Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

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 また二万字超えてしまいました。その上で前後編です。しかも後半はGW中は無理そうです。本当に申し訳ない。(B博士感)

 令和になってからも投稿頑張っていきますので、よろしくお願いします。
 今回から少しだけ書き方を変えました。(スマホだと空白が機能しないと始めて知ったとも言う。)
 なお、今回オリジナルのIS装備とか原作でもやるかわからない(解釈違いを起こしかねない)行動が出てきます。苦手な方は注意してください。


 令和なので初投稿です。


因縁のエンカウント

 とうとう俺のIS完成!

 IS学園に在籍する、仮面ライダービルドこと天才物理学者の桐生戦兎はスマッシュを撃破しつつ、その持ち前の頭脳を駆使して自身の専用機 ラブ&ピースを完成させたのだった!

 

 いやー本当に長かった! だってもう六月だぞ!? けどそこまで徹底して創っただけもあって、恐らく一年では最強だろうラウラ・ボーデヴィッヒの黒い雨にも互角に渡り当てたんだから結果オーライ!

 

 篠ノ之の奴との特訓も佳境に入ったし、トーナメント開催もすぐそこ……ま、俺はビルドもあるから出ないんだけどな。

 

 てな訳でどうなる? 第16話!

 

 

———————————————————————

 

 

 夜もすっかり更けた時間、第四アリーナの上空を二つの機影が舞っていた。

 

 一つはIS学園の訓練機である打鉄をまとった篠ノ之箒。今までも決して悪くはなかったが、今の彼女のIS操縦技術は格段に向上していた。

 

 もう一つは桐生戦兎の開発したL&P(ラブ&ピース) M:W(モード:ウイング)。ただしそのISには桐生戦兎の姿がなかった。今このISを操縦しているのは、彼が開発した高性能小型ペットロボにしてラブ&ピースの半身ともいえる<ラピス・ピジョン>だった。

 

「このっ…!」

 

 箒は打鉄の装備の一つであるアサルトライフルの焔備を構えて、地上のすぐ上を飛ぶL&P目掛けて発砲した。

 しかしL&Pは旋回しながら弾を全て躱した。そのまま宙返りをして箒と同じ高度まで上昇すると、まっすぐと突っ込んできた。

 

「ならば!」

 

 こちらに向かってくるL&Pを視認した箒は拡張領域内に焔備を収納すると、入れ替わりに近接戦闘用ブレードの葵を取り出し両手で装備し、箒もまたL&Pへと突っ込んだ。

 

 箒の目の前でL&Pは胴体部分の下方向に装備されている青い砲身から砲撃してきた。それらを旋回して回避したあと、最後の一撃を持った葵で横一閃に斬って撃ち落とした。

 爆煙を背にL&Pへと迫った箒は、返し刀で葵で斜めに斬りつけた。

 

 キンッ! と金属を打ち付ける音が夜空に響き渡る。

 

(……浅いかっ!)

 

 L&Pの突進を潜りながら回避した箒は、今の一撃を僅かに逸らされたことに気づいた。L&Pを潜り抜けると、振り向きざまに左手の葵で斬りつけようとした。その一撃はたしかにL&Pの胴体を捉えていた……しかし

 

 ガキンッ!! と今度は金属同士を強くぶつける音が響いた。

 

 見ればL&Pは、青い砲身とは逆の方に付いていたドリルクラッシャーを模した武器を細長いアームで駆使して防御していた。

 

「くっ——!」

 

 次に来る攻撃を察した箒はとっさに回避行動を取ろうとしていた。しかしそれよりも早く、L&Pが青い砲身の角度を動かして箒を射線上に捉えていた。そして間髪入れずに、砲撃が行われた。

 

 ドオオォォン! と大きな爆発音を響かせながら、爆煙が辺りを包んだ。爆煙の中からISを解除された箒が落下してきた。

 

「おぉ!?」

 

 落下していく自分の身体をなんとかダメージから防ごうと四苦八苦する箒だったが、彼女が地上に落下するより早くL&Pが追いつき、その背中で箒を受け止めた。

 そのままL&Pは箒を乗せたまま地上へと降りていった。

 

 

 

 地上に降りたあと、ベンチに腰をかけてスポーツドリンクを飲んでいた箒は、数時間前にアリーナから出ていったL&Pの開発者兼操縦者の桐生戦兎のことを思い返していた。

 

『悪ぃけどスマッシュが出たから俺は行くからな。代わりにピジョンちゃんと模擬戦やっといてくれ。ピジョンちゃんに勝てないようじゃあ学年別トーナメント優勝なんて、夢のまた夢だからな!』

 

 そう言い残して去ってしまった。

 

「まったく……いくらなんでもロボットに模擬戦を任せるなど無茶苦茶すぎるぞ。それにあのロボット、普通に強いではないか!」

 

 相性の問題もあるが、近距離戦もそこそここなせるうえ遠距離武装もあり、更には機動力も高いL&Pは並みのISや操縦者では歯が立たない強さを誇っている。自分以外に戦ったものはいないそうだが、まず間違いなく強い。

 そう感じていた箒は、自分のすぐ横で眠るように行動を停止していたラピス・ピジョンをチラッとだけ見た。

 

(……こんなに小さいのに、一体どうやって動いているのだ?

 しかしまあ……その、なんだ。こうして見たら案外……か、可愛いではないか。)

 

 頰をポリポリとかいた後、箒はそっと人差し指をピジョンへと近づけた。

 

【 キーッ! 】

 

 直後、動きを停めていたピジョンが鳴き声——と言うよりは威嚇時の音声を流して眼にあたる箇所を光らせながら、箒に顔を向けて牽制し始めた。

 

「な!?そ……そこまで怒るか!?」

 

 ペットロボに嫌われたのかと判断した箒はショックを受けながら、あからさまに狼狽するのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園からそれなりに離れた地区のダムの上で、白い異形と橙と灰の異形が戦っていた。二色の異形は懐から青と緑の二本のボトルを取り出して、ベルトの穴に装填した。

 

【 海賊! 】 【 電車! 】

 K/D

【 ベストマッチ! 】

 

 フルボトルを装填した二色の異形——仮面ライダービルド ホークガトリングフォームはハンドルを回した。辺りに機械の生成音、そしてその後にアナウンスが流れる。

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

【 定刻の反逆者! 海賊レッシャー! 】

【 イェーイ! 】

 

 前後に現れた装甲に押し潰される形で新たな姿、海賊レッシャーフォームに変身したビルドは武器のカイゾクハッシャーを取り出した。そしてカイゾクハッシャーに取り付けられているビルドアロー号を引っ張り始めた。

 

【 各駅電車 】

【 急行電車 】

 

 しかし二段階目までチャージした時点で、ビルドのすぐ目の前に白い異形——スマッシュが接近していた。

 

「早い!」

 

 そう言うが早いか、ビルドはすぐにビルドアロー号から手を離した。目の前の白い角の生えたスマッシュに命中するが、ダメージを受けている様子はまるで見られなかった。

 

「嘘っ!?うおっ!」

 

 少しくらい効くと予想していたビルドはあまりの手応えの薄さについ驚いてしまった。そしてその瞬間を逃さずに、スマッシュは右手で持っていた盾を放り投げると、ビルドの首を掴んで締め上げた。

 

『……!』

 

 ビルドを片手で締め上げながら軽々持ち上げたスマッシュは、左手に持っていた巨大なランスのような武器をビルドの心臓部分目掛けて突き刺そうとする。

 

「離せ……っての!」

 

 呻くビルドは、右肩の船首を模した< BLDボヤージュショルダー >に着いている砲門から、轟音と共に鉄球を放った。

 

 ガンッ! と音を立てて鉄球がスマッシュの身体に何発も命中する。スマッシュはビルドを離すと、ヨロヨロと後ろに下がった。

 

「アイツ動きが速いからな……拘束するなら広範囲じゃなきゃ無理か……ならコレで!」

 

