Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

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7500字で半分と言ったな、アレは嘘だ。
久しぶりに夢オチ抜きのビルドの戦闘を描こうと思ったら2万字超えました。だがわたしは謝らない。
剣勢本人参戦で変な奇声を上げて喜んだものの、自分語りで書いた没作品の一つが完全に潰れたことに気づいて、あっ(察し)となりました。

この作品、時代設定をアプリ版に合わせて2022年にしたんですが、偶然にも仮面ライダーシノビの放送期間と被りました。だから何だと言われれば特にありません。

なので初投稿です。



ピジョン、空駆ける

IS学園に二人の訳あり転校生がやって来た。そのうちの一人はなんと三人目の男子生徒だった!

仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、もう一人の転校生に投げ飛ばされたり、クラスメイトにして俺の正体を知ってしまった篠ノ之箒に特訓を付けたりすることになっちまった!

 

てかまたビルドの出番無かったぞ!夢オチって何よ!?しかもカップ麺とエナジードリンクって!?

エボルトがこの世界のどこかにいることが判明したってのに、大丈夫かよ…。

 

一体どうなる、第14話!

 

———————————————————————

 

箒が戦兎の助手兼実験台になってから一週間が経過した。

 

一番最初に行われたのは、現在の箒のIS操縦技術のデータを取るための簡単なテストだった。

テストの内容は、ISに搭乗してアリーナに一定時間経過で出現、消滅するバルーンを時間制限内で多く撃ち落とすというもの。

この手のものは何度かやったことがあるため自信はあった箒。

 

結果、スコアは同学年の生徒と比べても中々の結果だった。しかし箒、そして戦兎も満足行かなかった。

これでは専用機持ちに届かない、足りないというのが共通認識だった。

 

そこでこの一週間は、特訓の中でも基礎トレーニングを始めとしたものが行われた。

当初、箒は行われるのがただの特訓であることや実験台にされることに不安を感じていた。ところがふたを開けてみると、その特訓はその2つの不安が吹き飛ぶようなものばかりだった…。

 

 

 

初日

 

第四アリーナ

 

「貴様ふざけるな!!これに一体何の意味があるのだ!?」

 

そう叫ぶ箒は、アリーナを全力疾走していた。

そのすぐ後ろから、ある程度速度を落としつつもかなりの速度で走行するマシンビルダーと、それを駆る桐生戦兎の姿があった。戦兎はマシンビルダーで箒を追いかけ回しながら叫び返す。

 

「だーかーらー!運動神経ならびに基礎体力作り、回避能力の向上だって言っただろ!?」

「だからと言ってバイクで追い回す奴がいるものか!」

「いるぞ!ここに、一人な!つか逃げるな、向かってこい!ギリギリで躱せ!先端にはクッション付いてるからちょっとくらい当たっても大丈夫だって!」

「無茶を言うなあぁ!」

 

あまりにも無茶苦茶な特訓を前に、箒は走りながら叫び続けた。

 

数日後

 

先日と同じ第四アリーナの中心に、今回はピッチングマシーンが置かれていた。

ピッチングマシーンの射線上からある程度離れた位置で、箒はこの数日間のこともあってか不機嫌な様子で聞き出した。

 

「今日はなにをする気だ…。」

「安心しろ、昨日までよりは遥かにマシだからよ。」

 

そう言うと戦兎はピッチングマシーンの射線のすぐ真横に立つ。操作によってマシーンはゆっくりとボールの発射体制を整えた。

次の瞬間、なかなかの速さでボールが戦兎の目の前に発射された。

 

「3!」

「?」

 

ボールが迫り来ると、戦兎は突然数字を叫んだ。

意味もわからず頭を傾げる箒の前で、戦兎は目前に迫ってきていたボールを素手でキャッチした。そのボールを片手でクルッと回すと、ボールには3の文字が書かれていた。

 

「150キロの速度で飛んで来る野球ボール、そこに書かれている数字を読み取るんだ。これは動体視力の訓練だな。

というわけで始めろ。」

「……あまりにも胡散臭いのだが。本当に成果があるのかそれ?」

 

荒唐無稽なその特訓内容に苛立ちやら馬鹿馬鹿しさを感じつつも、箒は渋々特訓を開始するのだった。

 

さらに数日後

 

今回は最初のテストの時と同じようにバルーンの撃墜が特訓の内容だった。しかし、ここで戦兎から追加ルールが発表された。

 

「開始地点から動くな。振り返るのはいいがそれ以外は禁止だ。」

 

それはつまりは接近禁止の狙撃のみというルールだった。

剣道の経験から近接戦が得意な箒としてはこれはかなりきついハンデに感じた。

 

「これはフィールド全体を把握する視野と素早い観察力、それからハイパーセンサーを上手く使いこなすためのものだな。」

「まあ、前回やった二つよりは遥かにマシではあるが…」

 

昨日までの無茶苦茶さが嘘のようにまともな特訓メニューになったことに驚きつつも、箒は装着していた打鉄を駆って上空へと舞い上がっていった。

 

そして現在、最初の時に行ったバルーンのテストが再び行われた。

 

この一週間で行われた特訓に…特に最初と二番目に意味があるとは到底思えなかった箒だったが、意外にもその特訓の成果は早くも効果が表れていた。

 

「よし、昨日よりスコアが伸びてきてるな。最初の体力作りで特訓の継続時間も長くなったし、ボールの特訓で培った反射神経のおかげでバルーンが出現してから撃墜までの時間がだいぶ早くなったしな。なんだ意外にやるじゃねぇか。」

「あ、ああ……我ながら驚いてる。」

 

あんな無茶苦茶な特訓で本当に成果が出せたことに驚きと困惑を感じつつも、満更でも無い表情を浮かべて答える箒。

 

そんな箒の前で、戦兎は腕を組みながら新しい訓練を発表した。

 

「さてと、今日からやるのは……その前に、今度の学年別トーナメントの詳しい情報はもう聞いたな?」

「通常の一対一からタッグトーナメントになったのだろ?」

「ああ、しかも一夏はあの転校生のシャルルと男同士で組む。シャルルが乗る機体はリヴァイブのカスタム専用機…だがそれは裏返せば基本的な要素はリヴァイブの物の延長だ。

そこで今回のトレーニング内容は『相手の手の内を知る』ことだ。相手は何が出来るか、何が苦手なのか、どう穴を埋めて来るか…それを知ってるか知らないかでだいぶ違うからな。あ、コレは俺の経験談でもある。」

 

そう言うと戦兎は箒の目の前にISを起動させた。

しかし起動したのはいつも特訓で使う打鉄ではなく、リヴァイブの方だった。

 

「てなわけで今日用意したのはリヴァイブ、コイツに乗ってIS操縦の基礎をもう一度反復してもらう。」

「なるほど……確かに理にかなってはいるが、対策はリヴァイブだけで良いのか?」

「確かにお前の目的は優勝だろうけどよ、もし初戦で一夏とシャルルのペアに当たっていきなり負け…ってなったらカッコつかねぇだろ?だからまず最低限あの二人に勝てるようにならねえと。一夏の方は…まあ、零落白夜は脅威だが、逆に言えばそれさえどうにか対策しちまえば良いわけだしな。」

「ムゥ……分かった。」

 

とりあえず納得した箒は戦兎に言われた通りに基本操縦のトレーニングを開始した。

 

 

 

数時間してトレーニングを終了した箒は、いつもより早くに切り上げたことを疑問に思った。

 

「いつもより早くないか?私はまだ行けるが…?」

「ああ、それはこっちの事情だ。いやー俺が今日まで作り上げてきたISがいよいよ完成間近になってきたのよ。てなわけで今日はコレで終わりな。ああ待ってろよ俺の発明品!」

 

テンション高くそう言って、戦兎はダッシュでアリーナを去ろうとしていた。

 

(…本当にこれで良かったのだろうか…後悔はない、反省はしているが……)

 

