Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

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 最新話投稿から9ヶ月……?
 嘘だ、僕を騙そうとしている……

 半年もかけるのは流石にないと言っておきながらこのざまです。放送して3ヶ月くらいだったゼロワンも放送終了してしまいました。
 本当に大変お待たせしました。やっとインフィニット・ジーニアス再投稿です。
 かなり期間が空いてしまったため、作品の設定や書き方が変な感じになってるかもしれません。小説の執筆はウルトラ難しいぜってことで一つ……

 半年以上ぶりなので実質初投稿です。


破壊者オン・ザ・ロード

 仮面ライダービルドことてぇんさぁい物理学者の桐生戦兎は、IS学園生徒会長こと更識楯無の協力もあって2体のスマッシュの撃破に成功、新聞部のパパラッチ副部長も無事救出してめでたしめでたし……

 と思ったのもつかの間、ナイトローグの本当の目的は代表候補のISにフルボトル対応機能を付け加えることだった。俺たちの世界の技術が、今まさにこの世界に影響を及ぼそうとしていた……

 

 

 

「あれ、戦兎くん今日は1人なんだ?」

 あぁ紗羽さん……まあ、前回は美空が書き換えるわ、かずみんが乱入するわでもう大変だったから居ない隙にと思ってさ。っていうかそもそもこのコーナーの主役も俺だし。

「ふーん……で、そのみんなは?」

 美空はなんか「△チョコパイ食べたい」って言い出して付いてったかずみんとマ◯ク。万丈はトレーニングだって。で今は俺1人って訳。

「なるほど……アレ、じゃあ……」

 

 バアァン!!

 

 !?

「!?」

 

\オォォゥラァッ!/

 

『本 日 の 主 役 ☆』

 

「フッ、待たせたな……」

 げ、げんさん……!

「うわぁ……相変わらず凄い格好……まさに言葉に出来ない」

 ああ、楯無会長の扇子芸も中々だけど、やっぱりげんさんのアレには及ばないわ。

「桐生戦兎、今日のあらすじには俺も参加しよう。お前の振る舞いへの文句について、夜まで語り明かそうじゃないか」

 いや、決めてるとこ悪りぃんだけど、もう終わったよ?

「そ、それに時間も押してるし、次の機会にってことで!」

「な、何……!?」

 

\キィィヤァァァァア!!/

 

 はい、と言うわけでげんさんの出番はまた今度。そんなこんなで第20話、スタート!

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 IS学園 学生寮1025号室

 1人だけの部屋で、一夏は消灯時間直前まで参考書の内容を頭に叩き込んでいた。

 明日は箒と買い物の約束があったため、その分今日はギリギリまでISの特訓を行なっていた。その結果この時間まで勉強が推していたのだった。

 

「よしっ、今日はここまでにしとくか」

 

 しばらくしてから勉強を終えると、就寝する前に明日持っていくものを揃える。と言ってもそんなに大荷物を持っていくわけではなく、精々財布程度。そう考えていたのであっさり準備を終えたが、なんとなしに開けた机の引き出しに入れてあった物に視線が映った。

 

 思わず手に取ったそれは、姉である千冬から渡された一台のアナログカメラだった。

 彼女から『過去に側に誰がいたか、ちゃんと覚えておけ』と言われており、定期的に記念写真を撮っていた。

 

 姉との絆の結晶でもあるそれは、IS学園に入学したこともあり中々触れられないでいた。

 

(せっかくだし、明日持っていってみるかな。……箒の奴と一緒に撮るの、何年振りになるかな)

 

 そう考えながらカメラを机の上に置こうとした時、強い風に吹かれて窓がカタカタと音を立てた。

 

 音に気を取れて窓を見るが、視線を写した時には既に風は止んでいた。すぐに視線を戻そうとしたが……。

 

「ん? あれ……戦兎か?」

 

 窓の向こう、学園の校門のある方向へ走っていく人影があった。遠目かつコートを羽織っていたため解りにくかったが、下にはIS学園の制服のズボンを着ており、かつ髪色も黒かったため、それが同じ男子の戦兎であると気づけた。

 

「アイツ何やってんだ? もう消灯時間になるってのに」

 

 窓から声をかけようかと思ったものの、既に寝ている生徒たちもいるだろうと考えたためにそれは止めた。

 

 ここ最近——特にタッグマッチトーナメント以降、戦兎は今まで以上におかしな、或いは達観とした様子が度々見られた。

 眠って夢を見ていたとはいえ授業中に叫んだり、特別交戦規定に怪訝な表情をしたまま最後まで反対していたり。雰囲気も入学当初よりも重く、よく彼に近づいていた女子生徒たちも最近は様子を見たり少しした会話だけに留めたりといった具合だ。話しかけさえすれば今まで通りに対応はするのだが……。

 

 かつては専用機持ち組との放課後の特訓に度々暇を見て参加していたが、それもここ最近はめっきり参加しなくなっており、その分殆ど整備課の一室に篭りきりだった。彼とよく特訓していたと言う箒もメッキリその機会がなくなったと語っており、どこか心配そうにしていた。

 

 深く追求しないように思ってはいたものの、流石に心配になってきた一夏は、とりあえず声だけでも掛けてみようかと思い立つと、そのまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 学生寮を出て辺りを見回したものの、周囲は電灯が灯っているが人影はない。耳を澄ませても静寂に包まれており、誰かがいる様子も見られなかった。

 

「あれ、おっかしいな……」

 

 見間違いだったのか、或いは校外へと出て行ってしまったのか。そう考えた一夏だったが……。

 

 コン、と足音が聞こえた。

 

 音の先はすぐ真後ろ。急いで振り返ると、電灯から差し込む光の向こうに薄っすらとだが人影が見て取れた。

 人影はこちらに背を見せたまま、IS学園の校舎へと視線を向けている。

 

「だれか居るのか? 戦兎か?」

 

 声をかけるが返事がない。一体そんなところで何を……そう考えながら人影へと数歩ほど近づいた時だった。

 

 静寂に包まれている空間の中で、光の向こうから何かの起動音が響く。

 

「ッ!?」

 

 軽く近付いていた一夏は、突然の音を前にすぐに歩みを止める。

 一体何事かと驚く一夏の前で、人影は振り返って電灯の光の真下へと歩んでいた。

 

