Infinite・Genius 【インフィニット・ジーニアス】   作:EUDANA

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 ディケイド編も終わり、とうとう臨海学校……と思わせての続オリジナル編

 前後編なので次の話で終了。そのあとで一話挟んでやっと臨海学校です。なんとか今年中に臨海学校に行きたいと思った結果、話の展開が少々駆け足気味かなぁと思ったり。
 今回は前回までの反動でIS寄りの作風に……出来ていればなぁと思います。

 今回の話の前半一部、戦兎は徹夜明けのヤバいテンションだと思ってください。


ホリデイは災難で。

 迷い込んだ異なる世界で、たった一人の激闘を繰り広げてきた仮面ライダービルドことてぇんさい物理学者の桐生戦兎。

 そんな桐生戦兎の前に、突如として謎のバーコードな仮面ライダーが現れた。その名も仮面ライダーディケイド、そして変身者の門矢士。

 

 ディケイドとの戦闘と邂逅を経て、元々大丈夫だったメンタルを更にパワーアップして持ち直したビルドはディケイドと共闘して、現れたナイトローグと更に再変身したヘルブロスを華麗に撃破したのでした!

 

 

 

「おい戦兎、なんで前回あらすじやらなかったんだよ」

 

 あぁ、いやなんか気付いたら出来てたんだよ。それも過去の台詞振り返りなんてすっごい簡素な内容の。正直、俺ももーちょっと手を入れたかったんだよなぁ。

 

「へー……てかそれはそうと、お前どうすんだよ?」

 

 ん、何が?

 

「前回げんさんにあらすじ参加はまた今度って言ってたんだろ? この間見たげんさん、なんかスゲーどす黒いオーラみてぇなの纏ってたぞ」

 

 …………あぁ〜そういえば言ったなそんなの……さてどうするかな……。

 

 ま、そんなことは置いといて! 一体どうなる23話!

 

「いや置いとくのかよ!?」

 

———————————————————————

 

 

 

 

 

 日曜日の朝早く、どことも知れぬ廃屋の中に三人の男たちが外を見ながら会話を進めていた。

 しきりに外の様子を気にするその素ぶりは、何もない人間とは思えないほどに。

 

「じゃあ手筈通り、正午に銀行だな」

「目出し帽はちゃんと被っとけよ」

 

 男たちの中心に置かれている黒い大きめのボストンバッグには、目出し帽と拳銃が三丁。

 彼らは今日まさに、銀行強盗として悪事を働こうとしていたのだ。

 

「逃走ルートはレゾナンスのすぐそばを突っ切る形になるが……」

「逃げ切られなきゃ適当な店に立て籠もって車を要求すりゃいい」

「けど、ISに来られたら追いつかれちまうぞ?」

「その辺は大丈夫だ。男どもなんざにISを出すことなんざそうそうないだろうし、なにより警察は例の未確認生命体とやらに警戒してるらしいからな。強盗相手に出動してたら本物がやって来た……なんてことにならねぇように出張って来やしねえさ」

「そうなりゃ女のメンツ丸潰れだもんな」

 

 違ぇねぇ、と。不審な会話を繰り返す男たちがゲラゲラと笑うすぐそばで——

 

 ギィッ……

 

 鉄の扉か床が軋む音が廃屋に響いた。

 顔を見合わせる三人。バッグに入れていた拳銃を手に取ると、一人が音の鳴った方へと慎重に歩いていく。

 

 最初に三人がいた場所から死角になる、音が聞こえた場所までたどり着くも、特に不審な点はない。

 気のせいかと思い銃を下ろした男のすぐ隣、壁で見えない別の部屋から声を掛けられた。

 

《その計画にはちょっと無理があるんじゃねぇかァ?》

「うおぉっ!? な、何だテメェ!?」

 

 部屋の奥、影の中からぬぅっと現れたのは、血のような紅に身を染めた人型の異形だった。

 

《オイオイ、人の顔を見ていきなり悲鳴をあげるとは随分と失礼じゃねぇか。心外だねェ》

「ち、近づくんじゃねぇ!」

 

 確認に向かっていた男は、思わず尻餅をつきながらも拳銃のロックを外して目の前の異形へと銃口を向ける。仲間の男たちも同様だ。

 すると目の前の何かは、意外にも軽い調子で両手を上げて降伏といったポーズを見せる。

 

《おっととと! ちょっと待ってくれよォ〜。オレはお前らに良い話を持ってきたんだぞ?》

「い、良い話だぁ?」

 

 殺しにでも来たのかと思っていた異形が、自分たちに何かを持ちかけようとしている。そんな尋常ではない光景に、三人揃って頭を混乱させる。

 

《わかるぜ〜? 男ってだけで社会的に見捨てられ、立場もクソもない。理不尽な理由で仕事を断られんのもしょっ引かれるのも有り得ない話じゃねぇ。強盗でもして大金を手に入れて一丁華でも咲かせて、ついでに女たちも見返してやりたいよなぁ? ま、お前らは単に金が欲しいだけなんだろうがな、ハハハ!》

「な、何が言いてぇんだテメェ……?」

 

 困惑が続く男たちの前で、異形は懐からイバラが巻かれた奇妙なボトルのような物を取り出した。

 

《オレは商売人でな。お前たちにオレの商品のユーザーになって欲しいんだよ》

「商品……?」

《そうだ、拳銃(そんな物)よりもっと強力なもんさ……警察はもちろん、ISにだって対抗……いや、圧倒できる。そしてそんなお得なものを、今なら体験期間中は無料と来た!》

「う、嘘だそんな話!」

《ハッハッハッ! それはお前たちが決めてくれ。お前たちが要らないなら、他に欲しがってる奴に交渉するまでだ。さぁ、オレの話はここまでだ。どうする? 乗るか、乗らないか……》

 

 手の中で商品とやらを弄ぶ異形に対し、男たちの取った選択は……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 本土とIS学園とを繋げるモノレール。

 それに乗ってすぐの駅にある大型ショッピングモール『レゾナンス』は、洋服から食品といった日用品は勿論、ゲームセンターのような若者たちに人気の場所、小さめながらも充実したレジャー施設などさまざまな店舗が点在している。

 

 そんなショッピングモールの中を、普段のIS学園の制服ではなく各々の私服で並んで歩く一夏と箒の姿があった。

 

「その、なんだ。こ、こうして一緒にいるのも随分と久しぶりな気がするな」

「そうか? けどまぁ、ここのところトーナメントに向けてのISの特訓とかで忙しかったしな」

「う、うむそうだな、取り敢えず最初は……」

 

 何気ない会話をする一夏に対し、遅れてきたのを口実に手を繋ぐことを提案したらあっさり了承され、リードされている箒は顔を赤らめながらどこか呂律が回らない様子だ。

 

