僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

21 / 37
今回はあまり彼は出ません。悪しからず。

2021.6/20 加筆修正
尾白、本選出場。それに伴ってトーナメント戦の組み合わせ変更


第20話 ─本戦─

「超久しぶり!10年前の対談以来かな!?」

 

オールマイトはそう、目の前の男に話しかける。

No.2ヒーローエンデヴァー。彼の名である。

エンデヴァーの体は大きく、マッスルフォームのオールマイトにも引けを取らない。

また、エンデヴァーは自身の力や威厳を見せるために常に上半身や目の周り、髭などから炎を発している。

その風貌も相まって、ヒーローだが、怖いという印象を与えることもある。

大男二人が、対面する。周囲に人はいない。

 

「見かけたから挨拶をと思ってね」

 

HAHAHA、と笑いながら彼に話しかけるオールマイト。

 

「そうか。なら用は済んだだろう、去れ」

 

そう言って、オールマイトが話しかけたことによって振り向かれた体をくるりと戻し、再び歩きはじめる。

茶など冗談じゃない、と言わんばかりに。

 

「つれないこと言うなよー!!」

 

オールマイトはその彼を飛び越え、これまたHAHAHAと笑いながら彼の前にダン、と着地して立った。

オールマイトのお茶をしようというのは本当である。

聞きたいことがあったからだ。

 

「君の息子さん、焦凍少年。力の半分も使わずに素晴らしい成績だ。教育がいいのかな?」

「…何が言いたい」

 

オールマイトの言葉に、苛立った風に返すエンデヴァー。

彼の炎が、ボボッ、と感情を表すかのように少し強まった。

 

「いや、マジで聞きたくてさ。時代を育てるハウツーってのをさ」

 

本題はこれである。オールマイトは今までNO.1ヒーローとして前線で戦ってきた存在。

教師としては素人である。緑谷をワンフォーオールの継承者として育てていくには教育の経験が少なすぎた。

彼にもっと良い教育をするためには、自分より優れた教育者に聞くしかない。

もちろんほかの先生でもいいのだが、No.2ヒーローであり、さらに好成績を残した息子を持つ彼ならばいい意見を聴けるのでは、と考えた。

故に、この機会を逃さないために、直接こう出たのである。

 

「…?貴様に俺が教えると思うのか?」

 

しかし、玉砕。エンデヴァーは心底疑問そうにそう答えた。

 

「…相変わらずそのあっけらかんとした態度が癪に障る」

 

前に立つオールマイトをドン、と押しのけて通りつつそう言う。

 

「ごめん…」

 

しゅん、という擬音が似合いそうな雰囲気でオールマイトは謝った。

 

「これだけは覚えておけ…」

 

そう言いながら、エンデヴァーは自らの炎をさらに猛々しく燃え盛らせる。

 

「いずれ貴様をも超えるヒーローにする。そうするべく……作った仔だ」

 

その様に、オールマイトはゾク、と少し悪寒を感じた。

 

「今はくだらん反抗期だが…必ず超えるぞ…超えさせる…!!!」

 

ギロリ、とオールマイトを睨みつつそういった後、立ち去って行った。

オールマイトはそれを追うことはなく、二人の邂逅はこれだけで終わった───

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

「あの…話って…何?」

 

喧騒は遠く、2人はそこにいた。

緑谷を睨む轟。爆豪とは違い、冷たい威圧感。

その様に、緑谷はゴクリと唾を飲んだ。

 

「気圧された。…自分の誓約を破っちまうくらい程によ」

 

使えば有利な場面でも使わなかった左側の、炎のことである。

緑谷としても、使わないことは知っていた。理由は、知らなかったが。

 

「飯田も、八百万も、上鳴も…言月も麗日も…感じてなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された」

 

彼だけが気圧された理由。確定することは出来ないはずだが、彼にはわかっていた。

USJの事件時に、本気のオールマイトを身近で体験した彼だけ、気圧されたのだ。

 

「お前に同様の何かを感じたってことだ」

 

NO.1ヒーローのオールマイト。彼と同じ何かを轟は感じていた。

 

「なぁ…お前、オールマイトの隠し子かなにかか?」

 

