Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

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 数日経ったので投稿します。
 ここから臨海学校までの間に何話かエピソード挟みます。



陰謀のマッドローグ

 IS学園で開催された、学年別タッグマッチトーナメント

 その最中、出場者の一人であるラウラ・ボーデヴィッヒのISが突如として暴走。

 時同じくして、IS学園で生徒として活動していた仮面ライダービルドこと桐生戦兎の目の前にはあのエボルトが現れる。

 

 一夏と篠ノ之、実は女子生徒だったデュノアの三人の活躍によってボーデヴィッヒのISは稼働停止、彼女の心を動かしたことによりなんとか問題を解決した。

 

 一方、エボルトとの戦いによって自分のハザードレベルの低下、さらに仲間がいない環境によるメンタル面を突かれた桐生戦兎は、まんまとエボルトを逃してしまうのだった……!

 

 

 

「なあ戦兎。結構時間が経ったし、誰が誰って覚えてる奴少ねーんじゃねえか?」

 しょうがないでしょうが、こっちだって暇じゃなかったんだから。……けどまあ確かにお前の言う通りだな。

 

 と言うわけで1話限りの新コーナー! 題して……

 

【万丈でもわかる! インフィニット・ジーニアスの登場人物まとめ】〜! ドンドンパフパフ〜!

 

「タイトルそのままだしネタが古ィ! ……ってか俺でもわかるってなんだよ!?」

 ほらよく言うでしょ、『猿でもわかる』って。

「だから俺は猿じゃねえ!」

 

 ハイハイそういうの良いから……まずはみんなご存知この人! コイツがいないと始まらない! クールな性格に熱いハート、僕らのヒーロー! 僕らの主人公! 世界中が君を待っている! 仮面ライダービルドにして、てぇんさい物理学者! その名も〜〜『桐生戦兎』〜〜!

 

「長え! てかお前の紹介が一番要らないだろ!」

 どう考えたっているでしょうが。俺のこと知らないよーって人もいるかも知んないだろ?

「自分でみんなご存知って言ったじゃねえか……」

 

 であとは主人公桐生戦兎の周りをチョロチョロしてる男子とハーレム、その他大勢な。以上。

 

「いや短すぎんだろ! 自分だけ長々と語ってんじゃねえよ!」

 冗談に決まってんでしょーが。ちょっと茶化してみただけだっての。

「そう言いながら大急ぎで台本書いてんじゃねーよ! やっぱり今ので終わるつもりだったんじゃねえか!」

 ばっか、なんで言うのよ! 台詞だけならバレなかったでしょうが!

 

 まいいや。じゃ改めて……この物語の『準』主人公。……言っとくけど準が大事よ、準が。そして正真正銘この世界で最初で最後の男性IS操縦者にして永久天然朴念仁 『織斑 一夏(おりむら いちか)

 

 その一夏のファースト幼馴染でツンデレ1号、日本人なのに何故かあの面子の中でスタイルが一番いいらしい。言葉より拳か竹刀の 『篠ノ之 箒(しののの ほうき)

 

 高飛車系お嬢様、飯が死ぬほど不味いイギリスの色々青いスナイパー 『セシリア・オルコット』

 

 一夏のセカンド幼馴染でツンデレ2号、酢豚の小柄チャイナ娘 『凰・鈴音(ファン・リンイン)

 

 見た者男女問わず振り向かす男装の麗人、その正体は男子のデータを盗もうと潜り込んだ女性パイロット。腹黒フランス枠 『シャルロット・デュノア』

 

 鈴と負けないレベルの小柄。軍人上がりの危険人物で更生しても違うベクトルで危険人物。試験管ベビーなドイツ軍人 『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 

 ま、こんなもんでしょ。あとは一夏の世界最強の姉の『織斑 千冬(おりむら ちふゆ)』とかおっとり天然、でもキレるとマジで怖い『山田 真耶(やまだまや)』先生、そして因縁の敵 『地球外生命体 エボルト』くらいだな。

 

「……なんか、どれもこれも説明がひどくねぇか?」

 なーに言ってんのよ、これくらいで丁度良いだろ。それに色物はまだまだこっからドンドン増えるしな!

 

 俺と同レベルの天才もとい天災科学者とか突発的に何かやらかす生徒会長とかヒーロー大好きオタクな会長の妹とか暴走したISに振り回される操縦者とか織斑千冬そっくりな訳ありテロリストとその同僚とか天災科学者の義理の娘の試験管ベビーとか米軍の特殊部隊とか変態な研究所所長とか学園に潜り込んでるスパイのテロリストとその彼女とか2代目世界最強とか青スナイパーのメイドとかどっかの公国の王女様とその付き人とか通r

 

「だあぁぁぁっ!! もういい! わかった!! もう何にも言わねえから早く進めろ!!」

 

 最初からそう言っとけばよかったんだよ……てな訳でようやくスタート! どうなる第18話!

 

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「どこだここは……?」

 

 暗い闇の中、戦兎は椅子に座っていた。目の前には誰も座っていない椅子が1つだけ置かれていた。

 辺りを見回すが、闇が続いているだけで他には何もなかった。

 

 よくわからないまま椅子から立ち上がろうとした戦兎だったが、いつの間にか目の前の椅子に見覚えのある顔が座っていた。

 

「よぉ戦兎」

「ば、万丈……?」

 

 椅子に座っていたのは、自身の相棒である万丈だった。驚く戦兎を他所に、万丈は不思議と落ち着いていた。

 

「お前今までどこに行ってたんだよ!?」

「そんなことどうでもいいだろ。それよりお前、どうしてあんな物を渡したんだ」

「あんな物……?」

 

 万丈の目は冷たかった。そんな目をする相棒に戸惑う戦兎に、万丈は更に追求する。

 

「お前の発明だよ。どうしてそれを、あんなガキに渡したんだ」

「それは……アイツにも力が必要だと」

「それでグリスも殺したのに。もう忘れたの戦兎くん?」

 

 不意に右の方から声をかけられた。声の先に視線を向けた戦兎の前に、1人の少女が立っていた。

 

「美空……」

「グリスだけじゃない。ビルドもスクラッシュドライバーも……貴方の発明で、みんな苦しんでいたのに」

「それは……」

 

 思わず目を逸らしてしまう戦兎、しかし今度は左から声をかけられる。

 

「あの子が死んじゃっても同じこと言えるの? 正義のヒーローなのに」

「……紗羽さん」

「本当はエボルトを倒すために都合がいいから利用したんじゃないの? 彼女に何かあれば、否が応でもお姉さんが動かざるを得ない訳だし」

「そんなことはない!」

 

 紗羽の言葉を語気を強めながら否定する。

 

「けど戦兎くんがやってることって特に変わらないでしょ? こっちの世界の天災と何が違うの?」

「……」

「まあいいじゃねえかみーたん、そこら辺は戦兎も考えてるんだろ」

「そうだ。例えば俺が死んだ時みたいに、エボルトに誰かが決め手を作れれば倒せると踏んだんだろう」

「カズミン、げんさん……」

 

 背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはエボルトとの戦いで散っていった2人のライダー、一海と幻徳が立っていた。

 

「お前は戦わなきゃいけないだろ? なあオイ」

「学校なんかに油を売ってる暇があるのか?」

「それは、エボルトや篠ノ之束が攻めてくるから——」

「仕方なくかぁ? それは違うんじゃないか戦兎ォ?」

 

 気付けば、戦兎の周りにいた4人は消えていた。そして目の前の椅子に座っていた万丈の姿もなく、代わりに赤黒い異形が座っていた。

 

「エボルト……!」

「俺を恨むのは勝手だ。だがな戦兎、お前自身も気付いてるんじゃないか?」

「何をだ!」

「実験といい危険な装備を渡す所といい、今のお前……葛城巧そっくりだぞ?」

「!」

 

 悠々とした態度で脚を組みながら座る怪人態のエボルトは、戦兎への挑発を続けていく。

 

「元はと言えば、この世界に俺を連れて来たのはお前だ。むしろ感謝してるがな。……だがその先でお前がやってるのと言えば、ぬるい学園ライフだ。お前はそんなことを出来る身分か?」