 着地の勢いでしゃがんだまま、ビルドは海賊フルボトルをビルドドライバーから取り外した。次に懐から新しく取り出した蒼いフルボトルを取り出して振った。先日倒したスマッシュから採取した新しいフルボトルだ。

 

【 クジラ! 】

 

 クジラフルボトルを装填したビルドは立ち上がると、再びビルドドライバーのハンドルを回し始める。

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 左方向から現れた装甲が、海賊ハーフボディを塗り替えて装着され、辺りにトライアルフォームの変身音を響かせた。

 起き上がって態勢を立て直したスマッシュの前で、ビルド トライアルフォーム クジラ電車は<ビッグウェーブアーム>から大量の水を放出し始めた。水はビルドとスマッシュの膝近くまで溜まっていく。

 

『……!?』

 

 ユニコーンを模したスマッシュは、見た目通り強靭な脚で素早く動くことが出来た。しかし足場に水が溜まった今、思うように動かなくなってしまっていた。

 ビルドはドリルクラッシャーを取り出すと、さきほどドライバーから取り外した海賊フルボトルを振ってからソケットに装填した。

 

【 海賊! 】

 

【 Ready Go ! 】

【 ボルテック・ブレイク! 】

 

 ビルドがその場でドリルクラッシャーを振ると水の刃が形成され、スマッシュへと勢いよく飛んでいった。

 水の刃がスマッシュに当たると、強い衝撃によってスマッシュは大きく態勢を崩した。

 

『……!』

 

 仰向けに倒れこむスマッシュの前で、ビルドは電車を模したアンテナをなぞった。

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

 ドライバーのハンドルを回していくと、周囲の水が動き始めた。

 ビルドとスマッシュ、二人を一直線に結ぶように電車の線路が引かれた。そしてその両サイドには相手を脱出不可能にする、電撃を纏った巨大な水の壁が立ちはだかっていた。

 

【 Ready Go ! 】

 

 アナウンスがなると、ビルドの左手に電車の車両を模した電撃エネルギーが現れた。

 起き上がったスマッシュは唸り声を上げると、ランスを構えてビルド目掛けて一直線に突撃した。

 

【 ボルテック・アタック! 】

 

 ドライバーからのアナウンスが鳴ると、ビルドは態勢はそのままで電車のように高速で走り出した。ビルドの左手に纏っていた電車型の電撃エネルギーが巨大化していき、ビルドを包み込んだ。

 

 両者ともに猛スピードで相手に突っ込んでいった。

 

「ハアッ!」

 

 スマッシュが目の前まで近づいた時、ビルドは構えていた左手で思い切りスマッシュ目掛けてストレートパンチを放った。

 すると、ビルドの全身を包んでいた電車型の電撃エネルギーがビルドの元を離れて真っ直ぐに飛んで行った。

 

『……!!?』

 

 自分目掛けて発射された巨大な電車型エネルギーに徐々に押し返されていくスマッシュ。足の裏から煙が出るほど力を込めて踏ん張っていたが、そのうしろに電撃を纏った水の壁が出現した。

 僅かなあいだ耐えたスマッシュだったが、最後は完全に電車型エネルギーに押し切られてしまった。

 

 そして電車型エネルギーと電撃の水の壁に挟まれたスマッシュは緑の爆炎と共に消えたのだった……。

 

 

 

「よし……今回もなんとかいったな。」

 

 スマッシュから採取したユニコーンフルボトルを軽く振りながら呟く戦兎は、IS学園に戻ってからのことを考えていた。

 

「さてと。学年別トーナメントまであと一週間か……ここらで最後の追い上げになるか。」

 

 そう独り言を言ったあと、戦兎は自分の携帯であるビルドフォンにライオンフルボトルをセットしたあと地面に放り投げた。

 

【 ビルドチェンジ! 】

 

 巨大化してから一台のバイク——マシンビルダーに変形したのを確認してから、戦兎はマシンビルダーに乗ってIS学園へと走らせた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから三日後の第四アリーナでは、再び打鉄とL&Pが空中戦を繰り広げていた。前回と違うのは、今のL&Pは戦兎が操縦していることだろう。

 

 両手で葵を持っていた箒に対し、戦兎はドリルクラッシャー・改をブレードモードに変形させて旋回しながら突っ込む。

 目の前に迫った戦兎がドリルで斬りつける瞬間、箒は葵を拡張領域にしまって左手に焔備、右手に盾を呼び出して装備した。ドリルを盾で防ぐと、空いていた左手の焔備を乱射した。

 避けようとした戦兎だったが、僅かに掠めた一撃でシールドエネルギーが半分になった。

 現在行なっていたのは、箒はシールドが完全に無くなるまで、戦兎はシールドが半分を切るまで。と言った変則的なルールの特訓だった。

 二人は一旦地上に降り立った。ISを解除しながら戦兎は箒に声をかける。

 

「だいぶ様になってきたじゃねぇか! 遠距離攻撃は的確に防いで、近距離戦をしたけた相手の僅かな隙を狙う……これなら並みの生徒相手になら余裕で勝てる。」

「そうか……だが専用機持ち相手にはそうも行かないだろう。……これで勝てるかどうか……」

 

 箒の返答を聴くと、戦兎は頭をかきながらフォローする。

 

「それは機体の問題だからあんまり気にすることねぇと思うけどな。……けどまあもう一つ欲しいところではあるか……しょうがねぇな。」

 

 そう言って戦兎はL&Pを待機状態にしてピジョンに任せると、箒に向き直った。

 

「じゃ、今からとっておきのヤツをやってやる。」

「と、とっておき……?」

「いやそんな身構えるな、安心しなさいっての。」

 

 露骨に警戒を強める箒に突っ込みながら、戦兎は打鉄のエネルギーを回復させるよう促した。

 

 

「で、一体なにをするのだ?また最初みたいなことをしないだろうな?」

 

 回復が完了し、地上で打鉄を纏った箒は戦兎にこれからやる特訓の内容を問いただしていた。また無茶なことをやるのではないかと思いながら。

 

「まー多少無茶かもな。けど間違いなく強くなれるはずだ。お前の成長スピードを考えればな。」

 

 そう言うと戦兎は、一つのガジェットを取り出して腰に押し付けた。ガジェットから自動的にベルトが伸びて、戦兎の腰に装着される。次に戦兎は、赤と青のボトルのようなものを取り出した。

 嫌な予感を抱いた箒は声を大きくして戦兎に抗議する。

 

「お、おい待て! 貴様まさか…!?」

「ISとの戦闘は初めてになるな……さぁ、実験を始めようか!」

 

 箒の制止も無視して、戦兎はボトルを振り始めた。戦兎の周りには数々の数式が浮かび上がった。

 ひとしきり振ると、戦兎はボトルの蓋を回してガジェット——ビルドドライバーに装填した。

 

【 ラビット! 】 【 タンク! 】

R/T

【 ベストマッチ! 】

 

 ビルドドライバーのハンドルを回し始めた戦兎の周りに、小型の高速ファクトリーのスナップライドビルダーが展開される。前に赤、後ろに青の装甲が生成されていく。

 生成が完了すると、戦兎はハンドルから手を離して構える。

 

【 Are your ready ? 】

 

「ダメだ!!」

「変身!」

 

 再度の箒の抗議を無視して戦兎は叫んだ。装甲が戦兎を挟み込み、仮面ライダービルドへの変身を完了させた。

 

【 鋼のムーンサルト! ラビットタンク!】

【 イエーイ! 】

 

 変身を終えたビルドは、ようやく箒に声をかけた。ただし、半ば一方的に。

 

「これが最後の特訓——即ち、最後の実験だ! 人々を守る正義のヒーロー、仮面ライダービルドを倒してみろ!」

「それではまるで私が悪役みたいではないか!」

 

 ビルドは言うが早いか、ラビットの跳躍力を持ってかなりの速度で箒へと接近した。箒も再三の抗議を行いながら、ビルドの拳をいなして距離をとった。

 距離をとった箒は焔備を呼び出そうとしたが、その距離を一飛びで詰めたビルドが目前まで迫っていた。ジャンプしてこちらに接近するビルドの右足での飛び蹴りを察した箒は、焔備の射撃よりも先に肩の楯で直撃を防いだ。