この体育祭が始まる前。お前、オールマイトに目をかけられてるよな?と話しかけたのはこれが理由である。

轟はあれがオールマイトに目をかけられていることは勘づいていたし、それとなくなにか関係があるのではと思っていたのだ。

 

「違うよそれは…って言っても本当にそれ…隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないだろうけどそんなんじゃなくて…」

 

違うと示すように手を振りながら焦りつつもブツブツとそう返す緑谷。

全くその通りである。

もし隠し子だと言うことが真であったとしてもそれを是と返すわけは無い。

 

「そもそもその…逆に聞くけど…なんで僕なんかにそんな…」

 

一瞬の沈黙。轟は少し顎を引いて緑谷を睨みつつ、真剣に話を進める。

 

「そんなんじゃなくてって言い方は少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな」

 

鋭く勘を働かせ、そういう。

轟はふぅ、とひとつ息を吐いた。

 

「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ」

 

先程別の場所でオールマイトと邂逅を果たした彼である。

 

「お前がNO.1ヒーローの何かを持っているなら俺は…尚更お前には勝たなきゃいけねぇ」

 

エンデヴァーは極めて上昇志向の強い男だ。

ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せた。しかし、オールマイトという平和の象徴には届かなかった。

 

「生ける伝説、オールマイトが目障りで仕方ねぇんだろうな」

 

彼は自分ではオールマイトを超えられないと思った。

だから、次の策に出たというのだ。

 

「何の話だよ轟くん…僕に…何が言いたいんだ…」

 

話は聞くし、わかるが理由が見えない。それを伝えて何が言いたいのかも。

 

「個性婚。知ってるよな?」

 

個性婚。それは人類に"個性"が発現するという超常が起きてから第二、第三世代間で問題になった社会現象だ。

自分の"個性"をより強く強化して継がせるためだけに配偶者を選び、結婚を強いる。

倫理観の欠落した前時代的発想だ。

エンデヴァーには実績と金はある。

彼は轟の母の親族を丸め込み、彼女の"個性"を手に入れた。

 

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった」

 

嫌なことを思い出しているからだろう、彼の表情は険しい。

 

「鬱陶しい…!そんな屑の道具になんか俺はならねぇ」

 

彼の記憶の中の母はいつも泣いていた。

彼の母は、轟の左側がエンデヴァーに見えて憎いと、彼女は轟に煮え湯を浴びせた。

彼の顔の左側にある火傷の跡は、それだった。

過去をざっと話したが彼が緑谷に突っかかる理由は彼の親父であるエンデヴァーを見返すためだ。

彼の"個性"がなくても。いや。

 

「使わず"1番になる"ことで…やつを完全否定する」

 

言葉を強め、彼はそう言った。

あまりに違う世界の話で、緑谷は驚いていた。

目指す場所が同じでも、こうも違うのか、と。

 

「言えねぇなら別にいい。お前がオールマイトのなんであろうと俺は右だけでお前の上へ行く。時間取らせたな」

 

そう言って彼は立ち去ろうと歩き始めた。

物語ならば主人公。それだけの背景だった。

 

「僕は…ずっと助けられてきた」

 

事件の時に、オールマイトに助けてもらった。

無個性だった自分に、オールマイトは"個性"を継承してくれた。

"個性"が突然出た自分を母親は手放しで応援してくれた。

受験の時、実技で1ポイントも稼げなかった自分に、ポイントを分けてくれないかと言月と麗日が言ってくれたことを知った。

USJのところで、ヒーローやクラスメイトに助けられた。

 

「誰かに救けられてここにいる」

 

笑って人を助ける最高のヒーロー、オールマイト。

彼のように、緑谷はなりたかった。

その為には1番になるくらい強くならなきゃいけない。

轟にとっては些細な動機かもしれない、と彼は思った。

 

「でも、僕だって負けらんない」

 

緑谷を、救けてくれた人達のために、応えるためにも。

 

「さっき受けた、宣戦布告。改めて僕からも」

 

ぐっ、と強く握り拳を作りながら彼は轟に宣言した。

 

「僕も、君に勝つ!」

 

会話は、そこで終わった。2人は立ち去る。

通ろうとして話を密かに聞いていた、爆豪を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩終了。最終種目発表の前にプレゼントマイクから皆に通達があった。