「うるさい! お前がそんなことを言うな!」

「ハハハハハッ! なんだ逆ギレか? それがお前の答えか。ああ、やっぱりお前は俺に創られた偽りのヒーローだよ。生徒たちに心を許さず、そのくせ兵器は与えて戦地に立たせて! あの時篠ノ之束の妹が死んだらどうするつもりだったんだ? えぇ?」

 

 耳が痛い。逆に言えばそれは戦兎自身も自覚して当てはまることだった。

 

 だが、戦兎自身も必死にやって来た。それは紛れもなく事実だった。右も左もわからない異世界で、誰の後ろ盾もない自身がこの世界でやっていくにはIS学園に保護されたことは間違ってはいない。

 

 だが戦兎はただこの世界に来ただけではない。エボルトやフルボトル、パンドラボックスといったこの世界にない災いの火種を抱えていた。それをなんとかしなければと考え、しかし行動をするには情報も後ろ盾も何もかもが足りなさすぎた。

 

 学園に居れば手がかりは確実に手に入る。だがそれでどれだけの人間が危機に晒されるかいまだにわからない。唯一の救いはエボルトたちの狙いはフルボトル。すなわち戦兎個人に用があることだ。だがそれで周りの人間に危害が加えられる可能性は低くなく、むしろ非常に高かった。

 

 

 

 この世界に連れて来てしまった問題を解決したく、しかし後手に回らざるを得ない状況故に何も出来ず。頼れる仲間は居ない。この世界の住人に迷惑はかけられない。

 そうした近況によって、戦兎の中では様々な感情が入り乱れていた。

 

「じゃあどうしろってんだよ……」

 

 

 

 

 

「俺にどうしろってんだよ!?」

 

 怒鳴りながら立ち上がる戦兎。しかし目の前にエボルトの姿はなかった。

 

「え、えーっと……桐生くん、どうかしました?」

 

 ふと周りを見れば、そこは何もない暗闇ではなくIS学園1年1組の教室だった。

 

 辺りを見回しても万丈や美空、紗羽も一海も幻徳も居らず、この世界のクラスメイトたちが一斉にキョトンとした表情で戦兎を見ているだけだった。教卓に立っていた山田先生に至っては泣きそうな表情になっていた。

 

「……すいません、なんでもないです」

 

 一気にクールダウンしながら座ろうとした戦兎だったが、さきほどの夢の中と同じように背後から突然声をかけられた。

 

「授業中に寝る奴があるか馬鹿者」

「えっ——」

 

 突然もらった千冬からの後頭部への強烈な衝撃で、戦兎は無理矢理席に着席させられたのだった……。

 

 

 

 

 

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 整備科に設けられた、実質的に戦兎の専用部屋と化した一室で戦兎と箒の口論が繰り広げられていた。

 

「なんで初陣でいきなりぶっ壊すのよ! 人がせっかく徹夜の突貫作業で仕上げてやったのに!」

「仕方ないではないか、一夏の緊急事態だったのだから! もしあの場で戦っていなければ、エネルギーの供給中に……それに、突貫作業だから耐久性に問題があったやもしれないだろう!?」

「く、こいつ痛いところ付いて来やがった……!」

 

 机の上には、その戦兎が学年別タッグトーナメントに専用機に混じって参加していた箒のために作ったビートクローザーMk-Ⅱ『奏』がヒビ割れ無残な状況で置かれていた。

 

「ホントもう…せっかくの晴れ舞台で壊されちゃってね〜」

 

 パソコンから伸びたケーブルがあちこちに取り付けられて絶賛修復作業中の奏を撫でながら呼びかける戦兎の姿に苛立ちを覚えつつ、箒は机からさらに離れた広めのスペースへ視線を向ける。

 

 そこには戦兎によって解体されている途中だった打鉄と新造されかけていた兵装がいくつか置かれていた。それは本来ならば、戦兎が開発した全く新しいISとして箒の専用機になり得る……筈だった。

 

「それで、今朝の話は本当なのだな?」

「ああ本当だ。もう織斑先生にも伝わってるだろうが、お前の専用機は……ISの生みの親である篠ノ之束、つまりお前の姉さんが造るそうだ」

 

 奏から離れた戦兎は腕を組みながら、どこか悔しそうな表情を浮かべていた箒の質問に答える。それは先日、彼に掛かってきた一本の電話からだった。

 

 

 

 

 

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「…………もしもし?」

『ヤッホーハロハロ〜! こんにちわ! それともこんばんわかなー!?』

 

 うるせえ。それが詳細不明の相手に対する戦兎の率直な感想だった。女性の声だというのはわかったが、まだエボルトがふざけて声を変えて話している可能性もある、と戦兎は判断して相手の出方を伺う。

 

「おはようだ……ていうか誰よお前」

『そっかそっかーここ最近ずっと篭ってて時間の感覚がさ〜。おっと、それより挨拶しとかなきゃだね。ほんとはそんなことするのすっごい面倒なんだけど、君にはちゃんとしとかなきゃな〜って』

 

 真意は一切不明だった。しかしこの人の事情など鑑みない性格を、戦兎は事前に千冬から聞いたことがあった。それはこの世界に存在する、少なくともIS開発においては戦兎を上回る天才科学者にしてISの生みの親である人物だった。

 

「……篠ノ之束か」

『ピンポンピンポーン! そう、私こそがすべてのISの生みの親である超天才科学者の束さんだよー! いやー初めましてだね葛城巧くん……あっ、それとも桐生戦兎くんって呼んだ方が良い?』

 

 束の口からISの世界でまだ誰にも話していない葛城巧の名前が語られるも、戦兎は特に驚きや動揺を見せなかった。

 彼女の側にはエボルトや正体不明のナイトローグが控えている筈。ならばどちらかから桐生戦兎の本来の人格を聞いていてもおかしくはなかったからだ。

 

 それよりも、千冬から聞いていた彼女の印象が少しばかり違っていることの方に驚いていた。

 長年友人として過ごしていた千冬曰く、篠ノ之束は自分と親しい千冬や一夏、妹である箒には普通に(それでも常人としてみれば明らかに異常らしいが)接するが、それ以外の人間……赤の他人はおろか自分たち二人の両親の存在さえ興味もなく、まともに話そうともしないとのことだった。

 

 そんな相手が今、自分から戦兎に電話を掛けた上に普通に話してくるのだ。一体どういうつもりなのか、何か裏があるのでは……そう警戒しながら話を続けてみることにした。

 

「俺は桐生戦兎だ……で、そんなISの開発者がこんな平日の朝から俺に一体何の用だ?」

『そうだったそうだった! あのさー戦兎くんって今、うちの箒ちゃんの専用機造ってあげようとしてるんでしょ?』

「……本人が望んでたからな」

 

 実際のところ、箒自身には専用機を創るとは一言も言っていない。しかし前回の奏一本の戦いぶりを見た戦兎は、僅かな期間の間になんとか形に出来ないかと大急ぎで学園から提供してもらった打鉄を解体していたのだった。

 

 それ自体は既に千冬にも伝えているので彼女経由で聞いたのだろう。そう考えていた戦兎の耳元で束が更に大音量で叫ぶ。

 

『ダメダメー! 箒ちゃんの専用機はISと箒ちゃんを一番理解してる束さんが担当するんだから、抜け駆けは許さないからね!』

「何言ってんだ、そんなの本人の勝手だろ。それに元はと言えばアンタが送り込んだ無人機のせいだろ。自分で造った物でどれだけアイツらを危険に晒したかわかってるのかよ!」

 

 元々箒が力に執着し始めたのはクラス対抗戦に乱入してきた無人機からだ。故に戦兎はそれを棚に上げて彼女に力になりたいと宣う姉の態度に怒りを覚えた。

 

『うーん、ゴーレムちゃんはいっくんの公式デビュー戦のお祝いって言うか〜白式のお披露目が目的だったんだけどね〜』

「デビューって、そんなふざけたことのために……」

『ちゃんと二人に危害を加えないように配慮したもーん。でも自分の発明を放置したりけしかけたりして戦いを加速させたっていうことに関しては巧くんには言われたくないかな〜』

 

 戦兎のことを葛城巧呼ばわりすること自体に不満はあったが、ビルドの世界の戦いを激化させたという件に関しては、彼女の言っていることも事実ではある……そう考えて言葉が詰まっていた戦兎の頭の中に、当の葛城巧自身が嫌悪感を露わにしながら語りかける。

