Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

2 / 22
初投稿だと最初の数話は連続で上げられる…と、いつから錯覚していた?

なので初投稿です。
嘘です。


無害のランナウェイ

地球外生命体エボルトとの戦いを終え、世界はエボルトが存在しない平和な歴史を歩む『新世界』へと生まれ変わるはずだった。

だが実際に広がっていたのは、新世界どころか俺たちのいた「ビルドの世界」でも、かつて共に闘った「エグゼイドたちの世界」とも違う、IS<インフィニット・ストラトス>によって女尊男卑が当たり前となった世界、「ISの世界」だった……

仮面ライダービルドであり、てぇんさい物理学者の桐生戦兎はこの不思議な世界で次々とカルチャーショックを受けつつも、突如現れたスマッシュを素早く迅速に、そして華麗に撃破するのだった。

 

……でも男には絶対動かせないなんてどう考えても欠陥機じゃないのかアレ?たしかに使われてる技術はどれもこれもハイレベルだけど。

しかも世界を見渡しても500機も無いんだぞ?そのたった数百機の為に学校まで作っちゃってさ!そんなのが世界をひっくり返すとか冗談も休み休み言いなさいよ!

なーんて思ってたらそのうちのたった数機に襲われちゃうし…せっかくの記念すべき第1話だったってのに爆発オチって、どうしてくれんのよ?

痛い目に合わされちゃうわ追いかけ回されちゃうわ…

 

さて、一体どうなる? 第2話!

 

———————————————————

 

夜の街を赤と青の異形が駆ける

5つの黒い追跡者が空を舞う

 

「くそっ…まだ追ってくるのかよ…!」

 

建物の屋上や塀を次々と飛び越えながら赤と青の異形…仮面ライダービルド、桐生戦兎は呟く。

 

この追走劇も既に10分は経過しているが未だに彼方は諦めるつもりがないらしい。

 

「さっすが世界の歴史を塗り替えた最新鋭兵器、まだジャンプしてるだけとは言えビルドに追いつけるなんてな……」

 

そう漏らしながら後ろをちらりと振り返る

後方数十メートルと先程と変わらない距離をあの追跡者…ISは保ち続けていた。

手には相変わらずアサルトライフルや近接用ブレードの葵を持っていた

 

まるで「攻撃したら民間人にも被害が出るぞ」と挑発している様なこの状況は正直辛いものの、今彼女たちに捕まるわけにもいかない…そう考えたビルドは溜息をついてから、余裕を取り戻すように笑う

 

「けーど、ここからがビルドの本領発揮だ!」

 

そう言うとビルドは次に飛び乗ったマンションの屋上を左足のウサギの跳躍力、右足の戦車のキャタピラをフルに活用、先程以上の速度で跳ねる、滑るを繰り返していき徐々にISとの距離を離していった

逃すか、と叫ぶ女性の声を背に受けながら、ビルドは夜の街を疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…疲れたー」

 

工事途中の建物の中に隠れたビルドは何もついていない窓から外の様子を伺っていた

窓からは月の光が差し込み、ビルドを照らしている

見れば遠くでISがこちらとは違う方向へと飛翔していた。

 

「向こうに行ったか…たく、いーつまで追ってくるんですかっての」

 

かつても民間人から追いかけ回された経験を持つビルドだったが、その時はあのような高機動兵器なんて襲って来なかった。だからこそ、今あのISがどれだけ高い技術力を持って生まれたのかを痛感した

 

(しかもあの性能で量産機、少なくともガーディアンよりは強いな、機動力なら格段にあっちが上だ。絶対数の少なさを込みにしても、俺たちの世界の日本三ヶ国の全ガーディアンを総動員しても勝てないだろうな…)

 

そう思ったビルドは少しだけムスっとして独り言を呟く。

 

「篠ノ之束博士か……ちょっと妬けるな…」

 

まだ見ぬこの世界の天才…もとい天災を相手に僅かに嫉妬したビルドは、改めて先程入手したゴリラフルボトルを確認し念の為ビルドドライバーにラビットフルボトルと交換する形で慎重に挿してみた

 

【ゴリラ!】

 

「音声認識はちゃんとされるな、となると後は…」

 

そう言ってビルドはビルドドライバーのハンドルを回し始めた

先ほどのラビットタンクフォームの時と違い、スナップライドビルダーは生成されない

 

【 Are you ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

叫ぶと同時に右から茶色の装甲がビルドの右腕や左足、ボディに塗り替えられるように換装され、新たな姿…ゴリラと戦車を合わせた姿へと変えた

 