予選を落ちたからと言ってこれから出番がないかと言われればそうではない。

これはあくまで体育祭。ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意されているのである。

本場アメリカからチアガールも呼んで盛り上げにさらに磨きがかかる。

 

「ん?アリャ?」

「なーにやってんだ……?」

 

そんな中、1つの集団が実況席にいるプレゼントマイクとイレイザーヘッドの2人が気付いた。

 

「どーしたA組!!?どんなサービスだそりゃ!!?」

 

プレゼントマイクが驚愕の声を上げる。何故か。

ヒーロー科A組女子が皆、チアガールの格好をしていたからだ。

とても短いスカートに、おへそが出てしまうほど短い服。服の胸元には2文字、UAと書かれていた。雄英と掛けている2文字だ。

そんな服をどうして用意できたかと言うと八百万が"個性"で創り出したからなのだが。

 

「峰田さん上鳴さん!騙しましたわね!?」

 

事は数時間前。昼休みのことである───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八百万、耳郎」

「?何か用ですか?」

 

昼休憩、お昼ご飯を求めて皆は食堂に集う。

そんな中、上鳴は彼女らに話しかけた。峰田を、傍らに。

 

「や、クラス委員だから知ってると思うけどよ…午後はああやって応援合戦しなきゃ行けねぇんだってよ」

 

アメリカからきたであろうチアガールたちを指さし、峰田が至極真面目に、冷静にそういう。

 

「え、ええっ…!?」

「そんなイベント、聞いてませんけれど…」

 

驚愕する耳郎に疑問に思いつつ思い出そうとする八百万。

それに追撃を峰田は仕掛けた。

 

「信じねぇのは勝手だけどよ…"相澤先生"からの言伝だからな。」

「俺も聞いたぜ。忘れてるかもしれねぇから教えといてやれってさ」

 

相澤先生から。その言葉で2人は疑いから一気に信じる方向へとシフトする。

耳郎と八百万は流石の2人もここまで用意周到な嘘をつくとは思っていないのだろう。

 

「わかりましたわ!ありがとうございます。峰田さん、上鳴さん」

 

そう言って、八百万はチアガールの服装を見て同じような服を7つ作る。

そしてクラスの女子を集めてそれを配る。

概要を伝えると聞いた先が峰田と上鳴が故に疑う者もいたが、八百万が信じるならとそれを皆は手にとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」

 

がっくり、と項垂れる八百万の背をどんよりとした顔で撫でる麗日。

クラス女子の雰囲気は最悪である。

 

「アホだろあいつら…」

 

耳郎は手にしていたポンポンを2つとも投げ、地面に叩きつけた。

 

「まぁ本戦まで時間空くし、張り詰めててもシンドイしさー」

 

そう発言したのは葉隠だ。

 

「いいんじゃない!?やったろ!!」

「え、えぇ!?」

 

そういって手にしたぽんぽんをブンブンと振り回し始めた。

ここまで来てしまったのなら、どうせなら応援するというわけだ。

耳郎はそれに驚愕しながら、頬を少し染めていた。

さてレクリエーションが始まるか、と思われたがその前に騎馬戦を勝ち残った者達が争う競技が発表された。

 

「進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式!!1対1のガチバトルだ!!」

 

例年から最終種目は1対1と決まっていた。昨年はスポーツチャンバラをしたらしい。

今回は本気で"個性"をぶつけ合って戦う。昨年よりも本気度が違うのはUSJに敵が襲撃してきたことも関係あるのだろうか。

最終種目に進んだ者達の中には毎年テレビで見ていた場に今回は自分が立つのかと燃えていたり、喜んだりしている者もいた。

まずはそのトーナメントの組を決めるくじ引きをすることに。

それを終えたらレクリエーションを挟んで最終種目は開始となる。

また、レクリエーションに関して最終種目進出者16名に参加義務はなく、個人の判断に委ねられる。

最終種目に向かうにあたって準備や息抜き、精神統一など個人の時間が欲しい人もいるだろうと考えての判断だ。

そしてさぁ、くじ引きだ、となったその時。

一人の男が手を挙げた。

 

