Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

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 仮面ライダージオウ最終回&仮面ライダーゲイツ決定
 令和初の仮面ライダー、仮面ライダーゼロワン放送開始
 仮面ライダービルドNEW WLORD 仮面ライダーグリス放映
 サンデーGXコミカライズ IS第7巻発売
 そしてこの作品もお気に入り1000件突破&1周年

 なのに遅れに遅れてしまいました。大変申し訳ございません。そしてお待たせいたしました。
 既に次の話は出来ていますが、サブタイトルがネタバレなことと誤字脱字等のチェックもあるので、次の話は明日〜数日後に投稿します。

 ここから心機一転、初投稿です。


ひとりぼっちのヒーロー

 遂に幕を開けたIS学園 タッグマッチトーナメント

 第一回戦の一試合目は、一夏とシャルロットの男コンビと篠ノ之とボーデヴィッヒの凸凹コンビの試合となった。

 

 仮面ライダービルドに変身する桐生戦兎は、自らの正体を知りつつ一時的に助手となった篠ノ之に特訓を課しつつ、専用装備であるビートクローザーMK-Ⅱ 『奏』を与えることでその実力差を埋めることにした。……まあ結局篠ノ之自身は敗北しちまったが、本人は満足気だった。

 

 ところが、その相方であるボーデヴィッヒとISが突如暴走。その姿をIS学園の教師であり、世界最強と言われた一夏の姉 織斑千冬を模した姿へと変化させた。

 

 現場に駆けつけようとした桐生戦兎だったが、その眼前にビルドの世界からの因縁の敵、エボルト——ブラッド・スタークが立ちはだかる!

 

 一体どうなる!? 第17話!

 

———————————————————————

 

 

 

 

 廊下に倒れながらスタークを睨みつけていた戦兎。

 彼から鋭い視線を向けられながらも、スタークは気にも留めずに話を続ける。

 

《それから、あのISを暴走させたのは……俺じゃないぜ?》

「お前じゃなかったら、一体誰がやったって言うんだよ」

 

 戦兎は身体を起こしながら吐き捨てると、スタークの一挙一動を見逃すまいと身体を向けて相対する。

 対してスタークは、答える必要が全くない戦兎の問いに親切に答える。まるで余裕を見せつけるかのように。

 

《決まっているだろう? ラウラ・ボーデヴィッヒが所属しているドイツ軍、それから研究者たちだ……あのVTS(ヴァルキリートレースシステム)は、その名の通り織斑千冬の現役時代のデータを再現するためのものだ。奴は一時期ドイツに居たからな、連中はこの国と同じくらいデータを持っていたんだろう》

「……じゃあなんでお前がここにいる?」

《だから言っただろ、お前の顔を見てやりたかったんだってよォ。そしたらたまたま偶然そのVTSが起動したってわけだ》

「どうだかな。お前の話なんて——」

 

 肩を上下させて笑いながら答えるスタークにイラつきを感じながら戦兎は口を開く。

 だがスタークは笑うのを止めると、戦兎の言葉を遮る。

 

《そうやって自分たちに都合が悪いことが起これば、誰かが悪意を持って行動したと考える……お前たち地球人の醜い汚点だなァ》

「今までだってお前の——」

《事実だろう? 例えばそうだな……パンドラボックスの光を浴びた人間は、非常に好戦的な性格になるのは知ってるな? そいつぁ逆に言えば、口ではどう言い繕っても心のどこかでは他人を信用せず、自分との間に線引きをしているって証拠だ。現に多治見や御堂、氷室幻徳といった連中も、些細なことで敵対者やらスパイの存在を信じて疑わなかった……三国に取り入って立ち回った俺の苦労も知ってほしいもんだな》

 

 やれやれといった様子で首を振るスターク。しかし、その動きに彼の考え、真意を見受けられなかった。

 

《どの星でもそうだが、生き物っていうのは1人きりだ。真に理解し得るのも、自分自身のことを考えるのもだ。他人が心の奥底で何考えてるかなんざ知るわけがない。ドイツの代表候補生もそうやって自分1人で閉じこもってしまったんだろう。だからこそ、ドイツの科学者連中はきっかけでしかなく、問題は奴自身にあるんだろうよ。

 例外は、他者を格下として認識しすぎたせいで敵としてすら捉えていない神代ツルギくらいだ。いや奴はなかなか面白かったよ……ハザードレベルが2を超えちまったから、もうスマッシュにはできないがな》

「やっぱりアイツの一件もお前の仕業だったか」

 

 彼自身の話から、エボルトの存在と関与を疑っていた戦兎は、やはり自身の思い過ごしではなかった事を悟った

 

《当然だろう? お前も薄々気づいているだろうが、この世界でも俺に必要なのはパンドラボックスと俺自身の力を解放するロストフルボトル、そして新世界の扉を開くブラックパンドラパネルだ。奴なら良いスマッシュになるかもしれんと踏んだが……いかんせん自意識過剰過ぎて普通のスマッシュまでしか影響を与えきれなかった。無理矢理にでもロストスマッシュにすれば、ロストボトル精製前に暴れたり自壊でもやりかねん。今度はもっと肉体的に強く、逆に精神的な余裕を持たない実験体が必要だな》

「んなことさせるかよ!」

 

 あっけらかんと話すスタークの企みを聴いた戦兎は、それを阻止しようとスターク目掛けて駆け出す。

 

 しかし、付近からは未だに避難している生徒たちの悲鳴やざわめきが聞こえている。いつ誰が来るか分からないこの状況で変身するのは不味い……そう判断したのか、戦兎は変身せず生身のままでスタークに接近する。

 

《ったく、生身で俺に敵うわけが……》

 

 無謀な戦兎の行動に呆れたような態度を見せるスターク目掛けて、戦兎は右手でパンチを放とうとした。しかしその腕を光が包むと、一瞬でL&Pの右腕とその装備であるドリルクラッシャー・改が装着された。

 

 

 ガアアァァン!!

