僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

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お久しぶりです。凄く。気が向いたので帰ってきました。
遅筆で期間的な意味で長々書いてるので違和感とかあるかもですがご容赦ください。
私は自由に書きます。


第23話 ─格闘戦─

 

 

「STARTォォ!!」

 

プレゼントマイクの声が響き、試合が開始される。

動いたのは尾白。香月へと接近していく。

対する香月は尾白をその場で待っていた。

体勢を変えず、リラックスした様子で。

段々と尾白が迫る。すると、香月はサッと構えた。

重心は少し前、足幅は肩幅ほど。ひざを軽く曲げ、右足と右手が前、左足と左手が後ろ。

拳を握り、左手で顎を、左肘で腹部を守るように構える。

そう。ボクシングの構えだ。彼の構えは、左右が逆だが。

 

「香月が構えたァ!ありゃボクシングか!?」

 

こと戦闘においてこういった格闘術──今となっては過去の産物とも言えるそれ──を持ち出すことは少なくなった。

"個性"があるからだ。相手が異形だったり、相手のもつ"個性"がそもそも肉弾戦がしにくい"個性"だったり。

こちらにも"個性"がある以上、それを主とした動きをするのが通常だ。

肉体強化系ですら独自の格闘術を扱うことが多い。

それを踏まえればわかる通り、観客らの持った感想は、"珍しい"、だった。

尾白が近づいていく中、香月は待ちの姿勢、迎撃体勢だ。

勢いをつけて飛び蹴りをしようと尾白が意識を向けたその時だった。

 

─パァンッ─

「いっ──」

 

突然尾白に1歩近づき、香月はジャブを彼の顔面に1発放った。

立ち止まっている彼に攻撃しようとしたが、突然1歩近づかれたことにより尾白はタイミングと位置をずらされ、1発貰ったというわけだ。

それに怯むも少し下がって追撃を拒否する尾白。

追撃が来ないとみた尾白は間髪入れずに距離を詰めつつパンチを放つ。狙うは体や顎、そして肩。

体は体力を奪える、顎は当然ダウンを狙える。

肩なら攻撃手段を無くす、そうでなくとも軽減はできると考えてだ。

 

「ふっ!」

 

1発、2発と拳を突き出すがそれは空を切る。

一発目は腕でガードされ、2発目は後ろに下がられリーチの外へ。追うように前へ飛び、回転しながら尾を振るうも体勢を下げられ当たらず。

さらに攻撃を繰り返す尾白。尾による攻撃を含め、緩急もつけて攻撃しているつもりではあった。しかし香月は回避、及び防御を続けられていた。

尾白の顔を見つめたまま、手足や尾には目線は移さずにだ。

そして尾白の放つ、少し前進しながらのパンチを低い体勢でダッキングしつつ回避、そして。

 

「ぐぅッ!」

 

尾白の脇腹に香月の重いフックが刺さった。

 

「狙いがわかりやすいぞ尾白。」

 

そういいつつ香月はバックステップを踏み、少し距離を取った。

 

(あくまでもカウンターを狙うって感じか……!)

 

現在の2人は近接攻撃はギリギリ届かない、と言ったくらいの距離だ。

尾白は一旦攻める手を休め、そのまま見合う。

焦らず、冷静に。相手は手練だと尾白は考えていた。そうなれば急いで一部が綻べばそこから一気に崩される。

構えを崩さず、香月を見る。

 

「来ないのか?」

 

1歩、香月が踏み込んだ。尾白はすかさず警戒し、防御の体勢を取った。

手を顔前に構え、尾で脇腹を防御。香月の出方を伺った。

彼の右手で放たれたジャブを避けることは出来ないながらも何とか腕で受け、ダメージを回避。

そしてその後、香月の右腕が下がり、正面の防御が薄くなった。

 

(──ッ!違う!)