「あの…!すいません…僕、辞退します」

 

その言葉に、B組の大半に衝撃が走る。そう言ったのが庄田だったからだ。

皆は騒然とする。せっかくプロに見てもらえる場だと言うのに、なぜか。

 

「騎馬戦の記憶、終盤ギリギリまでほぼぼんやりとしか記憶が無いんだ。…多分、奴の"個性"で…」

 

奴、というのは騎馬戦の味方、騎手をしていた心操人使のことである。

庄田自身、ここがチャンスの場だとは分かっている。

それをフイにすることが愚かなことだということも。

でも。

 

「皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな…こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて…僕は出来ない…」

 

皆は気にしすぎだ、という。勝負は時の運とも言うし、ここで結果が出ていなくても本戦で結果を出せばいいとも言える。

しかし。それは彼のプライドが許さないのだという。

本戦に行きたい気持ちはもちろんあるのだろう、悔しそうにそう言った。

 

「それに、実力如何以前に、何もしていない者が上がるのはこの体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

なにか妙なことになって来たな、と観客がざわめく。

 

「そういう話はさァ…好・み!!庄田の棄権を認めます!」

(((((((好みで決めた…!!)))))))

 

2人が棄権したことで枠がふたつ空いてしまった。

繰り上がるのは5位の拳藤チーム。しかし。

 

「そういう話で来るんなら…ほぼ動けなかった私達よりあれだよな?…な?」

 

彼女はほかの仲間達にも確認をとった。

ほかの仲間も、うんうんと頷いている。

 

「最後まで頑張って上位キープした鉄哲チームじゃね?馴れ合いとかじゃなく、フツーに、さ。」

 

その言葉に、鉄哲は泣いて感謝した。

そのチーム内の話し合いにより鉄哲と塩崎が本戦に繰り上がって16名。

1人ずつくじを引き、組が決まった。

 

緑谷VS心操

轟VS瀬呂

芦戸VS上鳴

飯田VS発目

 

尾白VS香月

鉄哲VS切島

常闇VS八百万

麗日VS爆豪

 

各々の初戦はこれ。そして、ここからトーナメントとなる。

緑谷は、宣戦布告してきた男のことを思い出す。

もし、自分が勝って轟も勝ったら、もう。

 

「でも、その前に…心操って確か…」

 

ふと、その男を探そうとしたその時だった。

 

「あんただよな?緑谷出久って」

 

緑谷の背後からスッ、と現れて彼は言った。心操人使である。

彼を目の前で見た瞬間、体育祭前に宣戦布告してきた時のことを思い出した。

大胆不敵なことを言っていた、その人が戦う相手。

挨拶くらいはしようと緑谷は思った。

 

「よモッ」

「緑谷!!」

 

よろしく、と言おうとしたその時、尾白が尻尾で緑谷の口を塞いだ。

 

「奴に答えるな」

「?」

 

ところは変わり、轟。

 

(意外と早かったな…)

 

対戦のトーナメント表を見ながらそう思う。

轟も、父親を見返すために彼に勝たなければならない。

 

(来いよ緑谷、この手で倒してやる)

 

決意を胸にした。

 

「…麗日?」

(ヒィィー!!)

 

爆豪が相手の名前を呟く。

麗日は初戦からラスボスに出会ったかのような絶望を胸に心の中で絶叫していた。

 

「飯田ってあなたですか?」

「ん?いかにも、俺は飯田だ」

「あぁよかった!実はですね──」

 

発目は飯田に話しかけていた。目を輝かせながら。

「よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!!」

 

レクリエーションが始まった。

 

「まずは借り物競争だァ!」

 

皆は一斉に駆ける。A組で参加した者たちは、地に置かれたカードを拾い、確認。

 

「誰かカバン貸して貰えませんかー!」

「おーぅ持ってけ!!」

「ありがとうございまーす!」

 

瀬呂はカバンと表示されていたので観客席へと協力を依頼。

気のいい人が了承しながらカバンを持ち上げた。それへと"個性"のテープをのばし、貼り付け、引き寄せて受け取った。

 

「ネコー!猫をお願いしますー!」

「おー!それなら私でも大丈夫かなー!?」

「あ、ありがとうございます多分大丈夫っす!!」

 