「えーと……あぁ、水着だっけ?」

「う、うむ」

「俺も新しいの買わないとな……学園支給の水着なんて着れたもんじゃないし」

 

 来月に控えた臨海学校は、海が近くにあるため泳ぐ場合は水着を持って行かなくてはならない。といっても一夏は学園の寮はもとより、自宅にも水着が無いので、どちらにせよ購入しなければならないのだが。

 

「なら一緒に見るか。男の水着もそう遠い距離にないだろう」

「そりゃそうだが、お互い相手の水着なんか見て楽しいか?」

「異性からの第一印象は重要だぞ! うん!」

 

 謎の力説を持って説得する箒に押されて、一夏はとりあえず了承する。

 

「んじゃ、早めに行って決めるか!」

「な、ちょっ……引っ張るな!」

 

 軽く笑ってから繋いだ手に力を入れて、箒を引っ張ってリードするように走りだす一夏。そんな彼に合わせるように、箒もまた小走りで後をついていく。

 

 

 

 側から見れば年頃の男女がデートに来ているようで微笑ましい光景だろう。

 

 ——その周囲を付けている変な集団から目を背ければ……

 

 

 

『こちらアフタヌーン、二人は手を繋いで——手を繋いで! モールを移動していますわ!』

『こちら酢豚、こっちでも確認出来たわ。私たちはここで待機して、三人と交代ね』

『こちらタマネギ、アフタヌーンから引き継いで二人を見張るね』

『……こちらスクランブルエッグ、俺もう帰っていいか?』

 

 

 科学者、作業員、他校の学生服etc……様々な格好をした奇妙な集団は、一夏と箒の周囲を気取られないように付け回しながら無線機で連絡を取り合っていた。

 

『ダメに決まってんでしょ! ここで引いたら何のために来たのか……!』

『俺の知ったことじゃねぇでしょうが!』

『静かにして下さいまし。お二人に気付かれてしまいます』

『ったく……』

 

 悪態をつきながら喫茶店の店員みたいな服装をしていたスクランブルエッグ……戦兎は、あくびをしつつ建物の隙間の路地から顔をのぞかせて、双眼鏡を使って一夏と箒の位置を確認する。

 連絡があった二人は今まさに、戦兎が潜んでいた路地の目と鼻の先の通路を走って通り過ぎていく所だった。

 

 二人は現在ショッピングモールへと歩き出している。このコースだと水着売り場へ行く様だ。

 

『こちらスネーク、どうやらタマネギの情報通りの様だな。先行して嫁と箒……もといターゲットの待ち伏せ、ならびに追跡を開始する。アウト』

 

 連絡が途切れると同時、戦兎の足元にあったダンボール箱がモゾモゾと動き始め、中からダンボールを担いだ姿勢のままスネーク……ラウラが二人とは反対の通路を使って進行し始める。

 

 足の生えたダンボールが路地から現れる。人の少ない朝の時間帯で現れるその異様な光景を前に、通行人たちから軽い悲鳴や驚きの声が上がり始める。

 

『おいボーデヴィッヒ、それすっげぇ目立つぞ』

 

 通路の中から冷ややかな視線でその光景を見ながら、戦兎は通信機器を使って注意する。

 

『スネークだ。それにクラリッサが言っていた。日本では追跡や潜入といったスニーキングミッションを行う時は、戦士の必需品ダンボールを被って任務を遂行すると』

『んなわけねぇでしょうが。隠れる時以外脱ぐだろ蛇も』

 

 ネットで調べモノした際に得た不確かかつあまり興味の示さなかった情報をあげながら指摘する戦兎。それに吊られたのか酢豚こと鈴と、アフタヌーンことセシリアも参加、指摘し始める。

 

『あとそれゲームの話だし、そのキャラ日本人じゃなくてアメリカ人でしょ? まあ私もあんまり詳しくないけど』

『そうなのか。では今度現地の人間に真偽を問うことにしよう。たしか三年にアメリカの代表候補生が居たな』

『いえ、そういう問題ではございませんわ』

『ちょっと四人とも、二人を追跡してること忘れないでよ』

 

 ダンボールを脱ぐ脱がないで揉め始める三人とそれを咎めるタマネギことシャルル。そんな女子を尻目に、戦兎は目頭を手で押さえて呻くのだった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 それは今日の朝まで遡ることになる。

 

 ディケイドと共にナイトローグならびにヘルブロスたちを撃破した後、徹夜のまま猛スピードでL&Pの追加装備を再改造した戦兎。

 

 夜更けに来ていた一夏と千冬の連絡は『倉持技研の人間を名乗る不審者が自身を探していた』と言う件だった。

 それに対して『自身がネット上で知り合った技術者仲間。倉持の技術を見ない、自身のデータも流さないという条件で意見を参考にさせてもらった人物』と当たり障りのない返信を行っていた。

 

 そんな戦兎だったが、ある事情から生徒も起き始めているだろう朝の九時頃に一夏の自室へと赴いた時のことだった。

 

 

 

「なーんで一夏が居ないのよ」

「一夏なら箒と買い物だよ。二人っきりでレゾナンス」

「ちょっ……そ、それはつまりデートなのでは!?」

「人の嫁だという自覚も持たず、あまつさえ箒を連れて行くとは……嫁め、許せんな」

「いや、アンタの場合は勝手に言ってるだけでしょうが」

 

 一夏の部屋の前に集まっていたのはいつもの専用機持ちのメンバー。彼女たちは当然ながら、各々の理由を付けて休日を一夏と過ごそうとしたのだが、既に一夏は箒と共に外出済みだった。

 

 シャルルから事情を聞いた三人が、さてどうしたものかと考えていると、廊下の向こうから戦兎がやって来たのだった。

 

「揃いも揃って、こんな朝っぱらから何やってんのよお前ら」

「見ればわかるでしょ、一夏に用があったの」

「右に同じくですわ。既に箒さんに抜け駆けされてしまいましたが」

 

 手に持っていたデバイスを弄びながら聞いていた戦兎も同じく一夏に用があったため、不在と聞いてその顔を渋くする。

 

「そういう戦兎は?」

「俺もアイツに用があったんだよ。まぁピジョンちゃんのサーチ機能を使えば見つけられるけど……しょうがねぇな」

 

 用を聞いてきたシャルルに返事をしてから、諦めて回れ右して自室に戻ろうとした戦兎だったが、次の一言で思わずその足を止めてしまった。

 

「こうなれば追いかけて混ざりに行くしかないな」

 

 突拍子もなくとんでもないことを言い放ったラウラに、戦兎は慌てて戻って静止し始める。

 

「いやいや何考えてんのよお前、仮にデートしてんのなら邪魔すんのはダメでしょ」

「そうですわ! ここは直接殴り込みに行くのではなくて、追跡の後に尾行ですわ!」

「そうよそうよ!」

「いきなり殴り込むのは流石にダメだよラウラ」

 