 

 

 スタークの目の前まで迫ったドリルクラッシャー・改だったが、その一撃はスタークを捉えることなく轟音と共に廊下の壁に突き刺さる。

 

《おーっと、0.6秒! ISの部分展開でこの速さ、こりゃいつか国家代表クラスに肩を並べれるかもなァ?》

 

 しかし、スタークはこの一撃すら読んでいたようにしゃがんで戦兎の脇をすり抜けることで回避した。挙句部分展開完了までにかかったタイムまで律儀に教えてくる。

 

「くっ……!」

 

 背後に回ったスタークを逃すまいと、戦兎は壁から腕を抜きつつ振り向きながらL&P(ラブ アンド ピース)を起動する。

 

 戦兎の全身を眩い光が包むと、その身体に鳥のような翼を携え、身体に赤と青のラインを走らせた純白のISが装備される。

 

《ほォ〜? そいつがお前の専用機か!》

 

 感心したような声を上げてL&Pを観察するスタークに、戦兎はウイングのエンジンを展開、左手の砲門から砲弾を飛ばしながら接近する。

 

《しかしこの閉所で機動型のISってのは、ちょっと合わねえんじゃねえか?》

「ビルドの行動パターンはとっくに知ってるだろ」

《ハハッ、そりゃそうだ!》

 

 同じ戦法は通用しない……エボルト自身の特徴を把握したうえでの戦兎の選択に納得しながら、スタークは全身のバルブから煙を発生させるとその中からスチームブレードを取り出して弾丸を斬りとばす。

 

《んじゃ、お前のその新たな力の性能テストと行こうかァ? 桐生戦兎ォ!》

 

 蛇の尻尾の形状をした針 スティングヴァイパーを戦兎目掛けて伸ばして攻撃を試みる。戦兎はそれを拡張領域(バススロット)から呼び出(コール)したIS用の大型のロングガトリングガン<ホークガトリンガーS>を右手に逆手持ちの状態で装備して狙撃、迎撃する。

 

 

 従来の手持ちサイズよりも大型化しているとは言え、本来ならこのビルド由来の装備もそう使いたくなかった。

 しかしエボルトが目の前にいるという緊急時、それにこの混乱の中でならビルドその物であればともかく装備程度ならば見られてもなんとかなるだろう。そう考えての選択だった。

 

 

 迎撃される間に、スタークは器用に片手でスチームブレードのバルブを回していた。

 

《エレキスチーム!》

 

 電撃を帯びたスチームブレードを一回転させて構え直すと、スタークはそれまで見せなかった勢いで駆け抜ける。

 対する戦兎もホークガトリンガー・改を閉まって再び構え直したドリルクラッシャー・改を高速回転させて迎撃の用意を整える。

 

 スタークはスチームブレードを、戦兎はドリルクラッシャー・改を互いに打ち付けあい、鍔迫り合いへともつれ込む。

 狭い廊下に、白い機体のドリルと赤い異形の実体剣が火花を散らして激突する……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

「……ッ! ウオオオオオ!」

 

 ISが解除されていた一夏だったが、そんなことを気にすることなく生身のまま目の前のISへと駆け出そうとする。しかし、無謀にも戦おうとする一夏の肩を掴んで箒が制止する。

 

「よせ馬鹿者! 死ぬ気か!?」

「放せ箒! アイツだけはぶっ飛ばす!」

「いい加減にしろ! 一体なんだと言うのだ!」

 

 箒の忠告をも無視しながら、一夏は変貌したISに怒りの感情を剥き出しにしていた。

 

「あれは千冬姉のデータだ。千冬姉だけのものなんだよ! それを……」

 

 目の前のISの武装、そして動きは彼の姉 織斑千冬と彼女の愛機のソレと全く同じものだった。

 

 だからこそ。だからこそ一夏は我慢ならなかった。

 

 黒いISの初撃、それは千冬が一夏に最も最初に教え込んだ「真剣」の動きだった。

 人の命を絶つ武器の重さ——それを振ることの意味を考える……それこそが千冬が一夏に伝えたかったことだ。

 

 だが、今目の前のISは、一夏が教わった姉の意思を無視して捻じ曲げ、冒涜しているも同然だった。

 

「それに、あんなわけのわからない力に振り回されてるラウラも気に入らない……どっちも一発ぶっ叩いてやらないと気が済まねえ!」

 

 そのためにもまずはラウラを正気に戻す——そう考えていた一夏だったが、それを諭すように箒が現実を突きつける。

 

「理由はわかる……しかし今のお前に何が出来るのだ? 白式のエネルギーとて、もう残ってないのだぞ?」

(……確かに、箒の言う通りだ。意気込みだけじゃ絶対防御は破れない。一撃はおろか、装甲を展開するエネルギーだってないってのに……)

 

 そう考える一夏の耳に、アリーナ全体に備え付けられたスピーカーから避難命令が流れ始める。

 

『非常事態発令 来賓、生徒は速やかに退避すること。これより鎮圧のため——』

「……聞いての通りだ。悔しいとは思うが、お前がやらなくとも——」

 

 避難命令に同調するように諭そうと箒も後に続く。しかし、一夏は既に決意を固めていた。

 

「だから危ない場所に飛び込む必要性はない か? ……全然違うぜ箒。『やらなきゃいけない』んじゃないんだ、『俺がやりたいからやる』んだ……千冬姉に教わった戦う覚悟を否定したら、ここで引いたら……もう俺じゃない」

「一夏……」

「頼む箒。今回だけは俺のワガママに付き合ってくれ」

 

 一夏との問答を経て箒は、先日1人の少年と交わした言葉を思い出していた。

 

 

 

『戦う理由?』

『何故お前は戦うのだ? 力があるというのはわかるが、何も桐生が全てを背負う必要はないだろう?』

『……そういうわけにはいかねぇんだよ。アイツら……スマッシュが現れたのは、きっと俺の責任だ。だから俺がやらなきゃいけねぇんだ。それに——』

『……?』

『それに、みんなと約束したんだ。例え綺麗事でも、世界中の全ての人が笑顔で過ごせる世界……ラブ&ピースの世界を創ってみせるってな』

 

 

 

(同じ男でも、全く違うのだな……)

 

 意思と信念を熱く語りつつも、しかし『やらなくてはいけない』と、そう己に言い聞かせて戦っているように見えるもう1人の少年と違い、一夏は『己がやりたいと思った』ことのために戦おうとしている……そういう意味では、もしかしたら今の2人の少年の戦う理由は、全く同じように見えて正反対なのかも知れない。

 

 けれど、そこにある覚悟の大きさは変わらない——箒にはそう思え、そしてそれが眩しく見えた。

 

「…………ブレーキになると決めたのだがな。ならば私も今回だけは止めないが、何か策はあるのか? 白式のエネルギーはもう——」

「無いなら他から持ってきて補えばいい……でしょ、一夏?」

「シャルル……?」

 

 説得することは辞めつつ案を求める箒と苦虫を噛み潰したような表情で一瞬言い淀む一夏。しかしそんな一夏にシャルルが助け舟を出す。

 

「僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

「本当か!? ならさっそく頼む!」

「……」

 

 エネルギーを互いに共有して移そうと動き始める2人を見て、箒は己が出来そうなことが何かないか思案していた……。

 

 すると、待機状態になっていた訓練用の打鉄からサインが出ているのに気づいた。

 

「これは……奏か?」

 

 電子のパネルを開いて確認すると、エネルギー残量が0の為にほぼ全ての武装が呼び出も出来ず使用不可の中、たった一つだけ例外が存在していた。

 

 奏……桐生戦兎が創り上げた彼女専用武装のみ、打鉄依存の武器ではなく武装そのものに別個にエネルギーが存在していた。試合中、奏を使用したのは後半以降……エネルギー自体は大幅に残っていた。

 

 そしてパネル越しに見れば、エネルギーの共有を行なっていた一夏とシャルルの2人に対して黒いISが雪片を構えていた。

 

