僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の管理者

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最近リアルが忙しくてしょももです。
気楽に生きられる世の中にならないかなーって思います。


第14話 ─オールマイト─

(氷結…轟少年の"個性"か!)

 

轟焦凍。"個性"半冷半熱。

半身で炎を、もう半身で冷気を操ることの出来る"個性"。

規模、威力ともに生徒の中で最高クラス。雄英高校推薦枠のうちの一人だ。

彼はオールマイトを拘束している脳無の腕や足を、オールマイトを凍らせないようギリギリのところをうまく調節しつつ凍結させた。

 

(おかげで手が緩んだ!)

 

その隙にオールマイトは脱出。再びヒーローと敵は面と向かいあった。

黒いモヤの敵は爆豪に拘束されている。敵に逃げ場はない。

爆豪は考えていた。このワープの男になにか弱点がないかと。

ふと、思い出したことがあった。

爆豪と切島が彼に攻撃を加えようとした時、彼は"危ない危ない…"と呟いたのだ。

つまり、全身物理無効の"個性"ではない。

そして、みつけた。彼の、攻撃の当たる部分を。

ワープゲートで全身を覆っているだけで、無敵ではなかった。

その部分を攻撃し、拘束したのだ。

動けば爆破する。ヒーローらしくはないがその一手で敵の逃げ道を絶った。

さらに轟の凍結によって脳無は行動不能。オールマイトに対する対抗策を失った。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷…すごいなぁ最近の子どもは。恥ずかしくなってくるぜ敵連合…!」

 

狼狽えることもなく、主犯格らしい男はそう言った。

彼にとって絶望的な状況なのにも関わらず、だ。

理由は、すぐにわかった。

 

「脳無…爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」

 

瞬間、脳無は凍って動かせないはずが、凍った手足を砕きながら無理矢理立ち上がる。

"個性"はショック吸収のはずだ、とオールマイトは驚きながら言った。

 

「別にそれだけとは言ってないだろう?これは超再生だな。」

 

"個性"は通常、一人一つしか持てない。2つの"個性"が混ざりあって1つになることがあっても、2つ以上を所有するというのは普通、ありえないのだ。

どういう経緯で"個性"を複数もつに至ったかは不明だが、なんにせよ、脳無はオールマイトの100%の力に耐えられるよう改造された超高性能のサンドバック人間ということになる。

完全な、アンチオールマイトだった。

その脳無は主犯格らしい男の指示で動き始める。

爆豪に一瞬で肉薄したのだ。

 

(速い!!)

 

爆豪はその動きを全く捉えられていなかった。

オールマイトは素早く行動。爆豪を助け、代わりに自分が脳無の攻撃を受けた。

 

「ゴホッ ゲホッ…加減を知らんのか…」

 

あのオールマイトですら、大きなダメージを受ける一撃。

まともに受けては普通の人間なら無事では済まない。

 

「仲間を助けるためなんだ、仕方がないだろう?」

 

先程の、緑谷が蛙吹のために殴りかかったことと同じことをしただけだと言う。

誰がために振るう暴力は美談になる。

 

「そうだろ?ヒーロー?」

 

そのまま、彼は続ける。

 

「俺はな、オールマイト!怒ってるんだ!」

 

同じ暴力が敵とヒーローでカテゴライズされ、善し悪しが決まる、そんな世の中に。

何が平和の象徴。所詮、抑圧のための暴力装置に過ぎないのだ、オールマイトは。

故に、暴力は暴力しか生まないのだと、彼を殺して世に知らしめるのだ、と。

まるでなにかの演説のように続けた。

しかし、オールマイトは見抜いていた。

 

「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の目は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろう、嘘吐きめ」

「バレるの…早…」

 

ニヤ、と不気味に彼は笑う。

しかし、この状況。3対5。明らかに敵側が不利なのは確実。

脳無というとんでもないやつが居るが、力を合わせれば、オールマイトのサポートをすれば必ず勝てる。

生徒達はそう思っていた。

しかし。

 

「ダメだ、逃げなさい」

 

先程、1度窮地に立たされたからだろう、生徒達はオールマイトを心配する声を投げかける。

緑谷はオールマイトの事情を知ってるが故に、制限時間のことも含めてさらに心配だった。

たった少しでも援護を、サポートをやらせてくれ。そんな意味も含まれていたのだろう。

しかしそれをオールマイトは一蹴。

 

「大丈夫だ!プロの本気を見ていなさい!!」

 

そういって、力強く握り拳を作った。

 

(たしかに動ける時間は残り数分も持たない…!力の衰えは思ったより早い!しかしやらねばなるまい!!)