 

その隙を攻撃しようとした尾白だったが、嫌な予感がして攻めの手を辞め、防御を続けた。

 

「お、バレたか。」

 

そう言いながら香月はさらに1歩詰め、ガードの上からフックで顔面を打ち抜こうとした。

それを尾白はギリギリ尾でのガードが間に合い、その重い衝撃を受けた慣性を利用して少し距離を取った。

香月はわざと防御の手を下げた。もしそこへ攻撃してきたならカウンターを入れるつもりだったのだ。

 

(大丈夫だ、落ち着け。必ず糸口はある!)

 

尾白は言い聞かせるようにそう考え、攻めの手を再開する。

尾白の"個性"は尻尾。頑丈で力強い尾を持つ。

故に近接戦に持ち込まなければ強みは発揮できない。

 

(動きが早いなら……捕らえる!)

 

拳による攻撃を狙いつつ、尾で香月を捕える。

それを狙うために近づいていく。それを香月は、序盤と同じく1歩前へ出た。

 

(来る!)

 

試合序盤と同じ動きを見た。ジャブが来る、と彼は直感し、もはや反射的に顔を後ろへ引いた。

次の瞬間、先程顔があった場所には彼の拳が通った。

 

「だよな。」

 

尾白は回避に成功、香月はニヤリと口角を上げた。

そして尾白は考える暇もなく、後ろへ引いた慣性を利用して彼を蹴りあげようと足を振るう。

しかし、彼はそれを回避した。

そのまま尾白はバク転をして距離をとった。

 

(防御に回避──隙が少なすぎる!攻撃後の隙を狙うしかない!)

 

そう考え、彼はギリギリを避けてカウンターを狙うことにした。

距離を詰めるため、香月は前へ出た。

 

(始動はいつもジャブからだ。確かに理にかなってる、そこを避けられれば──)

 

同じ攻撃が来ると予測し、顔を避ける尾白。

しかし、次の瞬間。

 

─スパァン!─

「なッ──」

 

顔を避けた方向から斜め上に撃ち抜くようなジャブが尾白を襲った。

 

「フリッカージャブ、と言う。」

 

フリッカージャブ。通常、ジャブはガードの為に高めに構えられた左腕から真っ直ぐに放たれるパンチだ。

しかし、フリッカージャブは脱力するように、下げて構えられた状態から斜め上に、腕を鞭のようにしならせ、変則的な軌道で打つジャブ。

構えが下がっている分もちろん防御は薄くなるが、予測しにくく、見え辛いジャブが可能になる。

 

「これを個人的にフリッカースタイルと呼んでいてな。俺が得意なのはこっちのスタイルだ。同じ動きを見て予測を立てて回避をするのはいいが、まだよく見れてないな。構えが変われば軌道も変わるぞ尾白。」

 

近づく瞬間、通常の構えから彼の言う、フリッカースタイルにスイッチし、右腕を下げた。それを尾白は見逃してたのだ。

構えをそのままに戦い続ける香月。ガードを失っている右側。

狙うは攻撃か、捕縛か。

どちらにせよ、ただ単発で狙っても当てることが出来なく、待ちの姿勢ではジリ貧になるのは尾白も分かっていた。

 

(狙えるならば捕縛を狙う、まずは攻勢に!)

「お、いいねェ攻めてくるか。」

 

選択したのは至近距離での殴り合いだった。

 

「熱いねェ!インファイトだァ!!!」

 

そんなプレゼントマイクの声が場内に響き、同時に観客も沸く。

思いつく限りの攻撃を尾白は行う。

尾白には攻撃手段が近接格闘しか無い。様子見をしながらの攻撃は彼には当たらないと考え、インファイトを仕掛けたと言うわけだ。

数打てば当たる、というのもあるが、息つく暇を与えなければ予測も回避もいつかは綻ぶ、という考えか。

しかし。

 

「避ける避ける避けるゥ!凄まじいな!アイツには何が見えてんだァ!?」

 