「……一夏、私はお前の無謀を止めないが、お前も私を止めないでくれるな?」

「ほ、箒……?」

 

 困惑する一夏だったが、その数メートルほど手前の位置、ISに立ちはだかる形で箒が奏を構えていた。

 

「お前、何やって……!?」

「今のお前とデュノアさんは隙だらけだ。そんな隙を、千冬さんの戦い方を模したあの機体が見逃すと思うか? いや、あの人は試合はともかく練習はフェアで行なってはいたが……」

「……たしかに俺に止める資格は無い……よな。……わかった、けど——」

「心配するな、お前のような無茶だけはしないつもりだ」

 

 短く返した箒は、スゥっと息を吐くと改めて目の前のIS相対する。

 

 奏はIS用の装備ではあったものの、生身の彼女が持って構えてもそこまで重量を感じられなかった。硬さと軽さを両立した万能装備……ということだろうか。

 

 そう考えていれば、視界の先に佇んでいた相手がこちらと同じように構えていた。

 

 どちらからだろうか……否、両者は全く同一のタイミングで地面を蹴った。

 

 ISと生身では天と地ほどの力の差がある……ましてや相手は千冬を模したシステム。しかし、箒にもIS戦に十分通用する力があった。倒すことは不可能でも時間稼ぎならば出来るはず。

 

 

 縦に振り下ろされる雪片を両手で上段に構えた奏で受け流し、空いた懐へ蹴りを放つ。

 かわされる、だがその動きも想定済み。箒はグリップ部分のハンドルを3回引っ張った。

 

【 Solo 】

【 Duo 】

【 Trio 】

 

 日本刀に近い形状をした奏の刀身の中心に備え付けられたメーターに光が溜まっていく。

 そして奏を振ると、その刀身から黄色の鎖のようなものが鞭のように伸びて発射される。

 

 黒いISは自らに接近する鎖を片手で掴むと、それを逆に勢いよく乱暴に振り回す。

 

「くっ——」

 

 円状に勢いよく振り回されて僅かに宙を浮かびながらも、箒は着地と同時に鞭を解除。そのまま一夏とシャルルから気を引くために数歩ほど相手に回り込むように移動する。

 

 相手はIS……ハイパーセンサーによって、真後ろになった一夏たちの姿と様子も見てはいるだろうが、少なくともすぐに対応することは出来ないはず。

 

 直に完了するだろうエネルギーの共有を考えていた箒に、黒いISはブースターを吹かせる。

 

「来る……!」

 

 瞬きするほどの間で箒の目の前に到達したISは、その手に持った雪片を横一閃に切り裂こうとする。

 

 その動きを慎重に見切った箒は姿勢を低くして攻撃をかわす。すぐさま雪片が振り降ろされるのを想定して地面を強く蹴って横っとびの要領で動く。

 縦に振り降ろされた雪片がグラウンドの地面を砕きながら叩きつけられるのは同時だった。

 

「ハァッ!」

 

 次の攻撃が来る前に一撃……そう決心した箒はジャンプで飛び込みながら接近する。返し刃で飛んできた斬撃の風圧を感じながら、奏の一撃を頭部目掛けて突き出す。

 

 しかし、黒いISは虚を突くべく放たれたその一撃を足で蹴り上げる。

 

「……ッ!」

 

 上空に弾かれて飛んでいく奏を一瞬捕捉したあと、箒は落下地点にバックステップを試みる。

 真っ直ぐに突き出された雪片を姿勢を大きく崩しながら回避する。髪を一瞬掠める、まさに危機一髪の状況であった。

 

 落下してきた奏を箒が掴んで構えるのと、ISが再び雪片で切り裂くのはほぼ同時だった。

 

 全身に強い衝撃が走る。しかし箒はそれを押さえ込んで鍔迫り合いへと持ち込んだ。……クッションをつけたりして安全性に配慮したとはいえバイクに轢かれた経験は伊達ではなかったのだ。

 

 ガリガリと不快な金属音と火花を立てて擦れ合う二本の刃。

 

 しかし、いくら修行を重ねたと言っても所詮生身。ISと均衡したのもほんの一瞬でしかなかった。

 

「クゥゥッ……!」

 

 顔に苦悶の表情を浮かべながらも均衡を解こうとしない箒。柄を両手で持っていたが、姿勢が崩れると左手を刀身へと滑らせる。徐々に足を曲げて、膝を地面につけたがそれでもなお耐え続けていた。

 

 ミシッと何かが軋む音が聞こえた。見れば、奏の刀身にいくつものヒビが入り込んでいた。

 

(負荷!? 流石に無理をしすぎたか……!)

 

 自分に出来るのはここまでか。と、そう判断した箒の心の声に応えるように、視界の端に1つの影が見て取れた。

 

 ISもハイパーセンサー越しに視認したのか、箒への攻撃をぴたりと中断してゆっくりと振り返った。

 

 箒とISを挟んだ真後ろには白式の唯一の武装、雪片弐式を携えた一夏が立っていた。

 

「悪い箒、待たせたな」

「遅いぞ馬鹿者!」

 

 短い言葉で無事を確認すると、一夏は目の前のISへと意識を向ける。

 

 目の前の相手は千冬の動きをコピーしている上にISを纏っている。対して今の一夏は武装の雪片弐式とそれを持つ右腕だけ。先ほどまでの箒よりはマシと言えるが、それでも戦力差は絶望的だった。

 

 一撃貰えば重症、最悪死が待っている。しかし、一夏の零落白夜であれば一撃で倒すことが出来る。

 

(2人がここまでのお膳立てはしてくれた。後は俺次第……)

 

 VTSが動く様子はまだない。互いに出方を伺うような状況で、白式のコアからシャルルと箒からのオープン・チャンネルが開かれる。

 

『一夏、君は僕の力になって救ってくれた。だから僕も君の力になった。いざという時は僕たちもすぐに援護に入る——けど、約束して。絶対に負けないって』

『一夏——絶対に死ぬなよ……!』

「……あぁ、勿論だ。ここで負けたら男が廃るからな。必ず帰ってくる!」

 

 2人の仲間に見送ってもらいながら、一夏はオープン・チャンネルを閉じて改めて黒いISへと意識を集中させた。

 

(アイツはたしかに千冬姉の姿や力を真似ているかも知れない。けど、あんなのは本当の力なんかじゃない……力じゃない強さを俺は知ってる。誰かを守るために強くあり続けた人を……なら、俺も誰かのために強くありたいと願う——)

 

 側にいてくれて育ててくれた姉や、人々のために戦っているはずの赤と青の異形の姿を脳裏に浮かべながら、一夏はスゥッと息を吐いて力を込めて叫ぶ。

 

「行くぜ偽物! 零落白夜!」

 

 刀身の装甲が展開し、その中心にはいつもよりも細く鋭い洗練された光の刃が形成されていく。

 

(思い出せ……千冬姉と箒、二人の教えを——)

 

 腰だめに納刀したように雪片を構えた一夏の前で、ISはブースターを使って飛び出し、先制をかける。

 

 縦に振り下ろされた模倣された雪片を、一夏は落ち着きながら下からの斬りあげで軌道を晒す。

 

 いくら勢いが上回っていても、いくら動きを模倣しようとも、その剣に意思や思いはのせられていない。ならば、今の一夏にも対処は容易に感じられた。

 

(一閃で払い——)

 

 軌道を晒されて無防備となった胴体目掛けて、一夏は上段に構えた雪片を振り下ろし、防ごうとしたISの左手ごと袈裟斬りにする。

 

(二撃目で断つ!)