 

脳無はオールマイトへ。黒いモヤの敵と主犯格らしい男は生徒達へ、駆け出した。

やるしかない。切島達はそう思った。

しかし。

 

(なぜなら私は──)

 

たった一つのことで脳無以外の動きは止まった。

 

(平和の象徴なのだから!!!)

 

覚悟、決意、使命感。そういった物だろうか。

オールマイトがそう思いながらぐっと体に力を込める。

瞬間、周囲に威圧感を放った。

敵はそれに恐怖を覚えて動きを止めた。脳無以外は。

脳無はオールマイトに殴り掛かる。

オールマイトも拳をそれに合わせて殴った。

拳と拳のぶつかり合い。ショック吸収の"個性"をもっている脳無だが、この時はオールマイトと互角に見えた。

ぶつかりあった衝撃が、周囲に放たれる。

 

「ショック吸収ってさっき自分で言ってたじゃないか…」

 

主犯格らしい男と黒いモヤの敵はその衝撃に一旦後方へと戻る。

 

「そうだな!」

 

しかし、オールマイトは攻撃を続ける。脳無もまた然り。

その速度は異様。真正面からの殴り合いだった。

目にも留まらぬ速さの殴り合い、1発1発が衝撃を周囲に放つ。

誰一人として、近づけるものはいなかった。

オールマイトは考えていた。

無効ではなく吸収ならば、限度があるのではないかと。

100%を耐えるならば、さらにその上からねじ伏せよう。と。

脳無の攻撃に加え、自身の制限時間のこともあって血を吐きながらも殴り合いを続ける。

1発1発が全て、100%以上の力を出していた。

 

「ヒーローとは!常にピンチをぶち壊していくもの!!」

 

だんだんと、脳無は押され始めていた。

 

「敵よ!こんな言葉を知っているか!!?」

 

一瞬、脳無が怯んだ。その瞬間を逃さず、オールマイトは懐へと入り込む。右の拳を、大きく構えながら。

 

「Plus(さらに)──」

 

100%を超えた全力。その拳を脳無の体にぶち込み、ねじ込んだ。

 

「Ultra(向こうへ)!!!」

 

拳を振り抜いた瞬間、音を置き去りにするほどの速さで脳無は吹き飛ばされる。

施設の天井を貫いて、遥か彼方へと吹き飛ばされて行った。

100%を超えた力でのラッシュであたかもショック吸収をなかったかのように吸収の限度を超えさせた。

そのデタラメな力は、超再生すらも追いつかなかった。

これがトップ。これがプロの世界である。

 

「やはり衰えた。全盛期なら5発で十分だったのに…300発以上も打ち込んでしまった」

 

そして、彼にも時間切れは迫る。

 

「さてと…お互い決着を急ぎたいね」

「チートが…!!」

 

初めて、主犯格の男が気圧され、怯んだ瞬間だった。

 

「衰えた?嘘だろ…全ッ然弱ってないじゃないか!!"あいつ"…俺に嘘を教えたのか!?」

 

彼が言うあいつの存在は何かは不明だが、それに対しての怒りを表すかのように首筋をガリガリと掻きながらそう言った。

 

「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言っていたが…出来るものならしてみろよ!!」

 

オールマイトは鋭い眼光で敵2人を睨む。敵は恐れていた。

しかし、オールマイトも虚勢を言っているに過ぎなかった。

オールマイトはトゥルーフォーム、つまり骸骨のように痩せ細った姿に戻る時、水蒸気のようなものを発生させながら戻る。

土煙に紛れて、それはオールマイト体から少しずつ、出ていた。

それに気づいているのは、本人と緑谷だけだが。

 

(脳無とやらが強すぎた…ぶっちゃけもう戦えるほどの力は残っていない!あと少し…迷え!あと少しでも時間を稼ぐことが出来れば!!)