彼には当たらない。まるで実像のない、それこそ幽霊と戦っているような錯覚に陥りそうになるほど。

尾白は"個性"で虚像を作っているのか、と疑いそうになった。

しかしそうではないと思わせるのは、攻撃が衣服にかすることがあることからか。

 

(こうも当たらないか!なら──)

 

尾白は尻尾で真横に、中段を薙ぎ払おうと体を回転させた。

今までは尻尾による攻撃を行っていなかった。

どうしても動きが大きくなり、カウンターを貰う可能性があると考えてのことだ。

ここで大きな動きをしてまで尻尾によるなぎ払いを行ったのは回避がし辛いだろうからだ。

屈むには低く、跳ぶには高い。

一瞬のうち香月の姿を視界から外すことになるため、彼がその隙になにか仕掛けることを尾白は懸念した。

しかし、回転したあとの視界に彼はいた。彼へと尻尾は迫る。

 

「なるほどッ!」

 

驚いた声とともに、香月は強烈なパンチを尻尾に当て自身へのダメージを回避した。

殴られた側の尾白の尻尾は強靭。彼へのダメージには至らなかった。

 

「まさかリスクがある攻撃を仕掛けてくるとは、なッ!」

 

そういいながら左ストレートを尾白へと放つ。

尾白はそれを斜め下へと軽く体勢を下げて回避した。

目の前には防御の失った香月。狙うは捕縛か、打撃か。

さすがに捕縛を狙える隙ではないか、と考えて脇腹を斜め上へ打ち上げるようにフックを放った。

 

「一瞬迷ったな?」

 

尾白の腕に、左腕の肘打ちを当てた。

尾白の腕を狙うことで攻撃を逸らしてダメージを防ぎつつ、腕へのダメージを狙った攻撃。

尾白の攻撃はそれによって狙いをずらされ、香月には当たらなかった。

 

(こっちに意識がいってる、なら!)

 

今は尾白の拳に意識がいってるはずだ。なら逆側から尾による捕縛を、と考えた。

右拳は肘打ちによって叩き落とされ、少し崩されたが、全身が崩れた訳では無い。

尾を伸ばし、巻つけようとしたその時だった。

 

「ま、そう考えるよな。」

「なッ───」

 

尾の巻き付けを体勢を大きく下げ、地を這うような体勢で回避、さらに回転しながら尾白へ足払いをかけた。

上体が下へと向かう。地に沈む訳には行かないと、尾を地に着け、上体を支え、さらに力強く伸ばすことでバックステップを試みようとした。

しかし。させるか、と言わんばかりの攻撃が彼を襲う。

香月は体を低い体勢から勢いよく元に戻しつつ、尾白の顔へアッパーを放つ。それはまともに刺さった。

尾白の体は僅かにだが上へと飛ばされ、宙に浮いた。

そこへさらに回転しながらの後ろ回し蹴りを側腹部へ叩き込む。

 

「マトモに入ったァ!こりゃ痛ぇぞォ!尾白立てるかァ!?」

 

地に沈む尾白の体。しかしながら瞬時に立て直そうと手と尾を地に着き、力を全身に込める。

そこへ、香月の追い打ちが襲いかかる。頭へ向けて、叩き落とすように拳が迫っていた。

それを認識した尾白は尾を自身の顔と香月の拳の間に割り込ませた。

ヒットポイントをずらされた攻撃は尾へのダメージにはほとんど至らず、受け止めることが出来た。

そして、尾に力を込め、香月を後ろへ大きく押し退ける。

香月はそれと同時に後ろへ跳び、大きく下がった。

 

(力が……!)

