ドイツ軍との交渉は無事に終わった。
最初は難色を示していたので第3世代型の試作システムを提供したらアッサリと掌を返してきた。
ただ、成功例は渡せないと言ってきたのでソイツには人間としての尊厳を配慮するように言っておいた。
既に軍部でも有名なようで、姉さんに鍛えられているせいかメキメキと実力を上げているようだ。
姉さんが来る前は部隊でも最弱のお荷物扱いでイジメまで起きていたのが、今では嘘のように周りを統率しているらしい。
研究所に残っていたのは35人だけだった。100体近く生産されていたはずなのにこれだけしか残っていないのには理由があった。
別にドイツ軍の新薬のモルモットになったわけでも廃棄したわけでもない。
原因は"ヤツラ"だ。
((亡国企業|ファントムタスク))と名乗るテロリスト集団。
そこの諜報員が上の命令で研究所のシステムを改竄した。研究所内の研究者達は必死にシステムを復旧させた。
だが、間に合わなかった。残ったのが35体。たったこれだけしか残らなかった。
軍部でもこの計画は非人道的という見解があったのか永久凍結しようという意見が出ていたので俺の来訪は渡りに船だった。
だが、ただでやるわけにも行かなかった。国民の血税が浪費されているのだ。それに見合う対価が俺に払えないのなら軍部も断るつもりだったのだろうが、俺から齎されたのは期待以上のものだった。
成功例とこないだ束姉に送ったのと合わせても37人。
37人救えたことを喜ぶことは出来なかった。既に100人近くの犠牲が出ていることを知っているからだ。
俺がすることはこの35人を日常生活が送れるようにして幸せな人生を謳歌させてやること。
ただ、それを行うには難題がいくつも立ち塞がっている。
金銭に関しては貯金もある。株で儲けた分もある。IS関係の特許もある。
それらを合計すれば楽に養ってやれる。ただ問題があるとすれば彼女達の気持ちだろう。
彼女達がそれを受け入れるか、受け入れないかはわからんが俺は俺に出来ることをしよう。
あ、でもこの子達用にIS作ってやらないと…
研究所内では既に軍部からの通達があったのか慌ただしかった。
最奥まで行くと先客がいた。一人は知っているがもう一人は知らない。
知っている方は姉さんだった。世界最強の名を欲しいままにした人類最強に君臨し続ける者。
知らない方は恐らく件の成功例だろう。銀髪の少女が姉さんの隣にいた。
「千冬、何をしているんですか?」
アリサちゃんは俺の気持ちとか一切無視して姉さんに話しかける。
「アリサか。コイツの妹が誰に引き取られるか見に来たのだが、まさか私の関係者だったとはな…」
久々に姉さんから睨まれる。やべえ。股間が縮み上がった。
気不味いというよりも、怖いので姉さんから目を逸らす。
その選択をした俺の頭に姉さんの拳骨が降りてくる。してはいけない音が室内に響く。
俺は声もなくその場に頭を抑えて蹲る。
成功例は軽く悲鳴を上げて俺に同情の視線を向けてくる。
その視線はこう言っていた。
『泣かなかっただけマシだよ…』と…
泣きたくても泣けない。姉さんの威力により泣くという概念すら吹き飛んだ。そこに残されたのはただの痛み。
痛覚を刺激し、衝撃を残し更にはその衝撃で痛覚を更に刺激するという技。
声を出す余裕なんてない。今俺は全身全霊で痛みに耐えることを選択した。そしてその選択により他の行動は行えない。
既に頭の中には痛みに耐えることしかなかった。
さっきまで考えていた35人のことは頭から吹き飛んでいた。
アリサちゃんがIS学園で言っていた悩みは姉さんの一撃で文字通りに吹き飛んでいた。
「なまじ頭がいいだけに無駄なことを考える。それがコイツのダメなところだ」
「はぁ。私まで悩んでいたのが馬鹿らしくなってきました」
「四季はコイツ等をどうするつもりだ?」
「救うとしか聞いていませんし、本人に直接聞いてください」
蹲った俺を見下して二人はため息をつく。いや、やめて。これ俺のせいじゃないよ?
アリサちゃん、ドン引き扱いしないで。流石に泣くよ?