 

自身の今の姿、平和の象徴としての姿を維持するためには動くことが出来ないという所まで疲弊していた。

オールマイトの判断は、威圧し、時間を稼いで増援を待つことだった。

 

「脳無さえ…あいつさえいれば!!」

「落ち着いてください、死柄木 弔」

 

黒いモヤの敵は、彼の名前を呼んで落ち着かせようと話を続ける。

よく見れば脳無が与えたダメージは着実に現れている。

子供らは棒立ち、あと数分のうちに増援も来てしまう。

しかし、2人で連携すればまだ殺れるチャンスはある、と。

 

「うん…うんうん…そうだな…そうだよ、そうだ。やるっきゃないぜ…目の前にラスボスが居るんだもんな…」

 

死柄木と呼ばれた主犯格の男は、そう呟きながら落ち着きを取り戻す。

 

「なにより…脳無の仇だ」

 

そういって、敵2人はオールマイトに駆け出す。

生徒達はほぼ皆、オールマイトの勝利を確信していた。

しかし、オールマイトに戦う力はもう残されていない。

緑谷だけはそれに気がついていた。

彼だけが知る、英雄のピンチ。助けよう、と足を踏み込もうとしたその時だった。

 

「見つけたぞ!!」

 

突然響いた声。それが、その場にいた全員に届いた。敵たちは一瞬、足を止めた。

皆は声の方へと目を向ける。

そこには、香月の姿が。彼は死柄木らに向かって走っていた。

 

(香月少年か!)

 

オールマイトは、増援なら喜ばしいが彼は生徒。

どうにかして彼も守らなければ、しかし動けない、どうする、と思考を巡らせる。

 

「まぁいいや、まずはこっちだ」

 

そういって敵ら再びオールマイトに駆け出そうとした。

香月と彼ら距離は遠く、いくら香月が速いと言っても、彼らが攻撃を加えることと、香月が彼らの眼前に迫ることを比べれば、前者が早い。

 

「オールマイトから…離れろ!!!」

 

緑谷だった。オールマイトを救うべく、飛び出したのだ。

"個性"を発動し、高速で敵2人へと肉薄したのだ。

代わりに、足は折れてしまったが。

しかし、思いとともに、彼の体は敵2人へ届いた。

 

「2度目はありませんよ!!」

 

そういいつつ黒いモヤの男はワープゲートを開いた。

死柄木の手が、ワープゲートを通じて緑谷の顔へと近づく。

 

「逃さん」

 

その時、香月が走ってきていた方向から光が輝くような音がしたかと思えばいつの間にか、敵らの近くにはそれが接近していた。レーザーである。

黒いモヤの敵はそれを別方向へワープさせて回避、さらに緑谷への警戒を継続。

死柄木は緑谷がワープによって眼前から消えた時、オールマイトにどう攻撃するかと彼に目を向けていた。

 

「逃さんと言っている」

 

声の元は敵の真横。敵が彼から少し目を離した隙に、瞬時に接近していた。

敵2人はそれに気づくも、攻撃を回避できる時間はなかった。

なぜなら、緑谷へと意識が向けられていたからだ。

黒いモヤの敵を右手で殴り飛ばし、その後左手を勢いよく死柄木の方へ向けたかと思えば衝撃波が発生、死柄木を吹き飛ばした。

 

「死柄木 弔!」

「いってぇ…くっそ…なんだよあいつ…」

 

反対方向へ吹き飛ばされた黒いモヤの敵は死柄木の元へとワープをし、声をかける。

黒いモヤの敵は攻撃をガード出来たのだろう、ダメージはありつつも大きなダメージはなかった。

しかし死柄木は、まともにダメージを受け、吹き飛ばされた。

緑谷は、というと。攻撃が当たらず、また、当てられなかったことにより、香月の足元へと落下。足が折れているせいが動けないでいた。

 

「誰も、殺させはしない。」

 

そう言いながら敵2人を見据えた香月。

 

「死柄木 弔。あの男は…」

「リストにあった奴か…!」

 