 他の全員も同調……と思いきやついて行くのは当然のように肯定し始める約三名。そんな光景にずっこけそうな感情を一旦閉まう戦兎。

 

「お前らなぁ……自分たちだって逆のことされたら嫌だろうが、ほっとけよ」

「私は別に問題ありませんわ。すこーしお話しようと思っただけですので」

「私もやましい事なんて無いし。なんなら見せつけてやったっていいわ」

「絶対嘘だ……」

「けど、そのまま尾行なんてしたらすぐバレちゃうよね」

「ならば変装、カモフラージュだな。だが私の私物では全員分は誤魔化せないぞ」

 

 自分の言葉をスルーして勝手に悩みはしゃぐ女子四人を他所に、これ以上関わるとロクなことにならないと判断した戦兎。

 溜息吐きつつ首を振ると、一度は戻りかけていた足を動かして再びUターン、今度こそこの場から去ろうとした。

 

 が、四手遅かった。

 

「では、そうと決まれば早速出撃準備ですわ!」

「いつもならお断りだけど、そうも言ってらんないわね……目標は一夏と箒、場所はレゾナンス!」

「作戦参加人数は多ければ多いほど良いしね。変装道具はみんなで集めてどうにかしよう!」

「まだ二人が出発してそう経ってはいないだろうが、追跡と待ち伏せを考慮するなら時間との勝負か……だが五人も居ればなんとかなるだろう。準備が整い次第、すぐに出発するぞ!」

 

 背後で勝手に盛り上がる少女たちの声を聞いて、しかし戦兎は嫌な予感がしていた。

 

「……おい、一人足りねぇだろ」

 

 思わず首だけで振り返りながら人数が合わないことを指摘する。ほんの一瞬ピタッと止まった四人だったが、すぐに動きを再開する。

 すると不思議なことに、四人の視線はぴったりと戦兎に向けられていた。

 全身を貫くほどの嫌な予感に冷や汗を浮かべた戦兎は、すぐさまダッシュで立ち去ろうとして……

 

 あわれ、襟を四方から掴まれた戦兎は先日から続く激闘と開発の疲労もあって大した抵抗もできぬまま呆気なく取り押さえられると、あれよあれよという間に引きずり込まれて行ったのだった。

 

 

 

 その後、部屋から持ってこらされた変装道具を全員に配った後は、白式の反応から近場にいることを確認すると、完全に巻き込まれただけの戦兎を含めた五人全員で二人の後を追いかけることとなった。

 

 なお道中にてどう言うわけかコードネームを決めることとなった。盗聴防止という建前と、無線機を使うことによる雰囲気作り……らしい。

 

 ところが最初は思ったまま名乗ろうとした結果、全員がパッと思い付いたファルコン1を名乗ったために、混同防止で全員が一人ずつ決め合うこととなった。

 

 

 ラウラ (アフタヌーン) セシリア

 

「イギリスと言えばやはり紅茶だ。セシリアはアフタヌーンティーを飲んでいるんだろう?」

「勿論、アフタヌーンはイギリス貴族の嗜みですわ! ……没落した方はちょっとわかりませんけれど」

 

 

 セシリア (酢豚) 鈴

 

「何、酢豚って!?」

「だって鈴さんの得意料理なのでしょう?」

「いやまぁそうと言えばそうだけど、もう少しなんか無かったの?」

「変なものを付けないだけありがたいと思って下さい!」

 

 

 鈴 (スクランブルエッグ) 戦兎

 

「お前人の事言えねぇじゃねえか!」

「この流れなら食べ物になるのは当たり前でしょ! ならコレが妥当よ!」

「だからって何でスクランブルエッグなんだよ! あれ玉子焼きだしよ!」

「あんなの食べたらお腹壊すに決まってんでしょうが!」

「アレか、『スクランブルエッグ(お腹を壊す卵料理)』って言う意味か!?」

 

 

 戦兎 (タマネギ) シャルル

 

「フランスってタマネギ好きだろ? タマネギの歌とかあるくらいだしよ」

「だからってそのままタマネギはどうかと思うよ! まあ嫌いじゃ無いけど」

「フランスの皇帝 ナポレオンが言っていた。パンが無ければタマネギ食べれば良いじゃないと」

「ラウラまで何言ってるの!? いやでも、うーん……部隊で歌わせてたみたいだし、割とホントに思ってそう……」

「なんなら永谷園でもいいぞ?」

「なんで!? なんで日本のお茶漬け製造会社!?」

「声を聴いてたらなんか思い起こしたからな。それが嫌ならバルチャーな」

「食べ物じゃなくなってるし、その名前はなんだか凄い嫌!」

「良いじゃねぇか。思い人と口付けしつつ、一緒に居られそうな名前してるしよ」

「意識ない間に他の人に取られそうだし、一緒に居るのも最期の時だけって感じだよソレ!?」

 

 

 シャルル? (スネーク) ラウラ

 

「あのラウラ……僕、コードネーム付けてないんだけど?」

「心配するな、潜入ミッションならばコードネームは自然とスネークだ。クラリッサもそう言っていた。それに、蛇は栄養も豊富で充分に食べられるぞ」

「それはそうだろうけど、そういう問題?」

「わかった、ではエイハブで行こう。クラリッサ曰く、作戦名でのエイハブとは『親の兄弟』という意味らしい。……ここでいう親とは、やはり我ら黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)にとっての親である教官。そして、その教官と義理の姉妹である私に最も——」

「「「絶対却下!!!」」」

「むぅ……」

 

 

 

 と、こんなひどい具合で各コードネームが決定したのだった。そしてその割にあっさりと使われなくなるのだった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 そして現在。

 恋する暴走特急四両編成に完全に巻き込まれた戦兎は、水着の売り場にたどり着いた二人を尾行する羽目になっていたのだった。

 

 

 

「えっと……俺も行かなきゃダメか?」

「あ、当たり前だろう! 一人では決めかねれないから呼んだのだぞ!」

「そうは言うがな……」

 

 

 水着売り場前でたじろぐ自分への、周りの女性の視線が痛い。そう思いつつも観念し、一夏は箒に連れられて売り場へと足を踏み入れることになった。

 

 

 

『どうする? ここからじゃ様子は見えないよ』

『誰かがこっそり見に行くのが良いだろ。女物の水着売り場だし、もちろん俺はパスだ』

『では私が行こう。……ここからは至近距離でのミッションとなる。ダンボールはここまでだな』

 

 ダンボールを折りたたんで脇にそっと置いてから、ラウラが単身水着売り場へと足を踏み入れて行った。

 

 ラウラからの通信を今か今かと待ち構える三人と、うつらうつらと睡魔と戦い始める戦兎。

 しかし、肝心のラウラはものの数秒で慌てた様子で引き返してきた。

 