「お前は……ああ、確か織斑一夏か」

「だ、誰だアンタ……!?」

 

 その姿や声は、明らかに戦兎以外の男性であった。

 自身と10は歳が離れ、大人びた雰囲気を醸し出している日本人の青年と言った風貌。少なくともこの学園に普段出入りしている人物ではない。

 茶色に近い髪色、黒いスーツに濃いめのピンクのシャツを着ており、首からはシャツと同じピンクに近いカラーリングのカメラをぶら下げていた。

 

「俺か? 敢えて言うなら、()()()()()()だ」

「どう言う意味だ、それになんでこんな所に部外者が居るんだよ!?」

 

 依然として落ち着いたままの青年に対し、クラスメイトのシャルルの一件を思い返しながら目的を問う。

 

「まさか……お前も俺の白式のデータが狙いなのか?」

 

 この男が部外者ならば、なんとかしてこの学園から追い出すなり学園側に知らせるなりしなければならない。

 しかし、青年は警戒する一夏からの質問を否定すると、一方的に声をかける。

 

「誰がいるか。どっかのコソ泥じゃあるまいし……それより桐生戦兎は何処だ?」

「! 狙いは戦兎か……けど生憎だったな、俺も今アイツが何処にいるかは知らねーよ」

「なんだ、入れ違いになったか……」

 

 ここに戦兎は居ない。それを確認すると青年は目の前で警戒する一夏から視線を外して空を見上げる。

 

「……この世界もやけにイヤな風が吹くな……早く帰ったほうがいいぞ」

「不審者前にして、はいそうですかで帰るわけには行かねぇだろ!」

 

 相手の狙いが戦兎である以上、自分がここで食い止めなければ……そう考えた一夏だったが、青年は目を伏せるだけで身構えることもない。

 

「やめておけ、俺はお前たちの敵じゃない」

「そんな話信じられるかよ」

「事実だ。それからもう一つ……お前じゃ俺は倒せない」

 

 きっぱりとそう言い放つ青年。仮にも専用機持ちである一夏にそう断言出来るのは、果たしてISを覆せるだけの力を持っているのか、もしくはただのハッタリか……

 

 極度の緊張とともにどうするべきかを思案していた一夏だったが、そんな様子を知ってか知らずか、青年は一夏のポケットから少しだけはみ出して見えていた物に視線を移した。

 

「……いいカメラだな」

「え……? あ、いや……」

 

 戦兎を追おうとした際に、手に取っていたカメラを思わずポケットにしまったままだったことを思い出す。

 突然の脱線に一瞬緊張感が解けたものの、油断させる気かもしれないとすぐまた警戒を強める。

 

「だ、だからなんだよ!」

「……ある男が言っていた、『カメラのレンズは真実を見る瞳』だと」

「は、はぁ?」

「その曇りない瞳……レンズ越しに切り取った景色……それは、決して消えないお前だけの真実だ。例え経歴や顔も、世界そのものが偽りに塗り固められていても。そこにお前自身が感じた物は嘘偽りじゃあない」

(コイツ、何が言いたいんだ……?)

 

 目の前の青年が何者なのかは不明だが、虚を突かれたさきほどの一瞬で仕掛けてこなかったと言うことは、本当に彼には敵意がないのだろうか。そう考え始めた一夏に、青年は相変わらず意図のわからない言葉を投げかけ続けていく。

 

「簡単な話だ。瞳に映った自分自身、仲間や光景は、お前がそうだと想い続ける限り真実になる。例え何回間違えても、裏切られても、どんな残酷な現実が突きつけられたとしても。お前が信じ続ける限りな」

「……」

 

 気付けば一夏は、クラスメイトや姉、先生たちと言った身近な人達……大切な人達の存在を脳裏に浮かべていた。目の前の青年が言いたいことは全く理解出来なかった。しかし、仲間を信じることに関しては言われるまでもなく理解しているつもりだ。

 一夏が考え込んでいるのをチラッと視線を移して確認すると、青年は人差し指を立てる。

 

「それからもう1つ、自分の実力も弁えずに他人の抱えた物を代わりとばかりに背負おうとするのはやめておけ。()()()のように身を滅ぼすぞ」

「よ、余計なお世話だ!」

 

 自分の仲間たちに対する態度を知ってか知らずか苦言を呈する青年に、一夏は思わずムキになって反論する。すると目の前の青年はフッ、と鼻を鳴らして笑みを浮かべる。

 

「それでいい。お前の仲間がどんなに重いモノを背負っていたとしても、喜びも悲しみも、それに自分も共に向き合おうとするのは。だが、1人で他の分まで背負いこんだり引っ張るんじゃなく、互いに補い合い支え合う……それが仲間だ、忘れるな」

 

 言うことは言い切ったからか、青年は懐から1枚の白い紙を取り出しながら更に呟く。

 

「……さっき俺が誰かと聞いていたな。もう必要無いと思いたいが、とりあえず渡しておこう。どうやらコレが、()()()()()()()()()()のようだからな」

 

 青年は取り出した白い紙を人差し指と中指の間に挟むと、その紙を一夏目掛けて勢いよく飛ばした。

 

「うわっ……と!」

 

 迫る紙を慌ててキャッチする一夏。すぐに正面に立つ青年へ視線を戻そうとするが……

 

「い、居ない……!?」

 

 先ほどまで青年が立っていた場所には既に誰もおらず、電灯の光が差し込み辺りを照らしているだけだった。

 

「……アイツ、一体なんだったんだ? 世界がどうとか言ってたが……」

 

 近くに人の気配は無い。そう感じてひとまず安全を確認すると、一夏は青年が渡してきた紙を見てみた。

 

「え、倉持の人だったのか? それとも偽装か……?」

 

 裏面には自身のISの開発担当である倉持技研の社印が施されており、裏返して表面を見ると部署や所属、そして青年の名前と思しきものが見られた。

 

『倉持技研 広報担当 責任者

 門矢(かどや) (つかさ)

 

 飾り気のない名刺にはそう記されていた……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 静まり返った夜の山の中、スマッシュとビルドが激突していた。

 

「ハァッ!」

 

 目の前の白いスマッシュを殴り飛ばしたビルドは、取り出したパンダフルボトルとロケットフルボトルをビルドドライバーへと装填する。

 ハンドルを回すと前に白、後ろに水色の装甲が生成される。

 