この一週間、例の未確認生命体の出現はなかったらしい。故に彼も今日まで特訓に付き合ってくれた。

しかし、もし未確認生命体が出現していれば彼は戦い以外の時間を割かれていたはず。

そうでなくとも、自分の特訓が無ければもっと早くにISが完成していたはずだ。

それになんだかんだ言いつつ、現在まで実験体らしいことは何一つされていなかった。そう考えると、やはり自身の身勝手に振り回せてしまったことになる。

 

暗い表情で考えた箒は、去ろうとしていた戦兎の背に向かって声をかけた。

 

「桐生、一ついいか?」

「ん?なんだよ、早くしてくれよ?」

 

勢いよく振り返った戦兎に対し、箒は申し訳なさそうに謝罪する。

 

「その…私の勝手な理由でお前を振り回してしまって、本当にすまない。本当ならそのISだってもっと早くに完成するはずだったのだろう?私に構わなければ……」

 

それを聞いた戦兎は呆れたような表情を浮かべた。しかしすぐに明るく笑い始めた。

そんな様子に疑問に感じた箒を前に、戦兎は口を開いた。

 

「今更何気にしてんだ、お前は正義のヒーローに縋ってまで強くなろうと…助けを求めたんだ。なら当然だろ?」

「いや、それは正義もヒーローも関係ないのでは…?」

「良いって、誰かのためになれるんならそれでよ。俺自体、ビルドとして戦う位しか存在意義がないみたいなものだったし。ていうかお前のデータも取らせてもらってるしな、win-winだって言っただろ。

それに恋愛とかそれの相談みてえなこととか、人間の生の感情と向き合える良い機会だったしな。むしろ感謝してるんだぜ?」

 

そう言って戦兎は猛ダッシュで今度こそアリーナから去って行った。

嘘もお世辞もないありのままの彼の返答を受けて、箒は少しだけ困惑した。

 

(存在意義…?どう言うことだ?)

 

彼の会話からわずかに見られた不穏な影を感じて、箒は桐生戦兎という人間の過去に一体何があったのかを改めて考えさせられていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦兎による箒の特訓一週間目から少し日付を遡ること数日前

 

その時間の授業はほかのクラスの生徒たちと合同でISを使った実習だった。

 

生徒たちは学園が用意した訓練機で各々特訓に励んでいたり基礎動作を慣れるまで行うなどしていた。

そんな中、一年の専用機持ち数名と箒、戦兎は別で実習を行っていた。それぞれが専用機と訓練機を(戦兎のみ制服のままだったが)纏って一か所に集まっていた。

 

クラスの中で最もIS操縦技術が遅れている一夏に対し、箒、セシリア、鈴、戦兎がコーチをすることにしていた。

 

…のだが。

 

 

 

「だからこう、『ズバーッ!』っとやって『ガキンッ!ドガーン!』って感じだ!」

「ハァ?」

「なんとなくわかるでしょ?感覚よ、感覚!」

「なんだよその考えるな感じろ理論…」

「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度、回避の時は後方へ二十度反転ですわ!」

「???」

「要は機体のできることを頭に入れて、それを意識しながら捉えればいいんだよ。例えば白式の速度と相手の攻撃着弾速度を式に置き換えて分析してだな——」

「なんで途中から計算式が出てくるんだよ!」

 

擬音語ばかり、感覚重点、論理思考、機体能力把握前提からの数式……控えめに言ってもどれもこれも戦術の上昇という意味合いにおいては一夏に合わないものばかりであった。

 

 

「全然わからん!」

「何故わからん!?」

「ちゃんと聞きなさいよ、ちゃんと!」

「ではもう一度説明しますわ!防御の時は——」

「しょうがねぇだろ、まじめにやったらボロが出そうだしよ…」

 

各々が思ったことを叫んだり思案している混沌とした状況だった。

 

結局この後、一夏はちょうど運よくやってきたシャルルに指南を頼み込んだのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーシャルルの説明はわかりやすくて助かるよ。」

「僕も一夏の役に立ててうれしいよ。」

 

一夏は女子三人+戦兎と離れて、シャルルから射撃武器の特徴を教えてもらった。

今まで一夏は実習や模擬戦でも対射撃武器戦を苦手としていた。

本人自身は授業の内容やセシリアたちに確認したりしてみたのだがいまいちピンと来なかったり何となくで理解していたのだが、今回の実習ではシャルルに手取り足取り、解りやすく教えてもらうことができた。

 

「今までは何となくでしか理解できてなかったからな。やっぱり話で聞いたりするより自分でやってみたほうがいいんだな。」

「そうだね、知識だけじゃどうしてもイメージだけの偏りが出てしまうから実際と結構違いが出てしまうんだよ。」

 

談笑する二人のそばで、様子を見に来ていた戦兎は顎に手を当ててシャルルの教育能力を尊敬していた

 

「知識だけで覚えるよりも、実際にそれを経験したほうがより実感できる…か。あの若さでそれを実感して教えるなんて、シャルルもやるじゃねえか。…俺も参考にさせてもらうか。」

 

ぶつぶつ言っている戦兎に首をかしげる二人だったが、すぐに実習を再開しようとした…のだが。

 

「————オイ」

 

(忘れもしない…この声、もう一人の転校生の…!)

 

不意にかけられた声を聴いた一夏は、聞き覚えのある声の主を思い浮かべながら勢いよく振り返った。

アリーナで漆黒のISを駆って佇んでいた声の主——ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒの姿がそこにはあった。

 

「アイツ…!」

「あれは…ドイツの第三世代機!完成していたのか…!?」

 

現れたラウラから感じる殺気にも似たソレを受けて警戒を強める一夏。それに対して戦兎は彼女が搭乗しているISの方に注目していた。

 

彼女の本国であるドイツで開発されたその機体——<黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)>はいまだにトライアル段階だと聞いていた。しかし現にこの場にて彼女が乗っているということは、既に基礎的な部分を含めてほとんど完成していた。ということなのだろう。

情報を分析していた戦兎を他所に、ラウラは一夏に一方的に言葉を投げかけていた。

 

「織斑一夏、貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い、私と戦え。」

「断る。戦う理由がねぇよ。」

「貴様には無くとも、私にはある。」

「けど俺は付き合ってやれねえよ、じゃあまた今度な。」

 

依然として変わらず強固な姿勢を貫くラウラだったが、一夏は彼女の言葉を聞き流しつつキッパリと断った。

自身の意にそぐわない態度に苛立ったのか、ラウラはわずかに目を細めてから呟いた。

 

「ならば…」

 

次の瞬間、彼女は自身のISの肩に装備されていた大型のレールカノンの方向を躊躇なく一夏の方へと向けた。

 

「なっ——」

 

ハイパーセンサー越しに映るラウラの姿を見ながら慌てて振り向いた一夏だったが振り返るよりも早く、光が漏れ出していたレールカノンから轟音とともに弾が発射された。

 

しかしその一撃が一夏に当たることはなかった。

レールカノンが放たれると同時に一夏の前に射線上に立ちはだかったシャルルが、呼び出したシールドで防いだのだ。そしてそのまま砲撃を上空へと弾き飛ばした。

自身の後方で弾がアリーナのシールドに当たって爆音とともに爆ぜる様子に見向きもせず、ラウラは自身の前に立ちはだかったうえ邪魔建てをしたシャルルを睨みつけていた。

 

「貴様…」

「いきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いみたいだね。」

「フランスの第二世代ごときで私の前に立ちふさがるとはな…」

「未だに量産化の目途が立たない第三世代よりは動けるだろうからね。」

 

両者のにらみ合い——膠着状態がしばらくの間続いたが、先に動いたラウラは興が削がれたとばかりにISを解除していた。

 

「ふん……今日のところは退いてやろう。」

 

そう言うと彼女は歩いてアリーナから出ていった

 

「ラウラはともかく、あのシャルルまでヒートアップするとは…」

「ま、二人とも国家代表候補だからな。相手に…特に同じ国家代表候補となると、やっぱり負けられないんだろ。」

 

途中から呆然と二人の様子を見ていた一夏と、いつの間にか一夏のすぐ横に立って腕を組みながら見ていた戦兎が思った感想を口にしていた。

 

「負けられない…か。」

(絶対に負けない…それだけのプライドがあるからあんなにも自信が持てるのかな?)