ガリガリと首を掻きつつ厄介そうな表情をしながらそういった。

 

「香月くん!先生達でも苦戦したんだ、1人じゃ…」

「安心しろ、俺がやる」

 

敵から目を離さず、香月は言った。

香月はただの1人の生徒でしかない。プロヒーローですら不覚を取らせた相手。

普通に見れば明らかに力量不足だ。

緑谷には守ると言って前に立つ香月の背中が、何故か死に急いでいるように見えた。

 

「邪魔だ、さっさとあのガキ殺ってオールマイトを殺そう!」

 

そう言いながら敵2人は香月に向かって走っていく。

 

「死ぬつもりでかかってこい!」

 

そう言うと同時に、香月の体からは毒々しい色の瘴気が発生した。それと同時に香月も走り出す。

接近し、格闘戦になるかと思われた。しかし、香月は途中で両腕は敵らに向け、毒々しい瘴気を一気に放った。

 

「弱者に死を」

 

ニヤリと笑いながら彼はそういう。笑う彼の口の端からも毒々しい瘴気が漏れていた。

その様を見ていた緑谷は思った。彼は、本当に彼なのか、と。

言動が変か、と言ってもまだ共にした期間が長い訳では無いが故に判断材料にはなり得ない。

"個性"が違うからか、とも思ったが彼の"個性"はまだ見えない部分が多く、このような手を隠していたと考えることも出来る。だから確定したことは言えない。

つまり、なにが、という訳では無いのだ。

ただ、雰囲気だろうか。なんとなく、彼が敵のそれに見えてしまったのだ。

 

「知っていますよ、それのことは」

 

敵たちは香月の背後へとワープしながらそう告げる。

 

「確かに猛毒、しかし…それは貴方自身も蝕む。」

「強いけど…どうということは無いね」

 

2人で後ろから彼へと襲いかかる。

 

「そうか」

 

動じず、彼はそう呟く。

 

「では危険だと分かっていたなら何故近づいた?」

 

敵たちは毒霧のない背後から、彼が振り返るよりも早く攻撃を仕掛けるつもりだった。

しかし、突然、下から強烈な衝撃が発生した。

 

─弱者に死を─

 

香月がそういった時、なんらかの攻撃を既に仕掛けていたのだ。

ワープして避ければどうということは無い。

しかしそれは攻撃が来るとわかっていればの話、突然の攻撃には弱いと香月は考えたのだ。

それは正解なのか2人は上へと吹き飛ばされる。

しかし黒いモヤの敵とてただ攻撃を受けるだけではない。

咄嗟に2人に襲いかかる衝撃をできる限り逃がし、ダメージを抑えた。

その後、ワープして香月から距離をとる。

 

「ぐっ…ゴホッ…」

 

口を抑え、液体の含んだ咳をした後、それを拭った。

拭ったそれが血であることがオールマイトと緑谷にはわかった。

そして、ぐっ、と力を溜めるような動作をする。

なにか危険を察知した黒いモヤの敵は死柄木と自分の前にワープゲートを開いた。

 

「そこかァ!!」

 

何かを掌底で攻撃をするように腕を伸ばすと、掌から紅いビームのようなものが放たれ、それは一直線に敵の元へと伸びていく。

黒いモヤの敵の判断は、正しかった。

紅いビームのようなものはワープゲートの中に吸い込まれ、真逆に返される。

香月に、当たるかと思われた。

 

「ただ撃つだけでは当たらんか」

 

香月はいとも簡単に裏拳で紅いビームのようなものを弾いた。

それは一直線に斜め上後方へと飛んでいき、施設の天井を貫いた。

その後、死柄木は香月の元へと走る。それと同時に黒いモヤの男は香月の後ろへワープ。

香月は挟まれた。

 

「全開だァ!!」

 

バッ、と両手を大きく広げると同時に周囲に赤い衝撃波が発生、2人にダメージを与えつつ吹き飛ばす。

吹き飛ばした方向は真逆。分断することが出来た。

 

「お前…調子に乗りすぎだ…!!」

 