トライアルフォーム…ベストマッチではないボトル同士の組み合わせで変身するこのフォームは通常のベストマッチと比べて戦力は劣るものの、それらのベストマッチフォームが秘めた片方の能力を異なる形態の能力と組み合わせることで、時にベストマッチ以上の効果や能力を発揮することができる

 

今この形態、トライアルフォーム ゴリラタンクはラビットタンクフォームのようにウサギの素早さを持ち合わせてはいないものの、戦車の破壊力にゴリラの怪力を組み合わせたことでラビットタンク以上のパワーを発揮することができる

 

「ビルドアップも問題無いみたいだな…」

 

ゴリラハーフボディの影響で巨大化した右手や足を確認しながら安堵したように呟くビルド

 

——どうやら無事に変身できたみたいだね…フルボトルやスマッシュの成分も問題はなかったと——

 

突如聞こえた葛城巧の声に、ビルドは苛立ち混じりで話す

 

「いやお前スマッシュが出た辺りから何ずっと黙って見物してたんだよ!なんなの?高みの見物なの!?」

 

しかし葛城は額縁の向こうからこちらを見ようともせず返事もない。

そんな様子を見たビルドは諦めて座り込んでから落ち着き直し、葛城に話し始めた

 

「ああ、ボトル自体に影響は無いみたいだ、体に異常も感じないしな」

 

——ふーん。…で、さっきのスマッシュやフルボトルの件、何か心当たりや推測はあるのかい?——

 

葛城の問いにビルドは複雑な感情を抱いたまま、不服そうに自身の推測を述べた

 

「何故スマッシュが現れたのか、何故スマッシュに被害者がいないのか、何故スマッシュボトルを浄化できたのか…現れた理由と被害者不在の理由はまだ分からないけど、少なくとも浄化の理由に関しては心当たりならある。」

 

——…へえ、それって?——

 

まるで試すような物言いの葛城に再び不機嫌になるビルドだったが、仕方なくその問いに自分なりの推測の話を続けた

 

「その答えはただ一つ、かは分からないけど……もしかしたら、万丈の中に移動したベルナージュの力…あれがなんらかの理由で俺にも僅かながらに宿ったのかもしれない」

 

石動美空のバングルに宿っていた、火星の王妃ベルナージュ…かつて火星の文明を滅ぼそうとしたエボルトの肉体と力の源たるエボルドライバーを破損させた彼女はエボルトの後を追うように地球に到来、エボルトが憑依した石動惣一の一人娘である石動美空に憑依する事で彼女に治癒能力を始めとした不思議な力を与えていた。

 

戦いの最中、ビルド自身のかつての最強の姿<ジーニアスフォーム>の能力によって、エボルトの遺伝子の影響で暴走した万丈に彼女の力を移していたのだった

 

その後、エボルトと同じ種族が変身した<仮面ライダーブラッド>との戦いの中でビルドと万丈龍我<仮面ライダークローズ>は(物理的に)合体し、1つとなって戦った

さらにエボルトとの決戦においても万丈自身が託したドラゴンフルボトルを使ってトライアルフォーム ラビットドラゴンに変身していた。

 

「恐らくあの時のどちらかで、万丈と文字通り1つになった事で俺にもそんな能力が目覚めたのか…或いは最初の時点で僅かながらに俺に宿っていて、エボルトとの戦いで万丈のドラゴンフルボトルを使った事で更に活性化して、その力がちょうどこの世界で目覚めたのかもしれない…まあ、あくまで推測だけどな。」

 

そんなビルドの言葉に葛城はすこし頷きながら話した

 

——僕も大体同じ意見だ、もっともあのスマッシュの成分が特殊だった、もしくはこの世界そのものの特徴と言う線も残っているけどね……——

 

そう言って葛城は再び沈黙した。

 

「偉そうに言う為だけにわざわざ出張ったのかよ…全く……ん?」

 

そうしてビルドは頭を抱えて、ふと先程まで差し込んでいた月の光が途切れているのに気が付いた

ふと窓に目を向けると、

 

「「あっ」」

 

窓に浮かんでこちらを呆然と見ていたIS操縦者と目が合った。

ラビットタンクからゴリラタンクに姿が変わっていて困惑して居たのだろうか?