『何、どうしたのよ!?』

『撤退だ、箒が戻ってくる』

 

 ラウラが水着売り場から離れた角に身を隠すと同時、彼女の言った通り水着売り場から箒が早歩きで戻ってきた。

 

『どうかしたのかな?』

「んー…………恥ずかしくなったとかじゃねぇか?」

『そんな単純な理由でしょうか?』

 

 残った三人の誰かに襟首を引っ張られて強制覚醒を促された戦兎のつぶやきに、皆そんな馬鹿なと言った様子。

 そんな中、箒を追いかけてきたのか一夏もやってくる。

 

 

 

「おい箒どうしたんだ? 突然やっぱり良いなんて」

「よくよく考えれば、異性に水着がどうだの言ったところでわからないだろうなと思っただけだ!」

「そ、そうか?」

 

 顔を赤くして叫ぶ箒に、思わずタジタジになる一夏。

 先ほどまで力説していたのにもかかわらず、一体どうしたというのか。一夏はそう疑問符を浮かばずにはいられなかった。

 

 

 一方、隅に隠れていた四人は、先ほどの戦兎のつぶやきが当たっていたのだろうと納得した。

 

 

 さてどうしたものかと考えを巡らせるも、他には特にこれといった用事はない。自分の分はすでに買い終わったので、箒はまた後日一人で来るのだろうと考えてから、とりあえず話題を切り出す。

 

「じゃあ、もう帰るか?」

「なっ!? そ、そんな訳がないだろう! わざわざここまで足を運んだのだから、これで帰ればそれこそお前も無駄骨だ!」

 

 貴重な休日を自分との買い物に費やしたにも関わらず、これで終わらせて帰れば折角の休日と決して短くない時間が無駄になってしまわないか、と。箒自身としては心配と申し訳なさを込めて引き止める。

 

 ……無論、そこにもう少し二人きりで居たいという感情がないと言えば嘘にはなるだろうが。

 

「俺は別に構わんが」

「ええっ!? あいや、だがISの特訓とかがだな……」

「だって最近学園で勉強とか訓練ばっかりだろ? 偶には外に出て息抜きでもしないとな」

 

 なんとか引き止めようとする箒に対し、一夏は純粋に外に出れたし満足と完全に逆効果。

 しかしそれも言い換えれば箒と一緒に要られたからと言ってるように取れないこともない。

 

 箒的にそれに悪い気はしないが、果たしてどうしたものかと考え込む。

 

 

 

 そんな所謂いい感じな現場に対し、隅のスペース内で嫌な予感を感じた戦兎。振り向けば、そこにはどす黒いオーラを放つ四つの何かが蠢いていた。

 

「何よ何よ、私といる時よりはっきり言っちゃって!」

「一夏さん、息抜きでしたら私とでも……!」

「いやぁ、やっぱり一夏は女の子なら誰でも良いのかもねー……」

「私の嫁という自覚が足りんなアレは!」

「ステイッ! ステイッ!! 抑えろ!!」

 

 今にも駆け出しそうな四人の前に大の字に立ちはだかる戦兎。水着売り場からそう遠いわけでもないスペースで、怒声と悲鳴と拳が飛び交い始める。

 

「お放しになって下さい!」

「あの馬鹿、十発ぐらいぶん殴ってやるんだから!」

「よせって言ってんでしょうが! お前らだって逆は嫌だろ!」

「そんなことないよ! 『仕方ないなぁ、みんなで仲良く回ろっか』って言うよ!」

「そうだ! それにこれは只の夫婦間の問題だ! 部外者が口を出すな!」

「嘘付くんじゃないよもう!嫌っていうに決まってんでしょうがお前らは! ったく、なんでこんなめんどくさい連中と付き合えるんだよ一夏の奴は!」

 

 そうして全員がもみくちゃになる中、ふと見れば二人が立っていた場所に誰も居なかった。

 慌てて周囲に視線を巡らせるも二人の姿は影も形もなく、不審者でも見るかのような目で五人に視線を向けてヒソヒソと話す買い物客の姿しか見受けられなかった。

 

「あぁ、居ない!」

「もう、桐生さんのせいですわ!」

「そうよ馬鹿!」

「はぁ、馬鹿!? いやてか、俺のせいじゃねぇでしょ!?」

「いいから探すぞ! そう遠くに逃げては居ないはずだ!」

 

 何だかんだ言いながら、五人は消えた二人の行方を捜すのだった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 数時間後、二人の姿はレゾナンスの喫茶店『Cafe@cruise(アット クルーズ)』にあった。

 

「色々見てきたけど……しかし、流石にさっきのあれは落ち着かないよな、ハハハ」

「そ、そうだな……」

 

(せっかく一夏と二人きりになれたというのに……!)

 

 殺気に近い気配を出したり大声を出したりした結果、流石に二人にも気づかれた。

 

 五人の気配を察知した一夏が声をかけようとする前に、先手を打った箒は一夏の手を掴んでひたすら逃げ出した。

 ゲームセンターなどあまり自身の寄りそうにない場所を色々理屈をこねくり回して連れ回し、正午を回ってそろそろ昼時というタイミングでこの場所に来たのだった。

 

「でもみんなを誘った方が楽しそうだったのに、なんでずっと避けてたんだよ?」

「それはアレだ、えっと人数が増えると……昼に来た時に奢る人数が増えるだろう? お前の懐事情に気を回してやったところだ」

「うっ、俺が奢るの前提かよ……」

 

 この世界のご時世を考えればむしろ当然と言えるものの、なんだか釈然としないなぁと思う一夏だった。

 

「いやまあ、それはたしかに有難いが……けど俺はてっきり『男ならこの程度の人数分奢ってやれ』って言われると思ったぜ」

「流石にそこまで鬼ではないぞ私は!」

 

 凄い剣幕で訴える箒にハハハと受け流すと、一夏は思い出したように懐に入れていたものを取り出した。

 

「あそうだ、これ持って来てたんだよな」

「これは……あぁ、千冬さんから貰ったカメラだな」

 

 取り出したカメラは箒にも見覚えがあるものだった。

 彼女もかつて引っ越す前は、このカメラに映ったことがあるのだから。

 

「まあな。せっかくだしなんか撮ってくかって……みんなも撮れればよかったんだが」

「そ、それは悪いことをしたな……」

「いいっていいって。また今度、臨海学校とかでみんなと撮れば。さてと、じゃあどこで撮るかな……」

 

 店内は迷惑を掛けそうなので無しとして、どの辺りで写真を撮るかと考えていると、二人の席に店員がやって来た。

 

「お待たせいたしました。当店自慢のオムライスです」

「えっ? なんか頼んだっけ?」

「いやそんな覚えはないが……」

「当店ではサービスとして、メイドから素敵なご主人様へ、メッサージを添えさせていただいております」

 

