僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮) 作:楽園の主
倍率が最高倍率を誇る入試に一人の男が現れた。
世界総人口の約8割が超常能力"個性"を持つ超人社会。
"個性"を悪用する者達を
それを警察や、常人が取り締まれることはほぼない。
取り締まることが出来ないからだ。圧倒的な力の差で。
しかしながら、取り締まることが出来る者達がいる。
彼らもまた、"個性"を発揮する。それは、一般市民には許されていない。
資格を得ることで"個性"を発揮し、敵を取り締まることを許された者達がいる。
ヒーロー。それが彼らの総称だ。
これは、敵を打ち砕かんとし、ヒーローを目指す者達の物語である─────
*
雄英高校ヒーロー科の受験。筆記試験は終わり、次は実技試験。
仮想敵というロボを倒し、ポイントを稼ぐといった単純な試験だ。
しかしながら、身体能力と"個性"の使い方をしっかり理解した上で、ことに当たらなければならない。
敵の種類は1ポイント、2ポイント、3ポイントと、0ポイントの4種。
1ポイントで地道に稼ぐもよし、3ポイントで大きく狙うもよし。
もちろん、ポイントが高ければ高いほど強くなるわけだが。
0ポイントは、お邪魔キャラ。倒してもポイントにならない。
そこへ来るは彼。
長袖上下の黒ジャージに薄手の黒い手袋。靴は白いハイカットを履いていた。
髪型はオールバックを途中で諦めさせたようなツンツンだが、顔の左側だけ前髪が垂れており、片目にかかっていた。
目付きは鋭く、緊張からか眉間にシワが寄ってることからかなり見た目は近寄り難いものだ。
(どれだけ稼げるかな)
彼はそう心の中でつぶやき、スタートを待つ。
雄英高校ヒーロー科は最難関であり、最高峰だ。ヒーローを目指すものはここを目指す。
定員わずか40数名という座席を狙って数多くの生徒が筆記で、実技で戦う。
彼は多少なり緊張していた。筆記で上手くいっても実技の点数が芳しくなくては不合格になるからだ。
そんな彼の耳にふと、ある言葉が入る。
「あいつ校門前でコケそうになってたやつだよな」
「注意されて畏縮しちゃったやつ」
「少なくとも1人はライバル減ったんじゃね?」
そんなことを皆が言う。一体、言われた本人はどんなやつなのか。
彼は皆の目線の先を確認する。それは自分の近くの男に向けられていた。
ふと、そちらをみるとガチガチに緊張している男が。
地味なジャージに地味な風貌、冴えない見た目をした彼。
おおよそここでは勝ち残っていけなさそうな雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫か?」
ドン、と背中を叩きながら話しかける。
「えっ?あっ!?」
「周りの声なんぞ気にしなくていいぞ、あんなもの戯言だ」
「え、あ、うん…ありがt」
彼が言い切る前に、実技試験の司会役であるプレゼント・マイクの声が響く。
はいスタートー、と言った声だ。
「お互い頑張ろう」
それだけ彼に伝えて、香月は出撃した。しかし、周りの者の大半は動かない。
なぜならば、カウントダウンもなく、声を張り上げることもないスタート、だったからだ。
突然過ぎて、皆は動けていなかったのだ。そんな中、彼を含めた数人は先にスタートし始めた。
(入口付近で戦い続けることではなく中心地に向かいながら戦う。状況を見て仮想敵の多そうな方向に行くか)
そんなことを考えていると、1ポイントの敵が数機現れる。
それを確認すると近づくことなく腕をぐっと構えた後、腕を勢いよくそちらへ伸ばす。
瞬間、彼の手から赤いレーザーのようなものが発射。仮想敵は破砕され、行動不能になる。
これが彼の"個性"なのだろうか?
破壊しては走り、破壊しては走り、を繰り返す。
ある標的はレーザーに貫通され、ある標的は物理攻撃によって凹み、と。様々な跡を残して進んでいく。
積極的に狙っているのは1ポイントの敵。
2ポイントや3ポイントは競争率が高く、1ポイントはまばらとはいえ残りやすく、狙われにくいからだ。
コツコツと1ポイントずつ稼ぐ。これも、戦略の一つ。
「あそこにもいるな」
また一つ、ガラン、という音を立てて仮想敵は破壊される。
事実はわからないが、どうやら遠距離攻撃が可能な"個性"ではあるようだ。
身体能力は強化されているようで高く、さらに長いレンジをもつ遠距離攻撃で辺りを一掃していく。
「おぅあっ!」
上体を逸らして回避行動をとる香月。何かが飛んできたからだ。
その正体はなにかボクサーのグローブのようなものであった。
飛ばされたであろう場所を見ると、そこには3ポイント仮想敵がいた。
再びなにかされる前に討つ、と言わんばかりに攻撃を繰り出す。
なにかを蹴りあげるかのように蹴りを放つと、足先から先ほどよりも細いレーザーが高速で射出され、3ポイント仮想敵の肩を貫通して破砕し、腕を落とす。
しかし、落とした腕部機構は遠距離攻撃を放ったあとの腕。
3ポイント仮想敵は香月から狙いを変え、近くに居る人にずい、とその拳を向けた。
(この位置じゃ間に合わないか…?)