 

二人の国家代表候補生の在り方について考えていた一夏の元にシャルルが戻ってきた。

 

「一夏、大丈夫だった?」

「ああ、なんともない。シャルルのおかげだ、ありがとうな。」

 

そう言葉を交わすと、一夏とシャルルは実習を終えて更衣室へと向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間ほど経って、放課後の1025号室

 

山田先生に呼ばれて白式の正式な登録に関する書類を処理して帰ってきた一夏は、着替えを終えると自室のベッドにどっかりと座っていた。

部屋にわずかに響く音から、どうやら今シャルルが浴室でシャワーを使っているようだった。

 

あの後シャルルに対して、同じ男同士の親交を図るべく更衣室での着替えに誘った一夏だったが、自身の想像以上にシャルルが拒絶してしまったうえ悲鳴を上げて逃げてしまったのだった。

 

(壁に追い込んで手で塞いでただけなのに…そんなに嫌がることだったか?)

 

世間一般では、それを『壁ドン』と呼ぶのだが、朴念仁の擬人化とも言える一夏がそんなことを知る由もなかった。

 

 

そうこう考えながら今日もISの勉強をすべく教科書と参考書を取り出そうとして、しかしふとあることを思い出した。

 

「あ、そう言えばボディソープ切らしてたよな。」

 

昨日シャワーに最後に入っていたが、明日やろうと後回していた。そのことを今まですっかり忘れていた。

 

とりあえず今交換しておこうと考えた一夏は、クローゼットを開けて中にあった替えのボディソープを取り出した。

浴室の前に立ちドアノブに手を掛けようとした一夏だったが、まだシャルルがシャワーに入っていることを思い出した。

 

(シャルルが入ってるけどまあ、男同士なんだから問題ないだろ。)

 

そんな軽い気持ちでドアノブを回し、中のシャルルに声をかけながら扉を開けた。

 

「おーいシャルル?ボディソープ切らしてるからこれを——」

 

そこまで声を出した一夏は、目の前の光景を見てフリーズした。

 

扉の向こうではボディソープが無いことに気付いたのか、中に入っていたであろう人物がシャワールームの扉を開けて外に出ようとしていた状態で鉢合わせた。

 

ブロンドの髪をした、見慣れた顔立ちのその人物はシャルルそのものであった。

 

——ただ唯一、その身体つきが完全に女性のものであることを除いて。

 

「へ…? え、えーと…?」

「————うわあっ!?」

 

一夏が呆然としている目の前で、女性も最初はしばらく同じように呆然としていたが、すぐに顔を真っ赤にしながらシャワールームに全力疾走して引っ込んだ。

 

(ここは俺とシャルルの部屋で……シャワーにはシャルルがいるはずだけど……中でシャワー浴びてるのは女で…えぇ!?)

 

 

浴室から部屋に急いで飛び出て、頭をぐるぐると回転させて混乱している一夏だったが、それはシャワールームに引っ込んだ女性――シャルルもまた同じだった。

 

(い…一夏に……一夏に見られた!)

 

両者ともに混乱に陥る中、落ち着こうにも落ち着けない一夏はとりあえず当初の目的を果たすことにした。

 

「え、えーと…ボディソープ、ここに置いとくからな…。」

「う、うん……。」

 

こうして二人の少年改め、一人の少年と少女は一旦仕切り直すかのように元の状態に戻った。

 

 

 

数分後、自分のベッドに腰をかけてどうしたものかと頭を掻きむしりながら考えていた一夏の目の前で、ガチャッという音とともに浴室の扉が開き、中からシャルルが出てきた。

 

いつもと違って髪を縛らずに解き、着ているものもシャツ一枚だけだったためか、身体の女性らしさが浮かび上がっていた。

 

(どう見ても女…だよな?)

 

チラッと横目に見ながら、どう切り出すか悩んでいた一夏は、意を決して正面から切り出すことにした。

 

「——なんで男のフリなんてしてたんだ?」

「それは、その…実家からそうしろって言われて…」

「実家?実家っていうとデュノア社の?」

「そう、僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ。」

 

そこからシャルルは自身の目的や経緯を話し始めた。

 

自分はデュノア社の社長と愛人の子であること。

二年前に母が亡くなった際、ISの適性が高かったために父の会社でテストパイロットをすることになったこと。

父には全くと言っていいほど会っておらず、本妻からも嫌われていたこと。

そしてデュノア社は現在経営危機であり、ISの第三世代機の開発が難航していること。

 

どこか生気のないシャルルの様子に心配しながらも、それを聞いた一夏はそれでもなお拭えぬ疑問をぶつけた。

 

「そこまではなんとなくわかったが、それと男装がどう関係あるんだ?」

「簡単だよ、注目を浴びるための広告塔…それから——」

 

そこで一旦区切ると、シャルルは顔をわずかにうつむかせながら続きを話した。

 

「同じ男子なら日本で登場した二つの特異ケースと接触しやすい。可能であれば、その使用機体と本人たちのデータを取れるだろう…ってね。」

「それは…つまり…」

「そう。一夏の白式と、戦兎のデータを盗んでこいって言われてるんだ。僕はあの人に。だから一夏…君に積極的に近づくことにしたんだ。」

 

会社のために…そのために自分の娘の人生を振り回す父親に無性に怒りが込み上げた一夏だったが、そんな一夏の前でシャルルはこれまでのことを謝罪していた。

 

「なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう…それと、今まで嘘をついていたゴメン。」

「……これからどうするんだ?」

「どうって…時間の問題じゃないかな?政府も真相を知ったら黙っていないだろうし。よくて牢屋じゃないかな?」

 

自虐的にそう言うシャルルを正面から見つめながら一夏は問いただした。

 

「それでいいのか?」

「良いも悪いもないよ、僕には選ぶ権利がないから…仕方がないよ。」

 

そこまで聞いた一夏は、彼女が自分自身の意思で選択したことではないのを——彼女自身が自分のやりたい事を選ぶ、当たり前のことが出来ないことを理解した。

 

一夏は腰をかけていたベッドから立ち上がり、シャルルの肩に手を置いて説得する。

 

「…だったらここにいろ。」

「えっ?」

「『特記事項第二十一 本学園における生徒はその在学中において、あらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が得られない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする——』

つまり、この学園にいれば三年間は大丈夫だろ?それだけの時間があればなんとかなる方法だって見つけられる…別に急ぐ必要だってないだろ?」

 

一夏がこのIS学園のルールを喋って説得している中、シャルルは呆然としていた。しかしすぐに呆れつつも笑い始めた。

 

「一夏…よく覚えれたね。特記事項って五十五個もあるのに」

「…勤勉なんだよ俺は。そうじゃなきゃみんなについて行けないからな。」

「そうだね…ふふっ」

 

今まで冷めていた様な、あるいは自虐の様に笑っていたシャルルが再び笑った。

しかし、それは先の二つのどれとも違う…彼女自身の心からの笑顔だった。

女の子はこうでなくちゃ。…そう考えた一夏は彼女に釣られて一緒に笑い始めた。

 

 

 

それから数十分程経ってから、一夏は箸が使えないシャルルのために夕食を食べさせていた。

もうちょっと他人に甘えても良い…そう言ったのは自分だが、いきなり自分の代わりに食べさせて欲しいと甘えてきたシャルルになんとも言えない焦りや恥ずかしさに似た感情が湧いていたが、それもすぐに収まり談笑しながら食事をしていた。

そんな中、ふと一夏はシャルルの本来の目的であったISの操縦データの盗難について疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「なあシャルル、そういえばさ。男子のデータを取るのがデュノア社からの命令だったんだよな?」