体勢を立て直した死柄木と黒いモヤの敵。黒いモヤの敵は死柄木の元へとワープ、撃破するべく2人は香月に攻撃を加えようとした。

 

「ん?」

 

香月は余所見をした。敵たちが何を余所見している、と思ったその時だった。

虚空を殴るように裏拳を放つ。ガキィン、という音と共に何かが弾かれた。

それと同時に、敵2人に攻撃が降り注いだ。

その攻撃は弾丸だった。

 

「ごめんよ、遅くなったね」

 

飛んできた先はこの施設の入口。

 

「来たか!!」

 

増援が、来たのだ。弾丸を飛ばしたのも、教師をしているヒーローの"個性"によるものだろう。

 

「1-Aクラス委員長飯田天哉!!ただ今戻りました!!」

 

数多くのヒーローを引き連れて、飯田天哉は戻ってきた。

形勢は一気に雄英高校側へと傾いた。

 

「あーあ…来ちゃったか…ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧」

「…はい」

 

黒いモヤの敵は黒霧、という名前らしい。2人は残念そうに、そう言った。

そしてワープゲートを使って帰ろうとしたその時だった。

 

「ぐっ!!」

 

いくつも降り注ぐ弾丸。そして2人の体はどこかへと引っ張られていた。

気絶していた13号が意識を取り戻し、2人を捕らえようと"個性"を発動していたのだ。

しかしながら、黒霧も自身と間近にいる死柄木の2人くらいならその程度の弊害があってもワープゲートを使用することが出来る。

ワープゲートを開き、撤退しようとしていた。

 

「今回は失敗だったけど…」

 

死柄木が、オールマイトへ向けて呟く。

 

「次は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」

 

その言葉を残して、2人は姿を消した。痕跡も残さず、この場から逃げたのだ。

途端に静かになるこの場。残っているのはオールマイトと緑谷、そして香月。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

香月は胸を抑え、何かに耐えるような表情をしながら、苦しそうに荒い呼吸をしていた。

増援に来たヒーローは毒々しい瘴気を見て、彼を敵かと勘違いし、オールマイトの前の香月を撃とうとした。

 

「撃つな!彼は生徒だ!!」

 

他でもない、オールマイトがそう言った。

言葉が届いたのだろう、増援に来たヒーローは撃つのをやめた。

おそらく目の前にいるのが香月でなく、敵だったとしてもオールマイトはそうした。

目の前の香月が、たとえ敵でも、もう戦う力が残されていないことを分かっていたからだ。

だんだんと彼の体を覆う毒々しい瘴気が、晴れてきていた。

 

「…くそっ……」

 

それを言い終わった瞬間、全ての瘴気が虚空へと霧散。

彼は再び口から血を吐き、地面に血溜まりを作る。

 

「香月君!血が…!!」

 

彼がこのような姿で戦った理由は定かではない。

しかし結果として、彼は大きな代償を払いつつも敵を退けた。

オールマイトと緑谷は彼になにか声をかけようとした。しかしその時、彼の体はふっ、と地に落ちた。

なぜ、彼がこんな姿でここにいるかは分からなかったが、敵たちが消えたことに緑谷は少し安心した。

それと同時に、悔しさが、彼を襲う。

 

「…何も…出来なかった…!」

 

プロが相手にしているもの。世界。それは緑谷達にはまだ、早すぎる経験だった。

 

「そんなことは無いさ」

 

緑谷の言葉に、オールマイトは返答した。

緑谷は顔をあげ、オールマイトを見つめる。

 

「あの数秒がなければ、私はやられていたかもしれない」

 

緑谷に意識が向けられなければ、香月の攻撃は不発に終わり、オールマイトに攻撃が当たっていたかもしれない。

しかし、緑谷が現れることで敵たちは意識を逸らした。

 

「"また"、助けられちゃったな」

 

半分、トゥルーフォームに戻ってしまっているオールマイトは緑谷の方を向き、感謝を伝える。

その言葉に、どば、と涙を流す緑谷。

 

「無事で…良かったです…!」

 

この襲撃は後に起こる大事件の始まりだということは、この時の緑谷達には知る由もなかった───




相も変わらず自由に書いてます。
誤字脱字感想質問など待ってます。

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