肩を砕こうと"個性"を放ったところで、恐らくそれが為されるのは攻撃を放ったあとだ。
そのあとさらにそこにいる人を守るためにもう一撃、なんてことはおそらく出来ない。
3ポイント仮想敵を討つか、そこにいる人を守るか。
その二択で、どちらかしかおそらく取れないだろう。
「…ちッ」
その選択肢の中、彼は近くの人を守ることを選んだ。
瞬間、3ポイント仮想敵は拳を放つ。
それに気付いたのか、狙われている者はそちらへ目線を向ける。
されど、その者は動けないでいた。
当たる直前、終月は飛来する拳と彼の間に割って入り、少し跳ねながら大きくアッパーカットを行う。
さながら昇竜拳のように放たれたそれは同時に放った衝撃波とともに飛来する拳にヒット。
砕き割りながら上空へ飛ばし、誰もいない場所に落ちた。
その後、3ポイント仮想敵の方をちら、と見るが既に誰かに破壊された後であった。
「大丈夫か?」
狙われた人の方を見る。するとそこにいたのは、開始前に出会った彼。
足が震えており、何故か涙目であった。
「…って、君はさっきの…」
そこまで声を発したところで、近くでズゥン…という音がする。
まるで、不吉な何かが近寄る音。
それはまさに正解で、超巨大な、ビルほどの大きさの仮想敵が現れる。
スケールがでかい。ただそれだけだとしても脅威である。
さらに、その仮想敵は0ポイント。
倒せたとしても倒す意味もない。ただの時間消費になる。
それをみた人間の行動なんて一様に、逃げることだ。
蜘蛛の子を散らすように逃げる皆。
それと同じように、彼も先ほどの人と共に逃げようとした。
しかし、彼らの歩みは止まった。なぜ、歩みを止めたか。
「いったぁ…」
一人の女性が巨大な仮想敵の足元でこけており、逃げ遅れていたからだ。
香月は考えていた。どうするか、と。
巨大な仮想敵を倒すか、女性を助けるか。
女性を助ける、を選んだ場合。
彼女がただそこでこけているだけならば抱えて走って戻ってこればいい。
しかし、もし瓦礫に足を取られていたら?
その瓦礫を撤去する時間もいる。
倒すことを選んだ場合。
壊したところで破片などが真下に落ちられては倒れている彼女に当たりかねない。
つまり、後ろに倒れこませるぐらいしかないかもしれないのだ。
そして、それらの選択肢には時間が必要だ。残り時間も迫っている中、他人を気にしてポイント稼ぎを逃す訳にはいかない。
天秤にかける。助けるか、放置か。
仕方がない、その後はなんとかするとして、まずは仮想敵を破壊しよう。
そう思ってなにか行動を起こそうとした時、隣にいる彼は既に動き出していた。
「おっ!?」
自分が立っていた場所から跳び上がり、巨大な仮想敵の眼前にまで迫っていたのだ。
そして───
ーSmash!!!ー
彼はその腕を巨大な仮想敵の頭部へと叩き込む。
直後、頭部のみならず、首部、肩部の上部をバラバラに打ち砕いたのだ。
巨大な仮想敵が後ろへと倒れ込んでいく。砕いた破片をガラガラと音を立てて落としながら。
破片が、真下に落ちていくということは下で倒れていた女性も危険かもしれない。
そう考えた直後、香月は動いた。
「邪魔だ!消えちまいな!!」
彼が両腕を前に突き出したかと思えば、黄緑色に薄く光る小さなエネルギーの塊のような物が大量に発生して瓦礫の方へと発射され、破片に当たった。
それによって落下してきた破片は破砕されて道の端に吹っ飛んで人の被害を抑える。
ある程度破片を処理し終えた頃、巨大な仮想敵は後ろに倒れて辺りに風を起こした。
起こる砂埃が顔に当たることを腕で防ぎ、風が収まった頃、上を見上げると自由落下している彼の姿。
(着地のこと考えてなかったか!!)