 

——少なくとも僕はエボルトを倒して地球を救うつもりだったんだ。自分の趣味だかなんだかは知らないけれど、ISという力を造って責任も取ることなく放置した彼女にだけはそんなこと言われたくないね——

 

 葛城にここまで言わせるとは相当だな。戦兎はそう思わずにはいられなかった。

 

「今、葛城巧がお前と同類呼ばわりはゴメンだって言ってたぞ」

『え〜酷ーい。君たち二人とも束さんと同類みたいなものじゃん。ていうか超天才の束さんと同類って言ってもらえてむしろ感謝感激感涙して欲しいくらいなのにさ。これでも世界再創造なんてことやろうとしたのに関しては流石に評価してるんだよ?』

「えらく上から目線な評価ありがとよ。アンタのおメガネに叶って光栄だ。俺もその原因のエボルトと組んでるアンタには言われたくないけどな。とりあえずお前の妹の専用機の話は本人にするのがベストだと思うが」

『でもでも〜束さんの方がずーっとスペシャルでデンジャラスで素敵に無敵なISに仕上がるよ。流石に可愛い箒ちゃんの機体本体に怪しい物なんて入れないよ〜()()()()()。それからエボルトに関しては知らないよ。利用してはいるけどアイツ好き勝手に動いてるから束さんは完全にノータッチ』

 

 新世界創造を知っている上にエボルトの関与を認めつつ、さらに戦兎が奏に仕掛けていたある機構も見抜いた上での発言をする束。彼女のあまりにも自由奔放な言動のせいで忘れかけていたが、彼女はこの世界において最も危険かつ最も天才的な存在であることを改めて感じさせた。

 

 彼女が造るISは戦兎のラブ&ピース単体よりも高性能になるだろう。製作者としての知識には、流石に天才である戦兎でも敵わない。

 妹である箒自身がどう思うかは置いておくとして、性能などは束が造ったほうが上であるのは間違いない。彼女の性質から妹に危害を加えるようなこともしないはずだろう。そして何より、戦兎がどうこう言ったところで彼女が妹のための専用機を造ることを止めるとは到底思えないからだ。

 

 それに戦兎にはビルドの各装備の修復をはじめとした、どうしても無視できない問題がいくつかあった。

 

「…………本当に、大丈夫なんだろうな?」

『もっちろん! と言うわけで交渉成立ね、お礼に今度ボトルをプレゼントしてあげる〜』

「な、お前……!」

『それじゃあ束さんは箒ちゃんの専用機の調整に入るから、じゃあまたね〜バイバーイ!』

 

 そう言い残してビルドフォンの通話が一方的に途切れた。

 

「アイツ……エボルトとの関係をあっさり認めやがった……それにとっくに篠ノ之の専用機も作ってやがったし……」

——天災科学者か……文字通り嵐のように現れて何事も無かったように去っていく人だったね——

 

 額縁の向こうに座り込んでいる葛城の言葉に共感しながら、戦兎はベッドから腰を上げると窓から学園を見下ろす。今後のこの学園と生徒たちの行く末を心配しながら……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

「と、言うわけだ。わかったか?」

「全然わからん!」

 

 無人機……ゴーレムや葛城巧、新世界云々といった話はカットしつつ、戦兎は先日の束との会話を抜粋して箒に説明した。

 

 無論勝手に進められていたその話を箒が理解できるはずもなかったが。

 

「何故あの人が造ることになるのだ、白式と同じように倉持技研でも良かったのではないのか!?」

「お前ねぇ……強くなりたいんだろ? なら一番確実かつ手っ取り早いのは他でもないお前の姉さんだろ?」

「それは……そうかもしれないが……」

 

 理解はしつつも、しかし納得できない様子を見て戦兎はため息混じりにフォローを入れることにした。

 

「たしかに、世界を混乱させた上にお前に迷惑かけまくった姉の発明を使うのに抵抗があるのはわかる。けど、それで出来上がったものを使うのは他でもないお前だろ? 今のISは言ってしまえば道具であると同時に兵器だ。だから……いや、だからこそ使い手の意思や在り方で大きく違ってくるもんだ。全く同じ力でも、それを正しく使うか犯罪みたいな間違った方に使うか……」

「むぅ……」

「まあとにかくだ。お前の姉さんの造ったもの全てが悪でもないんだ。お前が正しく使ってやってくれ。その上で、科学は未来を創りだす素晴らしいものだって、姉さんに教えてやれ」

「……わかった」

 

 戦兎の説得もあってか渋々ではあるものの納得した様子を見せた箒に安心しつつ、戦兎は奏と繋げたパソコンの前に座ってモニターへと視線を移す。

 しかし、作業を始めようとすると同時に箒から声をかけられた。

 

「一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「あまり聞きづらいとは思うのだが……その、今のは実体験からくるアドバイスか?」

「…………まあな。俺の存在や、創ったもの含めて全部な」

「……そうか」

 

 具体的に理解した様子は見られなかったが、これ以上は聞かないほうがいいと判断したのか、箒は自動的に開いた扉から外へと出て行った。

 

 一方、戦兎は奏を繋げたパソコンを弄りながら修復作業を再開しはじめる。視線を奏に向けようとした戦兎の視界にふとある物が映った。

 

 それはビルド用に開発し、現在奏の修復と更新のために置いてあったビートクローザー、そして同じように一緒に置いてあったドラゴンフルボトルだった。

 

 

 

『今のお前はひとりぼっちのヒーローだ。そんなお前じゃあ俺には勿論この世界にはびこる悪意……それに篠ノ之束にも勝てないぞ?』

 

 

 

「ボーデヴィッヒの奴に偉そうに説教したけど、俺も人のことは言えないか」

 

 新世界の創造を行えば、自分を知る人間は誰1人としていなくなる。それはわかっていた。

 しかし、自分たちの世界がどうなったのか。新世界は創れたのか、最悪の可能性を迎えてしまったのか……それもわからずじまいの上に万丈をはじめとした仲間たちは行方不明、しかもエボルトやパンドラボックスは健在……

 

 ここまで見て見ぬ振りをして誤魔化してきていた戦兎自身の内面的問題を、よりにもよって元凶たるエボルトに指摘されたことを、戦兎は未だ引きずっていた。エボルトお得意の精神攻撃とわかってなおも。

 

「…………言われなくてもわかってるんだよ。けど、たとえ1人でも俺はお前と戦わなきゃいけねぇんだよ……」

 

 そしてあの夢もまた事実。しかし、エボルトやナイトローグが束と協力ないしは手を組んでいるのが確定した以上、箒を始めとした学園の生徒たちにも危害が及ぶ可能性は十分ある。自分の手が回らない所で傷つくと言うならば、この力もまた当人たちの身や大切な人を守る力になるはずだ。戦兎は己にそう言い聞かせる。

 

 一人になった部屋の中心で、戦兎はうんうんとボヤきながら作業を続けるのだった……。

 

 

 

 

 

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 翌日のホームルームのあと、1年の専用機持ちが織斑千冬にある話を受けていた。それはIS学園並びに各国のIS操縦者、国家代表などに広布されたある規定だった。それに箒がいの一番に聞き返した。

 

「特別交戦規定……ですか?」

「そうだ。先日の学年別トーナメントを含めた行事中にも姿を見せた未確認生命体とそれに類する存在に対し、学園の上層部が世界各国と話し合って決定した。本日をもってIS学園外でそれらと遭遇した場合に限り、アラスカ条約に反する『指定領域外でのISの武装展開』の許可が下りることになる」

「ということは、以前の一夏さん誘拐事件のような場合でもISを使用してもいいのですね」

「そんなこともう無ければいいんだけどな」

「ちょっと待て! 嫁の誘拐事件だと!? 私は聞いてないぞ!」

「ラウラ、ちょっと静かにしてよ、ね?」

 

 それぞれがリアクションを示す中、1人浮かない顔を浮かべている人物もいた。当然戦兎である

 