 

 切り裂かれたISの装甲と胴体に亀裂が走る。内側から漏れる光が周囲を指している。

 

 

 

 

 

『一つ忠告しておくぞ。アイツと会うことがあれば気を強く持て』

「?」

『アレは未熟者の癖に、どうしてか妙に女心を刺激するのだ。油断していると……惚れてしまうぞ?』

 

(今ならわかる……あれはちょっとしたヤキモチだったのだ……教官にこんな顔をさせるその男が羨ましいと。そして、出会ってわかった。戦って理解した……)

 

 果てなく広がる空間の中で、ラウラは自分のそばで立っている一夏と言葉を交わしていた。

 

「強さは心の在処、己の拠り所。自分がどうありたいかを常に思うことじゃないかって俺は思う」

「……そうなのか?」

「そりゃそうだろ? どうしたいかもわからない奴は強い弱い以前に歩き方を知らないもんだろ」

 

 呆然としたように一夏に見るラウラの前で、先ほどまで視線を前に向けていた彼はラウラへと目を合わせる。

 

「歩き方……」

「どこへ、どうして向かうかさ。やりたいようにやらなきゃ人生じゃないだろ。だって人生は一回なんだからな」

「……強いなお前は」

「強くないさ。けれどもし俺が強いっていうならそれは……」

 

 一旦言葉を区切ってから一夏は目を伏せる。その瞼の裏には今まで出会ってきた多くの人たちが浮かんでいた。

 

 物心ついた時から支え続けてくれていたただ一人の肉親である姉

 幼い頃にふとしたことがきっかけで仲を深めた一人目の幼馴染

 学生時代を共に過ごしてきた二人目の幼馴染と、男友達たちとその1人の妹

 IS学園に転入してきて真っ先に会話をしてくれた謎の天才男友達

 最初は対立していたけれど戦ったことで仲を深めたお嬢様

 家族のために性別さえ偽って自分を否定して生きてきた少女

 仲良く会話していたクラスメイトや元誘拐犯の友人……親しくなった色んな人たちだった。

 

「強くなりたいから強いのさ。誰かを守りたい……自分のすべてを使って、ただ誰かのために戦ってみたい」

「……」

「……そうだな。だからお前も守ってやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 強さとはなんなのかと己に問いかけ、憧れた相手のようになりたいと考えた自分がいた。けれどそこにあるのはあくまで模倣しただけの偽りの強さしかなかった。

 

 強さとは……その答えは無数にある。……だが彼女は今、その答えの一つに出会った。それも模倣した自分を倒し、その上で自分を受け入れてくれた男に。強烈な形で。

 

 

 

 ISに縦に入っていた亀裂が広がり、その中からラウラが出てくる。かなり衰弱していたのか非常に弱弱しく零れ落ちかける。

 すばやく素早く近づいた一夏は彼女を抱きかかえる。終わったことを察した一夏は緊迫とした空気を解き、ラウラの無事を確認すると柔らかな笑みを浮かべた。

 

(ああ、これは確かに……惚れてしまいそうだ——)

 

 操縦者であるラウラを吐き出したISは、泥のような形状になると徐々に元の形態へと戻っていき、最後には完全に機能を停止した。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 VTSが機能を停止するのと同じころ、アリーナに続く廊下で繰り広げられていた戦兎とスタークの戦いにも動きが見られていた。

 

 

《ソラッ!》

 

 スタークは懐から取り出した紫のフルボトルをトランスチームガンに装填すると、戦兎目掛けてトリガーを引き発射する。

 

【FULLBOTTLE! Steam Attack!】

 

 トランスチームガンから攻撃が発射されると、戦兎は後方に下がりながら左手の掃除機で吸引しようとする。

 

 しかし、掃除機に吸い寄せられて接近してきたそれは、白い蜘蛛の巣のようなネットだった。

 ネットは掃除機の吸引口付近にべったりとへばりつき、その機能を封じてしまう。

 

「くそっ!」

 

 舌打ち混じりに吐き捨てる戦兎。前方から再度接近してくるスタークを視認すると、ドリルクラッシャー・改を射撃モードに変形させて発砲する。

 

《どうしたどうした!? この程度で俺を止めようってか!? 俺はまだまだ止まらないぞ!》

 

 

 一発目をトランスチームガンで相殺。二発目、三発目をスチームブレードで切り裂いていくスターク。背後に置き去りにしたエネルギーから起こった爆発を胃にも介さず正面突破を試みる。

 

 

 目前まで接近して来たスタークにドリルクラッシャー・改を近接モードに再変形して迎え撃つ……そう読んだスタークだったが、その推測は裏切られることとなった。

 

「そいつはどうだろうな?」

 

 戦兎はドリルクラッシャー・改ではなく、使い物にならなくなった掃除機の本体でスチームブレードの一撃を受け止めたのだ。

 

《何ィ?》

 

 幾度目かの鍔迫り合いの中、戦兎の右手を再び光が包み込む。

 

 ドリルクラッシャー・改が通常よりも更に腕の後方へスライドしながら移動し、空いたスペースを大きく使ったその右手に茶色の巨大な腕が姿を見せる。

 

 掃除機を器用に動かしてスチームブレードとの鍔迫り合いを解き、スタークの体勢を崩したほんの一瞬、その胴体へと茶色の巨大な拳によるストレートのパンチを叩き込んだ。

 

《オオッ!?》

 

 直撃する直前、とっさに左手でガードを試みたスタークだったが、破壊力に特化したゴリラの拳を防ぎきるのは流石の彼の力を持ってしても出来なかった。

 

 スタークは真横に猛スピードで吹っ飛ばされると、床をゴロゴロと転がって打ち付けられた。

 

《ハァッ……中々、やるじゃあねえか……!》

 

 床に倒されたスタークはそう吐き捨てると、大きく伸びをするかのような動作を取ってから勢いよく起き上がる。

 

 戦兎は目の前にいるスタークに集中しながら、ISのセンサー内に映し出されている今のL&Pの状況を細かくチェックしていた。

 

(損傷率68.9%、残存エネルギー量16%……これ以上は危険か……!)