【 パンダ!】 【 ロケット! 】

 R/P

【 ベストマッチ! 】

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 ハンドルを回し終えたビルドを前後の装甲が挟み込み、異なる姿へと変化させる。

 

【 ぶっ飛びモノトーン! ロケットパンダ!】

【 イェーイ! 】

 

 ビルド ロケットパンダフォームは左肩のロケットショルダーから火を吹かせると、白いスマッシュへと飛んでいく。

 

『……!』

 

 態勢を立て直したスマッシュが反応するよりも早く、ロケットの先端と化しているビルドの左手がスマッシュを捉える。ロケット噴射の勢いのまま、ビルドとスマッシュが木々を潜り抜けながら加速して行く。

 

 

 

 

 ビルドとスマッシュが加速してその場を離れる直前、両者の後方ではオーロラのような白い光の波紋が発生していた。その光の中から、スーツ姿の青年がゆっくりと歩き出した。

 青年は自身のすぐ目の前でビルドの戦いを観測しながら飛んでいたドローンを一瞥すると、オーロラを操作してドローンをその向こう側へと消し去ってしまう。

 

 ドローンを包み込んだオーロラが消えると、距離が広がっていくビルドへ視線を向け、首からかけていたカメラのシャッターを切った。

 

「さて、お手並み拝見と行くか……」

 

 

 

 

 加速していたビルドは、右腕のパンダの腕を模した巨腕を大きく振り抜いてスマッシュを地面へと叩きつけた。

 

『……!』

 

 地面に小さなクレーターを作りながらもよろよろと起き上がるスマッシュからロケット噴射で一旦距離を取ると、ビルドは左腕のグローブ内部に格納された照射装置からレーザーを発射する。

 

 しかし、発射されたレーザーがスマッシュを捉える直後、スマッシュの姿はまるでかき消されたかのように姿を消してしまった。

 一旦の間をおいて、スマッシュに当たることなく地面へ着弾したレーザーが爆音とともに地面を抉り、その地点からもうもうと煙を吹き上げた。

 

「透明化か! なら……!」

 

 姿をくらましたスマッシュに対抗するため、ビルドは煙の中へと着地してから2本のフルボトルを取り出す。フルボトルを振るとビルドドライバーへと装填、素早くハンドルを回して姿を変える。

 

【 クジラ! 】 【 消防車! 】

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 ロケットとパンダの装甲をかき消しながら、新たにクジラハーフボディと消防車ハーフボディが装着される。

 

 ビルドが右肩のクジラの頭部と右腕、左腕のラダーの3箇所から放水すると、辺り一帯に水が溜まっていく。溜まった水が遠くへと広がるように流れていくと、ビルドの斜め前方に不自然な波と水が溜まっていない箇所が見受けられた。

 

「そこか!」

 

 姿を消しても実態までは消せない。能力の弱点を見切ったビルドは、取り出していたドリルクラッシャー ガンモードにダイヤモンドフルボトルを装填、スマッシュめがけて引き金を引きつつ、ドライバーのハンドルも同時に回していく。

 

【 ダイヤモンド! 】

 

【【 Ready Go ! 】】

 

【 ボルテック・ブレイク! 】

【 ボルテック・アタック! 】

 

 ドリルクラッシャーの銃口から、ダイヤモンドフルボトルのエネルギーから抽出されて創られた細かく煌めくダイヤモンドがいくつも発射された。

 

『……!』

 

 姿を見破られたことを悟ったスマッシュがその場から離脱しようと試みるも既に遅い。発生していた水によって足を絡め取られ、そのまま迫り来るダイヤモンドを回避できなかった。

 

 いくつものダイヤモンドは姿を消していたスマッシュの身体に隙間なく張り付いていき、1つの巨大な塊となってスマッシュを拘束した。

 

 ビルドはスマッシュが拘束されたのを確認してからドリルクラッシャーを放ると、左脚から放水を開始した。

 左脚一本を動かして水を器用に操作すると、ダイヤモンドの塊とその中に捕らえられたスマッシュめがけて突撃する。そしてダイヤモンドに辿り着いたビルドは、水の勢いはそのままに塊の下に身を滑り込ませると、ダイヤモンドと共にほぼ真上の上空へ打ち上がって行った。

 

 ダイヤモンドに右腕のラダーを押し付けると、そこから凄まじい熱量の火炎放射を一点に集中して発射した。

 放火された一点が見る見るうちに炭化していき、そこから周囲へヒビが入って行く。

 

「……ッ! ハアァァ!!」

 

 割れたことを確認したビルドは、一旦ダイヤモンドから手を離すと下降して距離を置く。そして左脚の放水を辞めて今度は両腕から放水を開始する。

 勢いが弱まり、重力に従って真下にいる自分へと落下してくるダイヤモンドを迎え撃つように、ビルドは右脚でキックを放った。

 

 ぶつかり合うダイヤとビルドの右脚

 ビルドのキックは右脚に装着されたバーニングラッシュレッグによって威力を高められており、炭化し始めた箇所を中心に、ダイヤを徐々に破壊しながら突き進んでいく。

 さらに右足のファイアーダイブシューズの裏に備え付けられているアンカーパイルが射出され、内部のダイヤを砕いていくことでキックで簡単に貫通して行く。

 

 そして砕かれたダイヤを掘り進んだ先に拘束されていたスマッシュを右足が捉えると、そこからスマッシュの身体を緑の爆炎が包み込んだ。

 空からは、緑の光に照らされながらダイヤの破片が雨のように降り注がれた……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 スマッシュの成分を採取したビルドは、ボトルを軽く振ってみる。もう間もなく丑三つ時を迎える。1日に二度もスマッシュと相手取るのもキツくなってきた為、さっさと帰ろうとビルドドライバーへ手を伸ばそうとしたが……

 

「どうやら終わったようだな」

「!」

 

 不意に背後から声をかけられた。急いで振り返ったビルドの視線の先に、1人の青年が立っていた。

 一体誰だと考えを巡らせるが、青年は構わず続ける。

 

「色々思う所はあるが、まあこの程度なら苦戦もしないか。桐生戦兎……いや、仮面ライダービルド」

「お前、どうしてそのことを!?」

 