「…………」

「どうした戦兎、まだ調子悪いのか?」

「いや、そうじゃねえよ。ただ無関係な生徒がス——じゃなくて未確認生命体と戦う必要性はねぇんじゃねえかなって」

「いくら生徒であってもプロ、国家代表候補の専用機持ちだ。非常時の戦闘訓練は積んでる」

「そりゃそうでしょうけど俺や一夏は候補生じゃないでしょ。篠ノ之だって予定ですし。それにいくら訓練積んだと言っても未成年だし」

「言いたいことはわかる。私としても正直不服ではあるが、これも決定事項だ。各国も『例の騎士が間に合わなかったら』『本当にアレが人類に味方するのか』『出没場所が学園に近いのならば最悪生徒たちを迎撃に向かわせたほうがいい』と言っていたらしい。そしてそれが決定打になったということだ。だからお前たちも疑問や不満に思うこともあるだろう……特にお前は」

 

 最後の部分に何人か頭をひねっていたが、その様子を敢えて無視して千冬は続けた。

 

「今までお前たちはアレとの交戦経験は無かっただろうが、もしそうなった場合気をつけろ」

「気をつけるってどういうことです?」

「学園のアリーナに攻めてきた無人機や暴走したISと違って、アレらは普通に街や山の中でも出没する。最悪、市街地戦を想定しなければならない、ということだ」

「市街地……ビルや建物に囲まれれば閉所で動きは制限され、周りには一般の人もいる。ということですね」

「そういうことだ。特に、今のISは兵器でもあるということを忘れるな」

 

 未だ納得のいかない表情を見せる戦兎に対し、一夏と箒はわずかに困惑の顔色を隠せず、逆に各国の代表候補生は張り詰めた様子を見せながらも既に覚悟を決めていた。

 

「……そう肩に力を入れなくてもいい。学園内ならばともかく、外に出現した際にお前たちを現場へ駆り出すという訳でもない。ヤツが自発的に応戦に向かう限り、この規定の本来の用途はあくまで自衛なのだからな」

 

 そこまで告げたところで、1時間目の授業の開始を示すチャイムが鳴り響く。千冬は生徒を解散させると、すぐに授業の準備に入っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かの国の研究所

 

 その中の一室には、上部をガラスで覆われ、ダクトが繋がれたカプセルのような機械が幾つも並べられていた。

 

 ガスのようなものが充満する内部では、機械のようなものが蠢いており、それがガスを吸収するたびに人型の異形へと変貌を遂げていく。

 

「パンドラパネルのエネルギーとネビュラガス、クローンスマッシュの技術を活用し、本来のスマッシュ同様にフルボトルの成分を内包、失うと自壊して痕跡を残さずに消滅する新型スマッシュ。名付けて <バイオスマッシュ>……前回のネビュラガスの成分を上昇させて強化したホエールスマッシュとユニコーンスマッシュのデータを基に、更に性能を向上させた今回の個体はさしずめフェーズ2と言ったところでしょうか」

『うんうん、巧くんへのサプライズにはちょっと足りないけど、仮面ライダーと並ぶ存在ってアピールさせないといけないし、そろそろいっくんにもスマッシュと戦ってもらわなきゃだね。……いつまでもISよりスマッシュの方が上って無能なマスコミに言われるのもあれだし』

 

 研究所の中で束と連絡していた内海は、手に持っていたデバイスの画面を確認しながらメガネを押し上げて淡々と報告する。

 一方の束は満面の笑みを浮かべて今後のプランも考えながら発言していたが、最後の部分だけはまるで蔑むような冷徹な様子で吐き捨てる。

 

「また、幾つかの個体は処理したのち浄化してフルボトル化せずにスマッシュボトルとして保存しています。本来のスマッシュ同様に、コレを使わせることで人間をスマッシュ化させることも可能になります」

『そこらへんはうつみんの好きにしていいよ、束さんはそっち使うことないだろうし』

「わかりました。……ところで、本当に実行するつもりですか?」

『うん? 当たり前じゃん。勿論箒ちゃんの紅椿本体には搭載しないけど、天月と空烈には仮搭載してみるなら良いかなーって。まぁ他の機体にならテストも兼ねて本体につけても良いよ』

「……では、ちょうど修復作業を行なっているイギリスと中国に例のデータを……」

 

 短く相槌をしたあと、内海はデバイスを操作して連絡を切った。

 

「…………うつみん……」

 

 その言葉にだけ困惑しながらも、どこか満更でもなさそうにそう呟いたあと一度軽く一室を見回した。辺りにはパソコンやケーブル、デバイスなどがきっちりと並べられており、それらの道具の前に広がっていたカプセル型の機械の中で新兵器……バイオスマッシュが何体か生み出されていた。

 

 

 バイオスマッシュはこの世界に来てから内海が篠ノ之束の論理を元に作り出した新型のスマッシュ。新世界創造前に還元されたフルボトルのデータと要素をパンドラパネル内からピンポイントで抽出することで、任意のフルボトルの能力を持ったスマッシュとして生み出すことができる。

 

 欠点として、見た目や能力で採取した際に何のフルボトルになるか、また何のフルボトルの成分を抽出したかの予想が付きやすいこと。そして現在のパンドラパネル内のフルボトルの成分は微々たる物のため、一度抽出したらどれだけ強力であっても同じバイオスマッシュは長期にわたって生み出せないことの2つがある。

 

 ただし、バイオスマッシュはフルボトルの成分を得るための手段……それら成分をボトル1本分に成長させる土壌の様なものであり、言ってしまえば最初から倒されるために作り出されたスマッシュである。

 そして同じスマッシュを素早く製造することに関してはビルドの世界同様にクローンスマッシュを製造してしまえばいいため、これらの欠点は特に問題視するようなものではなかった。

 

 そしてパソコンの画面にはパンドラボックスとパンドラパネルが表示されており、そこに様々な式や記述が書かれている。

 

(……たった数ヶ月足らずでこれだけの物をよく作れる……俺では理論までは建てれても、まだ実行には至らなかっただろうな)

 

 パンドラパネル内の成分抽出など、それらは全て束が1人で論理化してしまった。しかし彼女は造るもの全てが完璧でなければ気が済まないようで、彼女の目的に沿ったとしてもこのような物を作る気にはならなかったであろう。それを内海が代わりとばかりに行なっているのだが。

 

 今この世界での主人である篠ノ之束の異常性を振り返った内海は、恐ろしさを感じずにはいられなかった。

 

 

 

 エボルトとの戦いでロストフルボトルを守って活動停止した状態だった内海は、桐生戦兎がこの世界にやって来るより早く飛ばされた。

 

 しかしその際に、パンドラタワーの残骸と共に飛ばされた内海のすぐそばにある物が落ちていた。……それは新世界創造に使われるはずだったパンドラパネルだった。

 

 そしてその際の莫大なエネルギーを観測し、曰く面白そうだったからという理由で訪れたのが篠ノ之束であった。

 

 束はパネルのついでに拾った内海をある程度修復すると、再起動して困惑していた彼に真っ先にパネルとエボルドライバーをはじめとした装備の数々の用途や概要を聞き出した。

 

 内海がそれらの説明を渋々すると、彼女は異世界の存在を疑うこともせずにエボルドライバーとパネルの解析を始めた。

 実物も無くデータのみの状況で、彼女が試作品として造り出したフルボトルとそれを基にして生まれた人工フルボトルであるロストフルボトルを完成させたのは、それから僅か数時間ほどのことであった。

 

 その後、内海に利用価値があると判断したのか、それらを一任させるためなのか、はたまた単に気が向いただけなのか、束は内海の未修復だった箇所も修復したのだった。

 

 再起動した内海は、最初どうするべきか悩んでいた。

 彼女が生み出したISが最先端を行く科学の結晶であり、そんな彼女と行動を共にすれば科学者として目指す高みにも至れるだろう。しかし、彼女の行なっていることは完全なテロ……犯罪である。そして自身は難波重工にこそ忠誠を誓っていた。故に自身の居場所がないこの世界で、彼は今後の自身の行く末を見定めることが出来なかった。

 いっそ同じ世界の人間がいないか探して帰還する術を探そうとさえ考えていた。

 

 しかし、彼に再び戦いを決意させる出来事が起きた。

 

 

 

 ここまでのことを軽く振り返っていた内海だったが、そんな彼の持っていた連絡用の端末に着信が入る。サイボーグらしい機械的な表情を浮かべていた内海だったが、相手の名前を見ると心底忌々しそうな顔へ変貌していた。

 

 すぐに気を引き締めて顔を戻すと、端末を操作して通話を始める。

 

