも、一癖どころか二癖も三癖もある人物たちが集まっていたギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の一員だと言う事だろう。

「それでは使いますね」

 そのままモモンガは取り出したアイテムをポイッと投げる。草原に投げられたそれは手に収まる程度の大きさだったのが一瞬で家と同じ大きさのコテージに変化し、3人は感嘆の声を漏らした。

 モモンガが扉を開け、たっちとウルベルトが肩越しに中を覗き込んで3人は息を呑んだ。

 中は外見からは想像も付かないくらいに広く、たっちですら見たことが無い高級な家財が至る所に置かれている。

「えーと、入っちゃっていいんですよね」

 このグリーンシークレットハウスと呼ばれる拠点作成系アイテムは、ダンジョンや遠出した時にちょっと休みたいと思った時に使われるアイテムだ。もっとも、ユグドラシル時代、モモンガたちが行くダンジョンや場所は拠点作成系アイテムを我が家のように入ってくるモンスターやプレイヤーがわんさか居る様な場所だったので全く休めなかったが。

「モモンガさんの持ち物ですから、大丈夫ですよ」

 たっちの言葉に後押しされ、モモンガはコテージに一歩足を踏み入れる。

 入り口すぐに置かれた大き目のマットはふわふわとしていて、沈み込む足を柔らかく包み込む。両方の足でマットを踏み、足を上げると付いていた土などの汚れが無くなっているのに気づく。

 どうやらマットには清浄(クリーン)の魔法が込められているようだ。

 これから使うのであれば、綺麗に越した事は無いので便利だと思いつつ、モモンガはそのまま居間に置かれた一人用の革張りの高級そうな椅子に腰掛けた。

 こちらも僅かに沈み込み、クッションが使用者の体にフィットして何時間だろうと座っていて疲れないような座り心地を実現している。

(もう現実には戻れないよ……)

 2重の意味で。

 モモンガはご満悦の───骨だから表情など無いが───笑みを浮かべる。たっちとウルベルトも既に椅子に座っており、その座り心地にご満悦のようだ。

「あー、どんなアイテムがあるか確認しますかー」

「そうしましょうかー」

「えーと、こうやるんだったかー」

 完全に寛ぎながら、3人はアイテムボックスから自分の持つアイテムを取り出していく。

「俺は各種ポーションと昔使ってた装備とかだな。マジックアイテムも幾つかあるが」

「私も大体同じですね。課金アイテムも少しあります」

 3人が囲む───形となった───黒塗りのテーブルにアイテムを出した2人の所持品を見てモモンガは顎に手を当てる。

「やはり装備が心許ないですね。お二人の完全装備を持っているので、渡しておきますね」

「「え」」

「え?」

 先の声を上げたのはたっちとウルベルト。最後がモモンガだ。

 たっちとウルベルトは顔を見合わせ、珍しく口を揃えてモモンガに尋ねた。

「「売ってなかったんですか?」」

「売りませんよ。お二人だけじゃなくギルメン全員の大事な装備はちゃんと保管してありますよ」

 事も無さ気に言ってそれぞれの完全装備を手渡すモモンガ。たっちとウルベルトは信じられない物を見るかのようにそれを受け取り、無言で装備しながらアイコンタクトで話し合う。

『おい、これマジでモモンガさん本当に全員分保管してるぞ』

『分かっています。売っても良いといったのに売っていなかったなんて、拠点の維持費も馬鹿にならなかったはずなのに……』

『まだ残ってたのにも驚いたが、もしかして何年もモモンガさん1人で稼いでたとか言わないよな』

『止めて下さい。もし1人で稼いでました、なんて言われたらもう。私、どうやって償えばいいんですか。罪悪感で死にたくなります』

『俺もだよ。悪魔なのに、心が痛みまくってる』

 見つめ合う2人を見て、仲良しだなーと思うモモンガ。その後も目で語り合ってから2人は完全装備を身に付け、そして終える。

 完全装備となった2人を見てモモンガは懐かしそうに、眼窩に灯る血のような光を僅かに薄くする。

「やっぱり、お二人はその姿じゃなきゃ」

「久々で気恥ずかしいですけどね」

 スーツにシルクハットにマントを身に付けたバフォメット、「大災厄の魔」ウルベルト・アレイン・オードル。

「それでも、やっと帰って来たという感じですよ」

 銀色の鎧に真っ赤なマント、剣に盾を装備した「純銀の聖騎士」たっち・みー。

「えぇ。改めて、お帰りなさい。たっちさん、ウルベルトさん」

 そして、闇のような漆黒の豪華なローブに七つの蛇が絡みついたような黄金の杖を持つ骸骨「魔王」モモンガ。

 ユグドラシルで知らぬ者など居ない3人の最「きょう」は、最恐の持つアイテムに一驚一呆しながら最適な人物へ分配を行っていく。

 それが深夜まで続き、その途中に帰って来たシモベたちの調査報告を聞いて3人は喜びの声を上げた。

 西に10km程向かった場所に小さいが開拓村があり、その更に向こうには3つの壁に囲まれた大きな都市があるのだと言う。そこに居るのは全て人間らしいが、そんな事は3人にとって瑣末な事だった。

 残る問題については、今後の話し合いの結果次第で大きく変わるが……こればかりはシモベたちの前では話せない事だ。

 と言うのも、生み出したからか全てのシモベが忠誠心MAXなのだ。死ねといえば喜んで死ぬと甲骨な笑みを浮かべて言う様は狂信者のそれだ。

 なので、全てのシモベを労ってから帰還させて今後の話し合いに入った。

「まずは身の振り方ですね。この世界の住人が我々よりも強かった場合」

「素直に従うしかないだろうな」

「それか全力で逃げるか、だな」

 たっちとウルベルトの意見にモモンガも賛成なので頷く。

 3人が最も知りたい事であり、警戒しているのはこの世界の住人の強さだ。ユグドラシルでは最高がレベル100だったが、この世界では平均がレベル1000という可能性もある。極論かもしれないが、その可能性は十分にありえる。