砂藤のお題はネコ。観客席からネコの"個性"を持っているのであろう、猫耳とシッポの生えた一般の方が手を振りながら前へとやって来ていた。

 

「教科、教科書!?これ一般のところにいないだろうしな、どうすっかな…」

「経営科ならあるんじゃないか?」

「お、それだ!!ありがとな香月!」

「はは、なに構わんさ、いけ!」

 

上鳴のお題は教科書。こんな場所に教科書を持ってくる者などそういない。さてどうしようかと悩んでいると後ろから香月が現れ、そう助言した。

経営科はここでは誰をどう売り込むかなど、勘を養う場としている。

つまり、学ぶ場だ。ならば教科書を持ってる人もいるんじゃないか?という考えだ。

上鳴はそれを聞いて経営科の方へと走る。

 

「む、無理だろ…」

「…強いて言うなら食堂に行ってランチラッシュさんに聞いてこい」

「た、確かに現実的だな…ありがとな、いってくるぜ」

 

峰田のカードには背脂、とかかれていた。

香月のアドバイスを元に半ば諦め気分で小走りで向かっていった。

ちなみに香月はというと。

2人にアドバイスをしたあと既にゴールへと向かっていた。

 

「これでいいだろうか」

 

カードのお題は"かなづち"。

それゆえが身の丈ほどもある長さの柄をした巨大なハンマーを取り出し、お題のものを確認する人に見せた。

入学した日にした"個性"判断テストの時、取り出したあれだった。

 

「そ、それはかなづちとはさすがに言わないんじゃないか…?」

 

その時、香月の目が光る。

 

「ではかなづちは英語では?」

「ハ、ハンマー、だな」

「これは?」

「ハンマー…」

「ということは?」

「合っている…?」

「よし!」

 

おそらく想定されたものでは無いが言葉上あってるから問題ないということを伝え、なんとか〇を貰っていた。

そんなA組の様子を見ていたこの男は。

 

「やだねぇ、レクリエーションだと言うのに本気になって」

 

B組、物間寧人である。スタジアムの壁に背をもたれかけ、カードをヒラヒラと振っていた。

 

「ほんっとA組の連中は空気が読めないというかなんというか」

 

はーあ、困った困った。と言ったような雰囲気でわざとらしく彼は呟いた。

 

「物間!」

「ん?」

 

そこへ来たのは同クラスの拳藤一佳。

 

「やる気ないなら一緒に来て!」

「どうして?」

 

不思議そうに問う彼にカードを見せる。

そこには"ひねくれ者"と書かれていた。

拳藤はそうした後、両の拳を巨大化させ、物間を掴んで連れていく。

 

「っははは!拳藤、選ぶ相手を間違ってないかい?」

「大丈夫、合ってる!」

 

そんな借り物競争の一部始終。その後は玉転がしがあったりなんなり。

さて、始まる前に楽しめ、と言われたものの。本戦に至った者は違う。

選手控え室で、相手の"個性"を聞いて対策を練る者。

補給をして、戦いに備える者。

外に出て1人になり、精神統一する者。

応援に徹することで、緊張を解きほぐそうとする者。

それぞれの思いを胸に、各々の時間を過ごしていた。

そして、あっという間に時は来る。

 

「ヘイガイズアァユゥレディ!?」

 

本戦ステージが完成したところでプレゼントマイクはそう放送する。

本戦ステージはセメントス先生の"個性"で作り上げた。

セメントス先生の"個性"はコンクリートを自在に操ること。

スタジアム中央に大きな四角形で2段になったステージが形成されており、上に登るための階段がついていた。

下段ステージ四隅には巨大な燭台が作られており、炎が猛る。

上段ステージには白線が引かれており、そこで戦うようである。

 

「色々やって来ましたが!結局これだぜガチンコ勝負!頼れるのは己のみ!!ヒーローでなくてもそんな場ばっかりだ!分かるよな!心·技·体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!!」

 

第1戦目で戦う緑谷はステージへ至る前のゲートの前で1つ深呼吸をする。

その時、Hey、と声をかけながらオールマイトが現れた。

 