『よぉ元気そうだなぁ? 内海ィ〜』

「エボルト……何の用だ?」

 

 通話の相手……エボルトの声を聞きながら、内海は手短に終わらせようと挨拶を無視して用件だけ聞く。

 

『オイオイ、そう冷たくするなよぉ〜俺とお前の仲だろ?』

「お前に心から忠誠を誓った覚えはない。そしてそんな仲でもない」

『ハッハッハ、まぁいいさ。実は用件は特に無いんだなコレが。なにせすることが無さすぎて暇なんだよ。俺自身のハザードレベルは大幅に減少。エボルドライバーは破損した上篠ノ之先生に取り上げられちまったし、おまけにパンドラボックスもパンドラパネルも出力が低下してるときた。なんで今の俺に出来るのはこうして会話を楽しむことくらいさ』

 

 無視して切ろうか。そう判断した内海だったが、その前にエボルトが一方的に話題を振り始める。

 

『そういえばお前、今どれくらいなんだ?』

「何がだ」

『肉体だよ。前までどれくらい残ってたのか忘れてしまったんだが……今は一体どれだけ残ってるんだ?』

「……およそ2%だ」

 

 篠ノ之束に修復されたとは言え、全てが元通りというわけではなかった。損傷が激しい部分は新しいパーツに交換された。そして最も激しく損傷していたのは、数少く残っていた彼の生身の肉体であった。束は彼の都合よりも興味を優先した結果、以前よりもさらに身体の機械化が進んでいた。

 

『2%……人間の肉体で2%に相当する箇所といえば……』

「それが一体なんだ」

『いやぁ果たしてそれは、本当に生きていると言えるのかと思ってな』

「お前に心配される必要はない。俺を改造したことも忘れていたお前にはな」

『そうなんだよなァ、俺この前会うまでお前のことすっかり忘れてたんだよ〜。おかげでアイツにお前のこと話すの忘れちまったんだよな』

 

 エボルトは人間の感情やそれが引き起こす結果を気に入っていた。人類が好きだと言ってのけるほどには。しかし、そんな人間らしさがなく手術前からサイボーグとまで比喩されていた内海にはこれっぽっちも興味を抱かなかった。故に彼を改造したという事実さえ忘れるほどにどうでもいい存在としか捉えていなかった。

 

『しかし1つの部位を残して他を全て機械にしてまでやりたいことがあるとはなぁ……人間として、俺を倒して難波の仇を取ることか? それとも科学者として、今度こそフェーズ4を使いこなすことか? どちらにせよ自分の目的のために幻德や難波、俺、そして先生と移り変わるお前は、まさしくコウモリじみた狂気の悪党だよ』

「とりあえず褒め言葉として受け取っておこう」

 

 メガネを押し上げながら返事をする内海。その顔は相変わらず無表情を保っていた。

 

『それにしても篠ノ之先生が戦兎に自分から声を掛けに行くとはねェ』

「自分の妹の専用機を造ることを宣言するためだそうだ」

『果たしてそれだけかァ? 宣戦布告か、興味を持ったか、或いは……いや正義のヒーローに憧れたってのは無いな。らしくない』

「……こっちも忙しいんだ。もう切るぞ」

 

 いい加減うんざりし始めた内海はボタンに指をかけようとしたが、それを遮るように耳元からエボルトが声をかける

 

『ああそれから、最後に1つ聞かせてくれよォ。噂に聞いたFAシステムとやらをばら撒くのか?』

「お前には関係ない」

『FAシステム……Fatal・Activity(フェイタル・アクティビティー)、致命的動作が無いかの改修・修復プログラム。VTS搭載機とやらの攻撃を受けた2機に真っ先に行うらしいじゃねぇか』

「……」

『しかし本当にそんな親切なことするつもりか? いやねぇな。篠ノ之先生はそんな奴じゃあ無いはずだろ? だから最初のテストに無人機を選んだんだ。そしてそいつの本当の目的とFAの読み方は——』

「悪いが時間だ。切るぞ」

『あ、オイ』

 

 話の途中であったが、内海は容赦なくボタンを押し込んで通話を切った。

 

 端末をスーツのポケットに突っ込んでしまうと、ケースに近付いて備え付けられていたボタンを入力する。

 ガコンッ という音と共にケースが開かれ、中から全身金色のスマッシュが立ち上がる。スマッシュは内海に見向きすることなく、フラフラと部屋の中をうろつき始める。

 

 そんなスマッシュを見ながら内海は1人呟く。

 

「お前は許せないだろうな。だが、俺は彼女の元で事を進ませてもらう。エボルトを倒すために…………さあ、どう動く? 桐生戦兎……」

 

 全ては難波重工のために。

 頭の中に浮かんだ、自身の知るもう1人の天才に告げながら、内海はトランスチームガンを取り出して床へ銃口を向けてトリガーを引く。トランスチームガンから放たれた煙が自身やスマッシュを覆い、晴れた時には両者の姿は消えていた……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 休日、IS学園新聞部ではある議題が上がっていた。

 

「この数ヶ月、織斑くんに様々なアプローチをかけて来た我々新聞部。その甲斐あって色々インタビューすることが出来たわ」

「…………」

「……」

「けれど、同じ男子である桐生くんに関しては一切出来ていない! 性格に多少の難はあるけど面倒見は良いしなんだかんだでファンも織斑くんに負けず劣らずいるのに、彼の特集は一切組めずじまい!」

 

 新聞部副部長、黛薫子は不甲斐ないとばかりに叫ぶ。

 

「そんなこと言っても、桐生くんってば凄い勢いで逃げちゃうんですもん」

「追い詰めたと思ったら飛び越えて逃げられもしましたからね。本当に兎みたいに跳ねて」

「そういうことを書きたいんじゃないの! 彼の私生活から何まで丸裸にするのが今回の我々の議題! それが駄目でしたーじゃ名が廃るもの!」

 

 桐生戦兎のことを調べようにも、彼の過去を知る者は一切いなかった。日本全国の中学や親族を徹底的に探しても出身さえ不明のままだった。

 故に彼をインタビューすることは、学園でもトップシークレットに近い彼の日常や生活を暴くのに等しかった。

 好奇心の強い黛としては、そうして失敗するたびに彼への興味が増えていくのだった。

 

「しかし、つい先日とある情報筋から連絡を得たの! 桐生戦兎の過去を知る人物と!」

「えぇ!?」

「それ本当ですか副会長!」

 

 メガネをキラーンと光らせながら押し上げる黛に歓喜と驚嘆の声を上げる新聞部員たち。部室は永きに渡る激闘を制したかのような盛り上がりを見せる。

 

「そしてその情報提供者とこれから会うことになってるの」

「え、学園内でですか?」

「いや学園に入れないし、誰かに聞かれるかもしれないからって理由で外の指定された場所で会うことになってるの」

「え……いやそれ危険じゃないですか?」

 

 盛り上がったのも束の間、不穏な雰囲気を見せた話の内容に一同は困惑し始めた。

 

「確かにそう。けど、我々新聞部の情熱が結んだ今回の一件、掴まないわけにはいかない! 例え罠だとしても!」

「そ、そんな……」

「大丈夫、それに私だって対策くらいしてるから。それじゃね〜」

 

 そう言い残すと黛はカメラなどの取材用の器具を持って出て行ってしまった。

 

「ど、どうする?」

「まあ副部長って、徹底的に追求するタイプだからね……」

「桐生くんのこと全くわからないままだから尚更ね〜」

「とりあえず先生方に報告した方が……」

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 学園内の整備科で奏の修復を終えた戦兎は、うーんと伸びをしていた。

 

「さてと。こいつを篠ノ之に届けて、それから……」

 

 そういうと戦兎は奏を持って一旦机の端に移動させると、今度は一丁の大型ライフルを取り出して奏と交代する形で机に置いた。

 

「こいつの最終調整だな。本来ならL&Pの武装にするつもりだったが……」

 

 そう言いながら戦兎はライフルにケーブルを指したりしてパソコンの画面に詳細を表示したりと準備を進めた。

 

 一通り準備を終えた戦兎は先に仕上がった奏を箒に渡しておこうと整備科の部屋の扉を開けて外に出た。

 

「おっと」

 