 

「セイッ!」

 

 ガンッ! と大きな音と衝撃を身に受けながら、箒はショルダータックルの要領でビルドの飛び蹴りを押し返した。

 

 勢いを殺されたビルドは弾き飛ばされるよりも早く、打鉄の楯を蹴ってバク転のように跳んで箒から離れた。

 空中にいる間は無防備だと判断し、箒は焔備でビルド目掛けて射撃した。多くは避けられたが、そのうちの何発かはビルドに命中した。

 

「いてっ!」

 

 よほど装甲が丈夫だったのだろう。ビルドは自分の身体にアサルトライフルが当たっているにも関わらず、軽いリアクションで済ませていた。

 その僅かな隙を逃さず、箒は焔備をしまって葵を呼び出した。よろけてたビルド目掛けて、葵を縦に振り下ろした。

 

「ハアッ!」

「おおっと!」

 

 ビルドはすんでのところで地面を転がるようにして一閃を回避した。対象を失った葵の一撃が地面に叩きつけられる。

 箒は一旦距離を取るために上空へ飛翔した。

 

「その姿では飛べないのだろう? もうこれくらいで良いのではないか?」

「なーに言ってんの! ここからビルドの本領発揮だぞ!」

 

 そう言ったビルドは懐から真紅と青緑の二本のフルボトルを振りながら取り出し、振ったボトルをドライバーへ装填した。

 

【 ローズ! 】 【 ヘリコプター!】

R/H

【 ベストマッチ! 】

 

 アナウンスが流れてからハンドルを回す。ビルドの周囲に再びスナップライドビルダーが展開され、前に赤、後ろに青緑の装甲が生成された。

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 ビルドが構えながら叫ぶと、装甲がビルドを挟み込んで違う姿に変化させた。

 

【 情熱の扇風機! ローズコプター! 】

【 イェーイ! 】

 

 ビルド ローズコプターフォームは背中に取り付けられているプロペラ <バトローターブレード> を高速回転させた。回転速度が速くなってきた段階で、ビルドは助走をつけてからジャンプした。

 背中のバトローターブレードのおかげか、少々直進的ではあるが飛行を果たした。

 

「やっぱ速いことは速いけど、ホークガトリングやISほど旋回能力は高くないな。だがそれをカバーするのがこの天才物理学者、桐生戦兎だ!」

 

 そう叫んでから、ビルドは上空の箒目掛けてスピードを上げたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓を終えた翌日、整備課の一室に入っていた戦兎はパソコンを操作していた。パソコンから伸びたケーブルは、デスクの上に置かれていた細長いものと繋がっていた。

 パソコンのデスクトップにはデータと、ある映像が流れており戦兎は時折その映像を確認しながら打ち込んでいた。

 

——一体どう言うつもりだい?——

 

 ここ最近はずっと沈黙を続けていた葛城巧が声をかけてきた。戦兎は珍しいな、と思いながら返事をした。

 

「何がだ?」

——昨日のことだ……ビルドで対処できない場合に備えてISを開発する。それはわかる、けど一個人のためにビルドに変身したことについては理解できない。——

「やっぱりそのことか。アイツも頑張ってるからな、ついビルドで鍛えてやろうと——」

 

 そこまで言った戦兎は相変わらずパソコンに視線を向けていた。しかし、直後に葛城にその返事を遮られた。

 

——ビルドはエボルトと戦うための防衛兵器だ! そのために僕と父さんが創ったんだ! それを特訓なんてことのために……それに君が本当にやりたかったのはあの少女の生態データを得るためだろ! 篠ノ乃束の妹のデータから彼女について、そして何をしたのか調べようとしたんだ。現にいま君の創っている物もその延長線上にある……綺麗事を言うな!——

 

 額縁の向こうで珍しく感情をあらわにして怒声をあげる葛城に面を食らった戦兎だったが、すぐにいつものテンションに戻った。

 

「……何度でも言うけどな。ビルドは防衛兵器である前に、みんなで創った正義のヒーローなんだ。困った人が居れば、手を差し伸べる……それがヒーローだ。誰かの助けになりたい、その想いに嘘なんてない。

 それにビルドが戦い以外で役に立ったら、それこそ本望だろ? あと昨日変身したローズコプターフォームに観光案内機能を入れてたのはどこの誰だよ?」

——はぁ…………勝手にしなよ。——

 

 割と図星を突かれたのか、それても呆れ果てたのか……葛城はまた黙り込んでしまった。

 

 葛城の沈黙を確認してから、戦兎は再び作業を再開した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えたトーナメント当日

 

 男子更衣室で着替えていた一夏とシャルル。一足先に着替えを終えた一夏は、更衣室の天井近くに取り付けられていたモニターを眺めていた。

 モニターの向こうにはこれから試合が行われるアリーナの様子が映し出されていた。観客席には多数の生徒が座っており、その少し上にあった見物席……所謂VIP席にはいかにもと言った感じの関係者、政府の人間が座っていた。

 

「しかし、すごいなこりゃ……」

「トーナメント上位入賞者は、どの国も要チェックだからね。各国から集まってるんだよ。」

「ふーん……ご苦労なことだ。」

「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね。」

 

 着替え終えて苦笑しながら言うシャルルの言葉にまあな。と返事をしながら、一夏は今回絶対負けられない理由を語る。

 

「個人的だけじゃなく、鈴とセシリアのためにも勝たなくちゃな。それに……この大会に優勝して、デュノア社製ISの優秀さもPRしないとな。」

「一、一夏……!」

 

 ドキリとしながら呟くシャルルは、顔を赤くしながら笑顔を浮かべていた。

 

(……君は僕のことも考えてくれているんだね——)

「ありがとう、一夏。」

 

 シャルルに釣られて、つい同じように笑顔を浮かべる一夏。

 中々いい雰囲気が更衣室に溢れるなか、パシュッ という音とともに更衣室の扉が開いた。——その先から、更衣室の雰囲気とは真逆のどす黒い空気が部屋に流れ込んできた。

 

「随分と元気なもんだなお前ら……。」

「せ、戦兎!?」

「どうしたの?少し……いや、かなり調子悪そうだけど。」

 

 一夏とシャルルが部屋に入ってきた戦兎にそれぞれ声をかけた。二人が心配するのも無理はないだろう。今の戦兎は明らかに寝不足といったオーラを漂わせていたからだ。

 

「何処かの誰かたちに見捨てられたからな……この数日、応募終了ギリギリだからってことで女子に追いかけ回されてたんだよ……。」

 

 なんでも戦兎は今回のトーナメントは辞退したらしい。本人曰く、あまりにも強すぎるから——とのことだ。

 実際、今の一年で間違いなく最強と言えるラウラに対してあそこまで上手く立ち回れた腕を考えれば、その自信にも納得がいく。

 

 少しバツが悪そうに苦笑する二人に対し、戦兎も笑いながら続ける。

 

「……と言うのは半分冗談だ。実際はちょっと新しい発明を創ってたんだよ。おかげで徹夜だ。」

「それは大変だったな……けど、昨日じゃなきゃダメだったのか?」

「ああ、今日までに終わらせなきゃマジでヤバかった。一応目薬はさしたし、オリナミンCも飲んだしなんとかなるだろ。」

「それってなんとかなるものなの……?」

 

 軽く背伸びをしただけでバキバキと骨を鳴らした戦兎は、入ってきた入り口へとUターンして出て行こうとする。

 

「もう観客席に行くのか?」

「ああ。二人の不機嫌な代表候補の中を取り持ってやらねえと。その前にちょっと野暮用があるけどな。」

 

 頑張れよ、と後ろ手に手を振って更衣室から出て行った。

 

「迷惑かけちゃった戦兎のためにも、負けるわけにいかなくなったね……。」

「ああ、なにせ冗談とは言ってたけど半分だからな。」

 

 そう話してから二人もまた、更衣室を出てアリーナのピットへと向かった。

 

 

 

 一方、アリーナのピット内で訓練機である打鉄の前に立ってその装甲に手を触れていた箒は、浮かない雰囲気を漂わせていた。

 

(今日、私に与えられた打鉄は三号機か……。)

 

 打鉄を纏いながら、箒は今日の試合について心配していた。

 結局、彼女が特訓で戦兎が変身するビルドを倒すことはなかった。一応あと一歩まで行けても、それは彼自身の全力ではないことを薄々察していたからだ。

 

 各種のコネクトを終え、拡張領域(バススロット)の設定を終えようとしていた箒だったが、すぐ近くに誰かが来ていることに気づいた。

 

「よお、調子はどうだ?」

「桐生か……なにか用か?」

「なにかってお前……助手の晴れ舞台を前に、発破をかけないわけにはいかないでしょーが。それより見てみろよ、会場の熱気はすごいぞ。」

 

 自分の後ろにあるモニターを親指で指し示しながら言う戦兎、それに釣られて箒もモニターを確認した。

 

(きっとモニターの奥……ピットの向こうでは一夏とデュノアさんもスタンバイしているのだろうな。ならば見せてやらなければな、私だってあの頃よりずっと強くなってるはずなのだから……!)