「遅れたけど…ワンフォーオール、掴んできたな!」

「オールマイト…いや、でも…」

 

掴んできたな、という言葉に緑谷は食い下がる。

彼はまだ不安だった。

例の敵に打った時のイメージを、電子レンジに当てはめて頭に浮かべてはいる。

しかし、まだ気を抜くと今にも崩れそうな危うい感じだった。

 

「それに、見て頂いた通りなんですが、今の僕じゃ、成功しても少しパワーが上がったくらいにしかならない。」

 

騎馬戦で轟のガードを剥がした時に"個性"を使ったが、風圧で腕を払うことくらいしか出来なかった。

もしあれが100%の力で出来ていれば恐らく、騎馬ごと吹き飛ばす程の風圧が発生していただろう。

 

「うむ、以前話した0か100かの出力でいえば、今の君の体で出せているのは5くらいだね」

「5…」

 

まだ、本来の力の20分の1しか出せていなかった。

 

「そう言われると本当僕って…皆と運に恵まれたって感じですね…」

 

自分の無力さを感じでしゅん、と暗くなりながらそういう。

 

「そこは"こなくそ頑張るぞー"でいいんだナンセンスプリンスめ!君の目指すヒーロー像はそんな儚げな顔か!?」

 

スタタァン、と彼の肩と喉を軽くチョップしながらそう言う。

運動部で、気合を入れる時に背中を叩くのと似たものだろう。

 

「いいかい?怖い時こそ、不安な時にこそ。笑っちまって挑むんだ!ここまで来たんだ、虚勢でもいい!胸張っとけ!私が見込んだってこと、忘れるな!」

 

ムキ、とマッスルフォームになりながら彼はサムズアップしてそう言う。

オールマイトは、笑う。戦う時も、救ける時も。

救けを待つもの達はそれで安心できる。

救ける側が不安な顔をしていては、皆の心を守れないからだ。

そのオールマイトから笑えという言葉を受けた。

緑谷は勇気づけられ、ステージへ向かう。

 

「1回戦!!」

 

そして、相手と対峙した。

 

「成績の割になんだその顔!ヒーロー科 緑谷出久!!

 

VS!

 

ごめんまだ目立つ活躍無し!普通科 心操人使!!」

 

対戦カードの紹介が行われる。

この戦いのルールは簡単だ。ステージには白線が引いており、そこよりも外に出て足をつくと場外で負けとなる。

また、相手を行動不能にしたり、「まいった」と言わせても勝利になる。

怪我はリカバリーガールの治癒があるため気にする必要は無いという。

しかしもちろん命に関わることはアウト。

ヒーローは敵を捕まえるために力を振るうからだ。

 

「まいった、か。」

 

心操人使は、呟いた。

 

「わかるかい緑谷出久。これは心の強さを問われる戦い…強く想う"未来(ビジョン)"があるならなり振り構ってちゃダメなんだ…」

 

続けて言う。彼の思いだろうか。

 

「それじゃあ早速始めようか!レディィィイ!!」

 

プレゼントマイクの声が響く。しかし彼の言葉は止まらない。

 

「あいつはプライドがどうとか言ってたけどチャンスをドブに捨てるなんてバカだとは思わないか?」

 

あいつというのは庄田二連撃のことである。名前や"個性"からそう言ったのだろう。

 

「START!!」

 

プレゼントマイクの開始の合図。

その瞬間、緑谷は怒りを言葉にしながら駆け出した。

 

「なんて事を言うんだ!!!」

 

瞬間、走り出した彼の足は止まる。

 

「…俺の、勝ちだ」

 

心操人使は、1歩も動かず、勝利を確信した。

依然、緑谷は動かない。

 

「おいおいどうした大事な初戦だ盛り上げてくれよ!?」

 

プレゼントマイクの実況が入る。

 

「ああもう!せっかく忠告したのに!!」

 

観客席では尾白がそう、悔しそうに焦りを表情に浮かべつつそう言った。

 

「緑谷!開始早々、完全停止ィ!?」

 

緑谷は、動かない。足はおろか、指一本すらも動いていなかった──────




書きたい欲はありますが気がついたら時間が過ぎてるんですよね。
時間が過ぎるのは早いですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。