 戦兎が外に出ようとしたのと同時に、隣の部屋から出てきた生徒が戦兎の目の前を通り過ぎる。

 

 歩こうとしていた戦兎は、ぶつからないようにその場で急ブレーキをかけて踏みとどまった。

 

「…………」

 

 通り過ぎた水色の髪にメガネを掛けた生徒は、ぶつかりそうになった戦兎を一瞥することなくそそくさと歩いて行った。

 

「ったく危ねぇな……けど今の奴、どっかで見た気がするんだよな」

 

 奏を首に当てて若干の悪態をつきつつ、ふと思ったことを口にした戦兎だったが、思い出さないと言うことは大したことでもないだろうと判断して、本来の目的を思い出したかのように今度こそ部屋を出て行った。

 

 

 

 箒の部屋まで赴いて奏を渡した戦兎は整備科の一室へと戻っていた。渡り廊下を歩いている時、不意に背後から声が聞こえた。

 

「おーい、きりりーん」

「ん、俺か?」

 

 誰が呼びかけているのかと思いつつ、独特な呼び方で大体のあたりをつけながら振り向いた戦兎の背後で、同じクラスの布仏本音が長い袖ごと腕をパタパタとこっちへ振りながら近付いてきた。

 

「やっぱり布仏か、どうした?」

「あのね〜今日の夕方くらいにね、きりりんに生徒会室に来て欲しいから伝えてって言われたんだよ〜」

「生徒会室に? それまたどうして?」

「さあ〜? 織斑先生がそこで待たせておいてって〜」

 

 彼女は(こう見えて)生徒会のメンバーの書記長であるらしく、その生徒会室への呼びかけに来るのは理解できた。しかし呼び出されるようなことをしただろうか。それに端末で呼び出せばいいのに……ビルド関連でだろうか、と考え込んだ。

 

「わかった、ありがとな」

「…………」

「? どうかしたか?」

 

 その場を去ろうとした戦兎だったが、当の布仏はというとじーっと戦兎の顔を見ていた。何か付いているのかと疑問に思った戦兎は思わず聞いてみることにした。

 

「うーんっとね。多分だけど、きりりんってなにかいっぱい抱え込んでるよね〜って」

「……どうしてそう思うんだ?」

 

 図星だった。現に戦兎はあらゆる問題に直面しており、誰に相談するでもなく1人でためていた。

 そんな戦兎の内心を知ってか知らずか、布仏は続ける。

 

「最近のきりりん、ちょっとかんちゃんに似てたから」

「かんちゃん? 誰だそれ、顔が青い方の太鼓か?」

「違うよ〜。それはともかく……そんなに1人で抱え込まなくても、みんなにもっと頼っていいと思うよ。みんな居るんだから、つらくなったらみんなに相談してもいいんだよ〜〜」

 

 言うだけ言ったからか、布仏はじゃあね〜とまたも腕をパタパタ振りながら廊下から去っていった。

 

 誰も居なくなった廊下の真ん中で、額縁の向こうから葛城巧が声をかけてくる。

 

——君が今、なにを思っているか当ててみようか?——

「…………」

——……『なにも知らないくせに、知ったようなことを言うな』。違うかい?——

「そんなわけあるか。知らなくて当然だ、知らなくていいんだこんなことは……」

 

 ため息混じりにそう呟きながら、戦兎は再び整備科へと足を運んで行った……。

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 IS学園からモノレールにしばらく乗った後、そこからかなり歩いて着くような海に面した郊外の倉庫。

 その倉庫の扉が僅かに、そしてゆっくりと開かれる。

 

「……失礼しま〜す…………」

 

 黛は中の様子を伺いながら小声で倉庫の中へと入っていく。

 

 倉庫は無人らしく、棚に陳列された資材にもホコリが被っており、しばらくの間誰の出入りも無かった様子が見受けられる。

 

「誰か居ませんか〜」

 

 再び小声で声を上げる。辺りは静かで何の返答も聞こえなかった。

 

 こんな所に呼び出すのだから何かあるのだろう。そう考えた彼女は護身用の物もいくつか持ってきていた。

 倉庫の中心付近まで歩くと、そのうちの1つであるスタンガンに手を掛けようとした。すると後方からカツンカツンと静かに、そしてゆっくりと足音が聞こえてきた。

 

 勢いよく振り返って臨戦態勢をとった黛の目の前に立っていたのは、1人の男性だった。

 

 黒いスーツを身にまとっており、音を立てていた靴も普通のビジネスシューズだった。ネクタイを結び、無表情に近いその顔にはメガネを掛けていた。

 

「えーっと……貴方が情報提供者、ということでいいんでしょうか」

「ええ。私がそちらと連絡を取った者です。桐生戦兎の情報が聞きたいのでしょう?」

 

 警戒を解かないまま眼の前にいる男に対し、遠方のままマイクを向けて幾つか質問を試みた。

 

「失礼ですが、本当に彼について知っているんですか?」

「疑うくらいであれば何故ここに来たのか説明して欲しいくらいですね……まあいいでしょう。まず彼の実家は東北地方にあります。家族構成は科学者の葛城忍、元教師の葛城京香の3人家族。出身校の城南大学卒業後、東都先端物質学研究所に勤めていましたが、ある日を境に——」

「あー……ちょっと待ってもらっていいですか」

「何か?」

 

 いきなり流れ込んでくる桐生戦兎の経歴をマイクとメモで取っていた黛だったが、不自然な点を感じ、一度男に待ったをかける。

 

「貴方が彼のことを知っているのは信じるとして……いくつか聞きたいんです。大学と言うと、彼は飛び級で大学に通い、そのあと高等学校であるうちの学園に来たってことですか? あとそれから……東都先端物質学研究所でしたっけ? それどこの施設ですか? 聞いたことないんですけど」

 

 前半はともかく、後半は彼女が知りようがなかった。

 男はメガネを再び押し上げると、サイボーグのように無機質な顔を浮かべたまま口を開く。

 

「調べてもお分かりにはなりませんよ。この世界には最初からありませんので」

「はい?」

「いえ、彼の情報について話すのは事実ですよ。どうせ忘れますので。それから私の本来の目的は……」

 

 ドオオォォン!

 

 そこまで男が話すのと、突然の轟音と共に倉庫の天井が崩壊するのは同時だった。

 

 崩落する天井の壁とともに、1つの金色の異形が音を立てて落下する。

 

「な……!?」

 

 慌てつつも的確に目の前の異形、そしてここまでの出来事に眉ひとつ動かさずに立っていた男の2人から距離を取ろうとする黛だったが、それよりも早く異形から自身と同じ金色の鎖が彼女目掛けて発射される。

 

 迫り来る鎖を、一度は前転で姿勢を低くしつつ回避する。しかし間髪入れずに異形の肩からも鎖の第2、第3打が飛び交う。

 

 自身の進行方向に放たれた第2打をその場で急停止してやり過ごすも、第3打が目の前に迫る。

 避けるのは不可能、そう判断した黛はカバンから取り出したカメラで目の前に佇む金の異形の姿を収める。

 直後、迫り来る鎖が命中したかと思えば、彼女の身体に素早く巻きつき動きを封じる。

 

「くっ……!」

 

 異形よりも取り落としてしまったカメラに視線を向けていた黛だったが、地面に落ちたカメラをスーツの男が拾い上げた。

 

「……まあ、カメラなら残しておくか」

「一体あなたたち何者なの? そこら辺も聴かせてくれるとありがたいんですけどね……!」

「こんな状況でもまだそんなことを言えるとは。やはりマスコミ精神は凄いな、色々な意味で」

 

 心底呆れるようにそう呟いた男は、懐から何かを取り出した。

 

「それは何です? 中にいかがわしいことに使う薬品でも入ってるんですか?」

「そうだな。薬品ではないがもっと酷いものだ。激物と言っていい。君をおびき出した理由はそんな大きなものではない。桐生戦兎について探ろうとしていたこと。マスコミのような存在に覚えがあったこと。仕事の都合で黛という名前をした人に会ったことがあること……それだけだ」

 

 男はそう言いながら、イバラのようなものが巻かれた丸いボトルのキャップを回した。

 

「それはそれは……お役に立てて光栄ね……けど」

「言っておくが、君に記憶は残らない。精々私に会いに来ようとしたレベルだろう。それ以前までの記憶は残ったままだから安心するといい」

「……っ」

「……さぁ、実験を始めようか」

 