 やって来た店員をチラッとだけ見てから、一夏と箒はこの店に来てからの記憶を辿るが、やはり注文をした覚えはない。

 店員はそんな二人の様子を気にも止めず説明すると、メッセージを書くケチャップを取り出して——

 

 直後、容器から大量のケチャップが激流のように運ばれたオムライスに降り注いだ。

 

「あっ」

「……私を放っておいて、あまつさえ他の女に手を出すとはな。中々の心意気だな嫁よ。これこそが数分後のお前の姿だ」

 

 真っ赤に染まったオムライスを凝視していた一夏と箒の耳に入る、聞き覚えのある声と口調。

 恐る恐る見上げた二人の視線の先に、何故かメイド姿のラウラが仁王立ちして構えていた。相変わらず身長は小さいものの、座っている二人からはかなり巨大な姿に見られた。

 

「ラ、ラウラ! 何故ここに!?」

「ふむ、話すと長くなるのだが……色々あってここでアルバイトをすることになった」

「いや色々ってなんだよ……」

 

 驚く箒に淡々と答えるラウラ。やはりその返答はどうにも首をかしげるものだった。

 

 

 

 再び遡ること数十分前、二人を見失った五人は朝食もまだだったために、取り敢えず近場の喫茶店に足を運ぶことにした。

 戦兎以外の四人が次の追跡プランを練っていると、彼女たちの姿を見てビビッと来た店長が声を掛けたのだという。

 

『ねぇ貴方たち、バイトしてみない?』

 

 

 

「……で、全員でアルバイトしてる訳か」

「うむ。多少動き辛いが……どうだ嫁よ、褒め称えてもいいのだぞ?」

 

 先ほどまでの怒りは一時鎮静したのか、饒舌に語るラウラに機嫌をとっておこうとした一夏は、率直な感想を述べることとした。

 

「ああ、すごく似合ってるぞ」

「そ、そうかそうか! シャルロットにも言われたが、お前が言うからにはやはりそうなのだな! それで、何を頼む!?」

 

 朝から浮かんでいた怒りは何処へやら、すっかり機嫌をよくしたラウラは、二人のオーダーを受け取って短く言葉を交わすと、厨房に行ってから次の席に足を運んだ。

 

 

 

 一方、そんな一夏の目にも触れない厨房の中ではぶつくさと不貞腐れながら鈴が調理器具などに向かい合っていた。

 

「もー! なんで私はこっちなのよ!」

 

 メイド服のまま、軽食から本格的な料理まで、次々と調理する手際は流石の一言。

 そんな鈴の隣で同じくメイド服のセシリアも不貞腐れていた。

 

「本当ですわ、こうなれば……」

 

 そう言うと、セシリアは受け取ったオーダーの中身を見ると、調理器具を勝手に取り出そうとする。

 

「ちょ、アンタなにやってんのよ!?」

「見ればわかります! 見えない場所担当ならば、せめて一夏さんの胃袋を掴んでみせますわ!」

「アンタはオーダー伝達と皿洗い担当でしょうが! て言うか胃袋掴むどころか捻り潰そうとしてるわ!」

「どう言う意味ですの!?」

 

 キーキーと騒ぐ二人。その喧嘩は店長に注意されるまで続いたのだった。

 

 

 

 昼前だからか、店内の客はまだ疎らで人数も少なく手が空いているようで、ラウラと入れ替わるように再びクラスメイトがやって来た。

 

「やあ一夏。箒とのデートは楽しんでるかい?」

「えっ、シャルル? その格好は……」

 

 ドス黒いオーラと笑みを浮かべながらやって来たシャルル。しかしその格好は先のラウラと違い執事の格好だった。

 

「うん、店長さんがこっちの方が良いってね……」

「へー……」

 

 話題が聞こえたのか、セシリアと鈴を注意し終えた件の店長がやって来て、シャルルを褒めちぎる。

 

「だって貴方、そこいらの男なんかよりずっと綺麗で格好いいもの」

 

 店長の絶賛の声に対して、黒い笑みが苦笑に変わるシャルル。店長の言葉に同じく苦笑しつつ、そんな彼女にこれまた一夏は感想を漏らす。

 

「でもたしかに、今のシャルルはカッコいいからな。男の俺でもそう思う」

「そうでしょうそうでしょう!」

「え、そうですか?」

「ああ、最近の素に戻った可愛らしさと違って、前までの格好良さもやっぱ凄いよなって」

「え!? か、可愛っ……! そ、そうかな? ハ、ハハハ……!」

 

 可愛らしさの部分で顔を赤くしながら、シャルルもまた怒りを吹き飛ばして店長と共に席を離れていった。

 

 するとちょうど、一夏と箒の頼んだ料理を運んだ執事服の男が、シャルルと再び入れ替わるようにやって来た。

 執事服の男は二人の席に料理を置きながら、これまた愚痴をこぼすのだった。

 

「ったく、悪かったなそこいらの男でよ」

「せ、戦兎、お前も居たのか……」

 

 腰に手を当て不満げな、唯一の男のクラスメイトの戦兎が心底不満げな表情で注文の品を置き終えて立っていた。

 

「ああ、なんとかボーイで出ていそうとか言って他の面子共々な……」

「そうなのか」

 

 大変だな、と付けてまたも苦笑する一夏。すると朝のメールの件を思い出した一夏は、目の前で何故か無言を貫き震えている箒を尻目にヒソヒソ声で戦兎に確認する。

 

「そういえば、朝の本当に大丈夫だったのか?」

「ああ、倉持の門矢士だろ。知り合いだから問題ねぇよ」

「そうか……なら良いんだが……」

 

 あの異様な空気を纏い、ISをも寄せ付けないとばかりに話した男が本当に知り合いなのかと考える一夏。

 

 そんな彼を見てからチラリと視線を違う方へ向けると、戦兎はわざとらしく咳払いして一言。

 

「あー、それとだな一夏」

「ん、なんだ?」

「正面に気を付けとけ」

「は?」

 

 そう言い残すと、戦兎は早歩きで厨房の方へと去っていく。

 一体何かと首を傾げながら正面を向くと、そこには先ほどのラウラのようなプレッシャーを放つ箒の姿があった。

 

「ほ、箒? お前までどうしたんだ……?」

「一夏……お前と言う奴は……お前と言う奴はぁぁ!」

 

 

 各方面から諭されて、常に冷静にを心掛けていた箒だったが、度重なる他の少女たちの接触や尾行によって徐々にそれらを失いかけていた。

 そして目の前で二人もの少女と惚気たことで、遂に臨界点に達してしまったのだった。

 

 

 何処からか取り出した日本刀型IS兵装の奏を取り出すと、鞘から一気に引き抜いてその切っ先を一夏へと向ける。

 

「一夏! そこに直れ!!」

「うわ、待て待て! ここ店の中だぞ!」

 