 数時間前と同じく自身を知っている人物。しかし楯無と違い、ビルドは彼に心当たりが一切なかった。しかし桐生戦兎であること、ましてやビルドの名を知っているのだ。彼が普通の人間ではないのも確かだ。

 

 まさかエボルトか。そう思いかけたビルドだが、心の中でその可能性を否定する。

 篠ノ之束の時と同じく、エボルトがここまで回りくどい演技をして戦いに来るとは思えない。それに、四六時中自身の知らない相手からの接触をエボルトかと身構えていたら心がもたないと言うのもある。

 

「お前のことはよく知っている……いや、お前だけじゃない。仮面ライダーオーズにフォーゼ、鎧武、ゴースト、そしてエグゼイド……お前が出会ったことのあるライダーもな」

「俺たちの世界だけじゃなくて、エグゼイドたちのこともだと……一体何者だ!?」

「門矢士、世界の破壊者だ。そして……」

 

 問いかけるビルドの前で、青年は何かを取り出して腰に押し付けた。そしてそれは一瞬のうちにベルトとなって、士と名乗った青年の腰に巻きつけられる。

 

 青年はベルトに装着されていた四角い装備の中から1枚のカードを取り出すと、ビルドに見せるように掲げた。

 

()()()()()()()()()()()()だ、覚えておけ」

 

 仮面ライダー……そう名乗ると同時に青年はカードを裏返す。そしてライダーたる存在の多くが口にする言葉を告げる。

 

「変身」

 

 カードをピンクの様なカラーリングのドライバーの中心へ装填すると、ドライバーの両側を強く押し込む。

 

KAMEN(カメン) RIDE(ライド)

DECADE(ディケイド)

 

 直後、士の周囲に半透明のライダーの姿が広がったかと思えば士に重なり、その身体を異形の姿へと変える。そして目の前に飛び出していたライドプレートが頭部に収められ、スーツをマゼンタに染め上げる。

 

 

 仮面ライダーの存在しないISの世界

 そこに今、ビルドに続いて新たなる仮面ライダーが姿を見せた。

 

 

「仮面……ライダー……!」

「さて、と」

 

 マゼンタの戦士 仮面ライダーディケイドは手を軽く叩くと、突如としてビルドへ向かってくる。

 

「なっ……くっ!」

 

 振り抜かれるディケイドの拳をラダーで受け止めて弾くと、左手から牽制目的で水を放水し、互いの距離を開く。

 

「どうして俺と戦う!?」

「俺が必要だと思ったからだ」

 

 必要最低限の言葉をあっさりと言い放つと、ディケイドは腰の装備 ライドブッカーをソードモードにしてビルドへ斬りつけてくる。

 剣戟を前転しながら避けると、地面に放っていたドリルクラッシャーを拾い上げる。

 

 姿勢を低くしたままのビルドが振り返ってドリルクラッシャーを横に振るのと、ディケイドがライドブッカーを上段から振り下ろすのは同時だった。

 

 ガキンッという刃がぶつかり合う音が響く。一度互いに距離を取ると、自身の得物に変化を加える。

 

【 忍者! 】

 

ATTACK(アタック) RIDE(ライド)

 

 ビルドはドリルクラッシャーに忍者フルボトルを装填、対してディケイドは自身のマゼンタ色のドライバーにカードを装填。

 そしてビルドはドリルクラッシャーのトリガーを引き、ディケイドは片手でドライバーを押し込んで能力を発動する。

 

【 Ready Go ! 】

【 ボルテック・ブレイク! 】

 

SLASH(スラッシュ)

 

 BOMM! とまるで漫画のようなエフェクトがかった煙と共に、ドリルクラッシャーの刀身が分身、ディケイドの剣の刀身もまた、マゼンタ色の幻影のようなものが横一列に浮かび上がっていた。

 

「デェァ!」

「ハァッ!」

 

 ガキガキンッ、と互いに増えた刀身がそれぞれ潰し合うかのようにぶつかり合い、先ほど以上に大きな金属音を不協和音にして響かせる。

 

 幾度か切り結んだのち、再び互いの刃が鍔迫り合いとなって拮抗する。

 ビルドがドリルクラッシャーの刀身に左手を添えて強く押し込んで尚、ディケイドが優勢だった。互いの中心で止まっていた鍔迫り合いは、ジリジリとビルドへ押し込まれていた。

 

「どうした、1つの世界(物語)を救ったお前の力は、こんなものか……!」

 

 そして鍔迫り合いの態勢のまま、ディケイドは右脚でビルドを蹴り飛ばす。

 

「がっ……! くそっ!」

 

 地面をゴロゴロと転がったビルドは起き上がると、フルボトルを振りながら取り出してガンモードに変形させたドリルクラッシャーへ装填する。

 

【 ガトリング! 】

【 Ready Go! 】

【 ボルテック・ブレイク! 】

 

 ビルドが銃口をディケイドへ向けて引き金を引く。自身へ向けられた銃口を前に、ディケイドは新たに取り出したカードをドライバーへ装填していた。

 

ATTACK(アタック) RIDE(ライド)

BLAST(ブラスト)

 

 マゼンタの幻影と共に出現したライドブッカーの銃口からエネルギーが放たれ、それをドリルクラッシャーから機関砲の如く発射されるスピニングビュレットが次々に撃ち落としていく。

 

 僅かに続いた銃撃戦が終わると、ビルドはまた新たなフルボトルを取り出して、ドライバーへ装填する。

 

【 ハリネズミ! 】

 S/H

【 ベストマッチ! 】

 

「ほう」

 

 ビルドの変身をまるで待っているかのように、ディケイドはライドブッカーをしまうだけで攻撃を仕掛けてこない。その目の前でスナップライドビルダーが展開される。

 

【 Are you ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

【 レスキュー剣山! ファイアーヘッジホッグ! 】

【 イエーイ! 】

 

 ファイアーヘッジホッグフォームに変身すると、スパインナックルを振ってハリネズミの針をディケイドめがけて飛ばす。

 

「フン!」

 

 ビルドへと歩みを進めようとしていたディケイドは、自身へと飛来する針を殴る蹴るで的確に弾いていく。

 

「ハアッ!」

 