 

 しばらくモニターを眺めたあと、そう考えた箒は少しやる気になっていた。

 自分の横でポケットに手を突っ込んでいた戦兎を脇に移動させて、そのまま出口へと向かって行った。

 

「世話をかけたな……行ってくる。」

「ああ、いい試合をな。」

 

 そうしてピットの出口へと向かおうとした箒だったが、少しだけ違和感を感じていた。

 

(そう言えば……私はいつのまに拡張領域の設定を終わらせていたのだ? まだ完了させてなかったと思うが……?)

 

 しかし時間も差し迫っていたため、箒は気のせいだろうと己に言い聞かせて出口へと歩いて行った。

 

 

 問題なく出撃準備に入ったクラスメイト兼助手の背中を見届けてから、戦兎も廊下に続く方の出口からピットを出ようとしていたが、ちょうど箒とタッグを組むことになった人物と鉢合わせた。

 

「げ……。」

「桐生戦兎……!」

 

 殺気にも似た雰囲気を漂わせて来たのは、箒と同じくタッグの相手が決まらずにいた結果、余り物どうしで彼女と組むことになったラウラだった。

 

「貴様、私の前に平気でその顔を見せに来るとはいい度胸だな。」

「いや別にお前に会いたかったわけじゃねえし。助手に激励とばしてただけだし。」

「助手?」

 

 助手と言う言葉に疑問を抱いたラウラだったが、しばらくして今回勝手に組まされた相手のことだろうと判断した。

 

「ご苦労なことだ、力のないものにどんな入り知恵を施そうと意味もないだろうにな。安心しろ、貴様の助手とやらの出番などない。」

 

 あからさまに悪い笑みを浮かべるラウラに対し、戦兎は腰に手を当てて呆れたように口を開いた。

 

「お前一人で勝つ気かよ……戦いってのは、仲間がいるだけで何倍にも強くなれる……ようは足し算じゃなくてかけ算になるのよ。大事だぞ、仲間がいるかいないかは。」

「知らん。足を引っ張るような奴など必要ない、私だけで充分だ。」

 

 実体験をもとにアドバイスした戦兎の言葉を一蹴するラウラ。ついカチンときた戦兎は意地の悪い口撃を行なった。

 

「お前さては、ドイツに友達……て言うか大切な相手とか居なかっただろ?」

「黙れ……!」

 

 地雷を踏み抜いたのか逆鱗に触れたのか、一瞬でISを展開したラウラは、手を揃えて戦兎の首元に突きつける。ISの格闘はそれだけでも立派な武器になる。ましてや生身の人間など致命傷で済めばラッキーだ。

 そんな破壊力をもった手刀を前に、戦兎は寸止めだったとはいえ身じろぎもしなかった。

 

 ほんの少しラウラが手を進めるだけで戦兎の首は切り裂かれる……そんな膠着状況のなか、アリーナ内でアナウンスが流れた。

 

『間も無く試合が開始されます。両チームは規定の位置まで移動してください。』

 

「チッ……命拾いしたな。貴様よりも先に、まずは織斑一夏だ……!」

 

 舌打ち混じりにそういうと、ラウラは既に箒が待機しているグラウンド側のピット出口へと向かった。

 

 

 

 立ち続けたままだった戦兎は、箒とラウラがグラウンドへ飛び立ちピット内に誰も居なくなったのを確認すると、首を抑えてしゃがみ込んだ。

 

「あっぶねええ! マジでビビった今の!! あんなにすぐに攻撃仕掛けてくるかよ普通!? えちょっと待って、俺ほんとに首斬られてない? 大丈夫? ねぇ、大丈夫なの!?」

 

 突然悲鳴をあげた戦兎は、バクバクと動く心臓を抑えながらピットを出て行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナのグラウンド、その地上で四人のIS操縦者が、一夏とシャルル、ラウラと箒のペアで別れて相対していた。

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ。」

「そりゃあ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ。」

 

 互いに敵意をあらわにして煽る二人を横目に、箒とシャルルは呆れと苦笑を浮かべていた。

 

「全く……一夏、私のことを忘れているのではないだろうな?」

「ごめんね篠ノ乃さん、一夏ったらボーデヴィッヒさんとの試合をずっと望んでたみたいだから。」

「いや、こちらこそ済まない。一夏はデリカシーがなかっただろう? デュノアさんに迷惑をかけてなければ良かったが。」

「え!? い、いや別にソンナコトハ……は、ははは……」

 

 一夏の言動などを考えて率直な感想を言った箒の言葉を受けたシャルルは、何故か視線を逸らして汗を垂れ流していた。

 首を傾げている箒に、今度は一夏が抗議をし始めた。

 

「おい箒、なんだよその言い方! 俺は別にシャルルとはなにも…………。」

「何故そこで黙るのだ、やはりなにかしたのか!?」

「イヤイヤイヤ! そんなやましいことじゃ……と、とにかく! 俺にあんなに啖呵を切ってたんだから、箒も強くなってるんだろうな?」

「無論だとも。今日でその成果を——」

 

「オイ。」

 

 いつものテンションで会話し始めた三人を前に、痺れを切らせたラウラが呟き威圧感だけで三人とも黙らせた。

 

「いつまで無駄な口を聞いている気だ。試合が始まればすぐに貴様を——」

『試合開始まであと五秒——』

 

 結局、ラウラは最初の煽りくらいしか発言出来なかった。

 アナウンスとともに沈黙した四人はそれぞれ相手の出方や自分の成すべきことを考えて身構えた。

 

 

 ブアー! という、試合開始を告げるブザーなると同時に一夏が加速した。

 

「うおおおおおお!!」

 

 瞬間加速(イグニッション・ブースト)で一気にラウラへと突撃した一夏は、呼び出した雪片を上段に構えてラウラ目掛けて振り下ろそうとした。しかし、その動きはラウラが手のひらを向けた瞬間に突如ピタリと止めてしまった。

 

「開幕直後の先制攻撃か、わかりやすいな。」

「そりゃどうも。これしか出来ないもんでね。」

 

 黒い雨のAICによって動きを封じられていた一夏だったが、前回と違って落ち着いていた。そして一夏は、かつて雪片を振るっていた姉である千冬との会話を思い出していた。

 

 

 

『雪片しか使えない白式が欠陥機……』

『当然だろう。刀一本で銃に向かって行くなど自殺行為だからな。だがないものを羨んでいても仕方ないだろう。それよりは自分の能力を活かせ。それに戦いには口火を切る役目は必要不可欠、一番危険で最も勇気の要る役割だ。』

 

 

 

(千冬姉のように行かなくとも俺は仲間が勝つための……勝利を切り拓く鏑矢(かぶらや)であればいい……大切なのは、前に出る勇気!)