 呟き終わると、男はキャップを開けたボトルをこちらを睨んだままの黛へと向けた……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 整備科の一室に戻った戦兎は、机に向き合って先ほどの大型ライフルの整備を行っていたのだ。

 そしてしばらくすると戦兎は勢いよく椅子から立ち上がった。

 

「よし調整完了っと。あとはこれを……」

 

 ライフルを持った戦兎は、それを近く置かれていた大型の装備に並べた。

 映し出された空間投影ディスプレイとキーボードを操作すると、装備とライフルが粒子となって消えた。戦兎の手のひらにはバングルのようなものが置かれていた。

 

「完成か。まぁ物がものだしな。これからも更新が必要かもしれない」

 

 それが出来れば良いんだけどな。そう呟いてから一息つこうとする戦兎。

 しかしそんな戦兎の元に、いつだかと同じように連絡が入った。

 

「んだよ、またかよ」

 

 ポケットにしまっていたビルドフォンの画面には非通知と表示されていた。

 また篠ノ之束じゃねぇだろうな。そう思いながら戦兎はビルドフォンの通話をオンにする。

 

「はいもしもし?」

『…………久しぶりだな、桐生戦兎』

 

 ハイテンションな女性の声ではなく、くぐもったような声だった。それもボイスチェンジャーを通したかのような。

 回りくどい、しかしその話し方からしてエボルトではないと直感した戦兎は、その2人以外で可能性がある存在を口にする。

 

「お前、あの時のナイトローグか!?」

『たった今、お前のいる学園の生徒をスマッシュにした』

 

 その言葉に戦兎はこれ以上なく驚愕する。

 

「何!?」

『ではな』

「おいちょっと待て!」

 

 戦兎の制止も虚しく、ナイトローグからの連絡はそこで途切れた。

 

 通話を切った直後、ビルドフォンにスマッシュの出現反応が表示される。場所はかなり離れていたが、人数少ない所だった。

 

 すぐに被害が出ないことにだけ安堵しつつ、切迫した雰囲気のまま戦兎は外に飛び出した。

 

 

 

 学園の領域内、その隅の草むらの陰に急いで、しかし慎重に滑り込んだ戦兎は、何処からか取り出したビルドドライバーを腰に押し当てて装着。すぐに取り出した2本のフルボトルを急いで振って装填する。

 

【 タカ! 】 【 ガトリング! 】

T/G

【 ベストマッチ! 】

 

 音声案内を聴き終えるが早いか、戦兎はビルドドライバーのハンドルを勢いよく回す。周囲に展開されたスナップライドビルダーの前方にタカハーフボディが、後方にガトリングハーフボディが生成される。

 

【 Are you ready ? 】

 

「変身!」

 

【 天空の暴れん坊! ホークガトリング! 】

【 イェーイ! 】

 

 装着、変身を完了させた仮面ライダービルド ホークガトリングフォームは、背中の翼 ソレスタルウイングを展開すると一目散に大空へと飛翔した……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 海に面した倉庫の一帯に着いたビルドは上空から辺りを見回す。すると地上から黄金の鎖がビルド目掛けて飛んでくる。

 

「ちっ……! アイツか!」

 

 言うが早いか、ビルドは次々と飛んでくる鎖を的確に避けながら、手に持っていたホークガトリンガーのマガジンに手を掛けようとする。しかし……

 

 パシャッ

 

 まるで……否、あからさまなカメラのシャッター音が響き渡ると同時に、ビルドの動きが止まる。

 

「な、なんだこれ……!?」

 

 手も身体も動かなくなったビルドはスマッシュの格好の的になる。再び飛んできた鎖が足元へ絡みつくと、そのまま勢いよく引っ張られる。

 

「うぉっ!?」

 

 地面へと引っ張られ、途中で振り回されたビルドは近くの倉庫の壁に叩きつけられる。

 

「ぐぁっ!」

 

 左の壁に叩きつけられ、それが終わると今度は右の壁に、そうして何度か叩きつけられると、勢いよく真下のコンクリートの地面へと叩きつけられながら墜落する。

 

「……ッ!」

 

 先ほどの音からして、今この場にスマッシュは2体、しかもナイトローグも待ち構えている可能性がある。ビルドは危機に瀕していると言っても過言では無かった。

 

『……!!』

 

 叩きつけられていた地面から起き上がると、目の前にはストロングスマッシュに似た金色のスマッシュが現れる。

 

(まずいな……動きを封じる能力を持ったスマッシュが2体。となると片方だけに集中するには分断しないといけねぇか!)

 

 こんな時……そう考えたビルドの脳裏に、かつての仲間たちや、学園の生徒たちの姿が浮かび上がる。

 しかしその光景を、ビルドは首を振って否定する。

 

「みんな居ない……それにアイツらは巻き込めない……巻き込む訳にはいかない! ……俺がやるしかねぇだろ!!」

 

 己を奮起させて立ち上がったビルドは、タカフルボトルを取り外すと懐から新たなフルボトルを取り出して交換する。

 

主役(ヒーロー)は俺だ!」

 

【 ハリネズミ! 】

 

 数メートルほど先にいるスマッシュが再び鎖を2本発射する中、音声認証が終わる頃にはビルドはハンドルを回していた。ベストマッチではなくトライアルフォームのため、スナップライドビルダーは出現しない。

 

【 Are you ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 右から現れたハリネズミハーフボディによって、タカハーフボディが塗り替えられるように交換された。

 

 トライアルへの変身時に流れる音声の中、ビルドトライアルフォーム ハリネズミガトリングはビルドアップを終える。それと同時に、目の前に迫っていた鎖の先端を半身で避けると左手で2本の鎖を同時に掴み、右手のBLDスパインナックルで強く地面へと叩きつけた。

 叩きつけられた鎖の穴には、ハリネズミの長く鋭い針が地面へ縫い付けるように差し込まれていた。

 

 さきほどまでの様子を見るに、スマッシュが出せる鎖は2本まで。そう判断したビルドは、鎖を掴む時にしまっていたホークガトリンガーを再び呼び出して左手に持つと、スマッシュ目掛けて幾度となく発砲する。

 橙色のタカ型エネルギーが何発もスマッシュに命中、その衝撃によってスマッシュは体勢を崩す。その隙にビルドは動きを止めるもう一体のスマッシュを片付けるために一旦その場を離脱した。

 

 

 

 ビルドが倉庫と倉庫の間の細い道を慎重に通っていくと、海に面した広い場所に出た。そこで青を基調とし、黄色いアクセントを入れたスマッシュが佇んでいた。

 

 両腕や頭部、胴体の一部分がカメラの望遠レンズ、両肩はインスタントカメラのようになっており、周囲を観測しながらビルドを探しているかのようにキョロキョロとしていた。どうやらさきほどのスマッシュのすぐ近くで援護していたというわけではないようだ。

 

 こちらにまだ気付いていない、そう判断したビルドはホークガトリンガーをスマッシュに向けるとそのまま発砲し先制攻撃を行う。

 

『!?』

 

 罠の可能性を考慮していたビルドの予想とは裏腹に、ホークガトリンガーから発射されたタカ型エネルギー弾は何の問題もなくスマッシュへと命中した。

 

『!!』

 

 一度ホークガトリンガーを下げて詰め寄ろうとするビルド。しかしスマッシュが望遠レンズの形をした腕をこちらへ向けると同時に、先端のカメラレンズが眩しく光る。

 

 パシャッ!