「うん…そうすることで、うちは企業的に回復できるだろうって。」

「それは分かったんだけど…シャルルは俺に近づいたって言ったよな。なんで戦兎じゃなかったんだ?やっぱり偶然同じ部屋だったからか?」

 

そう続けた一夏の前で、シャルルはああ。と納得した様に返事をしてから詳細を話した。

 

「そうだね、それもある…けど他にも理由があったんだ。」

「理由?」

「うん…僕の元には、一夏と戦兎の二人分の詳細なデータを送られたんだ。いや、詳細なはずだったんだけど…。」

 

一旦そう区切ってから、シャルルは自身の端末から一つのデータを映し出した。

そこには戦兎の写真と名前が載っていたのだが、その他には『NO DATA』とだけしか書かれていなかった。

 

「これって…?」

「そう。一夏と違って、戦兎は全くデータが無かったんだ。家族構成や友人関係はもとより、どこで生まれたのか、中学まではどこで過ごしたのか。…普通、どんなに目立たない様に生活していたって何かしら痕跡は残るはずなのにそれすら無かったんだ。

だからデータの無い人間の物を持ってきても、それ自体が信憑性に欠けるんだ…それにちょっと危険かなって。」

「アイツ…どこか周りに壁を作ってる感じは前からしてはいたけど…。そういえば両親は知らないし、父親代わりの人なら居たって言ってたな……。

アレ?でもこの間おふくろの味がどうって…父親代わりだけどおふくろの味なのか…? それに何だっけな。俺と戦兎が前にセシリアに猿って呼ばれた時に何か言ってたな。えーっと……ば…ば……万丈…だったかな?そいつかよって。それって友人の名前じゃないのかな?」

 

アゴに手を当てて考え込む一夏を前に、シャルルはもう一つの理由を告げる

 

「それからもう一つ。前に戦兎に専用機はどんな感じになるのって聞いたんだ。そしたら…」

 

 

『俺の専用機?…まだ開発途中なんだけどな…まあ、同じ男だしちょっとだけなら教えてやるよ。

実は俺の機体は自立操縦が可能なんだ。…いや厳密には違うんだけどよ。まあ話せるのはこれくらいだな。他のところはまだ期待しててくれよ。』

 

 

「——って言われたんだ。その自立操縦がどれほどかはわからないけど、完成したとしても待機状態でも迂闊に近づけないかも知れないから除外したんだ。」

「うーん…ISの自立操縦って、そんなの普通にあるのか?」

 

かつてクラス別対抗戦に乱入してきたあの無人機を思い出しながら言った一夏のその疑問に、シャルルは首を振ってそれを否定する。

 

「ううん。ISは基本的に有人で、無人機については最近何処かの国が開発に着手したって噂があるだけで例は無いよ。もちろん、戦兎自身少し違うって言ってはいたけど。」

「…そんな下手したら国家クラスの物を、たった一人で作ろうって言うのか…?」

 

今までも謎が多かったが、シャルルの話を聞いてさらに謎が増えていった。

そんな不思議な…悪く言ってしまうと不気味なクラスメイトに、一夏は先のシャルルの時とはまた違ったなんとも言えない感情が湧くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すでに夜は遅かった。

箒との一週間目の特訓を終えて自室である1049号室へと戻ってきた戦兎は、部屋の電気を点けてからパソコンを立ち上げた。

パソコンを立ち上げながら、戦兎はさきほどまで行っていた箒との特訓を思い返しながら、彼女が搭乗していたISの操縦データを閲覧していた。

 

(たしかに、俺の無茶な特訓の成果もあるだろう。だがそれだけじゃあの成長速度に説明がつかない。俺が見る限り、万丈と比べたら流石に遅い。けどそれを抜いてもあれは異常だ。

アイツも何かされたとかじゃねぇだろうな…?)

 

そう心配しながらデータを纏めると、一旦箒の特訓関連の画面を閉じて、今度はビルド関連でラビットタンクスパークリングのデータを立ち上げていた。

 

パソコンにはすでにラビットタンクスパークリングが接続されており、データの更新も終わっていた。画面には残りの損傷箇所、修復に必要な材料などが表示されており、それを見た瞬間戦兎は大きくため息をついた。

近頃はISの開発を優先していたため、此方の方を修理するのは厳しくなっていた。

 

理由は主に二つ

 

一つは本体とラビットタンクスパークリングのアーマーと言った外側の修理には、この世界では滅多に生成されていない材質を装甲としていたため。

故に、学園側もあまりこれらの材質を多くは手配出来なかったのだ。

 

そしてもう一つはビルドに変身出来ない場合の対処法としてISの開発に手をつけたため。

前回のクラス別対抗戦時、スマッシュは学園の内部に侵入していた。あの時はすでに無人のISが襲撃してきた後だったことと、生徒はアリーナの出入り口へと避難していた後だった。そのため、誰もいなくなっていたあの場所で堂々とビルドに変身出来た。

しかし次また学園に何らかのトラブルがあった際、前と同じ様に誰もいない状態になっているとは限らない。その時、ビルドに変身するには不都合と判断した時の保険が必要だった。

 

戦兎自身、後者の理由を己に言い聞かせるのに大きな罪悪感を感じていた。

万丈や美空たちみんなで創り上げたビルドを裏切るかのように感じてしまったからだ。

 

しかし、エボルトが存在していると判明した今、周りの人間を巻き込むわけにはいかない。なにせこの世界には最初からエボルトなど存在しないはずだったのだから。

最初は怪しまれないようにするだけだったが、随分と時間もかけてしまった。

 

そのため、今創っているISには『更なる保険』も開発している。

しかしこの保険が最大の課題だった。理由は不明だが、このプログラムを立ち上げようとするとIS側から拒絶反応が出てしまうからだ。

 

(まあ、こんな物使われない方がずっと良いんだけどな。)

 

そう心の中で呟いていると、久しぶりにレーダーがスマッシュの反応を示していた。

ここからかなり離れた位置に出現していた。

レーダーを素早く、しかし冷静に確認してから戦兎はトレンチコートを羽織って部屋を飛び出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやどこに出てきてんだよ!?」

 

スマッシュの反応があった場所に到着して早々叫んだ戦兎。

今戦兎がいるのは港。少し離れた向こうの方ではIS学園のある人工島が見える。

そして、レーダーがスマッシュの反応を示していたのは目の前に広がる海上だった。

 

「ならこいつの出番か…!」

 

そう言うと戦兎はタカとガトリングのフルボトルを取り出した。

 

「さぁ、実験を始めようか!」

 

フルボトルをひとしきり振った戦兎は、ボトルを腰に巻いていたビルドドライバーへと装填する。

 

【 タカ! 】 【 ガトリング! 】

T/G

【 ベストマッチ! 】

 

音声を聞くと、右手でハンドルを勢いよく回した。

機械の生成音を辺りに響かせながら、ビルドドライバーから装甲を創りだす小型ファクトリー、スナップライドビルダーを展開する。

 

そして装甲の生成が完了して、ドライバーから流れる音声と共に戦兎は構えを取って叫んだ。

 

【 Are you ready ? 】

 

「変身!」

 

叫んでから、戦兎は手をクロスさせてから腰に回して正面へと向いた。

その戦兎へ前後から橙色と灰色の装甲がプレスされ、変身を完了させた。

 

【 天空の暴れん坊! ホークガトリング! 】

【 イエーイ! 】

 

変身を遂げた、ビルド ホークガトリングフォームは背中の橙色の翼であるソレスタルウイングを展開すると、夜の海へと飛翔した。

 

 

 

『……!!』

「うわあぁ!」

「ギャッ!?」

 

海上では漁船の上にスマッシュが現れていた。漁師たちもまさか魚を捕るつもりが、海から未確認生命体が飛び出してくるなど夢にも思っていなかっただろう。

海上から現れた蒼い鯨のような姿をしたスマッシュは、船上にいた漁師の一人の首を掴むと、ギリギリと締め上げていった。

 