 にわかに騒がしくなったテーブルの一角に、周囲に疎らに存在していた客の視線が刺さる。

 そんな様子を気にも止めず、箒は叫ぶ。

 

「後で謝罪する! お前を正してからな!」

「何故そうなる!? そして何を!?」

「私の口に言わせるなあああ!!」

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 ファンファンと音を立てて、レゾナンス近くの道路を何台ものパトカーが横切っていく。その音は、路地裏を走っていた男たちの耳にも届いていた。

 

「クソッ、追い付かれるぞ!」

「問題ない、近くの店に立て籠もればいい!」

「それにいざとなりゃ……」

 

 手にした拳銃を強く握りしめたまま、懐に入れたある物に意識を向ける男の一人。

 

 そうこうしていると、三人の視線の先に程よく広い店があった。

 

「あそこに逃げるぞ!」

 

 事前の打ち合わせ通り、三人の男たちは店に拳銃を構えたまま入り込んで行った……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 店の入り口に付けられた鐘がカランと鳴った直後、バアァンと大きな銃声が店内に鳴り響く。

 

「全員動くんじゃねぇ!」

 

 店内の入り口からやって来た強盗たちは、まず拳銃で威嚇射撃を行なってから銃口を店内へ。

 しかしその視線の先では日本刀を持った少女が少年に今まさに襲いかかろうとしていた直前だった。

 

「……はぁ?」

「……え?」

「な……?」

 

 双方訳がわからないといった表情を浮かべつつ、強盗たちは気を取り直して銃を構える。

 

「う、動くんじゃねぇっつってんだ! 全員手を挙げて出てこい!」

 

 突如として起こったこの状況に、一夏は頭の中で混乱し始める。

 

(今日は一体なんなんだよ……箒と買い物に来たらみんなに追われるし、そのみんながなんでかバイトし始めるし、しかも突然箒はキレるし、挙句店に強盗は入り込んでくるし……!)

 

 少なくとも今迂闊に動くわけにはいかないと、心の中で冷静さを取り戻しつつ強盗たちの様子を用心深く観察する。

 

 

 

 一方裏では、突然の事態に混乱する表の様子を見ながら一年専用機持ち五人が話し込む。

 

「どうする? IS呼出(コール)して、今やっちゃう!?」

「いや、今から突っ込んでも、相手が発砲するかもしれないよ……」

「そうなりゃ、客に流れ弾が当たるかもしれねえな。あまり外でIS起動する訳にもいかねぇし」

「ではやはり、誰かが陽動役になるのが一番ですわね」

「そこは私が行こう。四人は先に行っていてくれ」

 

 すぐさま会話を行い、ラウラが自ら陽動役を引き受ける。

 視線で頷くと、まず四人は大人しく両手を挙げながら裏の方から現れる。ラウラは一人残ると、音を立てぬように注意を払いながら、何やら準備を始めると、遅れて合流した。

 

 

 

 そうこうしているうちに、客や従業員たちが部屋の一角に固まって並べ立てられる。

 

『君たちは既に包囲されている! 大人しく投降しなさい!』

 

 銃声が辺りに響いたためか、店の窓からは何台ものパトカー、更に取り囲むように並んで携帯を向けたりしている野次馬が集まっていた。

 

「人質を解放して欲しかったら、逃走用の車を用意しろ! それから金もだ! ……発信機とか仕込むんじゃねぇぞ!!」

 

 強盗の一人 Aが窓から外へとサブマシンガンを向けながら、警察へと怒鳴り散らす。

 もう一人 Bは店の扉に立ちはだかって人質の脱出を阻み、最後の一人 Cは店の中央で人質に銃を向ける。構えた銃は散弾銃のため、迂闊に動いて発砲させれば誰か一人には確実に当たるだろう。

 

「へへっ、見ろよビビってやがんぜ」

 

 銃を肩に当てながらヘラヘラ笑う強盗Aと他の男たち。

 そんな連中の様子を見てか、一夏に怒りの感情がわき上がっていた。

 

(アイツら、無関係な人を大勢巻き込んでおきながら……!)

(一夏、今は抑えろ)

(ああ、わかってるよ!)

 

 ヒソヒソと小さな声で会話する一夏と箒。そんな二人の様子を見てか、強盗Bが銃口を二人へと真っ直ぐに向ける。

 

「テメェら、何話してやがる!」

 

 銃を構えたままの強盗Bがズカズカと二人の元へと歩み寄ると、近くにいたためか箒の腕を強く掴む。

 

「くっ……!」

「テメェ、汚ねぇ手で箒に触んな!」

 

 強盗Bの勝手極まる態度に思わずキレた一夏が、手を掴んだままの強盗Bへと詰め寄ろうとする。

 

「動くなっつってんだろうが!」

「一夏よせっての!」

 

 強盗Bが箒から手を離しながら銃口を一夏へと向けようとした矢先、横から飛び出した戦兎が一夏の腕を掴んで取り押さえる。

 

「離せよ戦兎! コイツらは——」

(馬鹿! 隙なんか見せるなつってんのよ! 心配しなくてもコイツらはここで取り押さえる。今は落ち着け)

(……悪い)

 

 眉間にシワを寄せつつ、戦兎に諭された一夏は両手を挙げ直して強盗たちから距離をとって他の人質たちの方に下がる。

 

「へっ、お友達の方が利口じゃねぇか……」

 

 やはり撃つのはあまり望まない展開ではあったのか、強盗Bは冷や汗を浮かべつつ後方へ後ずさりしながら下がる。すると外の警察と交渉を行っていた強盗Aが振り返りながら大声で話す。

 

「しかしずっと走ったから喉が渇いたな……オイ、そこのお前!」

(来た……!)

「喉が渇いたから何か飲み物持ってこい!」

 

 強盗Aが厨房の一番近くで立っていたラウラに銃口を向ける。心の中でこのタイミングを待っていたラウラは、特に返事をすることなく厨房に入る。

 

 すぐに引き返してきた彼女の手には、事前においていた物を乗せた盤があった。

 そして取って来たものを、客に突きつけていた強盗B以外のやって来た二人の強盗A、Cたちの前に突きつける。

 

「なんだこりゃ?」

「水だ」

「あん……?」

 

 彼女の言っていることと意図が読み取れずに首をかしげるしか出来ないAとCの前で、ラウラは淡々とした口調で言葉を紡ぐ。

 

「黙って飲め、飲めればな。……アフタヌーン! 酢豚! タマネギ! スクランブルエッグ!」

「あぁ? テメェさっきから何言って……」

 

 意味不明の単語を叫ぶラウラに困惑する強盗AとC。その直後、ラウラはニヤリと笑うと持っていた盤を二人目掛けて放り投げた。

 

 突然のことで対応出来ずにいたAとC。そんな二人の顔面と銃を持った腕目掛けて、ラウラは宙を待っていた氷を弾き飛ばす。

 