 

全身に力を込めるが腕がガクガクと震え、素早く立ち上がることが出来ない。それでも何とか立ち上がった。

もちろんその好機を逃す香月ではなく、尾白へと近づき拳を振るう。

ふらつきながらもそれを認識した尾白は防御体勢をとる。

しかし、香月はそれを確認すると攻撃を中断し、尾白の後ろへと片足を軸に体を回転させながら背後に回り、彼の背に裏拳を叩き込んだ。

 

「くっ……!」

 

背後にいる香月の方へと尾白が向き直る。

その瞬間、香月の攻撃が放たれた。

それは、たった一撃。拳が尾白の顎を掠める。

回避を許さないと言わんばかりに、今までで1番速い。

力が込められたハードパンチではない。脱力の効いた、速度重視の一撃。

 

「……ッ───」

 

尾白の体は、再び地に沈んだ。先程と違うのは、彼が地に伏せたまま、動かないということ。

ミッドナイトは尾白に近づき、完全に意識がないことを確認する。

 

「尾白くん戦闘不能!香月くん、2回戦進出!!」

 

その言葉と共に歓声が上がる。先程までよりは小さくまばらだが、それでも大きな音で、香月はそれに少し驚いた。

尾白の元へと香月は歩く。

 

「おい。……おーい。」

 

ゆさゆさと尾白を軽く揺する。

 

「………っ!!」

 

ガバッ、と尾白は起き上がる。一瞬、試合はどうなったかと考えるも、状況から負けたことを悟る。

 

「ナイスファイト。ナイスファイトだ。」

 

ニヤリと笑いながら彼はサムズアップした後、手を差し出した。

その手を取り、立ち上がる尾白。足がふらついたが、香月が肩を組んでそれを支えた。

 

「"個性"を使ってねぇのか絵面は派手じゃねぇが鮮やかな試合だったぜ!勝利した香月に、そして健闘した尾白にもClap your hands!!」

 

歓声と共に拍手がスタジアム内に鳴り響く。

 

「歩けるか?」

「肩を借りれば何とか、って感じ。ありがとう香月。」

「いいってことよ。」

 

そのまま尾白を救護室へ連れていくため、同じゲートから彼らは退場していく。

本来なら救護のためのロボットが担架で運んでいくのだが、香月なりの優しさだろうか。

 

「香月か……"個性"を見せていないながら素晴らしい戦闘センスだな。」

「観察力、予測力、対応力。どれをとってもかなりいい。」

「あとは一手に対策を取られた時の瞬時の判断力もな。……あとは"個性"がもっと見られればいいのだが。」

「対する尾白だってスタンダードに強いな。単純な"個性"だけに使いこなしている。」

「冷静に思考を巡らせてるし、柔軟な対応もある程度出来てる。」

「体の動かし方も分かってるしあの分だとしっかり鍛えられてるようにも見えるな。」

「足りない部分もあるがまだ1年だからな。ここからが見物か。」

 

などと、プロヒーローたちの講評も進む。

ゲートを通過して退場をし、保健室まで向かう彼ら。

その道中。

 

「レーザーとか、武器出しとか……使わせることが出来なかった。……完敗だよ。」

 

悔しさに、目線を落とす尾白。

 

「同じ土俵で戦ってみたいと思ってな。それに──」

 

香月は少し遠い目をしながら、言う。

 

「あんまり、全国放送の場で使える"個性"じゃないしな。」

「……それは、どういう……?」

 

尾白は聞いていいのかわからないが、聞きたいと思ったからか恐る恐るそう言う。

 

「ま、見た目が良くないしな。うん。」

 

ははは、と笑いながら香月はそう言った。

 

「見た目?あのレーザーとか、武器とかが?」

「あーそっちじゃなくてだな……あ、そうか。尾白は見てないのか。」

 

USJで、敵連合が襲来してきた時の話である。

尾白はプロヒーローが来るまでの間、孤立状態の中、最後まで体術と"個性"を駆使して対応していた。

だから、香月の毒々しい瘴気は見ていないのだ。

 

「ま、いつか見ることもあるだろう。そうなればわかる。さ、救護室着いたぞ。」

 

ガチャ、とドアを開けつつそう言った。

そこにいるリカバリーガールに尾白を預け、香月は一足先に観客席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お!おかえり香月!なんかすごかったぜ!」

「語彙力しっかりしろよ上鳴。ただいま。」

 