「ガッ…!」

 

口から泡を吹いて意識が朦朧とする漁師だったが、海上に響いた音が鳴ると同時に重力に従ってスマッシュの足元に落下した。

 

『!?』

 

背後から撃たれたスマッシュはすぐさま後ろを振り返った。

その上空では、ビルド ホークガトリングフォームが手にホークガトリンガーを握っている状態で空を飛んでいた。

 

「ったく…海上戦は初めてだったろ俺」

 

そう呟きながら、狭い船上からスマッシュを引き離そうとしたビルドは、スマッシュに背を向けつつ敢えてゆっくりと飛んで行った。

 

『……!!』

 

飛んで行ったビルドを見上げながら、スマッシュは船から飛び降りた。海上に浮かんだスマッシュは、そのまま水飛沫を上げながらビルドを追いかけ始めた。

 

 

 

こちらを追ってくるスマッシュを見ながら、ビルドはどうやって倒すか思案していたが、突如後方から何かが発射された。

 

「危ねぇ!」

 

飛んできたソレ…大規模な水の塊を寸前のところで横へ回避したビルドだったが、その真下にはすでにスマッシュが立ってこちらを見上げていた。

 

「くっ……ヤバイ…!!」

 

とっさに判断したビルドは再び回避を試みたが、それよりも早くスマッシュの口と思しき部分から水の塊が発射された。

 

「ぐあっ!」

 

真正面から水の塊を喰らったビルドは水上に叩きつけられた。

なんとか体制を整えようとしたビルドだったが、何かに拘束されたように手足が思うように動かなかった。

首を動かして確認すると、海面から伸びた水のツタがビルドの手足を縛っていた。

 

「クソッ…!」

 

舌打ち混じりにそう言うビルドの目の前でスマッシュが跳躍とともにこちらめがけて落下してきていた。それもご丁寧に水流と共に流れてきていた。

 

ザバアァン!と大きな波の音が辺りに響く。

 

いつだったか見た夢で自分がやったことを相手が使っていたことに思うところを感じながら、ビルドは落下してきたスマッシュと共に海中へと沈んでいった。

 

海中へと沈みながら、ビルドはフルボトルに手を伸ばそうとしていた。海中に沈んだことで拘束は先程よりも強まったが、スマッシュの攻撃を受けた際に、身体がくの字に曲がったことでギリギリ届きそうな距離まで近づいていた。

 

(あと…もう少し!届け!)

 

心の中で叫ぶビルドの視界の端で、スマッシュが勢いよく突っ込んできているのが見えた。体当たりをするつもりだろう。

焦る気持ちを抑えつつ、しかし急ぎながらビルドはフルボトルに手をかけた。

 

直後、衝撃

 

打ち上げられるように海中を大きく吹き飛ぶビルド、しかし内心笑っていた。

飛ばされたことによって手が腰…すなわちビルドドライバーのすぐ近くにまで動いていたからだ。

 

(助かった…)

 

嫌味を言いながらも、ビルドは二本のフルボトルを新しく装填した。

クラス別対抗戦の時に乱入してきたナイトローグから奪った電車フルボトルと、以前倒したスマッシュから採取した海賊フルボトルを使った更なるベストマッチだ。

 

【 海賊! 】 【 電車! 】

K/D

【 ベストマッチ! 】

 

水中でも問題なく機能しながら響く声を聞きながら、戦兎はすぐさまビルドドライバーのハンドルに手をかけて回し始める。

 

相手の能力にも有効射程がある。そして今、スマッシュに飛ばされたことでその範囲から逃れることができていた。

再び突っ込んでくるスマッシュだったが、水の拘束を発揮できる射程に届くより先にビルドは準備を終えていた。

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

手をクロスさせてから、前後に展開された装甲がホークガトリングフォームから別の姿に変化させた。

 

【 定刻の反逆者! 海賊レッシャー! 】

【 イェーイ! 】

 

ビルド 海賊レッシャーフォームは、何処からともなく専用武器である<カイゾクハッシャー>を取り出した。

錨を模したその武器の先端を突撃してくるスマッシュに向けると、縦に伸びている箇所に付いている<ビルドアロー号>を引っ張り始めた。

 

【 各駅電車 】

 

チャージ段階によって流れるアナウンスの中でもっとも威力が低い状態で、ビルドはビルドアロー号を離した。

離したビルドアロー号から、中々の速度で電車型のエネルギーが発射された。

 

『!』

 

目の前に迫る電車のエネルギーを前に、スマッシュは上の方向…すなわち海上の方向へと回避した。

対象を失った一撃が、スマッシュの下を通り抜けていく。

 

その様子を一瞥することもなく、スマッシュは素早く泳いでビルドの真上へと移動してから急降下していた。先程の一撃を避けたためか、その距離は先程よりも離れていた。

 

(来た…!)

 

そう心の中で呟いたビルドは、一度カイゾクハッシャーをしまった。

そして今度は遮断機と信号を模した緑の左腕を大きく構えた。

 

スマッシュが能力範囲ギリギリまで近づいたそのタイミングで、ビルドは勢いよく左手のストレートパンチを放った。

すると、ビルドの足元に電車の線路が現れた。さらに左手には電車を模した電撃エネルギーを纏っていた。

パンチを放つと同時に、放った態勢のままビルドは線路を大きく滑走した。

こちらに伸びてくる、わずかに見える水のツタに電車型の電撃エネルギーが疾る。電撃がツタを辿り、一瞬でスマッシュの元に到達した。

 

『!!?』

 

電撃を喰らい、態勢を大きく崩して痺れ始めたスマッシュに追い討ちとばかりにビルドが突撃した。

電撃車両パンチを腹部に喰らったスマッシュは、ビルドと共に勢いよく吹っ飛んでいき、海上高くへと打ち上げられた。

 

ザバァァン!と大きな音、そして水飛沫と共にスマッシュが打ち上げられ、そして海面に叩きつけられる。

 

スマッシュと共に跳んでいたビルドは、左足の<シークルーズシューズ>の効果で海上に着地したあと、水上を自由に滑走し始めた。

数百メートルほどスマッシュとの距離を離したビルドは、振り返りざまに再びカイゾクハッシャーを取り出した。さきほどと同じように先端を倒れているスマッシュへと向けながら、ビルドアロー号を引っ張り始める。

 

【 各駅電車 】

【 急行電車 】

【 快速電車! 】

 

三段階チャージした時点で、スマッシュは起き上がると同時にビルド目掛けて突撃した。その背後には水のツタが伸びており、スマッシュの後を追うようにしてビルドへと迫り来る。

 

しかし、スマッシュがビルドへと辿り着くよりも先にカイゾクハッシャーは最大チャージに達していた。

 

【 海賊電車! 】

 

アナウンスが聞こえると同時に、ビルドはビルドアロー号から手を離した。

カイゾクハッシャーから、さきほどの一段階目よりも速度を増して電車型エネルギーが発射された。

 

目の前で放たれた一撃を見たスマッシュは、とっさに水のツタを自身の前に展開して防御を試みた。

しかし、必殺の一撃となって放たれた電車型エネルギーは水のツタを易々と貫通して、スマッシュへと直撃した。

 

『!!??』

 

直撃したスマッシュは電車型エネルギーにしばらく押し返されたあと、そのまま海上で緑の爆炎を上げるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後の整備課では多くの生徒たちが学園のISを点検、改修の作業に入っていた。

数週間後に迫った学年別トーナメントでは多くの生徒が参加する。その大会を前に生徒たちは学園から貸し出される打鉄やラファールを駆って練習し、そして大会に出場するのだ。

 

機械の音やパソコンが起動している音…それらが辺りを包んでいる中、何事もなく作業は進んでいた。

しかし…

 

ドオオォォォォォン!!