数秒ほどしてから彼女は正気に戻ったかの様に他の仲間に叫んで連絡を飛ばしていた

 

「……い、居たぞぉ!居たぞお!!」

「うそーん…」

 

ビルドは嘆くと反対側の吹き抜けになっている向かい側へと走り出した

背中からアサルトライフルの弾丸が辺りに外れる様子を感じながら、ビルドは壁もまだ無い建物から勢いよく外へと飛び出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュンと鳴く鳥の声に戦兎は目を覚ました

 

「…………朝かぁ」

 

建物のわずかな隙間から差し込んでくる眩しい太陽の光から顔を片手で覆って、戦兎はなんとかと言った具合に立ち上がった

彼は街の片隅にひっそりと立つ廃墟の中に身を寄せて、壁に寄りかかる形で眠っていた。

結局あの後しばらくの間逃走し続け、下水道を這い回りながら何とか逃げ切ったのだった

 

「知らない世界に飛ばされたことと言い、警察に追い回される流れと言い…万丈の人生追体験かよ…」

 

溜息をしつつも、こんな最っ悪な状況でも前を見続けた相棒を心の中で再評価しつつ戦兎は街の中へと歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を散策しながら、戦兎は無料の求人誌を読んでいた…だが

 

「ダメだ、理想の職が見つからない!」

 

学生可、日給、賄い有り、それでいて最低限稼げる仕事やバイト…そんな都合のいい仕事があるはずもなく……

 

「こうなったらどこかの研究所に直接殴り込んでみるか?ここで働かせてください!って」

 

自分の頭脳を最大限に活かせる仕事なら若くても何とか行けるんじゃないか…そんなことを考え始めた戦兎は取り敢えず求人誌をしまい、ネットで仕事に関する情報収集でもしようとビルドフォンを取り出した。

 

ネットを見始めた戦兎だったが、急上昇ワードの中に気になる見出しとそれに関する動画サイトへのリンクを見つけた

 

「これって…」

 

『今、巷で噂になっている謎の未確認生命体について!』

 

どこか仰々しいフォントで書かれたその記事を戦兎は開いた

 

『ここ数日、夜になると凶暴な化け物が現れるみたいです! やらせとか言われてるけど、ネットで撮影された場所に行って見たら、なんかブロック塀どころか自販機やガードレール、カーブミラーとか凄いことになってるし…更にはクレーターみたいに地面に大きなヒビも入ってました!

映像見る限り、どう見ても既存のISぽく無いし新型にしては生き物じみてるし…今後も皆さんの情報を募集してます!』

 

「募集してます…じゃねぇよ、首突っ込む気かよ……」

 

そう言いながら戦兎はリンクをタッチし、動画を確認した

 

そこにはつい昨日倒したストロングスマッシュが、昨日とは全く違う場所で暴れる光景が撮影されていた。

動画に投稿されたコメントも

 

『え嘘、これちょっとヤバくない?』

『↑引っかかる奴なんているのかよw』

『ハイハイCG乙』

『仮に本当だとしても警察動いてないとかないわ。女様はISで鎮圧できるだろーが』

『でも昨日見てきたけどマジっぽかったゾ。てかこれ多分普通に器物損壊だと思うんですけど(名推理)』

『バァン!(大破)』

 

なんて具合だった。

 

「ま、普通ならこんな反応だろうな」

 

そう思いながら流し読みしていた戦兎だったが…

 

『俺昨日この化け物に襲われた人見かけたんだけどさ、アレとは別に2体目の化け物がいたんだよ でもなんか1体目の化け物と戦ってたっぽいぞ、画像添付しとくけど』

 

そんなコメントに注目した戦兎は添付された画像を開いた

遠くからな上、焦っていたようで手ぶれでうまく映っていなかったがそこにはビルドの姿が…

この画像に対しても様々なコメントが寄せられていた

そんな様子を見ながら戦兎はどこか楽しそうに呟いた

 

「なんか懐かしいな…都市伝説扱いされてた時みたいだ…」

 

突如としてスマッシュと戦うために現れる謎のヒーロー仮面ライダー…そんな風に言われていた時期を思い出す戦兎

 

(本当に色々あったな…万丈に出会ってからは特に)

 

万丈に会ってから一転して脱獄犯の逃走の手助けをしたお尋ね者になったり、戦争の兵器として扱われたりと色々あったのだが…

 

そんな事を考えた戦兎は気を紛らわせるように立ち上がって当てもなく歩き始める

 

しばらく歩いていると建物の壁に映し出された巨大スクリーンでニュースが流れていた

 