 針をたたき落とすディケイドめがけてラダーから火炎放射を放つビルド。無造作に生え散らかしていた草に燃え移りながら、ディケイドの周囲に炎が広がっていく。

 火炎によって、ディケイドの姿が煌めく炎の中へと消える。

 

 見えなくなったディケイドの真正面から距離をとって背面に回り込むと、ビルドはスパインナックルの腕を振り上げながら炎へと飛び込んでいく。中心に見えた人影めがけて拳を振り抜こうとしたが……。

 

「変身」

 

KAMEN(カメン) RIDE(ライド)

AGITΩ(アギト)

 

 突如、炎に浮かび上がる人影から眩い光が放たれる。

 ほんの僅かに動きが鈍ったビルドの右腕が、強い衝撃と共に弾き飛ばされる。そこから間髪入れずに胸に拳が叩き込まれた。

 

「ぐっ……!」

 

 なんとか姿勢を立て直してディケイドに視線を戻したビルドだったが、目の前に居たのはディケイドではなく、全く違う姿の金色の戦士だった。

 

「姿が変わった……!? けどどうなってんだ……?」

 

 2本の角に赤い複眼、がっしりとした金と銀に黒のボディは、ドライバー以外にディケイドを連想させる箇所が全くと言って見当たらなかった。

 

 姿を変えたディケイド——ディケイドアギトは、振り抜いた拳を引くと腰を落としてゆっくりと構える。

 

 カウンターを重視とした戦い方なのは見て取れたが、相手の目的が一切不明の中、背を見せる訳にもいかない。ビルドはラダーからの放水を浴びせかける。

 

 ディケイドアギトは水を機敏かつ確実に避けながら、徐々にビルドとの距離を縮めて行く。

 

 互いの距離があと2、3歩ほどと行ったところで、ビルドはスパインナックルの針を鋭く伸ばしてディケイドアギトへ突撃する。

 振り上げたビルドの拳は再びカウンターで弾かれ、すかさず胴体へと押し付けようと試みたラダーもまた蹴り返される。

 

 蹴った足を下ろすとディケイドアギトはそのままビルドへと踏み込んで、スパインナックルを弾いた左腕をビルドめがけて叩き込む。

 

「くっ!」

 

 だがビルドは距離を離さない為にラダーから水を背後へと放水、勢いのまま前方に突撃する。

 しかし、それもまた全身を生かしたディケイドアギトのタックルによって弾かれる。

 

「さて、と。俺も姿を変えてみるか」

 

 投げ出される形で地面に叩きつけられるビルドの目の前で、ディケイドアギトは新たなカードを取り出してドライバーへ装填する。

 

FORM(フォーム) RIDE(ライド)

AGITΩ(アギト) STORM(ストーム)

 

 ドライバーから流れる音声と共に、今度は青い光が放たれる。するとその胴体と左腕が深い青に染まり、左肩が隆起する。

 ディケイドアギトは何処からか取り出した鋭い薙刀状のハルバードを手に取ると、こちらへ駆けながら斬りつけに来る。

 

 先ほどまで使っていた武器よりもさらにリーチが長くなった結果、受け身のままだったビルドは懐に入り込む余裕すらない。

 

 縦の振り下ろしをラダーで受け止め、返し刃の横薙ぎはスパインナックルの針で防ぐ。そこから繰り出される正確無比な素早い突きは体を捻って対応してみせる。だがどれもギリギリであり、一向に攻勢に打って出られない。

 

 ラダーからの火炎放射器を行おうにも、振り被るハルバードから発生されたであろう強風によって打ち消されてしまう。

 

「ならコイツで……!」

 

 バックステップで距離を取ってから、今度は2本のボトルを取り出してビルドドライバーへ装填、ハンドルを回す。

 

【 ゴリラ! 】 【 ダイヤモンド! 】

 G/D

【 ベストマッチ! 】

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 展開されたスナップライドビルダーの中に、茶色と水色の装甲が生成され、掛け声と共にビルドを挟み込んで姿を変える。

 

【 輝きのデストロイヤー! ゴリラモンド! 】

【 イェーイ! 】

 

 迫り来るハルバードからの強風を前に、ビルド ゴリラモンドフォームは左手を地面に押し付ける。すると地面の土がダイヤモンドへと変化、ビルドを守る盾となり風の刃を受け止めた。

 

「ハァッ!」

 

 一度防いだ時点でディケイドアギトの隙を見逃さない。風の刃が阻まれたと同時に、右腕のサドンデストロイヤーでダイヤの盾を強く殴り飛ばした。

 

 剛腕によって砕かれたダイヤが散弾となってディケイドアギトに襲いかかる。

 いくつかはハルバードで防ぐも、その合間を縫って何発かの破片が被弾し、装甲で火花が散っていく。

 

 僅かに揺らいだ隙を見逃すまいと、ビルドはディケイドアギトとの距離を詰める。

 

「……!」

「うおおぉ!」

 

 長物であるハルバードを手慣れたように、そして素早くビルドとの間に射し込むディケイドアギト。自身の行く手を遮るそれを、ビルドはダイヤモンドの左腕で防いで見せる。

 

「チッ……」

 

 ディケイドアギトは弾かれたハルバードを引き抜く形で自身の目の前で構えて防御姿勢を取る。直後、ハルバード越しからサドンデストロイヤーの重い一撃による衝撃が全身を駆け回る。

 

 投げ出されて地面を転がったディケイドアギトは、受けたであろうダメージを感じさせないほど軽い口調で声を紡ぐ。

 

「少しはやるようだな。まあ自分の世界を戦い抜いたんだ、むしろこれぐらいはやって貰わないとな」

 

 ゴリラモンドの拳を受けて尚余裕を見せて立て直したディケイドアギトはハルバードを放り投げると、ドライバーに取り付けていたライドブッカーから再びカードを取り出す。

 

「変身」

 

 掲げたそのカードをひっくり返してから、ドライバーへと腕を振って素早く装填、両側を押し込むことで、また新たなる姿に変身する。

 

KAMEN(カメン) RIDE(ライド)

W(ダブル)

 

 ドライバーから流れる何かの音声が辺りに響くと、2人の周囲を強い風が吹き抜ける。

 ディケイドアギトの周囲に緑と紫の風が交わるように駆けると、粒子のようなものがその身体を包み込んで姿を変える。

 