「うっ!」

「痛っ!?」

「テメェ何しやがる!」

 

 指に氷が直撃して反応が遅れてしまっていたCが銃を向けて引鉄を引こうとするも、その目前にはメイド服を翻しながら腹部目掛けて蹴りを放つラウラの姿。

 

「フッ!」

「ぐほっ!」

 

 腹部を抑えてよろめくC。更にその背後には、テーブルを飛び越して後頭部目掛けてドロップキックを放つ鈴の姿があった。

 

「今だ酢豚!」

「まっかせなさい……よっ!!」

「オヘァ!?」

 

 後頭部に綺麗に直撃を貰ったCは、銃を取り落として泡を吹いて綺麗にダウンする羽目になった。その図体の上にどかっと鈴が座り、落ちた銃をラウラが蹴り飛ばすことで、Cを制圧したことを示した。

 

「目標」

「制圧完了ね!」

 

 

 

 眼球目掛けて氷を喰らって悶絶していたAは、視界の効かない中で背後を取られないようにバックして入り口の扉を背にすると、人質だった従業員と客たちから十分距離をとって銃を構える。

 

「クソが……調子にのるなよ餓鬼ども!」

「いやアンタが調子に乗んなって話でしょうが」

「あぁ……!?」

 

 人質たちから距離をとっていた自身のすぐ真横から聞こえる声。思わず素っ頓狂な声を上げならその方向へ顔を向けると、いつの間に接近して来ていたのか、戦兎が壁に手をつきながらすぐ目の前で手を振っていた。

 

「おぉわ!? い、いつから居やがった!?」

「いや最初からいたっての」

 

 後退りして距離を取り、戦兎目掛けて銃を向けて引鉄を引く強盗A。

 ババババとサブマシンガンの大きな銃声が鳴り響く中で、しかし弾丸が戦兎を捉えるよりも早く、戦兎の姿が強盗Aの前から搔き消える。

 

「あぁ!? 何処に——」

 

 戦兎の行方を探す強盗の僅かな隙をつき、突然横から叩き込まれたローキックが拳銃を持った腕に命中する。

 

「っダァ!? ふざけやがって……!」

 

 落とした銃に気を取られた瞬間、手に何かを握ったまま跳躍した戦兎の追撃の右足がAの顔面に直撃する。

 

「のぁっ……!?」

 

 男の身体は僅かな時間、重力に逆らって宙を舞ったあと、今度は重力に従って店内の床に叩きつけられた。

 手に握っていた赤い色のボトルを軽く振りながら、戦兎は足元に倒れたAの再起不能を確信する。

 

「ほい、終わりっと」

 

 

 

 突然不意打ちを貰った二人と違い、客観的に見ることのできたBが銃口をラウラへ向けようとする。

 

「「「きゃあああっ!!」」」

 

 銃を構えて発砲しようとする強盗Bの姿を見て、店内に客や従業員の悲鳴が響き渡る。そんな人質に弾が当たらないように彼女たちをなだめつつ立ち回るシャルル。

 しかしそれよりも早く、一発の銃声が悲鳴をかき消して鳴り響く。

 

「あら、手に当たってしまいましたの?」

 

 銃声の先では、ラウラが蹴り飛ばした銃を拾ったセシリアが、Bの持っていた拳銃をピンポイントで狙撃し、銃を取り落とさせる。

 

「がっ……!」

 

 銃を撃たれた衝撃で手を抑えていたB目掛けてシャルルが抑え込もうとするよりも先に、一夏が全速力で駆け出していた。

 

「らぁっ!」

「ぐおっ!? このガキ!」

 

 渾身のタックルを喰らって仰向けに倒れる強盗B。自身の身体に覆いかぶさるように立ちはだかる一夏に、倒れた衝撃で拾い直した銃を向けようとするも、腕に激しい感覚が襲う。

 

「ってぇ!?」

「撃ちたくば撃ってみろ。出来ればの話だがな」

「な……あぁ!?」

 

 見れば散弾銃の銃身が、箒が手にしていた奏によって綺麗に両断されているではないか。

 

「ッざけやがって……!」

 

 自身の上に倒れ込んでいた一夏の首に手を伸ばそうとするも、それよりも早くに一夏の拳が拳がBの顔面に突き刺さる。

 

「ブッ……!」

「これで終わりだ!」

「最終目標、制圧完了だな」

 

 

 

 目の前の相手から視線を外した一夏。視線の先にはそれぞれ各個撃破された強盗たちの姿があった。

 

「よかった、なんとかなったみたいだな」

 

 三人とも制圧。その事実にホッと胸をなでおろす一夏。

 しかし、その油断が取り押さえていた強盗Bにチャンスを与えてしまった。

 

「ふざけんな……こんな餓鬼どもに……! オラァッ!」

「うおっ!?」

 

 火事場の馬鹿力なのか、直前まで伸びていた強盗Bは意識を覚醒させると、自身の身体に乗っていた一夏を乱暴に振りほどく。

 

「待て貴様っ!」

 

 動き始めたことと一夏を傷付けたことでBに詰め寄る箒。しかしBのその手には、セシリアの狙撃によって弾かれて転がっていたAの銃が握られていた。

 

「っ!」

「死ねやぁ!」

 

 Bを追っていた箒が手にしていた奏を振り抜いても間に合わない。無防備なその姿勢のまま、自身に向けられる銃口から弾丸が火を噴いて飛び出す……。

 

「やらせないよ!」

 

 ことは無かった。

 銃を向ける男の腕を、背後から現れたシャルルが掴むと、引鉄を引くよりも早く捻って、一気にテーブル目掛けて投げ飛ばす。

 

「だぁっ!?」

 

 ガシャンとド派手な音を立てて、最後の強盗犯は今度こそ制圧されたのだった……。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 騒然とする店内の床に座り込んでいた一夏。そんな彼に箒が手を伸ばす。

 

「ほら立て一夏」

「ああ悪い……箒、怪我とかないか?」

「ああ。なんの問題もない」

 

 立ち上がりながらそんな会話をする二人。そのすぐ周りで、わざとらしく咳をする四人の少女の姿が。

 

「あ〜……私ちょーっとだけ手を痛めたかもしれませんわ」

「あ、私も私も!」

「え!? 大丈夫かみんな!?」

「うん、大丈夫だよ」

「流石に大袈裟すぎるだろう……」

 

 どうやら冗談だったのだと判断した一夏は、なんだよと言いながら軽く笑い出す。

 

「ったく、心配させるなよ」

「アンタこそどうなのよ。弱っちいくせに一番最初に動いちゃって」

「俺は大丈夫だよ。みんなに怪我とか無くて本当に良かった」

「「「「「い、一夏(さん)……!」」」」」

 

 (事実とはいえ)自分のことを一番に心配してくれているのだと勝手に判断した五人の少女がそれぞれ想い想いの反応を始める。

 そんな少女たちの反応を冷ややかな目で見ながら、入り口近くで立っていた戦兎もやって来る。

 

「ま、今回はお前が勝手に動こうとした点が一番ヒヤヒヤしたんだけどな」

「うっ……それは返す言葉もないな」

 

 一夏の横に立つなり、後頭部をバシッと手刀で叩く戦兎。

 カッとなって敵に立ち向かった自身の行動を、仕方ないとはいえ少し迂闊だったと反省する一夏。

 

 そんな先程までの緊迫とした空気と一転して和気藹々とした会話を繰り広げていた一年専用機持ちたちの耳に、客の声が入る。

 

「ありがとう、メイドさん! 執事さん!」

「助かったわ!」

 

 歓声、そして感謝の嵐。

 

(……仮面騎士(アイツ)もいつも、こんな感じなのかな……?)