『昨日未明、ISを含めた特殊部隊が展開されたことについて、警視庁はノーコメントを貫いています。ネットやSNSでは最近、未確認生命体の目撃情報が相次いでいますがそれらと関連しているのでしょうか。』

 

立ち止まってそのニュースを見ていた戦兎は、アゴに手を当てて昨日の一件と今の情報を照らした。

 

「なるほど…昨日以外にもスマッシュが出現していたのは警察側や特殊部隊も掴んでいて、尚且つ準備も整えてたってわけか……だから昨日、ISを含めた部隊をあんなに早く動かせたのか」

 

納得がいった戦兎は、いっそ警察に自身の身の上を話した上で協力関係を結ぼうかと考えた。

が、すぐさまその案を却下した

 

(今のこの世界は俺たちの世界の日本…東都、北都と西都と同じで、いつ戦争が起こってもおかしくない。そんな中で政府と繋がり深い警察に身の上なんか明かしてみろ、ビルドドライバーなんて即バラされて技術が流用してしまう。ネビュラガスがあるからどうしようもないだろうけど、形だけでも量産されかねない…それは絶対に避けないと……)

 

そんな事を考えていると、なにやらテレビの向こうに映るニューススタジオがざわついている様子だった。

何事かと首をひねって見ていた戦兎の前でキャスターが驚愕した…まるで信じられないとでも言いたい様な顔をしてニュースを読み上げた

 

『たった今入ってきた臨時ニュースです!IS学園の入学試験にて、男性である織斑一夏くん15歳が世界で初めてISを起動させる事に成功したとの事です!

また、原因はまだ不明とのことですが政府は先ほど起動に成功させた織斑一夏くんをIS学園にて保護すると緊急発表致しました!』

 

その時、歴史が動いた…というヤツだろう。

 

「…マジか」

 

戦兎は思わず呟いていた。

ついさっきまで今後の自身の身の振り方を考えていたが、それを中断させる程の内容だった。

 

少なくともこの世界…ISの世界においては大事件だろう。

何せ、ISが生まれてから既に10年という決して短くない月日が流れていた。

そんな中で男がISを起動させたとあってはこの10年で築かれた女尊男卑のルールが崩れかねないからだ。

 

ふと周りを見てみれば、先ほどの未確認生命体…スマッシュに関するニュースにさえ無関心で通り過ぎていた通行人たちが皆、足を止めてニュースに食いつく様に見ていた。

そして直後に辺りがざわめき始めた

 

「うっそ、マジかよ!?」

「男がISの操縦なんて冗談でしょ!?」

「え?てことは何?ISって男でも操縦できるの?」

「あの子が特別なの?」

「嘘よ、何かの間違いだわ!だってあり得ないでしょ!?この10年間1人もいなかったのに…」

「オイオイオイ、なら俺らも行けるんじゃねぇのか!?」

「けどIS学園て実質女子校だろ?死ぬわアイツ」

「ほう、男がIS操縦ですか…大したものですね。」

「なんでもいいけどよォ、それって国が放っておかねぇんじゃねえの?」

 

ざわ…ざわ……とでも聞こえそうな呟き、果ては喧騒が至る所から聴こえてきた

 

異なる世界で、その世界の歴史を変える…分岐にもなるそれを目の当たりにすることにちょっとした感動を覚えつつも戦兎は今自分に必要なことを思い出し、そして嘆いた。

 

「これはちょっと…職探しは無理そうだな……」

 

まさに世界を揺るがす混乱を前に、戦兎は自分…ビルドやスマッシュから人々の注目や話題を掻っ攫っていった織斑一夏という少年に、昨夜の篠ノ之束の時と同じ様にジェラシーを感じながらも街から離れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来てから2日目の夜を迎えた戦兎…彼個人としては既に数日以上経過してると思えるハードな日常ではあったのだが…。

 

今、彼は朝の時に隠れ蓑にしていた廃墟の中で床にいくつものガジェットを並べていた。

昨日の時点でやるべきことではあったのだが、情報収集やISからの逃走ですっかり忘れていたのだった。

 

床に置かれていたのは

ビルドの初期フォームであり、エボルトとの決戦時に最後にセットしていたラビット、タンクフルボトル。

 

昨日のスマッシュから浄化されたゴリラフルボトル。

 

飲料の缶を催し、ウサギと戦車の絵柄をした大型のボトル、【ラビットタンクスパークリング】。

 

ボタンに青いカバーが付いている赤い銃の引き金の様な小型デバイス、【ハザードトリガー】。

 