 

 覚悟を決めていた一夏の考えなど露知らず、ラウラは勝ち誇るように笑みを浮かべてあざ笑う。

 

「前に出るしか能のない貴様を始末するなど造作もない!」

「千冬姉だって剣一本で世界を制したんだぜ?」

「貴様と教官は違う! 身の程を知れっ!!」

 

 一夏の挑発に苛立ちを募らせたラウラは、未だAICの効果で身動きの取れない一夏へと背後のレールカノンの標準を向けた。

 

【 警告 】

【 大型レールカノン ロックオン 】

 

 白式から表示された画面を見ることもなく、一夏は笑みを崩さなかった。もとよりこれが彼の——彼らの作戦でもあったのだ。

 

「俺だって千冬姉のように出来るなんて思っちゃいないさ。それでも——仲間のサポートくらいやってみせるさ!」

 

 一夏がそう言い終わると同時にレールカノンから弾が発射された……しかし、その一撃は白式の背後から飛び出したシャルルのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡが放つアサルトカノンの一撃で撃ち落とされた。

 

「チッ……!」

 

 レールカノンの砲撃を撃ち落とされたのを確認したラウラは、ISを後退させて一旦距離を取ろうとする。

 

 その隙を逃すまいと、シャルルはアサルトカノンから素早く重機関銃に持ち替えると、加速してラウラを追尾しながら連射する。

 そのシャルルとの距離を詰めながら箒が葵を装備して斬りかかろうとする。しかし箒は、ハイパーセンサーの端でシャルルと自分の間に入り込もうと加速する一夏を視認すると深追いをやめて、ラウラと同じように、しかし別方向へと一旦後退した。

 

「——っと!」

 

 そのまま箒の攻撃を防いで隙を作る気でいた一夏は少し面を食らいながらも、態勢を整えてシャルルと互いの背中を預ける。

 シャルルの前にはラウラ、一夏の前には箒が相対している。

 

「今のはバレないと思ったんだけどな……!」

「うん。一夏の言っていた通り、篠ノ乃さんも腕を上げてるみたいだね。けどここは作戦通りに……!」

「ああ、プランAだな!」

 

 そう言葉を交わした両者は素早くポジションを変えて、各々の想定していた相手へと突っ込んでいった。

 

 ラウラを相手に雪片で近接戦を仕掛ける一夏、逆にシャルルはアサルトカノンで箒を砲撃しながら距離を取っていた。

 

 二人が立てていた作戦は、その名もズバリ【箒を先に倒そう作戦】。

 作戦名通り、まず危険度の低い箒を優先に落とそうという作戦だった。あちらはチームワークがハッキリ言って壊滅的、箒が危機に陥ってもラウラが助ける事はまず無いだろう。と言うのが理由だった。

 当初の予定と比べて想定外だったのは、一夏が考えていた以上に箒が腕を上げていたことだろう。しかし二人にはこれしか勝ち筋が無かった、故にこの作戦を強行することにしたのだった。

 

 

 

 トーナメント出場を辞退し、観客席で四人の試合を見ていたセシリアと鈴はそれぞれ思っていたことを口に出していた。

 

「まああれが妥当な判断よね。二人がかりでアイツに襲いかかっても箒ちゃんの邪魔が間違いなく来るだろうし。」

「ええ。それにデュノアさんの機体と戦い方は、篠ノ乃さんと打鉄と相性は悪いですし。でしたら、デュノアさんと篠ノ乃さんで一騎打ちに持ち込んだ方がまだ希望もありますわ。」

 

 事実、シャルルの行う戦闘技術の一つ、< 砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート) >は『斬り合っているとすぐさま銃に持ち替えて近接射撃を、間合いを離せば剣に持ち替えての近接格闘を』という、一定の距離と攻撃のリズムを保つ攻防ともに安定した戦い方だ。

 接近戦を得意とする箒にはこれ以上なく戦いづらい相手だろう。思うように近づけず、かと言って射撃への対処に気を取られらと接近戦、そしてそれに合わせて仕掛けようとしたら再び射撃で距離を離される……。

 

 最も、そのような戦い方を見越して彼女に特訓を課した者が居たのだが、その事実を知る者はこの学園の中には誰一人としていない。

 

「それはどうだろうな?」

「うわっ、戦兎アンタいつの間に……! というかなんでここに居んのよ?」

「試合内容にキレたどっかの誰かさん達が乱入しないかの監視を、織斑先生直々にな。」

 

 並んで観客席に座っていたセシリアと鈴のすぐ後ろの空いている座席から身を乗り出して、二人の座席の背もたれ部分にもたれかかりながら戦兎が呟いた。

 何よー! と抗議の目を向ける鈴を差し置いて、セシリアが気になったことを聞き出そうとしていた。

 

「それより、さっきのは一体どういうことですの?」

「まあ観てなさいって。きっと面白い物が観れるぞ。」

 

 はぐらかす戦兎の言動に揃って首を傾げたセシリアと鈴は、言われた通りアリーナへの視線を戻した。

 

 

 

 たしかに最初のうちはシャルルの戦術に翻弄された箒だったが、しばらくするとシャルルの動きにわずかに、しかし確実に対応していった。対応の厳しい近接射撃は、無理に防いだり避けようとせずに葵で斬り裂き撃ち落としていた。

 間合いを離したときに近接格闘を仕掛ける砂漠の逃げ水のスタイル上、常にまとわりついて対処していくこの箒の戦い方は、今のシャルルにとって非常に不味かった。

 

 たしかに箒は全ての射撃を避けられてはいなかった。それはシャルルの動きに慣れてきた今も同じ。避けられるものは避け、楯や葵で防げるものは防ぐ。しかしそれらが無理だと判断されたものは打鉄に命中し、シールドエネルギーを確実に削っていった。

 楯を呼び出せば被弾を抑えることが出来たかもしれないが、シャルルの特技である高速切替に対応できない。故に箒は葵を装備したままだった。このままでは箒が敗北するのは時間の問題だろう。

 

 しかしそれは一対一での話であり、これは二対二だった。

 

 二人からわずかに離れた場所では一夏とラウラが戦っていた。一夏はなんとかラウラにAICを発動させまいと果敢に挑んでいたが、それもいつまでも持たないだろう。

 ラウラには二人がかりで挑まなければ勝てない。それが今戦っている者たちの共通認識だった。そのため、シャルルからしてみればすぐに終わらせたいと思っていた戦いを長引かされることは、何より避けたかった。

 

 

 

 しかし一方で、箒もまた焦りを感じていた。

 このまま行けば勝てるだろう。しかしあと一手が欲しかった。

 当初はラウラが勝手に戦うだろうと考えて、自分は二対一にだけはさせないことを優先していた。

 

 しかし、それは果たして勝利と言えるのか……優勝したら付き合って貰うと宣言した一夏や、こんな自分に手を差し伸べてくれた戦兎に、自分が優勝したと胸を張って言えるのか——と。

 はっきり言ってしまえばプライドに近いものだった。抱いてはいけない、しかしどうしてもそのことを考えてしまう。

 

 その心の揺らぎが隙となった。

 

 シャルルが近接ブレードを構えて自身に突っ込む際、さきほどまでと同じように葵を両手で握りしめていた箒だったが、突如シャルルの動きが今まで以上に加速した。

 

「なっ——」

 

 困惑する箒を他所に、シャルルは高速切替で近接ブレードからシールドに装備を切り替えると、その勢いのまま全身で箒へと体当たり……シールドチャージを行ってきた。

 

 とっさに防ごうと斜めに構えた葵が真っ二つに折れながら弾かれ、箒自身もまた勢いよくアリーナの壁へと叩きつけられた。

 

「がっ……!」

 

 肺の中の空気が口から漏れ出すような感覚を覚えながら、箒は顔を上げて目の前のシャルルの姿を確認すると同時に、今起こったことを察した。

 

「瞬間加速か……!」

「一夏の見よう見まねだよ……僕も上手くいくとは思わなかった。」

 

 今までの模擬戦や訓練の時間でシャルルが瞬間加速を行ったことはなかった。シャルルの言う通り、今のはぶっつけ本番だったのだろう。

 