 

 それが欲しかった訳ではないが、悪い気はしないなと。そうしてなんとも言えない感覚に包まれていた一夏の耳に、今度はまた違った声が響く。

 

「男風情が調子に乗って!」

「私たち女に銃を向けて、ただで済むと思ってんの!?」

 

 見れば歓声あげる客たちの背後からはまた別の客が、倒れ込んでいた強盗たちに思い思いの罵声を浴びせかけていた。

 

「そうよそうよ!」

「このクズ!」

 

 三人揃って縛られていた強盗に、客の一人が水の入ったグラスを投げつける。

 

「ちょ、ちょっと! いくら銃を撃ったからって、なにもそこまでしなくても……!」

「いいのよ。君みたいな子はともかく、男なんてみんな野蛮で下等な生き物なんだから!」

 

 人質という立場から解放されたことで緊張が解けたことによる反動か、次々と客たちから声が響く。

 

 宥めようとする一夏に対して反論する客たち。そんな彼女たちの姿を見て、一夏や戦兎は思わずしかめ面を浮かべてしまっていた。

 

「なんなんだよ……」

「これがこの世界に出来た格差ってことだな。ま、命の危険に晒されたんだからキレるのは分からなくねぇけど」

 

 そうしていると、耐え切れなくなったのか強盗の一人が立ち上がる。その手にはいつの間にかナイフが握られており、自身を縛っていた縄を切っていたのが見て取れた。

 

「五月蝿ぇ! 黙って聞いてりゃなぁ、ISにも乗ったこともねぇ女共が調子に乗りやがって!」

「ハァ!? 女なんだから当たり前でしょ!? 寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ!」

「「そうよそうよ!!」」

 

 男に詰め寄ろうとする客たちと、縄を解いた強盗の一人を再び抑えようとする学園一同。

 

 しかし、その行動は男が手に持った物を取り出したことで止められる。

 

「務所に送られるくらいなら……こうなりゃ全部ぶっ壊してやるよ!」

 

 そう言いながら男が懐から取り出したのは、イバラの様なものが巻きついたデザインの、丸みを帯びたボトルだった。

 

 さらに男は他の仲間の分も切っていたのか、他の二人も立ち上がって同じくボトルを構えていた。

 

「アレは……?」

「! 馬鹿、よせっ!!」

 

 何度かボトルを目にしたことはあったが、男たちの持っていたのは見たことのない形状だった。それ故に一夏はそれがなんなのか気付けなかった。

 一方、戦兎はそれがなんなのかすぐに気付いたらしく、男たちがキャップの部分を回した頃には周りに集まっていた客や止めようとした何人かを退けながら走り出す。

 

「がっ……グアァァ!?」

 

 しかしそれは既に遅く。

 一斉にボトルを逆さにして自分に浴びせかけていた男たち。しばらく苦しむと、その身体に黒い煙のようなものがまとわりつく。

 

「なに? なんなの……?」

「今度はなにする気なのよ!?」

 

 一体なにが起こったのか理解できず、自分たちの目の前で滞留する煙から下がって離れる客たち。

 

「一体どうなってるんだよ!」

「遅かったか……来るぞ、全員伏せろ!」

「戦兎……? 何が来るってんだよ……!?」

「良いから構えてろ!」

 

 一夏たちもなにが起こるのかと身構える中、戦兎だけは理解して人質を床に伏せさせると、いつでも動けるように懐に手を伸ばして臨戦態勢をとる。

 

 そんな戦兎が叫び終えるか否か、滞留していた煙が晴れて、中から強盗たちが……否、強盗たちだった何かがその姿を現した。

 

『……!!』

 

「え、何アレ!?」

「アレって未確認生命体ってやつじゃないの!?」

「どうしてあんな強盗共が変化するのよ!?」

 

 姿を見せた三体の未確認生命体……スマッシュ。

 

 一体目は深い青のカラーに飛行機のような翼、巨大なエンジンを取り付けた形状

 二体目は茶色のボディに巨大な羽、六本の腕に巨大な一本角を携えた形状

 そして三体目は眩い金色に包まれた、四角い延べ棒のような角を隆起させつつ、しかし流動的なボディを持った形状

 

 その三体が、一様に唸り声をあげる。

 

「な、なんだ突然!?」

「あの小さなボトル状の何かを振りかけただけだぞ!?」

 

 戦兎に促されて戦闘態勢を整えていた専用機持ちたちも一様に驚きを隠せないでいた。

 

 そんな彼らの様子を気にも止めず、スマッシュの内の一体、青いスマッシュがエンジンを点火すると、周囲一帯に衝撃波が発生する。

 

「「キャアアア!!」」

 

 あまりの圧に客たちの悲鳴と窓ガラスが砕け散る音が響き渡る。スマッシュと相対していた全員が思わず顔を腕で覆う。

 

「! マズイぞ、ヤツら恐らく……!」

 

 衝撃波の中でそう叫ぶラウラ。そして彼女の予感は的中した。

 視線の先で青いスマッシュがエンジンから火を放って、茶色のスマッシュが羽を羽ばたかせながら、そして黄金のスマッシュはどうやってか手を伸ばして適当なものを掴んで引き寄せる形で、それぞれが各々の方法で店内から外の世界へと飛び出して行ったのだった……




 偶発的に誕生したベリアロクさんが色んな作品世界に転生して、その世界で斬りたい物を斬っては面白おかしく過ごして、また違う世界に旅立って行く『異世界ベリアロク』なんて作品思いついた。書く予定は無い

 コードネームは「劇場版ウルトラマンRB セレクト!絆のクリスタル」のファルコン1ネタをやりたいがために入れました。映画をリアルタイムで観た際にやりたいと思い、公開されてから実に一年半……やっと出来ました。

 シャルルの没コードネームのバルチャーもアニゴジ観て考えてました。最近になって考えていたなら恋柱になってた可能性も微レ存……?
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