そのハザードトリガーの制御装置でもある、金と銀の装飾が施された縦に長いボトル、【フルフルラビットタンクボトル】。

 

以上が今現在持っている仮面ライダービルドとして使って来たガジェットだ。

そして…

 

「これも、ちゃんとあるな…」

 

最後に置いたもの…それは相棒である万丈龍我に託され、エボルト打倒の切り札になった【ドラゴンフルボトル】。

最後に使った時はハザードレベルの影響で銀色になっていたが万丈が所持していない今、その色は本来の色である青に戻っていた。

 

本来フルボトルは60本あるが、その内ほぼ全てがエボルトの道具でありビルドの世界の日本を3つに分断し、新世界創造にも使われた、ある意味では始まりと終わりとも言える<パンドラボックス>に還元され消滅した。

 

また、ビルド単体での最強とも言える姿である<ジーニアスフォーム>に使う、【ジーニアスフルボトル】は元々パンドラボックスのパネルであるパンドラパネルから製作されたもので、新世界創造のためにパンドラボックスに還元されたためこちらも所持していなかった。

 

しかし、ここで戦兎はあるものを思い出した。

 

「あそうだ!こいつを忘れるところだったな。」

 

取り出したのは白のフルボトルとピンクのフルボトル…ドクターフルボトルとゲームフルボトルだ。

この2つのフルボトルはエボルトならびにパンドラボックス由来のフルボトルでは無く、まだこの身体が葛城巧だった頃に彼によって仮面ライダーエグゼイドから採取した成分によって出来た、レジェンドライダーフルボトルなる物を浄化した結果生まれたフルボトルだ。

この2つのフルボトルによるベストマッチはビルドでは無く、ビルドドライバーを付けた仮面ライダーエグゼイドそのものに変身する。

 

「エグゼイドから貰ったこいつも、有り難く使わせてもらうか」

 

そう言うと戦兎は先に置いていたラビット、タンク、ゴリラ、そしてドラゴンフルボトルと一纏めにして置いた。

 

6つのフルボトルを見て戦兎は少しだけ残念そうに呟く。

 

「遠距離攻撃に乏しいな…後、飛行系も無いのは辛い」

 

これらのフルボトルによるフォームではどうしても近接戦闘向けになってしまう、また飛行する相手にはどうしてもこちらが近づけない難点がある。

遠距離攻撃ならガトリング、海賊または電車が、飛行系ならタカ、ロケット、フェニックス、ヘリコプターあたりが欲しいところではある。

 

この世界最大の兵器、ISにはどうしても後手に回ってしまうのが現状だ。

もっとも、戦う事が無いのが一番だし、何よりもうスマッシュが出現しないのが最高なのではあるが…。

 

更に昨日のうちに確認していたことだが、エボルトとの戦いの影響で破損してしまったのか、スパークリングもフルフルラビットタンクも一切反応しなかったのだ。

故に昨日の通常のスマッシュ相手にも(ハザードレベルが上昇しているので通常のベストマッチでも本来のスペック以上の力を引き出せるが)この2つを使う時ほど余裕を持って戦う事が出来ない状態だった。

 

 

 

………もっとも、ハザードトリガーは使える事は使えるのだが。

 

 

 

そう思っていると、少し離れたところに置いていたビルドフォンからレンジの音とも取れる音が鳴った。

 

「おおっ、来た来たぁ!」

 

手を擦りながら猛スピードでビルドフォンに近づくと、1つの機械が置いてあった。

野原に打ち捨てられていた、壊れたパソコンを勝手に持ってきた…もとい拝借した物だ。

昨日、IS部隊から逃走して逃げ込んだのち修理し、さらにビルドドライバーに繋げることでビルドドライバー側の調整を可能とし、エネルギーもビルドドライバー側から送る事で電源に繋げなくとも使えるように魔改造していたのだった。

先程の音は新たに作り出した機能の一つ、半径数キロ圏内のスマッシュ…と言うよりその体内のネビュラガスを探知するサーチャー機能が完成した音だ

戦兎は自分の頭をかいた、すると髪の毛の一部が寝癖みたいにピンとはねた。

 

「さっすがてぇんさい物理学者!自分で自分が怖い!!」

 

そう言いながら早速サーチャー機能をONにする戦兎。

すると画面にレーダーが映る…と同時にここから2キロ程離れた場所に反応が示されていた。

 