 

 ブラッド・スタークはエボルトの本領とも言える《仮面ライダーエボル》と比べると、地球で最初期に作られた影響か、幾分か性能や能力が劣っている……。

 

 しかし、ブラッド・スタークの時点でもその気になればビルドのラビットラビット、タンクタンクフォームとも十分戦えるだけの戦力を発揮している。当然、それは数々の星を滅ぼすことで力を蓄え、死線を潜り抜けてきたであろうエボルト自身の力によるものだ。

 

 故に戦兎は決して油断はしていなかった。ここで倒しきるつもりだった。そしてエボルト自身にとっては未知の力であるL&Pは有効打になり得るはずだった……しかし。

 

(ビルドの延長線上の戦い方とはいえ、どうして奴は初めて見るはずのL&Pの戦闘パターンを知っている? 俺がこの学園でL&Pを起動したのはボーデヴィッヒの奴と軽く相対したあの時だけ。そんなに長い時間居座っていたわけじゃない、俺が現れたのを知った時に駆けつけても……いやまさかコイツ、ボーデヴィッヒがオルコットと凰の2人とやり合った時には既に来ていたのか……?)

 

 憶測と推測の域を出ないそれを一旦頭の中から打ち消すと、戦兎は改めて目の前のスタークへ意識を集中させる。他のことで頭がいっぱいになった状況で勝てるほど甘くはない……。

 

 わずかな動きさえ見逃すまいと構える戦兎の姿を見たスタークは、手に持っていたトランスチームガンを下ろしてスチームブレードを首に当てると、大きくため息を吐く動作を見せた。

 

《互いに手の内を読み切っているこの状況……成る程そのISの性能はブラッド・スタークをとっくに超えているだろう……だが、今のお前じゃ俺には勝てないぞ?》

「どういうことだ……?」

 

 面を食らったような表情を浮かべた戦兎は、しかしすぐに冷静さを取り戻そうとする。

 

 対してスタークは、そんな戦兎の様子が心底可笑しいとばかりに肩を上下させていた。

 

《なんだ、まだ気付いていないのか? いや、本当はお前も薄々気付いているんじゃないのか? まず最初に戦兎、お前——》

 

 勿体ぶるかのように一旦区切ると、スタークは改めて真正面の戦兎へ顔を向けて言葉を紡ぐ。

 

《下がってるだろ? ハザードレベルが》

「…………」

 

 言葉を受けた戦兎は僅かに目を見開く。そんな戦兎の僅かな動揺は意図的に無視しながらスタークは続ける。

 

《と言っても大幅に下がったわけじゃあない。だいたいハザードレベル6.2、と言ったところか。まぁこの程度、今のお前なら数ヶ月もすれば7まで回復するだろうがな》

 

 スタークの言っていることは出まかせでもハッタリでもない……それは戦兎自身が気付いていた。

 

 そもそもこの世界で今まで戦ってきたのは、ほとんどが通常のスマッシュばかりだった。ハザードレベル7に到達した結果変質するフルボトルは既存の物理法則をも超越した力……それを完全に発揮しきる状況ではないとは言え、もしもその領域に到達したままであれば、今更通常のスマッシュを相手に苦戦まではいかない筈だ。

 

 しかし、サソリ型スマッシュを始め、クジラ型スマッシュやユニコーン型スマッシュと言った存在に、使っていたボトルの相性を考慮しても、あそこまで手こずるのに戦兎自身も違和感を覚えていた。

 

「けど、それはお互い同じ条件のはずだ。お前が生きていたにしてもあの状況だ。お前自身のハザードレベルも低下してる筈だろ」

《ハハハ! 察しがいいな、その通りだ。俺もお世辞にも本来の力が……エボルが使える状況までは回復していない》

 

 万丈の体内に入っていたエボルトは、最終的にビルド トライアルフォーム ラビットドラゴンによって倒された。今この場にいるということは完全に倒しきれてはいなかったことになる。だが大ダメージを与えたのは確か。しばらくは消耗した状況が続いているはず。

 

 ならば弱体化しているという条件は互いに同じ……

 

 そう考える戦兎の前で、エボルトはスチームブレードを持っている右手とは逆の左手を突き出す。手は人差し指と中指を立てて《2》を示していた。

 

《そこで、お前が俺に勝てない2つ目の理由が出てくるのさ》

「一体何が——」

 

 何が言いたい……そう続けようとした戦兎の声を遮って、スタークはわざとらしく、うん? と声を上げた。まるで何を言っているんだと言わんばかりに。

 

《なんだ気付いていないのか? そんなに理由が知りたいのか? なら聞いてみれば良いだろう、お前の——大切な仲間になァ》

「——ッ」

 

 それまでなんとか冷静さを保って戦闘に集中しようとしていた戦兎だったが、スタークのその言葉を受けた瞬間苦悶の表情を浮かべて僅かに動揺を見せた。

 

《んー? どうした、呼んでみれば良いだろ? 万丈はどうした? おっと、行方不明だったな。ならグリスやローグはどうだ? ……あぁ、アイツらは俺が殺したんだったな》

「……」

《だったら石動美空か? それともまさか……この学園の生徒にでも聞く気か?》

 

 クックッと挑発の言葉を投げかけるスタークの言動を前に、戦兎はISを装着している腕が震えているのに気付いた。今にも怒声を上げて飛び出しそうな感覚を身体中に感じながら……

 

《お前は仲間がいたから今の自分があるとかなんとか言っていたが……そいつらは、皆どいつもこいつも居なくなっちまった。それともこの世界で新しい友情でも育もうとでも考えたのか? 青春を気取った学生生活でも送ろうとしたのか? この世界に俺やパンドラボックスを持ち込んだのにか? もしそうだとしたらお笑いだ。今更そんな真っ当な人間らしい生き方を望めるほど、お前は無責任な男だったのか? だとすれば、死んだ三ヶ国の人間や葛城忍、グリスやローグが浮かばれないなァ!》

「うるせぇ!!」

 

 犠牲となった人々や父、散った仲間を出された戦兎はとうとう怒りのままにブースターを吹かせてスターク目掛けて突撃する。

 

《フンッ!》

「ぐっ——」

 

 目前に迫るスタークに、右手に呼び出したIS用のゴリラボディの拳 <サドンデストロイヤーⅡ>を振り上げた戦兎だったが、スタークはその一撃を首に当てていたスチームブレードで素早く薙ぎ払って戦兎の姿勢を崩す。

 戦兎が態勢を整えるよりも早くトランスチームガンと連結してライフルモードへ合体させる。片手間に緑のフルボトルを振ってソケットに装填すると、その銃口を戦兎の背中に押し付けて引き金を引いた。

 

【FULLBOTTLE! Steam Attack!】

 

 直後、大きな音を立ててL&Pのカスタムウイングから爆発が起こると、黒い爆煙の中から勢い良く戦兎が吹き飛ばされていく。

 

「ぐぁっ……!」

 

 床を何度も跳ねながら叩きつけられた戦兎。警告を意味するアラート音が幾度か鳴り響くと、その身にまとっていたL&Pは青白い粒子とともに散って解除される。

 