帰ってくるなり投げかけられた抽象的な褒め言葉にそう切り返した。

 

「凄いわ、武術の心得があったのね。」

「ん?あぁ、あれくらい趣味の範疇さ。」

「絶対嘘だろ。あれ趣味の範疇越えてるって!」

 

先程の上鳴よりグッと具体的に褒める蛙水。趣味の範疇だと謙遜(?)する香月に瀬呂はそうツッコんだ。

 

「しっかし"個性"、使わなかったな、香月!いい加減全貌が見たいぜ……。」

 

砂藤がやれやれと肩を竦めつつそう言った。

 

「いずれ分かるさ。で、今どんな感じだ?……ああ、見たらわかった。まぁこうなるか。」

 

砂藤を軽くあしらいつつ試合がどうなってるかその場で聞いた。

しかしながら試合は切島鋭児郎と鉄哲徹鐵の試合。

片や硬化の"個性"、片や鉄の"個性"。

 

「効いてねぇぞぉぉおお!!!」

─カァンッ!─

「俺だって効いてねぇぇええ!!」

─ガンッ!─

 

純粋な硬さ、そして体力勝負。故に殴り合いは必至。

長期戦、とまでは言わないが先程よりは長い戦いになりそうだった。

さて次はどちらとの試合か、なんて考えながら適当な席に座った。

 

「香月。」

 

隣にいたのは轟だった。その彼が話しかけてきた。

 

「なんだ?」

「"個性"、なんで使わなかった。」

 

試合から目を離さず、香月に向けてそう言った。

自身が"左を使わない"としているから、気になったのだろうか。

香月は、格闘主体である尾白に、彼に同じ土俵で格闘で勝利してみたかった。

その旨を伝えた。

 

「それだけじゃないだろ。」

 

確証を持っているかのように、轟は即座にそう言い返した。

先程とは違い、こちらに目線を向けて。

 

「言い切るか。直感か?」

「まぁ……そうだな。」

「……ま、大した理由じゃないさ。ただまぁ、いうなら──」

 

背もたれに体重を預けながら、彼は言った。

 

「奥の手はあればあるほどいいだろ?ってことさ。」

「……。」

「あとはあれだ。見た目悪いしな。」

 

カラカラと笑いながらそう続けた。

 

「武器とレーザーはそうでもねぇだろ。」

「や、まぁそっちはそうだけどさ。というか、レースで使っててあれなんだが武器は申請してなきゃ使えないんじゃあないかなと思ってな。」

 

尾白と同じこと言ってんな、なんてことを考えながらひと笑いした香月だった。

さて試合はどうなったか、と目線を向けたその時、後ろで立ち上がる音がした。

麗日が立ち上がり、控え室へ向かったのだ。

 

(穏やかじゃない試合だよなぁ、あそこは。)

 

麗日お茶子VS爆豪勝己。相反するような2人の対決だ。

緊張する麗日に、なにか声をかけてやろうかとも少し思ったが。

 

(──ま、それは俺じゃないか。)

 

緑谷が、ノートを持って立ち上がり、飯田と共に控え室へと向かったのを見て、自分まで行くことは無いと考え、彼が立ち上がることは無かった。

 

「「だらァッ!!!」」

 

そうこうしてるうちに試合は終幕へ。

殴り合いの結果、双方の拳が同時にお互いの顎へとヒット。

ダブルノックダウンとなった。

 

「両者ダウン!引き分け!」

 

審判の声が上がる。引き分けとなった場合は、2人の意識が戻り次第、簡単な勝負を行って勝敗を決めるのだという。

 

「お、珍しい。引き分けか。」

「次の試合どっちになんだろな!香月!」

「気にはなるがまぁ、対策とやることは変わらんさ。」

 

会話しやすいように、話しかけてきた上鳴の近くに移動しつつそう返した。

 

「まー確かに2人とも似てるもんな、"個性"。」

「香月はどう戦うつもり?」

 

近くにいた耳郎も、そう問う。

 