 首にたなびくマフラー以外は飾りっ気の少ないオーソドックスな姿。しかし身体を縦に分けて、正面から左側が緑に、右側が黒に染まった半分こなカラーリングが施されていた。

 

「また変わった!?」

 

 またもや共通点の少ないフォームチェンジに驚愕しているビルドだったが、その脳裏では額縁から覗いていた葛城巧が声を上げていた。

 

——アレは、仮面ライダーダブル!——

 

「だ、ダブル……?」

 

——エグゼイドたちの世界に存在していた、彼らとはまた違うライダーだ。確かガイアメモリって言う地球の概念を物理化させた物を使っているとか……——

 

「なるほど。それはすげぇ興味深いけど、今はそんな余裕はなさそうだ」

 

 そのガイアメモリとやらに興味を示しつつ、しかし目の前の相手への警戒は怠らない。新たな姿を見せたディケイドダブルを前に、ビルドはサドンデストロイヤーを前に構える。

 

「それじゃあ……コイツだ」

 

 ビルドの様子を楽しむかのように見ながら、ディケイドダブルは1枚のカードを取り出すと、ドライバーへ装填する。

 

ATTACK(アタック) RIDE(ライド)

 

(来るか……!)

 

 カードを装填するたびに、技を放つか姿を変える。或いは他にも出来ることがあるのか……新たなカードを取り出したディケイドダブルを前に、ビルドはダイヤの左腕で攻撃を防ぎ、ゴリラの右腕で最低限の迎撃が出来るように意識を集中させる。

 

 防御態勢をとるビルドの前で、ディケイドダブルはドライバーの両端を押し込んで能力を発動させる。

 

OMAENO(お前の) TUMIWO(罪を) KAZOERO(数えろ)()

 

 両手をパンパンと払ってから、視線を一度逸らして黒い左手を目の前に構えると、視線と左手の指をビルドへ同時に向けながら声を上げた。

 

「さあ、お前の罪を数えろ……!」

 

 ビルドへ指をさしたまま決め台詞を述べるディケイド。

 しかし、すっかり攻撃が来ると思っていたビルドは少しうん? となりながらも、言われた通り自身の罪を上げていく。

 

「…………たしかに俺は、葛城巧の時や、スクラッシュドライバーといった発明で世界に戦火を広げてしまった。それだけじゃない、この世界にもエボルトやパンドラボックスを連れてきてしまった。けど、今ここで倒れるわけには……」

 

 ディケイドダブルの言葉につられて自分の犯した罪を告白、しかしまだ倒れるわけにはいかないと決意を口にするビルド。

 しかし、それを遮ったのは他でもないディケイドダブル自身だった。

 

「待て待て、誰が本当に言えって言った」

「? いやお前が今言ったでしょうが」

「俺自身の意思じゃない」

「いや意味わかんねぇよ……」

 

 ディケイドダブル自身の静止のせいで空気が乱れてしまった両者だったが、ディケイドダブルは仕切り直すかのようにビルドへと駆けた。

 

「フッ!」

 

 風のように素早く接近してきたディケイドダブルの右腕のボディーブローが、惚けていたビルドの腹部に突き刺さる。

 

「ぐあっ……きったねぇ!」

 

 衝撃で仰け反ったビルドが身体を起こすと、こちら目掛けてディケイドダブルの左脚による回し蹴りが放たれていた。

 

「うぉっ!?」

 

 身体を思い切り逸らして一撃を回避するビルド。その目の前を黒い脚が通過すると同時に、身体を捻りながら姿勢を整えてディケイドダブルの側面へ。

 

 唸る剛腕の一撃を叩き込もうとするも、ディケイドダブルは先ほどよりも素早い動きで拳を難なく回避する。

 ビルドの懐に入り込むと、風を纏ったストレートパンチを放つ。

 パンチをダイヤの左腕で防ごうと試みるも、腕の動きは風の盾によって阻まれ、ディケイドダブルの攻撃を許してしまう。

 

「ハアッ!」

「……ッ!」

 

 風を纏った一撃によって、ビルドは大きく後退して距離を離されてしまう。

 

「なら今度はコイツで……!」

「奇遇だな、俺も変わるつもりだった」

 

 ビルドは新たなフルボトルを、ディケイドダブルは新たなカードをベルトに装填する。

 

【 海賊! 】 【 電車! 】

 K/D

【 ベストマッチ! 】

 

【 Are your ready ? 】

 

 

FORM(フォーム) RIDE(ライド)

 

 ビルドはハンドルを回してスナップライドビルダーに装甲を生成、ディケイドダブルはドライバーを押し込んでそれぞれ姿を変えた。

 

「ビルドアップ!」

 

【 定刻の反逆者! 海賊レッシャー! 】

【 イェーイ! 】

 

 

W(ダブル) LUNA(ルナ)TRIGGER(トリガー)

 

 ビルドは青と緑のカラーリングをした海賊レッシャーに、ディケイドダブルは黄と青の姿 ルナトリガーにフォームチェンジする。

 

「なんだ、その姿ならサイクロントリガーの方が良かったか?」

「なんの話だ……よっ!」

 

 言うが早いか、ディケイドダブルは手に持っていた銃から黄色のエネルギー弾を連射する。それに反応してビルドもまた手にしたカイゾクハッシャーの弦であるビルドアロー号を引いてすぐさま発射する。

 

 互いに発射されたエネルギーがぶつかり合い、両者の間で爆発が巻き起こる。

 

 

 

 爆煙を抜けてビルドがディケイドダブルに躍り掛かる。

 ディケイドダブルはカイゾクハッシャーの斬撃を紙一重、しかし確実に躱して合間を縫うようにして銃を突きつけ撃つ。

 

 素早い身のこなしで避けたビルドは近くの木々の中へと姿を消し、それを追いかけるようにディケイドダブルも姿を眩ませる。

 

 つい先ほどまでライダー同士の苛烈な戦いが行われた山の中の野原に静寂が訪れる。しかし、それは草を踏みしめる音によって破られた。

 音の主人はグレーのコートにチューリップハットを深くかぶった眼鏡の男。彼は2人のライダーが踏み込んだ森へ視線を向けていた。

 

「……ディケイドめ。ビルドの世界、そしてISの世界さえも破壊するつもりか……!」

 