 うつ伏せに倒れた戦兎は、力を振り絞って顔を起こす。目の前に力なく落下していたラピス・ピジョンを掴むと、距離が離れた先にいるスタークを睨む。

 

《仲間がいたお前は確かに強かった。だが今のお前じゃそこまでだ。守るものも曖昧で、共に腹を割って話し合って戦える仲間はもう何処にもいない。言ってしまえば、今のお前はひとりぼっちのヒーローだ。そんなお前じゃあ俺には勿論この世界にはびこる悪意……それに篠ノ之束にも勝てないぞ?》

「黙れ……!」

《ハッハッハ! そうか、人間はお前の対戦相手じゃなかったな……安心しろ、今ここでお前を殺すなんてことはしないさ。お前にはこれからもバシバシ働いてもらわないといけないからなァ……さて、と。今回でお前のISの詳細な性能も知れたし、フルボトルの生成にも性を出さにゃならんし、まだまだやることが山積みなもんでな。ここいらで帰るとするか》

「ッ! 待て!」

 

 トランスチームガンを分離させて銃口を引こうとするスターク。それを逃すまいと戦兎は体に鞭を打って起き上がろうとする。

 

 だが戦兎の必死の抵抗も虚しく、トランスチームガンの銃口から薄暗い煙が吹き上がる。

 

《なーに、またすぐに会えるだろうさ。それにロストスマッシュの精製も、エボルドライバーの修復も後回しだ。ゲームは条件が整ってからじゃないとつまらないだろう? じゃあな。チャ〜オ〜!》

 

 煙の間から見えるスタークは、楽しそうに戦兎に手を振っていた。その姿を煙が覆い尽くしてしばらくしてから煙が晴れた。

 煙が立ち昇っていた場所に、既にスタークの姿は見られなかった。

 

「……クソッ!」

 

 倒すべき仇敵、そして怒りをぶつける矛先を失った戦兎は怒りと悔しさを拳に込めて、ただ廊下の床を殴りつけることしか出来なかった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 激動の学年別タッグマッチトーナメント初日から一日が経っていた。

 

 校内では既に一回戦を除いたトーナメントの中止が発表されており、多くの女子生徒たちの怨嗟と嘆きの声に包まれた。

 

 あの後、ラウラは暴走したISによって体力の消耗が激しかったらしく、今も保健室で安静となっている。それ自体は一夏も直接確認していたため安堵していた。

 

 しかし、保健室で安静を言い渡されたのはラウラだけではなかった。

 

「戦兎の奴大丈夫かな……?」

「ボーデヴィッヒさんのISが暴走したと同時に侵入者……偶然にしては出来過ぎるように思えるけど……」

 

 一夏とシャルルの二人は食堂で共に夕食をとりながらそう呟いた。

 

 千冬から聞かされたところによると、戦兎はラウラの暴走と時を同じくして現れた異形の侵入者と対峙していたらしかった。なんでも今問題になっている未確認生命体の元凶こそがその侵入者なのだという。

 戦兎は外傷が特にひどいと言う訳ではなかったらしいが、精神的な面で不調だったために保健室で休まさせられているらしい。本人は大丈夫の一点張りだそうだが

 

「どうして戦兎はそいつが元凶だなんて知っていたんだろう?」

「さあな。多分本人から直接聞いたんじゃないかな?」

「けど戦兎の素性が一切不明なのも考慮すると、今回の侵入者と戦兎に何か接点が……」

「仲間を疑いたくなんてない。けど、もし……もし仮にそうだとしてもアイツにとってその辺はデリケートな問題になるだろうから、あんまり触れないほうがいいと思う」

「……そうだね」

 

 自身にも覚えがあることを一夏に諭されると、シャルルも今回の件にはあまり触れないようにしようと考える。

 

 話を逸らそうと何か考えているシャルルを尻目に、一夏はこちらを見ている人物に気がつくと、席を立ってその人物へ寄って行った。

 

「あっ、よう箒」

「あ、ああ。どうした一夏」

 

 こちらにやって来た一夏に声をかけられて、どこかしどろもどろな様子を見せる箒に、一夏は前回交わした約束のことを口に出した。

 

「ほら、前に言っていたことなんだが……」

「! あ、あれはだな……!」

 

 何やらもごもごと言い始めた箒の様子に首を傾げながら、一夏はキッパリと意思を口にした。

 

「勝負は流れちまったけど、付き合ってもいいぞ」

「な……!?」

「え!?」

 

 そう一夏に面と向かって言われた箒と席についたまま会話を聞いていたシャルルの2人が驚愕する。

 

 あの一夏が誰かに付き合うだなんて……そう思えて仕方なかった。

 

「ほ、本当なのか!?」

「ああ、幼馴染なんだから付き合うさ。で、どこに行くんだ?」

「…………は?」

 

 興奮しながらも、改めて意思を確認した箒だったが、一夏が最後に変な言葉を付け加えたことで一気に思考がクールダウンした。

 

「一体なんのことだ?」

「いや、だから幼馴染なんだし買い物くらい付き合うぞ、って」

 

 直後、箒は顔に浮かんでいた喜びを消すと、手で頭を抑える。

 

「少しでも期待した私が馬鹿だった。いや、薄々そんなことだろうとは思っていたが」

「? 一体なんのことだ?」

 

 頭に疑問符を浮かべて聞き返す一夏。

 もういい。と、そう言い返そうとした箒だったが、ふとあることを思い出した。

 

(そういえば……来月は校外学習だったな。確か海が近い旅館だとか……待て、となると……)

 

 ハッと何かに気付いた箒は、凄い勢いで首を振って訂正し始める。

 

「いやなんでもない! そう買い物なのだが、来月の校外学習の水着を買ってないのだ! というわけでそうだな……再来週の日曜にレゾナンスで買い物に付き合ってもらうぞ! うむ!」

「お、おお。わかった、再来週だな?」

「そうだ! で、ではな!」

 

 勢いを取り戻して言い寄る箒の前に両手を出して静止を促す一夏の様子を見た後、箒は猛スピードで部屋に帰って行った。

 

 なんだったんだと首を傾げて席に戻った一夏の前には、先ほどまでと同じように笑顔を浮かべているシャルルがいた……ただし、その背景にドス黒い何か浮かんでるかのように錯覚させるほどの威圧があったが。

 

「へー……一夏って、女の子なら誰にでも優しく接するんだー……」

「ど、どうしたんだシャルルまで。買い物に付き合ってくれって言われたからOKしただけなんだが……」

 

 どうしてか不機嫌になったシャルルの前で困惑した一夏は、とりあえず話を逸らそうと話題を考え込む。奇しくも先ほどとは逆の状況となった。

 