 

そんな大音量の爆発に近い何かは、突如響いた…。

 

 

 

「完…成……!」

 

煙にまみれたその部屋で、桐生戦兎は大きく両手を広げながら呟いた。

 

目の前に鎮座されている純白のIS、そしてパソコンにコードで繋がれた何かを見ながら満面の笑みを浮かべていた。

 

「いやぁ、さっすが天才物理学者!本当に自分の専用機を完成させちまった!ああ、早く試したい! ……まあ、あの機能はまだ完成してないけどな。」

 

バカ笑いしたと思ったらいきなりトーンダウン、そんなテンションの急降下を感じながら、戦兎は席を立った。

 

「さてと。折角だし、クラス代表の一夏に相手してもらうとするか。まあオルコットか凰、デュノア辺りでも別に…あ、でも待てよ……最終調整があるから今すぐって訳にはいかねえか。」

 

がっかりしながらそう呟くと、戦兎は誰かいるだろうと踏んでから、ISもそのままにアリーナへと向かった……。

 

 

 

校舎の廊下を一夏とシャルルの二人が歩いていた。

今朝、今度の学年別トーナメントがタッグ形式になると発表された。

詳しい経緯は不明だが、なにやら学園側の考えがあってのことらしい。

 

(前回のクラス対抗戦の時みたいな想定なのか?いやそんなあっさり問題が起こることないと思うが…)

 

そう心配していた一夏だったが、発表が終わると同時にクラス…否、学園中の女子が一斉に男子三人に集中して集まっていった。皆、男子と組みたがっていたのだ。

 

一夏は戦兎には悪いと思いつつ、シャルルのことを他の生徒に悟らせる訳には行かないと考えた結果、彼女と二人で組むと宣言したのだった。

その時の女子のわずかに不満が残ると言った様子と、この裏切り者!と叫びそうな悲痛な顔をした戦兎は未だに強烈なインパクトを伴って脳に焼き付いていた。

 

結果的にシャルルと組むことになった一夏は、自分の訓練と二人のコンビネーションを高めるためにアリーナへと向かっていたのだ。

 

「今日も頼むなシャルル」

「タッグを組むんだから当然だよ。僕の方こそよろしくね。」

 

笑顔で談笑していた二人だったが、ふと背後から誰かが近づいてくるのを感じた。

振り返るとそこには今朝絶望の表情を浮かべていた戦兎が、今度は満面の笑みを浮かべながら近づいてきた。

 

「よ、よう戦兎…機嫌が良さそうだけど、どうかしたのか?」

「わかるか?実はつい今さっき、ようやく俺の専用機が完成したんだよ!」

「え、それ本当?」

「ああ…けどまあ、最終調整とか色々残ってるから今すぐに…とはいかねえけどな。」

 

数日前、得体の知らなさを感じたそのクラスメイトからは、特に怪しげなものを感じられなかった。ただ自分の開発したものを自慢する自意識過剰なナルシストくらいだ。

そんなギャップに対する疑問を心のうちにしまいながら、一夏は歩きながら戦兎と会話を続けた。

 

「けど入学してからずっと作ってたよな。本当すげぇよ!」

「ありがとな。ところで話は打って変わるんだが、今度どっちか俺のテスト操縦に——」

 

そう話を切り出した直後だった。

 

ドゴオォンッ!と言う大きな音が廊下の先から響いてきた。

 

「今のは…!?」

「アリーナの方だ!」

「模擬戦にしては派手だね…」

「嫌な予感がする…。急ごう!」

 

一夏が叫ぶと、三人は廊下をダッシュで駆け抜けた。

音が鳴り響いた先…第三アリーナに辿り着いた三人の目の前に、悲惨な光景が広がっていた。

 

 

「きゃああああ!」

 

アリーナに入ると同時に、空中にいた鈴が勢いよくグラウンドに叩きつけられていた。

クレーターの中心で鈴のISが解除された。シールドエネルギーが底をついたのだろう。

鈴が脱落した空中には二機のISが空を駆けていた。一機はセシリアと蒼い雫。手にはレーザーライフルのスターライトmkⅡを握りしめて、BT兵器であるブルーティアーズと共に、もう一機へと狙撃を行っていた。

しかし、本来なら四機あるはずのブルーティアーズがすでに残り二機に減っていた。おそらく相手に撃墜されていたのだろう。

 

「鈴!セシリア!」

 

アリーナの一夏が悲痛な叫びを上げると同時に、更なる爆発が響いた。三人の目の前でまた一機、ブルーティアーズが撃墜されたのだ。

一夏の叫び声が聞こえたのか、近くの席で立って見ていた箒が他の生徒を避けながら近づいてきた。

 

「一夏、戦兎、デュノアさん!来たのか!」

「ほ、箒。これどう言うことだよ!?」

「……あの女だ。」

「あの女って…まさか!?」

 

一夏はセシリアと同じように、アリーナ上空を飛んでいたもう一人の姿を見た。まさか…そう思いながら自身の視界に捉えたその人物は、自分を目の敵にしていた例のドイツの代表候補生のラウラだった。

 

「セシリアと鈴、それにあのボーデヴィッヒの三人が戦ってたって言うのか!?」

「ああ…だが、正確には二対一だ。何かままならない挑発でもしたのだろう。あの二人を同時に相手取っていたのだ。」

「二対一!?あの二人だって代表候補生だろ!?それにあの様子じゃ一方的だったんだろ!?」

 

箒から自分たちが来る前の様子を聞いた一夏にはとても信じられなかった。あの二人は自分よりずっと強かった、そんな二人を相手に圧倒するなんて——と。

 

動揺している一夏だったが、アリーナから再び轟音が響く。

急いで視線をアリーナへ戻すと、最後の一機となっていたブルーティアーズが撃墜されていた。

 

「そんな…!?」

 

狼狽しながらもスターライトmkⅡを目の前のラウラへと構えるセシリアだったが、引き金を引くよりも速くラウラと黒い雨が猛スピードでセシリア目掛けて突撃していた。

 

「あれは、瞬間加速!?」

 

驚く一夏を他所に、ラウラは突撃したまま素早く目の前に迫ったセシリアへと手刀を放った。

いくら瞬間加速で速度を上げているとはいえ、一直線的なその攻撃を避けられないはずはなかった。スラスターを吹かせて横に回避したセシリアは素早く後ろを振り返った。以前のクラス対抗戦で乱入してきた未確認生命体との戦闘で不覚をとったこともあってか、ニノ鉄を踏まないようにしていた。

 

彼女の予想は背中のレールカノンを放つ、或いは黒い雨特有の兵装<AIC>を仕掛けてくることだった。しかし、振り向いた先のラウラは手のひらを向けるどころかレールカノンを展開さえしていなかった。

一瞬戸惑いを見せたセシリアだったが、それはラウラにとって充分すぎる隙となった。

黒い雨から、ワイヤーブレードが素早く発射された。それに気付いたセシリアは狙撃で撃ち墜とそうするが、それよりも速く脚にワイヤーブレードが絡みついていた。

 

「なっ——!?」

 

そのままいとも簡単にセシリアは吹き飛ばされた。そのセシリア目掛けて、駄目押しとばかりにレールカノンが発射された。

爆煙の中から飛び出して来たセシリアは鈴のすぐ近くに叩きつけられた。

 

「きゃあっ!?」

「…終わりか、随分呆気なかったな。」

 

ISが解除されていた二人を見下ろしながらそう吐き捨てたラウラだったが、ISがアラートを発していた。

ハイパーセンサー越しにうしろを確認すると、そこにはピットから飛び出して来たであろう一夏と白式の姿があった。

ニィと口元を歪ませて笑うラウラは、接近してくる一夏へ挑発する。

 

「来るがいい織斑一夏、次は貴様の番だ。」

「上等だ!やってやる!」

 

手招きをしながらの挑発に乗った一夏は拡張領域から雪片弐型を呼び出し、そのまま零落白夜を発動した。

 