「これ、出来るならボーデヴィッヒさんとの戦いで使いたかったんだけどね。」

 

 そう続けながら、シャルルは数メートル離れた先の壁に叩きつけられていた箒へとアサルトカノンの銃口を向けた。

 

【 警告 】

【 アサルトカノン ロックオン 】

 

「前に私自身似たようなことをしていたと言うのに、雑念が多すぎたのか……。」

 

 打鉄の残りわずかなシールドエネルギーと目の前の光景……敗北を察すると、箒は目を伏せた。

 

 

 

「あ、箒ちゃんたちの方決着がついたみたいね。けど、悔しいけどかなり頑張ってた方じゃない?」

「ええ……専用機持ちを相手にあそこまで戦えたのですから、本当に健闘してましたわ。」

 

 一夏とラウラの戦いを見ながら、もう片方の決着がつきかけたことを感じた鈴とセシリアはそれぞれ箒を評価していた。

 しかし、そんな二人とは対照的に戦兎は未だに笑みを浮かべて見守っていた。

 

「いいや、ここからが本番だ……そうだろ?」

 

 

 

(ああ、そうだ……まだ諦めるわけにはいかないか……。)

 

 最後の瞬間まで全力で——そうでなければ、勝とうが負けようが一夏に想いを告げるなど夢のまた夢だ。そう言い聞かせながら、箒は頭をフル回転させる。

 

(二本有った葵の内、一本はあの攻防ですでに破損、残る一本……手に持っていた葵は折れて吹き飛んでしまった。アサルトカノン相手では、焔備による射撃では撃ち落とせない。楯で防いでも連射されれば対応できない。数発当たれば先にシールドエネルギーが尽きるだろう。)

 

 やはりダメか。そう考えつつも箒は急いで今の自分に出来る精一杯、装備の確認を行った。表示された武装はやはり焔備と楯……

 

 そう考えていた箒の目に、発射されたアサルトカノンの光と共に、拡張領域内の装備の中に見慣れない名前が入り込んでいたのが見えた。

 

(かなで)

 

(か、奏……? そんな装備は……だが今は!)

 

 考えるより先に体が動いた。目前に迫り来るアサルトカノンを感じながら、その詳細一切不明の装備を呼び出(コール)した。

 

 

 箒の立っていた場所が爆煙に包まれた。誰もが一人の脱落を確信していただろう。しかし、アリーナに取り付けられていた巨大なモニターに表示されていた打鉄の残りエネルギーは、さきほどと変わっていなかった。

 

「え……!?」

 

 防がれた。そう察したシャルルは、箒が態勢を立て直すよりも先に一旦距離を置くか考えた。しかし、これ以上箒に時間を取られるわけにはいかない……そう考えると、警戒を強めつつ近接ブレードを呼び出して煙の中へと突撃を試みた。

 

 煙の中にそびえ立つわずかな影を捉え、そこ目掛けて近接ブレードを振り下ろした。

 

 ガキンッ! と金属同士が激しくぶつかり合う音をシャルルが耳にしたときには、周囲の煙が風に流されて晴れていた。

 

 

 煙の中から出てきた箒と打鉄は、さきほどまでと比べて特に変化はなかった。

 しかし、その手に持っていた葵に似た日本刀のような武器は、打鉄本来の装備のどれにも該当しないものだった。

 

 柄と縁は青く、刀身の形状は葵とあまり変化がないが、少しだけ長くなっていた。そして長くなった分、中心に緑と赤いメーターのようなものが付いていた。

 剣首……いわゆるグリップエンドには装飾が取り付けられて掴みやすくなっていた。

 

「な、なんだあの武器……打鉄にあんな物は……」

「なんだコレは……どうすればいいのだ!?」

 

 箒とシャルル、双方ともに困惑状態だった。特に持っていた本人の箒は咄嗟に呼び出して使った上、どう見ても打鉄の物とは思えない武器を待っていたからか、シャルルよりも動揺していた。

 

(い、いつのまにこんな物が……いや待て、そういえば確か……)

 

 そこで箒は試合開始前のことを思い返した。

 拡張領域の設定の際、終わらせた覚えがなかったにも関わらず、すでに設定が完了していたことを。

 

 普通、ISの細かい設定は操縦者やかなり近くの人間にしか変更、決定はできない。ましてや拡張領域の設定など自分が決めて設定せざるを得ないのだから。

 しかし彼女には覚えがあった。操縦者自身にバレないように装備一つを侵入させ、かつ外部からそれら設定を弄れるような科学力、技術力、そして行動力を併せ持った人物を。それも二人。

 一人は自分の姉にしてISの生みの親たる篠ノ乃束、そしてもう一人は今日まさに出撃前に会っていた桐生戦兎だった。

 

 そこで箒は思い出した。拡張領域設定終了直後にモニターを視認するよう指示していたのも他ならぬ戦兎であった。更に言うならモニターから視線を外した際に、ポケットに手を突っ込んでいた。

 もしもあの中に、この武器をインストールするのに使った端末などがあったとしたら……。

 

 

 

「アレは一体……?」

「何アレ?あんなの打鉄には無かったでしょ!」

 

 観客席にも困惑と戸惑いの声が上がっていた。セシリアと鈴もまた身を乗り出して武器を確認していた。そんな二人とは対照的に、戦兎は落ち着いて、しかしドヤ顔で解説し始めた。

 

「多領域対応ブレード『(かなで)』……正式名称は『ビートクローザー Mk-Ⅱ』、いわば対専用機戦特殊兵装だ。」

「え、まさかアレ作ったのアンタ!?」

「ですが、打鉄固有の武器でないならアレはルール違反なのでは!?」

「一応模擬戦とかトーナメントの全ルールをちゃんと確認したけど、『開発した装備を訓練機に装備させて持ち込むことは禁止する』なんて制限はどこにも無かったぞ?」

「「それは前例がないから——」」「でしょ!」「ですわ!」

 

 しかし二人の抗議などどこ吹く風、戦兎は終始誇らしげに自慢していた。

 

「周り三人とも専用機持ちだぞ、多少のハンデがあっても当然だろ。」

「他にも訓練機を駆っている生徒はたくさんいますわ!」

「そうよそうよ!」

「どっちにしろ今回のトーナメントに参加した一年の専用機持ちはあの三人だけだろ。それに、専用機相手にしか使えないように設定してるしな。」

 

 セーフティー機能があるため他の訓練機を相手にするときは使えないと言い張る戦兎。全ては管制室で試合を確認している教師たちに判断が委ねられた……。

 

 

 

「えーっとぉ……織斑先生、アレはどうします?」

「……あの馬鹿者、またルールの穴を突きに来たか。」

 

 管制室では困惑する山田先生と、頭を抑えて思案する千冬の姿があった。専用機であるL&P同様、ルールにないことを利用して無茶苦茶やり始める、生徒にして仮面騎士(ライダー)でもある桐生戦兎という生徒の奇行をどう対応するか……。

 

 しばらく考えてから千冬は大きくため息をついてから口を開いた。

 

「まあ、ルールにない物を取り締まっても仕方ないだろう……許可するしかあるまい。」

「分かりました。……それにしても織斑先生、今の一年生の子たちが入学してからため息が増えて来ましたね。」

「それだけ問題児と馬鹿どもが多いということだ……今年は特に先が思いやられる。」

 

 心底うんざりと言った様子の千冬の愚痴に、山田先生は苦笑を返すしかなかった。

 

 

 

 箒が奏を取り出してわずかに時間が経った。しかし一向に中断させられる様子はなかった。

 

「これは……有り、なのか? 良いのか使って?」

「多分大丈夫じゃないかな? 先生方も特に止めようとしないのなら。」

 

 戦闘を再開して良いのか分からず動きを止めていた箒とシャルルは、教師からのストップが入らないことを確認すると、ようやく試合を再開させ始める。

 

「ごほんっ!……では仕切り直して……行くぞッ!」

「ほんとは対策できっこない未知の武器の相手はごめんなんだけどね!」

 