「おお!ついたついた…てもう出てるのかよ!やっぱ他にもいるか、スマッシュ…」

 

そう言うと戦兎は床にガジェットを並べているタイミングの悪さを呪いつつ、大急ぎで準備するのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……!』

その異形…フライングスマッシュは大空を両手の翼で気流を操作しながら旋回していた。

地上を歩いている2人のカップルに狙いを定めると、スピードを上げて急降下した。

 

「え?何アレ?」

「は?…うわ、なんだよありゃ!?」

 

こちらに飛んでくる化け物を見てカップルは一目散に逃げ始める。

逃げる標的に対しスマッシュは徐々に速度を上げていく。

 

「こっちくるなああ!」

「助けてぇ!」

 

さらに速度を上げその距離を縮めていくスマッシュ、悲鳴を上げながら逃げるカップルまで後数メートル程…

無論普通の人間が全力で走って逃げたところでスマッシュから逃げ切れるはずがない……

…『ヒーローでもいない限りは』

 

直後、銃声と共にスマッシュが大きな音を立てて墜落する。

 

『!!!』

 

すぐさま起き上がったスマッシュは低空飛行のまま、飛び去っていった。

 

「…た、助かった…?」

「あ、あれも化け物か?」

 

諦めて男性の方が盾になっている状態で静止した2人のカップルの視線の先には、バイクに乗った赤と青の異形…仮面ライダービルドがドリルクラッシャーをガンモードにして構えていた。

 

(スマッシュを前にして彼女を庇うなんて…根性あるじゃねえか。)

 

そう思いながらビルドは逃走したスマッシュを追うようにバイク<マシンビルダー>走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多数の車が走る道路の数メートルほど上空をスマッシュが飛行する。

それを追うようにマシンビルダーを走らせるビルドは、先程と同じようにガンモードのドリルクラッシャーで銃撃する。

しかし先ほどの不意打ちから学んだのかスマッシュは脇から顔を出すようにビルドを視認し、銃撃を避け続けた。

あたりの車がクラクションを鳴らし、離れて行き道が開いて行く。

 

『………!』

 

それと同時にスマッシュは空中で大きく旋回し、逆にビルドの背後を取った。

 

「チッ…なら誘導するだけか!」

 

そう言うとビルドは方向転換し、道路の脇道へとバイクを走らせる。

 

『?……!』

 

それを追うようにスマッシュも方向転換し後を追いかける。

 

 

 

 

広い草原に出たビルドはそこでマシンビルダーを急停止させ、すぐさま飛び降りた。

降りたビルド目掛けてスマッシュが爪を立てて強襲する。

 

「うおっ!」

 

間一髪で避けたビルド、先程いた箇所は鋭い爪痕が残っていた。

避けられたスマッシュは再び上空へと飛び、隙を狙うように警戒しながら旋回している。

 

「あんな上空飛ばれるとなぁ…どうするかな……おっ!閃いた!」

 

そういってビルドはフルボトルを取り出し素早く降り、そしてタンクボトルと交換した。

 

【ゲーム!】

 

上空のスマッシュを睨みながらハンドルを勢いよく回す。

 

【 Are you ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

変身が完了し、赤とピンクの姿 トライアルフォーム ラビットゲームに変身した。

 

「そこでちょーっと待ってろよ!」

 

スマッシュに指をさしながら叫んだ戦兎は左足のウサギの能力で高くジャンプした、しかしスマッシュが飛んでいる高度には全く足りない。

 

「と言いたいところかもしれないけど、そうはいかねぇ!」

 

着地するように右足を下にした姿勢で降下するビルド、するとその足元には先程までなかった茶色のブロックが浮かんでいた。

 

「お、やっぱそうか!」

 

エグゼイドにはゲームエリア展開機能が存在し、そこにはこの茶色のブロックが浮かんでいる。フルボトル2本でエグゼイドを再現しているならばゲームフルボトルのハーフボディで、このゲームのブロックを出現させれるのではないか?とビルドは考えたのだ。

 

「これなら行ける!」

 

ウサギの跳躍で高くジャンプし、ゲームの力でブロックを創り上げる。これを猛スピードで交互に繰り返し、あっという間にビルドはスマッシュが飛んでいる高度まで登ってきた。……が、

 

「じゃ、バイバーイ!」

 

そう言うとビルドはスマッシュをスルーして更に上空へと登って行った。

 

『???……?』

 

ここまで来ると身構えていたスマッシュも流石に呆けたようなリアクションを見せる。

スマッシュの倍以上、上空へと登ったビルドは叫んだ。

 