どう助けようか。そう考えているうちに彼は着々も地に近づいていく。
とりあえず、"個性"で落下の勢いを削いで下でキャッチするしかない。地面に当たるよりはマシかもしれない。
そう思い、走って彼の真下へと向かう。
真下につき、真上を見上げて彼を待つ。しかし、彼が香月の元に落ちることは無かった。
なぜならば、落下中、急に彼の落下が止まったからだ。
ふわふわ、と彼は浮いている。
「……?」
「か、解除…」
そんな声が聞こえるとともに再び彼は落下を始める。
高度は1フロア分ぐらいの高さもなく、このまま落ちても怪我もしないで済むかもしれない。
しかし、香月はもしもの事を考えて彼をキャッチした。
そして床へゆったりと寝かせるように下ろす。
立たせようとした。が、それは叶わなかった。
両足とも骨がバキバキに折れており、おおよそ立てるような状態ではなかったからだ。
「……本当に大丈夫か?君…」
「ゔゔゔぅぅぅうう…せめて…!!せめて1ポイントだけでも!!!」
彼は、そう叫びながら片腕で地を這いずる。
香月は、思った。彼は、全くポイントを稼いでいないのか、と。
彼の思いも虚しく、非情にも実技試験終了の放送がなった。
試験官の、終了、という大きな声だった。途端、彼の意識は無くなり、倒れ伏す。
彼を心配して、彼を見つつ救護班を待つ香月。
彼は、ポイントを稼いで合格することと彼女を助けることを天秤にかけ、迷うこともなく助けることを選んだのだ。
(すごいな、君は…)
ごく単純に、香月はそう思った。称賛できることではある、と。
しばらく待つと、白衣を着た高齢な女性がやってきた。
彼女はリカバリーガール。雄英高校の保険医でありこの受験の屋台骨と言える人だ。
"個性"は治癒。人間の治癒能力を限界まで高めることが出来る。
普通の傷や骨折もたちまち治してしまうのだ。
そこに倒れ伏す彼に対して、治療を施す。
方法は簡単。リカバリーガールがチュウをするだけ。
それだけで見る見るうちに回復していった。
しかし、治癒をさせるのにチュウをするというのはシャレなのだろうか?
「君は?」
「……怪我してないので大丈夫です」
彼は治療を拒否し、試験会場の出口へ向かう。
試験が終わったので、ほかの皆も出口へと続々と向かっていく。
皆は話し合っていた。何ポイント稼げた、とか、自信はあるか、とか。
会場で出会った人とか、元からの友人とかと。
しかし彼はその間誰かに話しかけられることは無い。
彼が通う中学からは彼しか受験していなかったからだ。
1人でスタスタと歩いて出口の門をくぐる。
彼が向かうのは更衣室、ではなかった。試験官たちがいる場所へと向かっていた。
何故か。抗議するためだ。
「失礼します」
「おぉ、どうした?試験は終わったぜ?なにか落し物でもしたか?」
プレゼント・マイクがそこにいた。
彼は試験が終わったあと、生徒が来たので落とし物でもあったのかと思ってそう、香月に話した。
しかし、もちろん落とし物の用でここへ来た訳では無い。
「先生方は、実技試験をモニターで見ておりましたか?」
その言葉に先生方は、もちろんだ、と答える。採点のために録画もしているらしい。
ならば、と香月はいった。地味な少年のことについて。
彼はおそらくポイントを1ポイントも稼いでいない。
しかし、巨大な仮想敵から逃げ遅れていた女子を救うために自らの身を省みず、ポイントを稼ぐ時間も捨てて助けた。
にも関わらず彼の行動を評価せず、ポイントを与えないというのはヒーローを育成する学科として間違いなのではないか。
評価してあげてはくれないだろうか、出来ないならば自分のポイントを少しでも分けられないだろうか、と。そう伝えた。
言われてみればそうである。ヒーローを育成する学科であるなら人助けもポイントに含めるべきなのかもしれない。
「ははぁん、そういうことなら大丈夫だぜ?男子リスナー!ここだけの話、実はそう言ったことはレスキューポイントとして採点に含むんだからな!」
そう、実はこの実技試験。仮想敵を行動不能にしたポイントだけでなく、人助けや戦闘補助なども採点があるのだ。
雄英の先生方が直々に見ながら評価するのだという。
つまり、彼にもポイントが入るかもしれない、ということだ。
それを聞いてなんとなく安心した香月は、先生方に礼を告げてそこから退室し、更衣室へ向かった。
更衣室へ入るとまだ、半分ほどの生徒が着替えているところだった。
(…受かってるかねぇ)
そんなことを考えながら着替え、家まで歩いて帰る。
彼の家は雄英高校から特に交通機関も必要とせず、歩いて15分ほどのところにある。
そこにある一軒家に彼は一人暮らしをしているのである。
数日後、合格発表の日。手紙のようなものが届いた。
リビングの机の上で手紙を開くと、中には円盤状の機械が出てきた。
大きさは直径10cm程だ。それをコト、と机に置くとその上に映像が投影された。
《私が投影された!!》
そこにはオールマイトが映っていた。
オールマイト。この日本に存在するヒーローのNo.1であり、平和の象徴だ。
人気も計り知れないほど高く、謎に満ちたヒーロー。
《君は…合格だ!!》
「ッしゃあ!!」
そのヒーローが、彼に対して合格を告げる。
その後、クラスや制服と教科書の受け取り日、入学式の日などを伝えた。
香月は嬉しい気持ちを抑えながら、真面目に聞いてメモしていく。
《伝えることは伝えた!さぁ来いよ、君の学校へ!
そこまで言って、映像は途切れた。ここから、憧れた高校生活が始まる。
この雄英高校でどんなことが起きるのだろうか───
矛盾してるとか言わないでください。泣きます。