 そう言いながらシャルルは新たに重機関砲を呼び出して、箒目掛けて乱射した。

 箒は銃口からその射線を予測すると、加速した勢いのまま回避、避けられそうにないものは手に持っていた奏で斬り伏せて完全に防ぎきった。

 

(不思議だ……初めて持ったはずだと言うのに、違和感を感じない。むしろ今までも振るってきたかのようだ。)

 

 大きさが葵とあまり変わらないからだろうか、そう考えながら箒は距離を詰めるべく更にスラスターを吹かせて加速した。

 

 

 

「アレには中学時代の篠ノ乃の剣道の試合データが全てインプットされた上で調整されてるからな、違和感もないはずだ。これで俺がネット中の至る所から試合データを掻き集めつつ視聴したのも報われたわけだ。手ブレの多いホームビデオから取り込むときはどうしたものかと頭抱えてたしな。」

「そんなに……それよりも、もしかしてなのですが……」

 

 腕を組んだまま空を見上げていた戦兎の信念に尊敬と若干の引きを感じていたセシリアの思っていたことを、鈴がニヤニヤ笑いながら引き継いで直接確かめた。

 

「戦兎って箒ちゃんのこと——」

「いやそれはない。一番最初に頭下げてきたのがアイツだっただけだし。あと正直タイプじゃない。」

 

 即答、それもバッサリ。

 あ、これは本当に脈がないパターンだ。と察した二人は試合の観戦に戻った。

 戦兎手製の武器に話題を持っていかれてしまっていたが、見れば二人にとっての本命である一夏とラウラの戦いもまた動きが見られた。

 

 

 

 「くっ……!」

 

 ここまで回避やAIC発動の阻止に集中し続けていた一夏だったが、ワイヤーブレード数本を雪片で切断した隙を突かれてAICで拘束されてしまっていた。

 

「では……消えろ。」

 

 ラウラは笑みを浮かべつつ吐き捨てるようにそう言うと、残ったワイヤーブレードを発射して一夏を攻撃、そのまま一夏と白式を拘束するとグラウンドの地面に叩き付けられた。

 

「がっ——!」

 

 地面に強く叩きつけられ倒れこむ一夏。そんな一夏を笑いながら見下ろすラウラは、黒い雨の背後のレールカノンを起動させ、砲門をまっすぐ一夏へと向けた。

 

「トドメだ。」

 

 AICによって拘束されたままだった一夏は、悔しそうに上空のラウラを睨んでいた。そのラウラがレールカノンを今まさに発射しようとする——しかし、つい先程まで悔しそうにしていた一夏が、今度は笑顔を見せていた。

 

「……忘れたのか? 俺たちは、二人なんだぜ?」

「な——」

 

 なにを言っている——そう言いながら放とうとしていたラウラの一撃は、後方から聞こえる発砲音と自身のすぐ横から響き渡る轟音によって防がれた。

 

 ドガアァン! そんな音ともに、黒い雨の主武装であるレールカノンが破壊された。

 

 発砲音の主人……シャルルは一夏のピンチを確認すると、箒の奏による一撃を敢えて受け止めていた。シールドエネルギーは減ってしまったが、この戦いにおける最大の難敵を……一夏自身の目標だったラウラを倒すことを優先したのだ。

 

「くっ……!」

「一夏っ!」

 

 倒れ込んでいたため視界には居なかったが、それでも確かに感じる相棒の気配と声を耳にした一夏はより一層笑顔を増していた。

 ラウラが破壊されたレールカノンに意識を向けている今、一夏はAICの拘束から解放されていた。

 意識が移ることによるAICの中断は、以前のラウラとの戦いで戦兎が不意打ちしたことにより察することができた。

 そして彼女と戦兎の戦いによって、その察しは確信へと変わった。これも彼女が怒りに任せて戦兎を深追いしてしまったが故だ。

 スラスターを吹かすと、一夏はまっすぐラウラへと突っ込んで行った。

 

(最初に二対一って言ったのはそっちだ……。阻止できなかった箒のせいにするなよな!)

 

 心の中で叫ぶが速いか、一夏は雪片を構えつつ白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)である零落白夜を発動して、ラウラの目前まで迫った。

 

 

「やらせるかっ!」

 

 ラウラの旗色が悪いと判断した箒はシャルルを突き飛ばして距離を置くと、奏の剣首にあたるグリップを二回引っ張った。

 

Solo(ソロ)

Duo(デュオ)

 

 引っ張るたびに奏からコーラス、そして不思議とよく響く女性の声が流れ、刀身のメーターに光が溜まっていった。

 引っ張り終わるとその刀身に波形状のエネルギーがまとわりついた。

 エネルギー刃が完全に形成されると、箒は奏を一夏目掛けて振った。その動きに合わせて、刀身にまとわれていたエネルギー刃が衝撃波として一夏目掛けて飛んで行った。

 しかし、箒がその一撃を放つことはすなわち、相対するシャルルに隙を見せるということだった。

 直後、シャルルから発砲されたアサルトカノンの一撃を受けた箒はその場から吹き飛ばされた。

 

「くぅっ…!」

 

 地面にぶつかってから、箒の操縦していた打鉄がエネルギー切れにより解除されてしまった。

 

 負けてしまった。しかし、箒は不思議と敗北感自体を感じてはいなかった。想定外の事態は起こってしまったが、専用機持ちに肉薄出来たのだ、と。

 

(だが、私もまだまだ……と言うことか。)

 

 

 一方、その箒が最後に放った一撃は一夏に充分な効果を発揮していた。

 

 

「うおっ!?」

 

 横から迫ってきた箒の一撃を思わず零落白夜で防ぐ一夏。消滅させた後、返し刃でそのままラウラを斬りつけようとする。

 しかし、今まさにラウラを斬るというタイミングでエネルギーが底をついた。

 

 目の前で零落白夜を解除した白式の雪片を前に、ラウラは一瞬箒の方を見る。

 

「余計な真似を…!」

「やらせない!」

 

 そう呟きながら、ラウラは一夏へと手を向けてAICを発動しようとした。しかし、それは一夏を庇うように立ちはだかったシャルルの援護射撃によって中断される。

 ラウラは苛立ちを募らせながら残ったワイヤーブレードを射出する。

 

「うわっ!」

 

 シールドでワイヤーの防御を試みるものの、わずかな隙間を突いた一撃によってエネルギーが減っていく。しかしシャルルは援護に使っていたアサルトカノンを放り捨てると瞬間加速を発動した。

 

「そのパターンはすでに知っている!」

 

 突撃するシャルルへと手を向けたラウラはAICを発動しようとした……

 

【 警告 】

【 アサルトカノン ロックオン 】

 

 しかし、手を向けるラウラに黒い雨がアラートを発した。気付いた時にはすでに遅く、背後からアサルトカノンの一撃を貰っていた。

 

「!?」

 

 急いで後方を確認したラウラの視界の先には、さきほど突進してくる時にシャルルが放り捨てたアサルトカノンを手にした一夏と白式の姿があった。

 

 それと同時にシャルルは自身の奥の手を発動した。

 固定アームによって変形した、シールドの裏側に装備されていたそれ——灰色の鱗殻(グレー・スケール)……通称盾殺し(シールド・ピアース)と呼ばれるパイル・バンカーをラウラに押し当て、そしてそのまま発動した。

 

 ズガアァン! ズガアァン!!

 

 何度も杭を打ち込む音がアリーナに響き渡った。そして数発食らったラウラは勢いよくアリーナの壁に叩きつけられた。

 

 

(こんな……こんなところで負けるのか私は……!?)

 

 すでに前方からパイル・バンカーを構えたシャルルがこちらへ加速していた。かたやラウラは未だにアリーナの壁に叩きつけられたまま……だれの目に見ても勝敗は明らかだった。

 

(いや……負けられない、負けるわけには行かない……!)