 その視線に含まれるものは憎しみ。まさに憎悪を感じさせるものだった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

【 各駅電車 】

【 急行電車 】

 

 森の中をすり抜けるように駆ける2人のライダー。並行しながら走る両者は、合わせるでもなく山頂へと走っていた。

 

 意思を持ったかのように不規則な弾道で迫り来る光弾を身のこなしで避けると大きく踏み込んでからビルドアロー号を手放し電車型エネルギー弾を発射。しかしその一撃は柔軟に伸びて目の前の木の枝を掴んだ黄色の左腕によってかすることなく回避される。

 

 元のサイズに戻った左腕で掴んでいた木の枝から、疾走するビルドへと光弾を撃ち込む。それを終えると鉄棒のように身体を振って前方に着地する。

 

 背後から迫り来る直撃コースの光弾を振り返りざまの斬撃で打ち消すと、再びビルドアロー号を引いて着地したその瞬間を狙ってエネルギーを発射する。だが、その一撃は突如として飛んで来たいくつかのエネルギー弾に阻まれる。

 

「……さっきのエネルギー弾を操作したのか」

 

 恐らく木の上から撃ち込んだエネルギー弾のうち、いくつかはビルドに敢えて当てず、その後隙を見せるであろう自分を守るために撃ち込んだのか。それを察してから、ビルドは改めて自身の攻撃の悉くを防ぎきるディケイドダブルに注視する。

 

 何故こちらに戦いを挑んでくるのかはわからない。そもそも彼はエボルトや篠ノ之束の味方なのか敵なのか、それさえ不透明のままなのだから、倒すべき敵なのかさえわからない。

 ただ一つ、確実に言えることがあるとするならば……

 

【 各駅電車 】

【 急行電車 】

【 快速電車! 】

 

 先ほど自分で言った通り、ここでやられるわけにはいかない。ということだった。

 

FINAL(ファイナル) ATTACK(アタック) RIDE(ライド)

 

 見れば彼方も新たなカードを切っていた。互いの必殺技がぶつかる。だが、それだけで終わるとは思えない。

 目の前の相手は間違いなく、エボルトと互角以上に渡り合えるであろう実力を持ったライダー。ならば手加減して勝てるほど甘くはないだろう。

 僅かな時間で判断したビルドは、この一撃の後に打つべき手を思案しながら最大までチャージを終える。

 

【 海賊電車! 】

 

W()W()W()W(ダブル)()

 

 ディケイドダブルのトリガーマグナムから黄色と青の光弾が散弾のように発射されるのと、ビルドのカイゾクハッシャーから緑の雷撃を纏った電車型エネルギーが発射されるのは同時だった。

 

 正面へとまっすぐ突き進む電車型エネルギーに対して、一度は拡散していた2色の光弾が1箇所に集まり、電車型エネルギーにぶつかった。

 

 両者の攻撃がぶつかり合い、黄色と青、緑の閃光と共にそれらが爆発して辺り一帯を爆煙で包み込んだ。

 

 

 

「…………」

 

 爆煙の向こう、次の攻撃の機会を伺っているであろうビルドの行動を待つディケイドダブル。程なくして爆煙の中から1つの影がこちらへ突っ込んでくるのが見えた。

 トリガーマグナムの銃撃で迎え撃とうとするも、その影は銃撃の雨を飛翔するかのように次々とかわしながらディケイドダブルの目の前に躍り出た。

 

【 ーーーー! 】

「何……!?」

 

 出て来たのはビルド……ではなく、彼の開発したこの世界特有の存在 IS『Love&Peace』だった。

 

 モードウイング ラピス・ピジョンによる自律操縦の状態で突っ込んでくると、ディケイドダブルへと突進、共に空へと駆け上がる。

 

「ちっ……!」

 

 自身の腹部に頭部を押し付け、更に脚で胴体を掴んで来るL&Pにトリガーマグナムの接射を行い、その拘束を無理矢理解いたディケイドダブルは、落下しながら周辺を見回した。

 既に両者の戦いの場は山中の頂上付近。周辺には人の気配も存在しなかった。

 

「なるほど。てっきりISとやらは使ってこないと思っていたが、人目のつかない場所なら問題ないと見たか」

 

 身を翻して足から地面に着地するディケイドダブル。その先ではビルドと、彼に従うようにL&Pが高度を下げて並び立っていた。

 

「支援機か……ならこっちも、支援機を呼ぶとするか」

「なんだと……?」

 

 ディケイドダブルの言葉に衝撃を受けたビルドだったが、その考えをすぐに打ち消す。

 恐らくあのライダーの力は『他の仮面ライダーへと姿を変えてその能力を発揮する』こと。変えられる人数は不明だが、支援機を呼ぶ能力を持ったライダーが1人や2人居ても不思議ではない。

 

 そしてディケイドダブルは新たに取り出したカードをドライバーへと装填する。

 

「変身」

 

KAMEN(カメン) RIDE(ライド)

FAIZ(ファイズ)

 

 ディケイドダブルのドライバーから電話のプッシュ音が聞こえた直後、光の筋が胴体を通って四肢に巡り、より一層強い赤い光に包まれる。

 光が消えると、そこには黄色く丸い複眼をした、黒いボディに赤い粒子が駆け巡る仮面ライダーへと姿を変えた。

 

「また新しいライダーの力か!」

「まあな。さて……」

 

 四つめの姿 ディケイドファイズはカードを取るとドライバーへと軽く手首を振ってカードを投げ入れる。

 

ATTACK(アタック) RIDE(ライド)

AUTO(オート) VAJIN(バジン)

 

 カードを読み込んだ直後、何処からかともなく1台の無人のバイクがこの場へと疾走してくる。そのバイクはディケイドによく似たマゼンタに黒のプレートが突き刺さったバーコードのような形状をしていたが、すぐにモザイクがかっていく。

 モザイクが晴れると、バイクの形状がガラリと変わり、銀の車体に赤いラインの形状をしていた。

 

 突っ込んでくるバイクに警戒して一旦距離をとったビルドの目の前で、バイクは突如として稼働し始める。ホイールが前方と後方に別れ、座席が直立、ヘッドランプも回転してまるで頭部のようにそびえ立つ。

 変形を終えたその場所に、1台の人型ロボットが現れた。

 