「一夏!?」

「一夏、危険だ!今すぐ——」

「あーもう、あのバカ!なに安い挑発になんて乗ってんだよ!」

 

観客席から聞こえる三人の叫びを聴きながら、しかし一夏は視線を変えることはしなかった。

 

「うおおおおお!」

 

ラウラの目の前まで接近して一夏は、雪片を縦に構えてそのままラウラへと振り下ろそうとした。

 

しかし、その勢いのある攻撃は、ラウラが左手を一夏へとかざすだけで突如停止してしまった。

 

「ふん、感情的で直線的。絵に描いたような愚図だな。」

「くそっ!体が…!?」

 

急に動かなくなった自分の体に困惑する一夏だったが、それと同時に雪片が発動していた零落白夜の光が徐々に弱まっていた。

発動したまま動きを封じられたことで、只でさえ燃費の悪い零落白夜を解除出来なくなっていたのだ。

エネルギーがすでに底をつきかけていた一夏と白式の目の前で、ラウラが先ほどと同じように笑いながら黒い雨のレールカノンを展開した。

 

 

 

「一夏ッ!」

「くっ…なら僕も!」

 

一夏を追ってピットへと走りこんできた三人の目の前で、一夏の白式が動きを停止していた。

モニター越しに映像を見て悲痛な声を上げる箒を他所に、シャルルは自分の専用機であるラファール・リヴァイブ・カスタムⅡを起動していた。そのまま一夏の援護に入ろうとしていたシャルルだったが、それに戦兎が待ったを掛ける。

 

「いや、デュノアは一夏を連れ戻しつつ、あの二人を回収して来てくれ!」

「え?でも…」

「二人掛りでもアイツに勝てるかわかんねえだろ?そうなったら負傷してISも展開できないあの二人が巻き込まれる可能性だって充分ある。なら誰かがボーデヴィッヒを足止めして、その隙にオルコットと凰を回収しねぇと。」

「それはそうだけど、囮と救助を同時に行うのは流石に危険じゃないかな!?」

 

そこまで言ったシャルルの目の前で、戦兎は携帯を取り出して何かの操作をしていた。そして操作を終えると呟いた。

 

「本当は調整とかあるから控えたかったんだけどな…。心配すんな、囮には俺が行く。」

 

 

 

その頃、戦兎が入り浸っている整備課の一室で動きがあった。

パソコンに繋がれていた何かが、自分に取り付けられていたコードを無理矢理引き抜いていた。

 

次にソレは部屋の中心で鎮座していたISを軽く突いた。するとISは光を発しながら待機状態へと移行した。

待機状態——黄金の斑点模様が映える、群青色の宝石のような指輪を自身の胴体部分に装着したソレは、小さい見た目とは裏腹にかなりのスピードで扉や整備課を潜り抜け、アリーナ目掛けて飛翔した。

 

 

 

目の前でレールカノンを構えるラウラを睨んでいた一夏には、恐怖心よりも怒りが優っていた。

 

(セシリアを…鈴を…!俺だけならともかく、俺の仲間を…みんなを巻き込むコイツを!俺は許せない!)

 

一夏の怒りの感情を肌で感じつつ、その覚悟を今まさに踏みにじろうとしたラウラは口元を歪ませたままレールカノンを発射しようとした。

しかし、それは後方から飛んできた一発の攻撃で中断させられた。

 

「——ッ!」

 

発砲する音がして、すぐさまハイパーセンサーでうしろを確認したラウラは一夏に発動していたAICとレールカノンを解除して、すんでのところで回避した。

すぐ真横を光の弾が飛んでいき、直後爆発を起こした。

本来ならターゲットされたことでアラートが鳴って然るべきだったが、それは一切反応を示していなかった。恐らくマニュアル操作だろう。

ならば先日自身の邪魔立てをしたフランスの代表候補か…そう考えたラウラは、改めて乱入者に視線を移した。

 

しかし、そこにいたのは橙のISをまとったシャルルではなかった。

 

 

 

そのISは白式と同じく純白の装甲をしていた。しかし足には赤の、腕には青のラインが装甲の中心に走っていた。

背中のカスタム・ウイングの翼は鳥を思わせるフォルムをしており、空中でも非常に安定して姿勢維持に努めていた。

頭部のヘッドギアパーツは鳥の頭の様なパーツが着いており、そこから伸びた左右非対称の角が頭の側頭に近い箇所で開いていた。

両肩には鳥の足の様なパーツが着いており、操縦者自身が止まり木になっている印象を受ける、

そして両腕のうち右腕の前腕部分には、後ろの方が尖った奇妙な形状をした長い砲身が装着されており、そこから僅かに煙が立ち昇っていた。

 

「貴様…」

「せ、戦兎!?」

 

AICから解放された一夏は、自身の元にやって来たシャルルに肩を貸してもらいながら驚いていた。

 

「あれが戦兎のIS…」

「確かに驚きだけど、それより一夏。まずは二人をここから避難させよう。」

 

そう言って一夏とシャルルの二人が離脱するのを忌々しそうに見つめたあと、ラウラは視線を戦兎に戻した。

 

「いつだか私に手も足も出せなかった雑魚が邪魔してくるとはな。」

「おいおい、アレ俺が本気を出してたと思ってるのか?女子だから手加減してやったに決まってるだろ?」

「ふん…口の減らない奴だ…!」

 

一旦閉まっていたレールカノンを再び展開してから、戦兎目掛けてまっすぐ放たれた。

 

「よっ…!」

 

その一撃を難なく避けた戦兎の四方からワイヤーブレードが迫り来る。

左前方の一撃目を潜って回避、右後方からの二撃目を足で器用に蹴り飛ばす。

振り返ることなくラウラ目掛けて飛び出して、追って来た左後方のワイヤーを右腕に装着された砲身からの射撃で直視することなく撃ち落とす。

 

ラウラの目の前に迫った戦兎のすぐうしろからワイヤーブレードが飛んでくるが、戦兎は一旦上空目掛けて旋回して再び降下。

ブレードの真後ろに移動すると、右腕の砲身を稼働させた。

ガゴンという音と共に動き出した砲身は、戦兎の右手の前にひっくり返りながら移動した。砲身の穴の前を横切るように突如伸びた棒を掴むと、戦兎は勢いよくワイヤーを斬り飛ばした。

 

戦兎の右手に装着されたのはそれなりの大きさと長さを誇るドリルだった。戦兎はドリルを高速で回転させると、そのままラウラ目掛けて一直線に詰め寄った。

 

「貴様も織斑一夏と同じだな!」

 

苛立ちを感じ始めながら、ラウラは右腕を戦兎の前にかざそうとした。しかし、戦兎はそれよりも早く叫んだ。

 

「パージ!」

 

そう叫ぶと、戦兎は突如として重力に従って落下した。しかし、その身体から上半身の装甲の多くと翼が無くなっていた。

下半身の装甲はそのまま維持されており、高所からの落下など気にも留めないで地面をかなりの速度で駆け出した。

 

「何…!」

 

一瞬困惑しながらもレールカノンで砲撃を放つラウラ。しかし何発も打ち込んでいるにも関わらず、地面を縦横無尽に駆けては飛び跳ねる戦兎に当たることは一度も無かった。

 

チッと舌打ちをしながら接近しようとしたラウラの背後が、さきほどと同じように攻撃された。

さして気にするほど深刻なダメージでも無かったが、ラウラは攻撃の主を撃ち落そうとして振り返りながら残った三本のワイヤーブレードを放った。

 

しかし、その視界の先にいた攻撃の主はどう見ても誰かが操縦するISでは無かった。

一言で言い表すならば白い巨大な鳥。その鳥は放たれたワイヤーを掻い潜って旋回して行った。

その所々に見覚えのある姿に、ラウラはすぐさま見当がついた。

 

「パージと言っていたが、まさか…!」

 

ラウラの読みは正しかった。戦兎はあの時自身のISのうち、翼と上半身の装甲のほとんどを切り離して地上に落下、逆に残ったパーツは上空に旋回し、囮となっていた本体の戦兎に気を取られた彼女に不意打ちを仕掛けたのだった。