 

 直後、スマッシュへ走り出したビルドの動きが再び静止する。

 

「あのカメラに映されたら止まるって訳か……!」

 

 冷静に分析しようとするビルド、そう呟いているうちにスマッシュがゆっくりと歩きながら接近し、左腕を大きく振りかぶってから勢いよくビルドへと振り下ろす。

 

「ぐあっ!」

 

 頭に強い衝撃を受けたビルドが膝から崩れ落ちる。足元を見下ろしながら、スマッシュは再びレンズを輝かせてビルドの動きを封じようとする。

 

 しかし、ビルドはシャッターを切ろうとしたスマッシュの足元に右手を伸ばすと、スパインナックルから細長い針を伸ばした。頑丈なボディもあってか貫かれることはなかったものの、何本もの針に弾かれたことによってスマッシュは姿勢を崩す。

 

「ようはAICと同じで集中、確認出来なくすればいいんだろ!」

 

 すぐさま起き上がったビルドは、そのままスパインナックルでスマッシュの顔面部分や胴体を何発も殴打する。

 

 さきほど伸ばした時と違い、今度はビルド自身が殴りつけている。それによって威力が更に上乗せされ、殴打された顔面と胴体のレンズに細かなヒビが入る。

 

『……!』

「これだけヒビが入ればこっちを捉えられねぇだろ」

 

 カメラの範囲内でシャッターを切られる……写真に収められると動きが止まってしまう。ならばそのレンズを破壊すれば撮影出来ず、動きを止められることはない。ビルドはそう判断した。

 現に、ヒビ割れたままのレンズをこちらに向けていたスマッシュからシャッター音が聞こえてきたが、今ビルドの動きは封じられていない。

 

 まだ肩と両腕のカメラが残っている、それを踏まえてシャッターを切られる前に避けて倒す。そう考えたビルドはスマッシュから距離を取ると、ホークガドリンガーのマガジンを回しながらスマッシュの背後に回り込むように全力で走り出す。

 

 両肩のカメラのレンズが光るが、動き出したビルドを捉えられなかった。両腕を向けようとした頃には、ビルドは既にスマッシュの背後に回り込んでいた。

 

「いける……!」

 

 スマッシュが振り返ろうとするも、既にビルドはホークガドリンガーのマガジンを回し終えていた。スマッシュの周囲に結界が発生し、逆にスマッシュを拘束して動きを封じる。

 ホークガドリンガーのトリガーに指を掛けて仕留めようとするビルド。

 

 しかしその攻撃は、ビルドの真横から来た衝撃によって中断された。

 

「ぐあっ!」

 

 突然貰った衝撃によって吹っ飛ばされ、ビルドは近くの倉庫の壁をぶち破って床の上を転がっていく。

 顔を上げた視界の先……倉庫の穴の先には、さきほど撒いた金色のスマッシュが追いついていた。2体のスマッシュが倉庫の中へと踏み入り、視界の先に揃い並び立つ光景を前に、ビルドはなんとか立ち上がろうとする。

 

 パシャッ!

 

 しかし、ビルドが体制を立て直すよりも先にカメラ型スマッシュが両肩のカメラのシャッターを切ったことで、ビルドの動きが再び静止する。

 

(クソッ、どうする……!? 見た目以上にダメージが大きい……それにこいつらだけじゃなくてナイトローグもいるかもしれねえってのに!)

 

 焦りの色が見え隠れするも動きを封じられたビルドの目の前で、金色のスマッシュは発射した鎖を鞭のように振るい、ビルドに叩きつける。

 ビルドの装甲から火花が飛び散る。攻撃しているのはもう一体のスマッシュだったためか、叩きつけられた衝撃で身体がわずかに動くことはあったものの、カメラによる拘束が解かれることはなかった。

 

 何発か攻撃をもらったあと、金色のスマッシュから鎖が発射される。鎖は命中するとスマッシュから切り離されて、ビルドの身体に何重にも巻き付いた。

 

 金色のスマッシュは大きな両腕に左右一本ずつ鎖を巻きつけてグローブのようにすると、ビルドに接近して胴体を何度も殴りつける。左右の拳で胴体を殴ると、大きく振りかぶってビルドを倉庫の入り口付近まで殴り飛ばした。

 

「クッソ……!」

 

(ここまでだって言うのかよ……!)

 

 異なる世界で、エボルトでもナイトローグでもなく、詳細不明とは言えスマッシュ相手に敗北する。それもスマッシュ化させられた生徒を救うことも出来ず……そんな結末が頭によぎったビルドは、再び発射されて目の前まで迫り来る鎖を前に、歯を食いしばりながら目を伏せかけた。

 

 

 

「話には聞いていたけど、本当に1人で戦ってるのね。今の貴方」

 

 誰かの声が聞こえた気がした。気のせいだろうか。引き伸ばされた一瞬の中でそう判断したビルドだったが、目の前で変化が起きた。

 

 なにかの発砲音が倉庫の中に響く。すると目の前まで迫っていた鎖が弾かれた。それだけでなく、カメラ型スマッシュの胴体が火花を散らして姿勢を崩して撮影を阻止する。

 あまりに突然のことに困惑するビルドだったが、いつのまにか彼のすぐ近くに1人の女性が立っていた。

 

「もう、本当ならISを装備して直接来たかったんだけど、規定でも『遭遇時のみ』なのよねぇ。これからは意図的に無視でもしようかしら」

 

 物騒なことを呟く女性は、水色の髪に派手なワインレッドのタイツ、腕に黄色いタイを付けて片手に扇子を、もう片手には装備の施された腕部とそれに見合ったサイズのランスを部分展開で装着していた。そして何より、その服装はどう見てもIS学園の制服であった。

 

「だ、誰だアンタ……!?」

「やぁ、女の子は秘密が多いものなんだから、そんなに率直に聞いたりしたらダメよ♪ ……まあ状況が状況だから、自己紹介の1つもしないとね。けどその前に……」

 

 そう言うと、女性は手に持っていた扇子をバッと広げる。『助太刀』、扇子にはそう書かれていた。

 

「助太刀って……じゃなくて、危ねぇから下がってろっての!」

「大丈夫、アレが危険なのは百も承知。それに友人を人質に取られた挙句、うちの生徒を傷付けられたわけだし、お姉さんちょっと彼らに怒ってるの……まあここは一旦、お姉さんに任せなさいな」

 

 そう言い切ると、扇子を一旦閉じて下げる。そして再び上げてバッと広げると、さきほどとは違い『主役交代』と書かれていた。

 

「げ、げんさん?」

 

 かつての仲間のTシャツ芸(本人はいたって真面目だったが)を思い出したビルドは思わず呟く。

 

 そんなビルドのリアクションを無視して、女性はISを起動させた。

 光に包まれた女性の身には、更にいくつかの装備が身に付けられていた。しかし、他のISと比べてその比率が余りにも低すぎた。機械で覆っている部分の方が少ないと思えるほどに。その代わりか、身体を水のベールが覆っていた。

 そして1番眼を見張るのは、左右一対で付近を浮遊していた巨大なクリスタルのようなパーツ。そのクリスタルからもまた、身体を覆っているのと同じ水のベールを纏っている。

 

 女性がなんらかの操作をすると、2体のスマッシュ目掛けて周囲の水が小さく分散されて発射されたと思えば、当たることなく霧のように広がっていった。すると突然、スマッシュのいた場所が派手に爆発した。

 

 ドォォォン!!

 

 倉庫の中で発生した爆発を前に、ビルドは思わず顔を覆いながら原因を分析する。

 

「何が……いや、水蒸気爆破か……!?」

「そう、この霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)は特殊なナノマシンを含んだ水を自由に操れるの。今のはそのナノマシンを発熱させることで気化したってところよ。驚いてくれたかしら仮面騎士さん……いいえ、IS学園1年1組 桐生戦兎くん?」

「! なんでそのことを!?」

 

 自身の正体を知っている。その事実にビルドは驚きを隠せなかった。仮面騎士こと仮面ライダービルドの正体を知るのは千冬や山田先生、篠ノ之姉妹くらいのはず……

 そう考えていたビルドは、あることを思い出していた。千冬は自身が信頼出来ると思える人物に対してはビルドの正体について話していたことを。そしてそれらの人物、学園長や上層部の人間たちの中でただ唯一、生徒にも正体を話していたことも。

 

「まさか、アンタが……」

「そう、私がIS学園生徒会長の更識 楯無(さらしき たてなし)。君たち生徒の長よ、お見知り置きを……ってね♪」

 

 三度取り出し開かれた扇子には『生徒会長』とそのまま描かれていた……。




 一年経ったら仮面ライダークローズを始めとしたVシネが解禁されているような時期だろうしあらすじ漫才始めようと思ってました。まさかここまでストーリー進んでないとは自分でも思ってませんでしたが…

 原作よりも少し早めに会長こと楯無さんが出てきました。ただしずっとレギュラーで出続ける訳ではなくしばらくしたら本国に戻りますので、所謂スポット参戦のようなものと見て下さい。
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