「えーっと……そうだ。なあシャルル、IS同士で会話って出来るか? プライベート・チャンネルとは違う2人だけの空間みたいなところで会話したんだが」

「うーん、操縦者同士の波長が合うと特殊な相互意識干渉(クロッシング・アクセス)が起こるっていうけどそれかな?」

「波長ねぇ……よくわからんな」

「ISはよくわからない現象や機能だらけだよ。篠ノ之博士も全機能は公表してない上に失踪中だし。それに自己進化するように設定した部分があるから自分でも把握するのは無理だって言ってたよ」

 

 そこまで語ったシャルルはあることに気づいた。その干渉が一夏に起こったということは、誰かと波長が一致したことに他ならないと。

 

「2人だけの空間で会話って、もしかしてボーデヴィッヒさんと?」

「ああそうだが?」

「…………ふーん、そう」

「?」

 

 再び不機嫌さを見せるシャルルに、一夏は頭の中に疑問符を浮かべるばかりだった。

 

 

 

 この後、山田先生から男子の大浴場が開放されたとの知らせを受けた。

 一夏が1人で入っていると、部屋のシャワーを浴びると言っていたはずのシャルルが入って来て混浴状態になるのだが、それはまた別のお話……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 大浴場で一夏とシャルルが一悶着起こしている頃、千冬はある人物に電話をかけていた。

 

『はーい、久しぶりだねぇちーちゃん』

「その名で呼ぶな。まあいい、今日は聞きたいことがある。今回の件……アレに一枚噛んでいるのか?」

 

 電話の相手……全てのISの生みの親である篠ノ之束に対してVTSとの関与について率直に問いただす千冬だったが、彼女は笑いながらそれを否定する。

 

『ああアレ? あんな不細工なシロモノ作ると思うかな? 私は完璧にして十全な超天才科学者の篠ノ之束だよ? それにアレを作った研究所は今地上から消してもらってるところだよ。もちろん死亡者は0って伝えてるからね』

(消してもらってる……つまり桐生と同じ世界から来た者のどちらかか?) 

『死んじゃったら束さんのすごさに怯えながら一生を過ごさせられないからねぇ。私のISを勝手にいじくろうとした報いは背負わせないと……』

「そうか、ほどほどにな。ではまたな」

 

 千冬は短く相槌をうってから連絡を切った。

 

(今回の侵入者の件と言い、桐生は間違いなく我々に何かを隠している。すでに話していることよりも大きな何かを……そうでもなければ、ただのテロリスト紛いの秘密結社とやら相手に束の奴が協力する……いや、そもそも行動を共にさせるとも思えん。奴ほどの存在が協力をしたくなるのか、あるいはせざるを得ないほどの存在なのか……いずれにせよ、踏み込んだ話をするべきだが……)

 

 

『悪いんですけど、明日休みにしてもらって良いですか? 大丈夫だって言ってましたけど、やっぱり調子が悪いみたいなんで』

 

 

(……アイツがあんな顔をするとな。よほど抱え込んでいるんだろう……となると、やはり別の方から切り込んでいくしかないだろう。幸い例の話で、()()もしばらくここに戻るそうだしな)

 

 誰もいない部屋で険しい顔を崩さぬまま、千冬は誰に気付かれることもなく部屋を後にした……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 何処かの研究所の中で、束は切れた端末を机の上に置くとうーんっと伸びをした。

 

「やあ、久しぶりにちーちゃんの声を聞けて嬉しかったねぇ……この世界の人間で唯一束さんと張り合える存在。現役復帰しても間違いなく最強。なのにどうして辞めちゃったんだろうねー」

 

 心底不思議そうに、しかし気にしていないのかすぐに作業へと戻ろうとした所に、再び端末に連絡が来たようで、着信音が鳴り響く。

 

「はーいもしもし……あぁ()()()()か。んーん、こっちの話。そっちはさっき言ったように任せるね」

 

 

 

 

 

 数分ほど前、ドイツの研究所の中では異様な光景が繰り広げられていた。

 

「うわああ!」

 

 悲鳴とともに科学者が近くに落ちていた軍用のライフルを乱射する。しかし、目の前に迫っていた異形……スマッシュには効果が全く見受けられなかった。

 

『……!』

「バ、バカな対IS用の装備だぞ……!」

《当然だ。そもそも規格が違う》

 

 恐怖とともに口から出た声に応えるように、廊下の扉から更なる異形が現れる。

 黄色いフェイスカバーに覆われたコウモリ型の異形——ナイトローグは足元に転がっていた他の科学者を踏んづけてから蹴り転がすと、唯一意識の残っていた科学者へとトランスチームガンの銃口を向ける。

 

「ひっ……た、助けてくれ! アレは上に言われて無理矢理……!」

《……》

 

 無言のまま銃口を向けていたナイトローグは、引き金を引く直前に科学者から近くのコンピューターなどの機器へと銃口を晒して発砲する。

 

 ズガン! という大きな音ともに電子機器から大量の火花が飛び散り爆発していく。

 

「ひ、ひぃッ!」

 

 狙いを外したのを見て、科学者は頭をかばいながら這々の体でナイトローグが遮っているのとは別の扉から逃げ出そうとする。

 

《ドイツ軍に伝えておけ、次は無い。篠ノ之束が直々に潰しにかかる……と》

「し、天災科学者(篠ノ之束)からだと……!? 貴様一体……」

 

 ナイトローグは、驚愕して思わず素性を問おうとした科学者の足元に無言のままトランスチームガンを発砲した。

 

「う、ウワァッ!」

 

 驚いた拍子に転んだ後、科学者は四つん這いのまま部屋から逃げ出した。

 

《……お前たちと同じ、道を踏み外した悪の科学者だ》

 

 誰に言うでもなくそう呟いたナイトローグは、部屋の壁に備え付けられていた研究所各所の監視カメラの映像を写したモニターへと視線を向ける。

 

 各ブロックでスマッシュや人型兵器のガーディアンが暴れていた。軍人やISが抵抗しているものの、ガーディアンは数、スマッシュは個体の能力によって全く効果が見受けられないまま制圧されていた。

 あらかじめ手を加えていたのか、スマッシュもガーディアンも誰一人殺すことなく蹂躙して行った。

 

 頃合いだろう。そう判断したナイトローグはどこからか端末を取り出すと誰かに連絡を取り始める。

 

《もしもし、私です。……は? ……そうですか、わかりました。では……》

 

 連絡を終えたナイトローグは端末をしまうと、トランスチームガンに装填されていたバットロストボトルを取り外して蒸血を解除した。

 

 ナイトローグの周囲に煙が立ち上り、晴れた煙の中から1人の男が姿を見せた。

 

 黒いスーツを身にまとい、サイボーグのように冷徹な表情を浮かべていた男——ビルドの世界で、エボルトとの戦いで機能停止したはずの男、内海 成彰(うつみ なりあき)はゆっくりとメガネを押し上げた……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 翌朝のホームルーム

 1年1組の教室に衝撃が走った。

 

「シャルロット・デュノアです、皆さん改めてよろしくお願いします」

「えーっと……ということでデュノアくんは、デュノアさんだった、ということでした」

 

「「「「…………は?」」」」

 