「バイクが人型に変形とかマジかよ……!」

 

 人型バイク オートバジンは、腕に備えていたホイールから機銃を放ちながら上昇、それを追うようにL&Pが加速する。

 

【 ーーーー! 】

 

 機械の爪がホイールの盾を掴み、オートバジンを2人のライダーの居場所から押し出していく。互いに機銃を放ち、時に爪や拳を、時に嘴と足を使って格闘戦を行いながら空へと舞い上がっていく。

 

「クソっ……!」

「これで1対1、振り出しに戻ったな」

 

 何処からか取り出した赤い粒子を纏った剣を手にして軽く振ると、ディケイドファイズは空へ昇っていった両機からビルドへと向き直る。

 

 対してビルドはフルボトルをドライバーへと装填し、姿を変える最中だった。

 

【 ユニコーン! 】 【 消しゴム 】

 Y/K

【 ベストマッチ! 】

 

【 Are your ready ? 】

 

「ビルドアップ!」

 

 この一日だけで既に幾度目かの行程を行い、展開していたスナップライドビルダーから白と薄い水色の装甲がビルドへ装着される。

 

【 一角消去 ユニレイサー 】

【 イェーイ…… 】

 

 片手に白い消しゴムを、もう片手には水色のユニコーンのツノを備えたビルド ユニレイサーフォームは、相対するディケイドファイズとぶつかり合う。

 

 紅い光を放ちながら振るわれるファイズエッジと白い光の帯を漂わせながらユニコーンのツノで切り結ぶ。

 火花が散り、双方の動きもまた激しさを増す。

 

「ハッ!」

「……ッア!」

 

 それが何度か続いたあと、二人のライダーは互いの得物を強くぶつけ合うことで相手を突き飛ばす。

 自然と出来たその距離の中、ディケイドファイズは目の前のビルドが体勢を崩した隙に取り出した望遠鏡のような物を脚に装着する。

 

 何か仕掛けてくる。本能的に察知したビルドはディケイドファイズへ一気に詰め寄り突きを繰り出す。

 その一撃をこともなさげに払いのけると、ビルドの腹部へ拳を叩き込む。たたらを踏んで下がったビルドへ追い討ちをかけるように走りながら脚を引いて蹴りを放つ。

 

「させるか!」

 

 だが当たる直前、左手を振ったビルドの姿が消しゴムで消されたかのように掻き消えた。

 

「あぁ、さっきのスマッシュの能力か」

 

 思い出したように言うディケイドファイズは周囲を見回すが、ビルドの姿形を捉えることは出来ない。

 

 辺りを確認して振り向いた直後、側面から強い衝撃がディケイドファイズを襲う。態勢を整えて迎撃しようとするも、やはりそこにビルドの姿は無かった。

 

「ちょこまかと逃げられるのも面倒だからな、拘束するか」

 

 そうしてディケイドファイズは一枚のカードを切った。

 

FINAL (ファイナル) ATTACK(アタック) RIDE(ライド)

FA(ファ)FA(ファ)FA(ファ)FAIZ(ファイズ)

 

 何かされる前にこちらから仕掛ける。そう決意したビルドは、不可視のままディケイドに詰め寄ると、右手のユニコーンのツノを用いて突進する。

 

 ガツンと言う鈍い音を立てながらツノがディケイドに命中する。しかしその動きを予期していたディケイドファイズは、自身に命中したであろうツノを両腕で抑えると、右足で強く蹴り上げる。

 

「クッ……!」

 

 攻撃の衝撃で揺らいだビルドの動きを見えないまま捉えたディケイドファイズは、振り上げた足を地面に落とすことなくビルドが居るであろう方向へと向ける。

 

 すると、先程右脚に装着していた望遠鏡から紅い光がビルドへ発射される。

 咄嗟に消しゴムでガードしたビルドだが、紅い光はガードしたビルドの腕を抉るように展開してドリルのような形状となる。

 

 紅い光の向こうを見れば、ディケイドファイズはすでに跳躍し、こちらへキックを放っていた。

 左腕の自由を奪われたまま、一か八かでビルドはビルドドライバーのハンドルを回す。

 

【 Ready Go ! 】

【 ボルテック・フィニッシュ! 】

 

 ドリルのような形状の粒子を纏ったディケイドファイズのキックと、それを正面から撃ち破ろうとするビルドの右腕のユニコーンのドリルがぶつかり合い、紅と白の光を放ち続ける。

 

 光は一層強くなり、やがて周囲を覆うほどの強さで光を放ち——

 

 ビルドの意識はそこで途絶えた……。

 

 

 

———————————————————————

 

 

 

『次回、インフィニット・ジーニアス』

 

 

「お前は、何のために戦ってる?」

 

「お前にとっての仲間は、手に触れれる距離にいる心許した奴らだけなのか」

 

「そう言われれば、あの二つのボトルはエグゼイドに返したはず……どうして俺の手元に……?」

 

『己の内に耳を傾けろ、聴こえるはずだろう? 仲間の恨みが』

 

「どんな旅にも無駄はない、どんな人生にも無駄がないのと同じようにな」

 

「ディケイドが、二つの世界の全てをも破壊するのだ!!」

 

「例えこの世界に居るライダーがコイツ1人だとしても、コイツはもう1人なんかじゃない」

 

「みんなが創ってくれたんだ、今の俺を! みんなの願いは、想いは……今だってこの胸に生きている!」

 

「今夜は、俺とお前でダブルライダーと行くか」

 

【 Are your ready ? 】 ‖ KAMEN RIDE ‖

「「変身!」」

 

 

 第21話 破壊と創造のジャーニー

 『全てを破壊し、全てを繋げ!』




 対人戦なのにビルドがゴリラモンドになってるのは密に……(ストームハルバードでガードされること前提だし行ける行けると書いてて思いました)

 ディケイドを含め、士がカメンライドした姿は全員ビルドと同じ共通点にしてます。(555は劇場版、Wはフィリップのみですが)

 『俺、参上』のカードがあるなら『さぁ、お前の罪を数えろ』や『宇宙キターッ!』があってもおかしくないよね? の精神でおまつみを出しました。後悔はしていない。

 士はすぐに退場、ならびにエグゼイドボトルの二本入手の(後付け)理由を発表します。

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