何時もならばそんなものを見逃すはずはなかった。しかし今、彼女は自身がこの学園にやって来た目標である『織斑一夏を完全に敗北させる』ことを目の前の男に邪魔され、自身でも思っていた以上に怒りに溢れていたのだった。

さらに言えばISの装備やユニットを切り離すのではなく、ISそのものを切り離すなど前代未聞だった。BT兵器の応用にしては規模が大きすぎるうえ、一個人が開発出来るものではない。

 

空中をすばやく旋回する鳥と、地上で走って駆けてを繰り返しながら左腕の細長い戦車のような青い砲身から砲撃する戦兎。

その煩わしさを感じる戦い方に、ラウラはさらに怒りを募らせる。

 

「二対一にしなければ勝てないと踏んだか!姑息な奴め!」

「勘違いすんな、俺は一つの力を二分割して戦ってるだけだ!あと姑息の使い方多分違えぞ!」

 

走り回る戦兎はチラッと一夏たちの様子を伺った。見ればすでに二人はセシリアと鈴と共にピットへと戻ったあとのようだった。

それを確認した戦兎は、ラウラの上空で旋回させていたもう一機を呼び寄せた。

戦兎の後ろを追いかけて、すぐに追いついて並走して飛ぶもう一機。戦兎は後ろで飛んでくるレールカノンの攻撃を気にせずに、もう一機の翼の上に飛び乗った。

サーフボードのように操作しながら自身もピットへと戻ろうとした戦兎だったが、その進行方向にラウラが立ちはだかっていた。

 

「織斑一夏を倒す邪魔をした貴様を無事に返すと思ったか!」

 

怒りの表情を浮かべて叫んだラウラは左手をかざしてAICを発動させようとする。

 

「やっぱそうなるよな!」

 

戦兎は乗っていたもう一機を、空中でウィリーするかのように操作した。盾のように使ったとしても、AICを防ぐことは無理だろう。

そう判断した戦兎は、もう一機を踏み台にして跳躍した。

戦兎が飛び立つと同時に、先程まで動いていたもう一機の動きが止まる。AICが発動したことで動きを封じられたのだろう。

 

「よっと!」

 

戦兎は上空にジャンプした勢いのまま右腕のガンモードにしていたドリルから射撃を、左腕の青い砲身から砲撃を同時に行った。

 

「チッ…!味な真似を…!」

 

青い砲身からの攻撃は実弾であったためAICで防ぐことが可能だったが、ドリルからの攻撃はAICで防げないビーム兵器かそれに準ずるもの——そう判断したラウラは射撃を全て回避する。

 

AICは簡単に言えば相手の動きを封じるPICを発展させた結界、一対一ならば反則レベルの効果を発揮する。しかし複数の相手では不利になる。さらに言えば効果を発揮するのは操縦者の集中力が必要であるため、それを乱されると解除してしまうのだ。

 

そして一瞬の隙と意識の揺らぎを起こしたことで、鳥の姿をしたもう一機はAICの効果から解放された。上空に飛んでいた戦兎を追うように飛翔すると、再び元のISの状態へと再合体を果たした。

 

「これ以上お前のわがままに付き合ってられるかよ。じゃあな。」

「待て貴様!」

 

呆れたように言って、ピットへと飛び去る戦兎を追おうとしたラウラだったが、彼女の元に一つの連絡が入った。

 

『そこまでにしておけラウラ』

「き、教官…!」

 

ピットから入って来た千冬からの通信を受けて、さきほどまでとは打って変わって慌て始めるラウラ。

そんな彼女の様子に、画面の向こうでため息を吐く千冬。しかし、すぐさまいつものようにキリッとさせて話を続けた。

 

『模擬戦をやるのは結構。だがアリーナを破壊する事態ともなれば別だ、それは教師として黙認しかねる。

この戦いの決着は学年別トーナメントで付けてもらう。』

「はっ!教官がそう仰るのなら!」

『元だ、何度も言わせるな』

 

 

ピット内でラウラとの通信を一旦中断して、千冬は次に一夏たちに振り返った。セシリアと鈴はすでに保健室へと運ばれており、この場には一夏、シャルル、箒、戦兎だけが残っていた。

そしてラウラの時と同じように促した。

 

「お前達もそれでいいな?」

「あ、ああ…じゃなくて…はい!」

「僕もそれで構いません!」

「右に同じく。」

 

ラウラと交戦して残っていた三人はそれぞれ返事をした。箒だけは俯いていただけで特に返事をしなかったが、同意と受け取ってから千冬は全員に聞こえるように言い渡した。

 

「では学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁ずる。解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、一夏は食堂で夕食を取っていた。

保健室に寄った際、セシリアと鈴の二人の様子を見に行ったのだが、二人ともISのダメージがかなり蓄積していたらしくトーナメントへの参加は辞退することになっていた。

 

二人の心配をしながらシャルルと、何故か食堂で待ち構えていた箒の三人で一緒に夕食を取ることにしたのだった。

そんな中、隣の席に座った戦兎に対して一夏は声をかけた。

 

「戦兎もさっきはありがとうな。おかげで助かっちまったよ。」

「気にすんな、俺もボーデヴィッヒの奴の暴れっぷりに物申したかったしな。」

「けど戦兎のIS凄かったな、どうなったんだアレ?」

「ていうか、自分のISを分割して二機分で戦うのってルール的に有りなのかな?」

 

シャルルの素朴な疑問にたしかに、と同意する一夏と箒の三人に抗議するように戦兎が反論する。

 

「いやいや!ルールを隅から隅まで調べたけど、そんなルールは無かったぞ!だからセーフでしょ!」

「そういうものか…?」

 

箒が首を傾げながら呟くのを無視して夕食のアジの開きを食べる戦兎に、一夏は思い出した根本的な質問をした。

 

「ところで、あのISはなんて言うんだ?」

「ん?」

「いや名前だよ名前。あるんだろ?」

「ああ、もちろんな。」

 

そう言ったあとに、戦兎は勿体ぶるようにふっふっふっ。と笑いながら目を伏せて腕を組む。よく見ると、その肩には今まで見た事がない鳥のような何かが乗っていた。

鳥の色は純白で、背中側の翼の付け根になにかの穴が二つ空いており、胸の部分には群青色の宝石のようなものがセットされていた。

 

「…?なんだ、その鳥…っていうか機械?」

「よくぞ聞いてくれました!これこそが俺の専用機を自立操縦してくれる万能ペットロボのかわい子ちゃん!その名も<ラピス・ピジョン>!

そして、俺の専用機…その名もズバリ!<愛と平和(ラブ&ピース)>だ!」

 

食堂中に聞こえる大音量で叫ぶ戦兎、その手には肩から下ろしたのであろう機械仕掛けの鳩 ラピス・ピジョンが握られており、彼(?)自身もどこか誇らしげな様子で鳩胸を突き出していた。

食堂にいた全生徒たちの視線を浴びる中、自信たっぷりの戦兎を見て汗を流して苦笑いを浮かべる三人。

こうして彼らの長い一日が幕を下ろしたのだった……。

 




冒頭で剣で変な悲鳴を挙げたと言いましたが、アギト編でbelieve yourself流れた時も出ました。

ラビットタンクスパークリングがまだ修理できてないのは、ベストマッチの出番や戦力調整のためです。
それからこの作品、他のIS2次作品と比べて一夏の描写、特に「原作知ってるならそのシーン別にいらなくね?」なシーンが割とよくあります。
これに関してはライダー側は知ってるけどISはあんまり…な読者の方にも分かりやすくするのと、主人公は戦兎だけではないことのアピールです。

次の回より先に、今回出てきた戦兎のISについて説明する専用回を持ってきますのでそんなにかからないと思います。
そこで何故戦兎の専用機がラピスと鳩なのかの説明も
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