 なので、最悪の議題から話し合いを始めたのだ。こういうのは時間があった方が色々と考えつくものだから。

「逆に弱かった場合はどうしましょうか」

「思いっきり拷問して楽しみたい……というのが本音だが、こいつが許すはずもない」

「当たり前だ」

 たっちの予想通りの反応にウルベルトは肩を竦め、モモンガは懐かしいやりとりに笑い声を漏らした。

「だから、俺としては基本は何も手を出さない。その代わり、喧嘩を売られたり、相手が犯罪者だったりした場合は遠慮なく楽しむ事を許してもらいたい」

 ウルベルトの顔はモモンガの方に向いており、内容もたっちに言っているかのように思える。だが、違うとモモンガは察する。モモンガがアンデッドである事を考えて生者を殺したいと思っている可能性を考慮し、その為の逃げ道を用意してくれているのだと。

 そんなウルベルトの優しさを嬉しく思うが、別に生者どうこうなど考えていなかったモモンガは頭を横に振る。

「ウルベルトさん、それは」

「喧嘩を売られても程々にしてください。犯罪者については……そうですね、程度にもよりますが基本は多数決で決めるとしましょう」

 ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」は合議制の多数決で物事を決定していた。それをこの世界でも続けようと、たっちの言葉を遮ったモモンガは提案した。

 やりたいウルベルトとやらせたくないたっち、そして中立のモモンガ。問題はないとたっちとウルベルトは賛成の言葉を口にする。

「では、今後の方針について決める前に聞いておきたい事があります」

 急に真剣な声色になったモモンガに、たっちとウルベルトも居住まいを正して聞く態勢を整える。

 それを確認してから、モモンガは質問した。

「現実に帰りたいですか?」

 絶対に聞かなければならないその質問を。

「俺は絶対に帰らない。両親も死に、親しい友人もいないクソッタレな終わった世界になんぞ死んでも帰らねぇよ」

 ウルベルトは残ると宣言する。モモンガはタッチに目を向けて返事を催促した。

 その視線を受けてたっちは俯き、考え込んで、苦しみ、搾り出すかの様に声を出す……という事は一切なく。

「私も帰りませんよ」

 モモンガの様々な思いを一刀両断するかのように気持ちのいい即答をした。

「え。たっちさん、家族とか……」

「ユグドラシルにログインする前に少しヤバイ事件の調査をしていたんです」

 モモンガの問いに答えず、たっちは遠い場所を見つめて他人事の様に語りだした。

「富裕層をターゲットにしたテロを計画した組織をマークしていて、少しだけ家の事を疎かにしていたんです。妻も私も富裕層の親が居ますから、多少の危険は親が跳ね除けてくれると思って安心していたんです。ですが、それは起こった」

 たっちは拳を握り締めて長く息を吐き、そして苦しそうに独白を続ける。

「警察のマークに気づいた組織は、目を逸らせる意味も含めて富裕層が通うショッピングモールで無差別テロを起こしたんです。そのテロの犠牲者の中に私の妻と娘がいた。そこからは自暴自棄になって怠惰な生活を送っていた所、モモンガさんのメールに気づいてユグドラシルにログインしたというわけです」

「そう、だったんですか」

「はい。ですので、あの世界に未練なんてありません」

 独白を終え、たっちは無限の(ピッチャー・オブ・)水差し(エンドレス・ウォーター)を傾けてグラスに水を注いで一気に飲み干した。

 たっちとしては、本当はそのまま水をかぶりたい気分だったが、無限の水差しは無限と言いつつも容量が決まっているので無駄遣いは出来ない。なので、一杯飲むだけに止めた。

「モモンガさんは?」

「あ、俺ですか。帰りませんよ、俺にとってユグドラシルは全てでしたから。ユグドラシルの無い現実に未練なんてありません」

「そうですか……」

 しんっと静かになるコテージ内。重い空気の中、それを払うべくウルベルトは柏手を打った。

「んじゃ、めでたく全員がこの世界に残るって事だ。じゃあ、行動方針を決めようか。まずはモモンガさん、何かやりたい事は?」

「そうですね。俺としては……」

 無駄に明るく振舞うウルベルトに感謝しつつ、モモンガはやりたい事を考えて口にした。

「冒険がしたいです」

「冒険ですか、良いですね」

「ははっ冒険! いいじゃねぇか! この世界には自然が残ってる。どんな金持ちも出来ない自然を思う存分満喫する事をただの小卒ごときが出来るなんてなんつう皮肉なんだろうなぁ!」

「あ、私は大卒ですけど」

「水を差すんじゃねぇ、クソたっち!」

「あぁ、まだ話し合いの途中なんですからストップストップ」

 たっちとウルベルトの喧嘩を仲裁するモモンガ。何年か前までは日常だった光景に嬉しく思いつつ、モモンガは2人を宥める。

 渋々話し合いに戻る2人に溜息をつきながら、話し合いを再開する。

 そしてそのまま3人は時間も忘れて久々の話し合いにのめり込んでいく。

 3人の笑い声や怒鳴り声を聞きながら、夜空を流れ星が1つ流れていった。




 少々、モモンガ様のイメージと違う点がありますが、憧れの人と仲間(厨二病&無課金同盟)のお二方が居る為にちょっと無邪気になっていると思ってくだされば幸いです。
 本作では、精神抑制=精神作用無効としています。たっちさんの独白は精神を抑制されながら語っています。
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