 先日まで男子だった生徒が、突如再入学した挙句女子生徒になっていた。

 この状況を理解できた生徒は彼——否、彼女の素性を知っていた一夏だけである。その証拠にクラスメイトたちは言うに及ばず、箒もセシリアも呆気にとられていたままだった。

 

 しかしそれも束の間、現実を直視しようとしたのかはたまた自分たちがシャルルに惚れていた事実を忘れたいがためか、1組の生徒たちが一斉にざわめき始めた。

 

「え、デュノアくんて女……?」

「おかしいと思った、美少年じゃなくて美少女だったわけね!?」

「ちょっと待って、昨日って男子が大浴場使ってたわよね!?」

 

 直後、クラス中の生徒の視線が1番前の一夏と1番後ろの戦兎の席へと向けられる。……もっとも、戦兎は欠席していたためにその視線もすぐに一夏へと向けられたのだったが。

 

「あー……えっと、その……」

 

 クラス中の視線を受けてしどろもどろになる一夏。

 直後、突然の怒声とともに教室の扉が開かれる。

 

「一夏ァッ!」

 

 腕に甲龍を部分展開をした鈴が突撃して来たのだ。更に彼女に続くように幼馴染や専用機持ちが詰め寄る。

 

「り、鈴……HRどうしたんだよ」

「どうしたもこうしたもないわよ! それよりアンタ女と同じ部屋だったの!?」

「き、昨日は一緒に入浴したのか!?」

「説明、説明を求めますわ!」

 

 各方面からの一斉口撃に対して一夏は両手を振って否定し始める

 

「してないしてない! 何もしてねぇって!」

「けど破廉恥なことでもやったんじゃないの!?」

「いやそんな……」

 

 冷たい視線を向けるクラスメイトたちに思わず言葉を詰まらせてしまう一夏。そのまま数秒の間を置いた後、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「そ、そんなわけねぇだろ……?」

「やっぱりなにかあったのか貴様ァ!」

「一度わからせなければいけないようですわね!」

 

 言うが早いか、鈴は一度は納めかけた甲龍の腕を再び振り上げ、箒はどこから取り出したのか木刀を持って迫り、セシリアもライフルのスターライトmkⅡを取り出した。

 

「待て待て! そんなことは無かったって!」

 

 しかし一夏の言葉は通じなかったようで、専用機と武装を纏った3人が突撃、狙撃しようとする。

 

「「「覚悟オオォ!」」」

「死ぬ死ぬ! 俺絶対死ぬッ!」

 

 ほんのわずかな一瞬で走馬灯に近いものが流れ始めた一夏はおもわず目を伏せた。

 

 

 

 しかし、いつまで経っても一夏の意識が途絶えることも痛みが走ることもなかった。

 

「…………あれ死んでない……?」

 

 恐る恐る目を開けた一夏の視界の先には一機のISが立っていた。1番近くにいた鈴の一撃を腕で受け止め、他の2人に向けて腕を向けてその動きを封じていた。

 

 自身を救った人物——ラウラを見て、一夏は思わず顔を綻ばせる。

 

「ラウラ! お前もう大丈夫なのか?」

「当然だ。ISの方も予備パーツで組み上げたから問題ない」

「そりゃ良かった。あとサンキュー、助かっ——」

 

 直後、一夏は感謝の言葉を止めてしまった。否、無理矢理遮られてしまった。

 

 自身の目の前で立っていたラウラは、AICを解除すると振り向きざまに一夏の肩を掴んで自分に抱き寄せると、その唇に自身の唇を重ね合わせて口を塞いでしまったのだ。

 

 

 しばしの間教室に静寂が訪れた。皆今なにが起こっているのか理解できないと言う様子だった。

 ラウラが一夏から離れると、まず真っ先に一夏が反論する。

 

「お、お前いきなり何を——」

「お前を私の嫁にする! これは決定事項だ、異論は認めん!」

 

「「「「「は、はあ!?」」」」」

 

 あまりに突拍子の無さすぎる発言を聞いて、ようやく他の生徒たちが動き出した。

 

「貴様何を言ってる!」

「日本では気に入った相手を嫁にするのが一般的な習わしだと聞いたぞ。故にお前を私の嫁にする!」

「誰だそんなデタラメなこと教えたやつ!」

 

 

 

 この後、専用機持ちと幼馴染に怒号や悲鳴と共に言い寄られた一夏だったが、担任の千冬によって全員揃って廊下に立たされるはめになったのだった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 1049号室

 保健室から出た戦兎だったが、考え事もあったために昨日のうちに千冬に無理言って休みにさせてもらった。……それはもう凄い怪訝な表情を浮かべていたが。

 

 自分の通う1年1組の教室からであろう怒声や悲鳴を聞きながら、戦兎は膝の上に乗っているラピス・ピジョンの頭を撫でながら考え事に耽っていた。

 

「…………」

 

 エボルトから言われたことを気にしていた戦兎は、いっそ自主退学してエボルトを追おうかとさえ考えていた。

 今後の身の振り方を思い悩んでいた戦兎だったが、その思考はある音によって遮られた。

 

【〜〜♪】

 

 ベッドに腰をかけて座っていた戦兎のすぐそばで、ビルドフォンから着信が掛かった。連絡相手は非通知とだけ表示されていた。

 

 この世界で戦兎の電話番号を知っている人物など限られている。担任の織斑千冬と副担任の山田先生、それから一夏を含めた学園の生徒数名ほどだ。

 

 しかし非通知となると何人か可能性はあるが、思い浮かべる相手が限られる……その最たる例がビルドの世界でも頻繁に連絡してきたエボルトなのだが……

 

 詳細不明の相手に警戒しつつ、戦兎はビルドフォンの画面をタッチして通話をオンにした。

 

「…………もしもし?」

 

 その電話の相手は戦兎にとって意外な人物であった。

 ——そしてそれと同時に、戦兎、そしてこの世界は、更に戦いの渦の中へと巻き込まれることになるのだった……。




 だいぶ期間が空いたから再開したので所々変な箇所があるかもしれないです。

 内海さんの登場に関しては最初から考えてました。本編内でも戦兎の与り知らぬ所で退場してしまいましたし、彼も間違いなく天才でしたのでタイトル決めた時点で出したいなと。

 ナイトローグ=内海さんに関しては
『使用していたフルボトルが自身を倒した海賊レッシャーの電車フルボトル』
『ゴーレムから取り出した赤いフルボトル→実はエンジンフルボトル』
『鈴に放った回し蹴り→完成披露試写会で見せたカブトのライダーキックのオマージュ』

 と非常に分かりづらい形の伏線を入れてました。本当はローズコプター一式渡す際にサメバイクも渡させようかとも思いましたがボトル集めが雑になるのと流石に露骨すぎるのでやめました。といってもボトル集め自体ダイジェスト気味だったので別に渡しちゃっても良かったかもしれませんでしたが。
……これは別に伏線とは言わない?知ってた。
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