そして成功例よ。アタフタするな。
やっと痛みが引いた。まさか30分も続くとは思わなかった。
「教官の全力から30分で立ち上がっただと!?馬鹿な…」
おい成功例、姉さんが睨んでんぞ…
「それで四季、どうするつもりだ?」
「そりゃ勿論キチンとした人生を送れるように…」
「こいつらには自分の出生が一生付きまとわるぞ?その時点でキチンとした人生なんて送れん」
「わかってる。いや、わかったつもりになってるだけかもしれないけど、考えはある」
「言ってみろ」
え?いや、言ったら怒られるんだろうな…
「俺の研究所の職員に…」
姉さんとアリサちゃんから視線が刺さる。二人は俺と長年の付き合いがあるから疑われて当然だった。
「何を作った?」
「まさか前みたいにブラックホールなんて起きませんよね?」
二人の発言に成功例が俺に視線を向ける。
『嘘だよな?教官達で私をからかってるんだよな?』と、言わんばかりの視線だ。
というかまってくれよ。
アレは俺のせいじゃないって。
束姉が強行しただけで周囲の人的被害もなかったから大丈夫だったし。
太平洋の上空500mの地点を中心に半径1kmが空間ごと消滅した程度だし…
せっかく設計した俺のブラックホールエンジンはそれで消滅したんだぞ?
しかも束姉のせいなのになんで俺のせいになってんだよ?
「ちょっと待って。アレは束姉が…」
「残骸から織斑四季謹製と彫られた合金が回収された」
「しかもハワイに来ていた旅行者が黒い穴が出現したのを見物していたそうですよ?」
「ぐっ…」
た、確かにアノ時は俺も束姉も変なテンションで特に何をするわけでもなく実験を強行したけど…
そっかー、どうりでアメリカから苦情が来てたわけだ…
それならコアの件も考えても良かったな。でも、俺の作るコアって不具合があるし人を選ぶからなぁ…
やっぱなし。
「大丈夫だって。今回のは戦艦が海に潜って完全ステルス迷彩でIS工場だから」
「どこの霧の艦隊ですか…」
え、ダメですかねアリサちゃん?
「はぁ、この愚弟が…」
あ、やっぱりダメですか?
というか、アリサちゃんアルペジオ知ってたんだな。そこに驚いたわ。
だが、大丈夫だって。あの戦艦は俺の新規設計だし。大和型でも長門型でも金剛型でも扶桑型でもない。
完全新型の戦艦。名前はまだない。どうしようか迷ってるんだよね。
いっそのこと伊吹でいっかな。
成功例はポカーンと黙ってしまった。いや、口を開けてるんだけどね…
既に名無しの潜水戦艦はIS学園の近海に待機してるんだけどね。
しかも何を隠そう俺が設計した『自立行動型機動兵装』はあそこにある。
しかも武装なんて防御面でしか効果を発揮できないように絶対防御を基にしたバリアシステムとか撃ち落とし用のミサイルとかそのへんだし。
というか会社として既に登録してあるしね。
調べれば普通に出てくるぞ。住所はキチンとステルス潜水戦艦ってやったから。
もしかしたら代表の欄に俺の名前書いたからスルーされたか…
まあ。戦艦という名のナニカになっちまったけどな…
折りたたみ式の飛行甲板はあるから空母としての側面もあるし、魚雷発射管もあるから雷撃戦もできるし…
アレだな、もう『戦艦』じゃなくて『超ド級重雷装航空潜水戦艦』だな。どこのレ級だっつぅの…
「大丈夫だって。ちゃんと調整槽も用意してあるし、今のままだとこいつ等20まで生きられないぜ?」
アレ?まるで昔の俺みたいな状況じゃね?う~ん…
なんか引っかかるけどいいか。
「昔の自分みたいだから今度は自分が助ける番だ。とか思ってませんよね?」
「うん?そういえばそんな感じだな。まったく考えてなかった」
そっか。俺は自分と重ねてたのか?ダメだ、わからん。けど、もしかしたらそういうことなのかもしれない。
まあ、どのみち俺がこいつらを助けることに変わりはない。こいつらがどんな未来を選択するにせよ俺はその未来を否定することはないだろう。
とりあえず被害を出すのは亡国企業という万能説。
そして意味のわからないテンションでブラックホールを起こすのはいつものこと。
アルペジオなんて多分目じゃないくらいになりそうな戦艦登場。
多分空も飛べる。てか、飛ばす。
35人のラウラ姉達。主な仕事は四季の機体整備になりそう。
そんなことはさておき、皆様方
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これもご愛読してくださっている皆様方のお陰です。
もしよろしければこれからもこの駄文にお付き合い戴ければと思います。
本当にありがとうございます。