 

 

 

 

 鉄の試験管の中から生まれ、ただ戦いのために作られ、生まれ、鍛えられてきた彼女は、時代の変化——ISの登場に合わせて、適合性向上ために処置が施された。それが彼女の眼帯の下に存在する瞳 <ヴォーダン・オージェ> だった。

 

 危険性は無かったはずのそれは、彼女の瞳を金色へと変質させると制御不能となった。結果それまで最優、最強だった彼女は他の部隊員から遅れを取ることとなった。

 部隊員たちからの嘲笑や侮蔑、そして出来損ないの烙印を押された彼女を救ったのがドイツに教官として配属された織斑千冬だった。

 

 彼女の指導、そして教えによってラウラは再び最強の座に戻ったラウラは千冬に強い憧れを抱くようになった。——こうなりたい、この人のようでありたいと。

 

 しかし、彼女の理想はある時を境に打ち砕かれた。それは千冬に『何故そんなに強いのか』と直接聞いた時だった。

 

『私には弟がいる。あいつを見ているとわかる時がある……強さとはどう言うものなのか、その先に何があるのかをな。』

 

(それは違う、私が憧れる貴方ではない。強く凛々しく堂々としてるのが貴方なのに……許せない、認めない、教官にそんな表情をさせる存在が……!)

 

 わずかに彼女の顔に浮かんだ笑顔、彼女に相応しくないそれを……そうさせる存在を強く憎んだ。故にラウラはこのIS学園にやって来たのだった。

 

 それは走馬灯のように、しかしラウラ自身のに強く訴えかけた。

 あの男を倒せ、叩き伏せろ、壊せ——と。

 

[ 願うか? 汝、自らの変革を望むか? より強い力を欲するか?]

 

 誰かの声が聞こえた気がした。しかしラウラは声の主人を気にすることなく、心の中で叫んだ。

 

(寄越せ…! 唯一無二の絶対を……比類なき最強を!!)

 

 

 

【 Valkyrie Trance System 】

 

 黒い雨に何かの文字が表示された直後、黒い雨から電流のようなものが流れ始めた。

 

「あああああああぁっ!!」

 

 その異変はグラウンドに居た三人だけでなく、観客席に居たものたちでさえ気付くほどだった。悲鳴をあげるラウラ、その身体に纏っていた黒い雨は、黒い泥のようになって溶け始める。

 

「な、なんだ!?」

「わからない……形態移行じゃなさそうだけど……!」

 

 困惑する一夏とシャルルの前で、溶けた黒い雨が人型に再構築された。そのシルエットはISを纏った女性そのものだった。

 黒い雨……それが再構築された『なにか』は、一本の剣を取り出した。それは一夏もよく知る形状だった。

 

「雪片……!?」

 

 驚く一夏を他所に、なにか——VTSが真っ直ぐ一夏へと突っ込んだ。

 一夏は咄嗟に雪片を使って直撃を防ぐが、VTSの剣撃で雪片を弾かれてしまった。

 自身の後方へと弾かれた雪片に気を取られて視線を向けた一夏は、直後踏み込んで放たれたVTSの一撃をかわすことが出来なかった。両腕でガードを試みるものの、その一撃で限界を迎えていた白式のエネルギーが完全に尽きてしまった。

 

(ここでシールドエネルギーが底をつくとか……!)

 

 ISを解除され地面に投げ出された一夏は、目の前のVTSを睨んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの観客席では予期せぬ事態により、教員に誘導された生徒や観客たちがアリーナの外へと避難していた。

 そんな中、その動きとは全く逆にアリーナのグラウンドへ走る者がいた。

 

(あの動きは恐らく織斑千冬のもの……ターゲット・サーチャーで黒い雨をスキャンした時に違和感を感じたが、その正体がアレか……!)

 

 避難が本格的になるよりも早く観客席を飛び出してアリーナの廊下を走っていた戦兎は、真っ直ぐグラウンドに出る通路を目指していた。

 観客席からではピットは遠く、それよりもグラウンドに直接出た方が早いと判断したためだ。

 しかし、今走っている通路もいずれ避難した人々が通ってくる。そうなれば教師によって、自分も無理矢理避難させられるかもしれない。そう判断した戦兎はなるべく急いでいた。

 あとはこの通路の中程にある曲がり角を抜ければ、グラウンドは目の前だ。

 戦兎は自身のISであるL&Pをいつでも展開可能な状態にして、最後の曲がり角の通路へと飛び込んだ。

 

(とりあえずISのエネルギーが切れた二人の救助が優先だ! 一夏の奴は多分俺も戦うって言って聞かないだろう。なんとか説得して、それからあのISを——)

 

 

 

《よう。》

 

 

 

 最後の通路を進んで数歩進んだ戦兎は自分の後ろ……曲がるときに見えなかった死角から声を掛けられて、その足を止めた。

 

 グラウンドに居る一夏、箒、シャルルの三人のこと、暴走するラウラとISのこと……その声を聞いた瞬間、全てが戦兎の頭の中から消し飛んだ。

 

 

《そんなに急いで、どこに行くんだァ?》

 

 

 聞き覚えのある声だった。忘れることは無かった。忘れるはずなど無かった。

 理性がグラウンドに急げと警告する。本能が今すぐ『アイツ』を倒せと叫ぶ。

 

 一瞬の判断の末、戦兎はゆっくりと背後を振り返った。

 

 通路の壁にスマッシュとも違う、一つの異形がもたれかかっていた。

 血のような赤いボディに緑のバイザー……そして胴体のコブラを模したパーツ。

 戦兎たちの世界で幾度となく立ちはだかった敵——ブラッド・スタークの姿がそこにあった。

 

《初めましてだな、えぇ? 桐生戦兎ォ……!》

 

 手を振りながらの自己紹介——あからさまな挑発を受けて、戦兎は叫んだ。この世界に来て以来、最も強く……。

 

「ッ……………エボルトオオオオオオォ!!」

 

 戦兎は取り出したドリルクラッシャーを手に持ってスタークに襲いかかる。

 

「うおおおっ!」

 

しかしその一撃をあっさり避けたスタークは、呆れたような動作をしながら戦兎に声を掛ける。

 

《オイオイ……折角の再会だってのにいきなり攻撃とは、随分なご挨拶じゃねぇか……さっきお前の姿を見た時、俺ちょっとウルッと来ちまったんだぜェ?》

「黙れ!! どうしてまだお前が生きている! あれもお前の仕業か!?」

 

 怒声を上げたままドリルクラッシャーでの攻撃を続ける戦兎だったが、肩を竦めたスタークはその一撃を手で軽々と掴んで戦兎の動きを止めると、そのまま自分の頭部を戦兎の顔に近づけながら迫った。

 

《どうしてだと? ……そいつは、お前と万丈龍我が俺を倒し損ねたからじゃあねぇのかァ……?》

 

 そう言うとスタークは隙だらけだった戦兎の腹部にキックを放った。反応が遅れた戦兎は、勢いよく廊下を滑って反対側の壁にぶつかった。

 

「ガッ……くっ……!」

 

 戦兎はなんとか起き上がると、目の前のスタークを強く睨みつけた……。




 最初の方に出たユニコーンのスマッシュは、ランスを装備して機械っぽい見た目になったホースオルフェノクというイメージです。ビルドの首を締めた時の流れは、草加くんの首を折る時と使徒再生のオマージュです。
 なので今思えば、前回戦うスマッシュを狼かサメのスマッシュにすれば良かったと後悔中。タイミングの問題ですけど。


 本作オリジナル装備 奏は劇中でも述べた通り、IS装備用ビートクローザーという設定です。クローズのビートクローザーと違い、三段階から六段階に増えています。

・名前は「ヒッパレ奏剣 DXビートクローザー」から
・音楽関連のワードはIS第1期のアンコールOVAのタイトル「恋に焦がれる六重奏」から
・動作のたびに数が増える音声が鳴りつつ、コーラスなどが流れるのは「ウルトラマンジード ロイヤルメガマスターのキングソード」と、その音声「アン・ドゥ・トロワ」から
・アナウンスボイスは最近主演声優として人気であり、ベルナージュの中の人でもある「雨宮天さん」のイメージです。

 ちなみに戦兎的にはもっと賑やかな音声が好きだから奏の音声は味気ないと考えてると思います。
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