「場外狙いだな。硬いから物理通しにくいし。」

「まぁそうなるよね。」

 

そんな話をしばらくしていると次の試合の準備が整った。

次の試合は八百万と常闇である。両名の入場と同時に、皆の試合展開の予想が飛び交う。

その流れで、香月にも話が飛んできた。

彼は一言、常闇の勝ちだ、と返した。

 

「STARTッ!!」

 

プレゼントマイクの声がコロシアム内に響く。

お互いに汎用性に富む"個性"。しかし、試合展開は一方的だった。

 

「行け!"黒影"ッ!」

 

常闇が常時、押している状況。その理由は初動にもあった。

八百万は"個性"創造により様々なものを創り出し、色んな状況に対応はできる。

しかし、それには必ず準備が必要になる。

対して常闇の"個性"黒影に初動はほぼ無い。

八百万の準備を弾き、やりたいことをさせない。

そのまま場外まで押していき、常闇は勝利。短期決戦に終わった。

 

(……ほう。)

 

退場していく八百万を見ながら、1つ。彼は何かを思いついた。

 

(まぁ、少しくらいは時間あるか。)

 

少し考え込んだあとそう思い、彼は立ち上がった。

 

「香月?どした?」

「野暮用的なあれだ。」

「的なあれて。」

 

耳郎に話しかけられたが、言葉をそこに残して彼は立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、八百万。お疲れ。」

 

観客の声は遠く、場所は彼らの席と控え室の途中の廊下。

壁に背を預け、彼はヒラヒラと手を振りながら話しかけた。

 

「あ……ええ。お疲れ様です。香月さん。」

 

足を止め、沈んだ声で八百万は香月にそう返す。

 

「自信喪失、ってところか。」

「……。」

 

香月は八百万の重い雰囲気と伏せがちの目線などでそう直感した。

 

「ほらよ。」

「え──わっ!」

 

自販機で買ったであろう缶ジュースを八百万に投げ渡した。

 

「庶民の物で悪いが、まぁ良かったら飲むといい。」

「い、いえ、そんなことは。ありがとうございます。」

 

自身の分も買っていたらしく、話しかけながら彼は缶コーヒーを開けた。

カシュ、と、特有の音が廊下に響いた。

 

「今までのことを振り返って、あの人はこうなのに、私は、とか。そんな所だろ。」

「っ!……はい……。」

「だろうな。八百万のタイプなら、そんなことを考えるんじゃないかと思ったよ。」

「……聡いというか、よく気付かれるんですね。」

「……人を顔色を伺うのが得意なだけさ。」

 

再び沈黙が辺りを覆う。遠くに響いてる観客の声だけが、廊下を通り抜けていった。

 

「人によって出来ることは違う。"個性"があるなら尚更にな。」

 

"個性"が出来て以来、人間には出来ることが増えた。

空を飛べたり、火を放てたり、手を使わなくても何かできたり、およそ人では持ち上げられないものを持ち上げれるようになったり。

それを人単体、個人でできるようになったのだ。

そうなれば当然、出来ないことも顕著になる。

 

「大事なのは何を為したか、何になりたいかではなく……"何ができるか"、そして"どうありたいか"だと思う。私は、な。」

「何ができるか……どうありたいか……。」

「自論だがな。まぁなんだ、適当に聞き流しておいてくれて構わない。」

 

そういいつつコーヒーを飲む香月。八百万は考え込んで黙った。

 

「……引き止めて悪かったな、八百万。元気づけようとしたんだが、上手くいかないもんだな。」

 

口下手でさ、と付け加えて困ったように笑う香月。

 

「!……いいえ、そんなことありませんわ。ご心配ありがとうございます。」

 

想いは伝わり、純粋に嬉しかった彼女はそう返した。

 

「八百万の"個性"、創造は知識や経験があらゆる結果に直結するだろう?戻って爆豪と麗日の試合見に行こう。で、対策とか、な。できること、増やしてこうぜ。」

「……ええ、そうですわね。」

 