「よし……行くぞおおぉ!!」

 

そして今まで以上の勢いを付けて跳び高く上昇した。

そして別のフルボトルを上昇したまま振り続けドライバーに装填、ハンドルを回した。

 

【ゴリラ!】 【タンク!】

 

【 Are you ready ? 】

 

「ビルドアップ!!」

 

上昇が終わると同時にビルドの姿が更に変化する。昨夜のトライアルフォーム ゴリラタンクだ。

跳躍による上昇が終わり、次に重力による落下が始まる。

 

落下すると何も出来なくなる…それは今のビルドにとっては最大の隙だった。スマッシュは自身より上空から落下してくるビルド目掛けて一直線に突っ込んだ。

 

その様子を見ながらも、ビルドは既にハンドルを回し終わっていた。

 

【 Ready Go ! 】

 

音声が終わると同時にビルドは左手を大きく構えた。

迫り来るスマッシュの巨大な爪に目掛けて放たれたその拳は、まるで戦車の砲弾の様な威力を持ってスマッシュの爪を砕きバランスを崩した。

 

【 ボルテックアタック! 】

 

「うおおおおおりゃあああああ!!!」

 

右手が変化した、ゴリラの剛腕を催した巨大な拳 サドンデストロイヤーがガラ空きになったスマッシュのボディに炸裂した。

 

2つの異形は、そのまま猛スピードで地面へと落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってて…やっぱあんまり無茶するもんじゃないな……若返ってるとはいえ」

 

そう言いつつもビルドは、巨大なクレーターのど真ん中でダウンしているスマッシュへとエンプティボトルを向けた。

前回と同じ様に粒子に包まれ消えたスマッシュと吸収し終わってすぐさま浄化されたタカフルボトルを見た後、ビルドは急いで置いたままだったマシンビルダーに乗り込んだ。

エンジンを入れると同時に昨日と同じくサイレンの音が聞こえ始めた。

 

「やべえやべえ!急がねえとまた鬼ごっこだ!」

 

そう言いながら、ビルドはバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱまだ探してるな」

 

建物のまわりに植えられている茂みに隠れながら変身を解いた戦兎だったが、すこし離れた上空を昨日よりさらに数が増えたISが旋回し、自身やスマッシュを捜索していた。

 

(このままじゃ見つかるのも時間の問題か…どうする……?)

 

変身は既に解いてるからと言っても油断はできない、何しろ今の戦兎には身分証明出来るものもロクにない。学生っぽいとはいえ補導、職質されれば即アウトだ。

少しずつ、しかし確実に捜索範囲は広がって行く…

 

(考えろ…考えろ天才物理学者桐生戦兎!)

 

何か使えそうな物はないかと辺りを見回した彼だったが…そこでふと目に留まったものがあった。

それはプレート…表札だった

 

『IS学園』

 

今まさに戦兎が隠れている茂みのすぐ横の建物の名前だ。…というより学園の茂みに隠れているわけだが。

 

戦兎の頭の中で、情報と記憶が高速で処理されていく……そして、

 

「灯台下暗し…って所か…。」

 

その目には覚悟…もあるがそれと同じくらいに、天才物理学者としてのISへの興味と興奮が宿っていた。

戦兎は小さく笑うと手にラビットフルボトルを握りしめて、軽く振ってから学園の塀を飛び越えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ邪魔しまーす……」

 

ゆっくりと、そしてひっそりと不法侵入もとい避難した戦兎。

耳を澄ませば、先程いた付近からISの起動音が聞こえてきた。

 

あっぶねぇ…と小さく呟いた戦兎は辺りを見回した。

さすが世界最先端技術の結晶が集う学園だけあってか、そこらへんの学校の何十倍はあるんじゃないかと思うほどの広大な敷地を見た戦兎は目に付いた近くの倉庫らしき建物へと近づいて行った。

 

偶然にも鍵はかかっていなかったらしく、すんなり入ることが出来た。

後はここで特殊部隊ならびに捜索部隊が撤退するのを待つだけ…だったのだが……

 

「うおおお!ISが、こんなにも近くに!!」

 

倉庫内で鎮座していたソレ…ISを前にこれ以上なく興奮する戦兎。

ズラリと並んでいる機体1機1機をくまなく万遍に観察する。

 

「どうやって動いてんだこれ!?何積んでんのこれ!!?絶対防御ってどうやって発生させてるんだぁ!!!?」

 