2人は、ゆっくりと観客席へと戻っていく。

八百万からもなぜ"個性"を使わなかったのか、と問われた香月。

皆聞いてくるな、と思いながらも同じ説明をしたのは言うまでもない。

 

(……なにやってんだかな。)

 

ふと。彼はそう思った。

 

 

場面は変わって控え室。

 

 

ガチャ、と控え室の扉が開かれる。訪れたのは飯田と緑谷だ。

 

「飯田くん、デクくん……。」

「うらら──かじゃないなしわしわだぞ眉間!!」

「みけん?」

 

そこには眉間にえらく力が入り、いつもの柔らかい表情が消えた麗日がそこにいた。

 

「あー…ちょっとね。緊張がね、眉間に来てたね。」

「……それもそうだな。君の相手は、あの爆豪くんだものな……。」

「うん……超恐い。でも、飯田くんの"あのやつ"とか見てて、ね。」

「?」

「デクくんも来てくれたんだ。みんなの試合は見なくてもいいの?」

「大体は短期決戦で終わってて。今は常闇くんと八百万さんの試合中だよ。」

 

緑谷は大まかにそれまでの試合展開を麗日に伝えた。

 

「じゃあ……次、もうすぐ……。」

 

重苦しい空気が周囲を支配する。

 

「し、しかしまぁァ!さすがに爆豪くんも女性相手に全力で爆発は──」

「するね。」

 

飯田なりに緊張をほぐそうとしたのか、そう言うがそれが言い切られる前に緑谷はそう切り込んだ。

爆豪だけでは無い。皆、夢のために他を押しのけて1番になろうとしているのだ。彼でなくとも、手加減は考えない。緑谷はそう考えていた。

 

「僕は、麗日さんに沢山助けられた。だから、少しでも助けになれば、と思って……麗日さんの"個性"でかっちゃんに対抗する策!付け焼き刃だけど考えてきた!」

 

そう言いながらノートを麗日の前に出す緑谷。

やったではないか!と飯田も賞賛する。

しかし。

 

「ありがとう、デクくん……。でも、いい。」

「え……。」

 

緑谷は静かに驚き、飯田も目を見開く。

 

「デクくんは凄い!どんどん凄いとこ見えてくる!」

 

騎馬戦の時、仲がいい人と組んだ方がやりやすいとして緑谷に話しかけた麗日。

しかし今思い返せば彼に頼ろうとしてたのかもしれない、と思っていた。

だからこそ、あの時、飯田が挑戦する、といって緑谷の提案を断ったとき。

少し、彼女は自分を恥じた。

 

「麗日さん……。」

「皆、将来に向けて頑張ってる!そんならみんなはライバルなんだよね……。だから──」

 

立ち上がり、控え室から出ようとする麗日は振り返り、ぐっと、サムズアップする。

 

「決勝で会おうぜ!」

 

いい顔をして、そういった。手は、震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ある意味1番不穏な組ね……。」

「ウチなんか見たくないなー。」

 

蛙水と耳郎だ。A組のほぼ皆は険しい顔でその試合を見ている。

 

「1回戦最後の組だな……!

中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねぇ!ヒーロー科、爆豪勝己ィ!!

 

VS!!

 

俺こっち応援したい!!ヒーロー科、麗日お茶子!!」

 

プレゼントマイクの声が響く。

 

「俺は普通に気になるな。麗日がどう対抗するか。」

「あーウチ怖くてほんとに見てらんないかも……。」

「だよな、俺もそう思う……。」

「耳郎も上鳴も心配症だな……。大丈夫さ。」

 

香月は、確信しているようにそう言う。

 

「強い目だよ、あれは。」

 

爆豪VS麗日。穏やかじゃない戦いが始まる───

 

 

 




そういえばこの空いた期間、コロナにかかったり急性腸炎とかになったりとかしてました。
皆様は体調には十分ご注意を。はい。
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