まるで最初からこちらがメインでやってきたと言ってもいいリアクションを見せる戦兎だったが、唐突にそのテンションを下げて悲しそうに呟く。

 

「けど……これも、ISも今まさに戦争に使われているんだよな…。」

 

化学の最先端として、スポーツとして、そして本来の用途たる宇宙開発用パワードスーツとして…それらを理由とした存在は理解でき、素晴らしいと思う。

しかし戦争に投入されるというのは話が別だった。

 

ビルドの世界で地球外生命体エボルトから地球を守る防衛システムとして誕生し、しかし戦争の道具…兵器として導入されてしまった『ライダーシステム』…

人類が宇宙へと進出するための翼と宇宙の脅威から人類を守るための防衛システムという真逆とも言える誕生の違いこそあれど、似通った運命を歩んでいるISの現実を感じて、戦兎はその場で立ち尽くしていた。

 

 

そうしてどれ程の時間だ流れただろうか、戦兎は静かになった倉庫の真ん中で、外から誰かの足音が近づいている事に気付いた。

 

「うわっ、やべぇ!」

 

小声で言うと、慌てて近くに鎮座していたISの影に隠れた。

そして極限なまでに耳に意識を集中させた。

 

 

『真耶……いや山田先生、なにかいま喋ったか?』

『え、ええ?いいえ、なにも言って無いですけど…』

 

 

2人分の大人の女性の声が聞こえてきた。

戦兎は両手で口と鼻を覆い、なるべく息を聞かれないようにした。

倉庫の扉が開けられる。

戦兎は更に息を止めることに集中した。

 

 

『……私の聞き間違いか?』

『今日は例の子の対応で大変でしたからねー…織斑先生もお疲れなのかもしれませんね。』

『ふむ……そうかもしれん、しかしまさかあいつがか…』

 

 

そんな会話を聞いて戦兎は驚愕していた。

 

(織斑……織斑千冬か!?第1回モンド・グロッソ総合優勝してブリュンヒルデとも言われてるって言う?ヤバイ、ビルドはまだ兎も角生身じゃ殺される…!)

 

ネットで見た映像を思い出した戦兎は遠のきそうな意識をなんとか保っていた。

 

 

『先程連絡が来たが、もう捜索は打ち切られるそうだ。もしもの時のためにすぐ出撃できるように開けさせられていたが…無駄だったようだな。』

『本当に怖いですよね、そんな怪物みたいなのがこの近辺に潜んでいるかもしれないなんて…正直に言ってあまり実感が湧きませんけど。』

 

 

(あぁ、鍵をかけるために来たのか…中の確認はスマッシュが来てないかの確認だな)

 

安堵する戦兎を他所に扉が閉められた。

鍵は閉まったが窓からでも出てしまえばいい…最悪窓を破壊することになるが。

 

「ハァ…助かった……」

 

全身から力が抜けた戦兎は隠れていたISにもたれかかる形で座り込もうとした……が

 

たった今もたれかかったISから突如、光が発生し戦兎に纏わり付いた。

 

「え?え!?何?何!?」

 

気付けば戦兎の身体には、つい今さっき光ったISが装着されていた。

 

「は!?いやどうなってん…うおぉ!?」

 

全く慣れない…ビルドとも違うその感覚に戦兎はバランスを崩し、辺りの物をぶちまけながら派手に仰向けに転倒した。

 

「痛ってえ!なんなのもう!?わーけわっかんないんだけど!てか俺男だよね!?一体全体どういう………」

 

そこまで言って戦兎は動きを止めた…無言のまま、首を伸ばして上を見るように倉庫の入り口に視線を向けた。

扉が開いていた。ついでに言うなら先程帰って行ったであろう2人の教師がこちらを見ていた。

 

緑の髪をし、全体的にゆるい雰囲気を醸し出す教師はまさに困惑、混乱といった表情を浮かべ…

黒い髪に黒のスーツ、もう1人とはまさに正反対と言えそうなキッチリとした教師はなんだこいつとでも言いたげな冷たい表情…の中にも僅かに驚きが見て取れる。

 

2人の教師を前に、男でありながらISを起動させた戦兎は苦笑いを浮かべて一言。

 

 

「あははは………警察は勘弁してください!」

 

そう言いながら両手を頭の上に上げ、降参といったポーズをとるのだった………




気が付けば13000字超えてる…
と言うわけで今回でゴヨウとなりました。

次回で入学までのプロローグ終わらせる…予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。